みなさんこんにちは。
原根 健太、八十岡 翔太、渡辺 雄也
先週末のワールド・マジック・カップ2017では、日本が優勝とこれ以上ない素晴らしい結果で幕を閉じました。これを機に日本国内のマジックコミュニティーが盛り上がり、より多くのプレイヤーが楽しめるようになればと思います。
今回の連載では、チーム共同デッキ構築・スタンダードで競われたワールド・マジック・カップ2017とSCG Tour Season2を締め括るSCG Invitational Season2の結果を見ていきたいと思います。
ワールド・マジック・カップ2017
日本代表チームが世界を制する
2017年12月1-3日
- 1位 UW God-Pharaoh’s Gift/Temur Energy/Ramunap Red
- 2位 UW Cycling/Ramunap Red/Temur Energy
- 3位 Mardu Vehicles/Ramunap Red/4C Energy
- 4位 Plummer Aggro/Ramunap Red/UB Control
- 5位 Temur Energy/Ramunap Red/UB Control
- 6位 4C Energy/Ramunap Red/UW God-Pharaoh’s Gift
- 7位 UW God-Pharaoh’s Gift/Ramunap Red/Sultai Energy
- 8位 Temur Energy/Mardu Vehicles/UW God-Pharaoh’s Gift
- 1位 Temur Energy
- 2位 4C Energy
- 3位 Ramunap Red
- 4位 Temur Energy
- 5位 4C Energy
- 6位 Temur Energy
- 7位 Temur Energy
- 8位 Desert Red
トップ8のデッキリストはこちら
チーム共同デッキ構築・スタンダードという極めてユニークなフォーマットで競われた今年度のワールド・マジック・カップ2017は、予想通りデッキのパーツほとんどが他と被らず、カードプール的に有利なRamunap Redを多くのチームが採用していました。
環境のベストデッキであるTemur Energyも大多数のチームが採用する結果となり、その残りのデッキの選択はチームにより差がありますが、多くのチームがカードプールへの負担が少ないUW ControlやGod-Pharaoh’s GiftといったUW系のデッキを選択していました。
赤を使うTemurと異なり、《削剥》や《栄光をもたらすもの》、《反逆の先導者、チャンドラ》などを使用しないSultai Energyを選択したチームも多く、構築の制限による難易度の高さが伺えます。
ワールド・マジック・カップ2017 デッキ紹介
「UW God-Pharaoh’s Gift」「Ramunap Red」「UW Cycling」
UW God-Pharaoh’s Gift
UW God-Pharaoh’s Giftはデッキの構成上パーツ的に他のデッキと被るカードが少なく、結果多数のチームが3つ目のデッキとして選択していました。
『イクサラン』から《アズカンタの探索》など新戦力を得て強化されたデッキの1つで、プロツアー『イクサラン』でも準優勝という好成績を残していたデッキです。
《氷河の城砦》や《灌漑農地》などマナ基盤にも恵まれており、動きが安定しているのも選択された理由だと思われます。
☆注目ポイント
トップメタのTemur Energyをリスペクトしてメインから《燻蒸》が採用されています。環境の明確なベストデッキなので多くのチームが選択していたことからも、メインの全体除去は正解だったと言えます。
Ramunap Redに採用されているこのデッキにとっての天敵、《暴れ回るフェロキドン》に対する追加のアンサー兼ブロッカーとして《博覧会場の警備員》もメインから採用されています。
メインボードでは他のデッキとパーツが被らないのですが、サイドの《否認》に関してはTemur Energyと取り合いになるため、代わりに《不許可》を採用しています。このデッキにとって《否認》か《不許可》かはTemur Energyほど重要ではなく、3色で脅威を展開しつつカウンターを構える必要のあるTemur Energyにとっては、色拘束が緩くコストが軽い《否認》の方が極めて重要になります。
Ramunap Red
4 《ラムナプの遺跡》
4 《陽焼けした砂漠》
2 《屍肉あさりの地》
-土地(24)- 4 《ボーマットの急使》
4 《損魂魔道士》
4 《地揺すりのケンラ》
2 《過酷な指導者》
2 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《アン一門の壊し屋》
2 《暴れ回るフェロキドン》
4 《熱烈の神ハゾレト》
-クリーチャー(26)-
環境の2強とされているRamunap RedとTemur Energyを共存させるに当たって問題となるのは、《栄光をもたらすもの》と《反逆の先導者、チャンドラ》をどちらのデッキで採用するかになります。Temur Energyは《スカラベの神》にアクセスできるTemur Blackや赤を使わないSultaiにするという選択肢もあり、Ramunap Redも構成によっては《反逆の先導者、チャンドラ》は絶対に必要というわけではありません。
除去についてもTemur Energyには《木端+微塵》など《削剥》の替えが効くカードを採用し、日本代表チームはチーム内のデッキを大きく弱体化させることなくまとめることに成功していました。
基本的に上に挙げたカード以外で他のデッキと被るパーツが少なかったのもあり、ほとんどのチームが選択していたようです。チーム共同デッキ構築という性質上、コントロールを3つ目のデッキとして選択したチームが多く、特に青黒コントロールに対して有利だったのもこのデッキにとって追い風です。
☆注目ポイント
《熱烈の神ハゾレト》は現環境で最も強力な脅威の一つとして、赤いアグロデッキには必ず採用されていました。Temur Energyが《反逆の先導者、チャンドラ》を使っていたため、グランプリ上海2017でRamunap RedのエキスパートであるYam Wing Chungが結果を残していたリストのように、《アン一門の壊し屋》をフル搭載したアグレッシブな構成になっています。
環境のトップメタであるエネルギー系のデッキとは必ず当たるので、能力を起動するたびに誘発する《過酷な指導者》は強力です。《暴れ回るフェロキドン》は《王神の贈り物》コンボやトークン系など多くのデッキに対して刺ささり、特に除去が少ない《王神の贈り物》コンボにとって脅威となります。このように《過酷な指導者》と《暴れ回るフェロキドン》は現在のスタンダードにおけるヘイトベアー的な役割を果たすため、ミラーマッチではあまり強くないものの、その他のマッチに強いのでメインで見かけることも多くなりました。
ほとんどのチームがRamunap Redを使ってくることが予想されたため、ミラーマッチ用に《霊気圏の収集艇》がサイドにフル投入されています。サイド後はミラーマッチでは弱い《暴れ回るフェロキドン》が抜けて《ピア・ナラー》も入るので「搭乗」させるクリーチャーに困ることも少なくなりそうです。
UW Cycling
4 《相殺の風》
4 《新たな信仰》
4 《ヒエログリフの輝き》
4 《残骸の漂着》
3 《燻蒸》
3 《アズカンタの探索》
3 《ドレイクの安息地》
4 《排斥》
1 《見捨てられた石棺》
-呪文(34)-
もう一つのUWのバリエーションとしてUW Cyclingを選択したチームもありました。グランプリ・ポートランド2017でトップ16入賞を果たしたアメリカのプロ、Corey Burkhartも使用していた《ドレイクの安息地》を軸にしたコントロールデッキです。
序盤は「サイクリング」によってデッキを掘り進み、《残骸の漂着》や《燻蒸》を探していき、中盤以降はそれらによってアドバンテージを稼いでいきます。全体除去を多数搭載しているのでTemur Energyとのマッチアップに強いデッキとされています。
サイドに《領事の権限》や《威厳あるカラカル》を採用しているので、Ramunap Redに対しても不利が付かず除去も多めなので《暴れ回るフェロキドン》など厄介なクリーチャーを対策しやすいのも強みです。
☆注目ポイント
合計26枚の「サイクリング」カードにより、全体除去やカウンターなど必要なカードを引きやすく比較的動きが安定しています。基本的には《残骸の漂着》や《燻蒸》によって盤面をコントロールしていきますが、《反逆の先導者、チャンドラ》などのプレインズウォーカーや《光袖会の収集者》など攻撃に参加しなくても脅威となるクリーチャーに対しては《排斥》で処理していくことが可能です。
《ドレイクの安息地》はメインからエンチャント対策を採っているデッキが少ないため対処されづらく、「サイクリング」でドローを進めつつブロッカーを生みだせるので全体除去をキャストするまで時間も稼ぐことが可能で、3マナと軽いのも嬉しい点です。「サイクリング」以外でもクリンナップ・ステップ時にディスカードした際にもトークンを生み出せるのは覚えておきたいところです。
《見捨てられた石棺》は「サイクリング」スペルを多数採用したこのデッキではアドバンテージ源として機能し、《ドレイクの安息地》と共にデッキのキーカードになります。サイド後は《威厳あるカラカル》や《奔流の機械巨人》が投入され、UWミッドレンジ寄りにシフトしていきます。コントロール以外とのマッチアップでは「サイクリング」スペルや《ドレイクの安息地》、《見捨てられた石棺》の枚数を調整してサイドインされます。コントロールミラーでは全体除去の枚数を減らし、追加のフィニッシャーやカウンターをサイドインします。
SCG Invitational Season 2
環境はTemur EnergyとRamunap Redの2強
2017年12月2-3日
Eli Kassis
トップ8のデッキリストはこちら
2日目のデッキ分布によれば、2日目進出を決めた101名の内74名が《霊気との調和》を採用したエネルギー系デッキだったようです。スタンダード環境が終盤に突入し、煮詰まってきたことを考慮しても極端な結果となりました。
エネルギーカウンターを使ったデッキ以外の戦略では、Temur Energyと並んでトップメタに位置するRamunap Redが勝ち残っており、プレイオフに2名送り込む活躍を見せるなど環境でTemur Energy系のデッキ以外の有力な選択肢とされていました。
エネルギー系、Ramunap Red以外の勢力ではEsper Approachが少数ながらスタンダード部門で7-1という成績を残すなど健闘していました。
SCG Invitational Season 2 デッキ紹介
「4C Energy」「Desert Red」
4C Energy
1 《島》
1 《山》
1 《沼》
2 《隠れた茂み》
4 《霊気拠点》
4 《植物の聖域》
3 《尖塔断の運河》
2 《根縛りの岩山》
1 《花盛りの湿地》
-土地(22)- 4 《導路の召使い》
4 《ならず者の精製屋》
4 《つむじ風の巨匠》
3 《逆毛ハイドラ》
2 《スカラベの神》
-クリーチャー(17)-
4 《蓄霊稲妻》
2 《削剥》
2 《本質の散乱》
1 《至高の意志》
2 《慮外な押収》
2 《反逆の先導者、チャンドラ》
1 《生命の力、ニッサ》
2 《秘宝探究者、ヴラスカ》
1 《王神、ニコル・ボーラス》
-呪文(21)-
大方の予想通りエネルギー系のデッキがダントツのトップでしたが、その中でもGerard Fabianoは特徴的なリストで入賞を果たしました。
他の4C Energyよりプレインズウォーカーが多めに採用されており、エネルギーデッキと言うよりはエネルギーの要素を取り入れたプレインズウォーカーコントロールデッキと言った方が相応しいかもしれません。他のエネルギー系よりもクリーチャー除去や全体除去に耐性がある構成になっています。
プレインズウォーカーを多数搭載しているため中盤以降のトップデッキ勝負に強く、エネルギー系同型に強い構成になっています。Ramunap Redなど速いデッキには弱くなりますが、エネルギー系が大半を占めた今大会のメタを想定した思い切った選択と言えます。
☆注目ポイント
エネルギー同型に強い《秘宝探究者、ヴラスカ》はもちろんのこと、《生命の力、ニッサ》や《王神、ニコル・ボーラス》までもがメインから採用されるなど、トップメタのエネルギー系同型とのマッチアップを強く意識した構成です。
《生命の力、ニッサ》は同型ではもちろん、全体除去を搭載したUW系のコントロールにも強いカードです。《王神、ニコル・ボーラス》はエネルギー系とのマッチアップで《秘宝探究者、ヴラスカ》よりも高いカードパワーで圧倒します。4C Energyのサイドに最近見かけるようになったカードですが、GerardはTemur Energy同型が多発することを想定してメインから採用する選択をしていました。
重めの構成にすることは、Ramunap Redなど速いデッキに対して不利になるリスクがありますが、《貪る死肉あさり》や《チャンドラの敗北》に加えて《野望のカルトーシュ》もサイドに採用しています。《逆毛ハイドラ》に付けることでダメージレースを有利な方向に持ち込めます。しかし、Ramunap Red側もメイン、サイド共にエネルギー系とのマッチアップ用にフォーカスしているため、厳しいマッチであることには変わらないのでTemur Energyミラーに勝つためにある程度割り切っていたと見て間違いないでしょう。
Desert Red
4 《ラムナプの遺跡》
3 《死者の砂丘》
3 《陽焼けした砂漠》
2 《屍肉あさりの地》
-土地(25)- 4 《ボーマットの急使》
4 《損魂魔道士》
2 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《暴れ回るフェロキドン》
4 《栄光をもたらすもの》
-クリーチャー(18)-
エネルギー系と並んで現環境のトップメタに位置するRamunap Redは、今大会では他のデッキよりもエネルギー系、特にTemur Energyを意識した構成になっていました。《死者の砂丘》など砂漠土地を多めに採用し、重めの構成にすることでロングゲームにも対応できるように調整されたリストが活躍しています。
Desert Red(Treasure Redとも呼ばれている)はBen Starkがグランプリ・アトランタ2017で入賞したことによって知名度を上げたRamunap Redのバリエーションで、メインからフル搭載された《暴れ回るフェロキドン》などエネルギー系のデッキが多い今大会のようなメタでは最良のバージョンとなります。
☆注目ポイント
Ramunap Redで必須カードとされていた《熱烈の神ハゾレト》は、重めの構成になり速い段階で手札を消費し切ることが難しくなったこのバージョンでは、本来の強さを活かすことが難しくなったのでメインでは不採用となっています。しかし強力なカードであることは変わらず《チャンドラの敗北》などが投入されるサイド後は、《反逆の先導者、チャンドラ》や《栄光をもたらすもの》だけで勝負を決めるのが難しくなるので、《チャンドラの敗北》が効かない追加のフィニッシャーとしてサイドに数枚採用されています。
《宝物の地図》は特に後手の際に相手のクリーチャーを除去しつつ、《反逆の先導者、チャンドラ》などでアドバンテージを稼いでいくコントロール戦略をサポートします。コストが軽いので早い段階から展開でき、変身もしやすくアドバンテージ源としてビッグレッド寄りのこのデッキの方向性にフィットしています。
Temur Energy祭りだった今大会のスタンダード部門を7-1という成績を残していたこともあり、現環境でエネルギー系を使わないのであればこのDesert Redは選択肢として有力なデッキとなり得ます。
総括
現在のスタンダードはTemur EnergyとRamunap Redの2強という極端な環境となっています。エネルギーというメカニック自体が、《厳粛》など一部のカード以外で干渉するのが難しいことが問題点として挙げられます。《厳粛》も使える色が限られる上に3マナで軽いとは言えず、受動的な対策なのでそれ1枚でゲームに勝てるわけではありません。Temur Energy側も《反逆の先導者、チャンドラ》や《栄光をもたらすもの》などエネルギーカウンターに頼らない勝ち手段も採用しており、サイド後は追加の勝ち手段が入ってくるのも対策を難しくしている要因です。
エネルギーとRamunap Red以外のデッキではUW CylingやUW(Esper)ApproachなどUW系のコントロールデッキが注目のデッキとして挙げられます。《燻蒸》や《残骸の漂着》といった全体除去はTemur Energyに有効で、各イベントでも一定の勝率を出していたことからも良い選択と言えそうです。
以上USA Standard Express vol.111でした。
それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいスタンダードライフを!