スタンダード新環境における旧環境のデッキたち

Pierre Dagen

Translated by Atsushi Ito

原文はこちら
(掲載日 2018/01/26)

イントロダクション

競技マジックに少しでも関心があれば知っていると思うが、WotCはスタンダード環境にちょっとばかり刺激を加えることを決断した。《ならず者の精製屋》《霊気との調和》《ラムナプの遺跡》、そして《暴れ回るフェロキドン》禁止カードに指定したのだ。つまり、緑絡みの (ティムール、4色、そしてスゥルタイ) エネルギーデッキとラムナプ・レッドという、スタンダードにおける2つのベストデッキの力を削ぐことにしたというわけだ。

ならず者の精製屋霊気との調和ラムナプの遺跡暴れ回るフェロキドン

その決断は正しいのかもしれないし間違っているのかもしれない。この問題に関して俺はそこまで確固たる意見を持ち合わせているわけではないし、仮に持っていたとしても、今すべきことの解明にこそ取り組むべきという事実に変わりはない。しかし少なくとも刺激的になったとは言うことができるだろう。何せこれによって解明すべき新たなフォーマットが誕生したことになるわけだからな。

しかも忘れてはいけないのは、禁止改定だけではなく『イクサランの相克』という新たなセットも迎えているということだ……たとえぱっと見の印象ではインパクトが弱いように見えたとしても、禁止改定を経た今なら光り輝く可能性があるというわけだ。

さて、この新環境のスタンダードを解明するために、俺は以下の4つのステップを踏む必要があると考えている。

ステップ1. どのデッキがメタゲームにおけるレベル1なのかを知るべきだ。すなわち、どの前環境のデッキが生き残っているのか、だな。

ステップ2. エネルギーデッキとラムナプ・レッドが禁止改定後の環境にも適応できるのかどうかを知っておくべきだ。ぶっ壊れカードたち、とりわけ《栄光をもたらすもの》《熱烈の神ハゾレト》といったやつらは依然として使用可能なわけで、そいつらを使えるに越したことはないからな。

栄光をもたらすもの熱烈の神ハゾレト

ステップ3. トップの2強デッキによって活躍を阻まれていたいくつかの忘れ去られたデッキたちも、おそらく再び光が当たることになるので、それも知っておくべきだろう。

ステップ4. 『イクサランの相克』のカードやメカニズムを使った全く新しいデッキを作ってみるべきだ。

そういうわけで、この記事ではステップ1と2をまずは押さえておくことにしよう。

ステップ1: 生き残った前環境のデッキたち

ここで触れるのは少しばかり遅れたメタゲームのデッキたちということになるかもしれない。何せどのデッキにせよ、かつては3番手か4番手だったものが上位のデッキ2つが禁止の憂き目に遭ったことで1番手に格上げされていたらいいな、というものばかりだからだ。

実際に多少時代遅れではあるのだが、ゆめ忘れることなかれ、残り物には福があるという言葉もある。このカテゴリーの中でも、以下のようにいくつか堅実なデッキたちが挙げられるのだ。

エスパー王神

このデッキは禁止改定以前は2強に次ぐデッキの筆頭だったわけで、その意味で来たる新環境の食物連鎖における頂点にエスパー王神が立つであろうというのは、非常にわかりやすいところではある。

このデッキの動きは非常に強力で、メタゲームに関係なくオーバーパワーな1枚と言える《王神の贈り物》を活用している上に、『イクサランの相克』からは「戦場に出たとき」の能力を持つ《薄暮軍団の盲信者》《隠れ潜むチュパカブラ》という新たな選択肢を手に入れている。

薄暮軍団の盲信者貪欲なチュパカブラ

また、《暴れ回るフェロキドン》の禁止による恩恵を最も多く受けているであろうデッキでもある。何せあの厄介な赤い恐竜が戦場にいるだけですべてのプランが崩壊してしまっていたからだ。

環境に合わせた典型的なリストは、おそらく以下のようなものになっていると思う。

このデッキの動きは俺も気に入っている。ぶん回りの可能性があることはもちろん、1体1体のクリーチャーがアドバンテージを供給してくれるので有り余るカードパワーで戦うこともできるからな。こうした戦略に対応するのにはなかなかに骨が折れることから、新環境1週目のトップメタに躍り出ているようだ。

青白副陽

エスパー王神が旬のデッキなら、青白副陽はメタゲームの勝者になるかもしれないデッキだ。

禁止によって1ミリたりとも影響を受けないことはもちろん、王神との相性の面でも非常に良い立ち位置に立っている。コンボを防ぐための打ち消し呪文や《排斥》があるだけでなく、王神側がたとえ長期的なゲームプランを採っても軽くあしらうことができるのだ。マナが揃い次第、ただ勝てばいいだけだからな。相手がカードを引こうが手を進めようが盤面を強化しようが、こちらを倒しきれるまでは一切気にする必要がないわけで、好きにやらせた上で向こうが四苦八苦するのを、スリップに勝利を記入するまでの間ただ眺めていればいい。

奔流の機械巨人

環境最初期のプロツアー『カラデシュ』《密輸人の回転翼機》《霊気池の驚異》があった頃ですら活躍していた《奔流の機械巨人》を使えているわけだから、そう悪い選択にはならないはずだ。

残念なことに『イクサランの相克』はコントロール使いたちに対して優しくはなかったので、以前のバージョンに加えて付け足すべき目新しいカードは見当たらなかったわけだが、まあしかし少なくとも、勝利が色褪せるということはない。

青黒コントロール

旧環境でのエネルギーデッキのミラーマッチを制する方法を知ってるか?《スカラベの神》をプレイすることさ。この野郎があまりにも強すぎたもんだから、ティムールは《スカラベの神》をプレイするために自前の3色を曲げてまで基本地形の《沼》を入れる羽目になった (それでも、たとえどんなに《沼》を直接は引きたくないとしても、どうしても耐えられないというほどではなかったわけだが)。

さて、《スカラベの神》はスタンダードを去っておらず、それどころか今やスタンダードで最も強力なクリーチャーと言っていい。なら、存分に使い尽くさない理由はないよな?

スカラベの神

青黒コントロールならそれができる。基本的には対戦相手が並べたい組み合わせや取りたいテンポを何であれ妨害し、単体のカードパワーとカードアドバンテージだけが問題になるような状況でのトップデッキ対決に持ち込むことを目標にしている。そういったゲームにおいては《スカラベの神》《アズカンタの探索》の2枚が最も引きたいカードになるだろうが、このデッキはその両方をプレイしているのだ。

このデッキは勝敗がマッチアップに左右される部分も少なく、というのも除去、手札破壊、打ち消し呪文といったカードの枚数を調整することで適宜対応することが可能だからだ。安定したパフォーマンスを発揮するデッキを求めるなら、青黒コントロールは最も安全な選択と言えるだろう。

一応サンプルデッキは載せておくが、コントロールデッキの構成はそのときどんなデッキが勝っているかに大部分を依存するから、好きに微調整すればいい。俺の場合、もし今回のプロツアーがスタンダードだったなら、きっとこんな形から始めただろうな。

アブザン (もしくは他の色の) トークン

スタンダードにおけるこれまでのアブザントークンの歴史は悲惨なものだったと言わざるをえない。確かに長期間に渡ってメタゲームに存在したことで、ぶん回ったときにはとんでもない盤面を作り出すことができるものだから、見ていて飽きないゲームを視聴者たちにいくつも届けることには成功していた。

ただ同時に、メタゲームの中で支配的な地位に立つことが一切なかったのも事実で、というのもラムナプ・レッド相手には何事かを始める前に殴りきられてしまうし、エネルギーデッキ相手はたとえメインボードは勝てたとしても、結局サイド後には何事もなかったかのように叩きのめされてしまっていたからだ。

だが今、スタンダードのデッキたちのパワーレベルは低下することとなった。そしてアブザントークンには何の影響もない。それどころか実際、王神・副陽・青黒コンを合わせた4つの中で、最も立場が向上したデッキではないかと密かに考えている。

さて、このデッキは白黒に《秘宝探究者、ヴラスカ》のための緑を足した格好となっているわけだが、その理由は互いに消耗して少しのうちに速やかにゲームを終わらせるカードが必要だからだ。だが俺に言わせてみれば、《秘宝探究者、ヴラスカ》をプレイするための代償は大きすぎる。ちょっとばかり勝率が向上するにしても、そのためにマナベースの安定性を大きく損なってしまっているように感じられるのだ。

たった1枚の《森》を入れるか入れないかの違いだということはわかっている。だが、そのせいで2ターン目に《秘密の備蓄品》をプレイできない初手が来るかもしれないとなると話は別だ。

秘宝探究者、ヴラスカ秘密の備蓄品

というところで、『イクサランの相克』が《不滅の太陽》をもたらしてくれた。このカードの性能についてくどくどと述べるつもりはない、何せこいつはカードプレビューの記事じゃないからな。だけど聞いて欲しい、もしプレリリースでこのカードをプレイされたことがあるなら、それがどんなに悲惨な思い出になったか知らないわけがないよな。

不滅の太陽

どの効果もハチャメチャに強力だが、そのすべてが噛み合うデッキを見つけるのは大変だろう。そこでトークンの出番というわけだ。追加ドローも《栄光の頌歌》効果も望むところだし、プレインズウォーカーに対して全くプレッシャーをかけることができないという、どうしようもないほどの主要な弱点を見事に解決してしまっている。

端的に《不滅の太陽》《秘宝探究者、ヴラスカ》よりも断然優れていると思われる。特にマナベースを円滑にするともなればなおさらだ。

さらに最後に一点、《秘宝探究者、ヴラスカ》を入れないと同型で即負けてしまうことからこれまでは必須パーツと考えられていたわけだが、ここにも《不滅の太陽》の能力が生きてくるよな。

俺ならこんな形から調整を始めるだろう。

ステップ2: 新環境に適応したかつての2強デッキたち

いくつかの重要なパーツを失ったとはいえ、必ずしもそれだけでエネルギーとラムナプ・レッドを見捨てる理由にはならない。何せそれぞれのデッキのベストカードに目を向ければ、それらは変わらずそこにあるからだ。

いまだにエネルギーは《栄光をもたらすもの》で押しきることが可能だし、赤系アグロには《熱烈の神ハゾレト》が残っている。かつての2強を少しいじってやれば、再び輝かせることが可能なんじゃないだろうか?

《ラムナプの遺跡》なき後の赤系アグロ

今回の禁止がラムナプ・レッドに与えた影響を注意深く見ていくと、最終的には一体どうしてこれらのカードを禁止したんだろう?と思い悩む羽目になるかもしれない。《ラムナプの遺跡》は確かに実際素晴らしい性能だが、これを使うことは2色目を増やすという選択肢を封じてもいた。《暴れ回るフェロキドン》に至っては、必ずしもすべてのラムナプ・レッドがプレイしていたわけでもない。

つまり、最強たる赤いデッキの主軸となるパーツはいまだ健在ということだ。《ボーマットの急使》《地揺すりのケンラ》、そして何より《熱烈の神ハゾレト》がな。

ボーマットの急使地揺すりのケンラ熱烈の神ハゾレト

事ここに至っては赤単色を堅持する理由も特にないわけで、しかも2色目を足せば《損魂魔道士》という、マナカーブのために仕方なく採用されていたが、仕方がないにしても全くもって迫力に欠けると言わざるをえないクリーチャーとオサラバすることができるのだ。

思うに、最も自然に足せる2色目は黒だろう。そうすることでスタンダードのカードプールが供給する中でも最も強力かつ除去耐性のある2マナ域である《屑鉄場のたかり屋》が使えるようになるし、さらにアーティファクトの採用率を高めることで、《ラムナプの遺跡》の抜けた穴を埋めるには十分な《無許可の分解》も活用できるようになる。

屑鉄場のたかり屋無許可の分解

禁止前のラムナプ・レッドと比べて、そんなに弱くなってしまうだろうか?否、おそらくだが、さほど大きくは変わらないだろうと思う。禁止改定前ですら、数名のMagic Onlineプレイヤーたちが派生形たる赤黒アグロでちょっとした成功を収めていた。見る人によっては、あれは「機体」だ、と言うかもしれないがね。

というわけで、俺のワールド・マジック・カップでのチームメイトだったAlain Bardiniが、エネルギーが環境を支配して《つむじ風の巨匠》を乗り越えられないためにデッキが使えなくなるまでの間、Magic Onlineで荒稼ぎをしていたリストを引っ張り出してみた。

赤黒という組み合わせは俺のお気に入りでもある。速度と安定性を兼ね備えており、しかもカードパワーも申し分ない (マナカーブ押しだけじゃないということになれば、デッキの信頼性はいよいよ高まるのだ)。加えて、《無許可の分解》がどれほど頼もしいかということについては強調してもし足りない。とりわけエスパー王神のように、こちらのクリーチャーを除去するのではなくチャンプブロックすることによって攻撃を凌ごうとするような相手に対してはな。

他方で、黒以外の選択肢も試したいと思うかもしれない。それなら赤白も研究しがいがある組み合わせだと思う、何せ低マナ連打からの《熱烈の神ハゾレト》という核となる戦略を維持できることはもちろん、それほどマナベースに負担をかけることなく (現環境では対抗2色の方が友好2色より若干組み合わせやすいので)、 2種類の強力なマルチカラーのカードを採用することができるからだ。

執拗な猛竜胆力の道

《執拗な猛竜》はアグロデッキ同型で盤面を支配する2マナ域だし、さらに最も重要な点として、赤白アグロは《胆力の道》をうまく使えるおそらく唯一のデッキタイプとなる。

今週のMOPTQで活躍していたリストがこちらだ。

このアプローチにおいて俺が気になっているのは、《胆力の道》のせいで動きにムラが多くなりすぎてやしないか、という点だ。もしゲームが思うがままに進んでこれを「変身」させることに成功したなら、確かに早くも3ターン目にはたやすく勝負を決定づけることができるだろう。だがたった1回マリガンすることはそんなに珍しいことじゃないし、そこに相手が除去を打ってきたりしたなら、この2マナのエンチャントはただの置き物としてぽつんと佇む羽目になるよな。

とはいえ、この形は同じ赤系アグロに対しては強いのではないかと予想している。あるいは、《胆力の道》というカードの評価とそれがどんなに簡単に「変身」するかについて、俺が低く見積もりすぎているのかもしれないがね。

緑抜きのエネルギーデッキ

「緑抜き」と言ったのは、ペトル・ソフーレクが述べていた (※リンク先は英語) ように、もはや緑絡みでエネルギーを組む理由はないように思われるからだ。

牙長獣の仔逆毛ハイドラ

《牙長獣の仔》《逆毛ハイドラ》は、機能するために「タダでエネルギーが供給されること」を必要とする。このエネルギーは《霊気との調和》《ならず者の精製屋》によって供給されていたが、今やそのどちらも使用することはできない。つまり緑絡みのエネルギーカードについては、禁止されていないにせよ手足をもがれたに等しいわけだ。

もちろん依然として緑絡みのミッドレンジを組むことは可能だろう (それを言ったらいつでもなんだって可能さ!)、それで勝つこともできるかもしれない、だが今のところは、エネルギー絡みのパッケージはすっぱり抜いてしまった方がたぶん良いだろうな。

他方で、より少ないエネルギーでも十分に機能するカードがいくつか存在している。その最たるものが《光袖会の収集者》だ。

光袖会の収集者

こいつは機能させるための手間が全然かからないどころか、もともと自前でエネルギーを供給できる上に、カードを引き増すというかなり大きなリターンをもたらしてくれる。多少は追加のエネルギー供給源が欲しいので、他のエネルギー色である赤や青と組み合わせるというのはごく自然な流れだ (《蓄霊稲妻》《つむじ風の巨匠》のためにな)。

蓄霊稲妻つむじ風の巨匠

かつてのティムールエネルギーほど圧倒的な動きはできないかもしれないが (できたらそれこそ何のために禁止したんだって話だけどな)、柔軟かつ強力で、いつどこでエネルギーを費消すべきかという観点に基づくゲームプランの組み立てを許すだけの、比較的小回りの利くマナコストを維持している。遅いデッキ相手なら《光袖会の収集者》に、防御に回るときには《つむじ風の巨匠》にエネルギーを注ぎ込めば良い。

最も大きな違いは《牙長獣の仔》の不在で、猛烈に早いゲームの決着は望めなくなったおかげで、ロングゲームへの備えを必要とするようになった。とはいえそう悪い話でもない、《天才の片鱗》という、まさしくそのためにあるようなエネルギーカードがあるからな。

とりわけ俺が気に入っているサンプルレシピがこれだ。

結論

筆をおく前に、どうすれば再びエネルギーデッキが頂点に立つことができるかについての思いつきを最後に書いておくことにしよう。

バカバカしい話だし、大会に持ち込むのはまだオススメしないが、それでもちょっとばかりの時間をかけるには値するアイデアだと考えている。

革新の時代

《革新の時代》を基礎としたデッキを作り、そこに「宝物」と《つむじ風の巨匠》とのシナジーを混ぜ込むんだ。長期戦に持ち込む備えさえしっかりしていれば、何よりも多くのエネルギーを生み出せるようになるので、ちょっとの間だけ耐えていれば大量の1/1の飛行機械・トークンを一挙に生成することができる。確かに気の長い話かもしれないが、俺は何かをやらかしそうな可能性を感じるね……さて、どう思う?

じゃあ、またな。

ピエール・ダジョン

この記事内で掲載されたカード

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