あなたの隣のプレインズウォーカー 第112回 春期集中講義:イコリア概論

若月 繭子

はじめに

こんにちは、若月です。いよいよ情報公開が始まった『ストリクスヘイヴン:魔法学院』。いきなりこの「オニキス教授」に不意打ちされた人は多いかと思います。実にミステリアスな雰囲気の女教師……と思いきやタイプ欄は非情である。や、正しい、別人名義は正しいのだけど。なぜリリアナが別人を装っているのかについては、昨年末に解説していましたので興味がありましたら読んでください。

ところで今月は当然、『時のらせんリマスター』の話をしようと思っていました。ですがこれまでの連載で何度となく書き散らしまくっているんですよ。2021年の今書けばまた違うのかもしれませんが、結局はだいたい同じ内容になるし……と迷っていたところで。

ルーカ!!!カズミナは最初のカード名が「謎めいた指導者」ということで、学校関係者なのでは?と思われていたためさほど驚きませんでしたが、まさか貴方がここにいるとは。そして実はこの連載、イコリア次元の話をまったく扱っていないのでした。何せ『イコリア:巨獣の棲処』が出た2020年の春ごろはずっと『灯争大戦』後日談の話をしていたので……。

そういうわけで今回は『ストリクスヘイヴン:魔法学院』の予習?として、プレインズウォーカー・ルーカとイコリアについて取り上げます。

1. イコリアとルーカ

『イコリア:巨獣の棲処』の物語はMagic Storyウェブ連載ではなく、電子書籍による英語小説のみの展開でした。そこで完全な訳ではないものの、「ダイジェスト版」として内容の紹介を公式ウェブサイトにて連載させていただきました。『エルドレインの王権』と同じ形式です。そしておなじみ、わかりやすいストーリー漫画もあります(なお、たまに聞かれるのですが『テーロス還魂記』の漫画は存在しません。なぜなら元になるべき小説が存在しないので……かなしい……)。

さて、今回再登場するルーカはこの『イコリア:巨獣の棲処』の主人公でした。年齢ははっきり出ていませんが、30代後半-40代付近でしょうか。イコリア次元でも最大の都市ドラニスの出身であり、その街を守る職業軍人「銅纏い」の一員でした。まずは、そんな彼の物語をざっとですが追いましょう。

銅纏いののけ者、ルーカ

ルーカは精鋭部隊を率いる軍人として、ドラニスにおける地位と名声を確立していました。さらには将軍の娘である《ジリーナ・クードロ》と婚約しており、順風満帆な人生を送っていたのです。ですがあるとき、怪物と繋がり合う「眷者」としての力に目覚めたことで、逃亡の身となってしまいます。ドラニスにとって、怪物とは敵以外の何者でもないためです。

翼膜の虎聖域封鎖敵軍妨害

旅人の《怪物の代言者、ビビアン》や同じ眷者たちとの出会いを経て、ルーカは大水晶《オゾリス》が怪物の意志に干渉して街を襲わせていると知り、それを止めるために向かいます。しかし辿り着き、オゾリスに触れるとそれはルーカに問いかけてきました、「何を望む?」と。ドラニスに帰るための力を。望むものを取り戻すための力を。

オゾリスは――オゾリスに干渉する謎の声は、ルーカへとその力を与えました。怪物を意のままに操る力を得たルーカは高揚し、溺れてしまいます。彼は怪物たちを支配してドラニスへ帰り、この力を街のために役立てると言います。ビビアンや眷者たちは疑念の目を向けました。彼女たちにとって怪物は友であり、道具ではないのです。

オゾリス怪物の兵器化

ルーカは軍を率いる《ドラニスのクードロ将軍》と対話の機会を持つも決裂し、将軍を殺害してしまいます。そして彼は怪物の大群を率いてドラニスを攻めに向かいました。軍では父である将軍に代わってジリーナが指揮をとり、ビビアンと眷者たちもドラニス防衛に協力します。巧みな戦術と挑発の前にルーカは敗北に直面し、オゾリスへ呼びかけてさらなる力を強要します。その結果オゾリスは負荷に耐えきれずに爆発を起こし、エネルギーの奔流に巻き込まれたルーカはプレインズウォーカーとして覚醒、見知らぬ次元へと飛ばされました。

予測不能な竜巻

ルーカはどこかの沼地で目を覚ましました。すぐに、危険な獣に取り囲まれていると気づきます。それらを支配しようとして、オゾリスが砕けたことを思い出しました。ですが一匹がルーカに従い、残りの獣たちを追い払います。ビビアンから聞いたほかの世界の話を思い出し、彼は決意しました……いつか、故郷へ帰るのだと。

2. ルーカと相棒

このようにしてルーカは猫の怪物と繋がったことで逃亡者となり、イコリアの物語が動き出しました。カードとしての能力も、赤単でありながら「クリーチャーを使役する」方向性で上手く固まっています。それでは彼とこの猫との関係はどのように推移したのでしょうか。実は、カードから推測できる展開と実際の物語はわりと異なっています。

銅纏いののけ者、ルーカ

彼らの出会いはイコリアの物語序盤のことです。ルーカは、ドラニス近郊の農場を襲ったこの猫の怪物を倒すという任務を受け、部隊を率いて向かいました。しかし猫は非常に手強く、仲間が何人も殺されてしまいます。ルーカ自身も絶体絶命というところで、不意に彼と猫は眷者としての絆で結ばれたのでした。

繋がりはしましたが、ルーカはこの猫になかなか心を許しはしませんでした。ドラニスで生まれ育った彼にとって、怪物は敵でしかなかったのです。一方の猫はルーカを獰猛に守り、命令を素直に聞きました。ルーカのほうも、オゾリスが怪物に干渉していると知り、猫が農場を襲ったのは自らの意志ではなかったと判ると、頭ごなしに嫌いはしなくなりました。しかしこの猫の最終的な運命は、スタンダードで広く採用されているカードが示している……というのはみなさんご存知かと思います。

無情な行動

クードロ将軍は逃亡したルーカの捕縛を命じ、ジリーナに追わせます。彼女は傭兵集団を率いて飛行船でルーカを追跡し、オゾリスにて追いつきました。辺りに跋扈するナイトメアの怪物、眷者と相棒たち、そして傭兵の三つ巴の戦いが起こります。ジリーナは飛行船が墜落しかけたところを、ルーカの猫に救われました。ルーカがそう命令したわけではなく、ジリーナに対する彼の愛を知ってのことでした。猫はジリーナを背中に乗せてドラニスの街まで連れ帰りましたが、そこで捕獲され見せしめとして処刑されてしまったのでした。絆が絶たれたことを感じ取ったルーカは涙し、相棒の仇を取るというのではなく、怪物を率いてドラニスへ帰るという思いを強めるのでした。

そして上の項目で書いたように、ルーカは最終的にオゾリスの爆発に巻き込まれてプレインズウォーカーに覚醒し、イコリアを離れました。プレインズウォーカー・カードでは相棒の猫と一緒に描かれていますが、実際にプレインズウォーカーのルーカと猫が並ぶことはなく……。

一時的な連帯

そう、この場面も存在しないんですよ……最後までルーカはデレなかった。ショーケース版のアートも凛々しく共闘している雰囲気なのに。眷者はしばしば相棒の「コスプレ」をするという設定があり、ショーケース版ルーカも猫と同じような模様を顔面にペイントしていてなかなかいかしてるのになあ。イコリアはカードと物語がけっこう剥離してしまっているのです。カード開発と詳細な物語執筆のタイミング上、これはどうしても仕方ないところがあるので目くじらを立てないようにしよう。そしてずっと「猫」としか書いていないように、ルーカはこの相棒に名前を付けることもありませんでした。悲しいですし、微妙に不便。

ストリクスヘイヴン:魔法学院 メインストーリー第1話「新学期、到来」より引用

魔道士たちに洞窟へと連れ込まれ、ルーカはうめいた。相棒のミラは隣を進みながら、歯をむき出しにして首周りの毛を逆立てていた。黙ったまま、彼は互いの繋がりを用いて相棒を宥めた。この子が攻撃したなら、魔道士たちは自分を敵とみなすだろう。そしてその戦いに勝てるとは思っていたが、そのためにここに来たのではなかった。ミラは彼を見上げ、そしてゆっくりと警戒の体勢に戻った。そしてルーカと歩調を合わせ、壁に並ぶ棚から溢れ出た古く朽ちた本をまたいで進んだ。

そんなルーカでしたが、今回連れている相棒にはきちんと名前をつけてあげたようです。ミラちゃん。眷者としてそれなりに自らの能力に折り合いをつけてやっているのでしょうかね。元々、訓練を受けた軍人だけあってさまざまな環境への適応力は高そうです。

イコリアの物語では、力を手にするなりあっさりとそれに溺れてしまって主人公なのに悪役まっしぐらでした。ちょうど当時のスタンダードで、彼のカードが《裏切りの工作員》とともに悪さをしていたというのは笑いどころなのか否か。今回、結構早い再登場となりましたが、イコリアでの汚名?を返上してくれるといいな。

3. イコリアのプレインズウォーカーたち

せっかくですので、『イコリア:巨獣の棲処』に登場していたプレインズウォーカーについても取り上げましょう。繰り返しますが当時この連載でまったく扱っていなかったので。

■ビビアン・リード

ビビアン・リード

ビビアンの初登場は『基本セット2019』。ボーラスに滅ぼされたスカラ次元/Skallaの、唯一の生き残りという設定です。このセットはニコル・ボーラスがメインテーマということで、各色プレインズウォーカーもボーラスに因縁のある人物が選ばれていました。が、緑に合致するプレインズウォーカーがいなかったため、ビビアンというキャラクターが作られたのだそうです。故郷を壊したボーラスだけでなく、自然を害する者は決して許さない、非常にストイックな人物という印象でした。ですが『灯争大戦』を経てイコリアで再登場したビビアンの雰囲気は、ずいぶんと変化していました。

怪物の代言者、ビビアン

何といっても表情が柔らかい!実際、ボーラスへの憎しみから解放されたビビアンは、とても明るく生き生きとした人物として描かれていました。公式記事「プレインズウォーカーのためのイコリア案内」「イコリアを訪れるプレインズウォーカーのためにビビアンが執筆したもの」という形式をとっているのですが、始終ハイテンションで笑います。緑単のプレインズウォーカーはガラクやニッサのようにあまり人と積極的に関わらない印象がありますが、その中でもビビアンは「案内」なんてものを書いてくれるあたり割と社交的なんだな、と思いました。

そして明るくなっただけあって、小説ではいい感じの場面がたくさんあるんですよ。私が好きな箇所を2つ紹介しますね。まずはルーカと出会ってすぐ、この次元について質問するビビアンとその内容に困惑するルーカのやり取り。

小説「Ikoria: Lair of Behemoths – Sundered Bond」チャプター3より訳

ともに過ごすにつれ、ルーカはこの同行者に対する当惑を増すばかりだった。

彼女は明らかに荒野の専門家であり、野生の中で長く生きてきた者の身のこなしで森も原野も変わらずに進んだ。すぐにルーカはビビアンの先に行くことを諦めた――彼がつまずくような障害も下生えも、滑るような優雅さで彼女は進んだ。

だが同時に、彼女が投げかける質問はあらゆる銅纏いの軍人が残念に思うようなものだった。そして誰もが知っているような物事を知らないらしかった。

「怪物?」ルーカは疑うように言った。「怪物について知りたい、と?」

ビビアンは頷いた。どこから始めればいいのか定かでなく、彼は唇を噛んだ。ドラニスでは誰もが、物心ついた時から怪物について学びはじめるものなのだが。

「その……怪物は、怪物だ。いいか?」ルーカはぎこちなく言った。「通常、巨大で悪意があって、いつも人間の居住地を破壊する。だからドラニスのような聖域に誰もが集まっている」

「すべての怪物が敵なの?」

「すべてじゃない、と思う。俺たちを無視するものもあるが、それでも危険だ。大型の恐竜には完全に草食のものもいるが、向かう先に家があればどのみち踏み潰される」

困惑するルーカがちょっとかわいい。こういう「現地人がプレインズウォーカーに対して持つ違和感」のような描写はとても好きです。次はイコリアの星空の下、ビビアンがこれまでの旅路をルーカに語る場面。

同・チャプター5より訳

「大丈夫」ビビアンは息を吐いた。「私はボーラスを倒すと誓った。それ以外になかったから。そして長い間、私はその目的に突き動かされてきた。ずっと旅を続けて、次元から次元へ」

「それで?」

「成し遂げたわ」かすかな笑みが彼女によぎった。「たくさんの人たちとともに。凄まじい戦いがあって、最終的に私たちは勝利した。あらゆる次元からボーラスの悪は拭い去られた。そして私は……満ち足りた。けれど……」

彼女は両腕を広げた。「次の朝目覚めて。ボーラスはいなくなって、けれどスカラは失われたままだった。私に、帰る故郷はないままだった」

ルーカは押し黙った。

「それから……ずっと考えてきたわ。私の持つ、この灯って、本当に稀なものなのよ。私たちはこの力を善いことに使う義務がある、けれどこの力を持つことに、どんな意味があるのだろうって」彼女は肩をすくめた。「わかってるなんて言うつもりはない。けれど、灯を悪用している者の話を聞くと、私はスカラを思い出すのよ」

ビビアンはゲートウォッチに加わってはいませんが、『灯争大戦』で彼らが再度の誓いを立てた様子は見ていたと思います。プレインズウォーカーの灯は善いことに使う義務がある……それはゲートウォッチの信条と同じです。あのときのギデオンの姿にビビアンも心を動かされたのかな、と思わずにはいられません。

イコリアの物語では当初ルーカに協力するも、彼がオゾリスの力を得て暴走してしまったあとは街の側につき、怪物を戦いの道具として用いるルーカを止めようとしました。最終的にルーカが敗北して行方をくらましたあと、ドラニスの街は眷者たちとその怪物を少しずつ受け入れて再建を始めました。人と怪物がともに生きていく社会が、これからできるのかもしれません。ビビアンは将来の再訪を楽しみにして、旅立っていきました。繰り返しますがイコリアでのビビアンは本当に明るくて、私は物語を読んで一気に好きになりました。またいつか、あのハイテンションでさまざまなクリーチャーを紹介して欲しいものです。

■ナーセット

古き道のナーセット

こちらも『灯争大戦』以来の登場でしたが、第109回で書いたように、物語にほとんど関わらないプレインズウォーカーというのもたまに存在します。イコリアでのナーセットもその一人でした。マローの記事によれば、イコリアは楔3色がテーマということで、そこに合致するプレインズウォーカーを探したところナーセットが最適だった、というのが採用の経緯だそうです。そのため設定としても、かつてのタルキールと似たマナの組み合わせを持つイコリア次元を訪れた……とされています。

公式記事「プレインズウォーカーのためのイコリア案内」より引用

ナーセットっていうプレインズウォーカーが語ってくれたのだけど、トライオームにはこの次元の大地に特有の魔力の流れがあるのだとか。それぞれの地域は三つの異なるマナが入り混じってできている。

確かに、楔3色を取り扱う次元は多くありませんからね。物語にはほぼ関わりませんでしたが、小説にナーセットらしき人物の描写はありました。物語中盤、ジリーナが空中都市スカイセイルを訪れた場面から。

小説「Ikoria: Lair of Behemoths – Sundered Bond」チャプター4より訳

人々もまた多種多様だった。派手なスカイセイル流の衣服をまとう商人、落ち着いた装いのドラニス商人、巨大で棘だらけの武器を持った覆面の狩人、そしてジリーナには素性のわからない多くの者たち。古本の露店では、滑らかな絹の衣服をまとった長い黒髪の女性が次から次へと本をめくり、店主を苛立たせていた。屋台を群衆が取り囲みだすと、その女性は自分の身長ほども本を積み上げ、驚いた店主に全額を支払うと、両腕で軽々と持ち上げて歩き去っていった。

名前も出ていませんが、これはナーセットで間違いないかと思います。そして物語終盤、ルーカと怪物の軍団に対して守りを固めるドラニスの場面。

同・チャプター7より訳

「バロウも手伝ってくれるって」とビビアン。「それに、間に合ってくれる眷者がほかにもいるかも」

彼女は顔をしかめ、考えた。

「ナーセットも力を貸してくれるだろうけど、どこにいるのか……」

私が覚えている限り、ナーセットの出番はこの2か所でした。そういえば『灯争大戦』でもほとんど名前だけだったな……。

■放浪者

刃による払拭

プレインズウォーカー・カードとしては登場していませんが。あれは忘れもしない、『イコリア:巨獣の棲処』の収録カードが全公開された直後のことでした。よーしチェックするか、と該当ページを開いたらいきなり目に入ってきたのがこれ。え!?最初は驚きましたが設定を思い返して納得、いえむしろ感心しました。

放浪者

公式記事「『イコリア:巨獣の棲処』ストーリーカード」より引用

放浪者について知るようになったのは、ラヴニカに閉じ込められたときのことだった。彼女の次元渡りの方法はすごい――無意識にそうしてしまうので、今いる所に居続けるには集中しないといけない。このイコリアでも見かけたけど、一瞬後にはいなくなってしまった。――ビビアン・リードの野帳から

放浪者は「常にプレインズウォークしている」という特異体質です。普通、プレインズウォーカーは次元を渡る際に集中を要しますが、放浪者は「プレインズウォークをしない」ために、1つの次元に留まるために集中を要するのです。常にさまざまな次元を渡り歩いているということは、大半の次元にふっと顔を出しても何らおかしくはありません。《刃による払拭》を見るまで正直その発想はなかったので、これはやられたと思いました。

なお「この人は一体何者なのか」という疑問がときどき上がりますが、私もわかりません。ていうか、特に何者とかはなくて単にこういう人なんじゃないかな、と思っています。結局、時系列的にエルズペスではありませんし、エムラクールは大前提としてプレインズウォーカーではないので……。

4. イコリアの黒幕について

イコリアの物語には黒幕が存在します。《オゾリス》に干渉し、怪物を操って人の街を襲わせていた人物です。ビビアンには心当たりがあるらしく、それをルーカや眷者たちに説明した際のやり取りがこちらです。

小説「Ikoria: Lair of Behemoths – Sundered Bond」チャプター4より訳

「別の世界が存在する可能性は、研究者が常に示唆している」ルーカがゆっくりと口を開いた。「ドラニスには……異邦人の伝説もある。みんな、ただの物語だと思っているが」

「あなたの言う伝説が本当かどうかはわからない」とビビアン。「けれど、プレインズウォーカーと同じくほかの世界も存在しているし、ここにやって来るのは私だけじゃない。前に、私はこの世界を学ぶために来たって言ったけれど、それだけじゃなくて、同類が先に来ていたかもしれないの。その男のことはあまりよく知らないけれど、性格は……悪質な手出しが好きで」

「悪質な手出しが」アブダが無感情に言った。

「そう」ビビアンが溜息をついた「オゾリスの変化はそいつの仕業かもしれないのよ。もしそうなら、私はそいつが起こした被害を元通りに修復したい」

「なぜだ?その者は君の敵なのか?」バロウが尋ねた。

「私個人の問題よ」ビビアンの穏やかな表情に、かすかな感情がよぎった。「けれど信じて。それはきっとあなたたちと世界のためになるはずだから。オゾリスに行くために力を貸してくれたなら、私はそれを自然の状態に戻す手伝いができるから」

一応「悪質な手出しが好き」と訳しましたが、原文は「meddle」。干渉、おせっかい、といったような意味です。そしてビビアンがheと言っているので男性であることは確定。そしてこのプレインズウォーカー(の思念か何か)はオゾリスに触れたルーカに力の誘惑を囁きます。

同・チャプター5より訳

「落ち着きたまえ。私は君以上に『ここ』にいるわけではない。君が水から上がった魚のようにもがくところを見たくはない。私が何者かという話だが、私の名前など君にとってほとんど意味はない。一人の利害関係者とだけ言っておこう」

「何への利害だ?」ルーカは動こうとするのを止め、橙色の無へと話しかけた。「オゾリスを変えたのはお前なのか?」

「いかにも私だ。見てのとおり、これはもっとも効果的な道具だと証明されている。水晶は君の次元の自然エネルギー網の節であり、水晶が大きいほどその力も強くなり、最大限に広範囲へと効果を与える。そのような場所で私のちょっとした賭けを試すのは当然のことだ」

話し手は満足そうだった。

「効果?」ルーカはかぶりを振った。「お前の怪物がみんなを殺している。怪物が俺の街を壊そうとしている」

「私の怪物、というのは少々拡大解釈かもしれないな。そもそも彼らはこの次元生まれだ。むしろ君たちの怪物だろう。それに彼ら自身がしないようなことは何もしていない。彼らの自然な傾向を少し加速してやっただけだ。ほんの少し押してやっただけだ。それが、ごく小さな攻撃性の棘になっただけではないのかね」

「俺たちはそれを止めに来た。お前が何を企んでいるかは知らないが」

「いつか誰かが訪れ、止めようとすることはわかっていた。そのため私はここに小さなベルを置き、その際には会話できるようにしたのだ。私に何か言いたいのだろう、ドラニスのルーカ。何を望む?」

結局物語の最後まで、その正体は明かされませんでした。正直こう訳しつつも、口調がこれで合っているのかどうかもわかりません。一体誰なのか?当然、ボーラスはもういません。そもそもボーラスだとすればビビアンがわからないはずがないですし。

とりあえず私自身としては、既出のプレインズウォーカーの中で能力的に一番できそうなのはオブ・ニクシリスかな、と考えました。

灯の再覚醒、オブ・ニクシリス

イメージ的に『灯争大戦』版よりもこっち。『戦乱のゼンディカー』でもカルニの心臓を虐めたり、ウラモグを捕らえた《連結面晶体構造》の力線を歪めたりと、「次元の大地に走るエネルギー」に干渉しているんですよね。それに「力が欲しいか?」の囁きは悪魔の定番ですし。ただ、ビビアンが表現するそのプレインズウォーカーの性格、「meddle」とはどうも合いません。ニクシリスであればもっと邪悪さのある表現をしてくるでしょう。その表現で言うと一番合いそうなのは……。

王冠泥棒、オーコ

……こいつか。ですがオーコは生物の心や姿に干渉こそすれ、次元の地脈といった大規模なものを操れるかどうかは怪しいと思います。それと何ていいますか、こいつの悪行にはもっと局所的なイメージがあるというか、「野望のための悪行」というよりは「満足のための悪ふざけ」であるような。けれどとりあえず今までのプレインズウォーカーの中で当てはまりそうな候補はこの二人かなあ、というのが私の考察です。

5. 今回はここまで&おまけの雑談

思えばイコリアはちょうど1年前くらいなんですよね。ビビアンや黒幕の考察など、当時少し書いたけれどお蔵入りかなあと思っていた内容を表に出せて満足です。

ところで先日『時のらせんリマスター』が発売されました。そして私、このプレビューウィークにてカードを公開するという栄誉にあずかったのでした。それも、時のらせん・ブロックにおいて極めて重要なキャラクターを……

時のらせん・ブロックは、私の中でもとても大きな位置を占める物語です。多元宇宙の歴史の転換点……15年前、今よりもずっと拙い英語力でもリアルタイムで追いかけ、その内容に驚き、涙し、感激したのでした。そのメインキャラクターが収録されるというプレビューをいただけたことは本当に嬉しく思います。

そしてそれだけではなく、タイムシフトカードのプレビューもいただいていました。こちらは趣向を変えまして、ヒントを出してそのキャラクターを当ててもらうという形式にしました。こちらです。

これを投稿したところ、「ヒント1」なのに一瞬で正解が届きました。1分もかかりませんでしたね……

たしかに『時のらせんリマスター』のプレビューは色ごとに進み、当日3月4日は多色とアーティファクトでした。それでもみんな早かった。逆に考えれば、すぐにわかるってことは真剣にストーリー追ってくれている人はたくさんいるんだな……とこちらも嬉しくなりました。ちなみに続くヒントは「人間」「色は白青」「キャラクターとしての初登場は2012年」「ジェイスに苦労させられていました」と続く予定でした。理論上は「色は白青」の時点で3人くらいまでに絞られ、「2012年」で確定します。

それではまた。次回は何を書きましょうかね。

(終)

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若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら