あなたの隣のプレインズウォーカー 第98回 『灯争大戦』後日談 ヴラスカ・ドビン追跡編

若月 繭子

若月 繭子

~これまでのあらすじ~

「共にラヴニカを守るために戦う」、ヴラスカはイクサラン次元にてジェイスと誓いを交わしました。しかし、待っていたのは困難な展開でした。

ゴルガリ団のギルドマスターとなった彼女でしたが、ボーラスからは引き続き服従を余儀なくされてしまいます。自らの復讐心とボーラスからの命令の両方が理由でイスペリアを暗殺したためにギルド間の協調を完全に壊し、さらに《次元間の標》にてラルを止めようとしました。ですがその戦いに敗北し、ヴラスカはプレインズウォークで逃走します。

後に標が切られたことを察して彼女はラヴニカへ帰還し、かつての仲間からは疑念の目を向けられながらも、今度こそラヴニカのために戦いました。ジェイスとの再会も果たし、生き残ったら恋人同士になろうと約束すると、共に過酷な最後の戦いを生き延びたのでした……。

こんにちは、若月です。この連載もようやくここまで辿り着きました。

次元を挙げた祝賀

ニコル・ボーラスは倒されてラヴニカは救われたものの、すべてが終わったわけではありません。新たにギルドパクトの体現者となったニヴ=ミゼットは、かつてボーラスに仕えていたプレインズウォーカー3人に、償いとしての任務を課しました。ラルはテゼレットを、ヴラスカはドビンを、ケイヤはリリアナを追い、殺すというものです。

このうち、ラルによるテゼレット追跡については第93回で解説しています。ラルは放浪者の協力を得てテゼレットの要塞へ乗り込むも、直接戦闘で返り討ちに遭って敗走、というようなものでした。今回はヴラスカによるドビン追跡の内容を、昨年11月に発売された「War of the Spark: Forsaken」から解説していきます。

群集の威光、ヴラスカ支配の片腕、ドビン

1. 再び、暗殺者として

『灯争大戦』の結末にて。その暗殺任務は、戦いからの余韻も冷めやらぬうちに命じられました。前後の展開を読むにそれはニヴ=ミゼットの独断ではなく、ギルドの指導者間で決定したものと思われます。そしてその任務は、ゲートウォッチの面々に対しては秘密裏に遂行するよう求められました。

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター3より訳

この世界の指導者たちは(実際のところ、彼らは共同で世界を統べているのではない?)暗殺の方針を話し合うため、明らかにゲートウォッチの面々が遠ざかるのを待っていた(この会合が始まる直前に誓いを立てたケイヤについては、数に入れていないのだろう)。

こちらはその話し合いを眺めていたテヨ視点の描写です。彼らの耳には入れたくない、その理由は明確に述べられてはいませんでしたが、多くの者が理解していたと思います――リリアナはかつてゲートウォッチの一員だったのです。その暗殺任務が知られたなら、間違いなく彼らは苦悩することになります。最悪、妨害に回られる可能性も否定はできないでしょう。

とはいえ今は戦いが終わった直後、全員が疲労困憊です。この場は一旦解散となり、翌朝。ゲートウォッチの面々(ケイヤを除く)がテーロスへ向かった一方、ニヴ=ミゼットやギルドの代表者たちが再び新プラーフに集合しました。アゾリウス評議会のギルドマスター代理を務めるのはラヴィニア、けれど本人は「ただの拘引者の方が良い」とのことでその肩書を喜んではいませんでした。ちなみに小説では、この後もラヴィニアが引き続きギルドマスター代理として業務を続けていました。次にラヴニカへ戻ってくることがあるなら、彼女がアゾリウス評議会のトップとして再登場するかもしれませんね。

いきなり話がそれましたが、改めて議題はボーラス配下のプレインズウォーカー3人の追跡について。ラルはすでに合意していたので、問題となるのはもう2組です。とはいえヴラスカは『灯争大戦』に至るまでの自らの行動がラヴニカに危機を招いたことは自覚していました。

暗殺者の戦利品

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター20より訳

「ドビン・バーンを庇うつもりはないけど、構おうとも思っちゃいない。それにラヴニカやゴルガリ団から離れようって気もない。でも、あんたらが私や私の行動をどう思ってるかくらいはわかってる。はっきり言っておくと、イスペリアを殺したのは個人的な理由からだ。ニコル・ボーラスのためじゃない。けど、個人的な動機を置いても、あのドラゴンがやって欲しかったまさにそのことを私はこなした、それもわかってる」

(略)

「嫌なら、受ける必要はないのよ」とケイヤ。

その気遣いを受け止め、けれどヴラスカはかぶりを振った。「大した問題じゃないさ。あんたと同じく、私もギルドマスターであると同時に暗殺者だ。バーンを殺すのはよくある仕事のひとつってことだ。あいつは負けた側についていて、勝った側がその死を望んでる。この先のゴルガリ団のためにバーンが死ななきゃならないなら、そうするだけだ」

さらにニヴ=ミゼットは追跡する3人へと、ゲートウォッチの帰還を待たず速やかに出発するよう求めました。ジェイスに黙って出発する、そして彼に対して秘密を持つことに抵抗はありました。とはいえ、これもゴルガリ団の今後のためです。

まずはドビン・バーンの自宅があり、帰宅していた痕跡があったというカラデシュへ。不安なヴラスカは訪問経験があるというビビアン・リードに案内されて現地へ向かいました。そして血痕を追跡するも、結局それが途切れたところから先はわかりませんでした。プレインズウォークにおいて特殊な能力を持つ《放浪者》ならば追えるのもかもしれませんが、彼女はラルの任務を手伝っており、そちらが終わるまで無為に待つわけにもいきません。今は収穫なしに、ヴラスカはラヴニカへと戻ってきました。

怪物の代言者、ビビアン

ちなみにビビアンの出番もここでだいたい終わりでした(あとは終盤にわずかな顔出し程度)。『イコリア:巨獣の棲処』はこの後の物語になります。そちらの小説もすでに出ていますが、ボーラスへの復讐心から解放された彼女は、以前よりもずっと明るく生き生きとした人物として描かれていました。カードアートの表情も柔らかいですよね!こちらの話もいずれどこかで。

2. 逃亡のドビン

さて、追われる側のドビンです。『灯争大戦』中、彼は新プラーフにて《不滅の太陽》を守っていました。ですがそれを止めるべく送り込まれた部隊に敗北し、両目を負傷して逃亡しました。ちなみにこのエピソードは私が『灯争大戦』の小説で一番驚いた箇所なので、詳細を知らない人はぜひ第79回での解説を読んでみて下さい。ニンジャナンデ!?

ドビンの拒否権チャンドラの勝利

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター11より訳

ドビン・バーンは隠れ潜んでいた。負傷し――ラザーヴの投げナイフに両目を潰され――バーンは本能的にラヴニカからカラデシュへ、板張りにされた自宅へとプレインズウォークした。それは純粋なパニックではなかったとしても、間違いなく死に物狂いの行動だった。

投げナイフって認識なのか。さては神河へ行ったことないな?

『灯争大戦』の時点では、ドビンの負傷の状態がどの程度だったのかは判明していませんでした。ただ、どうやら完全に視力を失ってしまったらしいとわかります。彼が一度カラデシュに戻っていたことはチャンドラを含む何人ものプレインズウォーカーが突き止めていましたが、その先は誰も把握できずにいました。

事実彼は自宅に戻るなり、即座にここも安全ではないと気づきました。プレインズウォークで逃走したところを見られてしまっており、それだけでなく、かつて領事府の高官であった自分はカラデシュ人からも敵意の目を向けられる存在なのです。ここに留まるのは得策ではありませんでした。

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター31より訳

ドビン・バーンは今も隠れていた。カラデシュの自宅を速やかに発ち、夜闇の中に入り込んだ。この時間の街路に、フードの外套をまとった盲目のヴィダルケンを大いに気にする者や、心当たりをたどる者はいない。

幸運にもバーンは映像記憶の持ち主であり、かつて見た場所であれば視力が失われようとも難なく進むことができた。しばしの時間をかけ、バーンは自宅からの足跡を明確に残すために全力を尽くした。そのためラヴニカのプレインズウォーカーは、多少なりとも観察力があるのなら、彼はまだカラデシュに隠れていると思うことだろう。そしてバーンはあらゆる手段を用いて足跡の追跡をほぼ不可能にした。最終的にプレインズウォークで逃走したと推測する者はいないように思われた。

無論、いたとしても、どこに向かったかは推測しようもない。彼は最もありえない次元に隠れ家を所持していた。ここへ探しに来る者はいない、彼は大いにそう確信していた。とはいえ、万が一の時のため、バーンは備えていた。

盲目であろうとなかろうと、ドビン・バーンが見ることのできるものは豊富にあるのだ。

一方、追う側のヴラスカもカラデシュまでは追跡できたものの、そこで手詰まりでした。さらに彼女がラヴニカに戻ると、ギルド内に不穏な動きがあると側近たちが報告してきました。以前から怪しい動きが見られたデヴカリン(ゴルガリ団の闇エルフ)達の間に反乱の兆しがあるというのです。その中心にいるのは女司祭、アイゾーニ

千の目、アイゾーニ

これも繰り返しになりますが、ゴルガリ団は弱肉強食のギルドであり、常に何人もの実力者がトップの座を虎視眈々と狙っています。アイゾーニもその1人であり、ヴラスカは自身がギルドマスターに就任した直後からその動向を懸念していました。

かと言って、今アイゾーニを殺してしまうことはためらわれました。実際に行動を起こされる前にそうしてしまえば、間違いなくエルフの多くが報復に立ち上がり、ゴルガリ団は引き裂かれるでしょう。しかし、実際に反乱が起こるのを待っているわけにもいきません。そこでふと、側近のストーレフが尋ねました。ドビン・バーンの件が解決したなら、ほかのギルドに助力を頼めるのではと。バーンはどことも知れない次元に身を隠している……ヴラスカはそう答え、ですがそのとき、閃いたのでした。

やがて、ヴラスカはとあるアパートの玄関前に立っていました。ドビン・バーンが最も安全だと考える場所は?誰もが、ここにいるはずはないと思う場所は?それは……ラヴニカです。彼はこの次元において大いに憎まれており、また滞在し続ける必要もない。ヴラスカがそう思いついた後は簡単でした。彼女はゴルガリ団の地下情報網をもって、ドビンが数か月前に購入していた隠れ家を突き止めることができました。

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター41より訳

彼女は1歩下がると、扉を蹴り開けた。

バーンは、小綺麗な包帯を頭部に巻いて両目を覆い、一部屋のアパートで台所のカウンターに立ち、ナイフとフォークを用いてカブを食していた。

彼はその食器を置き、空気の匂いをかいだ。「私を発見する者がいるとしたら、貴女だろうと思っていました。ですが正直に申しまして、ゴルガリの女王その人が自らおいでになるとは。大変光栄なことです」

ヴラスカは罠がないかと室内を見渡した。なにもなかった、少なくとも即座にそうだとわかるものは。とはいえバーンは鋭敏かつ戦略的な人物であり、彼女は警戒を解きはしなかった。

「私が来ないって本気で思っていたのか?だとしたら、お前の伝説的な推理能力も大したことはないってわけだな」

嘘を認め、彼はわずかに頭を下げた。

とはいえゴルゴンの石化能力は盲目の相手には通用しません、それは両者とも判っていました。ヴラスカはカットラスを抜き、ですがドビンは動じずに告げました。命を助けて貰うために、提案したいことがあると。

同チャプターより訳

ヴラスカは鼻を鳴らした。「私が――ゴルガリ団が――堕ちたアゾリウスのギルドマスターを必要とするわけがあるものか」

「ゴルガリ団の支配を確かなものとし、女司祭アイゾーニを無力化する方法を聞きたくはありませんか」

彼はカブの山の背後へと手を伸ばし、生きた蜘蛛らしきものが入った小瓶を取り出した。

3. 歴史的和解

そしてヴラスカはゴルガリ団へと戻り、玉座の間でエルフの少女の遊び相手をしていました。『灯争大戦』の終盤付近、襲いくる永遠衆から助け出した女の子です――その実は、ヴラスカが権力闘争の中で石と変えた相手の娘なのですが、その事実を知らず、ヴラスカにすっかり懐いていました。

そこで入り口から声が上がり、エルフのシャーマンであるセヴリヤが入ってきました。本人のカードは今のところ存在しませんが、『ラヴニカの回帰』ブロックからいくつかのフレイバーテキストに登場していており、シニカルな物言いが特徴的な女性です。

スライム成形化膿陰惨な生類

《スライム成形》フレイバーテキスト

「廃棄物とマナさえ十分にあれば、ラヴニカ全土を覆い尽くすほどのウーズを召喚してやるわよ」 ――ゴルガリのシャーマン、セヴリヤ

《化膿》フレイバーテキスト

「みんな衰えていくばかりさ。いつだって死の一歩手前。そうして息が止まった瞬間に崩壊が始まるんだ」 ――ゴルガリのシャーマン、セヴリヤ

《陰惨な生類》フレイバーテキスト

「多様性も死の趣さ」――ゴルガリのシャーマン、セヴリヤ

セヴリヤはヴラスカに忠誠を誓っているわけではありませんが、彼女もまたアイゾーニを嫌っているため、表立った対立もしていませんでした。そして彼女はエルフの青年を連れていました。ヴラスカは直接会ったことはないものの、何者かはすぐにわかりました。ミクジル・サヴォド・ズニク、通称ミク。ヴラスカが殺害した前ギルドマスターであるジャラド・フォド・サーヴォの息子です。母親はセレズニア議事会所属のハーフエルフであり、母方の祖父はボロス軍所属の人間、それもあのアグルス・コスのかつての相棒……というなかなか込み入った、ある意味ラヴニカらしい血筋の持ち主……って!!!!

冷静に書いたけどミク!!ミクだよ!!!

こちらも現在カードはありませんが初出は2006年『ディセンション』、当時はまだ11歳の少年でした。この連載記事では初期も初期、第11回で紹介しています。重要人物のはずなのですが『ラヴニカへの回帰』から『灯争大戦』に至るまで、言及すらありませんでした(一応、書籍「Guildmasters’ Guide to Ravnica」に名前だけ書かれていたくらい)。つまり現実時間13年ぶり、話中時間60年以上ぶりの登場です。いやーびっくりした。けれどよかった、生きていたんだね……そして立派に成長して。ごめんちょっと私これはあまりに感激したので触れずにはいられませんでした。

話を戻して。このミクが父親の隣で石像になっていないのには理由がありました。彼はヴラスカの反乱当時、地底街の奥深くへリバイアサン狩りに出ていたのです。そのため父の(2度目の)死を知ったのは、ヴラスカがギルドマスターの座に就いてしばらく後だったのでした。ヴラスカも新たな争いの勃発は避けたいと思い、ミクを即座に始末はせず、監視を部下に命じます。ミクは反逆するような態度を見せず、そのような発言もなく、ゴルガリ団行きつけのエールハウスでヴラスカ女王への乾杯に加わらずにいる程度でした。そのためヴラスカは、当面の間は彼を生かしておこうと決めたのでした。

さて、セヴリヤがミクを連れて来た理由は。彼女は声を落としながらも焦りを滲ませて告げました。デヴカリン内の権力を強化するため、アイゾーニがミクを始末しようとしていると。彼のもとへ毒蜘蛛が送り込まれた、前ギルドマスターの息子という立場を怖れてのことに違いない、と。それは重大な事態だとヴラスカも頷き、自分のもとにいれば安全だとミクに告げました。

それでもミクにとっては、父親を殺した相手です。さらに親をヴラスカに奪われたのは彼だけではありません。さきほどまでヴラスカが遊び相手をしていたエルフの女の子も同じです。ミクがその真実を告げると、その子は信じられないというようにヴラスカを見上げました。ですが彼女ははっきりと肯定し、その上で、ミクへと向き直りました。

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター46より訳

そしてヴラスカは顔を向け、ズニクと視線を合わせた。その両目を覗き込めばどうなるか、その意味を知る彼はひるんだ。けれど勇敢にも、目をそらさなかった。

はっきりと通る声で、ヴラスカは告げた。「私がこの座を目指す原動力となった遺恨がなにであろうと、私は今、ゴルガリ団の子供たちすべての女王であるつもりだ。誓って言おう、ミクジル・サヴォド・ズニク、セヴリヤ、そしてこの場に集うすべての者よ。この言葉を聞くであろうラヴニカのあらゆる人民よ。私、女王ヴラスカは、私の行いによって苦しむデヴカリンの子供すべてを守ろう。人間も、エルフも、クロールも、往時軍も、ゴルゴンも、私達のギルドに属する者はすべて、ゴルガリ団の中に安息を見出すだろう」その言葉は正真正銘の確信をもって響き、一語一語が絶対の真実だった。

そしてヴラスカは溜息をつき、ミクへと静かに告げた。「けれど、私を信頼できないなら、もしくは自分の仲間といる方が良いならば、お前を囚人として置いておくつもりはない。セレズニアに親類がいるのだろう、もしそちらの方が良いというなら……」

ヴラスカがそこまで言いかけたところで、セヴリヤが強い口調でミクに訴えかけました。お前の心はゴルガリにあるはずだと。ヴラスカ女王を信じているし、自分がアイゾーニとやり合うまではここにいれば安全だと。それでも、彼はためらいました。

同チャプターより訳

「猟匠、もし私がお前の死を望んでいたら、お前の父親と同じようにしていた。私の犠牲者は見ての通りだ、蜘蛛を送り込んだりはしない」

そしてこれは完全に真実だった。無論ヴラスカは彼の死を望んではいなかった。望むのは忠誠だった。

それを示すように、ヴラスカの目が輝きを帯びた。ズニクは身構え、死に備えた。そしてその輝きが消えた時、彼は女王へと頷いた。向こうはいつでも自分を殺すことができるのだ。

「リッチになってからの父は、以前と全く異なる人物でした。私達は次第に疎遠になっていきました、貴女が……行動に移るずっと以前から。私も父の政治支配のあり方には常に――尊敬はおろか、同意できていたわけでもありませんでした」

「それは誰もが知ってることだよ」とセヴリヤ。

「その通り」ヴラスカも頷いた。「だからこそ私とお前の間に争う理由はないと思っている。だからこそ――お前にはありえないことと思うかもしれないが――友人同士になれればと思っている」

「一歩ずつ、かもしれませんが」慎重に、彼は言った。

「ではその第一歩はどうする? 私の保護下に入るか?」

ミクは一同を見つめ、そしてヴラスカの提案を了承しました。彼が感謝を告げる言葉は心からのものでした。ヴラスカは実感しました。ドビン・バーンの考えは正しかったと……たった一瓶の蜘蛛が大いに役立つものだ、と。

4. レガーサにて

そのようにドビンから恩を受けたヴラスカでしたが、彼を生かしておく件については問題がありました。ニヴ=ミゼットはターゲットを確かに殺害したという証拠の提出を求めているのです。何事もぬかりないドビンはそこも把握済みでした。

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター52より訳

「わかっているだろうが、ほかのギルド向けにお前を殺した証拠が必要なんだよ」

「無論です」彼は再びそう言い、確かな足どりで部屋を横切ると、クローゼットの扉を開いた。中には布をかけられた物体が立っていた。それを取り払うと、現れたのはひとつの石像だった。彼自身の完璧な複製で、その表情には恐怖が刻み込まれていた。

「目を引く作品じゃないか」とヴラスカ。「芸術的とはとても言えないし、表現も割と陳腐、けど凄く写実的だ。説得力に溢れてる。彫ったのは誰だい?」

「私です。そして表現については謝罪致します。鏡を見ながら作らねばならなかった上に、私はあまり感情が顔に出る性質ではありませんので」

すげえ(正直な感想)。それもドビン曰く、このような交渉を見越して数週間前に製作していたのだそうです。さすがに失明するほどの傷を負わされることは想定外でしたが。とはいえ、失明した相手を石化することは不可能と誰もが知っています。それでも実際ドビンはこれを、自分がいかに先を見据えて行動しているかを示すために見せたのでした――少しの自慢もありましたが。

そして肝心の、本物の証拠の件については。ドビンは別の計画に取り組んでいたと明かし、そして目撃者が必要だと述べました。具体的な人物名は――チャンドラ・ナラー。

炎の職工、チャンドラ

ドビンが彼女を目撃者として指名した理由は明白でした。かつて父親を奪ったカラデシュ領事府、その要人である自分を憎み、死を望んでいる人物だからです。Forsakenにてチャンドラは自身がその「冷たい殺意」を抱いていることに気付き、苦悩していました。そして師匠のヤヤを筆頭とした周囲の人物も、それはチャンドラらしからぬ感情だとして心配していました。

そのチャンドラはなにをしていたか。ギデオンの葬送からラヴニカに戻った少し後、彼女とジェイスはどうも自分たちの見えないところでなにかが進行していると察します。2人は事情を知っていそうな人物の中でも、ラクドス教団のイクサヴァのもとへ向かいました。話をしたいだけだと切り出したジェイスを案の定嬉々として攻撃するイクサヴァ、ですがある意味それは狙っていたことでした――これで、相手の心を読んでも罪悪感をあまり抱かずに済むのですから。そしてようやく2人は、ギルドが出した暗殺任務の存在を知りました。ドビンだけでなく、テゼレットとリリアナについても。

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター42より訳

チャンドラは不平をこぼすように言った。「死ななきゃいけない奴がいるなら、それはバーンよ。なんにせよ、あいつには正義の手を下さなきゃいけない。ラヴニカとカラデシュにあいつがなにをしたかを考えれば」

「ああ。けど君が考えているだけじゃない。標的はバーン以外にもいる。ギルドはバーンとテゼレットと……リリアナの暗殺命令を出している」

「え……」

「そうだ。リリアナは潔白じゃない、それは誰よりも俺が知っている。けどボーラスを倒したのはリリアナで、それに――」

「ギデオンは私達がリリアナを許すことを願うだろうって、ニッサが」

「もしくは少なくとも、そうしようとして欲しいと」

それを知った今、どう動くか。チャンドラは意外にも、飲みに行くと答えました。考える時間が欲しいと。ですがそれは早くジェイスをヴラスカのもとへ行かせてあげるための口実に過ぎませんでした。彼女らしからぬ発言と態度を心配するジェイスを送り出し、チャンドラは1人歩き出します。その心はいくつもの選択に揺れていました。バーンへの殺意、リリアナへの懸念。カラデシュの母のもとへ戻りたくもありました。

やがて彼女は一軒の酒場を見つけ、そこへ入ります。そこは巨人向けの店で、チャンドラはカウンターへ向かうと苦労して椅子へ登り、ウィスキーを注文したのでした。

そして酔い潰れたチャンドラは、店主の好意もあってそのまま寝かされていました。すると不意に顔面へと水が浴びせられ、どうにか目を覚まします。するとそこにいたのはヴラスカ。彼女の言葉はチャンドラを即座に覚醒させました。ドビン・バーンを見つけたので手助けをして欲しい、と。

けれどなぜ自分を?ヴラスカ曰く、ドビンの隠れ家にあったメモから、彼はレガーサ次元の街に潜伏していると突き止めた。もちろん罠の可能性は高いが、向かわないわけにもいかない。そこでギルドからの依頼だと明かした上で、現地をよく知るチャンドラに同行を願ったのでした。

ケラル山

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター63より訳

「レガーサを知ってるお前に手伝って欲しいんだ、背中を守って欲しい。知っての通り、バーンは極めて油断ならない奴だ。加えてあいつは負傷して、追い詰められている。危険だ」

「そこにいれば、だけど」

「いなかったら、無駄足になる。ほかになにか良い案があるかい?」

チャンドラはしばし考え、やがて答えた。「ううん。ドビン・バーンを殺すなら、私にとってこれ以上良いことはないわ」

「熱くなりすぎないでくれよ。バーンは私の獲物だってことを忘れないでくれ。ほかのギルドと喧嘩せずにやって行くために必要なんだ。そこはいいか?駄目なら、来ないでもらうが」

その条件に合意するのは、全く気が進まなかった。

そんな許可なんてなくたって!

だが自身のその熱意に、彼女ははっとした。

待って……みんな、私にそう言い続けてたじゃない。私は盲目の相手を追って冷血に殺すような人物?それがドビン・バーンであっても?ジェイスもアジャニもケイヤも、ほかのみんなも言っていた。それが私?違う、絶対違う。

不穏な心の振り子が揺れ戻る前に、チャンドラは素早く約束した。バーンにとどめを刺すのはヴラスカに任せる、と。

少しして、2人はレガーサ次元、とある溶岩湖のほとりに建つ小屋を監視していました。複数の情報源から、そこにドビン・バーンがいるというのです。あまりに容易な追跡に、無論チャンドラは罠を疑っていました。やがて小屋の煙突から細い煙が上がりましたが、中にいるのがドビンだという確証もありません。2人は行動方針を話し合うと、チャンドラが直接玄関へ向かい、巨大な火球をぶつけて大穴を開け、踏み込みました。

果たして……バーンはそこにいました。両目は包帯が巻かれているものの、声はまぎれもなく彼のものでした。チャンドラの出現にも驚いた様子はなく、むしろ思ったよりも遅かったと告げました。

同チャプターより訳

「つまり罠ってことね」気にもしていないように彼女は言った。

「貴女が思うようなものではありません。例によって、私が貴女に向ける感情は貴女からのそれと違わない、そう決め込んでおられますね。そして例によって、そのようなことはありません。私は貴女に対してなんの感情も抱いておりません。あるいは、軽蔑はあるかもしれませんが」

すでに怒りが燃え上がっているのがチャンドラにはわかった。そしてそれは、バーンに向けた真に率直な怒りというだけではなかった。この数日間くすぶっていた怒りだった。ボーラスへの怒り。リリアナへの怒り。ギデオンへの怒りすらあった――死んだという罪への。すでに髪は炎と化していた。両目が眩しく輝いた。

「罠じゃないなら、なによ?」

「私を追うことがいかに無益かを貴女に教えるためのものです。ここで貴女を説得できないのであれば、別の世界へ向かってそこで説得しましょう。そこでも駄目でしたら、3番目へ。もしくは4番目へ。無限に続きます。貴女とは異なり、私に不測の事態というものはありえませんので。特に貴女は、可笑しいほどに予測が容易な相手ですからね」

飛行機械トークン

そしてドビンが口笛を吹くと、何体もの飛行機械が天井付近から現れました。チャンドラはすぐに数体を焼きますが、残ったものが電撃を発し、すべてを始末する前に彼女は膝をついてしまいます。怒りと苦痛の中、チャンドラはドビンへと炎を放ちましたが、彼は石造りのカウンターの背後に身を隠し、炎が消えると裏口がわずかに開いていました。チャンドラすぐに立ち上がり、追いかけました。

外ではさらなる数の飛行機械が待ち受けていました。攻撃を受けながらもチャンドラはそれらを焼き、一方でドビンはじりじりと後退していきます。その背後には溶岩湖が待ち受けていましたが、どこまで後退できるかを彼は正確に把握しているようでした。

ドビンは石造りの椅子の横で立ち止まりました。先ほどと変わらず無感情に嘲る彼へ、チャンドラはまたも怒り狂って火球を放ちます。ドビンは椅子の影に身を隠し、ですがそこで打ち合わせ通りに身を潜ませていたヴラスカが、カットラスを手にして飛び出しました。ドビンはかろうじて右手を伸ばして小型の飛行機械を放ち、ヴラスカを感電させましたが、その刃は止まらず、彼のその手を切断してしまいます。

ヴラスカは倒れ、ドビンは彼女を溶岩湖へ蹴り落とそうとしました。チャンドラはドビンへと白熱の火球を放つと、悲鳴が上がりました。やがて炎が消えると、ドビンの姿はそこにはありませんでした。死体もなく、つまりプレインズウォークで逃げたのだとチャンドラは苦々しく結論づけました。

チャンドラはヴラスカへと駆け寄り、感電の衝撃に未だ震える彼女を起こしました。そこでゴルゴンの肩越しに見えたものがありました。焼け焦げた死体、ですが青い肌と白い包帯はまぎれもなく……ドビン・バーンの屍。その屍が溶岩湖へ沈もうとしていました。ヴラスカは眩暈の中でチャンドラの視線を追い、そして憤怒の形相で振り向きました。それもそうです。バーンを殺すのはヴラスカ、そう取り決めていたのですから。

同チャプターより訳

「それだけじゃない」ヴラスカは叫び、だが両目の輝きは消えはじめていた。「死体は燃えて失われちまった――必要な証拠も。あれの屍を石灰化する魔法を用意してきたんだよ、久遠の闇を通れるように。けどニヴ=ミゼットやほかのギルドに向けてどうすればいいんだよ。そもそも私は信用されてないってのに!」

どこか申し訳なく(とはいえ、その申し訳なさは足りないと思われたが)チャンドラは返答した。「私がニヴやみんなに証言する、約束するわ。それに……」チャンドラは足元に転がる、切り落とされた右手首を指さした。「……これがバーンのものだって判定する魔法があるはずだから」

ヴラスカは残されたドビンの右腕に石灰化の呪文をかけ、それは上手くいきました。それでも、バーンを殺したのが自分でなかったことが不満でした。きちんと自分が説明するとチャンドラは請け合い、ヴラスカは文句を呟きながらプレインズウォークで帰っていきました。

そうしてチャンドラが1人残されました。ドビン・バーンを殺した、ずっと願っていた通りに。ですが心は全く晴れませんでした。思っていたようなものではありませんでした。彼女は自問自答します、なぜ?バーンが私を殺そうとしたわけじゃなかったから?私からの一方的な敵意だったから?いや……バーンはヴラスカを溶岩湖へ蹴り落とそうとしていた。あの場はああするしかなかったのです。けれどその考えも、説得力をもって響きはしませんでした。願っていた復讐を達成した、その先にあったのは灰の味でした。そして独り、チャンドラはラヴニカへ戻っていったのでした。

5. 終幕……と思いきや

平地

そしてラヴニカ。再び会議が招集され、暗殺任務を終えた3人が出席しました。まずはケイヤが《真理の円》に入り、証拠となる《鎖のヴェール》を差し出しました。それはほかの証言もあって認められ、次にヴラスカの番です。彼女も真理の円へ踏み出すと、ドビン・バーンの石灰化した手首を差し出しました。ラヴィニアがそれを受け取り、判定の魔法を唱えます。半透明の映像が浮かび上がってそれに繋がり、ラヴィニアは頷くと、これは間違いなくドビン・バーンのものだと宣言しました。

小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター70より訳

暗い視線でチャンドラを一瞥し、ヴラスカは渋々切り出した。「これを言わなきゃいけない。殺したのは私じゃないんだ」

ヴラスカが真理の円から退出すると、群衆から驚きの呟きが短く上がった。彼女に代わり、無感情のチャンドラが素早くそこに立った。ゴルゴンはラルの顔に同情が浮かぶのを見た――むしろ哀れみか――だがすぐに顔をそむけた。

チャンドラは告げた。「私がバーンを殺した――昔からと、最近の遺恨から。けど、この仕事をしたのはヴラスカの方にするべきだと思う。あなたがたの任務のために準備をして、私が行動に出たときも自分自身でバーンを殺しに行っていた。それに、一緒に来てって頼まれなければ、私はあそこへ行くことはなかったから」

最後の部分を、ヴラスカはわずかに懸念した。

これもまた、都合が良すぎる。

けれど異議を唱えようとする者はなく、ニヴ=ミゼットは告げた。「ギルドパクトの体現者として、ヴラスカの手による殺害と認めたい。ラヴニカのギルドはいかに?」

9つのギルドが声を揃えた。「賛成」

ヴラスカは一瞬待ち、そしてミクへと頷いた。「ゴルガリ団も、賛成です」彼は甲高い声で伝えた。

「ならば、全会一致で認めるとする」ドラゴンがそう締めた。

………さて。

ラヴニカの隠れ家にて、ドビン・バーンはヴラスカを待っていました。機械の義手を右手の代わりにして、今は義眼となる魔法的機械的装置の製作にかかっていました。彼の飛行機械は視覚で動いているため、その技術の応用で難しくはないと思われました。

手首を切断するというのは彼が提案した計画にないものでしたが、それによってヴラスカとチャンドラの話の信頼性が大いに増すことになります。レガーサでの動きは計画通りでした。チャンドラを挑発して炎魔法を撃たせ、それに隠れてプレインズウォークで逃亡するとともに、あらかじめ設置していた飛行機械に映像を投影させ、焼け焦げた死体が溶岩湖へ沈むと見せかけたのです。

ふと、彼は室内の温度がわずかに上がったのを感じました。誰かがそこにいる?ヴラスカの名を呼びましたが返答はなく、呼吸音も心音も聞こえません。なにもない。誰もいない。ラヴニカの天候と、この建物の粗悪さが合わさったためだろうと彼は結論づけました。追々、この住居をもっと快適なものにしよう……そんな考えに、彼は笑みを浮かべました。

そして会議を終えたヴラスカが報告のために隠れ家を訪れると……そこにあったのは、喉元を大きくかき切られて死亡しているドビン・バーンの姿だったのです。

一瞬、彼女はそれすらもドビンの策略のひとつなのかと思いました。ですが死体は間違いなく本物です。そして、遺体の左手首がありませんでした。出血の状況から、死後に切り取られて持ち去られたようです。この場所に彼が隠れていると知る何者かに殺されたことは疑いありませんでした。ゴルガリ団の支配を確かなものとする方策、その続きを明かす前に。それだけではありません。ヴラスカはほかのギルドへと秘密を抱える身です――ドビンの死を偽装したという。目の前の状況は、それを誰かに知られたのだと示していました。

6. 真相は

水没した秘密

これははっきり言っておきます。今回の物語を読む限り、ドビンは本当に殺害されていました。一体誰が?次回、そちらの真相を解説します。例によってすでに書き上がっていますので、掲載まで少々お待ちください……なおジェイスとヴラスカの関係進展についても次回まとめて解説しています……。

ところで今回の記事中盤、結構な分量を割いてヴラスカとミクのやり取りを解説しました。かなり個人的な理由からなのですが、ここ私がForsakenで一番意外だった、そして嬉しかった展開だったんです。『ディセンション』当時まだ11歳の男の子だったミクが、重要人物のはずなのにその後のラヴニカセットでなんの言及もなく、私は心の片隅でずっと気になっていました。それが今回立派な青年に成長して再登場、父親を殺害したヴラスカと和解……これが感激しないわけがない。そこまで思い入れを持っているのが例え世界で私だけだったとしても、繰り返すけれど嬉しかったんですよ。

それではすぐ次回に。

(続く)

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若月 繭子

若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら