あなたの隣のプレインズウォーカー 第87回 ウルザズ・サーガ物語もリマスター

若月 繭子

若月 繭子

はじめに

こんにちは、若月です。

『エルドレインの王権』が俄然盛り上がってきた今日この頃。先日、カードよりも一足先にメインストーリーの小説が発売されました!もちろんすぐに読みましたよ!

主人公は《ローアン・ケンリス》《ウィル・ケンリス》。ざっくり説明しますと、18歳になって使命の旅に出ることを許された2人が、行方不明の父王を探す中で自分達の出生の秘密に迫る……というようなあらすじです。全く新しい世界ですがわかりにくいようなところもなく、また双子のキャラクターがとても良くて面白かった!ネタバレは避けますがガラクかっこよかった……かっこよかったんですよ、本当。あのトレイラー? うむ。

さてこちらの連載もね。先月に引き続き過去の物語になりますが、今回は久しぶりに、ウェザーライト・サーガの物語を追う「リマスター」の続きです。『ドミナリア』がスタンダードから去る前に少しでも進めておきたいですし、結末の『アポカリプス』はまだまだ遠いですし。

なお、『ウルザズ・サーガ』『ウルザズ・レガシー』『ウルザズ・デスティニー』からなるブロックは「ウルザブロック」「サーガブロック」「アーティファクトサイクル」など複数の呼び名があります。この連載では「ウルザブロック」に統一して進めることにします。

1. ウルザブロックの構成

ウルザブロックはとても長い年月を扱っています。その期間はなんと約4000年!!そしてその中でも『ウルザズ・サーガ』は3000年以上を占めています。こういった数値は昔から出てはいたのですが、昨年発売の書籍「Art of Magic: the Gathering–Dominaria」により改めて公式情報として明示されました。非常にありがたいです、なんせ昔の情報は出所がはっきりしないものが多くてねえ。

ちなみに最近のセットにおける時間経過は(現実の発売ペースに合わせてなのか)だいたい数週間~数か月程度、『アモンケット』と『破滅の刻』は数日間の出来事です。『灯争大戦』なんて、早朝に始まってその日の夕方頃に終わりました。

出現領域次元を挙げた祝賀

そう、ここからここまで一日足らずだったんですよ。また『ウルザズ・サーガ』のカードにおける時間経過は少し特殊であり、各色でそれぞれ舞台となる場所や時代が異なっています。その順はといいますと、

1. 緑:アルゴス島、兄弟戦争中期~末期

ガイアの揺籃の地

2. 黒、白:ウルザが訪れたファイレクシアと同じくウルザが訪れたセラの聖域

ファイレクシアの塔セラの聖域

3. 青:トレイリア時間遡行実験とその失敗

トレイリアのアカデミー

4. 赤:ウルザが協力を要請しに向かったシヴ

シヴの地溝

だいたいこのような感じであり、またアーティファクトはすべての時代に散らばって存在しています。そしてすべて『ウルザズ・サーガ』内で終わっているわけではなく、前後の時間軸である『アンティキティー』『ウルザズ・レガシー』と重複しているところも存在します。

時のらせん

そのためウルザブロックのストーリーを説明する際には、セットを跨いでカードを提示することもあるかと思います。そこはあまり厳密に考えないで頂ければ幸いです。

2. ウルザズ・サーガのキャラクター

ありがたいことに、近年は「過去の物語に登場した主要キャラクター」が盛んにカード化されています。『ウルザズ・サーガ』の主要人物も多くが現代スペックで、そしてしっかりと設定や物語のイメージに沿った姿で目にすることができます。つくづくいい時代になったものですね。

■ウルザ

最高工匠卿、ウルザ

Magic: the Gathering 公式Facebookより訳

史上最強のプレインズウォーカーとも言われるウルザは、ドミナリア出身の優れた科学者であり工匠であり指揮官でした。彼はファイレクシアによる幾度もの侵略から故郷を守るため、数千年に渡る戦いを率いました。とはいえドミナリアの生き残りのため、彼は(自らを含む)多くの生命を犠牲にして勝利を掴んだのです。そのため、ウルザは不名誉な英雄として伝えられています。

その通りウルザブロックの主人公ウルザ。彼については一体どこから説明したらいいものかいつも迷います。本人のカードとしては昔から「変装した姿」として《無明の予見者》、ifもの的に《アカデミーの頭、ウルザ》、そして遂に『モダンホライゾン』で明確にウルザ本人がカード化されました。クリーチャー・タイプが示すように《最高工匠卿、ウルザ》は人間時代のウルザ。「最高工匠卿/Lord High Artificer」は当時の称号です。

精神力

前セット、『エクソダス』の《精神力》に突然登場していたウルザ。とはいえまだ背景ストーリー情報もなかなかない時代、私の周辺では「なんかすごい重要人物らしい」くらいの認識だったような気がします。『アンティキティー』に当時触れていればもう少しはわかったのかもしれませんが、マジックが本格的に日本へ入ってきたのはRevised Edition(第3版)以降。インターネットも普及していなかった当時、私も『クロニクル』のカードからわずかに把握する程度でした。

■ミシュラ

Mishra

実のところ『ウルザズ・サーガ』にウルザの弟ミシュラはあまり出てこないのですが、取り上げないわけにもいくまい。2人の仲違いは、少年時代に《Mightstone》《Weakstone》を奪い合ったことに起因します。やがてその争いは世界を荒廃させる戦争へと発展し、同時にファイレクシアの侵入をもたらしました。ミシュラ本人のカードは《工匠の神童、ミシュラ》がありますが、それは「時の裂け目から現れた過去の姿」。とはいえ、その『時のらせん』当時に丁度良くわかりやすい紹介記事がありました。

公式記事「THE LEGENDS OF TIME SPIRAL」(掲載:2006年11月)より抜粋・訳

物語での役割:若き工匠の兄弟ウルザとミシュラは、コイロスの洞窟にて計り知れない力を持つ2つのアーティファクトを発見した。それが《Mightstone》《Weakstone》である。

2人は相手が持つ石を切望し、それは時とともに対抗心となり、工匠としての能力を試す中である種の軍拡競争となり、やがて大戦争へと発展した。ミシュラはファイレクシアの機械を用いて軍備を増強し、そしてファイレクシアとの関わりから彼は堕落するとともにある意味狂気へと堕ちた。

その兄弟戦争はアルゴスにてウルザが《Golgothian Sylex》を用いることで終結し、ミシュラとその軍勢を滅ぼした。塵が晴れた時、ミシュラの姿はなかった。そしてウルザは弟を陥れたと信じる者、ファイレクシアの王ヨーグモスを打ち倒す長い旅を始めるのである。

また、しばしば誤解されるのですが、ミシュラはプレインズウォーカーではありません。実際に現地ドミナリアでもよく勘違いされていたらしいので仕方ないよね。いつか兄弟戦争当時のミシュラもカード化されるんじゃないかな、と予想しているのですがどうでしょう。

■ザンチャ

潜伏工作員、ザンチャ

『統率者(2018年版)』製品情報ページより引用

ザンチャは人間社会に紛れて生活するよう作られたファイレクシア人でした。かすかな人の心によって道から外れたザンチャは、ファイレクシアを裏切り、何世紀にもわたってウルザと共に旅をし、千年に渡る彼の戦いを支えました。そして最後には自らを犠牲にして創造主に背き、ウルザを助けました。ザンチャの人格の座であったハートストーンは、ゴーレムであるカーンの一部となりました。

『ウルザズ・サーガ』の複数のカードに登場していたザンチャも、『統率者(2018年版)』にて明確に本人としてカード化されました。《潜伏工作員》は明らかにザンチャの姿をしていましたけれどね。

潜伏工作員不正利得やり込め

ファイレクシアの潜伏工作員として創造されたザンチャでしたが、ファイレクシアから見て彼女は失敗作でした――独立心を持っていたのがその理由です。「All is One」であるファイレクシアにおいてそれは致命的な欠陥であり、ザンチャは処刑を宣告されました。ですがそこをウルザによって救出され、以来彼と長く、とても長く行動を共にすることになります。

■セラ

慈悲深きセラ

Magic: the Gathering 公式Facebookより訳

遠い過去に生きた人間のプレインズウォーカー、セラは力強くも情け深い癒し手でした。彼女はセラの聖域と呼ばれる人工次元を創造し、天使の群れに守られながら従者たちと平穏の内に過ごしていました。セラとその聖域は失われて長いながらも、その遺産と教えは多元宇宙の全域にて希望の標として生き続けています。

『モダンホライゾン』でのカード化には誰もが驚いたのではないでしょうか。セラの名はマジックの歴史とともにありました。《セラの天使》の登場は『Limited Edition Alpha(アルファ版)』、以来セラの名を冠するカードやセラに関係するカードはとても、とてもたくさん存在します。それこそマジックが誕生して26年目の最新セットである『基本セット2020』にも。

セラの天使セラのアバターセラの守護者

セラの出身次元はわかっていませんが、ドミナリア次元ではその歴史に数度顔を出し、確固たる足跡を刻み、その教えはセラ教会となって今も善き人々の拠所となっています。また『ホームランド』の舞台であるウルグローサ次元にもしばしの間、夫のフェロッズと共に暮らしていました。フェロッズと死別した後にウルグローサを離れ、自らの人工次元を創造して天使や信奉者と共に静かに生きていました。そしてある時そこに、ファイレクシアから逃れてきたウルザとザンチャが飛び込んでくるのです……。

■ギックス

Gix

とはいえ、まだ主要登場人物全員がカード化されたわけではありません。ファイレクシアの重要人物として昔から有名なギックスもその1人です。

Vanguard 《Gix》フレイバーテキストから訳

冷酷さとむき出しの野心をもって、ギックスはファイレクシアの体制にて法務官という至上の地位にまで駆け上がった。ファイレクシアでも最も重要な行いの多くを監視しつつ、ギックス自身は覇権を追い求めている……ファイレクシアでは、弱者が強者の弾となるのだ。

ギックスのかぎ爪ギックスの僧侶

彼は元々、兄弟戦争よりも遥か昔のドミナリアに繁栄した古代スラン帝国の人間でした。あのヨーグモスによってファイレクシア人と化し、スランとファイレクシアの戦争に従事しましたが最終的には主と共にドミナリアから閉め出されてしまいます。ですがウルザとミシュラが門を開いたことで帰還が叶い、兄弟戦争に介入しました。そして長い時を経て再びドミナリアに姿を現すと、いずれ来たる侵略戦争のために潜入工作を開始します。

ギックスの信奉者、ローナ

現代ドミナリアにも、密かにギックスを崇める者がわずかながら存在します。『ドミナリア』に登場した《ギックスの信奉者、ローナ》は現代トレイリアのアカデミーで学びながら、密かにファイレクシアとギックスについての研究を進めています。

3. アルゴスにて

それでは物語に入りましょう。この部分は第55回とかぶりますが、『ウルザズ・サーガ』の物語は兄弟戦争の終盤から始まります。

横風踏査

57AR頃、ウルザの息子ハービンは飛行機械に乗っていた際に嵐に巻き込まれ、未踏の大地アルゴスへと流れ着きました。そこはウルザの軍にとって願ってもない資源の宝庫でした。ハービンは自力で飛行機械を修理して帰還し、アルゴスの存在を伝えます。少ししてミシュラ軍もアルゴスを知り、まず両軍と現地民との戦いが勃発しました。アルゴスの民は人間もエルフも、植物や動物までも果敢に抵抗しますが機械の軍勢は圧倒的でした。

隠れたるゲリラ樹上のレインジャーゴリラの戦士

《樹上のレインジャー》フレイバーテキスト

奴らを捕まえられないときは、木を切り倒してしまえばいいんだ。こっちの条件で戦わせるんだ。――― ミシュラ

《ゴリラの戦士》フレイバーテキスト

ゴリラは胸を叩き、両手に握った木の葉を空中に投げ上げた。挑戦の吠え声を上げ、歯をむき出しにした。機械の兵士は、なにも理解せずにゴリラを殺した。

抵抗も空しくアルゴスは資源を奪い尽くされて不毛の大地となり、やがて最終決戦の時がやって来ました。《ウルザの弟子、タウノス》は、ミシュラ軍に混じった奇妙な機械の一団を目撃します。そして両軍の機械兵が共に凶暴化し、見境なく攻撃を始めました。その一方ウルザとミシュラは遂に戦場で直接対峙し、兄は弟が青年のままの姿であることを知ります。第55回にて同じ場面を紹介しましたがもう一度。

小説「The Brothers’ War」チャプター34より抜粋・訳

「やあ、兄さん。調子悪そうだね。機械に命を吸われたんだね。失敗だったね、兄さんは色々失敗してきたけどそれもだよ。歳をとるがままにさせて、もう消えそうな光になってる。最後に一度だけ話そうか、それとも今殺そうか? 力というのは何処にあるって思う? まだ僕の石が欲しいって思ってる?ほら、あげるよ!兄さんは一度だって本当の力を知らなかった。自分で戦ってこなかった。機械と計算の安全な世界に閉じこもってさ。それは間違った道だったってわかったと思うけど。兄さんは老いて死ぬ、けれど僕は兄さんの土地と民と機械を手に入れて、望むままにしてやるよ」

(略)

ウルザは弟が逃げ去る様子を見て、何がミシュラをここまで強くしたのかを把握した。ウルザの攻撃によってミシュラのローブが燃え、それとともにその下の皮膚までも熱で剥がれてしまっていた。

皮膚の下にあったのは金属だった。ウルザが目にしたのは一瞬だったが、それで十分だった。四肢であったものは金属板に、筋肉として動いていたものは滑車と絡み合った鋼線だった。

内骨格器仕返し

《仕返し》フレイバーテキスト

不潔な、金属的な悪臭でウルザの五感が圧倒された。そのとき、ウルザは弟がもう弟でないことを悟った。

ウルザは知りませんでしたが、ファイレクシアの法務官ギックスがこの戦争に入り込んでおり、その信奉者集団を用いて動いていたのでした。墜ちた弟の姿を、そして戦場に満ちるファイレクシアの機械を見てウルザは成すべきことを理解します。彼の手には、世界に破滅をもたらすとされる杯がありました。使用法もわかっていました。

Golgothian Sylexウルザの殲滅破

小説「The Brothers’ War」チャプター34より訳

杯の底から閃いた光が外へ、上へ広がり、第2の太陽となって触れたもの全てに火をつけた。ウルザはその光をほんの一瞬感じ、その中で微笑んだ。最後に見えたのは、機械と融合した弟の姿が、共に衝撃波に飲み込まれる様だった。その顔に浮かんでいた笑みは身体の機構が停止すると、よじれた偽の笑顔となった。そしてミシュラとドラゴン・エンジンであったものは最小の粒子にまで崩れ、その粒子もまたウルザが呼び寄せた爆発の力に捕えられ、遥か、遥か遠くへと吹き飛ばされていった。そしてウルザもまた、消えた。

ところで個人的に、この出来事に「ウルザの殲滅破」という名前がついたこと自体がすごくありがたいと思っています。以前は「兄弟戦争を終わらせた、《Golgothian Sylex》による衝撃波と破壊は~」みたいな説明を書いていたところを「ウルザの殲滅破は~」で済むようになったので。

それからしばしの時が経ち、地中で《Tawnos’s Coffin》に籠って生き延びたタウノスの前にウルザが現れました。ミシュラは、と尋ねられ、ウルザは悔恨とともに答えました。遥か昔に弟はあの機械の帝国に殺されていたのだと、自分は知るよしもなかった……と。長いこと信頼してきた弟子へとウルザは告げます、これからはお前が師となって、語り継いでいって欲しいと。この戦争を、この行いを決して繰り返させないようにと。そして妻カイラへは、自分のことは忘れてくれと……。

後にタウノスはカイラへとこの戦争の様々な真実を伝えたようで、彼女は兄弟戦争の記録を書物として残しています。その名も「The Antiquities War/アンティキティー戦争」。これは後世のドミナリアにおいて、重要な歴史書となります。

アンティキティー戦争

4. 放浪のウルザ

《ウルザの殲滅破》から数年、ウルザは多元宇宙を旅してプレインズウォーカーとしての力を把握した後、ドミナリアへと帰還しました。そして世界を放浪しながら、自分の悪名が広まる様を知っていきましたが、自身がウルザだと周囲にばれたことはありませんでした。彼は群集の前で高らかに演説を行うカリスマ的指導者ではなく、静かな研究を好む学者でした。戦争中も多くの人々の前に出ることはなかったのです。

そしてウルザはすべてが始まった場所、コイロスへと引き寄せられました。そこで彼は、太古の昔に繰り広げられたスラン帝国とファイレクシアとの戦いを幻視します。さらに、自分達兄弟が手にした石は、ファイレクシアへと続くポータルを閉ざしていたものだったと知りました。自分達の行いがファイレクシアを呼び寄せた。そして弟をファイレクシアに堕とすことになってしまった。なぜ、歩み寄れなかったのだろう?なぜ、きちんと向き合わなかったのだろう?苛むような後悔の中、ウルザはファイレクシアへの復讐を誓いました。

小説「Planeswalker」チャプター1より訳

多元宇宙は計り知れないほどに広大で、無数の次元で満ちている。導きとなる痕跡も記憶もなく、ウルザは曇り空の下、風の無い海に漂う帆船の船員のようなものだった。どちらへ向かえば良いのか、全くわからなかった。

「私は不死となった。奴等の棲家を見つけるまで次元を探し回ろう、たとえどれほど長く辛い旅になろうとも。そして弟を破滅させたように、奴等を破滅させてやろう」

ところでそのファイレクシアとは何か。それは9層の入れ子構造からなる、恐ろしくもおぞましい機械生命体の次元です。ウルザは少年時代にミシュラと共にこの世界へと繋がるポータルを開いてしまい、それがやがて現在の状況をもたらしたのでした。

暗黒の儀式悪人に休息なし再処理

公式記事「THE PLANES OF PLANECHASE」より訳

汚らわしい技術とよじれた肉体の融合したクリーチャーが蹂躙する恐怖のファイレクシアは、かつては多元宇宙で最も手におえない勢力かつ最も恐ろしい場所のひとつであった。ファイレクシアは9つの入れ子構造の「球層」から成り、それぞれが異なるおぞましい役割を持つ。ファイレクシア第4球層は虐殺場であり訓練場として、不自然な創造物が地獄のような人工的生態系へと解き放たれて生存を試される。

公式記事「The Known Mutliverse」より訳

ファイレクシアは生物的機械の人工次元である。創造したのは名も知れぬ人間のプレインズウォーカー、とはいえその者はドラゴンの姿を取ることを好んでいた。球層の入れ子構造から成り、深層へ向かうほどに不快かつ危険で、全てが広大かつ入り組んだ人工的生態系を形成している。

第4球層

そのファイレクシアの第4球層では、ギックスの監督下、他の次元へと送り込むための潜伏工作員が創造されていました。ですがその中の1人、ザンチャは他とは異なる奇妙な特性を保持していました――強い自意識を。ファイレクシアは厳しい階級社会であり、その管理を逸脱しかねない要素は極めて危険とみなされます。後にザンチャは任務の最中にも次第にファイレクシアへと反抗するようになり、やがて処刑を宣告されてしまいます。そして何処かの次元にて刑が執行されようというその時、すでに何世紀もの間ファイレクシアの手掛かりを探して多元宇宙を放浪していたウルザが、その様子を目撃したのでした。

犠牲

ウルザは見たところ人間であるザンチャがファイレクシアの怪物に襲われているのだと思い、その場に介入して彼女を救出しました。以降、2人はとても長い年月を共に過ごすことになります。ザンチャはウルザにファイレクシアについて教え、またその恐ろしさを繰り返し警告しましたがウルザの復讐心は変わりませんでした。一方でザンチャはファイレクシアにある自らの「心」たる装置、ハートストーンを取り戻したがっており、それに協力してくれるならとウルザへファイレクシアの場所を伝えました。

真に暗き時間ヨーグモスの勅令

《真に暗き時間》フレイバーテキスト

ヨーグモスはファイレクシア人に人間の皮膚をかぶせるために長い時間を費やしたわ。そうして作られたのが潜伏工作員よ。彼らはどこにでも入り込んでいるわ。――― ザンチャからウルザへ

《ヨーグモスの勅令》フレイバーテキスト

ファイレクシアの純粋さは、他の純粋さを絶対に受け入れないわ。――― ファイレクシアの締め出し者ザンチャ

やがてウルザはファイレクシアへと突入し、攻撃を仕掛けました。そして多大なダメージを与えますが次第に劣勢となり、第4球層まで進んだところで完全に圧倒されてしまいます。ハートストーンを取り戻してきたザンチャとどうにか合流すると、すんでのところでプレインズウォークにて脱出しました。ファイレクシアはウルザの危険性を把握し、追跡のために抹殺者を放ちました。

それからというもの、2人は多元宇宙をひたすら逃亡し続けました。ファイレクシアの追跡は執拗極まりなく、ひとつの次元へ逃げ込んでも、見つかるまで長くはかかりませんでした。絶望的な逃避行は次第にウルザを消耗させ、狂気へと蝕んでいきました。さらに故郷ドミナリアへ戻りたくとも、《ウルザの殲滅破》の影響で発生した「シャード」に閉ざされていたためそれは叶いませんでした。

ある時2人は抹殺者に追い詰められ、行く先も定かでないプレインズウォークで逃走しました。そして辿り着いたのが、セラの聖域でした。

セラの聖域
治癒の軟膏平和な心

公式記事「The Known Mutliverse」より訳

この人工次元はプレインズウォーカー・セラが平和と法への愛を示すために創造された。白マナの思索が形を成したものである。その住人はセラが創造した無数の天使と、他次元から連れてきた少数の他種族から成っている。

白マナに満ちたこの世界で、ウルザとザンチャは次元の創造主セラの助けを得て心身ともに傷を癒し、またファイレクシアもセラの聖域と同じ人工次元であると知ります。つまりファイレクシアは、なにか別のところに起源があるということ(ちなみに2019年現在も、ファイレクシアの起源についてはっきりしたことは明かされていません)。ウルザは5年をかけて回復しますが、ファイレクシアの追跡はこの次元にまで及びました。軍勢が攻撃を仕掛け、純白の世界を汚していきました。

汚れ抹殺迫害

ウルザはザンチャを連れて逃亡し、多元宇宙の放浪を再開しました。ファイレクシアの起源を探るという目的もありました。この最中に訪れた次元のひとつエクィロー/Equilorが、『プレインチェイス(2009年版)』に次元カードとして登場しています。

The Eon Fog

公式記事「The Known Mutliverse」より訳

Lynn Abbeyの小説「Planeswalker」にて、ウルザはエクィローを訪れている。多元宇宙でも最古かつ最遠の次元のひとつで、ウルザはファイレクシアの起源について学べることを願った。ウルザはエクィローを「時の端」に存在すると述べている。この次元は想像を絶するほどに古く、摩耗し、その魔導士は莫大かつ名状しがたい力を持つ。ウルザが連れのザンチャに言って曰く「山々ですら、あまりに長くそこに立ちすぎて風化しきってしまった」。

そしてドミナリア、2934ARのこと。プレインズウォーカー・フレイアリーズが用いた「世界呪文」によって氷河期が終わり、この次元を隔離するように覆っていた「シャード」も解消されました。それからしばしの後、ウルザはようやく故郷へと帰還しました。

5. ドミナリアでの決着

ウルザはテリシア大陸、オーラン山脈に居を構えました。ですが彼はファイレクシアへの憎悪と弟への罪悪感から、ほとんど正気を失っていました。

一方でファイレクシアの工作員は、いくつものドミナリアの共同体へと入り込んでいました。現実の脅威に目を向けさせるには、ウルザに正気を取り戻させることが不可欠とザンチャは考えます。そのため、書物「アンティキティー戦争/The Antiquities War」を頼りにミシュラによく似た姿の人物を探し当てると、その奴隷の青年Ratepe(仮訳:ラテイプ)を買い取って「ウルザのためにミシュラのふりをする」よう願いました。

すでにウルザは伝説の存在であり、当然彼は戸惑いましたがザンチャは説得し、またウルザとミシュラについて可能な限り教え込むとウルザに対面させました。ザンチャの計画は上手く行き、「ミシュラ」の存在によってウルザは現実を見ることができるようになりました。

工匠の神童、ミシュラ

ラテイプについては設定のみで一切カードに登場していません。若い頃のミシュラ、らしいのでこのカードアートに近いのかな。ザンチャは聡明で率直なラテイプと触れ合ううちに、彼へと未知の感情を覚えるようになります。

そしてウルザは、ファイレクシアの潜伏工作員を一掃しようと考えました。そのために、彼らの身体の内にある油に反応し、彼らだけに聞こえる酷い騒音を浴びせる小型装置を開発しました。ですがそれを近隣の都市へと広める中、ギックス自身がドミナリアに来ていることが判明しました。ウルザは断固として決着をつけることを決意したのです。

輝月が天頂に至る夜、ウルザ達はギックスが潜む街へ赴きます。やがてその白マナに反応して装置が起動されると、近隣に潜む工作員があぶり出され殺害されると同時にギックスも姿を現しました。2人は全ての始まりの地であるコイロスへ向かい、そこが決着の場となります。

コイロスの洞窟

しばしの様子見の後、真剣な決闘が始まりました。あまりに速い攻撃の応酬。ギックスは強く、賢く、戦いに長けていました。ウルザはギックスの片脚を溶かすも、大して効いた様子はありません。そして一見ウルザが優位に立っているように見えながらも、決定打は与えられずにいました。ギックスはウルザの多彩な攻撃を全て打ち消していました。やがて戦いは純粋な意志と力の勝負となりました。ウルザとギックスが応酬する魔力が網となって実体化し、しばし拮抗が続きました。

ザンチャとラテイプは息をひそめて見つめる中、動きがありました。ウルザの両目にはまっている《Mightstone》《Weakstone》、それがゆっくりと引き出されてギックスの方へ向かっていきます。あの石が敵の手に渡ってしまったなら……ザンチャとラテイプは動きました。2人は共にウルザとギックスの間に割って入り、不意の出来事にギックスは2人へと怒りを向けました。けれどザンチャとラテイプは手を取り合い、2人の間には歓喜が溢れ……そして大爆発が全員を包み込みました。

ウルザにとって、戦いは不意に終わりました。「ミシュラ」とザンチャが割って入ったかと思うと、爆発が起こり、そして自分以外の全ては消え去っていました。静寂の中、ただ、終わったということだけはわかりました。ザンチャの名を呼びますが、無論返答はありませんでした。あの最後の瞬間、彼女は「ミシュラ」と共にあることを選んだのです。それでいい、ウルザはそう思いました。

スラン帝国とファイレクシアの真実が、この洞窟にありました。ファイレクシアの起源はスラン帝国。彼らは自分とミシュラのように戦い、滅びた。けれどファイレクシアとなった者達がいた……

小説「Planeswalker」チャプター24より訳

コイロスの洞窟内に立ち、ウルザは結論づけた。時間の実験を続けなければ。時を遡り、自らの人生を戻すのではなく、スランの、ギックスや諸々の時代まで……「いや、まだだ」 ウルザは自らに言い聞かせるように言った。

これは手強い戦いになるだろう。ギックスはそれでも過去に存在する。ヨーグモスも、ファイレクシアも過去に、現在に、未来に存在する。戦いは――ドミナリアを守るための本当の、最後の戦いは、ある意味、始まったばかりなのだ。これは、過去と未来の戦いになるのだろう。

そしてウルザは独りだった。仲間は誰もいなかった。タウノスも、ミシュラもいなかった。

明かりを呼び出し、ウルザは地表へと黒焦げの回廊を進みだした。生身の肉体はない。光が必要なわけではない、他の何も。

何かの重みに引かれるのをウルザは感じた。

ザンチャの心が、両目のパワーストーンが、そのままに残っていた。

独りではない。

そう、決して、独りではないのだ。

6. まだまだ続きます

独りではない。それを知ったウルザは、ドミナリアを守るための仲間を、戦力を作り上げるために動き出します。

次は『ウルザズ・レガシー』。絶海の孤島に建てられた魔法の学府、世界中から集められた才能ある子供たちがそこで学びます。当然、それは一筋縄でいくはずもなく……なんて面白くも楽しい魔法学校ものが繰り広げられるわけはない、というのは誰もが知っているところですよね。いよいよ、あのトレイリアと問題児が表舞台に登場です。

問題児

(終)

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若月 繭子

若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら