”マジックは、選択するゲームである”と、【マリガン編】の冒頭に記した。
誰もが正しい選択を選び続けるならば、単純なカードパワー勝負になりかねないが、マジックでは実に複雑怪奇な選択肢に直面し、迷うことになる。
さて、大抵のマッチは2本先取で決まるため、1ゲーム目を終えると新たな勝負に向けて、大きな選択に直面することになる。
サイドボードだ。
何を抜いて、何を入れるか。単純な作業のようだが、マジックの奥深さに繋がる重要な要素と言えるだろう。
しかし、サイドボードの解説は思った以上に少ない。
サイドボードのパターンを網羅しつつ解説するのは、不可能だろう。しかし、プロプレイヤーがどのように構築・調整をしているのかという点に注目すれば、その指針を得ることはできるはずだ。
今回もHareruya Prosの高橋 優太選手と、津村 健志選手にお話を聞くことにした。
それでは今回も、プロの豊富な経験と膨大な思考、そしてそこから弾き出される感覚をご堪能あれ!
■ 高橋 × 津村 × サイドボード
――「今回はサイドボードについてお話を伺いたいと思います。早速ですが、サイドボード中に気をつけるべきこと、テクニックのようなものがあれば教えていただけますか?」
津村「サイドボード中に、相手にサイドボードを何枚入れたか悟らせないというのは1つのテクニックとして覚えておくと良いかもしれません。『相手が2枚しかサイドインしていないから、こちらも2~3枚で良いか』と思われてしまう可能性がありますから」
高橋「細かなテクニックですが、サイドボードとメインボードを一度合わせて、75枚から15枚を抜くようにすると良いですよ」
津村「それから、相手のデッキを理解することも大事です。相手が墓地を利用するデッキなら、《安らかなる眠り》のようにお互いの墓地に影響を及ぼすカードはない、と判断できますよね」
高橋「相手のデッキが持つ勝ちパターンを把握することができていれば、サイドボーディングも楽になりますからね」
――「なるほど。サイドアウトする候補の基準はありますか?」
津村「複数枚手札に来たら負けてしまう、というカードは抜く候補になると思います」
高橋「クリーチャーが居ないから除去を抜く、というのは分かりやすいと思いますが、これも『除去が手札に溜まったら負けてしまう』という考えですね」
津村「それから、1ゲーム目を勝利したときは、サイドインするカードを少なめにすることもありますね。サイドインすると、それだけメインボードのカードが減るわけです。最低限の枚数で済ませて、メインボードの動きを損なわないように、という考え方です」
高橋「この辺りは、相手のデッキに刺さるカードがどれくらい採用されているか、構築・調整によって違いますね」
■ プロが構築するサイドボード
――「では、プロプレイヤーがどのようにサイドボードを構築・調整しているのかをお聞きしたいと思います。お二人が意識していることは、どのようなことでしょうか?」
高橋「私は、3マナ以下でまとめるように心掛けています。例えば、4マナのカードを唱えるためには、その呪文と土地、合計5枚のカードが必要ですよね。なので、《古えの遺恨》のほうが《粉砕の嵐》より望ましいと思っています。効果はほぼ同じで、必要なカードが少ないですからね。マナコストの重いカードを採用する場合は、《次元の激高》や《悲劇的な傲慢》のように、効果がかなり高くてゲームを決め得る能力がある場合に限ります」
津村「僕の場合、環境の主要なデッキと対戦したときに、メインボードの不要なカードが全て抜けるように調整します。例えば『白単人間』が相手で『《ヴリンの神童、ジェイス》は要らないから、全て抜いてしまおう』と思ったのに、サイドボード後もジェイスがメインボードに残ってしまうなら、サイドボードから入るカードが足りていない、と判断できますよね。自分が要らないと思うカードは、全部抜ききれる枚数を用意するように意識しています」
高橋「これは非常に重要ですね。不要なカードと、必要なカードの枚数が適正になるように調整するのが理想です」
津村「トップメタが散っている場合、特定のデッキに対する専用のサイドボードというのはなかなか用意できません。必然的に《石の宣告》のように汎用性の高いカードが多くなります」
高橋「スタンダードの場合、サイドボードは『除去、カウンター、手札破壊』という3点セットに落ち着きやすいと思います。《否認》や《強迫》などは、メタゲームに左右されずに採用できますよね」
■ バントカンパニーはサイドインしなくても強い?
――「では、もう少し具体的にサイドボードについてお話を聞きたいと思います。まずはスタンダードの話題が出ましたので、バントカンパニーのサイドボードについて、教えてください」
(編集注:このインタビューは、プロツアー『異界月』前に行いました)
高橋「バントカンパニーは、サイドイン・アウトができないデッキと言えます。《集合した中隊》を使用するので、クリーチャーの数をある程度確保しなければいけません。《ラムホルトの平和主義者》と《ランタンの斥候》も3マナ以下なので、サイドインしてもデッキ本来の性質を損なうことはありません。メインボードが固まっているデッキは、サイドインしないほうが強いことが多いですね」
津村「サイドカードを入れすぎると、自分のベストな動きを損なってしまうこともあり得ます。例えば、コンボデッキでパーツを抜きすぎてコンボが回らない、という経験がある人もいるのではないでしょうか」
――「高橋さんが《悲劇的な傲慢》ではなく《石の宣告》を採用しているのは、最初にお伺いした『軽いカードのほうが良い』ということですか?」
高橋「その通りですね。5マナが出るころには、やりたいことがたくさんあるんです。そして、例えば相手が序盤にクリーチャーを並べていた場合、欲しいのは《悲劇的な傲慢》ではなく《石の宣告》だ、と考えました。重たいカードの難点は唱えられるまで生きていなければならない、ということです」
津村「どれほど強力な呪文でも、手札に抱えたまま負けてしまったら、まったく意味がないわけですからね」
高橋「もちろん、《悲劇的な傲慢》が強力なのは紛れもない事実ですけどね。それから、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を採用したいとは思うのですが、《集合した中隊》のことを考えると、クリーチャー以外の採用は難しいですね。サイド後にクリーチャーを22体まで減らす人もいますが、デッキの強さを考えると疑問に思ってしまいます」
津村「サイド後のクリーチャーは24体、メインはそれ以上を確保したいですね。23体以下にするならば、《集合した中隊》から1体しか場に出なかったとしても仕方がない、と割り切る必要がありますね」
■ アグレッシブ・サイドボーディング
高橋「もしも10枚以上サイドアウトするような場合、苦手なデッキに対してメインデッキが弱すぎて失敗している状態、と考えるべきだと思います。できる限り、最低限のサイドボーディングで済ませたいですよね。多くて7,8枚でしょうか」
――「確かに、15枚全部入れ替えたら、それはもう全く別のデッキですよね」
高橋「大胆に入れ替えるアグレッシブ・サイドボーディングもありますが、メインボードの弱さに対する言い訳になってしまっていることが多いと思いますね」
津村「【トリックス】の《変異種》のように強力なプランもありましたが、どのフォーマットでもアグレッシブ・サイドボーディングは見かけなくなってきましたね。最近では、《森の代言者》《現実を砕くもの》《難題の予見者》、《否認》と《精神背信》を12枚前後のコンボパーツと入れ替える【4色ライツ】もありましたが」
高橋「ありましたね。良い戦略だとは思えませんでした」
津村「僕もあまり好きではなかったですね。サイドボードを大量に使うのに、主軸の戦略がほとんど変わってないな、と」
高橋「『クリーチャーを抜いてクリーチャーを入れる』『除去を抜いて除去を入れる』といった選択は効果が薄いと思います。メインボードのカードが裏目を引いているわけですから」
■ 高橋プロの「除去の質に見るサイドボード論」
――「裏目を引く、という点について、もう少しお聞かせください」
高橋「例えば、《究極の価格》と《喉首狙い》は倒せるクリーチャーと倒せないクリーチャーがいる、『状況を限定する除去』です。仮に、これらを4枚ずつメインボードに採用して、モダンの『親和』と対戦したら、どうなるでしょう?」
――「8枚が完全に遊んでしまいますね」
高橋「そうですね。これが裏目を引くということです。更に、全てをサイドアウトするためには、8枚もサイドボードを用意しなければいけません。それならば、『親和』にも効いて、他のデッキにも効く『汎用性が高い除去』をメインボードに採用していれば、他の対策カードにサイドボードの枠を割けますよね」
津村「除去の質については、高橋さんが使われていた【黒単信心】を見ると分かりやすいかもしれませんね。除去の質を考えた、素晴らしいデッキリストです」
高橋「懐かしいですね(笑)。では、懐かしいついでにもう1つ。除去をメインとサイドの両方に積む場合は、言うまでもなく『汎用性が高い除去』をメインに、『状況を限定する除去』をサイドに積むべきです。そして、これらを入れ替えるようなサイドボードは、ほとんど意味がありませんよね。先ほどの『除去を抜いて除去を入れるという選択は効果が薄い』というのは、こういう理由です」
津村「入れ替えたとしても、除去の枚数は変わりませんからね。『状況を限定する除去』をサイドインするのは、シンプルに除去の枠を増やすためです。現在のスタンダードで、《究極の価格》を4枚採用するデッキが少ないのも、裏目があるからですよね」
高橋「もちろん、サイドボードのカードも汎用性が高い方が好ましいですよ。汎用性が高いということは、サイドインできる相手が多いわけですからね。」
津村「専用サイドは枠を圧迫することが多いのですが、僕は『ランプ』には枠を割きました。《狩猟の統率者、スーラク》が代表です」
高橋「『このデッキはどうしても苦手!』と思ったなら、サイドボードの枠を割く価値があると思います」
――「人によってサイドボードに違いがあるのは、苦手なものがあるからかもしれませんね」
■ プロからプロへの質問
高橋「私から1つ質問させてください。津村さん、サイドボードの『4枚、3枚、2枚』の差って何ですか?」
津村「究極の理想は『4枚、4枚、4枚、3枚の4種類』という構成なのですが、現代は強いデッキが増えてきたので、汎用性の高いカードでなければ4枚は難しいですよね。そして、高橋さんの話にも繋がるのですが、マナコストも大きく関わってきます。《悲劇的な傲慢》は確かに強力なのですが、重いので4枚にはできません。《強迫》《否認》のように、軽くて汎用性の高いカードは、4枚採用も考えられますけどね」
高橋「やはり、軽いサイドが良い、ということになりますよね」
津村「そうですね。軽いカードならば、複数枚引いたとしてもプレイしやすいですから」
――「サイドボードは軽いものに限る、というのは1つのキーワードですね」
■ 高橋プロが語る「フェアリー」
――「それでは、モダンに話を移したいと思います。まずは高橋さんにお聞きしたいのですが、モダンはメタゲームが混沌としていますよね。どのようにデッキを構築し、サイドボードを調整しているのでしょうか?」
3 《島》 1 《沼》 1 《湿った墓》 4 《汚染された三角州》 4 《闇滑りの岸》 4 《人里離れた谷間》 2 《忍び寄るタール坑》 1 《涙の川》 4 《変わり谷》 -土地 (24)- 4 《呪文づまりのスプライト》 4 《ヴェンディリオン三人衆》 4 《霧縛りの徒党》 -クリーチャー (12)- |
4 《祖先の幻視》 3 《見栄え損ない》 2 《呪文嵌め》 4 《マナ漏出》 3 《謎めいた命令》 4 《苦花》 4 《ヴェールのリリアナ》 -呪文 (24)- |
4 《虚空の力線》 3 《思考囲い》 3 《燻し》 2 《漸増爆弾》 2 《鞭打つ触手》 1 《見栄え損ない》 -サイドボード (15)- |
高橋「いろいろなデッキがいるからこそ、あらゆる相手に効果のあるカードを採用したいですよね。『そんな都合のよいカードがあるのだろうか?……カウンターだ』ということで、《マナ漏出》を4枚採用できる「青黒フェアリー」を選びました。では、手札破壊はどうかというと、例えば《思考囲い》はビートダウンに対して弱いですよね。それと、モダンはカードの質が似通っているので、2マナ域を1枚落としても、同じくらい強い2マナ域が出てくることがあり得ます。それならば《呪文嵌め》の方が強いと考えました」
津村「メインに手札破壊を採用していないフェアリーは、とても珍しいですよね」
高橋「相手がこれからプレイするカードを手札破壊するより、プレイされたカードをカウンターしたほうが強力です。『ジャンド』が最近勝てないのは、手札破壊が弱いからだと思います。それに対して《マナ漏出》が弱い相手というのは、あまりいませんから」
――「サイドボードを眺めていると、4枚の《虚空の力線》が目を引きますね」
高橋「これは、ドレッジに勝てなかったからです。《墓掘りの檻》は、相手がサイドインしてくる《突然の衰微》で割られてしまいます。これも重要なことですが、相手のサイドボードを予想して、サイドを構築するべきです。《突然の衰微》を相手が入れてくるのは目に見えているので、それが刺さらない《虚空の力線》の方が良いかな、と。相手がサイドインするカードを想定する、という点で、津村さんが『ドレッジ』のサイドボードに《自然の要求》を4枚採用していたことに、私は大きな感銘を受けました」
――「では、続いて津村さんにドレッジの話をお聞きしましょうか」
■ 「ドレッジ」の衝撃と、モダンの墓地対策
津村「現在の環境では、《虚空の力線》が出てきても文句は言えませんからね。実はMOではほとんど出てこなかったんですが……」
高橋「リストを見て、『対戦したら確実に負けるな』と思いました。メタゲームの中で、津村さんが確実に一歩先に居たと言えます。相手のサイドインを予測してサイドを作る、まさに良い例ですね」
――「【第7期モダン神挑戦者決定戦】で「ドレッジ」が優勝した衝撃はかなり大きかったですね」
津村「MOで見かけることはありましたが、強いデッキという認識はほとんどありませんでした」
高橋「そうですね。『墓地対策は2枚くらいで良いだろう』という程度だったと思います」
津村「モダンで対策カードが3枚を越える、というのは大事件です。それくらいインパクトがありました。『まずはアーティファクト対策、さて次は……』というモダンの常識を越えてきました。何より、明確な対策があるからこそ、難しいですよね。『対策しようと思えばできる。ではサイドボードを何枚割くのか』という線引きは、本当に悩みますよ」
高橋「墓地対策が、基本的に『墓地対策以外の仕事をしない』というのもありますよね」
津村「その墓地対策についてですが、『ドレッジ』を回していて気付いたことがあります。1つは『そもそも相手は墓地対策に枠を割けない』。そしてもう1つ、『レガシーと比べてモダンはドローが弱いので、2,3枚墓地対策を入れたとしても引けない』ということです。《渦まく知識》や《定業》がないので、仮に3枚入れたとしても、毎回確実に出てくるわけではありません。さらに、こちらも同じ枚数以上『墓地対策の対策』を入れているので、それほど不利な勝負だとは思いませんでした」
高橋「前回の復習ですね。『3枚入れたとしても、殆ど初手には来ない』と」
――「『ドレッジはメイン最強、サイド後は辛い』というイメージとは少し違ったわけですね」
津村「そうですね。それに、相手の墓地対策を気にせず、『ドレッジ』がビートダウンで勝つこともありますからね」
高橋「《虚空の力線》を引くまでマリガンしたのに《恐血鬼》と《秘蔵の縫合体》に殴り切られた経験はありますね。相手に対策を強いるというのはデッキの大きな強みですよ」
津村「対策しなければ、全く勝てませんからね」
■ 「ドレッジ」は、なぜ勝ったのか
――「改めてお伺いしたいのですが、第7期モダン神挑戦者決定戦で『ドレッジ』が優勝したのは、タイミングもあったのでしょうか?」
津村「これ以上ないくらい、完璧なタイミングでした」
高橋「まったく墓地対策を取ってない人もいましたね」
津村「あの時は、『墓地対策はそれで大丈夫』という認識だったと思います。そして、僕も含めてあの中継を見て『すごい強いじゃないか。どうしよう!』と思った人がほとんどだったのではないでしょうか」
――「あの後、『墓地対策を厚めにする人』と、『ドレッジを使う人』に分かれたのは面白かったですね」
高橋「メタゲームが明確に大きく動き出した瞬間ですからね」
――「ちなみに、墓地対策の意識はかなり高まっていますが、『ドレッジ』はまだまだ活躍を続けると思いますか?」
津村「続けると思います。前述の通り墓地対策をたくさん入れるのは難しいので、どちらかと言えば『スケープシフト』のような、自分より速いコンボが増え始めると厳しいかな、と思いますね」
高橋「忘れがちですが、『ドレッジ』は圧倒的な盤面にはなりますが、実はキルターンが遅いんですよ」
津村「『最強のフェアデッキ』という感じで、真っ当なデッキには強いのですが、速度勝負は不利ですね」
■ 津村プロが語る「ドレッジ」
――「それでは、『ドレッジ』のサイドボードの調整についてお聞きしたいと思います。ここに3つのサイドボードをご用意しました」
4 《古えの遺恨》 3 《記憶の旅》 2 《稲妻の斧》 2 《思考囲い》 2 《突然の衰微》 2 《骨までの齧りつき》 –【大池さん モダン神挑戦者決定戦】– (2016/07/03) |
4 《稲妻の斧》 2 《自然の要求》 2 《古えの遺恨》 2 《骨までの齧りつき》 1 《ボジューカの沼》 1 《復讐に燃えたファラオ》 1 《暗黒破》 1 《記憶の旅》 1 《トーモッドの墓所》 –【津村プロ MO調整中】– (2016/07/05) |
4 《自然の要求》 3 《思考囲い》 2 《古えの遺恨》 2 《骨までの齧りつき》 1 《ボジューカの沼》 1 《暗黒破》 1 《記憶の旅》 1 《突撃の地鳴り》 –【津村プロ WMCQ】– (2016/07/19) |
津村「調整中は本当にいろいろと試していましたね。《虚空の力線》を入れていたこともあります」
――「メインボードを見ると、サイドアウトするものがなさそうな印象を受けるのですが」
津村「《恐血鬼》か《ナルコメーバ》、どちらかは完全に抜くことが多いです。これらが8枚残るのは、速度で勝負する相手だけですね。『感染』や『親和』に対しては、完全に盤面を抑えきって《燃焼》などで捌き切って勝つパターンがほとんどなので、こういった攻めてくる相手に対して《恐血鬼》は必要ありません。逆に《ナルコメーバ》は『ジャンド』のようなデッキに不要ですね。《恐血鬼》と《秘蔵の縫合体》があれば、最終的に勝てますから。《ナルコメーバ》は墓地対策に引っかかるだけですし、出てきてもインパクトが弱いんです」
――「サイドアウトする場合、何枚ほど抜くことが多いのでしょうか?」
津村「『感染』と当たった場合は《恐血鬼》を全て抜いてしまいます。出てきたとしても、ほとんど意味がないですからね。『ジャンド』なら《ナルコメーバ》を4枚抜きます。《神々の憤怒》を入れているデッキには、『《ナルコメーバ》と《秘蔵の縫合体》を出して1発撃たせてから《恐血鬼》を戻す』という選択肢もあり得るので、最終的には相手次第ということになります。《恐血鬼》と《ナルコメーバ》は、一見抜きづらいカードだと思います。もしかしたら、抜かないほうが良いのかもしれないのですが、《恐血鬼》を抜くことに関しては、練習を重ねてかなり確信を持っていますね」
高橋「綿密な調整ですね。『親和』も『感染』も、2/1というサイズは活かしづらいので、良い判断だと思います」
津村「今まで『ドレッジ』は使われることしかなかったので、練習してこういった点に気付けたのは非常に大きかったですね。メインは『墓地から帰ってくる軍団』が単純に強いので、そこに《燃焼》を合わせて勝つことがほとんどです。サイド後は、より相手に合わせてブラッシュアップしなければなりませんね」
――「相手にとって弱いカードを抜き、相手に効くカードを入れてデッキを作り変える、というサイドボードの理想ですね」
■ プロを唸らせる、津村プロの調整
高橋「《自然の要求》を4枚積むという判断には感動しましたよ」
津村「一度『発掘』を始めたらカードを引けなくなるので、どうしても初手に欲しいカードなんです。初手に引きたい、という意味では《思考囲い》も4枚で良かったかな、と思いますね」
高橋「やはり1マナのカードは4枚採用しやすいですよね」
――「ちなみに、大池さんのリストには、緑黒を使うなら確実に入るであろう《突然の衰微》が入っていますが、これを抜いたのはなぜですか?」
津村「『ジャンド』が少ない、と思ったからです。『ジャンド』には《漁る軟泥》《闇の腹心》《タルモゴイフ》《墓掘りの檻》があるので《突然の衰微》が良いのですが、ジャンド以外には《自然の要求》の方が良い、と考えました。こちらならば、《虚空の力線》にも対処できますからね」
高橋「除去や手札破壊というのは、『何を除去したいか、何を手札破壊したいか』を考えて採用するべきです。津村さんは《突然の衰微》で壊したいものと、壊せないものを比較し、後者を重視して《自然の要求》を採用しているわけですね」
津村「かなりいろいろと試しました。《トーモッドの墓所》が入っているのも試行錯誤の証拠ですね。積めるだけいろいろ積んでみようと思い、《ボジューカの沼》《記憶の旅》も試しています。あと、調整するときにかなり重要なことだと思うのですが、MOとリアルではメタゲームが違うので、サイドボードも当然変わります。その分かりやすい例が、《復讐に燃えたファラオ》で、これはSuper Crazy Zoo(以下、SCZ)の対策です。《ティムールの激闘》に合わせれば、一発で勝てますからね。MOでは採用していますが、リアルでは『SCZは絶対に居ない!』と思って抜きました」
高橋「(拍手)」
――「高橋さんから拍手が」
高橋「MOは本当にSCZ多いですからね。体感で3割くらい遭遇します」
津村「『感染』にも効きますが、意識しているのは明確にSCZです」
■ 津村プロ「固定観念は捨て去るべき」
――「7月3日の第7期モダン神挑戦者決定戦から、7月19日の【ワールド・マジック・カップ2016 東京予選】まで、短い時間の中で練習を徹底的に重ねて調整していると思いますが、どのような意識を持って練習をされたのでしょうか?」
津村「大池さんのリストは、大池さんが練習を重ねて辿り着いたものです。そして、結果を残されて、『ドレッジ』が意識され、メタゲームが大きく変化し、その段階で僕は使うことになるわけです。『少なくとも、プレイングは大池さんに近づかないといけない。そうしなければ絶対に勝てない』という意識で練習を重ねました。細かな調整は、【ブログ】にまとめてありますが、サイドボードの調整に割ける時間がなかったので、とにかく目に付いたものを入れて、良かったもの、初手に欲しかったものを増やしていきましたね」
――「時間がない中で、効果が高かったもの、欲しかったものを増やし、限られた時間のなかで準備をする……まさにプロプレイヤーの調整・構築ですね」
高橋「最初は全部1枚ずつでも良いと思います。そして『これ、良いな。2枚引いても強いな』と思ったら増やしていくと良いですね」
津村「サイド後の初手に欲しいカードってありますよね、『初手にあると安心するな』と。そういうものは自然と採用する枚数が増えていきます。とにかくいろいろ試すことが重要です。『これは絶対に抜かないんだろうな』という固定観念は捨て去るべきですね。時間があればじっくりと調整できるのですが、時間がない時こそ、大胆なことをしたいですね」
■ プロプレイヤーからアドバイス
――「プロプレイヤーの皆さんが、どうやってサイドボードを構築・調整しているのか、という貴重なお話をお聞きしてきました。最後に、『もっと上手くなりたい!』と思っている読者の方に、アドバイスをお願いします」
津村「デッキリストを見たら、まずは『どうしてこのカードをメインに、そしてサイドに採用したのだろう』と考えてみてください。僕も、必ずそこから始めています」
高橋「デッキビルダーの思考を読み取る、というと少し大げさかもしれませんが、漠然と採用されているカードはありませんからね。その考えを把握した上で、自分なりの考えによって更に細かな調整を加えていくわけです」
津村「特にサイドボードは、デッキリストに採用した上で、各マッチごとにイン・アウトを考えるわけですから、この『思考を読み取る』というプロセスは重要だと思います」
高橋「サイドボードは付属品ではありません。不利になるであろう相手に打ち勝つ重要な要素です」
津村「そうですね。60枚に15枚を足すのではなく、サイドイン・アウトを意識して、75枚のデッキを構築するべきですね」
高橋「こういった構築は、なかなか難しいとは思います。しかし、自分のサイドボードが劇的に刺さった瞬間の感動、ってありますからね」
津村「ありますね。メタゲームを制する、決定的な瞬間ですから」
■ もうサイドボードは怖くない
プロプレイヤーの語るサイドボード、いかがだっただろうか?
メタゲームの中で、日々デッキを洗練させていくプロプレイヤーは、サイドボードの構築に関しても多くのことを意識し、思考を巡らせている。
迷ったら、プロの言葉を思い出そう。サイドボードは軽いカードでまとめる。サイドイン・アウトの枚数を意識する。汎用性のあるカード、もしくは劇的な効果のあるカードが望ましい。
『除去・カウンター・手札破壊』という3点セットを意識しよう。これらは、相手も採用しているはずだ。
そして、固定観念を捨てて、いろいろなことを試してみよう!
それから、サイドボード中は枚数を悟られないように気をつけることも忘れずに。満を持して投入されるサイドボードを信じて、勝利を掴むのだ。
サイドボードは、相手のデッキに対抗し、メタゲームを制する明確な手段だ。
15枚のサイドボードを、プロプレイヤーは並々ならぬ修練を重ねて選び抜いている。そこにはやはり、プロの膨大な思考と研ぎ澄まされた感覚が詰まっていた。次に皆様とお会いできるときも、プロプレイヤーの思考と感覚をお届けしたい。
それでは、またどこかで!
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