あなたの隣のプレインズウォーカー ~第110回 突然のファイレクシアン~

若月 繭子

はじめに

こんにちは、若月です。昨年夏ごろ、こんなことを書いていました。

第103回「テフェリーのオリジン:灯の旅路」より抜粋

やはり、いつか新ファイレクシアへ戻るときがやって来るのでしょうね……なお、来年で『新たなるファイレクシア』から10年になります。

巨怪な略奪者、ヴォリンクレックス

なんでお前がここにいる!!!!!

確かに私は「新ファイレクシアへ戻るときが~」と書いた。「新ファイレクシアが外に出てくる」とは1ミリも……ってのは誇張だとしてもほとんど思ってなかったわよ!!!!そりゃあ現実時間で10年も経てば何かしらの動きはあってもおかしくないけれど。今回は、カルドハイム次元にこの法務官がやって来た経緯を考察します。

1. ヴォリンクレックスとは

まずは、今回再登場したこのヴォリンクレックスという奴は一体何者なのかという話を。カルドハイムから(たぶん)遠く離れた新ファイレクシア次元、その中でも緑の勢力「悪意の大群」を統べる法務官です。この法務官/Praetorというのはひとつのクリーチャー・タイプであると同時に、新ファイレクシアにおいては各派閥トップの役職名でもあります。

飢餓の声、ヴォリンクレックス

新ファイレクシア内では5つの色に基づく5つの勢力が存在し、相争っています(いました)。各派閥がそれぞれの色の性質や性格を「ファイレクシア的」に解釈して存在していますが、緑派閥は本来の緑からそれほどかけ離れてはいません――弱肉強食の極地、です。

『新たなるファイレクシア』ファットパック(現バンドル)付属小冊子P.11より訳

巨怪な法務官ヴォリンクレックスは、自身が監督する獰猛な生態系を「大群」と呼んでいます。彼はファイレクシアの基本的観念を信じています――「肉体は弱い」。ほかのファイレクシア人と同様に、ヴォリンクレックスと「大群」にて感覚をもつあらゆる存在やほかのあらゆる生物形態は、取り除かれるか、ファイレクシアへ、究極の「種」へと取り込まれるべきだと信じています。そしてほかのファイレクシア人とは異なり、これは捕食者と捕食のサイクルの巨大なシミュレーションを通して成し遂げられるべきだと彼らは信じています。あらゆる獲物が捕食者でもあるのです。他派閥の槽の司祭や技師たちは適合と生存に手をかけすぎており、生来の力と能力を奪っていると彼らは信じています。「大群」はただ貪食と繁殖だけを求め、そして最強の存在が支配者として君臨するのです。

とてもわかりやすい。なお『新たなるファイレクシア』当時、ヴォリンクレックスは緑派閥の本拠地である絡み森に引きこもってほとんど姿を見せておらず、副官的立場である《裏切り者グリッサ》が実質的な緑派閥のリーダーとなっていました。小説にも登場していませんでしたが、いくつものフレイバーテキストからヴォリンクレックス本人の性格を読み取ることができます。

襞金屑ワーム有毒の蘇生不自然な捕食とどろくタナドン

《襞金屑ワーム》フレイバーテキスト

ヴォリンクレックスはそれの歯を取り除いた。そうすれば、次の獲物を殺す前の、噛み砕く無駄な時間を省けるからだ。

《有毒の蘇生》フレイバーテキスト

「我が創造物は、ジン=ギタクシアスの腐った下僕などより、生死にかかわらず強力だ。」 ――飢餓の声、ヴォリンクレックス

《不自然な捕食》フレイバーテキスト

「強き者による制圧――これぞ現在の絡み森における事柄のすべて。」 ――飢餓の声、ヴォリンクレックス

《とどろくタナドン》フレイバーテキスト

「我らの捕食者を実験するには、管も瓶も不要だ。」 ――飢餓の声、ヴォリンクレックス

なかでも《襞金屑ワーム》のフレイバーテキストは、最高に頭が悪いと当時から評判でした。いや、逆にこんな発想ができるというのは頭がいいのかもしれない。まあそのように、ヴォリンクレックスは簡単に説明しますと「新ファイレクシアの緑派閥のトップであり、ひたすら弱肉強食による自然淘汰を旨としている」というようなキャラクターです。カード上でも、ヴォリンクレックスのパワーは新ファイレクシアの法務官5人の中で最大です(《囁く者、シェオルドレッド》とは相打ちになりますし、《大修道士、エリシュ・ノーン》のマイナス修正は受けますが)。

なおここまでの情報は、すべて『新たなるファイレクシア』当時のものです。10年前です。複数の勢力がしのぎを削る次元、というのはよくありますし、その勢力のトップが伝説のクリーチャーになっているのもおなじみです。けれど、そのキャラクターが長い時を経て、何の前触れもなくほかの次元へと進出してきた……というのは極めて異常事態と言っていいでしょう。一体なぜそんなことになっているのでしょうか?

2. Youが一番何しにカルドハイムへ???

前回「Youは何しにカルドハイムへ?」というタイトルでケイヤとティボルトを取り上げましたが、本当にYouが一番何しにカルドハイムへだよ。ちなみに今回のヴォリンクレックスのプロフィールもすでに公開されています。

公式記事「カルドハイムの伝説たち」より引用

巨怪な略奪者、ヴォリンクレックス

ヴォリンクレックスは新ファイレクシアの法務官です。彼は直観という概念を嫌い、捕食者と獲物という関係だけで多元宇宙が動くことを求めています――適者生存が全てです。エリシュ・ノーンが法務官たちの頂点に立った際、彼女にとってヴォリンクレックスは最も御しやすい存在でした。彼の欲求は法務官たちの中で最もさもしいためです。

ヴォリンクレックスがカルドハイムへ到来した理由は現在のところ不明ですが、その目的が極悪であるのは間違いありません。彼が次元を渡った手段もまた謎です。ヴォリンクレックスの有機組織はその旅の間に破壊され、金属と骨が残るのみでした。残骸の匂いを嗅ぎにきた雄鹿の肉を用いて彼は新たな身体を創造すると、ヴォリンクレックスはゆっくりと森の食物連鎖を上り、満足のいく姿を手に入れました。

巨怪な略奪者、ヴォリンクレックス巨怪な略奪者、ヴォリンクレックス

いや、だから何しにカルドハイムへ来たんですか。伝説ラインナップどころか、全カードリストの中でも完全に「異物」よね。ちなみに毒カウンターを与える能力持ちのクリーチャー《牙持ち、フィン》は、同じ記事によると《星界の大蛇、コーマ》の血を浴びたことで毒性を得たのだそうで、ファイレクシアとは関係ないようです。

で、ヴォリンクレックスがカルドハイム次元へやって来た理由ですが、上の引用記事でささっと「不明」と言い切られてしまいました。侵略……にしてはヴォリンクレックス単騎で来ているようですし。何かを手に入れる?何かを学ぶ?曖昧な推測しかできません。そして同じく「次元を渡った手段もまた謎」と。ですが少なくとも、こちらについてはある程度深い考察ができるかと思います。

大修道士、エリシュ・ノーン

《大修道士、エリシュ・ノーン》フレイバーテキスト

「ギタクシア派は、異世界について仲間うちで囁いている。それが存在するなら、ファイレクシアの素晴らしさをもたらしてやらねばならぬ。」

このフレイバーテキストが示唆するように、新ファイレクシアはほかの次元の存在に気づいていました。ですがほかの次元へ進出しようにも、彼らには致命的な欠陥があります――ファイレクシア人は、プレインズウォーカーの灯を持つことができないのです。

公式記事「CARDS UP MY SLEEVE」:日本語版「私の愛したカードたち」より引用

ファイレクシア人の致命的欠陥に、彼らはプレインズウォーカーの灯を持つことが出来ないということがある。つまり、彼らは次元を超えて旅することが出来ないのだ。

ファイレクシア人はプレインズウォーカーの灯を持つことができない、その事実は示されましたが理由までは書かれていません。「灯」であるからこそ、ファイレクシアの「油」は燃やされてしまう、のでしょうか。現在に至ってもこの理由は不明だと思います(私の把握していないところで公開されていたりしたらごめんなさい)。

そのためヴォリンクレックスがカルドハイム次元にやってきたのは、少なくともプレインズウォーカーに覚醒したり、何らかの手段でプレインズウォーカーの灯を手に入れたため、というわけではないとわかります。つまり、別の何か/誰かが関わっていると考えるのが自然です。ヴォリンクレックスの公開以来、SNSでは「容疑者候補」が複数上がっていますが、私も私なりに考察しました。まずは除外していいと思われる2人から。

ケイヤ

情け無用のケイヤ

今回の主人公。非プレインズウォーカーの相手ひとりを幽体化して自分自身に憑依させ、一緒に次元を渡れる能力を持っています。『カルドハイム』のストーリーでは、しばしばこの「他者を幽体化する」能力を戦闘に活用しています。この力でヴォリンクレックスを連れてきたのでは?という説も出ましたが、メインストーリー第1話で面識はないと証明されました。

ティボルト

嘘の神、ヴァルキータイライト剣の鍛錬悪戯の神の強奪

今回の敵……でいいのか?嘘の神に扮し、カルドハイムの各領界間の路を切り開く剣を手に入れ、自由に行き来しては各地で混沌と不和を撒いています。この剣でカルドハイムとファイレクシアの間の路を開き、ヴォリンクレックスを連れてきたのでは?という推測も立ちました(実際、剣がカルドハイム内ではなく別の次元への路を切り開けるのどうかは今のところ不明)。

しかしメインストーリー第3話にて、ティボルトがカルドハイム次元で何をしていたかが(彼目線で)明かされました。それによれば、カルドハイムを訪れてから「恐ろしい獣」に遭遇したようです。少なくともティボルトがこの獣(=十中八九ヴォリンクレックス)を連れてきたのではないと判断できます。

そして、動機や手段について心当たりのある2人。とはいえ両者とも『カルドハイム』には今のところまったく顔を出していないのですが。

テゼレット

工匠の達人、テゼレット

ヴォリンクレックスが次元を渡った手段を考えた際に、多くの人が真っ先に思いついたのがテゼレットかと思います。何といっても、

この3つがそろっているのですから。

テゼレットの計略次元橋機械と共に

かつてテゼレットはボーラスに命じられ、ミラディン次元にて隆盛しつつある新ファイレクシアに潜入していました。一時は自らそこを支配しようという野心も見せたのですが、新ファイレクシアが支配を完了するにあたって呼び戻されました。そして後にカラデシュ次元にて、非生物を次元間移送できるアーティファクト《次元橋》を手に入れます。ゲートウォッチとの戦いでその本体は破壊されたものの、テゼレットは核部分を持ち逃げし、自らの身体へと取り込みました。

《機械と共に》フレイバーテキスト

「次元橋を私の中へと移植したとき、プレインズウォーカーの灯が私の身体を越えて燃え上がるのを感じたのだ。多元宇宙は私の遊び道具だった。あれは……最高の気分だった。」――テゼレット

『灯争大戦』では、この次元橋を用いてアモンケット次元から戦慄衆を送り込む任務にあたりました。そして、カーン・ダク・ニクシリス・サムトの前に敗北しますが嬉々として逃走し(詳細は第79回に)、戦後には暗殺任務を受けてやって来たラルを返り討ちにしました(こちらも第93回に)。

ここで、上でも引用した『カルドハイム』でのヴォリンクレックスの解説をもう一度。

彼が次元を渡った手段もまた謎です。ヴォリンクレックスの有機組織はその旅の間に破壊され、金属と骨が残るのみでした。

これはいかにも「次元橋を使った」雰囲気があるような……?もっともありえそうなのは、次元橋の技術を提供して新ファイレクシアから何らかの見返りを得ようとしている、あるいは再び新ファイレクシアの支配者の座を狙っている……というようなものでしょうか。ちなみに『ミラディンの傷跡』ブロックにおける彼のファイレクシア行きについて、2020年10月発売の書籍で説明がアップデートされていましたので紹介します。

書籍「The Art of Magic: The Gathering – War of the Spark」P.48より訳

ボーラスの工作員としての最初の任務は、ファイレクシアの異質な機械生命による侵略の只中にあるミラディン次元へ向かうというものでした。成長するファイレクシアを監視してその侵攻を報告するとともに、ひとりの指導者のもとでファイレクシアの勢力が結束するのを防ぐというのがその詳細です。ボーラスは、多くのプレインズウォーカーを英雄的行動に動員させるひとつの脅威として見ていた可能性もあります――ボーラスの計画のクライマックスにて彼らを引き込む罠として。ですが後に、エルドラージのほうがより効果的かつ信頼できると証明されました。

ボーラスはゼンディカー次元にてエルドラージ解放を仕組んだのですが、その目的は「そのような巨大な脅威が現れた際、プレインズウォーカーたちがどう動くかを観察するため」。新ファイレクシアもその「巨大な脅威」として使えるかもしれない、ボーラスはそう見ていたようです。なるほど。

アショク

悪夢の詩神、アショク

ファイレクシアとの関わりを持つ悪役寄りのプレインズウォーカーはそう多くありません。上記のテゼレットが筆頭ですが、アショクもわりと最近(といっても約1年前)、今後ファイレクシアに関わってくる可能性が示唆されました。

公式記事「『テーロス還魂記』物語概要」より引用

また、アショクはファイレクシア人の存在を学び、真の生ける悪夢を更に学ぶべく即座にプレインズウォークした。

ですが『テーロス還魂記』は小説が出なかったため、残念ですがこの件に関してはこれ以上の情報がありません。

アショクの能力は「相手を眠らせる」「夢を操作する」「悪夢を具現化する」というようなもので、次元間輸送とはまったく別ジャンルです。動機こそあれ、手段があるかどうかは怪しいと言っていいでしょう。それでも「ファイレクシアに興味を抱いた」というポジティブな動機が存在し、それ以上の情報はないため逆にどんな展開があってもおかしくはありません。なおアショクについての、『灯争大戦』時点での情報がこちらです。

書籍「The Art of Magic: The Gathering – War of the Spark」P.207より訳

「恐怖」の完璧な具現のデザインを求め、アショクは多元宇宙を旅しています。そのためアショクはテーロス次元へとやって来ました、夢というものがすでにある程度の鮮明なリアリティーを持つ世界です。そして今、同じ目的からアショクはラヴニカを訪れています。何といっても、征服される瀬戸際の世界は喜ばしい恐怖を豊富に生み出してくれるのですから。

テゼレットの項目でも使用しましたが、この書籍が発売されたのは2020年10月、わりと最近です。なので一瞬混乱しましたが、この記述にあるテーロスって旧テーロスよね。

上で「『テーロス還魂記』は小説が出なかった」と書きました。その前、『灯争大戦』でもアショクはカード化されていましたが、小説にはまったく登場していませんでした。それだけでなく過去には、アショクが敵役として登場していたダク・フェイデンのコミック(第81回参照)も打ち切りになっていたのでした……どうもアショクは物語に恵まれないですね。

3. 新ファイレクシアの現状2021

新ファイレクシアは、今も複数のプレインズウォーカーが注意を払っている次元です。カーンはいずれ向かう気でいますし、テフェリーやアジャニも協力的な姿勢を見せています。

新ファイレクシア内部はというと、この10年の間に大きな動きとしてわかっているのは一件のみ、「エリシュ・ノーン率いる白派閥が赤・黒に対して勝利した」というものです。そもそも、新ファイレクシアの現状がわかるカードはわずかであり、そこでも大きな変化らしきものは見られません。それでも、2011年5月の発売から何があったのかを追っていきましょう。

『新たなるファイレクシア』製品情報より引用

戦士達がぶつかり合う気高き戦いとは程遠い、波のようにじわじわと押し寄せる脅威を前に誰もなす術がなかった。自らの世界の内側から猛襲を受けたミラディン人は知恵と魔法を武器にして勇敢に戦うが、努力はすべて徒労に終わる。ミラディンは今や新たなるファイレクシアとなった。

戦争報告

《戦争報告》フレイバーテキスト

下僕のエトゥの二百六十三通目の報告には「確かです、陛下。圧倒的です、陛下」とだけ書かれていた。 これがミラディン=ファイレクシア戦争の終結を告げた。

時折、「戦いの途中」のみならず「敵側の勝利」でセットの物語が終わることがあります。古くは『ネメシス』、時代が下ると『エルドラージ覚醒』『破滅の刻』。とはいえこれらは、もっと大きな物語の流れの中のひとつのエピソードで、「いずれ(あるいはすぐに)続きが語られる」と明白に示されているものでした。

ですが『新たなるファイレクシア』ほど「敵側の勝利」できっぱりと完結したセットはありません。ごくわずかな抵抗勢力が残っていると示されており、また創造主であるプレインズウォーカー・カーンもファイレクシアを対処すると誓って旅立ちました。新ファイレクシアは新ファイレクシアのまま、恐ろしい機械生命体の次元として今も存在し続けています。

総くずれ

新ファイレクシアはミラディン次元を手に入れましたが、その中では白・青・黒・赤・緑の5つの派閥が対立しています――というのが『新たなるファイレクシア』時点での情勢でしたが、その後エリシュ・ノーン率いる白派閥が赤・黒に勝利しました。この情報はカードではなく、『テーロス』発売少し前に公開された公式記事でもたらされました。

公式記事「失われし告白」(掲載:2013年9月)より引用

抵抗軍が手に入れることのできる情報は限られていましたが、エリシュ・ノーンがウラブラスクとシェオルドレッドの領土を支配したようでした。

この記事では、ミラディン人のプレインズウォーカーである《槌のコス》の生死も不明でしたが、約2年後に出たこれまたカードではなく公式記事にて生存が確認されました。

公式記事「プレインズウォーカー達の現状2015」(掲載:2015年8月)より引用

鎚のコス

ミラディン人の抵抗を率いている。

かつて、地操術師コスは仲間のエルズペスにこう言った、「勝利が無いのなら、永遠に戦うまでだ」。その言葉に偽りなく、コスは故郷の次元の生存者達を守るべく不屈に日々を過ごしている。かつてミラディンであったその世界は堕落し、今や新ファイレクシアの地獄の風景となった。シルヴォクの癒し手メリーラとともに彼は、生き残り達を守るために人生を捧げている。

槌のコスマグマのしぶき

以来、情勢が変化したというような情報は入ってきていません。統率者系セットにて新キャラクターが複数登場しており、またコスも「戦い続けている」ことを示すためか、数年ごとに新規アートや新規フレイバーテキストに顔を出してくれています。ですがそこからわかるのは「現状維持」であり、新ファイレクシア内部に大きな動きは見えません。モダンホライゾン(2019年6月)のこれがコスの最新の「生存報告」、かな?

溶岩の投げ矢

《溶岩の投げ矢》フレイバーテキスト

「少々の噴出なら健全だ。」――槌のコス

……というように新ファイレクシアは、誰もが気にしつつも長いこと大きな動きのない次元でした。まさかその世界から外へ出てくるとは思わなかったという人も多いかもしれません。何せファイレクシア人はプレインズウォーカーにはなれず、テゼレットの次元橋は存在するにしても有機体は生きてそれを通過できないのですから。

あるいは、ヴォリンクレックスだからかろうじて生きて通れた、というのは考えられないでしょうか。『灯争大戦』でニコル・ボーラスは灯を失いましたが、ウギンの翼に包まれて次元を渡り、牢獄領域へ連れて行かれました。それでも相当なダメージを負い、意識を取り戻すまで数か月かかったそうです。同じように、ヴォリンクレックスの頑丈さがあって初めて耐えられた、とか……いや、現在考えられる手段として一番ありそうなだけで、実際に次元橋を使ったとは確定していないのですが。私も本当に知りません。

4. おわりに

今わかるのは以上です。「ファイレクシア人がほかの次元にやって来た」揺るぎない事実がここにある。エルドラージとニコル・ボーラスが対処された今、残る「多元宇宙の巨悪」はファイレクシアだけです。このマジック最古の敵が、再び動き出した……

それではまた次回に。

(終)

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若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら