Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2018/11/06)
《這い寄る恐怖》がもたらした「光」
さかのぼること1か月半。グランプリ・ストックホルム2018。私はトマシュ・ソドミルスキ/Tomek Sodomirskiと話していた(彼はSodeqというMagic Onlineでのアカウント名の方が有名かもしれない)。彼が言うには『ラヴニカのギルド』から”ある新しいカード”が公開されたという。
そのカードとは、《這い寄る恐怖》だ。ドレッジで使いたいカードだとすぐに直感した。問題は、既存のデッキリストのどの枠に入れるかということだった。《這い寄る恐怖》が入ったことでドレッジは多少安定性を損なったものの、それ以上の爆発力を手に入れた。以前までは3ターン目までに勝つことは現実的ではなかった。しかし、《這い寄る恐怖》は《恐血鬼》や《燃焼》と非常に相性が良く、3ターンキルが現実的になったのだ。《這い寄る恐怖》が数回誘発したうえで《燃焼》を1回撃てば、《恐血鬼》は速攻をもつようになる。そうすれば1回の戦闘フェイズで勝つことも可能だ。平均してみれば、キルターンが以前より約1ターン分早くなったといえるだろう。
新たに手にしたこの爆発力は、多くのマッチアップに変革をもたらした。アイアンワークスや感染、ストームといったデッキとスピード勝負できる可能性が飛躍的に高まったのだ。以前まで、こういった相手との相性は非常に悪いことが多かった。1ゲーム目ならなおさらだ。しかし、《這い寄る恐怖》がこういった「どうしようもなかった相手」とのマッチアップをはじめとして、大きな変化をもたらしてくれたのだ。
この変革により「どうしようもなかった相手」に対してサイドボードの枠を以前ほど割かなくてよくなった。役に立たないカードも減り、サイドアウトしたいカードもあまりなくなってきた。ドレッジは抜けないカードが以前よりも増え、サイドボードでいじれる余地が減ったのだ。
「サイドボードの入れ替えをいかに少なくするか」というのも重要であることが多いように思う。過剰なサイドボーディングをしてしまいがちな理由については、先日Hareruya Prosのピオトル・グロゴゥスキ/Piotr Glogowski が「表面的なサイドボーディングの危険性と機会費用」という記事で詳細に解説してくれている。ぜひご覧になってほしい。彼の記事でいわんとしていることは、ドレッジを使うならぜひ知っておくべきだ。サイドボーディングというもの自体を知るという意味でも重要だし、デッキ構築という場面においても重要なのだ。たとえば、サイドボードに《虚空の力線》を4枚入れるのは以前よりも致命的な構築ミスになってきている思う。これについては後で触れよう。
マジック25周年記念プロツアーでは、アイアンワークスに対抗するため、サイドボードに《古えの遺恨》を4枚、《悪戦+苦闘》を1枚採用していた。アイアンワークスは人気のデッキのひとつであると予想していたため、1本目は相性が最悪であったこのマッチアップには万全のサイドボードを用意したかったのだ。《這い寄る恐怖》が登場し相性が改善されたことで、《悪戦+苦闘》は完全にいらないと思うし、《古えの遺恨》も4枚もいらないだろうと思う。
また、《這い寄る恐怖》はバーンに対して効果が抜群だ。以前はタイトなダメージレースを要求されたが、《這い寄る恐怖》のおかげで負ける方が難しくなった。ライフ回復の方に目が行く人が多いようだが、3点ダメージというのもダメージレースにおいて重要なのだ。
《這い寄る恐怖》がもたらした「影」
まずアップデートしたデッキリストをご覧いただこう。
4枚の《這い寄る恐怖》を入れるために抜いたカードは、土地・「発掘」カード・手札入れ替え呪文をそれぞれ1枚ずつ、そして《燃焼》を1枚サイドボードへと移した。だが、《這い寄る恐怖》は3枚におさえて、あいた枠に土地・「発掘」カード・手札入れ替え呪文のいずれかを戻してもいいと考えている。《燃焼》は2枚で事足りることが多いが、クリーチャーデッキに対してはやはり3枚欲しいため、3枚目の《燃焼》をサイドボードに移した。
《這い寄る恐怖》で抜いたカードの影響は大きく、デッキの安定性が下がってしまった。ドレッジでは、「発掘」が連鎖していくことが重要だ。そのため、初手に「発掘」カードと手札入れ替えカードを最低でもそれぞれ1枚ずつ必要なのだ。どれだけ他の手札が強かろうと、この2種のカードがどちらか欠けているだけでキープできなくなるし、手札入れ替えの呪文を唱えられない土地基盤でもキープできない。また、「発掘」カードを1枚抜いてしまったため、「発掘」の連鎖が途切れ、結果として負けることも増えてしまう。
「発掘」の連鎖が途切れてしまうことは、特に《安堵の再会》にとって大きな意味がある。「発掘」できないと普通にドローしてしまうことになるため、《安堵の再会》のカードの価値大きく下げてしまうのだ。
《暗殺者の戦利品》の実態
《暗殺者の戦利品》が公開されたとき、これは確実に3枚、4枚入るカードだろうと思った。相手が使ってくるあらゆる対策カードを破壊することができるからだ。 しかし、今となっては1枚すらいらないかもしれないと思っている。確かに万能なカードではあるが、色拘束が厳しく、2マナと重いうえに、相手に土地を与えてしまうのだ。
《虚空の力線》を使ってくる相手とのゲームで勝敗を分けるのは、相手が手札破壊呪文を使ってくる前に《虚空の力線》を破壊できるかどうかだ。1マナの《自然の要求》であればそれは可能だが、2マナの《暗殺者の戦利品》はそれができない。ブリッジヴァインやホロウワンといった《虚空の力線》を使ってくるデッキに対して何より重要なのは、《虚空の力線》を即座に破壊することなのだ。そうでなければこちらが動き出す前に負けてしまうだろう。
初手に《山》が来てしまった場合にどうなるかは容易に想像がつくだろう。《暗殺者の戦利品》が唱えられないのだ。また、相手に土地を与えてしまうというデメリットも非常に痛手だ。
しかし、《暗殺者の戦利品》はサイドボードにまだ1枚は残している。黒緑系のデッキが使ってくる《虚空の力線》や《漁る軟泥》に対して必要であるし、万能な除去としても1枚は欲しいのだ。とはいえ、一番最初にこのカードを見たときの評価とはほど遠いものだった。
《這い寄る恐怖》がもたらした「闇」
《這い寄る恐怖》の一番良くないところは、どうしようもないほどにドレッジが対策されてしまっていることだ。《這い寄る恐怖》が話題になったことで、ドレッジを使い始めたプレイヤーがあまりにも多すぎた。結果として、多くのプレイヤーが対策カードをこれでもかというほど使うようになってしまい、ドレッジの立ち位置が悪くなってしまったのだ。実際のところ、グランプリ・アトランタ2018でドレッジを使うのは非常に危険な選択肢だろう。
直近のStarCityGames.com Openの結果をご覧いただければわかると思うが、結果を残しているのはドレッジへの対策カードを大量に入れているデッキか、そもそもドレッジに対して強いデッキのいずれかだ。決勝に残ったのはいずれも《精力の護符》デッキであり、メインデッキから《ボジューカの沼》をサーチできるようになっているうえ、《シミックの成長室》などのバウンスランドで再利用できるようになっている。また、《精力の護符》デッキは速いコンボデッキであり、ドレッジとしては介入する余地がほどんどない。
『ラヴニカのギルド』が発売されるまでは、5色人間などがサイドボードに墓地対策のカードをまったく入れていないことは珍しくなかった。ところが、いまや《墓掘りの檻》2枚も入れており、さらに《貪欲な罠》を2枚採用している。
ドレッジは《虚空の力線》を使うべきか
ドレッジが流行したことを受けて、ドレッジ自身もサイドボードに《虚空の力線》を4枚入れることが増えてきた。だが、私は断固として反対だ。
ホロウワンやブリッジヴァインといった相手には《虚空の力線》は有効だが、相手も同様に《虚空の力線》を使ってくる。ここで気をつけるべきなのは、ドレッジの方が《虚空の力線》を除去する必要性がはるかに大きいということだ。仮にお互いに《虚空の力線》を出した場合、おそらくホロウワンやブリッジヴァインが勝つはずだ。だからこそ、《自然の要求》を4枚入れることが最優先なのだ。
では、《自然の要求》に加えて《虚空の力線》を入れた場合、メインデッキから何を外すというのだろうか?確かに《虚空の力線》は単体としてみれば優秀であるが、デッキの他のカードとシナジーをするわけでもないため、能動的なプランをとれるような構成にはならない。負けることを避けようとしても、勝てなくなるだけだ。このような場合には、「攻撃は最大の防御」なのだ。
つまり《虚空の力線》をサイドボードに入れたとしても、ドレッジミラーでしか有効ではないのだ。サイドインしてしまうと、デッキが機能不全になって負けてしまうゲームが増えるだろう。そのため、本来であれば《虚空の力線》は1枚も入れたくない。
しかし《虚空の力線》を1枚もいれていないと、相手は《自然の要求》をサイドインしなくて済むようになってしまう。だが、《虚空の力線》を1枚でもプレイするなり「発掘」で墓地に落とすなりすれば、相手としては《自然の要求》を入れたくなるはずだ。なぜなら私が《虚空の力線》を1枚入れるよりも4枚入れている可能性の方がはるかに高いからだ(この論理については以前私が書いた「相手のデッキの構成を推測しよう」という記事を参照してほしい)。
- 2018/07/10
- 相手のデッキの構成を推測しよう
- Matti Kuisma
そういうわけで、個人的には《自然の要求》も《虚空の力線》も4枚ずつ入れるのではなく、《自然の要求》4枚・《虚空の力線》1枚という構成の方がいいと思う。実際のところ、それぞれ4枚ずつの構成と《自然の要求》4枚・《虚空の力線》1枚の構成で戦った場合、後者の方が有利だと思われる。なぜなら、過剰にサイドボーディングしてしまうと、ドレッジのもともとのゲームプランが成り立たなくなり、相手よりも展開が遅くなってしまうからだ。
結論
《這い寄る恐怖》が加わったことで、ドレッジが強化されたことは間違いない。ただ、しばらくはドレッジを使わない方がいいだろう。ドレッジ以外のデッキをグランプリ・アトランタ2018に持っていければよいのだが、別のデッキを用意するほどの余裕は私には残されていない。数週間たってメタゲームが多少落ち着いてくれば、ドレッジはモダン屈指のデッキになっていくだろうと信じている。
私がもっとも懸念しているのは、ドレッジが強くなりすぎて、対策カードを十分に用意しないとドレッジに勝てないデッキが増えてしまうことだ。そうなれば、ゲームとしては不健全であり、面白くなくなってしまう。ドレッジのせいで環境が歪んでしまうと、メタゲームの多様性が損なわれる結果になってしまい、また禁止される可能性が出てくるのだ。そうならないことを私は願っている。
しかし、対策カードをたくさん入れる以外にもドレッジに勝つ方法はある。使い慣れたデッキがドレッジに相性が悪いからといって、ドレッジに相性のいい別のデッキに乗り換えることが、モダンをプレイする人にとっては容易ではないことはわかっている。しかし、《這い寄る恐怖》のおかげで多少スピード勝負できるようになったものの、ドレッジにとって《精力の護符》デッキやストーム、白緑オーラはいまだに厳しいマッチアップなのだ。StarCityGames.com Openの結果が示すように、ドレッジに強いこの3つのデッキはますます人気になっていくだろう。
また、墓地に依存しないコンボデッキは、墓地対策のカードをサイドボードにたくさん入れてしまっているプレイヤーを食い物にすることができるはずだ。
-マッティ