あなたの隣のプレインズウォーカー 第109回 Youは何しにカルドハイムへ?

若月 繭子

はじめに

こんにちは、若月です。

年明けに発売される新セット『カルドハイム』。少しずつ情報も出始めています。北欧神話!ヴァイキング!そしてメタル!!公式がプレイリストを公開&有名なメタルバンドがカードプレビューを担当とかすごい。私も「世界観を理解するために」と聴きましたが、以来すっかりはまってしまいまして、いろいろなメタルミュージックに手を出しています。いやあ、新しい世界が開けた。

さて、そんな『カルドハイム』に再登場するらしいプレインズウォーカー2人、ケイヤとティボルトを取り上げます。いつもよりちょっと短いけれど許してね!

1. ケイヤ

『カルドハイム』キーアート

『カルドハイム』キーアート

ヴァイキング世界で何してるんですか!

イクサラン次元で海賊をやっていたヴラスカもそうでしたが、がらりと異なる雰囲気の世界で楽しそうですね。カードもいち早く公開されていました。

なさけ むよう! でも実際ケイヤは結構情け深いよ?

『灯争大戦』のエピローグにてケイヤは「誓い」を立て、ゲートウォッチに加わりました。誰かとともに戦う素晴らしさを実感し、ギデオンの犠牲に心を打たれた彼女は、自分はただの暗殺者や泥棒ではないと示したい、多元宇宙の英雄になりたいと願ったのでした。

そんな新たな生き方へ向かおうとした矢先、ラヴニカの全ギルドから戦犯であるリリアナの暗殺を命じられます。ケイヤはその任務を受領してドミナリアへ向かいますが、現地での出来事や同行者2人の説得を受け、リリアナは過去を償おうとしていると判断します。ギルドに対してはリリアナの死を巧みに偽装し、フィオーラ次元で再度彼女に合流すると、故郷Tolvadaへと向かいました。詳細についてはこれまでの回で解説しています。

ケイヤの再登場に関しては、いくつかの疑問があるかと思います。以下、私なりの回答です。

■何しにカルドハイムへ来たの?

今のところ判明していません。ジェイスと同じく、ケイヤも『灯争大戦』と後日談のあとに故郷へ向かったはずなのですが。執筆タイミングの関係なのか、後日談と最近のセットとの繋がりはちょっとよくわからないことになっています。

ジェイスについては『ゼンディカーの夜明け』でメインキャラクターの1人として登場していました。彼も第99回で解説しましたように、もろもろが解決したあとに故郷ヴリンへ向かったはずです。一方『ゼンディカーの夜明け』の時間軸は、話中の記述から『灯争大戦』および後日談のあととわかります。つまり、ヴリンへ行って帰ってきたあとなんでしょうね。そのうち、ジェイス帰郷編のセットがくるのかなと私は楽しみにしていたのですがちょっと残念。

上で「『灯争大戦』および後日談のあと」とは書きましたが、具体的にどのくらいあとなのかはわかりません。ケイヤも故郷の問題が解決してカルドハイムへ来たのか、あるいは手がかりか何かを求めてのことか。その辺はおいおい明かされたらいいな。

■オルゾフ組はどうしたの?

オルゾフの簒奪者、ケイヤ

一応、ケイヤは今も名目上はオルゾフ組のギルドマスターです。完全にその座を手放したわけではありません。本人としてはさっさと手放したいのですが、魔法的に難しいようです。

『灯争大戦』の時点では、ギルドマスターとしての契約によってラヴニカを離れることすらできませんでした。それを、リリアナ追跡のためにプレインズウォークするにあたって、トミクが一時的かつ合法的にギルドマスター代行となりました。どうやら、その「一時的」の状態がずっと続いているものと思われます。いや、それでケイヤの身やギルドの業務が大丈夫ならいいのですが……

高名な弁護士、トミク

この連載でも過去に取り扱ってきましたが、ものすごく有能な人なんよ。次にラヴニカに来訪するセットがきたなら、オルゾフ組のギルドマスターとしてのトミクが登場するかもしれませんね。なお、ほかにもギルドマスターが入れ替わっているギルドはイゼット団(ラル・ザレック)、アゾリウス評議会(代理としてラヴィニア)、グルール一族(恐らくは腹音鳴らし)の3つです。

■同行者の3人はどうしたの?

盾魔道士、テヨ死者を目覚めさせる者、リリアナ

……ともう1人(カードがない)。ケイヤがカルドハイムを訪れた理由と同じく、こちらも今のところ不明です。物語内には何らかの形でいるのかもしれないし、いないのかもしれない。まだそれはわかりません。今回のケイヤの項目は「わからない」ばっかりですね。すみません。

2. ティボルト

そしてこちら。今でこそプレインズウォーカー・カードとして登場しながらも、物語にほとんど(あるいはまったく)関わらないキャラクターというのもあまり珍しくなくなりました。最近では『イコリア:巨獣の棲処』のナーセットがそれです。『灯争大戦』ではアショクの姿がどこにもなかったほか、複数のキャラクターがほんの顔見せ程度でした。統率者系の特殊セットで登場しているプレインズウォーカーの多くも、(過去の著名なキャラクター以外は)設定こそあれ現在の物語には関わってきていません。

ですが、次元を渡り歩く異邦人であるプレインズウォーカーは、基本的にいつどこの次元をふらりと訪れても特におかしいということはないのです。たとえ進行中の物語にまったく関わらなくても――最初にそう気づかせてくれたのが、『アヴァシンの帰還』(2012年)で登場した2人の新プレインズウォーカーでした。

月の賢者タミヨウ悪鬼の血脈、ティボルト

特にタミヨウには驚かされました。なんで神河の空民がここに!!??リリアナやガラク、ソリンと何の関係が……と考えましたが気づきました。別に関わってなくたっていいんだな?伝説のクリーチャーだって、特に物語に関わってこないのはたくさんいるし……。これ以降、セットのメインストーリーには関わらないプレインズウォーカーがときどき現れるようになります。

タミヨウはほかの次元からの訪問者ですが、ティボルトはれっきとしたイニストラード人です。人物像や覚醒の過程は当時語られており、公式ウェブサイトにも掲載されています。今年11月に発売された書籍「The Art of Magic: The Gathering – War of the Spark」にもう少し詳細な記述がありましたので紹介します。

書籍「The Art of Magic: The Gathering – War of the Spark」P.198-199より翻訳

ティボルトはイニストラード次元の出身であり、スカーブ師の――いくつもの死体を縫い合わせてゾンビとして蘇らせ、ただの死体部品の集合よりもずっと恐ろしいものとする、屍術師にして科学者の――技を学んでいました。しかし、彼はそのような精密で厳しい仕事への情熱を持ち合わせておらず、屍術の熟達に必要とされる技術や才能も足りませんでした。師匠に追放されたティボルトは、失敗と孤独から憎悪を募らせていきました。

彼は生者の領域を対象とした一連の新たな実験を開始し、生物が痛みに耐える能力を試すことにします。最初の実験対象は害獣でしたが、彼は次第に苦しみを言語化できる相手へと犠牲者を広げていきました――イニストラードの、煩わしい人間たちです。

そういった実験の邪悪さに引き寄せられ、デビルが近くに集まり始めました。ティボルトの実験室には夜な夜なそれらが群れ、奇妙な言葉で囁き合いました。デビルは彼がもっとも興奮するものへの眼識を提供しました。苦痛の本質です。彼は喜んでその知識を実験に適用し、より嗜虐的に、より注意散漫になっていきました。

そのため、ティボルトは近隣の街の人々の間に広まる噂に気づいていませんでした――その噂は彼の悪しき実験について、核心的な真実以上のものを含んでいたのです。まもなく、審問官たちが実験室の扉をけ破り、拷問器具で一杯の部屋の隅に彼を追い詰めました。審問官は迫り、処刑か、少なくとも終身刑という運命は逃れられないように思われました。

ですがその瞬間、ティボルトはデビルの知識と自らのおぞましい発見から得られた効果的な、憎悪の呪文を、命がけで放ったのです。その呪文は彼の精髄とデビルのそれを融合させ、地獄のような力を与えました――しかしその対価は、これまで他者に与えてきたすべての苦痛を経験するというものでした。

その想像を絶する苦痛の瞬間に、ティボルトの「プレインズウォーカーの灯」が点火し、彼は審問官の刃から逃れて多元宇宙へと放り出されました。彼の身体と魂は今や少なくとも半デビルとなっており、その呪文は炎とデビルの魔法の憤怒で強化され、いくつもの次元でその嗜虐的な「芸術」を試す自由を満喫しています。彼にとって、ラヴニカは莫大な人数のプレインズウォーカーを含む膨大な人口へとその魔法を試す、新たな遊び場です。

『アヴァシンの帰還』の物語は超ざっくり言うと「獄庫は破壊されてアヴァシンが帰還し、世界には再び天使の光がもたらされました。めでたしめでたし」というハッピーエンド(とはいえ『覆う影』でまた……なのですが)。ティボルト(とタミヨウ)はそこにまったく関わらないキャラクターとして登場しました。上にも書きましたが、「そういうのもあるのか」と気づかせてくれたのがこの2人です。それだけに「デュエルデッキ:ソリンvsティボルト」の発売はかなりの驚きでした。

イニストラードの君主、ソリン悪鬼の血脈、ティボルト

ちなみにこの連載でもデュエルデッキを特集した第31回では、こんなことを書いていました。

と、数多くのデュエルデッキが登場してきましたが、発表された時のツッコミ反響が一番大きかったのはこの組み合わせだったのではないでしょうか。「会ってたの?」「デュエルになるの?(強さ的に)」「どう見ても公開処刑」等々。ここでパッケージ裏面の説明を抜粋しますと、

「苦痛魔道士と意外な救い主が人類の命運をかけて戦う」

「ソリンはイニストラードの人間が生き永らえるよう画策し、ティボルトは彼らの悲鳴を聞くことのみを考える。両者の苛烈な争いに決着をつけるのはあなただ」

人類の命運……人類?(吸血鬼VS小悪魔)

苛烈な……争い?

以降ティボルトの行方は知れず、『イニストラードを覆う影』『異界月』でも姿は見られませんでしたが、『灯争大戦』にて再登場。彼もまた《次元間の標》に呼ばれた多くのプレインズウォーカーの1人でした。

無頼な扇動者、ティボルト無頼な扇動者、ティボルト

カードとしては「普通に有用」という感じの評価だったでしょうか。そして思ったとおり、もともとラクドス教団っぽい見た目ですのでラヴニカにいても違和感がまったくありません。物語では何をしていたのかといいますと、小説での描写を読む限りでは特に悪さをするということもなく永遠衆と戦っていました。第84回から再掲します。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター31より訳

南では、ティボルトと悪魔主義者ダブリエル・ケインが少数の悪魔とともに、イゼットの武器鍛冶やオルゾフの騎士、巨人、ガーゴイルを率いて突入した。

悪魔学者であるダブリエルがティボルトをどう見たのかはちょっと気になる。『灯争大戦』本編での出番はここだけでしたが、ティボルトは後日談でも一瞬だけ顔を出していました。正確にはテゼレットの回想の中に、ですが。

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター7より訳

今や――終わりを目撃した、満足気なティボルトによって――テゼレットはボーラスの死を知っていた。ティボルトは主人の死に苦しむテゼレットを期待したのかもしれないが、テゼレットはこのうえなく喜び、ティボルトは失望とともに去った。

いや前にも書きましたが何してんだ。そしてこれまで取り上げたことはありませんでしたが、もう1つティボルトが登場していたストーリーが存在します。2020年1月に発売されたコミック「Magic: The Gathering: Chandra」。その内容を簡単に解説しますね。

 

※クリックで拡大

『灯争大戦』と後日談のあと。チャンドラは独り次元から次元へと渡りながら、悪しき者や怪物と戦い続けていました。人々の力になるために、ギデオンのような英雄になるために。しかしあるとき、レガーサ次元で火山噴火から逃げ遅れた人々を救おうとしたのですが、全員を救うことはできませんでした。チャンドラは悲嘆にくれ、そして偶然(なのかどうかは不明ですが)その様子を見たティボルトは彼女が心に抱える苦痛を察し、それをもっと味わいたいと願いました。

イニストラードへとチャンドラを追ったティボルトは、ギデオンの記憶を呼び起こして彼女を苦しめます。チャンドラがそのまま過去の喪失に苛まれながらゼンディカーやアモンケット次元を渡り歩く一方で、ティボルトはカラデシュへ赴くとチャンドラの母ピアを捕えて待ち構えました。ですがチャンドラはアジャニを伴って帰宅し、ピアも自力でティボルトの拘束を振りほどきます。

短い戦いのあと、劣勢を察したティボルトはイニストラードへと逃げ、現地のデビルの力を用いて再びチャンドラを苦しめようとします。このときのチャンドラは迷いませんでした。ティボルトは打ち倒され、審問官へと引き渡されると、超自然的な力を持つ者をも拘束できるという牢に入れられたのでした。

……というのがこれまでのティボルトの物語です。コミックではかなーり悪くて執拗な奴でした。『カルドハイム』で登場すると予告されていますが、ケイヤ同様、こちらも何のために来ているのかはまだはっきりとわかりません。その性質的に悪役側なんだろうな、とは予想されますが。

3. 今年もありがとうございました

以上になります。2020年のこの連載は、ひたすら『灯争大戦』の前日談と後日談の解説に明け暮れていた気がします。ですが前回ようやくメイントピックである指名手配犯3人の追跡についての解説が終了して、ある程度肩の荷が下りた気分です。いやまだ語れていない事項はあるんだけどね……

躁の書記官

数えたら『灯争大戦』が発売された2019年は18本、2020年も(これを含めて)18本書いてたわ。その一方で『イコリア:巨獣の棲処』も『ゼンディカーの夜明け』も『統率者レジェンズ』もほとんど触れられませんでした。基本的に「旬」というものがそれほど存在しないこの連載ですが、それでも一番盛り上がっているときを逃すとなかなか書きにくいですね。まあ、来年もがんばります。

それでは、良いお年を!

(終)

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若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら