Translated by Kenji Tsumura
(掲載日 2018/01/17)
来るモダンのプロツアーに向けて、僕は過去に作ったデッキを見直している。それらを再検討しながら今現在のメタゲームに合わせてチューンし、各デッキが今のメタゲームでどれほどのポテンシャルを秘めているのかを確かめているところだ。願わくば、プロツアーに向けて何か素晴らしいものがないかと期待しながらね。
長年にわたってたくさんのデッキを作ってきたものの、有望な結果を残したデッキはほんの一握りだった。本日は、そのうちのひとつをご紹介しよう。
僕の直近のモダンの記事では、対戦相手に干渉、またはコントロールデッキのようなゲーム運びをしつつ、対戦相手の挙動に対し干渉手段が釣り合わないようであれば即座にゲームを終わらせることができるデッキを紹介した。僕はそれこそがモダンのコントロールデッキにとって重要なことだと信じている。
なぜならば、モダンにはたくさんの実用レベルのデッキがあるし、それら全てに対してメインボードから十分な対策を用意するのは単純に不可能だからだ。それに、仮にその “十分な対策” に必要なカードたちが用意できたところで、そんなに干渉手段を積んでいれば噛み合わない組み合わせもあるだろうから、 “デッキの中の間違った部分を引いてしまった” というよく聞く事態に陥りやすい。
今日君たちに紹介するデッキは、早ければ4ターン目に《引き裂かれし永劫、エムラクール》をキャストすることでこの問題を解決している。これはたくさんの問題を緩和してくれることになる。例えば《風景の変容》デッキに対して手札で除去呪文が無駄カードになっている、といった状況もね。
そんなわけで、こいつはちょっとばかり目を引くリストに仕上がっているんじゃないかと思う。このデッキの中核は《吹き荒れる潜在能力》だ。このカードは全てのプレイヤーに影響を及ぼし、プレイヤーが呪文をキャストするたびにそれと同じカード・タイプを持ったカードが出るまでライブラリーを捲る。そして、本来キャストした呪文ではなく捲れたその呪文を代わりにキャストするという効果なんだ。
《吹き荒れる潜在能力》の凄まじく長いテキストを読もうとする前に、このカードは主に《果てしなきもの》をX=0でキャストした際に代わりに《引き裂かれし永劫、エムラクール》をキャストできるということを理解しておいてほしい。そう、《引き裂かれし永劫、エムラクール》を “キャスト” できるんだ。したがって《引き裂かれし永劫、エムラクール》の《Time Walk》効果も誘発するし、それがすべてさ。
他の素晴らしいカードは《トレイリア西部》と《先駆ける者、ナヒリ》だろう。
《トレイリア西部》は主に《果てしなきもの》を探すために使用し、これさえあれば《果てしなきもの》を複数枚採用する必要はなくなる。
《先駆ける者、ナヒリ》は、かつて「ジェスカイナヒリ」というデッキで多くの役割を担っていたカードだ。キャストするやいなや、コンボパーツや《謎めいた命令》を見つけるためにライブラリーを堀り進めながら、その「忠誠度」は6まで上昇する。
手札にきてしまった《引き裂かれし永劫、エムラクール》を捨てつつ、対戦相手のクリーチャーがタップ状態になればそれを除去 (追放) する術にもなるし、前のターンに攻撃していたクリーチャーをいきなり追放してしまってもいい。《先駆ける者、ナヒリ》は実に多才なんだ。
残りの枠は、一般的なコントロールカードが占める。《謎めいた命令》は、とりわけコンボを集めている最中に頻繁に “クリーチャーをタップ/カードを引く” 効果を使って時間を稼げる点が素晴らしい。
そのほかのカードは打ち消し呪文、除去呪文、そしてマナ加速だ。《仕組まれた爆薬》は《トレイリア西部》のチューター先として用意してある。《イゼットの印鑑》を採用したのは《先駆ける者、ナヒリ》か《謎めいた命令》を3ターン目にキャストできれば最高だし、《吹き荒れる潜在能力》が1ターン早く設置できるのも同様に素晴らしいことだからね。
なぜこのコンボは強いのか?
そうだね、これにはいくつかの理由がある。コントロール的なデッキにコンボを入れるにあたって、主にそのコンボには “コンパクト” かつ “妨害に対する弾力性” の2点が求められるんだ。
例えば《Time Vault》/《通電式キー》は極めて “コンパクトなコンボ” で、ヴィンテージのコントロールデッキでときおり使われていたけれど、このコンボはわずか2枚のスペースしか必要としない。コンボに割く枠が少なくて済むということは、より多くの解答をデッキに入れられるということだ。コントロールデッキがいやなやつだと呼ばれる由縁とされる除去呪文や打ち消し呪文なんかにね。
“妨害に対する弾力性” とは、対戦相手が君のコンボを止めるのがどれほど大変かということだ。妨害に対する弾力性はとても重要だ。例えば、もし仮に君がコンボを集めることに全てを費やしたとして、対戦相手がそれを《稲妻》1枚で止められるとしよう。
まず初めに、コンボ集めに注力しすぎることはコントロールデッキにとってあまりにも多くを求められるし、それが1枚の《稲妻》で止まるようであれば君は問題を抱えてしまうだろう。《欠片の双子》なきあと、《鏡割りのキキジキ》/《詐欺師の総督》コンボがその穴を埋められなかったのはこれが原因さ。
では、それら2点において《吹き荒れる潜在能力》はどうだろう?
コンパクト
《吹き荒れる潜在能力》コンボは6枚の枠を必要とする。4枚の《吹き荒れる潜在能力》と、1枚ずつの《果てしなきもの》と《引き裂かれし永劫、エムラクール》だ。《引き裂かれし永劫、エムラクール》は《先駆ける者、ナヒリ》の「-8」能力で仕事をこなす役割も兼ねている。デッキを機能させるために4枚の《トレイリア西部》も必須だけど、《トレイリア西部》は土地としても使えるし他のカードを探すこともできるから、僕はこれをコンボパーツとは見なしていない。
コンボに必要なスロットが5~6枚というのは、モダンではとても少ないと言える。悲しいことにヴィンテージほど能率的、または有効的にコンボにアクセスできるわけじゃないからね。このデッキに似ていてモダンでプレイされているデッキとして青赤ブリーチが挙げられるけど、そちらはコンボに8枚の枠を割いている。
妨害に対する弾力性
この点において《吹き荒れる潜在能力》コンボは光り輝く。妨害に対する弾力性は群を抜いているんだ。もちろん、手札破壊や打ち消し呪文は《吹き荒れる潜在能力》コンボに干渉できるけど、この類の呪文はどんなカードに対してでも干渉することができる。
それらの呪文は別にして、人々は一般的に下記のような呪文、またはそれと似通った性質のカードを干渉手段として用いている。
クリーチャー除去呪文、アーティファクト破壊、エンチャント破壊、墓地対策、土地破壊/土地のタイプを変えるもの、《神聖の力線》、《虚空の杯》。この中でダントツで数が多いのがクリーチャーとアーティファクトを破壊するカード、そして墓地対策だけど、これらは《吹き荒れる潜在能力》コンボに対して何もしない。
もしかするとエンチャントを破壊するカードがこのコンボを打ち破る助けになると考えているかもしれないけど、実際にはそうはならない。
理由その1) 彼らがエンチャント破壊カードを唱えるためには、その呪文と共通のカード・タイプを持つ呪文を唱えてランダムに捲るしかない。なぜならば、《自然の要求》を《吹き荒れる潜在能力》を対象に唱えようとしても、《自然の要求》それ自体が解決することはないからだ。理由その2) 君はただ単に《吹き荒れる潜在能力》解決後に、優先権を渡すことなく《果てしなきもの》をキャストすればいい。そうすれば対戦相手が《吹き荒れる潜在能力》を破壊するチャンスを得ることはない。
「土地破壊」デッキは、もちろん君が5マナのカードをキャストしようとするのを妨げようとしてくるだろう。だがその効果は《血染めの月》か《広がりゆく海》のいずれかであることが多く、それらは君に大きな悪影響を与えはしない。《幽霊街》や《廃墟の地》なんかも同様だね。
《大爆発の魔道士》のようなカードも効果的とは言えないことがほとんどだ。なぜなら君はどの道ゲームを長引かせようとするだろうし、マナ関連のカードは豊富だからね。つまるところ、一般的なヘイトカードのいずれも君に悪影響を及ぼすことがないということだ。
手札破壊呪文や打ち消し呪文に対しても、それなりに上手く回避することができる。モダンで最も良くプレイされている3種類の手札破壊呪文のうち、《コジレックの審問》と《集団的蛮行》はこちらのコンボに干渉できない。これは打ち消し呪文にも同じことが言え、《呪文嵌め》、《呪文捕らえ》、《儀礼的拒否》、そして《払拭》ではコンボを止めることができない。
また、手札破壊呪文を擁するデッキに対してはコンボが2枚揃わずとも片方を配置しておけるというアドバンテージがある。片や青赤ブリーチのようなデッキはコンボパーツを2枚とも手札に集めなければいけないけれど、《ヴェールのリリアナ》相手にそれを実行するのはとても大変だよね。
さらに、コンパクトさを助長するアドバンテージがもうひとつ存在する。《吹き荒れる潜在能力》単体でも対戦相手はときおり困難な状況に陥ってしまうんだ。例えこちらが即座に《引き裂かれし永劫、エムラクール》をキャストできなかったとしてもね。
アドグレイスを使う対戦相手が《吹き荒れる潜在能力》のテキストを確認した直後に投了したこともあったし、青赤ストームを使用するプレイヤーがコンボを決めにかかろうとしたものの、《捨て身の儀式》が《差し戻し》になったり、《炎の中の過去》が《血清の幻視》になってコンボに失敗したこともあった。《集合した中隊》が《流刑への道》やX=0の《召喚の調べ》に、《原始のタイタン》が《桜族の長老》に、《風景の変容》が《遥か見》になったりと、これ以外にもたくさんの例がある。これはとても愉快なことだろう。
だが、もちろんこのデッキにもいくつかの噛み合わない引きが起こりうる。このデッキはコントロールデッキなのでコンボを揃える前に蹂躙されてしまうこともあれば、《引き裂かれし永劫、エムラクール》を引いてしまった場合には、それを捨てるための《先駆ける者、ナヒリ》か《僻地の灯台》が見つからなければ問題と直面してしまう。《僻地の灯台》は《トレイリア西部》でサーチできるとは言え、それでもね。
《果てしなきもの》が手札破壊呪文で落とされてしまうことは悪い知らせだ。そうなれば勝つためには《先駆ける者、ナヒリ》、または《引き裂かれし永劫、エムラクール》を引き込んでディスカードし、《果てしなきもの》と《引き裂かれし永劫、エムラクール》の両カードをデッキに戻す必要がある。したがって、手札破壊呪文の入ったデッキと対峙する際には基本的に《トレイリア西部》を手札に抱えておく方が良い。
サイドボード
サイドボードには、モダンを象徴する一般的なサイドボードカードがいくつか含まれている。ここではそれら以外の特殊なカードについてみていこう。
《ボジューカの沼》は《魂の洞窟》や《否定の契約》と同様に、明確な《トレイリア西部》のサーチ対象だ。《魂の洞窟》は《ザルファーの魔道士、テフェリー》と併用することで他のコントロールデッキに対抗する術となる。
《ザルファーの魔道士、テフェリー》は《吹き荒れる潜在能力》と面白い相互作用を引き起こし、これらが揃うと対戦相手はその後ひとつも呪文を解決させることができなくなる。
なぜなら “各対戦相手は、自分がソーサリーを唱えられるときにのみ呪文を唱えられる” という一文が、対戦相手が《吹き荒れる潜在能力》で見つけ出したカードをキャストすることを禁止してしまうからだ。ソーサリー呪文をキャストできるのはスタック上になにもないときだけだからね。したがって、《魂の洞窟》で「人間・クリーチャー」を指定し、対戦相手のターン終了時に《ザルファーの魔道士、テフェリー》を、続く自身のターンで《吹き荒れる潜在能力》を解決させてしまえば、対戦相手がこちらに干渉する手段はなくなりゲームから締め出してしまえるというわけさ。
少し脱線してしまうけど、最初にこのデッキを作ったときはまだ《欠片の双子》が禁止されておらず、それはフォーマットの大部分を占めていた。だからこのパッケージをメインデッキに採用していたし、青赤《欠片の双子》に対して素晴らしい《殺戮の契約》のために黒と、それをサーチできる《神秘の指導》をタッチしていたんだ。《殺戮の契約》は《神秘の指導》だけでなく、《トレイリア西部》からのチューター先としても申し分ないね。
このロックのために《ザルファーの魔道士、テフェリー》と《魂の洞窟》をサーチできるカードをそれぞれ採用していたわけだけど、そのおかげで対青赤《欠片の双子》はほとんど負け目のないマッチアップだった。この試合はゲームが長引きやすいからね。
また、《ザルファーの魔道士、テフェリー》と《神秘の指導》に書いてあることを参照すると、僕が素敵だと考えるこんな展開だって起こりうる。
もしも《ザルファーの魔道士、テフェリー》だけでゲームに勝つのが難しいほどに対戦相手の戦場が充実しているのであれば、続くターンに《神秘の指導》を「フラッシュバック」しよう。
理由その1) 《吹き荒れる潜在能力》が影響を及ぼすのは “手札からキャストされたカードのみ” であること。
理由その2) 《ザルファーの魔道士、テフェリー》はライブラリーの中にある《果てしなきもの》にも「瞬速」を与えるため、《神秘の指導》でこれをサーチすることができる。あとは《果てしなきもの》をキャストして《引き裂かれし永劫、エムラクール》に繋げればそれでゲームエンドさ。
他にサイドボードで面白いカードは《コジレックの帰還》だ。このカードはインスタントスピードで《刻まれた勇者》を除去できるためモダンのサイドボードで見かけるカードだけど、《引き裂かれし永劫、エムラクール》をキャストできるこのデッキではより一層素晴らしいカードになる。《引き裂かれし永劫、エムラクール》をキャストすれば墓地にある《コジレックの帰還》が誘発するので、例え対戦相手の場が《引き裂かれし永劫、エムラクール》だけではどうしようもないほど強大であろうとも追いつくことができるんだ。
また、多くの人はこのデッキに対してサイドボード後に除去呪文をサイドアウトしてくるため、サイドボード後のゲームでは《果てしなきもの》を普通に唱えることも起こりうる。《コジレックの帰還》が墓地にある状態で《果てしなきもの》をX=7で、またはそれ以上の値で唱えてこれを誘発させることができたなら、《コジレックの帰還》をサイドインするようなマッチアップは基本的にこれだけでゲームが終わるだろう。
おわりに
本日の記事はここまで。このデッキは競技レベルでプレイするのに十分なほど強力だし、プレイするのがとても楽しいデッキでもあるので十分に試してもらいたい。よくこのデッキに関する質問を受けるから、もし君も何か疑問があれば気軽に尋ねてほしい。
※編注 : コメントは、原文の記事に、英語でお願いいたします。
そしていつも通り、新しいことに挑戦し続けよう。
マルク・トビアシュ
この記事内で掲載されたカード
ヨーロッパのプレミア・イベントで活躍を続け、注目を集めるドイツの強豪。デッキ・ビルダーとしての評価も高く、公式カバレージで【逆説的な結果ストーム構築への挑戦】が取り上げられた。
【プロツアー『アモンケット』】ではドラフトラウンドで全勝を果たし、その勢いのままトップ8入賞を果たす。