Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/1/29)
カード評価に頼らないドラフト
ドラフトをする時期として好きなのは、新セットが発売して間もないころです。というのも、ドラフトの戦略が確立されておらず、他のプレイヤーたちは個々のカードパワーを参照してピックを進める傾向にあるからです。
私から言わせれば、ドラフトというのは単なるカード評価ではありません。仮にカード評価が全てならボットは最強のデッキをドラフトしているはずでしょう。大切なのはそのドラフト環境で使えるさまざまなアーキタイプに精通しておくことです。それが流行りの”Tier1″ドラフト戦略であろうが、ドラフトの4回に1回しか使わないニッチな戦略であろうが関係ありません。その時々に適したアーキタイプをドラフトできることが肝要なのです。
新セットが発売されると、勝ちやすい戦略が周知されるまでに数週間ほどかかるのが一般的です。しかし昨今はその期間が一層長くなっているように思います。MTGアリーナでプレイする層が増えてきており、人間同士によるドラフトが減少しているからです。これは私にとっては喜ばしいことで、新セットをつぶさに見て、他のプレイヤーが知らないニッチで強力な戦略を見つける時間が生まれます。ボムレアに依存するのではなく、終盤のピック、ときには14手目のピックさえも勝利に結びつく運用をする。それこそが私がドラフトで愛してやまない部分なのです。
この記事では『テーロス還魂記』ドラフトへの第一印象や、私がおすすめする重要なアーキタイプ、ピックの優先順位を解説していきます。この環境には主要な”シナジー”として「墓地」「エンチャント」「対象」という3つのテーマがありますが、特定の色全体に渡ってサポートされているちょっとした戦略も多く用意されています。以下では3つの主要なテーマを取り扱い、私なりの一風変わった構築アプローチをご紹介しましょう。
「墓地」
一見しただけだと、インパクトの大きい「脱出」カードを盛り込み、墓地を肥やす《執拗な探求》《葬儀》《高波の神秘家》などを採用しただけのデッキだと思いがちです。しかし、墓地を肥やすサポート呪文は数が少ないうえに効率的ではなく、質の高い「脱出」呪文はそのカードを除いて3枚以上の墓地のカードを必要とするものがほとんどです。
しかし実のところ、私が一番気に入っているメカニズムは「脱出」です。「墓地」というテーマを使うべきデッキは、盤面の構築に一切貢献せず墓地を肥やすだけの呪文を使うデッキではなく、アグレッシブなデッキだと思っています。というのも、墓地を肥やすために数ターンを費やしていては、この環境に存在する攻撃的な戦略にテンポで押し切られてしまうリスクがあるからです。そのため、墓地を肥やす手段は積極的な攻撃とし、「脱出」は軽量の小型クリーチャーを大量展開して手札がなくなった後も戦えるツールとして使うのです。
メインカラーは青が良いと考えています。かなり遅い順手まで残る可能性がありながらも、「脱出」アグロで極めて重要になるコモンが青には何枚かあるのです。
《高波の神秘家》はこのテーマで最高のカードですが、おそらくかなりの過小評価をされています。このクリーチャーは2マナ域に求めるものが揃っているのです。相手にプレッシャーをかけながら「脱出」の墓地コストを確保することは重要で、序盤の動きが鈍いプレイヤーを咎めてくれます。その他に欲しいコモンとしては《鬱陶しいカモメ》や《精鋭の教官》が挙げられます。小型で軽量のクリーチャーを並べていくため、《青銅の剣》も1枚あるのが望ましいでしょう。飛行クリーチャーや《高波の神秘家》と相性が良いのも魅力的です。
肥やした墓地を使う「脱出」呪文として最善なのは《死者の眠り》です。10~14手目にピックするであろう呪文ですが、少なくとも2枚はデッキにいれることをおすすめします。その効果は地味に思えるものの、《死者の眠り》が墓地で使える状態にあれば相手は突如としてライフを重視し始め、マナコストが重い呪文を手札や墓地に多く残したままゲームを終えることになります。《死者の眠り》が墓地で待機し、盤面には小型のクリーチャーが並んでいれば、1ターンに1体しか手札からプレイできない/墓地から「脱出」させられないのは相手からすれば苦しいことですからね。
これまでにご紹介したコモンは非常に遅い順手で取れるカードですから、序盤のピックは質の高い呪文や強力なクリーチャーに充て、”使えない”コモンたちでデッキを仕上げるようにします。
青と組み合わせたい色は黒と赤です。黒に存在する《モーギスの好意》は相手の小型のクリーチャーに使えば《高波の神秘家》やデッキの脇を固める2マナ域のクリーチャーの攻撃を通しやすくなります。赤には《死の国の憤怒犬》がいますし、《悪戯なキマイラ》は青赤をドラフトしているプレイヤーだけに与えられる恩恵であり、相手ターンに呪文を唱えなくても強いクリーチャーです。
デッキのひな型
「エンチャント」
多くのエンチャント(特に「お告げ」サイクル)が一般的に点数が高い傾向にあるため、エンチャントが豊富なセットではあるものの、エンチャントは早めの順手で取られる可能性があります。
私が理想とするエンチャントデッキは、軽量の「星座」クリーチャーに需要が高くないオーラを付ける攻撃的な構成です。ファーストピック級の23枚に頼った構成を狙わないことが重要です。そんな風にデッキを完成させようとしても現実的ではないですからね。まずは効果的な「星座」クリーチャーを優先させ、どんなものでも良いのでデッキに合うオーラを後から取ると良いでしょう。
メインカラーとして望ましいのは緑です。このアーキタイプで最良のコモンだと思っている《セテッサの散兵》がいますし、《セテッサ式訓練》や《戦茨の恩恵》といった軽量で効率的な呪文があります。また、エンチャントでもあるクリーチャーはクリーチャーの枚数を標準に抑えながら「星座」を誘発させるエンチャントの枚数も確保できる重要な存在です。緑と組ませる色として理想的なのは青か黒でしょう。
青と組み合わせた場合、このアーキタイプが求めることの全てを備えた《二柱に愛されしユートロピア》という強力なアンコモンが使えます。また、《トリトンの波渡り》も繰り返し飛行能力を得られるカードであり、青のコモンのオーラである《魚態形成》と相性が良好です。
もうひとつの相性が良い色である黒には、「星座」を複数回誘発させられる《モーギスの好意》、オーラを多く採用する方向性と噛み合った《憎しみの幻霊》がいます。このクリーチャーは相手のクリーチャーを除去するエンチャントと抜群の相性なので覚えておきましょう!
デッキのひな型
「対象」
最後に取り扱うテーマは「対象」です。基本的に赤と白のメカニズムですが、異なる色の組み合わせの可能性やそのメリットについて探っていきましょう。このテーマは、自分のクリーチャーを対象にとるオーラを運用するデッキや、クリーチャーを並べて盤面を横に広げるデッキにうってつけです。コモンには《競技会の英雄》や《群れの英雄》があるため、これらを対象にとる呪文はもちろん、その効果を存分に活かすために豊富なクリーチャーが必要になります。
できることなら赤と白を維持したピックをし、クリーチャーを対象にとる呪文や《ニクス生まれの英雄》といった対象になったときに誘発するカードを片っ端から取っていきたいところです。とはいえ、ドラフト経験がある方ならご存知でしょうが、必ずしも同卓のプレイヤーに色を強制させることはできませんし、赤と白を選ぶプレイヤーがどれだけいるのかもわかりません。赤か白のいずれかに組み合わせる色としては、黒が良いのではないかと思っています。
一見すると黒は的外れのようにも思えますが、黒には《モーギスの好意》《不協和音の笛吹き》《神殿泥棒》といったコモンがあります。
《モーギスの好意》はこのデッキの最大の弱点のひとつである、2ターン目の2/1に対して強力であり、「脱出」呪文のなかでも強力な選択肢です。それに自軍のクリーチャーにエンチャントすれば能力を誘発されられる可能性もあります。《不協和音の笛吹き》は手堅い2マナ域です。死亡したときにトークンを残しますが、クリーチャーを並べ続けることに重きを置くこのテーマでは素晴らしい能力です。しかし何と言っても黒で注目すべきは《神殿泥棒》でしょう。
ちょっとしたおまけが付いた2マナ2/2にも見えるので、どうして私がこんなにも高評価しているのか不思議に思うかもしれませんね。どんな環境でも2マナ域は序盤の動きとして非常に重要だからというのもありますが、《神殿泥棒》は極めてブロックされづらい能力を持っているのです。このテーマにはオーラが豊富に採用されますが、《神殿泥棒》のサイズを引き上げることに使用したり、相手のクリーチャーにエンチャントして《神殿泥棒》の攻撃を通したりできます。
しかし《神殿泥棒》のドラフトの点数を高くする必要はありません。この手のカードの最大の魅力は、序盤のピックで重要な除去やオーラをとっておき、その後に他のデッキでは重視されないものの自分のデッキでは強力となる2マナ域としてピックしてデッキを完成させられることにあるのです。
デッキのひな型
このテーマもできるだけマナカーブを低くし、1ターンに2アクションをとれるようにします。土地の枚数を減らすこともできますが、その場合は対象にとるインスタント呪文とクリーチャー呪文の色を異なるものにしましょう。そうすればマナベースへの負担を軽減でき、3ターン目以降に同じ色のマナソースが必要になって動きが鈍くなる状況を避けやすくなります。
終盤のピックを活かそう
私がこんなにもワクワクしているのは、『テーロス還魂記』ドラフトがようやく遊べるようになっただけでなく、今回ご紹介した2マナ域たちが何度も戦場で躍動する姿を見られたからです。私がドラフトで重要だと思っているのは、終盤でピックしたカードを勝利に結びつけることにあります。この記事を通して、みなさんが思いもしなかったアーキタイプをご紹介できたのなら幸いです。
ジェイソン・チャン (Twitter)