USA Standard Express vol.114 -禁止改定、スタンダードは新たなステージへ-

Kenta Hiroki

 皆さんこんにちは。

 この記事をご覧になっているほとんどの方はすでにご存知だと思いますが、1月15日に禁止改定のアナウンスがありました。これにより環境を支配していたTemur EnergyとRamunap Redの主要パーツであった《霊気との調和》《ならず者の精製屋》《暴れ回るフェロキドン》《ラムナプの遺跡》が禁止カードに指定されました。

霊気との調和ならず者の精製屋暴れ回るフェロキドンラムナプの遺跡

 Temur Energyの安定性を支えていた《霊気との調和》《ならず者の精製屋》の禁止は、予想していた方も多かったのではないでしょうか。《ラムナプの遺跡》もRamunap Redというアーキタイプを弱体化させるという意味では頷けます。《暴れ回るフェロキドン》は予想外でしたが、禁止になった経緯などは公式アナウンスの方に詳しく説明されているので参考にしていただければ幸いです。

 今回の禁止カードについては、Temur EnergyとRamunap Redの2強状態が環境の停滞を招いていたので妥当な決断だと言えます。今回の連載では新環境のスタンダードで開催されたSCGO DallasSCG Claccis Dallasの入賞デッキを見ていきます。

SCGO Dallas
Mardu Vehiclesがカムバックを果たす。

2018年1月20-21日

  • 1位 Mardu Vehicles
  • 2位 BG Constrictor
  • 3位 Sultai Energy
  • 4位 Mardu Vehicles
  • 5位 BR Aggro
  • 6位 Temur Monsters
  • 7位 Grixis Control
  • 8位 UB Control
Julian John、Jonathan Rosum、Kevin King

Julian John、Jonathan Rosum、Kevin King

StarCityGames.com

トップ8のデッキリストはこちら

 新環境初のスタンダードの大規模なイベントはチーム構築戦で行なわれました。スタンダードは『イクサランの相克』の加入とともに4枚の禁止カードにより、全く新しい環境と言っても過言ではないほどに変化していました。

 旧環境を支配していたRamunap RedとTemur Energyは、主要パーツの一部が禁止になった影響で弱体化を強いられ、これまでそれらのデッキパワーに対抗し切れていなかったMardu VehiclesBG Constrictorが復権を果たしています。

 Week 1の結果を見るといろいろなデッキが増え、今後の動向にも要注目です。

SCGO Dallas デッキ紹介

「Mardu Vehicles」「BG Constrictor」

Mardu Vehicles

 もともと過去のスタンダードでトップメタだったSaheeli ComboやTemur Mavelといったデッキとも渡り合ってきた実績がありましたが、《スレイベンの検査官》などのローテーション落ちによって弱体化を強いられ、ローテーションによる影響を受けなかったTemur EnergyとRamunap Redの支配する環境で生き残れずに淘汰されていきました。

 両デッキの弱体化により環境が激変したことで、既存のカードや戦略も再評価されローテーション前の環境で活躍していたMardu Vehiclesに再び注目が集まりました。

キランの真意号屑鉄場のたかり屋

 《キランの真意号》《屑鉄場のたかり屋》、豊富な除去は健在で、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》に代わる新たなフィニッシャーに《熱烈の神ハゾレト》が加わり、今大会での優勝以外にも併催して開催されたSCG Classicsでもプレイオフに多数進出、MOPTQ優勝と異なる大会で結果を残しており、Ramunap Redに代わる環境の代表的なアグロデッキとしての地位を確立しつつあります。

☆注目ポイント

熱烈の神ハゾレト屑鉄場のたかり屋

 《熱烈の神ハゾレト》《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》と同様に4マナ域のフィニッシャーとして採用されています。手札に来た余分な《キランの真意号》《屑鉄場のたかり屋》を墓地に送る手段にもなります。

致命的な一押し無許可の分解焼けつく双陽
燻蒸残骸の漂着

 《致命的な一押し》《稲妻の一撃》《無許可の分解》と除去の種類が豊富です。さらにサイドには《焼けつく双陽》《燻蒸》《残骸の漂着》といったスイーパーも採用されており、サイド後はコントロールにシフトしていく戦略も健在です。今後同型が増えるようならサイドの《削剥》をメインに昇格させる選択肢もあります。これだけ除去が強いと1枚だけ採用されている《アムムトの永遠衆》のダメージを通すことも容易で元のサイズを保てるでしょう。

屍肉あさりの地炎鎖のアングラス

 サイドの《屍肉あさりの地》《奔流の機械巨人》やUW Gift、相手の《屑鉄場のたかり屋》などを対策するほかに、コントロール寄りにシフトするサイド後のゲームで追加の土地としても扱えるのでほぼ毎回サイドインされます。サイドに1枚だけ採用されている新プレインズウォーカーの《炎鎖のアングラス》は、ハンデスしつつライフも削れる「+1」能力がRG MonstersやGrixis Energy、UW Approachといったミッドレンジやコントロールとのマッチアップで有効で、発売前はそれほど高い評価はされていなかっただけに注目が集まります。

BG Constrictor

 『イクサランの相克』からの新戦力により、再びBG Constrictorに注目が集まります。軽く優秀なクリーチャーである《巻きつき蛇》を軸にしたアグロデッキで、プロアクティブな戦略は環境初期で結果を残す傾向にあります。

 《霊気との調和》が禁止になり、エネルギーにフォーカスした戦略の弱体化にともない《牙長獣の仔》が抜け、新カードの《翡翠光のレインジャー》などが加わりました。カード選択に変化が見られますが、基本的に《巻きつき蛇》でクリーチャーに乗るカウンターを倍加させてビートダウンしていく戦略であることに変わりはありません。

 新しいカードも《翡翠光のレインジャー》《貪欲なチュパカブラ》など一部を購入するだけで後は旧環境のカードが大半なので、資産的にも組みやすくMardu Vehiclesと同様に人気がでるアーキタイプの一つになりそうです。

☆注目ポイント

マーフォークの枝渡り翡翠光のレインジャー

 《マーフォークの枝渡り》は、《巻きつき蛇》の影響下では2マナ2/1ドローか4/3占術になる中々優秀なクリーチャーで、《牙長獣の仔》に代わる新たな2マナ域の主力を務めます。

 《翡翠光のレインジャー》は、3マナ2/1で「探検」を2度行うクリーチャーで、《マーフォークの枝渡り》と同様に《巻きつき蛇》とのシナジーがあり、2ターン目《巻きつき蛇》、3ターン目《翡翠光のレインジャー》という動きが強力です。《ピーマの改革派、リシュカー》と共にこのデッキの主力の3マナ域として活躍します。

貪欲なチュパカブラ秘宝探究者、ヴラスカ顕在的防御

 《貪欲なチュパカブラ》は、《巻きつき蛇》とのシナジーは皆無ですが、カードアドバンテージが取れる優秀なクリーチャーです。《致命的な一押し》《ヴラスカの侮辱》といった除去、プレインズウォーカーの《秘宝探究者、ヴラスカ》、わずか1マナで相手の単体除去をカウンターしつつクリーチャーを強化する《顕在的防御》など、優秀なスペルもこのデッキを選択する理由の一つとなります。

SCG Classics Dallas
果てしなく続くMono Redの快進撃

2018年1月20-21日

  • 1位 Mono Red
  • 2位 Mono Red
  • 3位 WU Auras
  • 4位 Mardu Vehicles
  • 5位 GR Monsters
  • 6位 Mardu Vehicles
  • 7位 Temur Dinosaurs
  • 8位 Mardu Vehicles
Tristen Loob

Tristen Loob

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 かつてのトップメタであるRamunap Redは《暴れ回るフェロキドン》《ラムナプの遺跡》が禁止カードに指定されたことで弱体化を強いられ、新環境で成功を収めるのは難しいと予想されましたが、蓋を開ければワンツーフィニッシュを決めるなど、まだまだ最前線で活躍できるポテンシャルを持っていることが分かりました。

 メインイベントやMOPTQでも優勝を飾っていたMardu Vehiclesも今大会では最多のプレイオフ進出率をだすパフォーマンスを見せます。

 メインイベントと同様にWeek 1の結果らしくアグロデッキが多く勝ち残りました。やはり環境初期ではコントロールよりもプロアクティブな戦略の方が勝ちやすいようです。

SCG Classics Dallas デッキ紹介

「Mono Red」「GR Monsters」「Grixis Energy」

Mono Red

 《暴れ回るフェロキドン》《ラムナプの遺跡》を失い弱体化を余儀なくされたRamunap Redでしたが、《熱烈の神ハゾレト》《反逆の先導者、チャンドラ》といった赤のフィニッシャー級のカードは健在なので、Mono Redというアーキタイプ自体は成立します。

 《ラムナプの遺跡》の抜けた穴は見た目よりも大きく、これにより旧環境ほどロングゲームにおける支配力は落ちたものの、《屑鉄場のたかり屋》《ピア・ナラー》でカバーしていきます。

☆注目ポイント

屑鉄場のたかり屋発明者の見習い

 中盤以降の息切れを防止するために《屑鉄場のたかり屋》が採用されており、黒をタッチしているのが特徴です。マナベースはRamunap Redの頃と比べると若干安定性は落ちますが、赤のダブルシンボルを要求するスペルは少なく全体的に色拘束が弱めの構成になっています。《屑鉄場のたかり屋》は中盤以降の攻め手を途切れにくくする以外にも、《発明者の見習い》を強化するアーティファクトとしてもカウントされます。

ボーマットの急使ピア・ナラー霊気圏の収集艇

 《ボーマットの急使》《屑鉄場のたかり屋》《ピア・ナラー》がメインに採用されており、サイドにも《霊気圏の収集艇》《歩哨のトーテム像》を採用しているので《発明者の見習い》を高確率で強化できます。

削剥凶兆艦隊の向こう見ず

 メインからアーティファクトを対策できる《削剥》は、流行りのMardu Vehiclesに有効で《巻きつき蛇》にも対策可能な優秀な除去です。

 サイドに1枚だけ採用されている《凶兆艦隊の向こう見ず》は、2ターン目にプレイしても2マナ2/1先制攻撃と2ターン目のアクションとしては悪くなく、中盤以降は墓地のスペルを再利用する能力によりアドバンテージが取れるクリーチャーで、あの《瞬唱の魔道士》を彷彿とさせます。

 《瞬唱の魔道士》と異なり対象に取れるのは相手の墓地のスペルのみですが、能力の性質上メインよりもサイドからミラーマッチ、Mardu Vehicles、BG Constrictorなど軽い除去を使うアグロデッキとのマッチアップ用に投入することになりそうです。強いカードなので増量をお勧めします。

GR Monsters

 《霊気との調和》《ならず者の精製屋》を失ったため《牙長獣の仔》も大きく弱体化し、緑系のミッドレンジはエネルギー以外にアドバンテージを取る方法を模索する必要がありました。

栄光をもたらすもの反逆の先導者、チャンドラ

 旧環境のTemur Energyと同様に緑赤のアドバンテージが取れるクリーチャーを多数搭載したミッドレンジです。《栄光をもたらすもの》《反逆の先導者、チャンドラ》は健在で、注目の新カードである《再燃するフェニックス》といった赤いパワーカードを多数採用しています。『テーロス』ブロックのスタンダードで活躍していた《嵐の息吹のドラゴン》などを採用した赤緑のミッドレンジがデッキ名の由来で、Temur Energyに代わる新環境のミッドレンジとして注目が集まっています。

☆注目ポイント

不屈の神ロナス

 《不屈の神ロナス》は、旧環境では《慮外な押収》《多面相の侍臣》を採用したTemur Energyがトップメタだったこともあり使いにくいカードでしたが、禁止カードの影響でTemur Energyの減少にともない再評価されています。パワー4以上のクリーチャーを多数採用したこのデッキなら戦闘条件の達成も容易です。

マーフォークの枝渡り翡翠光のレインジャー再燃するフェニックス

 ほかの緑系デッキにも採用されている《翡翠光のレインジャー》《マーフォークの枝渡り》は、《ならず者の精製屋》に代わるアドバンテージが取れる緑のミッドレンジの主力として今後もよく見られるクリーチャーになりそうです。「探検」によってクリーチャーを落とし、《屑鉄場のたかり屋》を復活させるコストを賄うことができるのも

 《再燃するフェニックス》は除去耐性があり、4/3飛行となかなかの性能で、攻守に渡って活躍します。復活を阻止するために相手はエレメンタルトークンを追加で除去する必要があります。

原初の飢え、ガルタ打ち壊すブロントドン捲土+重来

 このデッキも《屑鉄場のたかり屋》の能力の起動のために黒をタッチしています。パワーが3なので《キランの真意号》に「搭乗」させることも可能で、《原初の飢え、ガルタ》のコスト軽減にも貢献します。《原初の飢え、ガルタ》は火力では焼き切れず《致命的な一押し》が効かないなど、《無許可の分解》《ヴラスカの侮辱》、全体除去以外の環境の主要な除去に耐性があります。あまり枚数を入れたいクリーチャーではないので1枚のみの採用になっています。

 《打ち壊すブロントドン》《削剥》といったメインから無理なく入るカードで、《キランの真意号》《霊気圏の収集艇》など機体を処理していきます。《捲土+重来》はインスタントスピードの除去で、「余波」を《スカラベの神》《屑鉄場のたかり屋》など墓地から復活してくるクリーチャーに対して使う機会も多くなると思います。

Grixis Energy

 《霊気との調和》《ならず者の精製屋》が禁止になり、エネルギーデッキは死滅したのか?新環境のスタンダードの結果を見る限り答えはノーでした。たしかにマナ基盤の安定性を支えていた《霊気との調和》を失い、手軽にアドバンテージが取れる《ならず者の精製屋》も不在で、エネルギーというアーキタイプを使用する上で必ずしもメインカラーに緑を使う正当性も薄れてきました。しかし、《つむじ風の巨匠》《霊気拠点》《蓄霊稲妻》《光袖会の収集者》といったカードは未だ健在です。

 エネルギーを活用する戦略は、それらのカード全てにアクセス可能なGrixisカラーにシフトしていきました。環境最高クラスのパワーカードである《スカラベの神》《反逆の先導者、チャンドラ》《栄光をもたらすもの》にもアクセスできるのでGrixisがミッドレンジ、コントロールの主流となりそうです。

☆注目ポイント

光袖会の収集者つむじ風の巨匠貪欲なチュパカブラ

 回避能力持ちでカードアドバンテージも提供する《光袖会の収集者》は、このデッキの主要な2マナ域のアタッカーとして活躍します。相手にとってはマスト除去で、序盤から終盤まで役に立ちます。

 《つむじ風の巨匠》はTemur Energyのときと同様にアドバンテージを提供しつつクロックになるトークンを並べるため、多くのデッキで使われている《貪欲なチュパカブラ》を含めた単体除去に耐性があります。《貪欲なチュパカブラ》はエネルギークリーチャーではありませんがカードアドバンテージが取れて《スカラベの神》とのシナジーもあるので採用しない理由が見当たりません。

奔流の機械巨人ヴラスカの侮辱

 《奔流の機械巨人》はTemur Energyでもサイドに採用されていましたが、多くのGrixis Energyは《削剥》《致命的な一押し》《蓄霊稲妻》《ヴラスカの侮辱》《至高の意志》《天才の片鱗》《本質の散乱》などメインからインスタントが数多く採用されているため対象に困ることも少なくなりそうです。

 このデッキの弱点はマナ基盤にやや難がある点で、以前のTemur、4Cと比べると安定性が低下していることも事実なので、《光袖会の収集者》《至高の意志》による追加のドロー、ライブラリー操作を有効活用していきたいところです。

総括

 『イクサランの相克』の加入と4枚の禁止カードにより、リフレッシュされたスタンダードは再び群雄割拠な環境になりました。特に、Ramunap RedとTemur Energyの2強だったことで肩身の狭い思いをしていたMardu Vehiclesが復権を果たし、複数の異なるイベントで結果を残していました。

模範的な造り手巻きつき蛇

 現在のスタンダードは新環境らしくMardu Vehicles、BG Constrictor 、Mono Redやそのバリエーションである赤黒や赤白などのアグロデッキや、新たなエネルギー系のデッキとして注目を集めていたGrixis Energyや、『イクサランの相克』からの新カードを数種類採用した新たなミッドレンジであるRG Monstersなどが中心でした。

 コントロールの復権も予想されていましたが、《屑鉄場のたかり屋》を採用した赤系のアグロや《反逆の先導者、チャンドラ》など対処が難しいカードが幅を利かせているので現時点では中々厳しそうです。

 今週末にはSCGO Philadelphiaが開催されます。チーム構築戦(スタンダード、モダン、レガシー)なのでスタンダードファンの方はお見逃しなく。

 以上USA Standard Express vol.114でした。

 それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいスタンダードライフを!

この記事内で掲載されたカード


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