あなたの隣のプレインズウォーカー 第74回 ~ラヴニカで何が起こっているのか~

若月 繭子

 この先には2018年1月初旬発売の書籍『The Art of Magic: the Gathering: Ravnica』(もしくは「ラヴニカアートブック」と表記します)を資料とする「ネタバレ」が含まれていることをご了承下さい。

書籍「The Art of Magic: the Gathering: Ravnica」P.209より訳

 結局のところ、ギルドマスターへと他次元の存在を隠すというラルの試みは完全に不必要なものだった。多元宇宙はラヴニカよりも広大でありその間を旅する能力を持つ者達が存在することを、自称「竜英傑(ドラコジーニアス)」ニヴ=ミゼットは既に知っていたのである。

竜英傑、ニヴ=ミゼット

 ですよねーーーーーー

 こんにちは、若月です。今年もよろしくお願い致します。

 『ラヴニカの献身』遂に発売!今回はもう5つのギルド、アゾリウス評議会・グルール一族・オルゾフ組・ラクドス教団・シミック連合が登場。ギルド間の平和を維持する「ギルドパクトの体現者」ジェイスの長い不在で不穏な情勢が続くラヴニカにおいて、全ギルドがどのような状態にあるのかがわかってきました。

『ラヴニカ』アートブック 表紙

『ラヴニカ』アートブック 表紙

 さらには恒例のアートブックも発売、こちらにはウェブではまだ公開されていないプレインズウォーカー達の状況や「メインストーリー」の概要も書かれていました。次セット『灯争大戦』への流れも……このセット名、アートブックを読むとなんとなく意味がわかります。『ラヴニカのギルド』、『ラヴニカの献身』の発表からずいぶん間があいたので、私はなんとなく「『新たなるファイレクシア』、『アヴァシンの帰還』みたいないわゆるネタバレタイトルなんだろうな」と思っていましたが、ネタバレのようなそうでないような?

 今回は『ラヴニカの献身』のカードとアートブックを眺めながら色々と探ります。メインストーリーの核心には触れているかもしれないし触れていないかもしれない。また引き続き、便宜上各ブロック・セットを以下のように表現することがあります(公式の呼称ではありません)。

  • ○『ラヴニカ:ギルドの都』ブロック(2005-2006年):ラヴニカ一期、もしくは単に「一期」
  • ○『ラヴニカへの回帰』ブロック(2012-2013年):ラヴニカ二期、もしくは単に「二期」
  • ○『ラヴニカのギルド』『ラヴニカの献身』『灯争大戦』(2018-2019年):ラヴニカ三期、もしくは単に「三期」

1. 暗殺者の戦利品

 今回、とあるカードに「あれ?」と思った人は多いのではないでしょうか。

スフィンクスの眼識新プラーフのスフィンクス

《スフィンクスの眼識》 フレイバーテキスト

「お前の真の目的に気付いていないと思っているのか? お前の真の主人のこともだ。大判事よ。」

《新プラーフのスフィンクス》 フレイバーテキスト

アゾリウスのスフィンクスは法の規定に忠実なのであって、特定のギルドマスターにではない。たとえそれが自らと同族であってもだ。

 ……あれ、イスペリア? 死んだはずでは?

至高の審判者、イスペリア暗殺者の戦利品

 《暗殺者の戦利品》、これはイスペリアがヴラスカによって石化されてしまった姿です。なんで今さらそんな説明をって?いやいやフレイバーテキストから明白でも実際そうだと明言されたわけではありませんでした。Magic Story『ラヴニカのギルド』編からも「イスペリアが暗殺された」的な情報は一切流れてこず。ですが、今回ラヴニカアートブックにて確証が取れました。これで一安心、いや場面は安心ってレベルじゃないけど。

 じゃあ《スフィンクスの眼識》はイスペリアっぽいけれどどういう事なんだ。《新プラーフのスフィンクス》のフレイバーテキストからも、このカードが登場している時点でのギルドマスターはスフィンクス、つまりはイスペリアだとわかります。どうも『ラヴニカのギルド』と『ラヴニカの献身』は同時に進行しているっぽい?

 もしかしてそれで「注目のストーリー」に通し番号がふられていないんでしょうか。またヴラスカはアゾリウス評議会へと並々ならぬ怨恨を抱いていることから、それを晴らすための行動だったのは明白です。が、そこにもう一つ裏があるとアートブックに説明されていました。

書籍「The Art of Magic: the Gathering: Ravnica」P.214より訳

 ボーラスの要求と個人的復讐の両方を果たすべく、ヴラスカはイスペリアを石化した。

 以前にも書きましたが、アゾリウス評議会の歴代ギルドマスターは多元宇宙やプレインズウォーカーの存在を知っています。そして《スフィンクスの眼識》フレイバーテキストにある「真の目的」、「真の主人」。つまり、「ボーラスは自分のことを知っている存在を始末させた」のかもしれません。

 それにしてもイスペリア。カードは昔からありましたが、物語的にはどちらかというと恵まれませんでした。一期のストーリーには未登場、二期での出番は少しあったものの名前と気配だけのアゾールの方が目立っていたくらいです。合掌。

2. ケイヤとテイサとオルゾフ組

 第48回(掲載:2016年9月)にこんなことを書いていました。割とおまけ的な気分で。

でも例えば《幽霊の特使、テイサ》がケイヤの能力を知ったら絶対オブゼダートの始末を依頼するよなあ。

ケイヤの怒り

《ケイヤの怒り》 フレイバーテキスト

テイサがオブゼダートの会議を召集した。ケイヤがそれを終わらせた。

 ……そんな感じになるとか!!本当に知らなかったんですよ信じて!!しかし「怒り」って表情じゃないよねこれ楽しんでるよね。まあきっとクリーチャー全体除去をラス/Wrathと呼ぶ古い伝統ということで。ケイヤが今回のラヴニカに来るらしい、とわかった時点で「これはオブゼダートヤバいのでは」と言われていましたがやっぱりその通りになってしまった。こちらも合掌。

 さて、『ラヴニカのギルド』、『ラヴニカの献身』にてカード化されているプレインズウォーカーは、程度こそ様々ですが全員何らかの形でボーラスのために動いています。ケイヤの初出である『コンスピラシー2:王位争奪』の時系列は不明ですが、ケイヤとボーラスが接触したのはごく最近と思われます。それまでも「幽霊暗殺者」として活動してきたケイヤですが、パリアノ次元にて《永遠王、ブレイゴ》を暗殺したことがきっかけでボーラスからの接触を受けました。

幽霊暗殺者、ケイヤ

書籍「The Art of Magic: the Gathering: Ravnica」P.220より訳

 ニコル・ボーラスは他にないケイヤの能力へと興味を抱き、接触した。そしてオルゾフ組の不死の指導者を暗殺できたなら、苦境にある家族を助けると約束した。ケイヤは二つ返事でそれを受けた。

 ケイヤの過去はほとんど語られていません。純粋に「仕事人」として対価を貰って暗殺を請け負い、また良家の生まれらしいことが『コンスピラシー2:王位争奪』のケイヤ回に少し書かれていましたがそのくらいです。これを読むに、苦境にある家族(原文:her troubled family)のために暗殺稼業を営んでいるということなのでしょうか?

 そしてラヴニカへやって来たケイヤは本拠地オルゾヴァに侵入します。彼女は自らの身体を霊体化してまさしく幽霊のように固形物をすり抜けることが可能なので、厳重な警備があったとしても造作もなかったでしょう。ですが暗殺ターゲットよりも先に、虜囚となっていたテイサに遭遇します。

テイサ・カルロフ

 待っていましたテイサ! 今回もまた美しい……そして一期二期三期継続してカード化のキャラクターはもう貴重ですよ。ニヴ=ミゼット、ラクドス、そしてこのテイサ。一万歳越えのギルド創設者2体に並ぶとはそれだけで偉業だと思いませんか。ああそういえば、テイサの「得意魔法」も今回カード化されています。

真理の円

 この魔法円の中にいる者は嘘がつけなくなるというもので、アゾリウスとオルゾフの両方が得意としています。物語での初出は『ギルドパクト』(2006年)、テイサは弁護士として法廷に立つ際に用いていました。ラヴニカは三度訪問しているだけあって物語の歴史も長く、このように昔見た要素が出てくるととても嬉しくなります。

 話がそれました。テイサはかつてオブゼダートの始末を目論みましたが失敗し、全ての権限を剥奪されて幽閉されていました。それでも忠実な従者を通じて外の情報を入手し続けていました。そこにケイヤが現れたのです。彼女が自らの目的を素直に明かすと、テイサは喜んで助力を申し出ました。とはいえ、ケイヤがどこまで明かしたのかはわかりません。一応テイサもラヴニカの外の世界やそこから来る者の存在は知っているのですが(『ディセンション』にて聞かされました)、あまり詳しくはなさそうだと思います。

 ケイヤはその技でいとも簡単にオブゼダートを始末し、テイサが最高権力者として残されました。ですがそのままテイサがギルドマスターとなるのではなく、ケイヤがその座に就きました。これもボーラスからの指令のようです。ってことはケイヤはテイサへとボーラスについてもある程度明かしたのか、それとも「幽霊議員を始末するから私がギルドマスターになる」という感じに取引をしたのか、そこまではわかりません。まあともかくそうしてケイヤはオルゾフ組のトップとなり、ボーラスからの更なる指示を待つことになりました。

オルゾフの簒奪者、ケイヤ

 そして《ケイヤの怒り》に続いてオルゾフ組からもう一枚「注目のストーリー」カードがあります。

天上の赦免

《天上の赦免》 フレイバーテキスト

「死者を死なせる時です。」 ― ケイヤからテイサへ

 オルゾフ組は債務者を死後も縛り、幽霊の姿となっても奉仕という形で返済を続けさせます。それはオルゾフ組の核となる構造。テイサは警告しますが、ケイヤは多くの幽霊の債務を帳消しとすることで彼らを解き放ちました。《天上の赦免》はそんな場面です。

 ところで幽霊は多くの次元に存在しますが(逆にそれっぽいものが存在しない次元の方が少なそう)、ラヴニカは特に幽霊がありふれた次元です。死後もオルゾフ組に縛られ続ける債務者だけでなく、街には死者の霊がごく当たり前の存在として行き交っています。それは最初のラヴニカの時点ですでに言及されていました。

『ラヴニカ:ギルドの都』ファットパック付属小冊子より訳

 そして何かが起こり、ギルドは争いを停止した。死者の霊が滞留を始めたのだ。古のギルドマスターらはこの現象の調査へとそれぞれ尽力することに合意した。

 無数の学者や賢者の奮闘にもかかわらず、死者の霊がしばしの間ラヴニカに居残る理由はわからずじまいだった。数千年後には、幽霊の存在は生活の一部となった。彼らは生者と並んで街路を歩き、広間を彷徨っている。

魂誓いの陪審ディミーアの巾着切り飢えたルサルカ

 ラヴニカ次元の人々は知るよしもありませんでしたが、これは遠くドミナリア次元で発生した「時の裂け目」の影響により、ラヴニカ次元そのものが隔離されてしまったためでした。《幽霊街》もそうして形成されました。もっと時代が下ったこちらの、ジェイス主人公小説にもこんな描写が。

小説「Agents of Artifice」P.79より訳

 そこを歩むのは、どのような世界にも見られない知的生命の大集合。人間にエルフ、ゴブリンにヴィーアシーノ、ロクソドンにケンタウルス、果ては天使や時折の幽霊までもが、肩を触れ合わせ急ぎ足ですれ違う。

 これ、ラヴニカ世界の種族の賑やかな多様性が凄くよくわかる描写で昔から大好きなんですよ。色々な所で引用させて貰っています。ですが大修復を経てラヴニカ次元の隔離状態は解消され、幽霊は言うなれば成仏できるようになりました。ケイヤの働きだけでなく、ラヴニカの幽霊は次第に減少しつつあるようです。

3. ドムリとグルール一族

 繰り返しますが、『ラヴニカのギルド』、『ラヴニカの献身』にてカード化されているプレインズウォーカーは、程度こそ様々ですが全員何らかの形でボーラスのために動いています。

 『ラヴニカのギルド』時、一番ボーラス側っぽい(これも繰り返すけどごめん)ディミーア家がそうでなかったことは驚きでしたが、今回もボーラスの指示とかそんなの聞きそうにない(やっぱりごめん)グルール一族がそれだというのもまた意外でした。まあよく考えるとボーラスと色の一致するラクドス教団の方がむしろ命令も何も聞かないか、っていうかあのギルドはラクドス様あってこそだからねえ。

ドムリ・ラーデ

 『ギルド門侵犯』で登場したドムリ。早くに孤児となった彼はグルール一族に身を寄せて生きてきました。そして成人の儀式で生き埋めにされた際の恐怖からプレインズウォーカーとして覚醒、アラーラ次元のナヤへと飛んで外の世界を知りました。

 けれどラヴニカへ帰ることができて、そしてグルール一族への愛着も変わらず持ち続けています。最後に状況が語られたのは公式記事「プレインズウォーカー達の現状2015」、それによれば「遥かな次元の大自然を探検している」。まあ元気にやっていたようです。これも「現在版」が欲しいとよく言われる記事ですよね。ただプレインズウォーカーたちの増加を考えると大変そう。そんなドムリがラヴニカへ戻ってきているらしいというのは『ラヴニカのギルド』ですでに見えていました。

街頭暴動

《街頭暴動》 フレイバーテキスト

「あいつらは、従えば幸せになれると言った。安全だと言った。でも俺たちは安全じゃない。幸せでもない。だから俺たちは従わない。」――ドムリ・ラーデ

 グルール一族は一つのギルドとしての結束は緩く、いくつもの小氏族がそのボスに従って動いています。中でも最大の氏族が炎樹族で、グルールのギルドシンボルはこの炎樹族のシンボルそのものです。炎樹族の長=グルール一族のギルドマスターはサイクロプスの腹音鳴らし、ですが彼は老齢となり、近年はその様子を見て挑戦者が増加していました。

怒れる腹音鳴らし

 驚いたことにドムリもまたこのサイクロプスへと挑戦します。体格や身体能力は遥かに劣りますが、彼には野生の獣を召喚して使役する能力がありました。ドムリは猪の群れを放って相手を圧倒、何と勝利します。腹音鳴らしは死にこそしませんでしたが、その地位を失って瓦礫帯を放浪する身となってしまいました。

混沌をもたらす者、ドムリ

 そしてギルドを統べる身となったドムリは、ひたすらグルール一族の理念を果たすために行動しています――文明というこの世界の病を破壊し、再び野性をもたらす。グルール一族でも特に古い伝承が残るザル=ター族は、腹音鳴らしに対するドムリの勝利を来たる黙示録の兆候と受け止めています。

終末の祟りの先陣活力の贈り物野生の律動

《活力の贈り物》 フレイバーテキスト

「空が叫び、大地がうなるとき、終末の祟りの訪れは近い。」――旧き道のニーキャ

《野生の律動》 フレイバーテキスト

思いもよらぬドムリの台頭を、猪の祟神イルハグの帰還の前触れだと考える者もいた。

 今回やたら見る猪。ドムリのプレインズウォーカー・カードの背景にもいます。グルールに伝承が残る猪の祟神イルハグ、これ突然出てきたのではなく設定は『ギルド門侵犯』当時からありました。

公式記事「プレインズウォーカーのための「ギルド門侵犯」案内 その2」より引用

 ザル・ター族は、瓦礫帯を揺らす地震は地下深くの神々が目覚め、起き上がって「敷石ゴキブリ」達を破壊する兆候なのだと信じている。ザル・ター族はまた、この黙示録の最初の兆候は猪の神イルハグの出現であろうと信じている。

燃えがらの精霊瓦礫帯の略奪者

《燃えがらの精霊》 フレイバーテキスト

「いにしえの神々は目覚め、果てしない都の地下に旧き道がどれだけ残されているかを知るために、炎の指先を遣わしたのじゃ。」――グルールの語り部、ダイヴァ

《瓦礫帯の略奪者》 フレイバーテキスト

「この都は滅びるよ。グルール一族は猪神が最後の煉瓦を粉々にするのを見て歓喜するだろうね。」――旧き道のニーキャ

 意味深だな、とは思われていましたが続く『ドラゴンの迷路』でやって来たのはギルド対抗レースだった。ちなみにグルール一族の迷路走者だった《自由なる者ルーリク・サー》はゴーア族の長であり、ドムリの突然の「成り上がり」を快く思っていませんが、現在のところその座に挑戦するには至っていません。では、ドムリとボーラスにどのような繋がりが? ラヴニカアートブックの記述をそのまま翻訳します。

書籍「The Art of Magic: the Gathering: Ravnica」P.219より訳

 ニコル・ボーラスがドムリへと腹音鳴らしへの挑戦を促した。勝利の後、ドムリは言われずともボーラスが求めるように動いた。ギルド間の不安定な協定は崩壊寸前となっており、ドムリは世界を混沌へとねじ込むべくグルール一族を率いている。

 促した、と訳しましたが原文は「urged」。激励した/説き伏せた/駆り立てた/そそのかした、熱量や程度は様々に解釈できます。ボーラスはテレパスでの会話や精神操作も得意ですので、ドムリにそれっぽい囁きをしただけで対面すらしていない可能性もあると思います。ケイヤとボーラスの繋がりと同様、グルール一族も「ボーラス側ギルド」というよりは「トップがボーラスと関係のあるギルド」くらいの認識に留めておくのが良いような気がします。

 グルール一族は祟神イルハグの到来を待っています……けれど来るのはボーラスのはず。その姿を、そしてラヴニカにもたらされるであろう破壊を見た時、彼らはどう解釈するのでしょうか。

 ああ、グルールといえば取り上げたいのがもう一つ。

 『ラヴニカへの回帰』と『ギルド門侵犯』のプレリリース・キットには、各ギルドからの歓迎の手紙が同封されていました。それぞれ文章だけでなく手紙そのもののデザインやフォントも各ギルドらしい趣向が凝らされていました。中でも人気だったのがこちら、グルールの手紙。

文字ですらねえ!意味わかんない!けれどこれこそグルール。そして今回『ラヴニカのギルド』、『ラヴニカの献身』プレリリース・キットにも各ギルドからのメッセージが同封されている、ということでグルールは一体どうなっているのかが期待されていました。

我らはグルール一族

我らはグルール一族

 参考としてオルゾフのそれを隣に。きちんと字が書いてあるだけでなく、自分達の理念をわかりやすく呼びかけてる!一応フォローしますと、グルールの所属でも文明との付き合い方はピンキリで、中には街の住人とそれなりに折り合いをつけてやっている者も存在します。そういった層であれば字の読み書きができてもおかしくはないでしょう、ええ。そして手紙に字は書かれていようとも、きちんとグルールはグルールらしい所を表現していました。プレリリース・キット外箱の標語です。

粉砕粉砕粉砕

粉砕粉砕粉砕

 ほかがきちんと個別の三語を並べている中、グルール……いや、グルールはこうでなきゃ。

4. ラルとニヴとイゼット団

火想者の研究千年嵐

《千年嵐》 フレイバーテキスト

ラルの嵐が謎めいた反応に音を立てた。プレインズウォーカーがラヴニカに侵入している。

 『ラヴニカのギルド』の「注目のストーリー」となっているこの2枚。《火想者の研究》はニヴ=ミゼットが何かの研究を行っているというものですが、フレイバーテキストがないためなぜこれが注目のストーリーなのか、一体何を研究しているのかはわかりませんでした。

一方の《千年嵐》は過去のストーリーに手がかりがあります。『ドラゴンの迷路』と『戦乱のゼンディカー』の間のこと。ギルドパクトとして日々働くジェイスはラルから呼び出しを受けました。ジェイスが時折謎めいた失踪をしていることにニヴ=ミゼットが気付きつつある。そしてそれを追跡する装置を開発しており、その反応は空を覆う黒雲からの雷鳴となって現れる……そんな内容が公式記事「電光虫プロジェクト」にて語られました。

 この追跡装置、「電光虫計画」は実質的にラヴニカへのプレインズウォーカーの出入りを記録するものでした。プレインズウォーカーの存在発覚を恐れたラルは反応を改竄しましたが、その後も密かに装置の使用を続けており、ヴラスカの(イクサラン次元への)謎めいた出発をジェイスに伝えもしました。

パルン、ニヴ=ミゼットイゼット副長、ラル

 ですが冒頭に書いたように、ニヴ=ミゼットはすでに多元宇宙やプレインズウォーカーの存在を把握していました。まあそりゃそうだよなあ、というのが大多数の感想だと思います。これまでは「個人的に接触したことがある」という表現に留まっていましたが、そもそもアゾールにだって会っているんだし。

 具体的な内容はメインストーリーの核心オブ核心(だと思います)に触れるので書くのは躊躇われるのですが、《火想者の研究》《千年嵐》は、ニヴ=ミゼットがプレインズウォーカーや多元宇宙の存在を把握した上で、彼なりにラヴニカを守るための研究です。イゼット団の存在そのものがニヴ=ミゼットの壮大な暇つぶしである、とは時々言われますが、その暇つぶしをするための場所をきちんと大切にしているんですよね。第二期、「暗黙の迷路」の存在を堂々と明かすことでギルド間全面戦争を防いだ時にも同じような感想を抱きました。やっぱりこのドラゴンの根底にあるのはラヴニカへの愛なのだろうなあ、と。

 一方ラルは自分の素性をひた隠しにし、そして発覚することをひどく怖れていました。知られてしまったなら、あの好奇心と自尊心の強いニヴ=ミゼットに何をされるかわかったものではない、というのが理由でした。嫉妬のままに食われるか、研究対象として解剖されるか。ニヴ=ミゼットは自分を失望させたギルド員を食べてしまうことで知られており、過去にラルもその現場を実際に見ています。ですので、ニヴ=ミゼットは全て把握していたと知った時の彼の安堵はどれほど大きなものだったでしょうか。「メインストーリー」では是非それも語って欲しいものです。

 ……いやちょっと待って、ラルはボーラス側じゃないの?

書籍「The Art of Magic: the Gathering: Ravnica」P.207より訳

 イズマグナスの中にはラルの急激な権力掌握に憤慨している者もおり、ギルドマスターの執事マーレーは彼を信用していない。だがそれは妥当かもしれない–ラルはニコル・ボーラスへと古い借りがあるのだから。

 古い借り。原文は「old debt」。「恩義」かもしれないし「債務」かもしれない。でもこの書き方なら第71回で仮定した「自分の知らない所でボーラスに利用されている」説はなさそうです。果たしてラルはボーラスとイゼット団との間で一体どう動いているのか。早く知りたいものです。

5. 今回はここまで

大判事、ドビン有事の力

 全部一回で語り切れるわけないだろーーー!! 続く!!!

(終)

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若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら