Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2018/10/26)
はじめに
自分の強みについて仲間と話すことがある。新しいリミテッドの環境が得意という人もいれば、デッキ構築やプレイングが得意だという人もいる。競技マジックシーンにおける俺の最大の強みは「モダンとかレガシーのような環境が固まっているフォーマットで、正しいデッキを選び、サイドボードを調整できること」だと思っている。
世の中に出回っている記事は、1からデッキやサイドボードを組み立てていくことに焦点を当てているものが多いけど、これは実情を無視している。たいていのプレイヤーはデッキリストをコピーすることから始めるんだ。だから今回の記事の目的は「デッキを選ぶときに重要なことを理解してもらい、次の大会で使う75枚を完成させること」だ。また、俺が最も慣れ親しんだフォーマットであるモダンを記事の題材にする。記事の構成についてだけど、まずは理論をいくつか紹介したうえで、俺がモダンのグランプリ・ストックホルム2018でトップ8に入ったときのジェスカイコントロールにその理論を当てはめてみるというものにしてある。記事の終わりには最新版のジェスカイコントロールのリストをおまけとして載せているから楽しみにしていてくれ。
デッキ選択
モダンは環境に存在するデッキの種類が固まっているけど、その種類は多いんだ。良いデッキというのは環境に残るからね。もちろんイノベーションの余地がないっていうわけじゃない。最近でいうと、《弾けるドレイク》がブルームーンで使われるようになったよね。知らない人はこの記事を読んでみてくれ。「モダンは環境に存在するデッキの種類が固まっている」っていったけど、これがどういうことかもう少し説明しておこう。つまり、ゲーム開始から数ターン経過すると、相手が何のデッキを使っているのかわかり、自分はその相手に対してどういうプランをとればいいのかわかるっていうことなんだ。モダンにおいては自分のデッキを知ること、想定されるあらゆる相手とのプランを知ることが本当に大事なんだ (モダンのデッキは種類が多いけどね)。
デッキ選択をする上でいつも頭を抱えることがある。それは「使い慣れたデッキを使うか、あるいは現在のメタに合っているであろうデッキを使うか」だ。あくまで平均的な話ではあるけど、最低でも40マッチはグランプリに持ち込むデッキで練習したい。少なくとも俺はモダンのデッキに慣れるにはこれぐらいの数が必要だ。慣れるというだけであって、完璧に使いこなせるようになるっていう意味ではない。デッキを理解し、さまざまなマッチアップのプランを理解し、ちょっとした小技を身につけ、サイドボーディングも理解する。そのためには40マッチぐらいはどうしても必要になるんだ。だから新しいデッキを練習するとどうしても最初の方は勝てないと思う。それは仕方のないことなんだ。
じゃあ具体的にデッキをどう選んでいくかっていう話なんだけど、俺はまずここ1か月の大会の結果に目を通す。現状のメタゲームを見て、使い慣れたデッキで行くべきか、それ以外のデッキで行くべきかを考えるんだ。するとここで新たな疑問が湧いてくる。「メタゲームってどういうものなんだ?」という疑問だ。プロツアーやグランプリといった大きな大会で安定してトップ8に入るデッキを使うプレイヤーが多いのは当たり前だけど、そういった大会で新しいデッキが1回でも結果を残すと、そういうデッキを使いたがるプレイヤーもいる。新しいデッキっていうのは、必ずしも安定して結果を出すデッキよりも優れているというわけではないんだけど、最初の数週間は相手がどう戦えばいいのかわからないから結果を残しやすいんだ。
ひとつ例をあげるとすれば、グランプリ・シャーロット2015でどこからともなく結果を残した《御霊の復讐》デッキだ。
2 《山》
2 《血の墓所》
4 《血染めのぬかるみ》
4 《悪意の神殿》
2 《黒割れの崖》
-土地 (19)- 4 《猿人の指導霊》
4 《グリセルブランド》
2 《怒れる腹音鳴らし》
4 《世界棘のワーム》
-クリーチャー (14)-
その翌週にグランプリ・コペンハーゲン2018があったんだけど、4回もこのデッキに当たったんだ。このデッキが多いだろうなと予想はしていて、有利に戦えるような準備をしていた。だからこそ初めてモダンのグランプリでトップ8に入れたんだ。
もうひとつ最近の例をあげておくと、マット・ナス/Matt Nassが使った《クラーク族の鉄工所》デッキも突如として流行ったデッキのひとつだ。
そしてメタゲームには必ず使い慣れたデッキを使い続けるプレイヤーが1%は存在している。青黒ライブラリーアウトやエルドラージトロンと当たることもある。そこで負けてしまうと、不快な気持ちになるかもしれないけど、受け入れるしかないんだ。
俺の使い慣れたデッキは5色人間とグリクシス・デルバー (ジョークじゃないよ) だ。この2つのデッキであれば上手く使いこなせるから、テスト時間がないとしたら、メタゲームに関係なくこのどちらかを使うね。
今年のグランプリ・プラハ2018が終わって5色人間にちょっと飽きが出始めていたし、グランプリ・ストックホルムまで2週間あったから、メタゲームを分析して新しいデッキで勝てるかどうか考えたんだ。分析の結果、ストックホルムで人気のデッキはこんな感じだろうと予想した。
5色人間
直近のプロツアーでトップ4に2つ、グランプリ・プラハでトップ8に2つ入っていたし、ここしばらくは人気のアーキタイプであるから、また意識を強めなければならないデッキだと考えた。実際のグランプリでは1回も当たらなかった。
《硬化した鱗》親和
さっき例としてあげた《クラーク族の鉄工所》デッキの立ち位置に近いデッキ。新しいデッキがグランプリで結果を残したので、使いたがっている人が多いと予想した。実際のグランプリでは2回当たった。
バントスピリット
かなり最近のデッキであり、グランプリ・プラハでトップ8に2つも入っていたから、ストックホルムでも人気のデッキだろうというのは明らかだった。ただ、このデッキを使うプレイヤーは以前に5色人間を使っていた人が多いということをもっと意識すべきだったね。実際のグランプリでは2回当たった。
青白コントロール
プロプレイヤーに「モダンのベストデッキは何だと思う?」って聞いてみると、大体は青白コントロールというね。マジックオンラインでも人気のデッキだ。実際のグランプリではスイスラウンドだけで3回当たった。
仮想敵を見据えたデッキ選択
仮想敵が決まったところで、この4つのデッキに対して相性が良いものは何かを考えた。すると5色人間・《硬化した鱗》デッキ・バントスピリットは弱点に「ある共通点」があった。それは「マナコストの軽い妨害に弱い」というものだ。5色人間がジェスカイコントロールを最も苦手としているのはまさにこれだ。青白コントロールと何回かマッチしてみたが、相性が悪いという印象は受けなかったので、グランプリ前の1週間をこのデッキの練習に使うことにした。
世界一のジェスカイコントロール使いといっていいであろうハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguezがグランプリ・プラハ2018でトップ8に入っていたから、喜んで彼のリストを叩き台として使わせてもらうことにした。
1 《平地》
1 《山》
2 《神聖なる泉》
2 《蒸気孔》
4 《溢れかえる岸辺》
4 《沸騰する小湖》
3 《天界の列柱》
1 《氷河の城砦》
1 《硫黄の滝》
3 《廃墟の地》
-土地 (25)- 4 《瞬唱の魔道士》
-クリーチャー (4)-
4 《流刑への道》
3 《稲妻》
1 《荒野の確保》
3 《稲妻のらせん》
3 《論理の結び目》
1 《否認》
2 《電解》
4 《謎めいた命令》
1 《神の怒り》
1 《至高の評決》
2 《アズカンタの探索》
2 《ドミナリアの英雄、テフェリー》
-呪文 (31)-
2 《祖先の幻視》
2 《払拭》
2 《天界の粛清》
1 《ヴェンディリオン三人衆》
1 《悪斬の天使》
1 《黎明をもたらす者ライラ》
1 《軽蔑的な一撃》
1 《否認》
1 《残骸の漂着》
-サイドボード (15)-
サイドボーディング
サイドボードはモダンにおいて、いやマジック全体を通じて非常に重要な要素だ。なぜなら、サイドボード後のゲームの方が多いからだ。サイドボードとサイドボードプランを完璧にしてこそマッチの勝利を手にすることができる。だからこそ、こういったことは絶対に許せないんだ。「なんでそのカードをサイドボードに入れているの?」「だってあのプレイヤーが入れていたから」うーん、そうだな、仮に「あのプレイヤー」が世界チャンピオンだったとしてもこれはダメなんだ。だってサイドボードに入っている理由がわからないのに、どうやってそのカードのポテンシャルを最大限に引き出せるっていうんだ?
ぱっと見でそのカードが入っている理由がわからないとき、俺はそのカードを抜いてプレイしてみる。そのカードの存在を忘れろっていう意味ではなく、プレイしているときにそのカードのことは念頭に置いておくんだ。そしてそのカードの必要性が理解できたら、またデッキに入れなおすんだ。もうひとつアドバイスをするとすれば、コピーしようとするなら目を通すデッキリストの数を増やして、サイドボードの選択肢を比較した方が良い。
たとえば、コピーしようとしていたデッキのサイドボードにアーティファクト対策がたくさんあったとしよう。でもそれは使用者が親和や《クラーク族の鉄工所》デッキ、《硬化した鱗》デッキ、《罠の橋》が多いと予想したからかもしれない。マジックオンラインのリーグで5-0したデッキリストをコピーするのはもっと危険だ。そのデッキが倒した5つのデッキは必ずしも全体のメタを表しているわけではないからだ。サイドボードは自分が予想するメタゲームに合わせて調整しよう。
「当たり前なことを言っているだけじゃないか」と思うかもしれないが、デッキリストを丸々コピーしてしまうというのは、グラインダーが最も陥りがちな罠のひとつなんだ。サイドボードをメタゲームに合わせるというのは骨の折れることだから、同じデッキを使う友人を見つけると良い。そうすれば大会に向けて一緒に準備できるし、作業量も大幅に削減することができるはずだ。また、誰かと一緒に練習するというのは、一人でやるよりもずっとおもしろいし、退屈にならずに済む。
グランプリ・ストックホルムに向けて、ハビエル・ドミンゲスのデッキリストを叩き台にさせてもらったわけだけど、結果だけ見ればサイドボードは彼が2週間前に使ったものから1枚しか変わらなかった。《外科的摘出》を1枚減らし、《儀礼的拒否》を1枚入れただけだ。
結果的に1枚しか変わらなかったけど、他のカードを試さなかったっていうわけじゃないんだ。実際のところ、最初に数リーグやった時点ではサイドボードは別物だった。試してみたものを書いておこう。
《安らかなる眠り》
マジック25周年記念プロツアーの結果を受けてブリッジヴァインが話題のデッキになったから、ハビエルがブリッジヴァインにしっかりと勝ちきりたかったであろうことは明らかだ 。ただ、俺はそろそろブリッジヴァインが減るだろうと予想していたから、ドレッジデッキに対して《外科的摘出》よりも効果的に思える《安らかなる眠り》を試してみることにした。でもトロンとの対戦において、《外科的摘出》は《廃墟の地》とのコンボがあるから必要なカードだったんだ。
《呪文貫き》
コントロールミラーで強く、《精神を刻む者、ジェイス》や《ドミナリアの英雄、テフェリー》をカウンターできるからサイドボードに入れてみた。でも《精神を刻む者、ジェイス》や《ドミナリアの英雄、テフェリー》を4マナ、あるいは5マナしかない状態で唱えるような人がいるはずもなかった。また、《呪文貫き》は1枚ぐらいであれば入れておいても良いかもしれないけど、カウンター合戦で勝つために入れているのであり、それなら《払拭》の方が断然強い。
《減衰球》
コンボデッキ相手に対して《ヴェンディリオン三人衆》よりも優秀だろうと思って試した。でもすぐにわかったんだけど、コントロールプレイヤーが青赤ストームや《クラーク族の鉄工所》デッキに対して余裕をかましている暇なんてなく、相手を殴り切るという能動的なプランが必要なんだ。《ヴェンディリオン三人衆》は相手の手札を破壊しつつ、クロックをかけられるため、相手にコンボを強制的にスタートさせることができるという強みがあったんだ。
《黎明をもたらす者ライラ》を抜いてみた
《黎明をもたらす者ライラ》と《悪斬の天使》がサイドボードに入っていることが周知の事実になってしまったため、天使を2枚入れてもダメだろうというのが第一印象だった。アグレッシブなデッキが青白コントロールやジェスカイコントロールを相手にする場合、絶対にこの天使たちが入ってくると予想できてしまうはずだからだ。でも実際には、そういったデッキがサイドボード後も天使たちを対処できる手段を入れたままにしておくのは簡単ではなかったんだ。
例えば、5色人間を使っていて《反射魔道士》や《四肢切断》を残しておきたいだろうか?入れるとしても何枚入れる?コントロールを使うプレイヤーは相手よりも多くカードを引くため、相手が《四肢切断》を2枚入れてきたとしても、統計上は相手が引く《四肢切断》の枚数よりも、こちらが引く天使の枚数の方が多い。そして天使が除去されなければ、たちまちゲームに勝つことができる。
最新版のジェスカイコントロール
現時点では、ドレッジの《這い寄る恐怖》が本物かどうかわからないので様子を見るしかない。もし本物であればジェスカイコントロールを使わないことをお勧めする。最悪のマッチアップだからだ。
今のところメインデッキに加えた変更点はひとつだけで、ドレッジ相手に決定打となる《残骸の漂着》を1枚入れただけだ。《暗殺者の戦利品》が登場してしまったので、個人的には《精神を刻む者、ジェイス》よりも《荒野の確保》の方が好みだ。
サイドボードに関してはいくつか変更を加えた。《硬化した鱗》デッキの流行も大分落ち着いてきたので、《儀礼的拒否》を抜いて追加の《外科的摘出》を入れた。また、バーンやジャンドといったデッキが増えてきたので、サイドボードに小さな変更を加えている。
まとめ
練習する時間があるなら、使い慣れたデッキよりもメタゲームに合ったデッキを選んだ方がはるかに実りがある。コピーするデッキリストを批判的に検討し、予想されるメタゲームに合ったサイドボードに調整しよう。正しいデッキを選ぶことは競技マジックにおいて重要な要素のひとつだ。プレイスキルが群を抜いてあるわけでもないのにゴールドレベルプロになれた俺が言うんだから間違いないさ。
何か聞きたいことがあったらTwitterやFacebookで連絡をとってくれ。
それではまた会おう。
ブランコ