私は、渇いていた。
最強のドラフト戦略に。決め打てばそれだけで勝てる、魔法のようなアーキタイプに。
しかし、『マジック・オリジン』での【青黒ジャッカル】以降、ブースタードラフトはシナジー環境が続いた。シナジー環境では、点数の安いバニラを拾ってマナカーブで押し切る戦略は到底通用しない。
それでも、私は研究を続けていた。いつでも安く流れるカードを使って、新しいアーキタイプを作ること。たとえそれで勝率が安定しないとしても、毎回のドラフトでほぼ100%再現できるのであれば、私はそれを愛用した。
『ゲートウォッチの誓い』では、《耕作ドローン》を軸に据えた青単タッチ赤黒の「欠色」デッキをドラフトしていた。『異界月』では《予言的妄語》を「マッドネス」の起爆剤とする赤黒吸血鬼を狙い続けた。だが、それらで勝つのはやはり難しかった。
『カラデシュ』もシナジー環境だ。エネルギー、アーティファクト、「機体」、2色の組み合わせごとに存在する様々なシナジーを、そのどれがどのように空いているのかを見極める環境。そこにおいては、「いつでも安く流れるカード」は存在しない。どんなカードでも、デッキが求めるシナジー次第で10点にも100点にも変わりうるからだ。
それゆえに、私は半ば諦めかけていた。この環境のソリューション……決め打ちに値するような、最強の戦略を発見することを。
だが、今。明けて2017年、『霊気紛争』のプレビューも始まっているこの時期に、私は偶然にも天啓を受けてしまったのだ。とある種類のカードを集めろ、と。
それこそが『カラデシュ』環境のバグ……「白赤マンモス」との邂逅の瞬間だった。
■ 1. 「白赤マンモス」との出会い
時は2016年末に遡る。
マジックオンラインで『カラデシュ』ドラフトを連打していると、ふと「あること」に気がついた。
この環境は5マナが強い。
そう……どんなデッキを使っていても、5マナのクリーチャーがゲームを決定することがあまりにも多すぎたのだ。
その決定力たるや、4マナの比ではない。一度出せば盤面は止まり、膠着したならばコンバットトリックを構えて殴りだす。それはフィニッシャーと呼ぶに相応しい、八面六臂の活躍ぶりであった。
だがこれらの5マナクリーチャーたちについては、《自己組立機械》を除いては、その強さに比してあまり早い手順で取られている様子はなかった。
それは当然だ。ただでさえ高速環境と言われる『カラデシュ』で5マナのクリーチャーを4枚も5枚も入れてはいられない。そう思うのが当然だろう。
しかし、本当にそうだろうか?
これらの5マナクリーチャーたちは、一度出せば先手後手をひっくり返し、一挙に盤面を制圧できるだけのポテンシャルを有していることは既に述べた。
ならば2枚、3枚と並べたならそれはもはやゲームの勝利と同義ではないだろうか?
《砦のマストドン》も、一匹ではただの象。だが三匹集まれば。
マンモス。
そう、原始のパワーだ。
マンモスの力は無限大。ならば、5マナのクリーチャーは全て見た瞬間にピックすることで、宇宙の果てへと到達できるのではないか?
思いついたら、あとは試すだけだった。
■ 2. 「白赤マンモス」実戦編
5マナのクリーチャー(=マンモス)は全て見た瞬間にピックする。
より詳しく定義するなら、一周して流れてこなさそうな手順では即ピック、となる。
狂気である。しかし、狂っているのは世界の方という可能性もあるのだ。
やがてピックが始まる。初手~4手目まで5マナ域が見えずに企画倒れを心配したのも束の間、5手目に流れてくる《砦のマストドン》。脇には《光袖会の職工》もいるのだが今日の私はマストドンをマストでドン。5マナは最強。5マナは真理。
さらに《空渦鷹》も確保したところで、アカシックレコードとの交信が完了した私に新たな着想が生まれる。
幸か不幸か、ピックの最中に5マナクリーチャーたちと対をなす存在に気がついてしまったのである。
ラクダだ。
マンモスとラクダ。シナジーがないわけがない。
序盤はラクダが支え、5マナにたどり着いたらマンモスタイム。必勝の方程式だった。
もちろん0/4というサイズでは《改革派の貨物車》すら止められない。しかしそこで《発明者のゴーグル》をラクダに装着すると、1/6でなんとラクダが車を止めるのである。物理現象を超越している。
かくして「白赤マンモス」は真の完成を見た。幸いにして0/4軍団は5マナクリーチャー以上に誰もピックしないので無限にかき集めることができた。
そしてピックが終わった。
目の前に広がっていたのは、誰もたどり着いたことがない境地だった。
芸術が、生まれた。
0/4が8枚。マンモスが8枚。不純物の存在しない、完璧な世界がそこにはあった。
1マナ5枚。2マナ3枚。5マナ8枚。3マナも4マナもない。マナカーブは、完全に崩壊していた。
これが。これこそがマンモス。
知性は捨てた。あとは示すだけだ。勝利によって、5マナクリーチャーの偉大さを。
このマンモスピックが、『カラデシュ』ドラフトを支配するのだ!
■ 3. さようなら「白赤マンモス」
そしてマンモスは死んだ。
まずラクダは車に轢かれた。《発明者のゴーグル》を引かないときの0/4は、《改革派の貨物車》に跳ね飛ばされて次々と宙を舞った。
そして積み上げた5マナのタワーは、ゲームを終わらせるまでのターンがあまりにも長すぎた。
5ターン目に登場するファーストクロック。当然すぐには殴れはしない。2体、3体と5マナを並べて機が熟すのを待つしかない。
しかしそんなことをしている間に、『カラデシュ』ドラフトのどんなデッキでも、自分のシステムを完成させるか、より重くて強力なレアをプレイできるようになっているのだ。
5マナクリーチャーの決定力は確かに偉大だった。だがそれは、2~4マナ域のクリーチャーが身命を賭して相手のライフとリソースを削ってくれていたからなのである。
マンモスだけでは、デッキにならないのだ。
こうしてマンモスはジャッカルにはなれなかった。
だが、マンモスは私たちに大切なことを教えてくれた。
それは、何事もやりすぎると良くないのだということ。
そして何より。
「ドラフトには無限の可能性がある」ということを、その尊い犠牲をもって私たちに示してくれたのである。
読者諸君も「これって集めたらソリューションかも?」と思ったら、恐れずに突き進んでみて欲しい。
あるいは、そこから芸術が爆誕するのかもしれないのだから。
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