別途レポートも書いた先週末のプロツアー『アモンケット』。
日本人参加者36名の中でゾンビデッキを使用したのはなんと、僕トモハルだけ (参照: プロツアー『アモンケット』 日本人プレイヤー・スイスラウンド最終成績一覧) でした。
まさに環境のTier1にふさわしいというデッキだったので驚きの結果ですが、ゾンビはもともと日本より欧米のほうが人気がある種族であるため、日本勢からするとカジュアル感があり試すのが遅れ、強いと分かるのが比較的遅れた可能性が高いと認識しています。実際、日本の大きめのトーナメントで結果を残しているのは見ませんでした。
……という背景分析は余談にすぎませんが、結果として、僕にはゾンビデッキについて伝えなければならないという使命感があります。
このデッキは強いし単色なので使いやすそうですが、多くの場合選択肢が複数あって、うまく操る難易度は意外と高いデッキなのです。
そこで今回は、自身やトップ8に入賞したクリスチャン・カルカノ、リー・シー・タンらが使用した75枚を例に、各カードの役割やプレイのコツ・サイドボーディング例を説明します。優勝者であるジェリー・トンプソンのリストとは数枚違いますが、その方が僕の理解値が高いためです。
■ 1. デッキ解説
22 《沼》 2 《ウェストヴェイルの修道院》 -土地 (24)- 4 《戦慄の放浪者》 4 《墓所破り》 4 《無情な死者》 4 《金属ミミック》 4 《呪われた者の王》 4 《戦墓の巨人》 -クリーチャー (24)- |
4 《闇の救済》 3 《致命的な一押し》 3 《闇の掌握》 2 《リリアナの支配》 -呪文 (12)- |
4 《精神背信》 2 《屑鉄場のたかり屋》 2 《豪華の王、ゴンティ》 2 《失われた遺産》 2 《リリアナの支配》 2 《最後の望み、リリアナ》 1 《闇の掌握》 -サイドボード (15)- |
黒単ゾンビデッキは魅力的かつ強力なデッキです。理由としては、同一の種族かつ単色の潔いビートダウンながらも良い要素をたくさん内包しているからです。
逆に持ち合わせていない部分としては、
くらいで、こうやって整理すると非常に優れたデッキであることが分かります。
プロツアーの準備期間でもあらゆる新デッキで倒しにくかったので、黒単ゾンビがしばらくスタンダード環境の上位に君臨する可能性は極端に高いと考えています。
相性が良い可能性があったのは、除去りまくって各種プレインズウォーカーや《栄光をもたらすもの》で蓋をする赤黒系コントロールぐらいでした。あるいは余った除去を《先駆ける者、ナヒリ》で処理できる赤白でも良さそうです。
ただ環境的にはティムール霊気池やマルドゥ機体がそれらのデッキを活躍しにくくしているため、あまり脅威ではありません。
また、プロツアーで出現したデッキの中ではチーム「GENESIS」型霊気池、いわゆるマーティン・ミュラー型霊気池のみが不利なデッキと認識しています。逆に得意な相手はマルドゥ機体、黒緑系、ゾンビ対策やりすぎてない青赤コントロール系など、プロツアー段階では色々といました。
ほか、Deck Tech: 齋藤 友晴の「黒単ゾンビ」も良かったらご覧ください。
■ 2. 採用カード解説 (メインボード)
ここでは、カード1枚1枚とそれらに関わるプレイングなどを解説します。
《戦慄の放浪者》
1ターン目に1番欲しいアクションです。《墓所破り》や《致命的な一押し》と一緒に初手に揃っていた場合、基本的には《戦慄の放浪者》からプレイします。
テンポとカードアドバンテージ両方を兼ね備え、単体でプレッシャーをかけられる存在であるため、サイドボーディングで抜くこともほとんどありません。強化系も除去もサイド後の手札破壊もプレッシャーをかけながら使用したほうが有用だという認識が大事です。
《墓所破り》
このデッキで1番重要なゾンビです。1マナながらデッキの潤滑油かつ、時にはフィニッシャーの役割もします。
必ず4枚採用するべきで、サイドボーディングでアウトすることは一切ありません。基本的に「アタック」「カードを引く」のどちらかで使用することが多く、「ゾンビを生成する」が次点、ブロックにはあまり使いません。
「カードを引く」……1回だけドローに使ってあとは殴るというパターンが1番多いです。《呪われた者の王》、《リリアナの支配》で後から強化されるのと、マルドゥ機体戦でもティムール霊気池戦でも攻めのスピードを求められるためです。逆に、コントロール相手や長期戦ムードなときはライフある限り引きまくって下さい。
「ゾンビを生成する」……《戦慄の放浪者》を捨てて起動が一番うまいですが、過剰に狙わないほうが良いです。こちらも、基本的に攻めのスピードが重要であるためです。 また、ゾンビを捨てることでその後《戦墓の巨人》をワンサイズ大きく出せるのは常に頭に入れておいたほうが良い事項です。
《無情な死者》
2マナで色々と能力が付いています。序盤は威迫付きのアタッカーとして活躍し、回収能力はゲーム後半に役に立ちます。 こちらも、サイドボーディングでアウトすることは一切ありません。
活用のコツとしては、損を嫌って序盤から無理に回収用のマナを立てないということです。こちらの布陣は除去らないとならないゾンビだらけなので、こいつに打たれても全然問題ないと考えて下さい。マナを使い切ってプレッシャーをかけるほうが優先です。ただし、対コントロールやサイド後などで、全体除去へのケアを上げるべきマッチでは大事にして下さい。
プレイ面でのポイントですが、中盤~後半に墓地にゾンビがあるときや《戦墓の巨人》と揃っているときは、積極的にチャンプアタック (損をするアタック) をし、相手にダメージ or ゾンビ増加の選択を迫りましょう。
《金属ミミック》
2ターン目、基本的には最優先でプレイするカードです。先に出しておかないとリターンが下がる効果なので当然ですね。 とはいえ後手の場合、《闇の掌握》を優先することが増えます。
サイドボーディングでは、アウトしまくる存在です。偽物ゾンビなので、《戦墓の巨人》の能力の恩恵を受けないほか、性質上サイド後に追加される全体除去や《最後の望み、リリアナ》に弱いためです。
ただこのデッキのクリーチャーで一番弱いものの、メインボードは一貫して攻めることで裏目を少なくする仕様だったため、4枚採用となりました。攻めなければならない理由のひとつ、マルドゥ機体がこのまま衰退していくようであれば、入れたいカードの代わりに少し減量しても良いでしょう。
《呪われた者の王》
強化&回避能力提供は、非常に分かりやすい暴力です。《致命的な一押し》で除去されにくく、《マグマのしぶき》で除去されないのが強みです。
苦手なマーティン・ミュラー型のティムール霊気池相手には、《呪われた者の王》か《リリアナの支配》を2枚以上並べる、あるいは《金属ミミック》の助けを得たり《戦墓の巨人》を4/4以上のサイズで出し、《炎呼び、チャンドラ》の忠誠値が残ってしまう状態で全体除去能力を使わせないことが非常に重要です。全体除去+次のターン手札入れ替えと両方使われてしまうと概ね負けます。
《戦墓の巨人》
かなり強力かつプレイが難しいカードで、こちらもサイドボーディングでアウトすることは一切ありません。難しいのはスタンダードアグロの3ターン目というのはただでさえプレイできるカードが最も多い=最も多くの選択肢があるターンな上、先出しにも後出しにもメリットがあるデザインであるためです。
ベストなのは4ターン目に3/3以上のサイズかつ1マナゾンビも合わせて展開してハイリターンを確定させることですが、前提条件の縛りもきついそのパターンですら、相手に除去がなかった場合の最大リターンと比較すると損になりえます。ほとんどのデッキに除去が入っている環境なので、即除去されるリスクとゾンビ生成数が多いリターンを常に天秤にかけなければなりません。
迷わず3ターン目に出すべきは、こちらが後手のマルドゥ機体戦で相手の残りマナが1マナ以下のときです。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の代わりに除去を打たれても、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を出された場合でも、双方の展開レース上有効なプレイとなります。
《致命的な一押し》
ティムール霊気池に弱く、ゾンビミラーでそこそこ、コントロール相手には弱いというカードなものの、トップメタと想定されたマルドゥ機体に強いので今回は3枚採用となりました。
貴重な1マナの有効アクションではありますが、メタゲームによって採用枚数が変わりやすいカードで、今この瞬間ならメインボードでは3枚目の《致命的な一押し》よりも3枚目の《リリアナの支配》を優先します。まさに、優勝したジェリー・トンプソンのメインボードですね(笑) サイドアウトも頻繁に行います。
《闇の掌握》
この環境最強除去のひとつがすんなり打てるのは黒単のメリットかつ、《致命的な一押し》よりも有効な相手が多いので、メインに3-4枚採用が外されることはなかなかなさそうです。
上記の《致命的な一押し》より対象が多く、コントロールデッキもサイド後にクリーチャーを増やしてくるパターンがあることから、意外とサイドアウトする場合や枚数は多くありません。
《闇の救済》
このデッキで一番強い除去呪文かつ、クリーチャー生成呪文でもあります。リターンは大きく、コスパは悪いものの最悪クリーチャーを出すだけという使い方もできるので裏目も少ない。
ミラーマッチで相手と相手のクリーチャーを対象に打つプレイはぜひ覚えておいていただきたいところ。具体的に最も重要な例としては、1ターン目に《墓所破り》を出された返しに1マナで除去することができます。
1マナ (X=0) で「相手に」ゾンビを0体出し、相手のコントロールするゾンビ1体分(《墓所破り》)が参照された-1/-1を、《墓所破り》に与えることができるわけですね。
《ウェストヴェイルの修道院》
堅実に活躍する《呪われた者の揺り籠》と枠を争う存在ですが、似たようなクリーチャーを増やすことと比べ、飛行フィニッシャーで勝つという勝ちパターンを増やせることが大きいのでこちらが採用となりました。特に、ティムール霊気池相手に値千金の活躍をすることがあるのは魅力です。
《無情な死者》、《闇の掌握》絡みで1ターンに黒マナを3個以上使う場合があるので無色土地の入れすぎは危険ですが、余ったら《墓所破り》で捨てられるパターンもあること含め、どちらかを1枚追加しても良いかもしれません。
なお、サイドボード後はメインに比べ重くなるデッキなので、土地をサイドアウトするパターンはありません。
■ 3. 採用カード解説 (サイドボード)
《豪華の王、ゴンティ》
サイド後、カードパワー合戦となるようなマッチで使用します。主にはマルドゥ機体と黒緑系。
ただゾンビデッキでは4マナのこのクリーチャーより大体のゾンビのほうがカードパワーが高い上、全体除去で一緒に流れるので、メタ次第では不要だと感じます。 そういうマッチではゾンビもサイド後スピードを下げてガッチリするものの、コントロール的に立ち回れるほどではないため、ブロッカー寄りな《豪華の王、ゴンティ》はイマイチ。
代案としてはメインから6種類のカードタイプが入っているデッキだし、除去られにくい《精神壊しの悪魔》は良さそうです。
《屑鉄場のたかり屋》
主に霊気池戦、青赤系コントロール戦、サイクリングなどのその他コンボ戦のサイド後で使用します。全体除去を使ってくる相手に対しての、クロックが大きく根強いアタッカー追加の役割です。マルドゥ機体相手も双方の構成によってはアリです。コントロールデッキへの変化具合が大きい場合でこちら先手のゲームが使用するケースの筆頭となります。
今後、ゾンビがもっと全体除去などでメタられることを加味すると、増量やメインの25枚目以降のクリーチャーとしての採用もありえます。
《致命的な一押し》をメインから減らすケースではひとつの良い入れ替え候補です。
《闇の掌握》
黒単ゾンビにおいては1番強い非シナジー系の除去なので、できれば75枚中に4枚は欲しいカードです。メイン、サイドにどう配置するかは状況次第のさじ加減枠となります。
《失われた遺産》
霊気池戦とその他コンボ戦対策の専用パーツです。苦手なマーティンミュラー型霊気池戦では、最初は主に《炎呼び、チャンドラ》を指定します。
《霊気池の驚異》か《奔流の機械巨人》ぐらいしか抜きがいのあるカードがない《没収》よりも、あらゆる身が追放できてあらゆる立ち回りに対応しやすいこちらの方が秀でています。
《精神背信》
霊気池戦、青赤系コントロール戦、その他コンボ戦で使用します。クリーチャーが沢山入った黒単ゾンビにとっては序盤の2マナテンポロスは重い行動であるため、《霊気池の驚異》などの損してまで邪魔したいようなカードがある相手か、テンポ面ではひと回り以上劣るという相手に対して使用して下さい。
《リリアナの支配》
75枚中に絶対4枚採用すべきカード。デッキに合いすぎていて、強すぎるカードです。メインボードではスピーディーにゲームを制する方向に寄せていたので、2枚引くリスクを下げるために2枚のみで我慢しましたが、それでも3枚入れるかかなり迷いました。
マルドゥ機体相手のメイン戦では微妙で、同サイズのクリーチャーを一方的に強化できるミラーマッチで1番輝くカードなので、ゾンビ警戒度を上げるべき今はメインから4枚入れる構成の価値も高まっています。
《最後の望み、リリアナ》
対ミラーマッチ、対青赤系コントロール用です。コントロール相手にはひたすら貯めて奥義という場合が多いです。
マルドゥ機体戦ではサイド後にタフネス1が減量される可能性が高いため、2本目はサイドインせずに様子見がオススメです。ただ、言動や見た目的に攻めっ気が強そうな対戦相手なら読みで2本目から残しても良いです。これはオカルトだとは考えておらず、心理学や人相学系の話なのですが専門家ではないので、もっと研究してからいずれ共有します(笑) 一番信頼するべきはそのときポピュラーなデッキリストだということもあります。
■ 4. サイドボーディング例
5つの主要マッチで僕がどうサイドするかというサイドボーディング例を記します。上記採用カード個別解説と合わせて、参考にしていただければ幸いです。
対 ティムール霊気池
Out
In
対 黒単ゾンビ同型
対 マルドゥ機体
対 黒緑エネルギー
対 青赤系コントロール
Out
In
■ 5. ゾンビデッキのこれからと、今回のスタンダード環境
前述しましたが、黒単ゾンビがしばらくスタンダード環境の上位に君臨する可能性は極端に高いと考えています。
いくら日本人で使用したのが自分だけだったとはいえ、単一のデッキについてのほとんど期間限定でしか役に立たない記事をここまでしっかり書こうと思ったのは、使命感と同時に今回このデッキを選べたことを誇りに思うような、デッキタイプ自体の魅力の証明とも言えます。
単色でサッパリしつつもしっかり選択肢があったり、基本は肉弾戦だけれど色々できるというマジックが詰まったようなデッキなのが楽しくて、気に入っているという要素があるのも否定できませんが。
今回のスタンダード環境については、《守護フェリダー》の追加禁止からの激動のスタートだったものの、これはやはり英断だったと感じています。
数人のスタッフの声より、数千、数万の現役プレーヤーの声のほうが信頼できるしするべきで、特殊な形の変更が当然批判されるのを分かりつつも受け入れることができたのは素晴らしいと思う。
新たな力を得たサヒーリコンボがもしリーガルだったならかなりつまらないプロツアーになってたんじゃないかなと思う反面、個人的にはこの環境はしっかり頭を使う上、Tier 1とはいえ霊気池デッキのムラも絶対王者になりにくい良いエキサイティング要素だし、まだ未開拓なゾーンにチャンスも残っているようにも思うかなり楽しいスタンダード環境です。「《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》強すぎ!何で禁止にしなかったんだよバーカ!」ってこともなかったし(笑)
最後にふたつ、スタンダード絡みのPRを入れて締めます。
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今月中を目安に詳細の発表ができる予定ですので、ぜひご注目いただければと思います!
GP神戸も迫っているモダンは確かに楽しいですが、今スタンダードも楽しいので、興味がある人や元々スタンやってた人はぜひトライしてみてください☆
なお僕トモハルは先日、プロツアーであんまり勝ってない上、ゴールドレベル維持のためのプロポイント数に到達したのにもかかわらず、この環境が楽しいのでスタンダードのGPマニラ行きを決めました(笑) この記事といいこないだのテンポ記事といい、自分のモチベーションの高さに驚いてます(笑)
マジックハッピー♪ ではまた!
トモハル
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