By Kazuki Watanabe
『ドミナリア』発売から約1ヶ月。様々なデッキが、スタンダードに姿を見せている。
赤黒アグロ、青白コントロール、黒緑《巻きつき蛇》……環境のトップメタと呼ばれるデッキたちが活躍した。
それと同時に、まったく見たこともないような、オリジナリティに溢れるデッキも活躍している。
そして、Hareruya Prosを……いや、世界を代表するデッキビルダーである彼は、やはりオリジナルのデッキで、このプロツアーに挑んでいた。
稀代のデッキビルダー、マルク・トビアシュ。
独創的なデッキを生み出す彼のファンは世界中に存在し、公式で取り上げられることも多い。もちろん、私もファンの1人だ。プロツアーで彼にデッキの話を聞くのは、毎回恒例の楽しみと言っても過言ではない。そして今回も、見事に度肝を抜かれた。
木曜日に会場入りをした際、私はプレイヤーたちに挨拶をしながら会場を歩き回り、スタンダードで使用するデッキを聞いた。
「赤黒」「赤単」「青白コントロール」「黒緑《巻きつき蛇》」……お馴染みのデッキ名を答えるものが多い中、彼はこう答えたのだ。
マルク「《ケルドの炎》だよ」
け、《ケルドの炎》?
私が困惑していると、彼は笑顔で続けた。
マルク「本戦が始まったら、ゆっくり話すよ。それまでに《ケルドの炎》のテキストを確認しておいてね!」
私はすぐに検索し、テキストを確認したのだった。
さあ、待ちに待ったインタビューの時間である。マルク・トビアシュ謹製、『赤単《ケルドの炎》』のDech Techだ。
スタンダードで、3ターンキルを目指してみよう
――「では、よろしくお願いします! 《ケルドの炎》のテキストもしっかり確認しました。まずは、このデッキを選んだ理由を教えてもらえますか?」
マルク「色々なデッキを試したんだ。《モックス・アンバー》を利用できないか? とかね。その中で、3ターンに勝てるデッキを探したんだ」
――「スタンダードで3ターンキル……その速さは魅力的ですね」
マルク「そうだね。赤黒アグロが流行り、それを乗り越えるために赤黒ミッドレンジが姿を見せ始めた。つまり、赤黒というアーキタイプの中でも、遅いタイプが出てきたわけだ。その上、《ドミナリアの英雄、テフェリー》を使いたいプレイヤーが多くて、コントロールも顕在だ。つまり、環境全体の速度は明確に遅い。より遅く、ずっしりとしたデッキが増えていく傾向にあったから、速いデッキに対するガードが下がる、と思ったんだよ」
――「そこで、赤単が候補に上がったわけですね」
マルク「そういうことだね。特に《ゴブリンの鎖回し》の存在が重要だった。このゴブリンによって『タフネス1に居場所がなくなっている』というのは事実だ。でも、情報が飛躍して、『軽いクリーチャーの居場所がなくなった』と勘違いしている人も多いんじゃないかな? 実際には、軽いクリーチャーにも活躍する場所はあるんだ」
――「なるほど。デッキリスト全体を見ても、軽いカードばかりですね。特に、1マナの呪文の多さが目に留まります」
マルク「15枚入っているからね。《魔術師の稲妻》も1マナで唱えることがほとんどだから、19枚と言うべきかな?」
――「ちなみに、実際に3ターンキルは可能なんですか?」
マルク「もちろんさ。この大会でも成功して、相手は呆然とタップインした土地を片付けていたね。例えば、こんな初手だ」
マルク「土地は1枚だけどキープして、《損魂魔道士》を唱えた。2ターン目は《損魂魔道士》で攻撃し、《ギトゥの溶岩走り》と、2体目の《損魂魔道士》を出す。相手のライフは残り19だね。3ターン目、《魔術師の稲妻》を3枚唱えて9点。《損魂魔道士》の果敢が3回誘発しているから、4点ずつ。墓地にインスタントが3枚あるから、《ギトゥの溶岩走り》で2点。さて、これまでの合計は?」
――「20点、ゲームセット!」
マルク「正解さ! これは少しリスキーだったけど、十分にありえることだよ。一瞬で勝利できれば、ゆっくりと休憩が取れる。長いトーナメントでは重要なことだよね」
――「なるほど。環境にはクリーチャーを利用するデッキが多く、除去呪文が溢れかえっていますよね。それは気になりませんか?」
マルク「あまり気にならないかな。むしろ、こちらの《ギトゥの溶岩走り》や《損魂魔道士》に、貴重な《ヴラスカの侮辱》や《無許可の分解》を唱えてくれるのなら、大歓迎さ」
赤単の最終兵器、《ケルドの炎》
――「そして、最も注目すべきカードは《ケルドの炎》です。この英雄譚を、まさかプロツアーのスタンダードで目にするとは思いませんでした」
マルク「リミテッドのカードだと思ったかい? これこそが、赤単の最終兵器だよ」
――「では、改めてテキストを確認して行きましょう。まずは第1章、“あなたの手札を捨てる”……これは、一見すると大きなデメリットですよね?」
マルク「いや、そんなことはないんだ。ハンド・アドバンテージを失う、とは一切書いていない。テキストを読み替えるのさ。あなたは、《熱烈の神ハゾレト》で攻撃できるとね」
――「なるほど! どれだけ手札が多くても、《熱烈の神ハゾレト》を動かすことができるわけですね」
マルク「このデッキで一番困るのは《山》を引き過ぎることなんだ。呪文はすべて軽いから、一気に消費できる。でも《山》は1ターンに1枚しか消費できないからね。手札が《山》だらけで、《熱烈の神ハゾレト》が動けなかったときに、《ケルドの炎》を引いて勝ったこともあるよ。それに、《ケルドの炎》を唱えるころには、手札が空っぽになっていることがほとんどなんだ。だから、1つ目の能力はメリットしかないよ」
――「そして、第2章の”カードを2枚引く”で手札を補充するわけですね」
マルク「そうだね。そして、第3章だ。テキストは長いけど、簡単に言ってしまえばパーティータイムの始まりってことさ」
――「”このターン、あなたがコントロールしている赤の発生源がパーマネントかプレイヤーにダメージを与えるなら、代わりに、それはそのパーマネントやプレイヤーに、その点数に2を足した点数のダメージを与える”……」
マルク「見てのとおり、このデッキは赤の発生源だらけなんだ。《魔術師の稲妻》は1マナ5点。《熱烈の神ハゾレト》の能力も2点プラスされる。《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》は、トークンと合わせて7点を叩き込むよ。そして《ゴブリンの鎖回し》は3点をばら撒くんだ」
――「……パーティですね」
マルク「ここまで来てしまえば、物語は最終章さ」
サイドボードの、気になるあいつ
――「さて、次はサイドボードですね。《反逆の先導者、チャンドラ》、《ウルザの後継、カーン》、《削剥》、《栄光をもたらすもの》、《不死身、スクイー》……《不死身、スクイー》!?」
マルク「ああ、《不死身、スクイー》さ。これも意外なカードかもしれないね。だけど、非常に強力だよ。なんと言っても、不死身なんだから」
――「どういった相手に対してサイドインするのですか?」
マルク「どんなデッキでも活躍はできるけど、一番良いのは青白コントロールと対戦するときだね。《排斥》? わかった、じゃあ唱えるよ。《封じ込め》? 問題ないね。《燻蒸》、またライフを削るから大丈夫! といった具合だ」
――「……不死身ですね」
マルク「名前どおりの能力だよ。《反逆の先導者、チャンドラ》や《ウルザの後継、カーン》といったカードをサイドインして、ドローを進めることもできる。《栄光をもたらすもの》は緑系のアグロに対して有効だ。5マナは重いから、《山》とセットでサイドインする。あと、青白コントロールを相手にするときは《火による戦い》をサイドインするよ」
――「とても強力なカードですよね。そのまま唱えても良いと思いますが、『キッカー』で唱えられるチャンスはありますか? マナを用意するのは相当大変だと思いますが……」
マルク「通常では無理だろうね。だから、相手に手伝ってもらうのさ。《残骸の漂着》でマナ加速をさせてもらって、大火力を叩き込むんだ」
――「な、なるほど……相手に手伝ってもらう、というのは考えていませんでした」
マルク「とは言っても、無闇に攻撃を仕掛ければ良い、というわけではないんだ。アグレッシブなデッキを使うときは、じっくりと立ち止まることも重要だ。逆に、コントロールを使うならば、アグレッシブに攻め込むことも重要なんだよ」
デッキビルダーの心得
――「今回もそうですが、魅力的なデッキをいくつも作っていますよね。毎回感動しています。“スタンダードで《モックス・アンバー》を使いこなそう”は、素晴らしい記事でしたし、つい最近も《死の影》をレガシーで活躍させる方法を教えてくれたばかりですよね。どうやったら、あなたのようなデッキビルダーになれるのですか?」
マルク「そうだな……僕は常に、環境の弱点を探すんだ。各環境には、様々な特徴がある。長所もあれば、短所もあるよね。クリーチャーが強かったり、アーティファクトが弱かったりする。その”弱点”を探すんだ」
――「環境の弱点……ということは、今回のデッキも弱点を突いているわけですね?」
マルク「もちろんだよ。僕が見つけた環境の弱点、それはライフゲイン手段が乏しいということだ」
――「たしかに限られていますね。青白コントロールも《副陽の接近》を利用せず、《ドミナリアの英雄、テフェリー》で勝つタイプも出ているくらいですから」
マルク「そうだね。この環境に《スフィンクスの啓示》はない。削るべきライフは、20点だ。つまり、最速で20点を削ることができれば良いんじゃないか? とね。そこから、色々なカードを探したよ。それこそ『リミテッドでしか使われないでしょ?』なんていうカードも試したのさ」
――「なるほど。そうやってあらゆるカードを試すからこそ、素晴らしいデッキが生まれるのですね」
マルク「デッキビルダーにとって、最も嫌悪すべきものは先入観なんだ。誰かの評価に引きずられたら、アイディアは消し飛ぶ。いや、そもそも生まれないだろうね。僕が《ケルドの炎》を見つけることもなかったはずだよ」
トビアシュ先生の次回作!?
デッキビルダーの心得を教えて貰い、「さてそろそろ最後の質問を……」
と思ったときのことだ。マルクはデッキを見つめながら、真の秘密兵器について教えてくれた。マルク「さっき、弱点を探す、と言ったよね?」
――「ええ。環境の弱点、この環境で言えば”ライフゲインが少ない”という点を見つけて、それを突く、ですよね?」
マルク「そう、それが弱点だ。だけど、弱点は新たな弱点を生むんだ」
――「新たな弱点……?」
マルク「ライフゲインが少ないという弱点は、誰もが気付いているんだ。僕のデッキを含む赤単や赤黒は、20点のライフを削り切ることに特化している。つまり、30点のライフは削れない」
――「なるほど。《副陽の接近》を採用した青白コントロールが復権し始めているのは、そういった理由もあるのでしょうか?」
マルク「そうかもしれないね。さて、仮に、だ。どうやっても削り切れないくらいライフゲインできるとしたら?」
――「……アグロデッキたちは半泣きで攻撃してくるでしょうね。まさか、何かデッキ案が?」
マルク「もちろんだよ! 実は、そっちのデッキが本命だったんだ。今回は調整が間に合わなくて、この《ケルドの炎》を使ったんだけどね。赤系のアグロだらけだったから、もしかしたら良い結果を残せたかもしれないな。プロツアーも終わったし、そろそろそのデッキを調整することにするよ」
――「それは、どんなデッキなのですか?」
マルク「青単『ストーム』さ。《霊気貯蔵器》入りの」
――「!?」
マルク「来週は、グランプリ・コペンハーゲン2018に参加するんだ。うまく形にできたら、記事を書こうかな?」
稀代のデッキビルダー、マルク・トビアシュ先生の次回作にご期待下さい!
-土地 (21)- 4 《ボーマットの急使》
4 《損魂魔道士》
3 《ギトゥの溶岩走り》
3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
2 《地揺すりのケンラ》
4 《ゴブリンの鎖回し》
3 《熱烈の神ハゾレト》
-クリーチャー (23)-
3 《火による戦い》
2 《栄光をもたらすもの》
2 《チャンドラの敗北》
2 《反逆の先導者、チャンドラ》
1 《山》
1 《不死身、スクイー》
1 《ウルザの後継、カーン》
-サイドボード (15)-
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