あなたの隣のプレインズウォーカー 第99回 『灯争大戦』後日談 ヴラスカ・ドビン真相編(とジェイスの話)

若月 繭子

若月 繭子

はじめに

こんにちは、若月です。

前回はヴラスカのドビン追跡を解説しました。その暗殺を請け負ったヴラスカでしたが、見つけ出した彼から取引を提案されます。未だ火種がくすぶるゴルガリ団の支配を確かなものとするためにヴラスカはそれを了承し、ドビンの殺害を偽装しました。すべてが上手くいったと思われましたが、ヴラスカがドビンの隠れ家へ報告に向かうと、そこにあったのは彼の死体でした……。

群集の威光、ヴラスカ支配の片腕、ドビン

一体なにがあったというのでしょうか?前回に引き続き、「War of the Spark: Forsaken」から解説していきます……それとみなさん待ちに待ったであろう、ジェイスとの関係進展の詳細についても。

7. 最後の真相

繰り返しますが、ドビンの死は偽装ではありません。彼は本当に殺害されてしまいました。しかし、一体誰が?

小説Forsakenは何人ものキャラクターが視点役を入れ替わりつつ、複数の出来事(リリアナ・テゼレット・ドビンの追跡、ゲートウォッチ、オルゾフ組内など)が同時進行しています。それぞれの展開が完全に独立しているわけでもなく、少しずつ繋がっているところもあります。今回の件はあえて言うならケイヤ周辺の展開が関わっていることもあり、説明しても唐突に感じられるかもしれません。とはいえ、そちらの解説が終わるのを待っていたらいつになるかわからないので書きましょう。以下、真相を知りたい人はクリックで表示してください。

ドビン・バーン

そういうわけで、ドビンは退場となってしまいました。初登場は2016年の『カラデシュ』。敵側である領事府の人物ではありましたが、極めて落ち着き払った性格と、敵味方を問わず真摯かつ公平に評価し接するその態度は、私はとても格好良いと感じていました。

『灯争大戦』での敗北こそ仰天ものでしたが(いやあれは相手が悪い)、続編では視力を失いながらも全く変わりない様子を見せてくれていました。……確かに、確かにテゼレットはラルを返り討ちにしましたが、指名手配全員生存じゃ締まらないのはそりゃそうですが、私は貴方が死んでしまったことが、心から悲しいのです。

8. 今夜は私に優しくしなさい

というように、ここまで「ヴラスカのドビン追跡」に注目して解説してきました。ですが、『灯争大戦』 Forsakenのヴラスカ周辺にはもうひとつとても大切なトピックがあります。そう、ジェイスとの仲について。

論議を呼ぶ計画

『灯争大戦』で2人が(ラルもいるけど)一緒に写っているカードがこれしかないので許して。最後の戦いを生き延びたものの、落ち着く間もなくヴラスカにはドビンの暗殺任務が課せられました。それもゲートウォッチの面々には秘密裏に、です。前回解説したように、その暗殺任務はボーラスとの戦いが終わった直後に切り出されましたが、詳細は翌朝に持ち越しとなりました。解散直前、ニヴ=ミゼットやラルとヴラスカのやり取りがこちらです。

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター3より訳

火想者はゴルゴンへと向き直った。「女王ヴラスカよ、この議論については我が前任者に明かさぬ方が良かろう」

さきほど、ヴラスカとジェイスが口付けを交わすのをテヨは目撃していた。ゴルゴンの表情には、心から気にかける相手に対して秘密を持つことへの葛藤が見えた。

ラル・ザレックも気づいたようだった。「できれば、今夜はベレレンの傍にはいない方がいいんじゃないのか?」

「ザレック、私が誰とどう夜を過ごそうがお前には関係ない」

「そりゃあ。けどあの精神魔道士に心を読ませる機会を与えたくはないだろ」

「ジェイスはそんなことしないよ。私には」

ニヴ=ミゼットもきっちり2人の仲を把握してるのねえ、と思ったらヴラスカの返答が……本気だ。私は読んで「うひゃあ」ってなりました。ラルが「ベレレン」呼ばわりなのにヴラスカが「ジェイス」なのがポイントか。そしてゲートウォッチの方でも翌朝テーロスへ向かうことに決まり、ほかのみんなが休息を求めてカラデシュへ向かう中、ジェイスはヴラスカのもとへやってきました。その先の展開です。

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター4より訳

「確か、デートの約束をしてたよな」

「そうです、船長。ブリキ通りで、コーヒーと本屋へ」

「お前は回想録が好きだったよな、面白い生き方をした奴らの」

「はい。ヴラスカさんは歴史書ですよね」

「そうだ」

2人は歩きだした。

しばし、2人は黙ったままでいた。一緒にいることがただ嬉しかった。ヴラスカはなにかに思い悩んでいるとジェイスにはわかった。けれど彼女はなにも言わず、そのため彼も詮索しないことにした――精神魔法でもほかの手段でも。ヴラスカには秘密がある。けれどそれがなんであろうと、自分がヴラスカから隠している、全員から隠している秘密よりも大きいわけは、そして真に恐ろしいわけはないのだから。

理想として思い描く人物のように決断しなければ、ジェイスはそう思っていた。長い間、彼は記憶の大きな欠落に悩まされていた。そのため頑固で、他人へと打ち解けなかった。すべての記憶を取り戻した今、ジェイスはよりよい人物になりたいと、そしてヴラスカと共によりよい人物になれればと願っていた。

彼は、あの口付けを思い出した――戦いの後の、自分たちの初めてのそれを。

ふとジェイスは立ち止まり、伺うような視線で顔を向けた。ヴラスカは察したらしく、理解して頷いた。両手でヴラスカの頬を抱き寄せ、ジェイスは再び口付けをした。甘美だった。魂の重荷を和らげてくれるようだった。そして、彼女の重荷もまた、そうであればよいと彼は願った。

ヴラスカは彼に微笑みかけ、ジェイスもそれを返した。

再び2人は歩きだした。どちらも、秘密を打ち明けることはなかった。

群集の威光、ヴラスカ神秘を操る者、ジェイス

ここまでは第97回でも紹介していましたが、続きを。

少しして、彼は尋ねた。「ブリキ通り、過ぎてしまいましたよ」

「ああ」

「でもまだ歩き続けてますよね」

「そうだな」

「コーヒーは?」

「飲まないよ」

「でしたら、これからどこへ……」

「私の部屋だ、お前さえ良ければ」

ジェイスは頬が熱くなるのを感じた。

ヴラスカは彼の手を握り締め、そして2人は歩き続けた。

君たちさあ!!!!!

洞察のひらめき

待ちに待ったブリキ通りデートだ!!!」と(読む方が)意気込んでいたらそう来るかね!!!なんに笑ったかってジェイスの台詞が完全に「終電無くなっちゃったね」の文脈なんですが。いや、いいけど!願った再会まですごく待っただけでなく、生きるか死ぬかの戦いが終わったんだもんな。2人ともいい大人だしな。初々しい関係はテヨ君(19)とラットちゃん(16)に任せておこう、そちらはケイヤ・リリアナ回でしっかり取り上げますので。

そしてヴラスカの家へ向かい……なにをしたか、も、きちんと描かれていました。この連載では「そういう場面」を結構紹介してきましたが、今回はかなりお熱いです。読む覚悟のできた人はクリックでどうぞ……

……私これまで、『レギオン』小説の描写が最強だと思っていました。それを軽々と越えていきやがりました(個人の感想です)。そして、ジェイスはヴラスカの身体に腕を回したまま、眠りに落ちます。一方でヴラスカは眠れませんでした。余熱の中、イクサランで共に過ごした日々を思い返し、そしてゴルガリ団内の不安と、これから行くことになる暗殺の任務へと思考は浮遊していきました――また暗殺者に戻るというだけでなく、それを誰かの命令で?気分が沈みました。

同チャプターより訳

「なに、考えてるんです?」ジェイスは起きていた。暗い物思いが彼をまどろみから起こしてしまったのだろうか。それとも、まだ精神的に繋がっている?

ジェイスはどこまで知っている? どこまで知ってしまった?

優しい手で、彼はヴラスカの顔を向けさせた。「ヴリンの夢をみていました」眠そうな声だった。

「ん?」安心し、ヴラスカは囁き声で尋ねた。

「俺、記憶を全部取り戻したじゃないですか。だからそこへ行こうかなって……行きたい、かな。そうですね、すごく行きたいんです」

「お前の故郷なんだ、そう思うのも当たり前さ。もう一度見たくないわけがないだろ?」

「実のところ、少し怖いんです」

「そうか」無精髭の頬を、彼女は撫でた。

ジェイスはヴラスカの触手をつついた。沈んでいた気分が、少しまた浮上した。

「一緒に来ませんか?」

けれど彼女が返答する前に、ジェイスは素早く付け加えた。「ゴルガリ団を長いこと放っておけないのはわかります。けれど、短い間でしたら。1週間とか」

ヴラスカはジェイスの瞳を覗き込んだ。蝋燭の明かりが映り揺らめいていた。ヴラスカ自身の姿もまた映っていた。私しか見えていないように見るんだな、ヴラスカはそう思った。ジェイスの柔らかな、とても柔らかな唇に口付けをして、彼女は答えた。「1週間か。魅力的だな」

「ヴラスカさんが魅力的ですよ」

魔道士輪の跡
ヴリンの神童、ジェイス高位調停者、アルハマレット意思の激突

ジェイスの故郷ヴリン。初出は『プレインチェイス2012』、そして『マジック・オリジン』にてジェイスの過去と共に少しだけ掘り下げられました。師匠である《高位調停者、アルハマレット》を殺害して以来、帰っていない――それどころか、『イクサランの相克』で記憶を取り戻したことでようやく思い出した次元です。

その夜はそうして(この後の2回戦と共に)過ぎ、翌朝ジェイスはゲートウォッチと共にテーロス次元へ、ヴラスカは暗殺任務の話し合いへ再び向かっていきました。そこから先の流れは前回述べた通り、またテーロスでのエピソードは第91回で紹介しています。

ニクスの祭殿、ニクソス安らかなる眠り

そしてギデオンの葬送を終えると、ジェイスはすぐにラヴニカへ戻ってきました。ですがヴラスカの私室に彼女の姿はなく、側近であるストーレフに尋ねても要領を得ません。

それからヴラスカを探して各所を右往左往するうちに、ジェイスは自分たちの知らないところでなにかが起こっていると察します。そしてチャンドラと共に走り回り、ギルドが出した暗殺任務をようやく把握したのでした。ジェイスにとって、それは極めて複雑な心境にさせる内容でした。リリアナに関してもそうですが、ヴラスカが自分にそれを黙っていたことが。

やがてジェイスは、ヴラスカの私室で彼女を見つけました。カットラスを手に出発準備をしていたヴラスカでしたが、ジェイスの様子から彼が事態を把握したのだと察しました。

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター49より訳

彼は落ち着いて、冷静に切り出した。「ヴラスカさんが俺に黙っていたこと、だいたい把握していると思います。ギルドが俺やチャンドラ、ゲートウォッチの大半に相談しなかったわけは理解しています。リリアナとテゼレットとバーンの殺害計画であっても、ですが……」

「私がなにも教えてくれなかった、その理由を知りたいんだよな」

彼は頷いた。「ヴラスカさん、その……俺たちの関係で、俺が大切にしているのは、駆け引きをしないってことです。秘密を持つな、って言ってるわけじゃありません――ゴルガリ団のことも、ほかにも……ヴラスカさん自身についてのことも。けれど、俺が知って欲しいのは……」

「わかってるさ」ヴラスカはジェイスへと歩みより、手をとった。「それに、私もなんて言おうか悩んだよ。だってお前は……リリアナについては複雑だろ」

ジェイスは息を吐いた。「複雑です」

それでも、例え辛くても複雑でも、気遣いだったとしても、黙っているのは良いことではないというのは2人とも同意見でした。こうして信頼し合えるようになったのですから。それでも、ヴラスカはジェイスが未だリリアナを気にかけていると知っていました。嫉妬しているわけではないにしても。ジェイスがかつて愛した人物を殺す気はなく、そしてそのような目で見られたくは決してありません。とはいえ、ゴルガリ団のギルドマスターとしては違う態度を取らなければなりませんでした。

同チャプターより訳

彼女は溜息をついた。「いいか、もうひとつお前にとっては辛い真実がある。リリアナはゴルガリ団員を116人殺した。ジェイス、そいつらは私の民であり、私はそいつらを守ると誓った女王だ。だからこそ、リリアナは死ななきゃならないというのは他ギルドと同意見なんだ」

ジェイスは言葉を飲み込み、うつむいた。

「悪いね」そう言いながら、彼女はジェイスの顎を優しく持ち上げた。「ゴルガリ団の仕事がある。もう行かなきゃならない。けど、なるべく早く戻ってくるから、そのときはお前にここにいて欲しい」

そして彼女はわずかにかすめるだけの口付けをした。ジェイスはもっと求めたい心に気付いた。だが彼が言葉を発する前に――行動する前に――ヴラスカは去った。またも、多くの思案と共に彼を残して。

この後ヴラスカは街へ向かい、チャンドラを誘ってレガーサへ赴くと、表向きのドビン暗殺を完了しました(詳細は前回記事に)。ジェイスの仲間を騙して利用した、その後ろめたさはもちろんありました。それでもゴルガリ団にとっては、ゴルガリ団の支配を確かなものにするための選択だったと自らに言い聞かせ、暗殺任務をギルドに報告し……そしてドビンの隠れ家にてその死体を発見するに至るのでした。

やがて、再びベッドの上で、ヴラスカはジェイスになにもかもを明かしました。心揺れるチャンドラを利用してギルドを騙した過程を聞かされたジェイスは、顔をしかめないように努めました。ヴラスカも決してその行動を誇るわけではなく、ですがそうするだけの価値があると思っていたというのはジェイスにも伝わりました。後悔と不安と共にジェイスの返答を待つ彼女へと、ジェイスは自らをも安心させるために告げました――俺たち全員に秘密がある、と。

寄り添ったまま、2人はしばし沈黙しました。心地良い沈黙ではなく、互いが不安な気持ちで、次なる告白を待つように。やがてジェイスが切り出しました。一緒にヴリンへ行ってくれるか、と。取り戻した記憶を、愛する人と共有したいのだと。ヴラスカは即答せず、彼は待ちました。

同・チャプター81より訳

やがて、彼女は溜息をついて言った。「ジェイス、お前と一緒に行きたい。心から。けど。行きたいよ、なにもかもを放り出してお前と一緒に、善かれ悪しかれ、自分を取り戻したお前とそこへ」

「けれど……」

「けれど、誰かがバーンを殺した。女か男かなにかはともかく、そいつは真実を知っていて私を破滅させるつもりかもしれない。それでも、それが私だけなら、一緒に行きたいよ。お前のためならそれは構わない、1週間くらいであれば」

「けれど……」

「けれど、ゴルガリ団に弱みができた――私が弱みを作ってしまった――だから、今は離れられない」

ジェイスは頷きました。彼女の言葉は理解でき、それでも心の奥底では知っていました。自分かゴルガリ団かを選べと言われたら、ヴラスカは常にゴルガリ団を選ぶのだろうと。一緒に行けない理由はわかった、それでも自分は行きたい。それは理解してくれる?ヴラスカも頷きました。2人は情熱的な口付けを交わし、再び愛し合いました。必死に、離さないようにと。

そしてジェイスは身を清めて着替えると、すぐに戻ってくると約束し、ヴリンへと旅立っていきました……。

9. 総括

というわけで、ヴラスカの『灯争大戦』前日談・本編・後日談までがようやく終わりました。長かった。実はこの記事、Forsakenの発売直後から少しずつ書いていたので半年近くかかった計算になります。前日談を含めて書きたいことが多すぎて、気分はまるで《むかつき》の絵の人。

むかつき

その記事が『灯争大戦』の領域に触れるようになってから、若月 繭子はそれを月刊連載と呼ぶことをやめた。

私ドビンはかなり好きなキャラクターだったので、助かったと思ったらあっけなく死亡してしまったのは愕然としましたし切なかった。個人的にはタルキール次元へ渡って、オジュタイ氏族に入門して再登場してくれたら格好良くね?バトル漫画みたく盲目のカンフーマスターに……などと冗談半分本気半分で思っていたんですよ。これもまた叶わない願いになってしまった。

一方、ジェイスとヴラスカは。『灯争大戦』本編で2人が無事に生き延びたのはとても嬉しかったのですが、実のところ続編でどうなるか不安で仕方なかったんですよ。盲目になったとしても、ドビンは抜け目ない相手です。ヴラスカと戦うことになったら果たして両者とも無事でいられるのだろうか……と。

そして、いざ続編が来たら序盤も序盤でジェイスとヴラスカが一線越えるものだから、読み進めながら心臓バクバクでした。ほら肉体関係に至るのってマジックの小説では超がつく死亡フラグだから……(テーロスの方角を見ながら)。だから、ともかく2人が生き延びてくれただけでも良かった、というのが一番の感想です。

それにしてもラザーヴよ!いや、よくよく考えたら元々そういうキャラでしたわ……。『ラヴニカのギルド』『ラヴニカの献身』『灯争大戦』で完全に味方ポジションだったので油断していた私が悪い。ジェイス、次にラヴニカへ戻ってくるときには絶対ヴラスカは困っているだろうから、しっかり隣で支えてやれよ?

そして残るは、ケイヤのリリアナ追跡です。

死者の災厄、ケイヤ戦慄衆の将軍、リリアナ

こちらもかなり長くなりそう。できれば前日談、ケイヤがオルゾフ組にやって来たところから解説したいのですよね。『灯争大戦』ウェブ連載版で見せてくれたように、この人も実にいいキャラクターなんですよ。基本的には面倒見のいいお姉さん、けれどときどきうっかりする。テヨ君とラットちゃんも大いに活躍します。なんといってもリリアナが結局どうなったのか、そこは時間がかかろうともきっちり最後まで語ります。どうかお付き合いください。

ていうか次回第100回だね、どうしようか!!

(終)

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若月 繭子

若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら