(1日目編は【こちら】)
目次
2日目ドラフトラウンド総括
2日目スタンダードラウンド総括
Deck Tech: Pierre Dagenの「青赤エネルギー・コントロール」
Deck Tech: 齋藤 友晴の「4色『機体』」
Dech Tech: 八十岡 翔太の「グリクシスコントロール」
3日目決勝ラウンド総括
エピローグ: 空港より
2日目ドラフトラウンド総括
2日目スタンダードラウンド総括
Deck Tech: Pierre Dagenの「青赤エネルギー・コントロール」
Deck Tech: 齋藤 友晴の「4色『機体』」
Dech Tech: 八十岡 翔太の「グリクシスコントロール」
3日目決勝ラウンド総括
エピローグ: 空港より
2日目ドラフトラウンド総括
プロツアー2日目のドラフトは、初日のドラフトとはレベルが違う。
2日目に進出しているという時点で卓の全員が4勝4敗以上、参加者の平均以上の実力を持った猛者ばかりとなるからである。
したがって、何らかの戦略を持ってドラフトに臨み、それによって初日のドラフトが好調だったプレイヤーも、2日目で同じ戦略が通用するとは限らないのだ。
さて、2日目は一番卓に八十岡 翔太、Pierre Dagenという2人のHareruya Prosの姿が並ぶこととなった。同じ卓には殿堂プレイヤーのEric FroehlichやトッププロのReid Dukeの姿もあり、トップ8進出に向けてはこの開幕のドラフトの成績が重要であることは言うまでもない。
その大事なドラフトで、八十岡は芸術を作り上げる。
【ドラフトビューワー】で確認できる八十岡のピックは以下の通りだ。
1-1 《歯車襲いの海蛇》(《街の鍵》流し)
1-2 《猛然たる報復》
1-3 《天才速製職人》
1-4 《霊気池の驚異》
2-1 《サヒーリの芸術》
3-1 《霊気池の驚異》
3-2 《慮外な押収》
3-3 《害悪の機械巨人》
1-2 《猛然たる報復》
1-3 《天才速製職人》
1-4 《霊気池の驚異》
2-1 《サヒーリの芸術》
3-1 《霊気池の驚異》
3-2 《慮外な押収》
3-3 《害悪の機械巨人》
神話レアと神話レアとの共演。
2枚の《霊気池の驚異》がパワーカードを引き寄せる。さらに《害悪の機械巨人》を《サヒーリの芸術》した日には、対戦相手は一生モノのトラウマを負うに違いない。
この【晴れるーむ合宿】でも見られなかったほどに楽しげなデッキを手に、Eric Froehlich、Reid Dukeと厳しい当たりながらもフィーチャーマッチでカードパワーの違いを豪快に見せつける八十岡の戦いぶりは、【公式生放送のタイムシフト】(01:07:00~あたりと2:15:00~あたり)で確認できるので、お時間のある方はぜひ動画をご覧になってみて欲しい。
しかし、このドラフトにおいて最も注目すべきポイントは実は他にある。それは、八十岡が《歯車襲いの海蛇》を初手でピックしているということだ。パックがそこまで強いものではなかったとはいえ、レアには《街の鍵》もある。だというのにこのピックをしたということは、八十岡は自身の勝ちパターンとして積極的に青をやりたがっていたということを意味している。
ところが、【初日ドラフト全勝アーキタイプまとめ記事】や【6-0プレイヤーへのインタビュー】(リンク先は英語) によれば、海外プレイヤーの多くの認識では青はやりたくない色だったようなのである。
八十岡は2日間のドラフトラウンドで合計5-1という好成績を収めている。その背景には、合宿で八十岡自身が見出した「《歯車襲いの海蛇》コントロール」というアーキタイプの強さがあまり認知されていなかったことがあったことは間違いないだろう。
世界中から多種多様なコミュニティ出身のプレイヤーが集まるプロツアーにおいては、どの色が人気があるのか、ビート傾向かコントロール傾向か、レアはカットするかしないかなど、その傾向は卓によって異なる。
そんな状況においては、「引き出しの多さ」が最大の武器となる。どのような流れであってもきちんと勝ち切れるだけのデッキを組むためには、【合宿まとめ】でも書いたように、マイナーなアーキタイプの知識が不可欠と言えるだろう。
プロツアーではスタンダードの新デッキだけでなく、ドラフトの戦略もまた、突き詰めれば他のプレイヤーに対し圧倒的に優位に立つことができる材料となるのだ。
2日目スタンダードラウンド総括
長かったプロツアーも、いよいよ残すところあと5ラウンド。Hareruya Prosの中でこの時点でトップ8の可能性が残されているのは、八十岡 翔太(10-1)、Pierre Dagen(8-3)、津村 健志(8-3)、Oliver Polak-Rottmann(8-3)の4名。はたして結果は……?
見事八十岡 翔太、Pierre Dagenの両名がトップ8に進出!
最終的なHareruya Pros全体の成績は以下のようになった。
プレイヤー | 初日ドラフト | 初日スタンダード | 2日目ドラフト | 2日目スタンダード | 最終成績 | 使用デッキ |
八十岡 翔太 | 3-0 | 5-0 | 2-1 | 3-1-1 | 13-2-1(トップ8) | グリクシスコントロール |
Pierre Dagen | 3-0 | 4-1 | 1-2 | 4-0-1 | 12-3-1(トップ8) | 青赤エネルギー・コントロール |
Oliver Polak-Rottmann | 1-2 | 5-0 | 2-1 | 2-3 | 10-6 | ティムール《金属製の巨像》 |
Martin Muller | 3-0 | 2-3 | 2-1 | 3-2 | 10-6 | ティムール《金属製の巨像》 |
中村 修平 | 2-1 | 3-2 | 2-1 | 3-2 | 10-6 | ジャンド『昂揚』 |
齋藤 友晴 | 1-2 | 4-1 | 1-2 | 4-1 | 10-6 | 4色『機体』 |
Petr Sochurek | 1-1-1 | 4-1 | 1-2 | 3-2 | 9-6-1 | 黒緑『昂揚』 |
津村 健志 | 3-0 | 3-2 | 2-1 | 1-4 | 9-7 | 黒緑『昂揚』 |
井川 良彦 | 2-1 | 3-2 | 2-1 | 2-3 | 9-7 | 赤白『機体』 |
高橋 優太 | 1-2 | 3-2 | 1-2 | 2-3 | 7-9 | 黒緑『昂揚』 |
Jeremy Dezani | 2-1 | 0-4 | - | - | 初日敗退 | 不明 |
Lukas Blohon | 0-3 | 2-2 | - | - | 初日敗退 | 黒緑『昂揚』 |
Michael Bonde | 1-2 | 1-4 | - | - | 初日敗退 | 白黒ミッドレンジ |
森 勝洋 | 0-3 | 2-2 | - | - | 初日敗退 | 青白『機体』 |
2日目の構築ラウンドを一言でまとめるならば、コントロールの台頭であった。
初日は多数派の《霊気池の驚異》が中途半端な速度の白赤「機体」や黒緑「昂揚」やグリクシス「現出」などのミッドレンジを狩る光景が見られたが、そんな暴虐の限りを尽くした《霊気池の驚異》を2日目のスタンダードラウンドで待ち受けていたのは、狩られる側に回るという食物連鎖の宿命だったのである。
だが、【1日目編】で《霊気池の驚異》対策としてのカウンターには疑義が呈されていたではないか、と考える人もいるだろう。
しかし、確かに環境に汎用性の高い2マナ以下のカウンターは存在しなかったけれども、洗練された《霊気池の驚異》デッキの対策としては《虚空の粉砕》ですら十分すぎたのである。
どういうことかというと、まず《霊気池の驚異》デッキがメインボードを純化させると、《霊気池の驚異》4枚のほかは「《霊気池の驚異》を探すカード」「エネルギーを貯めるカード」「《霊気池の驚異》を起動してめくれたら嬉しいカード」の3種類と、少量の時間稼ぎ用のカードくらいしかほぼデッキに入らなくなる、ということを念頭に置いて欲しい。
そんなデッキを相手にしているとわかっていたならば、対戦相手は当然《霊気池の驚異》4枚だけを狙い撃ちでカウンターすればいいだけの話だろう。
そして実際に2日目の上位にそういった純粋型の《霊気池の驚異》が多く勝ち残っていた結果、「カウンターが3枚以上デッキに入っている」というだけで自動的にゲームが拾えるコントロールデッキにとってのボーナスゲームが各地で発生したのである。
鍵となったのは《儀礼的拒否》と《奔流の機械巨人》である。
前者は《霊気池の驚異》への強力なアンチカードでありながら、《密輸人の回転翼機》《高速警備車》などの「機体」、さらには《虚空の粉砕》《コジレックの帰還》《難題の予見者》といった「欠色」のカードにも対応できる柔軟さを持ち合わせており、どのデッキに対しても何らかの当てどころはあることから、メインに採用されることもあるほどであった。
また、《奔流の機械巨人》は散らばったスペルの倍加役を担いつつ、《瞬唱の魔道士》と異なり自身が速やかなフィニッシャーとなりうることから、コントロールのスロットを節約する役割を果たし、その台頭に最も貢献した一枚と言えるだろう。
環境に存在する除去スペルの汎用性の低さ、ドロースペルの質の低さ、そして何より環境の不透明さから、「さすがにコントロールは持ち込めない」と判断したプロプレイヤーが大半を占めたのは事実であり、それはメタゲームブレークダウンにも表れている。
しかしそれでも八十岡やDagenをはじめ、確かな決断をもってコントロールを選択し、2日目の終盤まで上位に勝ち残ったプレイヤーには、極めて多くの見返りが与えられたプロツアーとなったのである。
Deck Tech: Pierre Dagenの「青赤エネルギー・コントロール」
《予期》と《棚卸し》と《苦しめる声》が同居したデッキがあったら、あなたはそれを強いデッキとは思わないかもしれない。しかし実はそういった構成こそが合理的な最適解となるようなデッキが存在するのだ。
ここではHareruya Pros・Pierre Dagenがプロツアーに持ち込んだ「青赤エネルギー・コントロール」について、本人に簡単に話を聞いてみることにする。
6 《島》 6 《山》 3 《霊気拠点》 4 《尖塔断の運河》 4 《さまよう噴気孔》 1 《高地の湖》 -土地 (24)- 1 《奔流の機械巨人》 -クリーチャー (1)- |
4 《稲妻の斧》 3 《流電砲撃》 4 《予期》 4 《蓄霊稲妻》 4 《棚卸し》 3 《苦しめる声》 4 《癇しゃく》 3 《虚空の粉砕》 2 《天才の片鱗》 4 《電招の塔》 -呪文 (35)- |
4 《氷の中の存在》 4 《霜のニブリス》 2 《儀礼的拒否》 2 《否認》 1 《奔流の機械巨人》 1 《流電砲撃》 1 《天才の片鱗》 -サイドボード (15)- |
青赤エネルギー・コントロール
Pierre Dagen
まず、このデッキはどういった経緯で製作されるに至ったのだろうか?
Dagen「このデッキは俺たちフランス・チームの調整の結果できたデッキだ。このプロツアーでは何よりもまずアグレッシブなデッキ、特に《密輸人の回転翼機》をはじめとする『機体』に対抗する必要があると考えられた。そうなると赤で《蓄霊稲妻》を使うか黒で《闇の掌握》を使うかという話になるが、マナベース的に青黒よりも青赤の方が良さそうだった。問題はフィニッシャーを何にするかだが、他の多くのプレイヤーも同様にたくさんのクリーチャー除去を搭載してくると予想されることから、非クリーチャー・パーマネントである《電招の塔》で勝つプランをとることにしたんだ」
《電招の塔》があると、すべてのインスタント・ソーサリーはダメージソースとなる。そこで、ゲーム中盤以降に2枚以上の《電招の塔》を設置し、《予期》《棚卸し》《苦しめる声》といったドロースペルでドロースペルを再び引き込み連鎖させることで、毎ターンダメージを飛ばすためのエネルギーを供給し続ける、というのがこのデッキの基本的なコンセプトとなる。
《稲妻の斧》《癇しゃく》のシナジーに加えて《流電砲撃》まで搭載されていることからして、インスタントタイミングでの対処を要求する白赤や赤黒の『機体』デッキに対しては、確かに相性良く立ち回れることだろう。
これに対し、今回のプロツアーにおける実際のメタゲーム (【参考】) はこのデッキにとって過ごしやすいものだったか、について聞いてみると、必ずしもそうでもないと言う。
Dagen「メタゲーム的には完璧とは言い難いな。アグレッシブなデッキばかりだと思っていたけど、サイズの大きなクリーチャーを超高速でプレイするタイプのコンボデッキも多く存在している。そしてそれはこのデッキに対しては非常に有効な戦略なんだ。同じくクリーチャーが出てくるとはいっても、《絶え間ない飢餓、ウラモグ》や《約束された終末、エムラクール》、《金属製の巨像》といったクリーチャーを火力呪文で対処するのはいくらなんでも難しいからな」
ただ、とDagenは続ける。
Dagen「ただサイドボード後に関しては、《氷の中の存在》と、特に《霜のニブリス》がよく働いてくれる。実際、第13回戦のフィーチャーマッチでは3体もの《金属製の巨像》を並べられたけれど、《霜のニブリス》がそれらをタップし続けたおかげで勝てたよ」
この「青赤エネルギー・コントロール」は一見した際のイメージとは異なり、《電招の塔》のおかげでプレインズウォーカーにもナチュラルに耐性があったり、デッキ内の大部分が3マナ以下のスペルで占められていて通常のコントロールほど大量には土地を必要としないため、土地が切り詰められている点など、非常によく練りこまれたデッキと言える。
《密輸人の回転翼機》に悩まされているという方は、ぜひ使用を検討してみて欲しい。
Deck Tech: 齋藤 友晴の「4色『機体』」
私が今回のプロツアーを間近で観戦していて、参加者たちが各々の理屈で調整した新スタンダードのデッキの数々はもちろん素晴らしいものが多かったのだが、なかでも飛びぬけて「このデッキはすごい」と思ったデッキが2つある。
1つは言わずもがな「ヤソコン」だが、もう1つはHareruya Pros・齋藤 友晴が使っていた「4色『機体』」だ。
過去には「シー・ストンピィ」や【Hyper Zoo】など、ビートダウンをチューンアップすることに関して天才的なセンスを発揮することで知られる齋藤に、早速この「4色『機体』」の製作コンセプトについて伺ってみた。
3 《山》 3 《平地》 4 《霊気拠点》 4 《感動的な眺望所》 4 《尖塔断の運河》 4 《秘密の中庭》 -土地 (22)- 4 《模範的な造り手》 4 《発明者の見習い》 4 《スレイベンの検査官》 4 《屑鉄場のたかり屋》 4 《経験豊富な操縦者》 3 《模範操縦士、デパラ》 -クリーチャー (23)- |
4 《蓄霊稲妻》 2 《無許可の分解》 4 《密輸人の回転翼機》 3 《耕作者の荷馬車》 2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文 (15)- |
4 《儀礼的拒否》 4 《流電砲撃》 2 《無私の霊魂》 2 《無許可の分解》 2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 1 《断片化》 -サイドボード (15)- |
4色「機体」
齋藤 友晴
齋藤「もともとはいつものMTG Mint Cardの合宿に行ったら、白赤『機体』なんだけれども《平地》の代わりに《秘密の中庭》が入っていて、《耕作者の荷馬車》も入ってて、1ターン目《模範的な造り手》 or 《発明者の見習い》→2ターン目《密輸人の回転翼機》 or 《屑鉄場のたかり屋》っていう形のデッキをLee Shi Tianが持ち込んでいたんだよね。で、俺も白赤と赤黒の『機体』をハイブリッドした形が組めないかなと思ってたところだったから、調整しようってことになったのがきっかけだね」
赤黒の《密輸人の回転翼機》デッキには積極的に採用されている《屑鉄場のたかり屋》だが、その真価は何度でも戦場に戻ってこれる継戦能力にある。このカードを白赤『機体』で運用しようというのがスタートラインだったようだ。
また、《耕作者の荷馬車》は色マナの安定にも貢献するほか、「機体」の性質上ソーサリー除去が効かない上に5/5というサイズが環境の一般的な除去に引っかからず、《経験豊富な操縦者》や《模範操縦士、デパラ》と合わせれば強烈なクロックにもなる点が見逃せない。
齋藤「ただ、白赤『機体』の除去って《蓄霊稲妻》のほかは《流電砲撃》と《石の宣告》が第2候補だけどどちらも裏目があるんだよね。それと、ぶん回り重視のデッキなのにタップインの《鋭い突端》が入っているのは弱いな、と感じた」
齋藤が発見した課題は「除去スペルの汎用性の低さ」と「マナベースの弱さ」だった。課題が見えたことで、齋藤は早速その解決に乗り出す。
齋藤「そこで、《霊気拠点》を入れてタップインを全部抜こう、それと一緒に除去呪文として裏目がない上にカードパワーも高い《無許可の分解》までタッチして入れようという提案をして、それが採用されたのが今のメインボードだね」
齋藤「ただまだ問題はあって、《霊気池の驚異》とぶつけてみたら全然勝てないじゃん!というのが明らかになったんだよね。そこで、いっそ《山》も《尖塔断の運河》にしてサイドに《儀礼的拒否》もタッチしようってことで、それでやってみたら圧勝して。もともと苦手なデッキがほとんどなかったところに、隙がなくなった感じだね。もし自分たちの知らないデッキがいたら、一応このデッキは白赤『機体』の最速バージョンだから、速度でなんとか対抗できればというところだったけれど、そういう想定外のデッキもいなかったので、最終的に今回のプロツアーは非常に良いフィールドだったと思う」
この「4色『機体』」は4人でシェアされ、齋藤 友晴(8-2)、Yam Wing Chun(8-2)、Lee Shi Tian(7-2-1)、Huang Hao-Shan(6-4)と大成功といって差し支えない成績を収めている。
「白赤『機体』」を使っていて《霊気池の驚異》との相性を改善したいという方がいたら、このアプローチを試してみてはいかがだろうか。
Dech Tech: 八十岡 翔太の「グリクシスコントロール」
今大会最も注目のデッキリストといえばやはりこちらの「ヤソコン」だろう。【2日目スタンダード総括】で書いたように、何といっても多くのプレイヤーの眼には「コントロール」という選択そのものが、盲点とは言わないまでもかなりリスクの高い選択に映っていたはずなのである。
それでなくても、そもそも環境初期に「コントロール」を組むことは極めて難しい。環境の定義はビートダウンから始まるからだ。どのマナ域のどんなクリーチャーに対処するための除去を何枚入れるのか、カウンターは、手札破壊は、全体除去は、そして何よりサイドボード後のゲームはどのようになるのか。すべてある程度把握できなければ、コントロールというのはその本来の強さを発揮しない。
それでは、八十岡はなぜグリクシスコントロールという選択にたどり着いたのか。デッキそのものについてというよりはむしろその思考の経路について、簡単にインタビューさせてもらった。
5 《島》 2 《山》 2 《沼》 4 《窪み渓谷》 3 《燻る湿地》 4 《進化する未開地》 4 《尖塔断の運河》 2 《さまよう噴気孔》 -土地 (26)- 4 《氷の中の存在》 2 《奔流の機械巨人》 -クリーチャー (6)- |
4 《流電砲撃》 1 《儀礼的拒否》 3 《予期》 3 《蓄霊稲妻》 2 《否認》 1 《精神背信》 3 《苦い真理》 3 《虚空の粉砕》 2 《光輝の炎》 2 《無許可の分解》 1 《本質の摘出》 2 《天才の片鱗》 1 《秘密の解明者、ジェイス》 -呪文 (28)- |
3 《稲妻織り》 2 《儀礼的拒否》 2 《餌食》 2 《即時却下》 2 《慮外な押収》 1 《否認》 1 《精神背信》 1 《光輝の炎》 1 《秘密の解明者、ジェイス》 -サイドボード (15)- |
グリクシスコントロール
八十岡 翔太
八十岡「《霊気池の驚異》が変な中速デッキとかを許さないんだよね」
八十岡は環境の焦点を《密輸人の回転翼機》ではなく、既に《霊気池の驚異》に設定している。その前提から、八十岡はプロツアー前の段階での環境の姿を紐解いていく。
八十岡「《霊気池の驚異》に対抗しないといけないから、赤緑ダブルストライクとか《金属製の巨像》みたいなコンボと、あとは赤黒ビート、赤白ビートみたいな速いビートばかりで、ボードコントロールみたいなのはほとんどいない環境になっている。黒緑『昂揚』が唯一ギリギリかな、あれももうボードコントロールと言えるかは怪しいけど」
『異界月』環境では《約束された終末、エムラクール》のプレイをゴールに設定していた黒緑「昂揚」は、『カラデシュ』以後に高速化した環境の変化に対応するべく、《節くれ木のドライアド》や《密輸人の回転翼機》を搭載したビートダウンの形をとるようになっている。その変化が、環境の輪郭を際立たせる。
八十岡「もう明確にコンボ環境だよね。で、『なぜグリクシスコントロール?』という話に戻るけど、コンボ環境だとカウンターが環境的に弱いケースはほぼ存在しない。特に《否認》や《儀礼的拒否》といった軽いカウンターが強くなるので、『青は使おう』とだけは決めていた」
ついに八十岡は環境の姿そのものに言及する。「コンボ環境」。自らの思考を説明する言葉は、通常は後付けだから論理だって聞こえる。だが八十岡の言葉は、まるで自らの脳のクロックに論理の方が追いついていないかのように、先へ先へと飛躍していく。
八十岡「そうなると自分もコンボデッキを使ってサイドに《儀礼的拒否》などのカウンターを使うか、コントロールかの2択だね。でも結局《霊気池の驚異》より遅いコンボでは《霊気池の驚異》には勝てないから、コンボは諦めてコントロールを使うことにした。スタンダードで一番強いドローは《苦い真理》なので、青と黒の2色は確定」
青黒は八十岡が最も好む2色の組み合わせだ。青黒フェアリー、青黒トロン、青黒《ボーラスの工作員、テゼレット》……これまでありとあらゆる青黒のデッキを組み上げてきた。
そして今回も、八十岡のデッキは青黒へと帰着する。まるであらかじめ定められていたかのように。
八十岡「盤面に触りたいから、3色目は白か赤になる。青黒白か青黒赤……白だと《燻蒸》や《乱脈な気孔》によるライフゲイン要素、それとサイドの《断片化》と、なんといっても《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が魅力。対して赤は《流電砲撃》と《蓄霊稲妻》、それと《光輝の炎》の存在が大きい。《衰滅》がない今、このカードは環境の《神の怒り》と呼べるカードだから」
白か。赤か。八十岡の選択は。
八十岡「赤。決め手としては、赤の方がスペルが軽く、テンポが取り返しやすい。それとメインから《密輸人の回転翼機》ビートをメタりたかった」
かくして八十岡のプロツアーのデッキは「グリクシスコントロール」となった。あとは細部の構成を決めるだけの作業だ。
八十岡「コンボ相手は数枚のカウンターだけあれば勝てる。《霊気池の驚異》相手はゲーム中に2枚だけカウンターを引ければ、たとえ除去が2枚腐っても関係ないから。てことで除去とドローを多めにして、《氷の中の存在》も強いので入れよう、みたいな感じ」
ここではその細部の決定についてまでは踏み込まなかったが、会場で他のプロに「1枚差しの《精神背信》はカウンターではダメなのか?」という質問を受けた際、八十岡は「バランスが悪い」と答えている。おそらく八十岡の中では、コントロールを組む際にマナベースとの兼ね合いで「どのようなカードを何枚程度入れるのが適切なのか」という感覚値が、これまでの経験によって導き出されているのだ。
その感覚値に従って最適なバランスを追求した結果が、このデッキに集約されている。いわば八十岡の知の結晶とも言うべきデッキレシピというわけだ。
八十岡「プロツアーのフィールドで一番きついデッキは黒緑『昂揚』だろうね。《不屈の追跡者》みたいにリソース勝負されると厳しい。それと当たり前だけど《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》、《反逆の先導者、チャンドラ》といったプレインズウォーカーは通ったら負ける。ただ《密輸人の回転翼機》が流行っているのと、そもそもミッドレンジがほぼ消え去ったことで、メインからプレインズウォーカーを出されること自体少ない環境だよね」
八十岡はあらかじめ《霊気池の驚異》の台頭を予見し、それに加えてほぼ公開情報として当然多いであろうと予想される《密輸人の回転翼機》ビートとの両面をケアしたデッキを見事に組み上げた。これぞまさしくメタゲームであり、デッキ選択・デッキ構築ともに八十岡のプロプレイヤーとしての真髄が如何なく発揮された好例と言えるだろう。
3日目決勝ラウンド総括
今回のプロツアーより試験的に決勝ラウンドの対戦システムが変更され、スイスラウンドを1位~4位で通過したプレイヤーには特殊なシード権が与えられることとなった。これにより3位通過のDagenと2位通過の八十岡は勝ち上がってくる対戦者を待つべき立場となる。
最初に対戦者が決まったのはDagen。相手はこのプロツアーで最も意外性の少ない、しかしそれゆえに強力な白赤「機体」を駆る、Ben Hull。
そして、デッキ的には想定内の相手ではあるものの、5回目のプロツアートップ8入賞となるトッププロ・Lee Shi Tianを難なく粉砕して勢いに乗ったHullを止められず、Dagenは0-3のストレート負けを喫してしまう。
続くHullの対戦者は八十岡。Hullの土地事故もあり、八十岡は3勝1敗でこれを撃破。決勝へと進出する。
プロツアー決勝。
個人戦プロツアーのタイトルは、八十岡にとって悲願の一つでもある。前回その機会に恵まれた【プロツアー『タルキール龍紀伝』】では、Martin Dangの「アタルカレッド」を前に相性差を覆せず、準優勝止まりだった。
さらにプラチナ報酬の減額と世界選手権の賞金増額を受けて、プロツアーの「優勝」と「準優勝」とでは埋めがたい格差がある。プロツアー優勝者はその時点で翌シーズンの世界選手権への出場が確定するからだ。
八十岡にとってこの一戦に掛かっているものの価値は、もはや計り知れない。
対戦相手は青白赤のコントロールを駆る南米出身の古豪、Carlos Romao。
やがて全世界のプレイヤーが放送を見守る中、このプロツアーの結論を象徴するかのようなコントロール対決が開始される。
1ゲーム目、八十岡が後攻を選択してゲームが始まる。リストが公開なため、互いのマストカウンターは限られていることは共通了解となっている。ドロースペルを打ち合い、どちらも土地を10枚以上並べるまで、ほとんど動きがない。途中で《奔流の機械巨人》を通した八十岡だが、《鑽火の輝き》をケアし、攻撃に向かわせずに機を待ち続ける。
Romaoがライブラリーの枚数を数え始めると、八十岡のライブラリーの方が《進化する未開地》《予期》といった圧縮要素によって枚数が少なく、Romaoが八十岡の攻め手のすべてを受けきればライブラリーアウトで自動的に勝利となることが明らかとなる。もちろん八十岡もその点は先刻承知だ。もし八十岡が本気でライブラリーアウト勝ちを狙っていたなら、このような状況には追い込まれていない。
必要なのは、Romaoの隙。
やがてRomaoが八十岡の場に残ったままの《奔流の機械巨人》を処理するため、大量のマナを残しつつも何気なく《燻蒸》をプレイすると、それがRomaoの敗着となった。これを《虚空の粉砕》で打ち消した八十岡は、さらにエンド前に2体目の《奔流の機械巨人》をプレイ。これをめぐるカウンター合戦を、《儀礼的拒否》の一刺しで勝利すると、《停滞の罠》で巨人の一体は処理したものの一時的に残りマナが縛られたRomaoに対し、2体の《さまよう噴気孔》と合わせての13点アタックを通しにいく。
続くターンにRomaoがマナを立たせて防御の構えを見せるが、《ドビン・バーン》《大天使アヴァシン》《即時却下》という二重三重のRomaoの防御をかいくぐって八十岡が最後にプレイしたのは、《無許可の分解》だった。
マナベースの関係で《殺害》よりも優先されていることが明らかな《無許可の分解》だが、一体誰がこの「アーティファクトをコントロールしているなら3点」という文言が八十岡のデッキで、しかもコントロール同士の対決で決まり手になると予想しただろうか?デッキ選択、デッキ構築だけでなく、プレイのプランニングにおいても、八十岡の判断力はプロプレイヤーの中で群を抜いている。
さらに2ゲーム目。焦りからか一転して攻めに転じたRomaoに対し、八十岡は今度は守りを徹底し、《奔流の機械巨人》は除去呪文を重ねて対処する。
そしてRomaoがふと気がついたときには、1ゲーム目とは反対にRomaoのライブラリーの方が少なくなっていた。
それでも《ドビン・バーン》の奥義を発動させ、八十岡を《静態の宝珠》状態に追い込んだRomaoだったが、八十岡がデッキに1枚の《精神背信》を引き込んだことで、手札が整う前に勝負をかけざるをえなくなってしまう。
Romaoは2体目の《奔流の機械巨人》と《大天使アヴァシン》をも瞬く間に失い、もはや残された勝ち手段は《さまよう噴気孔》のみ。マナを縛られながらも落ち着いてこれに対処した八十岡は、見事ライブラリーアウト勝ちを完遂 (の前にRomaoが投了) したのだった。
この2ゲームは見るだけで八十岡 翔太というプレイヤーの図抜けた強さを感得できるので、ぜひ【公式生放送のタイムシフト】などで実際に映像をご覧になっていただきたい。
その後八十岡は3ゲーム目こそRomaoのサイドボードプランを受けきれずに敗北したものの、4ゲーム目はRomaoの土地が詰まっている間に土地を伸ばしてマナ差をつけ、《氷の中の存在》と《奔流の機械巨人》で一気に攻めに転じると、徐々にRomaoの行動の選択肢を絞っていき、《さまよう噴気孔》のバックアップも受けてRomaoのライフを削りきった。
プロツアー『カラデシュ』優勝、Hareruya Pros・八十岡 翔太。
私たちが、そして誰より八十岡自身が待ち望んだ瞬間がついに訪れた。
ドラフトのパック運や対戦相手のデッキの当たり運、毎ターンのランダムなドローなど、マジック:ザ・ギャザリングの大会で勝つにあたっては、ある程度運の要素が絡むことは否定しがたい。
しかしそれでも。
《歯車襲いの海蛇》を主軸にしたピック。グリクシスコントロールというデッキ選択とデッキ構築。そして何より、決勝戦の1ゲーム目と2ゲーム目をはじめ、3日間合計18回戦で何度も煌めいたであろう、卓越したプレイング。
世界中にその力量を幾度となく見せつけた八十岡の勝利は、マジックというゲームが「強さ」によってどこまでも結果が変わりうるものであることと、その事実がゲームを通じてこの上ない感動を呼び起こすものであることを、完膚なきまでに証明し尽くしたのだ。
エピローグ: 空港より
そしていま私は、ホノルルの空港でこの文章を書いている。
プロツアー『カラデシュ』は終わり、最高の結果が示された。
では、「強さ」とは結局何だったのか?
八十岡やDagenの勝利を見ていれば、少なくともデッキ選択力、デッキ構築力、ドラフティング力、プレイングの4つはパラメータとして存在していそうだということは何となくわかる。
また、プロツアーの決勝戦でフィーチャーマッチだというのにあくまで平然とした素振りを見せる八十岡の姿を見ていると、強靱な精神力も5つ目のパラメータとしてカウントしてもいいかもしれない。
しかし、それらはあくまで分類のための分類でしかない。「強さ」の意味を知るということは、それによって「強さ」を得る手がかりを手にできるようでなければ意味がない。
どうすれば八十岡 翔太のように「強く」なれるのか。その答えは今のところ、波間に揺蕩って一つ所に定まらない。
ただ、一つだけ確実に言えることがある。
「強さ」とは、思考を止めなかった先にあるものだ。
難しいシチュエーションを言語と非言語に分解し、指運に任せず、与えられた情報だけをもとに判断を行うこと。
その経験だけが人を高みへと成長させるのだろう。
プロプレイヤーはみな、答えを求めてより高い波に向かって挑んでいく。
砂浜には、その痕跡だけが残されている。
次の波が来れば消えてしまうであろう、彼らの思考が通った路を、私は今も記録し続けている。
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