「生存バイアス」をマジックに当てはめて考えてみよう

Matti Kuisma

Translated by Yoshihiko Ikawa

原文はこちら
(掲載日 2017/01/12)

あなたは空軍の軍事役員を務めていると想像してみよう。他の役員たちと一緒に、自軍の戦闘機が適切な装甲で、適切な場所に配備されていることを確認する必要がある。装甲を過剰にすると軍用機のスピードが落ちてしまい機動性が下がるし、装甲が少なすぎると敵機に簡単に撃墜されてしまう。

さぁ、最初の質問だ。戦闘機のどの部分に装甲を付けるべきだろうか?

戦闘機のどの部分を最も守る必要があるかを知るために、あなたのチームは指令から帰ってきた戦闘機の調査をした。そして機体の弾痕は均一に分布しているわけではないことが分かった。例をあげると、エンジンに残っている弾痕より、胴体に残っている弾痕の方が1フィート四方辺りで50%以上も多かった。もしエンジンの代わりに胴体を外装することに集中すれば、同じ外装をより少ない資源で(もしくは同じ資源でより多くの外装を)行うことができるだろう。

戦闘機

では次の質問に移ろう。どれぐらいの量を外装するのがよいだろうか?

この質問は数学的な考えを要求しているので、軍の数学部門に聞きに行こう。映画などでこの部門を見ることはほとんどないだろうが、それは最前線での戦闘員のほうが、同じ戦闘を計算機と方程式で戦う数学者よりもドラマティックかつ魅力的に映るからだ。しかしながら、現実では数学者たちは同じぐらい重要なのだ。

現実の軍事役員たちがこの状況に対して予想するであろう解答は、実際の解答とは多分違うだろう。そして数学の権威者に助けを求めれば、きっと最初の解答すら間違っていたことを伝えてくれるに違いない。そう、本当は弾痕があった箇所には最大限の外装をかけるのではなく、最小限の外装に留めるべきなのだ。

もっと大袈裟な数字を使えば、実体はより鮮明になる。エンジンに一つも弾痕がない状態で帰還した戦闘機を想像してみよう。これは何を意味しているのだろうか?「敵機の射撃が映画の悪役のように不正確だったのでまったく着弾しなかった」ということだろうか?それとも、「一発でもエンジン部分に当たっていれば撃墜されていただろう」ということだろうか?後者の方がはるかに説得力があるだろう。

2006年に公開された『ロッキー・ザ・ファイナル』では、主役がこんな有名かつ印象的な演説を行っている。もし君が見たことがないようならば、YouTubeにてこの動画を見てほしい。このパートでロッキーはこんなことを言っている。「どんなに強く打ちのめされても、こらえて前に進み続けることだ。そうすれば勝てる。」

そう、戦場から帰還した戦闘機も、どれだけ打ちのめされても前に進み続けることができたんだ。そこから分かることは、エンジンに被弾しなければ、胴体部分にある程度被弾しても戦闘機は動き続けることができるということだ。しかし、最初の決定をした役員は、帰還できた戦闘機と撃墜された戦闘機に大きな違いがあることを理解していなかったんだ。

科学用語では、これは「生存バイアス / Survivorship bias」と呼ばれる。見てもらった通り、そこに到達するために何か「生存した要素」があることを理解せずに、ただ目の前にあるサンプルを基に分析してしまう傾向があるんだ。

もう一つこの生存バイアスについての例として、経済の世界を覗いてみよう。投資信託の業績を評価する研究では、「終了時点での条件」と「全データを通した条件」の両方を用いている。前者では、その時点までに廃業したものについては無視した上で、X時点で存在する投資信託の業績を調査することができる。後者では、A時点からB時点までで廃業したかどうかを気にせず、存在したすべての投資信託の業績について調査できる。投資信託は永遠ではないし、業績が最も悪いものは淘汰される。予想できるだろうが、最悪のケースを無視することによって、業績の統計を誇張することができるのだ。

業績

どの投資信託に投資するか選ぶ際、多くの人が業績履歴に基づいて決定をする傾向にある。投資銀行は、最も業績が良かったものを前面に出して協調し、クライアントはそれを見て「なんと、この会社は直近10年で12%の成長率を維持しているのか!写真に映っているマネージャーは頭が良さそうだし、ここに投資しよう!」となるわけだ。

しかし真実はこうだ。その投資銀行の支店に投資を始めたとする、するといくつかの銘柄は失敗し、いくつかの銘柄は成功するだろう。そしてもし成功した方だけ見るならば、ただの偶然ではあるが「正しい投資選択」に見えるだろう。

マジックへの応用

数学の美点は同じ理論を様々な領域の様々な種類の問題を解決することに活用できるというこどだ。生存バイアスのような概念を理解すれば、何か選択を迫られたときに正しい選択を認識することができる。

どのようにしてマジックに応用するのか、いくつかの例を紹介しよう。もし何か思うとことがあれば、コメント欄で教えてください!(※)

※編注:コメントは、原文の記事に、英語でお願いいたします。

ストーリー:その1

1年前のある日、僕は『カラデシュ』のチームドラフトに興じていた。対戦相手は青黒に赤をタッチしたデッキをプレイしていて、僕は「製造」を軸にした、《鼓舞する突撃》と数枚のコンバットトリックが入った白黒のアグロデッキをプレイしていた。マナカーブに沿った良いスタートを切れた僕に対して、対戦相手は2ターン目に《予言のプリズム》をプレイした以外は特に何もしてこなかった。僕が戦場に3体もクリーチャーを展開しているのにも関わらず、彼は4ターン目、2枚の《島》、そして1枚ずつの《沼》《山》がある状態でターンを返してきたのだ。僕がその3体で攻撃をしたところ、特に対応なくダメージが通り、彼のライフはかなり低い水準まで落ち込んだ。

予言のプリズム島島沼山

さて、ここで僕には2つの選択肢があった。もう1体3/3クリーチャーを戦場に展開するか、もしくはドラフト中で目にして、しかも僕のチームメイトのデッキには入っていない《焼夷式破壊工作》をケアしてコンバットトリックを構えるかだ。もし《焼夷式破壊工作》を打たれても、コンバットトリックをプレイすればコントロールしている3体のうち2体は守ることができる。前のラウンドで彼と当たった、僕のチームメイトの1人に聞いたところ、赤はかなり少ないタッチに見えたし、クリーチャー陣のサイズはかなり小さかったとのこと。(赤)(赤)のカードをタッチするのは厳しいし、これらの話から考えると彼のデッキに《焼夷式破壊工作》が入っている可能性は高いようには見えなかった。

焼夷式破壊工作

さらに、追加のクリーチャーがあるかどうか分からず、追加のクリーチャーが《焼夷式破壊工作》で死ぬとも限らないので、もし僕が彼の立場だったら6-7点のダメージを喰らわないよう戦闘中に《焼夷式破壊工作》をプレイするだろう。ここまで考えた結果、コンバットを構えずに手札にあるクリーチャーを展開することにして、そしてターン終了時に全体除去で一掃されることになった。

このとき自分自身に問いかけるのを忘れていた、単純な質問がこれだ。対戦相手が初手キープを決めた要素は何だろう?

もし対戦相手が7枚の初手をキープしたなら、その7枚のカードはただのランダムなカードの組み合わせではない。その7枚はキープするに値するほど良い組み合わせなのだ(もしくはマリガンするのが面倒だったか)。その手札はキープ/マリガンという過程を”生き残った”に違いない。彼らは僕のドラフトデッキが攻撃的であり、僕が先攻であることも知っていた。彼らは5ターン目までに《予言のプリズム》しかプレイできないような初手をキープするだろうか?そんな訳ないよな!

予言のプリズム

もしくは、少なくとも多分そうではないはずだ。リアルな話をすると、酷い初手をキープしてしまうこともある。または5マナの爆弾レアのようなカードが初手にあり、《予言のプリズム》でのドローも合わせて何か時間を稼げるカードが引けることを祈ったのかもしれない。この場合だと、さらにクリーチャーを展開することによって次のターンでの勝利を確実にできた。

しかし僕は十分に有利な状況だったので、今回のドラフトで《焼夷式破壊工作》が出ていて、対戦相手のチームがそれを持っているということが分かった段階でリスクを負う理由がなかった。また、もし彼が《焼夷式破壊工作》を持っていたなら、3ターン目や4ターン目にクリーチャーを出せたけれども、全体除去のバリューを上げるためにプレイしないことを選んだだけかもしれない。

とにかく、ここでのポイントはこれだ。もし対戦相手のドローが少し奇妙に見えたら、「対戦相手が初手キープを決めた要素は何だろう?」と考えよう。そうすれば、対戦相手が手札に何を持っているか、より深い洞察を得られるだろう。

ストーリー:その2

僕はMagic Onlineのドラフトの最終ラウンド(決勝戦)を戦っていたんだが、対戦相手のデッキはとても弱い均等3色に見えた。1ゲーム目を容易く勝利し、さてサイドボードの時間だ。そして今回は自分自身に正しい質問を投げかけることができた。どうやって対戦相手はここまで勝ち進んできたのだろう?

なぜなら、今が最終ラウンドということは、ここに来るまでに2人の他のプレイヤーに打ち勝ってきて対戦相手はここにいるのだ。ただの弱いデッキであるはずがなく、彼はここまで2回戦”生き残って”いるのだ。1ゲーム目で見たカードはシナジーのない平凡のないカードばかりであり、マナベースは不安定だったが、だからこそ1ゲーム目で見なかったデッキの残り半分には爆弾カードが含まれているんじゃないかと思ったんだ。

大抵の場合、悪いデッキというのはその色やアーキタイプをやるべきポジションでないのに無理やりドラフトしてしまった結果できるものであり、そして色を変えなかった最も一般的な理由が「爆弾レアを引いたから」だ。対戦相手のデッキは、まさにその典型的な例に見えた。

なので僕は1ゲーム目に見たカードに対してサイドボーディングする代わりに、打消し呪文や、範囲は狭いが彼が持っているであろう爆弾レアに対しては確定除去になるカードをサイドインしたんだ。2ゲーム目、彼は《スカラベの神》をプレイしてきた。僕は打ち消すことができたが、それでもゲームは落としてしまった。最終的にゲームを取ることはできなかったが、勝つチャンスが得れたという意味でも打消し呪文はとても重要なものだった。もし《スカラベの神》を止められなかったら、そのまますぐ負けていただろうからね。

スカラベの神ケフネト最後の言葉

そう、ドラフトは3ラウンドしかない。もしシールドGPの初日だったらどうだろう?グランプリは本当に長丁場だ。Bye(不戦勝)がない場合は特にね。となると、7-0で当たった対戦相手のデッキは、平均的に見て、2-3で当たるデッキに比べてはるかに優れているんだ。勝ち上がれば勝ち上がるほど、対戦相手のデッキのマナカーブが素晴らしかったり、何枚か爆弾カードが入っている可能性が上がる。例えば、《ケフネト最後の言葉》を最初に出てきた中々強いクリーチャーに対してプレイする代わりに、もう少し温存しておきたくなるだろう。

ストーリーその3

「コーリー・バークハートがGPで青白サイクリングを使って、ラムナプ・レッド相手に4-1していたんだ。ということはサイクリングにとってラムナプ・レッドは相性がいいに違いない。」といったコメントを耳にすることにうんざりしている。GPでトップ8やトップ16入賞した人のこういった逸話を耳にするもしれないが、トップ8や16に入賞した全員が、どんなデッキを使っていたかにも関わらず、すべてのデッキに対して好成績を残しているんだ!

彼らはこの週末において最大でも2マッチしか落としていない。この2マッチは違うデッキに対するものが多いので、そうなるとこのケースでは彼はすべてのマッチアップにおいて最低でもX-1の成績なんだ。同じトーナメントでも、ラムナプ・レッドを使ってトップ8に入ったプレイヤーの1人は、青白サイクリングに対して悠々と5-0しているに違いない。というよりも、実際に当たっていれば5-0していただろうが、ティムールやラムナプ・レッドに比べて良いデッキではなく、上位卓に青白サイクリングをプレイしているプレイヤーが1人もいなかったので、そうはならなかった。

ドレイクの安息地暴れ回るフェロキドン

もう一度言おう、このトリックは負けた側の意見を聞いていないということを理解することだ。友達以外のね。帰り道、飛行機や車の中で友達から負け語りを延々と聞いたりするだろう?

コーリーのプレイが素晴らしかったことは確信しているし、青白サイクリングは軽い妨害も除去呪文も少ないから、対戦相手が《残骸の漂着》に向かって全軍突撃するようなプレイヤーでない限りは《暴れ回るフェロキドン》《ボーマットの急使》にボコボコにされるだろうってことも確信している。僕は知らないけど、多分コーリーの対戦相手は「ああ、彼は7枚でキープしたけど最初の4ターン何もしてこなかったな。全体除去を打たれないと信じて、今は押すべきだ!」って感じだったんじゃないかな。

読んでくれてありがとう!

マッティ

追伸:もし今回の内容に興味が湧いたら、軍の数学者や弾痕の話についてのオリジナルであり、より優れたバージョンであるジョーダン・エレンバーグ/Jordan Ellenbergの著書『How Not to Be Wrong: The Power of Mathematical Thinking』をぜひ読んでください。

この記事内で掲載されたカード

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