企画の経緯については【vol.1】を参照願いたい。というわけで、この記事はモダンのPPTQを優勝した各アーキタイプの達人たちにインタビューし、そのデッキについて教えてもらう、というものだ。
早速始めていこう。第2回目となる今回は、【バーン】を紹介する。
ゲストはこの方だ。
決勝戦が終了!ゴブリンが相手を8回殴り、そのまま2-0フィニッシュを決めたミツヤス ユウキさんの優勝です。おめでとうございます!なお、3月に続いてPWC兼PPTQを連覇しており、今年度PWCptは一気にリードの模様です。 pic.twitter.com/m6jddmpSU3
— PWC@ナカジマ (@pwcwithmtg) 2015, 6月 6
伊藤 「というわけで、光安 祐樹(東京)さんにお話を伺いたいと思います」
光安 「よろしくお願いします」
伊藤 「光安さんはプロツアーに出たことはありませんが、有田さんと同様【2013年のWMCQ東京予選】でトップ4に残られていましたね」
光安 「そうですね。ただあのときは自分のプレイを言語化する能力がなくて、まだまだマジックが下手だったんです。PWCに出てもトップ8に全く残れないほどでした。でも、そのとき瀧村(和幸)さんと一緒にトップ8に残ったことがきっかけで【チーム豚小屋】に入れていただき、プレイについて意見をもらう機会が増えたり、また『テーロス』以降スタンダードでバーンが強くなったりしたことで、段々と勝てるようになってきました」
伊藤 「PPTQを優勝されたということで、有田さん同様、今の目標は『プロツアー出場』ということになるんでしょうか?」
光安 「はい。個人的にも出てみたいですし、プロツアーに出て結果を残すことはチーム豚小屋の目標の一つでもあるので」
伊藤 「RPTQでの活躍、期待してます。それでは、光安さんがPPTQで使用したバーンというデッキについてお話を伺いたいと思います」
■ バーンとは?
光安 「以下がバーンの一般的なレシピになります」
3 《山》 4 《聖なる鋳造所》 1 《踏み鳴らされる地》 4 《樹木茂る山麓》 4 《血染めのぬかるみ》 4 《乾燥台地》 -土地(20)- 4 《ゴブリンの先達》 4 《僧院の速槍》 2 《渋面の溶岩使い》 4 《大歓楽の幻霊》 -クリーチャー(14)- |
4 《稲妻》 4 《溶岩の撃ち込み》 4 《頭蓋割り》 4 《ボロスの魔除け》 3 《焼尽の猛火》 2 《稲妻のらせん》 4 《裂け目の稲妻》 1 《炎の投げ槍》 -呪文(26)- |
4 《破壊的な享楽》 3 《コーの火歩き》 2 《流刑への道》 2 《跳ね返す掌》 2 《溶鉄の雨》 1 《灼熱の血》 1 《倦怠の宝珠》 -サイドボード(15)- |
伊藤 「このメインは《ボロスの魔除け》でタッチ白、サイドは《破壊的な享楽》のためにタッチ緑というのはよく見る形ですね。さて、実際バーンというのはどのようなデッキなのでしょうか?」
光安 「本体に直接ダメージを与えることができる火力呪文を駆使して、少数精鋭のクリーチャーと合わせて、相手がゲームに勝つより早く対戦相手のライフを削りきるデッキです」
伊藤 「デッキの40%以上が火力呪文であり、あとは最低限の土地のほかは『ダメージを与える』ということに長けたクリーチャーばかりですからね」
光安 「ですね。ほぼデッキ全体が『いかにして最小限のマナを使って最大限のダメージを与えるか』ということに特化しています」
伊藤 「クリーチャー部分には《僧院の速槍》や《大歓楽の幻霊》といった、スタンダードのカードも含まれているんですね」
光安 「バーンにおいて最強のクリーチャーは言わずもがな《ゴブリンの先達》ですが、『タルキール覇王譚』で《僧院の速槍》が出たことで、《ゴブリンの先達》が8枚入っている感じに近くなり、デッキの安定性が飛躍的に高まりました。また『ニクスへの旅』で加わった《大歓楽の幻霊》も非常に強力で、これらの恒久的なクロックのおかげでバーンというデッキが成立していると言っても過言ではないです」
伊藤 「《炎の投げ槍》が少し珍しいかなと思いますが、これは何のために入っているんでしょうか?」
光安 「《コジレックの審問》で抜かれない4点火力ということで入っているんだと思います」
伊藤 「なるほど、それは目から鱗でした。黒緑ジャンク系が多そうなときには役立ちそうな構築ですね」
◎ バーンを選んだ理由
伊藤 「光安さんはどうしてバーンを使っているんでしょうか?」
光安 「火力でライフを詰めるプランがあるデッキが好きなんですよね。マジックを覚えたてのときに使っていたのが黒赤吸血鬼で、そのときから軽いクリーチャーで攻めつつ、火力でブロッカーをどかしたり最後のライフ数点を削るという動きに魅入られてます」
伊藤 「わかります。クリーチャーを除去できるのに同時にフィニッシャーになるというのが便利すぎますよね」
光安 「そうですね。特に《稲妻》は大好きなカードです」
◎ モダンにおけるバーンの強み
伊藤 「もちろん好き嫌い以外にもバーンというデッキ自体の強さも選択理由になったと思うんですが、モダンにおけるバーンの強みはどういった点にあるんでしょうか?」
光安 「モダン環境のマナベースはフェッチランドとギルドランドを多用しているので、まずバーンという戦略そのものがアドバンテージになりやすいということが挙げられると思います」
伊藤 「確かに、『モダンの初期ライフは17点』とよく言われますもんね」
光安 「あとはモダンというフォーマットはデッキの種類がとても多いので、他のデッキだとたとえばノンクリーチャーのコンボデッキ相手に除去カードを抱えてしまうというようなことが頻繁に起こるのに対して、バーンスペルは常に本体に撃つという選択肢があるので、多様な環境にもかかわらずバーンデッキなら裏目を引きにくいというのがあります」
伊藤 「一応ソウルシスターズという裏目はありますが、当たる確率はかなり低いでしょうね」
光安 「他にも、バーンに勝つには多くの場合専用サイドが必要になりますが、デッキの種類が多いモダンではサイドボードの枚数の都合上専用サイドがとられにくいというのもあります。『親和』と似たような立ち位置ですが、『親和』よりも汎用的なサイドカードが刺さりづらいデッキなので、バーンにとってはより勝ちやすい環境と言えますね。《神聖の力線》ですら、貼られて即負けというわけでもないですから」
伊藤 「《部族養い》のように目いっぱいライフゲインするのが効果的なんでしょうが、他のデッキに効かないカードとなると枚数がとりづらいのは、モダンのデッキのサイドボードを作っているときによく直面する課題ですね」
■ 一般的なレシピとの違い
光安 「こちらが、PPTQを抜けた後に少し調整した、僕が現在使用しているリストになります」
5 《山》 4 《聖なる鋳造所》 4 《沸騰する小湖》 4 《乾燥台地》 2 《血染めのぬかるみ》 -土地(19)- 4 《ゴブリンの先達》 4 《僧院の速槍》 2 《渋面の溶岩使い》 4 《大歓楽の幻霊》 -クリーチャー(14)- |
4 《稲妻》 4 《溶岩の撃ち込み》 3 《欠片の飛来》 2 《二股の稲妻》 4 《頭蓋割り》 4 《ボロスの魔除け》 2 《焼尽の猛火》 4 《裂け目の稲妻》 -呪文(27)- |
3 《コーの火歩き》 3 《引き裂く流弾》 3 《粉々》 1 《二股の稲妻》 1 《流刑への道》 1 《痕跡消し》 1 《焼尽の猛火》 1 《溶鉄の雨》 1 《大祖始の遺産》 -サイドボード(15)- |
伊藤 「光安さんはどういった点を意識してこの形にしているんでしょうか?」
光安 「土地を1枚削っているのと、なるべく1マナのカードを増やして手数を重視しています。2マナ域が手札に溜まってマリガンしたり撃ちきれずに負ける展開を防ぎたいのと、「果敢」を持つ《僧院の速槍》というカードを潜在的に強化する趣旨ですね」
伊藤 「《欠片の飛来》はデメリットを嫌って入れない人も多いですが、確かに《僧院の速槍》を最大限生かすなら1マナ3点呪文は目いっぱい入れたいですね」
伊藤 「《二股の稲妻》はバーン的にはやはり打点の問題からかあまり採用されていないと思いますが、光安さんはどうして入れているのでしょうか?」
光安 「1マナを増やすということと、親和やエルフのように速いデッキに対して、気軽にクリーチャーに撃てる火力が《稲妻》以外に欲しかったからですね。《焼尽の猛火》を増やすという手もありますが、土地を切り詰めている以上、いつでも「上陸」できるとは限らないデッキなので、《二股の稲妻》と散らしているイメージです」
伊藤 「サイドボードもメインのカードの追加のほかは結構役割がはっきりしたカードが多いですね」
光安 「サイド後もメインのバランスを極力崩したくないので、どのマッチでも丸いカードをいっぱい入れるというよりは、劇的に効果があるカードを少数枚だけサイドインできるように、特定のマッチやシチュエーションにおいて効果が大きいものを選んでいます。《痕跡消し》なんかは、《ファイレクシアの非生》や《神聖の力線》など、同じ色のエンチャントを複数枚重ね貼りされてもまくれるので入れている感じですね。《溶鉄の雨》も流行りのトロンやアミュレットブルームに対して強いのですが、3マナスペルは複数枚引くと手札に腐りやすいので、1枚だけとっています」
■ 各主要デッキに対するサイドボーディング
伊藤 「主要なマッチアップでのサイドインアウトは、どういった感じになるんでしょうか?」
◎ 対 アブザンカンパニー
光安 「地上が堅く、クリーチャーによる恒久的なクロックがほとんど期待できないので、あまり当たりたくないマッチですね。《大歓楽の幻霊》は後引きすると2/2としての役割すら果たせなくて弱いので、クリーチャーは少数精鋭に絞って1ターン目の展開のほかは本体火力を連打し、《台所の嫌がらせ屋》に《頭蓋割り》を合わせる感じで戦いたいです」
◎ 対 同型
光安 「《ゴブリンの先達》はすごく処理されやすいのと相手に与えるリソースが致命的になりやすいマッチなので全抜きします。あとは《頭蓋割り》と合わせても《コーの火歩き》と相打ちにしかならないのもマイナスですね。《僧院の速槍》なら一方的に討ち取れるので」
伊藤 「大昔は『赤単同型は後手』みたいな話もありましたが、その点はどうなんでしょうか?」
光安 「相手の《コーの火歩き》に対して《頭蓋割り》を合わせるためにプレッシャーをかける必要があるので、《大歓楽の幻霊》もありますし、先手がいいと思いますね」
◎ 対 ジャンド
光安 「基本的には有利なマッチなのでそこまでサイドインはしないですね。リソースを削られる相手なので《焼尽の猛火》を入れたくなりますが、ハンデスで手札を見られると相手がクリーチャー展開をしないで《ヴェールのリリアナ》でプラスしていくみたいなプランをとれてしまうので、サイドインまではしません」
◎ 対 双子
光安 「《引き裂く流弾》が入ったことで劇的に有利になりましたね。今までは無理に《焼却》を構えないといけませんでしたが、1マナでよくなったのは大きいです。《焼尽の猛火》は《呪文滑り》や《ヴェンディリオン三人衆》などもあるので対象には困らないかと」
光安 「基本的にはコンボで負けないようにしつつ、余裕があるときに手札のリソースを使って締め上げていく感じですね。後手の《粉々》は《殴打頭蓋》による負け筋を消したいのでサイドインしています」
◎ 対 親和
光安 「バーンで一番やりたくないマッチですね。最近は《アーティファクトの魂込め》の枚数が減っているのが救いですが、それでも圧倒的に厳しい戦いを強いられます」
光安 「相手の方が展開の速度が早いので、こちらが先手か後手かにかかわらず相手のパーマネントを捌きながらの差し合いをすることになります。その点、パーマネントを捌くのに使えない《溶岩の撃ち込み》はサイドアウトします。《二股の稲妻》などで序盤の動きを妨害しつつ軽いクロックでダメージレースをするのが望ましいですね。《渋面の溶岩使い》を引けるかどうかもかなり重要になります」
◎ 対 グリクシスコントロール
光安 「基本的に有利なマッチアップで、特にメイン戦はあまり負け筋がありません。《グルマグのアンコウ》《黄金牙、タシグル》に対しては《焼尽の猛火》が効果的に働きます」
光安 「《呪文滑り》や《殴打頭蓋》をサイドインされることもあるので、《粉々》も少しだけサイドインします。またマナベースが厳しく、フェッチギルランを最大限活用してくるデッキなので、《溶鉄の雨》が非常に有効です」
◎ 対 トロン
光安 「ものすごく有利なマッチアップなので、ほぼほぼ負けないですね(笑)」
光安 「《渋面の溶岩使い》が1枚残ってしまいますが、《ワームとぐろエンジン》の『絆魂』を空かせる可能性があるので、役に立たないこともないです」
■ まとめ、バーンに興味がある人へ
伊藤 「最後に、このデッキに興味がある方にアドバイスなどあれば」
光安 「バーンというデッキはやることがシンプルなので、それだけにリソース管理を丁寧にしたいですね。相手の妨害手段を予期してカードをプレイする順番を変えたりすることが重要になります」
光安 「それからキープ基準を知ることが大切ですね。土地1枚でもキープできるのはどのようなパターンかなど、一人回しをたくさんすることが大切です」
光安 「あとはルールをちゃんと知ることですね。《呪文滑り》絡みや《頭蓋割り》で相手の《コーの火歩き》を戦闘で除去するテクニックなど、バーンで特に問題になりやすいルールがいくつかあるので」
光安 「でもモダンのデッキの中では安価の割に非常に強いデッキなのでオススメですよ!」
伊藤 「ありがとうございました」
「モダンの達人」シリーズ目次
vol.1 -アブザンカンパニー-
vol.2 -バーン- (今回)
vol.3 -ジャンド-
vol.4 -双子-
vol.5 -親和-
vol.6 -グリクシスコントロール-
vol.7 -トロン-
vol.1 -アブザンカンパニー-
vol.2 -バーン- (今回)
vol.3 -ジャンド-
vol.4 -双子-
vol.5 -親和-
vol.6 -グリクシスコントロール-
vol.7 -トロン-
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