あなたの隣のプレインズウォーカー ~第84回 新顔たちの『灯争大戦』~

若月 繭子

毎度どうも、若月です。先月は凄い勢いで『灯争大戦』ストーリーを紹介してきましたが、そろそろいつものペースに戻ります。まずは宣伝!

今回もあります、Magic Story漫画!ウェブ連載では、視点の都合上語られなかった様々な熱い場面もばっちり絵にして頂きました。今回のストーリーは「これは絶対漫画にしなきゃ駄目でしょ!」ってところばかりでしたもの。個人的には「ラザーヴの不意打ち」、「次元橋カルテット」、「ジェイスとヴラスカ」が大のお気に入りです。

さてこっちの記事もまだ書きたいことがあります。別れがあれば出会いもあるということで、『灯争大戦』では新規プレインズウォーカーが4人登場しました。彼らはこの前代未聞のプレインズウォーカー大戦争をどう生き抜いたのでしょうか?正直、情報量も出番の量もそれぞれ違い過ぎてどう書けば良いか困ったといえば困ったのですが、まあ割といつものことといえばそうなので許してね。

1. カズミナ/Kasmina

謎めいた指導者、カズミナ謎めいた指導者、カズミナ

正直に書きます。小説版では一切の出番がありませんでした……はい。「全く出番がない」キャラクターとしては他にも《夢を引き裂く者、アショク》がいたのですが、そちらは一応ダク・フェイデンの回想に名前が登場していました。が、カズミナは名前すらなく。「ここで戦っている」程度の描写があるだけで台詞すらないプレインズウォーカーもいたのですが、それすらなく……。確かにプレインズウォーカー36人(テゼレット、ダク・フェイデン、ムー・ヤンリンもいたので実質39人)全員を登場させるのは大変だと思いますが、そんなことあるー?

とはいえウェブ連載版では第2回にほんの少しだけ出番があり、またマローは「カズミナは今回顔見せ」のようなことを言っていました。

公式記事「さらなる大戦のゲーム」より引用

今後の物語に向けた興味深いプレインズウォーカーのアイデアがあり、今回は彼女を登場させる最適な機会だったのだ。カズミナについてあまり詳しく語る気はないが、ここでの彼女の能力は、彼女の人物像に合った、将来起こることを示唆するものだということを言っておこう。

カズミナの変成

ともかく今はここまでしか情報がなかった、すまない。

2. 放浪者/The Wanderer

放浪者放浪者

公式記事「さらにさらなる大戦のゲーム」より引用

放浪者の魅力の一部である彼女(そう、女性だ)の神秘についてはあまり語りたくない。

見た目も能力もわりと意味深のように思える放浪者。設定についてもほとんどが謎です。プレビュー動画での説明によりますと、

常にプレインズウォークしているってなんだそれは。私は神河っぽい衣装から梅澤家の関係者とかかな、と予想していました。ボーラスの物語に決着がつくのであれば梅澤も何か関わってくるんじゃないか?とも思いまして。梅澤の血筋でなくとも、梅澤が対ボーラスのために雇っているエージェントとかそういう。けどどうやら梅澤家はノータッチだったみたいです。まあそのうちドミナリア次元にも「ボーラスは倒された」という情報が届くでしょうね。

さて『灯争大戦』の小説において、放浪者の出番は少しですがありました。とはいえ過去キャラらしき様子やほのめかしは特になく、私はこう……「なんかこういう人」なんだ、という印象を受けました。普通に喋りますし他人とも接します。上に書いたように「油断するとプレインズウォークしてしまう」ようなので、不滅の太陽はある意味ありがたかったのでしょうかね。そんな体質なのですが、物語途中で太陽が切られた状況でも、ラヴニカから去らずに戦ってくれていました。でも大変だったみたいです。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター43より訳

ギデオンのオーラが放たれ、放浪者へ手を伸ばした永遠衆を止めた。「下がれ、多すぎる!」戦闘の喧騒の中で彼は叫んだ。

放浪者は剣を大振りにして敵を留めていた。だがその武器が残す純白のマナの軌跡は消えかけていた。彼女はギデオンへと振り返り、鍔広の帽子の下から声を上げた。「私を殴れ!」

「何?」

「私を殴れ! 目いっぱい強くだ! 今すぐ!」

そのためギデオン・ジュラは拳にオーラをまとわせ、何人ものプレインズウォーカーを打ち倒せるほどの大振りで殴りかかり、それは放浪者の顎に命中した。その首がわずかにのけぞり、攻撃の威力は吸収されてマナへと変化し、腕から剣へと流れていった。一瞬の後、放浪者の武器は再び力を得て永遠衆をたやすく真二つに裂いた。

知り合いのプレインズウォーカーもいました。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター45より訳

ダクはサムトの勝利に気を散らし過ぎ、掴まれそうになった。だがサルカン・ヴォルが両手を神秘的なドラゴンに変化させて炎を吐き、その盗賊へ手を伸ばそうとした永遠衆2体を焼いた。そして白ずくめのプレインズウォーカーがそれらの首をはねた。

彼女はサルカンを見た。「ヴォル」

「放浪者か」

そして2人はダクを咎めるように一瞥すると、戦いへ戻っていった。

放浪者の一撃

書けるのはこのくらいですかね。繰り返すけれど小説から受けた印象は「なんかこういう人」……今のところは。私も本当に小説の内容以上は知らないです。

3. ダブリエル・ケイン/Davriel Cane

安心して下さい、ここからは情報量が豊富になってきますので。

はぐれ影魔道士、ダブリエルはぐれ影魔道士、ダブリエル

新キャラ4人のうち、構築で最も使用されているのはダブリエルでしょうか。第76回でも少し触れましたが、彼は完全な新規キャラクターではありません。2018年12月公開の小説「Children of the Nameless」(ページ中央、「STORY ARCHIVE」から行けます。言語表示を英語に)にて主人公の1人として登場しました。カードイラストは仮面&黒ずくめの衣装(ちなみに外出着)で種族すらわかりませんが、人間の男性で年齢は50歳ほど。「大修復」が起こったのが約60年前なので、現在登場している純粋な新世代プレインズウォーカーの中では最年長クラスですね。その小説表紙では素顔をチラ見せしてくれています。

ダンディーなおじ様だ。出身次元や覚醒時期こそ不明ですが、プレインズウォーカーとしてはベテランらしく、長いこと多元宇宙を旅してやがて悪魔との取引に長けるようになりました。イニストラードでは少なくとも5体の悪魔と契約を交わしており、その契約条項を巧みに用いて役立たせていました。それは一見簡単な、ですが実際には難しい(もしくはダブリエルにとっては破棄が簡単な)条件を提示して契約し、逆にその悪魔を利用するというものです。

例えば1体の悪魔とは「65歳まで生きられたら魂を捧げる」という契約を交わしていたのですが、逆に言えばその悪魔は「ダブリエルが65歳になるまで守らなければ魂を貰えない」ことになり、結果ダブリエルのボディーガード的な存在となっていました。悪魔との契約を煩わしく思い、破棄を目指してきたリリアナとは実に対照的です。それだけでなく、ダブリエルは他人の精神から魔法を奪ってしばし自らのものとする能力を保持しています。強力ですが使用の際には多大な苦痛を伴うため、あまり多用はできないのですが。

ダブリエルの影忘

そしてこれが重要なことだと思うのですが、ダブリエルの精神には「Entity」(定訳は「精体」「霊体」?)と表現される何か別の意志が住み着いており、常にダブリエルへと力の誘惑を囁いています。かつて、とある死にかけた男の精神からダブリエルはそれを引き出し、すぐにそれが持つ凄まじい力を察しました。ですが以来、ダブリエルは何かに追われるようになります。相手の正体はわからず、けれどそのEntityとの関わりは明らかでした。ダブリエルは逃げ出し、イニストラードの辺鄙な一地方に隠れ、そして「Children of the Nameless」の物語へと続きます。

そんな彼がなぜ今回のラヴニカへ?ダブリエルのカードは「Children of the Nameless」の作者さんがプレビューするという粋な計らいだったのですが、その記事で多少触れられていました。ちなみに「拷問台デッキが好きだった」そうで、ダブリエルのカード能力を見るにニヤリとします。

記事「Announcing Davriel’s Magic: The Gathering Cards」より訳

いかにしてダブリエルはラヴニカの厄介な事態に巻き込まれてしまったのか? 私が以前に執筆した物語での出来事で、彼は自らの正体を少々明かしてしまった。そのため、あるいは怖れていた通り、その後まもなく彼は次元間の存在からの訪問を幾つか受けた。また彼はとある非常に謎めいたメッセージを受け取った。それはもしかしたらこの先、いつかわかるかもしれない。

まあ、あえて言うならば、彼は姿を現して自分は無益だと皆に知らしめようと決めたのだった。次に誰もが殺し合いをする時は、自分を招くことのないようにと。不運にも彼が到着すると、何もかもが根本的にひどいことになっていたのだった(そして、以前来た時も、楽しいものではなかった)。

かくして、現状についてのダブリエルの意見は以下のようにまとめられる。

1:何と厄介なことだ。

2:ゾンビ。なぜいつもゾンビなのだ?邪悪で力に飢えた主というのはなぜこうも下僕の趣味が悪いのだ?

3:彼はラヴニカの保険機構に興味を抱いている。細字部分を読み、現地の保険数理士による「誇大妄想癖のドラゴンによる次元間侵略」のレートがどれほどのものかを知りたい。

4:誇大妄想癖のドラゴンと言えば、暴れる際には細心の注意を払ってもらいたいものだ。一番最近の攻撃で、ダブリエルお気に入りの麺屋を破壊しかけたのだから

5:誰かあの腰巻き姿の悪魔の名前を知らないだろうか?ああ、あの熱そうな顔と口は、パンを食べながらトーストができそうだ。今、ダブリエルの配下には欠員が出ており、手頃な値で魂を提供しているところなのである。

下僕の趣味が悪い。悪魔との「上手な」契約についてもですけれど、どこかこうリリアナをあざ笑うようなキャラクターですねこの人は。そういえば「Children of the Nameless」でもダブリエルは屍術を馬鹿にしていました。

「Children of the Nameless」P.38より訳

「私は悪魔主義者だ。悪魔を研究する――学者だ。この探究には技術と努力と洞察を必要とする。屍術などというものは愚者の技だ。時に屍は死んだままでいない、そう気付いてのけたできそこないの肉屋が手にするものだ」

かっこよくて辛辣だ。つくづくこの人とリリアナを会わせてみたいぞ。そんなふうに割と消極的な理由でラヴニカを訪れたダブリエルでしたが、起こっていたのはその「誇大妄想癖のドラゴン」による次元侵略。ダブリエルは基本的にあまり目立ちたくない、厄介事は避けたい性格ですが、打算や利害が一致するなら動くのもやぶさかではない感じです。同じ黒のオブ・ニクシリスと似た方向のキャラクターですね。ウェブ連載版では、そのニクシリスに契約を持ちかけていたのは笑いましたが(小説版にはなかったんですよ)。

Magic Story「ラヴニカ:灯争大戦――結束という難問」(『灯争大戦』第3話)より引用

たださっき、細い口髭のプレインズウォーカーが1人、この不快なオブ氏と組みたがっているらしくて誠実に話しかけていた。動機は誠実じゃないのかもしれないけど。

これが物語中盤、プレインズウォーカー会議の場面でのことです。以降目立った活躍はありませんでしたが、永遠衆との戦いの中で数度登場しています。まずは第82回から再掲しますが、たくさんのプレインズウォーカーやギルド民に混じっての場面がこちら。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター31より訳

南では、ティボルトと悪魔主義者ダブリエル・ケインが少数の悪魔と共に、イゼットの武器鍛冶やオルゾフの騎士、巨人、ガーゴイルを率いて突入した。

無頼な扇動者、ティボルト

そういえば悪魔繋がり&イニストラード繋がりだ。余談ですけれどめっちゃ聞かれるんですよ、「ティボルトは灯争大戦で何してたのか」って。出番はこの場所のみ、わかるのは「他の様々なプレインズウォーカーと一緒に戦っていた」というくらいですね。でもきちんと戦っていたんですよ。

ダブリエルに話を戻しまして。次にこちらは上で紹介した、放浪者がギデオンに殴ってもらった場面の少し後です。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター43より訳

一体の永遠衆がニッサの背中へと手を伸ばした。ギデオンはそれを目撃したが、遠すぎた。彼は警告を叫んだが、そこで暗い影からダブリエル・ケインが現れてその永遠衆を掴んだ。ニッサに組み付く寸前のことだった。苦痛に叫びながら、ダブリエルはその怪物から黒色の古呪を吸い上げ、ニッサへの掴みかかりを無害なものにした。ニッサは振り返り、杖で永遠衆の頭部を突き刺した。それは地面に落ちた。

ダブリエルは苦痛に屈み、だがアングラスがその黒い外套の襟元を掴んで持ち上げると自らの巨体の背後へと安全に落とした。そして炎の鎖で鋭い弧を描いて敵を砕いては焼いた。

これはまさに「他者の呪文を奪い取る」能力だ! けど《古呪》も奪えるんだね……これはこれで物騒だな。そしてアングラスがかっこいい&掴んで持ち上げられるダブリエルの絵面が面白い。ニッサを救うためにダブリエルが動き、さらに彼を救うためにアングラスが。ここは一連の流れが非常に熱いです。

ゲートウォッチに加わるようなタイプではなさそうですが、ダブリエルは非常に魅力的なダークヒーローです。個人的には、いつか再びカード化される時は契約悪魔を呼んで使役して欲しいな。

4. テヨ・ベラダ/Teyo Verada

盾魔道士、テヨ盾魔道士、テヨ

そして『灯争大戦』の主人公格の1人がテヨです。上に書いてきた3人は新キャラクターでしたが、プレインズウォーカーとしてはすでに経歴を積んでいると思います。一方テヨは、『灯争大戦』が開始した日の朝に覚醒したばかりという新米も新米です。年齢は19歳。物語では青年というより少年扱いで、話中に出会ったケイヤとラルも、彼のことはManというよりBoyと表現していました。マローの記事によると元々はもう少し年長だったそうですが、小説での視点役になるということで若くされたのだそうです。

テヨの出身次元については少しだけわかっています。次元名はGobakhan(ゴバカン)、太陽が2つ輝く砂漠の次元です(アモンケットとは別)。その砂漠にはダイアモンドの粒子が多く含まれており、極めて危険な「Diamondstorm(金剛嵐)」がしばしば吹き荒れています。そして、この金剛嵐から人々を守る存在として頼られ尊敬されているのが「Shieldmage Order(盾魔道士団)」。テヨはこの見習いでした……ただし落ちこぼれの。

ある時、過酷な嵐へと盾を構えながら、テヨは空に輝く光に気付きます。まるで自分が呼ばれているように惹かれるのを感じました。この時の彼は知るよしもありませんでしたが、それはあらゆるプレインズウォーカーへとラヴニカへの到来を呼びかける《次元間の標》。テヨはその呼び声に気を散らされ、砂に生き埋めにされてしまいます。窒息しかけたそのとき、彼の「プレインズウォーカーの灯」が点火したのでした。

次の瞬間、テヨは石畳に手足をついて咳込んでいました。まず自分が生きていることに驚き、そして顔を上げて唖然としました。見たこともない大都会、空には太陽がひとつだけ。そしてすぐ近くで16歳ほどの女の子が、興味深そうにこちらを見ているのに気づきました。

これは『灯争大戦』続編小説の表紙ですが、その子の正式なアートがあまりないのでこちらを。左下の女の子です。アレイシャ・ショクタ、通称ラット。グルールの生まれですが本人は今のところ無所属。ウェブ連載版ではこの子が語り手役となって『灯争大戦』の物語を伝えてくれていました。

テヨはまだ咳込みながら必死に手助けを求めます。するとラットは奇妙なほど驚き、ですがすぐに物凄いマシンガントークと共に彼を連れ出しました。後に判明するのですが、ラットは先天的に不可視状態に近く、多くの相手に認識されない特性を持っています。特に意識せずにその姿を見ることができるのは、母親を含めたわずかな人数だけ。突然目の前に現れた少年が何の苦労もなく自分を見ることができるというのは、とても大きな驚きであり喜びだったのです。テヨとラットの関係は、『灯争大戦』の物語のひとつの軸となっています。

続くラットとのやり取りの中で、テヨは自分の状況を把握しました。自分が今いるのはラヴニカという世界、ここでは10のギルドが全てを動かしている。そしてプレインズウォーカーという存在のことも。ですが第10管区広場までやって来たところで、始まったのでした……他次元からの侵略が。

ボーラスの城塞出現領域

すぐにゾンビの軍団が殺戮を始めました。訳もわからないまま、2人は人々を助けるために戦いに加わります。テヨは盾を張って敵の攻撃を押し留め、ラットは手にした短剣で敵を退けます。やがてラヴニカの力強い守り手たちが、そして正義のプレインズウォーカー集団がやって来ました。

死者の災厄、ケイヤ嵐の伝導者、ラル
黒き剣のギデオン神秘を操る者、ジェイス炎の職工、チャンドラ
時を解す者、テフェリー大いなる創造者、カーン敬慕される炎魔道士、ヤヤ

ラットは、ケイヤもまた自分の姿が苦もなく見えることに驚きました。短い自己紹介の後、またすぐに戦いが再開します。とはいえ、テヨにはまだ迷いがありました。自分はこの世界の者ではない。自分の戦いではない。この勇敢で強靭な戦士たちと共に戦う価値があるとは思えない。けれど状況はそんな悩みを許してはくれません。盾が破られたら死んでしまうのですから。自分も、ラットも。

テヨは故郷にあまり良い思い出がありません。孤児で家族はなく、盾魔道士団では落ちこぼれとして肩身の狭い日々を送っていました。ですが今、盾を構えて守るというのは同じながら、その戦法は故郷のそれとは少し異なることに気付きます。金剛嵐は止むことなく吹きつけ、また視界も効きません。ですが永遠衆が振り下ろす一撃から次の一撃までには少しの間があり、何よりも相手の武器が迫る様子が見え、最大の衝撃が来る瞬間へと身構えられるのです。テヨは新たな戦いに素早く順応していきました。それだけでなく、ギデオンやラットがくれる短くも頼もしい励ましの言葉は、とても嬉しく感じるものでした。

テヨの光盾

そしてプレインズウォーカーの各々が散って戦力を集めることになると、なし崩し的にテヨとラットはケイヤについて行くことになりました。彼にとってはラヴニカの全てが物珍しく、驚く感覚すら次第に麻痺していきます。ふと戦いが途切れた時には、故郷にマーフォークがいないことからキオーラをまじまじと見つめるなんて場面もありました。

永遠衆との戦いの最中にまた新たなプレインズウォーカーが来ると、テヨは咄嗟に彼女たちを守りながらも懸命に状況を説明しました。ウェブ連載版では第2回に当たる場面ですが、このやり取りは含まれていませんでしたので紹介します。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター26より訳

「何が起こっているんです?」 サヒーリが尋ねた。

「それと、ここは?」 続けてファートリが。

「ラヴニカです。僕も来たばかりです。そもそも僕はプレインズウォーカーになってまだ4時間くらいで、あまりきちんと説明はできないかもしれません。けど皆、このアンデッドの怪物と戦っています。この次元に侵略してきていて、見かけた全員を攻撃して殺そうとしています。永遠衆と呼ばれていて、ボーラスという邪悪なドラゴンのために動いています。ざっとこんなところです。ラットさんの方がきちんと説明できるかもしれません」

「侵略?全員プレインズウォーカーなの?」

「いえ。次元橋、とかいうものを通って来ました――今も来ています。大きな門です。別の世界へ開いた窓のような」

サヒーリは一旦口を閉ざし、目を狭めると冷めた声で言った。「私、それが何なのか、知ってます」

崇高な工匠、サヒーリ太陽の義士、ファートリ

『イクサランの相克』エンディングで出会ったこの2人、どうやら仲良くやっているようですね。次元橋は元々サヒーリの友人である《永遠の造り手、ラシュミ》の製作。苦々しい思いを抱くのは当然のことです。

やがてプレインズウォーカーとギルド代表者の会議が招集され、非協力的なギルドを説得する任務がケイヤにあてがわれると、そのままテヨとラットも同行しました。テヨとしては、自分がこの重要な任務の一員に加わることへの気後れはまだありました。故郷では一番の落ちこぼれだったのですから。けれど自分がどれほど駄目な見習いだったか、それはラットもケイヤも知らないのです。そこには安心と同時に後ろめたさがありました。

そしてこの任務の途中に、ラットは基本的に多くの人に見えないという事実を彼は知ります。あまりにも寂しい、過酷な性質。けれどラットの気丈さと明るさに、テヨは彼女を見ていてあげたいと、隣にいてあげたいと確かに思ったのでした。この2人のやり取りの多くはウェブ連載版で語られていますが、マジックの物語としては本当に珍しい、王道の「ボーイミーツガール」。読んでいるこちらがくすぐったくなるほどです。テヨが19歳でラットが16歳なのだけど、素朴で純真なテヨに対してラットの方がお姉さんぶっているのがたまらなく可愛いのだ。

さて色々ありましてギルドの説得が完了し、全ギルドが揃ってニヴ=ミゼット再誕とギルドパクト移譲の儀式が開始されるのですが、やがてその様子が永遠神に気付かれてしまいました。

永遠神ケフネト

ウェブ連載版では「1本だけの腕」とありましたが、これはラルによるものです。彼は《次元間の標》を止めるためにそのエネルギーを吸収し、安全に発散しようとした際に遠くにケフネトの姿を見つけて稲妻を放ったのでした。その攻撃はケフネトの右腕を焼くも、向こうは全く気にした様子も見せませんでした。 ケフネトは高速で迫りますが、儀式の参加者は動けません。ですが、一連の進行を見つめていたテヨが咄嗟に割って入りました。

Magic Story「ラヴニカ:灯争大戦――絶体絶命作戦」(『灯争大戦』第5話)より引用

テヨが、ほとんど反射的に動いてくれた。怪物のすごい大きな拳が振り下ろされると、テヨは両手を掲げて半球型の光を張って、私達17人全員を守った。拳が叩きつけられると、盾はぎりぎり壊れなかった――そしてテヨは意識が飛びかけたみたいにふらついた。テヨは膝をついて、私は顔面から倒れないように掴んであげた。

「すごいじゃん。もうちょっと頑張って!」

テヨは痺れたみたいだけど頷いて、また両腕を掲げた。

次の一撃が叩きつけられた。その力に光の盾が砕けた――けど私達全員から怪物の拳を防いでくれた。テヨは意識をはっきりさせるみたいに首をふった。けどぼうっとして、もう盾を張れそうになかった。次の攻撃は私達全員を叩き潰してしまいそうだった。

けどテヨはレヴェインさんとギルド代表者10人に必要な時間をくれた。盾に守られて、儀式が終わった。たくさんのマナが参列者を通って火想者の骨と器へ流れ込んでいった。黄色と橙色の炎が黄金色に変わって、器の中の青と赤の煙に点いた。その煙は一瞬だけ紫色に燃えて、けど黄金色の炎が他の全部の色を圧倒した。炎は形をとってドラゴンの骨の周りに固まっていって、満たして、骨を、命のある生物に変えていった。

Niv-Mizzet Reborn

テヨの奮闘に守られてニヴ=ミゼット再誕の儀式は完了し、ケフネトは無事撃退されました。グルール一族の代表、腹音鳴らしの同伴として一緒に来ていたラットの母親も、テヨの頑張りを目にしました。当初は娘が連れている男の子を見るも、グルール一族の目には明らかに頼りなさそうな姿に眉をひそめていたのですが。

Magic Story「ラヴニカ:灯争大戦――絶体絶命作戦」(『灯争大戦』第6話)より引用

母さんが隣にきて膝をついて、テヨの肩にざらざらした手を置いた。「アレイシャ。この彼氏、やってくれたじゃない」

今度は、私が赤くなる番だった。「彼氏じゃないよ、友達!」

よかったな、お母さんの公認を貰えたじゃないか。大一番での危機に皆を守り抜いた、このことでようやく自信を得ることができたのかもしれません。最後の地上戦でテヨはこれまでにない落ち着きで戦っていました。それも、味方を守るだけでなく。

Magic Story「ラヴニカ:灯争大戦――結末の灰燼」(『灯争大戦』第6話)より引用

驚いたことに、テヨについては心配しすぎなくても大丈夫だった。この子は自分でしっかりやっていた。攻撃の技は大したことないかもしれないけど――時々、小さな光の球をぶつけるくらい――油断せずに、素早く、しっかりとその盾を構えて、危なくなった味方を一人残らず守っていた。

そして突然、ちょっとした攻撃方法を発見した。その盾を思いっきりぶつけて、怪物を後ずさらせて味方に向けて隙を作ってあげた。腹音鳴らしとヴォレル氏と、ええと……狼女さんへ。

盾で殴る。RPGとかの盾キャラに時々あるやつだ!テヨが出す壁トークンは防衛持ちな一方《テヨの光盾》はそうでないのですが、これ微妙に物語再現なのかもしれない。

そして、ボーラスはギデオンの犠牲とリリアナの離反によって倒されました。ですが、テヨには勝利の喜びも死への悲しみも、どこか遠いもののように感じました。ギデオンが素晴らしい人物だったことはわかりますが、今朝知り合ったばかりの相手です。ダク・フェイデンが灯を刈られる様子もテヨは目撃しており、盾を張って守れなかったことを申し訳なく思っていました。けれどもこの世界で最も親しくなった2人、ラットとケイヤはほぼ無傷で生き残っていました。人々の様子を独り見つめるテヨに、あるプレインズウォーカーが優しい言葉をかけます。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター67より訳

そこかしこで、人々が歓喜に浸っていた。この勝利が歓喜に値するのか、テヨにはわからなかった――何せ、今も喜びに加わることなく負傷者や重傷者を運ぶ者達もいるのだから。そして死体を。とても多くの死体を。「たくさんの人が、死んでしまった」 テヨは悲嘆に沈むように呟いた。

「なあ小僧。死んだ奴については、俺は悲しんだりしねえ」 そう言ったのは、永遠衆の火葬を終えたばかりの、煤まみれのアングラスだった。ざらついた、けれど敵意はない手がテヨの肩に置かれた。「俺は――まあ時には、死人を悼むこともある。だが俺が大いに憐れむのは、残された方だ。試練も苦しみも、死ねば終わりだ。もし俺が涙を流すとしたら、残されちまった奴のためだ。愛する者が死んだってのに、生き残っちまったっていう罪悪感と喪失と絶望を抱き続ける奴のためだ」

(略)

「坊主よ、生き残った奴を気にかけてやれ。少なくとも俺はそいつらのためになら悲しんでやる。死人は何も感じねえさ」

テヨは黙したまま頷いた。

悲しむ権利があるのは、生きている者だけなのだ。

混沌の船長、アングラス

このぶっきらぼうな優しさが沁みますね……赤は今という時を生きる色。辛いのは死者ではなく残された方だからそっちを労わってやれと。しかしアングラス、灯争大戦ストーリーではかなり扱いが良いですよ。永遠神ロナス戦での活躍といい、ダブリエルの項目でも紹介した場面といい。

そしてテヨはラットを探して合流しました。彼女は今回の出来事で、ラクドス教団の友人を1人失っていました――死んだわけではなく、いや一度死んで蘇ったのですが、それによってラットの姿が見えなくなってしまったのです。気丈に振る舞いながらも悲嘆を隠せないラットをテヨは励まします、まだ自分とケイヤがいると。ですがラットはわかっていました。プレインズウォーカーはいつかその世界を離れていく存在。例えその気はなくとも、離れていくことができるという事実は事実。せっかくの優しさを突き放してしまうような返答をラットはすぐに後悔しますが、テヨはそれ以上何も言えませんでした。

やがて2人は、プレインズウォーカーの面々が不滅の太陽の処遇を話し合うところへやって来ました。そして今後のゲートウォッチのあり方について、妙に投げやりな(その理由はボーラスの死に関する真実のため、後で読者にはそうわかるのですが)ジェイスの態度にアジャニは少し憤慨します。それに巻き込まれたテヨとラットは。

Magic Story「ラヴニカ:灯争大戦――結末の灰燼」(『灯争大戦』第6話)より引用

黄金のたてがみさんは顔をしかめた。テヨの肩におかれた手が無意識に握りしめられた。傷つける気は全然ないんだろうけど、テヨはびくっとした。

ケイヤ様がそれに気づいて、そっとその手を外してあげた。テヨは安心して小さく溜息をついた。

私はちょっと笑わずにはいられなかった。そしてテヨと微笑みあった。

この子の笑顔って、すごく素敵なんだよね……

一方同じ場面を小説版、テヨ視点で。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター67より訳

アジャニは顔をしかめた。テヨの肩におかれた手が無意識に握りしめられた。実際に危害を加えられはしなかったが、テヨはひるんだ。

ケイヤが気付き、その手をそっと外した。テヨは小さく安堵の溜息をつくことができた。

ラットがくすくすと笑った。それは自分の情けない姿を見てのこと、それでもテヨは偽りないその笑みを、プラムの色をした瞳が喜ぶ様を再び見られたことが嬉しかった。

見知らぬ世界にやってきて、不思議な女の子に出会った。目まぐるしく大変な戦いを経て、共に生き残って、こうして微笑み合う。ちなみにプラムはテヨの好物で、故郷の思い出でも数少ない喜ばしいものです。その色をした瞳が生き生きと輝くのを見るのは、とても嬉しいことなのでした。

これは私の持論なのですが、「初めての次元渡り」はしばしばそのプレインズウォーカーの今後を決定づける重要な出来事です。これもよく過去の例として挙げますが、アジャニはナヤ断片からすぐ隣のジャンドへ飛んで先輩プレインズウォーカーのサルカンに出会い、命を助けられるとともに教えを受けました。一方でテゼレットはエスパーから隣は隣でもグリクシスへ飛び、ボーラスのもとへ辿り着いてしまって現在に至ります。

テヨは、巻き込まれたものこそハード極まりない戦いでしたが、出会いという点では誰よりも幸運でした。そしてもちろん素質もあったのでしょうが、厳しい経験を経て大きな成長を果たしました。エピローグでケイヤがかけてくれた言葉で、彼の項目を締めたいと思います。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター67より訳

ケイヤはテヨの心情を、少なくとも感情を察したと信じて言った。「大丈夫よ、戦いは終わった。君も故郷へ帰っていいのよ」

「そうかもしれません。けど、僕がいるべき場所は故郷なのかどうか、よくわからないんです。僕は、本当に駄目な見習いでしたから」

「それはつまり、君はもう立派に一人前のプレインズウォーカーってこと」 ケイヤは微笑むと、テヨの滑らかな頬を指で撫でた。

どうかその善良でまっすぐな気質をそのままに、大きく成長していって下さい。

5. おわりに

……以上、『灯争大戦』で紹介したいと思っていた内容はだいたい網羅できたかな。連載ペース完全無視の記事ラッシュはひとまず終わりになるかと思います。こんなにたくさん書かせてくれた晴れる屋メディアチームに感謝。とはいえ続編小説が11月に発売されますので、その時には現在進行中の前日談エピソードも合わせて紹介する予定です。月刊連載ペースならすぐですね。

それでは、また次回にお会いしましょう。

(終)

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若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら