佐藤 啓輔の世界選手権レポート ~卵が先か天啓が先か~

佐藤 啓輔

世界一の頂を目指して

こんにちは。Hareruya Prosの佐藤です。

今回は第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権に参加をしてきましたのでその大会レポートとなります。今シーズンの最後を飾る最高峰の大会へ自分がどう準備して挑んだのか、大会結果を踏まえながら振り返っていきます。

それではよろしくお願いします。

旅支度

まず初めに世界選手権について簡単にご説明します。本大会はMPLやライバルズ・リーグに所属する年間成績優秀者、各ガントレットの上位入賞者、そして前回の世界選手権チャンピオンのみが参加できる大会です。自分はチャレンジャー・ガントレットで上位入賞し、参加権利を獲得しました。

予選ラウンドは2日間に渡り、『イニストラード:真夜中の狩り』を使用したブースタードラフト3回戦とスタンダード構築7回戦の計10回戦を行います。その後上位4名が3日目の決勝ラウンドへ進出します。

過去に参加したセットチャンピオンシップやガントレットにおいても2フォーマットで戦うことがありましたが、いずれも構築戦のみでした。ドラフトを含めた複合フォーマットに新鮮味を感じつつも、構築に比べて苦手なリミテッドに向き合う必要があるため、時間をかけて臨みました。

ドラフト

方針

ドラフトは即興性のフォーマットではありますが、事前に環境を把握することでデッキの出来不出来も変わってきます。たとえばクリーチャーの基本サイズやダメージ火力の有効範囲、多色化可能かどうかなどです。この環境は青、次いで黒が強く、さらに2色でシナジーを重視したデッキが理想で、マナサポートの関係上3色以上のデッキは難しいことがわかりました。

環境を把握したことで次はドラフトの方針です。理想は青か黒であり、できるだけこの2色に絡んだ色をピックしていきたいところですが、ドラフトの方針としては決め打ちはせずに流れに身を任せて柔軟にピックすることに決めました。やりたい色はあるものの、自然に寄せられたらラッキーくらいな感覚です。自分が理想と考えていたのは以下の2つの組み合わせでした。

縫込み刃のスカーブ異形の隼窓からの放り投げ

共通認識として、飛行と除去とシナジーの揃った青黒は本環境のドラフト最強の組み合わせです。デッキの完成度がレアリティに依存せず、コモンの寄せ集めでも十分強い形になるためです。

隙あらば狙いたいところですが、相手は世界のトップオブトップ達。どの色が、どの組み合わせが強いかは当然理解しているはずであり、簡単にはやらせてもらえません。

根のとぐろの忍び寄るもの風変わりな農夫影野獣の目撃

青緑は少しレアリティを要求されますが、その分強力なアーキタイプです。「フラッシュバック」を軸に墓地をリソースとする中~長期戦をにらんだ戦略であり、アドバンテージを取ることに長けているため粘り強く戦えます。

評価が低めといわれる緑を使えるのもグッド。上手くいけば遅い順目で強力なカードをピックできるかもしれません。

練習方法

ドラフトの練習はMTGアリーナと、自分の所属コミュニティであるOnogamesでブースター・パックを使って(以下、8人ドラフト)実施しました。Onogamesとはオノ コウタロウさんを中心とした「楽しく遊び、共に上達する」を目標に掲げる社会人MTGサークルになります。

前提として、アリーナ上のドラフトは同じ卓のプレイヤー以外とも対戦します。これによりカットが発生しにくく、8人ドラフトと比べてピックに影響があります。そのためMTGアリーナではデッキの完成度や勝敗を気にせず、カードの強弱や各アーキタイプの戦略を確認することを意識しました。

ピックしたテーブルが違えばデッキの完成度も変わってくるため、ほかの卓で完成したであろう化け物デッキに当たってもあまり気にしないように。逆もまた然りで、強いデッキが完成しても過信しないことにしました。

対して、8人ドラフトは本番と同じ形式となります。ドラフトのピックから対戦まですべて同じテーブルを囲んだプレイヤーで実施されるため、カット(※1)や色変更など大きく影響がでます。「MTGアリーナと比べてどの程度強いデッキが組めるのか?」「各色の許容人数はどのくらいか」ということを意識して練習しました。

また、MTGアリーナとの最大の違いは、ドラフト後に卓内すべてのデッキがわかることにあります。色の散らばり具合を確認したり、ほかのプレイヤーと直接意見交換もできるため、1回のドラフトから多くのことを吸収できるのです。

(※1 編集者注:自分が使用されて困るカードが流れてきた際に、自分が使う可能性は無くともピックすること。8人ドラフトは必ず同卓するプレイヤーと対戦することから、 相対的に相手のデッキを弱くすることが狙いとなる。カットするかどうかは自分のデッキ強化と天秤に掛けて判断します。)

本戦でのピックとデッキ

ネファリアのグール呼び、ジャダー意気盛んな墓守り

運命の初手は《ネファリアのグール呼び、ジャダー》《意気盛んな墓守り》の二択。後者は青白降霊で強力なカードですが、単色でゾンビと「腐乱」の2つのシナジーを持つ《ネファリアのグール呼び、ジャダー》をピックしました。

決闘策の教練者熱錬金術師熱錬金術師

2手目は《決闘策の教練者》をピックしましたが、《熱錬金術師》が2連続で流れてきたあたりから赤黒を意識しました。そのまま流れに乗って赤黒路線を進み、最終的に以下のデッキが完成しました。

#1aデッキ名

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クリーチャーに関してはレアもあり、神話アンコモンと評される《病的な日和見主義者》もあるまあまあな布陣。しかし、スペルが微妙…

月の憤怒獣の切りつけ

不人気といわれる赤をやるからにはせめて複数枚欲しい《月の憤怒獣の切りつけ》が0枚。2枚取れた《熱錬金術師》を活かすために弱いスペルも入れざるを得ない苦しい感じとなりました。大会終了後に確認したところ、そもそも《月の憤怒獣の切りつけ》は卓内に0枚と少し不運ではありましたが。

自己評価としては低めで、クリーチャーのスペックで何とか1勝をもぎ取りたいという感じでした。ドラフトの結果は構築戦も含めて後ほど記載します。

スタンダード

スタンダードはローテーションにより『エルドレインの王権』などが落ちて、『イニストラード:真夜中の狩り』が加わりました。これまでとまったく違ったデッキたちが活躍するようになったのです。

メタゲーム予想

アールンドの天啓老樹林のトロール

直近の大会では《アールンドの天啓》を軸にしたイゼット天啓と緑単アグロが台頭しており、2大メタを形成している状況でした。両者の相性的には緑単側に少し分がある印象です。

単純に考えれば緑単が多くなりそうですが、世界選手権はほかのトーナメントと違う特殊なフィールド。参加選手は16名と少なく、各々徒党を組んで至高のデッキを持ち込んでくるのです。チームで同じデッキを使用することも考えられるのでメタゲームが極端に偏る可能性もあり、予測がかなり難しくなってしまいます。

そういった前提条件もあり、動きが直線的で比較的メタりやすい緑単アグロを真正面から持ち込んでくるプレイヤーが多いとは思えませんでした。どちらかといえば構築の自由度が高く、腕の差が出るイゼット天啓の方が数は多いと予想しました。ミッドレンジ好きな自分としては、緑単を倒せるミッドレンジ系のデッキを模索していましたが、数が多いと予想したイゼット天啓には勝てないためお蔵入りに。

くすぶる卵

いろいろ試してみたもののしっくりするデッキが直前まで見つからず苦戦しながらも、最終的にメインボードから《くすぶる卵》を4枚入れたイゼット天啓を選択しました。

イゼット天啓の選択理由

#1bデッキ名

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このデッキは世界選手権のために一緒に調整した茂里選手が提案したものであり、それをベースにして自分が改良を加えました。特徴である《くすぶる卵》が予想したメタゲームに合致していることが決め手の一つとなりました。《くすぶる卵》は緑単を始めとしたアグロデッキに序盤の壁役となり、コンボ始動するまでライフを持たせてくれます。しかも攻勢をさばくうちに変身し、盤面を制圧することにもなるのです。

くすぶる卵くすぶる卵

イゼット天啓ミラーではコンボを巡るにらみ合いになりますが、《くすぶる卵》が変身すればフィニッシャーになるため、相手にアクションを強いることができます。マナコストが軽く序盤の能動的なアクションとなり、バウンス以外では触られにくいのも嬉しい部分です。サイド後に発生するであろう《心悪しき隠遁者》の押し付け合いでも優位に立つことができますね。

ミラーマッチはもちろん不安ではありますが、そこも受け入れての選択となりました。

調整点

細かい部分は省略しますが、2大メタであるデッキそれぞれに寄せ過ぎない構成としました。デッキのバランスを崩さないことを意識しつつ、デッキ公開制度を最大限利用すべく1枚刺しのカードを多く採用しています。少ない枚数のカードだとしてもその存在を匂わすことで、対戦相手に少しでも選択肢を持たせてミスリードすることが狙いです。

悪魔の稲妻襲来の予測多元宇宙の警告

「予顕」を持つカードを《アールンドの天啓》以外に複数採用することで、「予顕」されているカードを読まれにくくしています。極端な例ですが、こうすることで《アールンドの天啓》でないことに賭けて思い切った行動を取ってくることもありえます。公開制度における0と1の差は見た目以上に大きな効果を生む可能性があるのです。

竜巻の召喚士心悪しき隠遁者

サイドボードは「講義」の分少し狭くなっていますが、ミラーマッチとアグロをバランス良く対策しています。

最高の舞台へ

世界選手権のメタゲーム

迎えた第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権。実際のメタゲームは以下の通りとなりました。

黒をタッチしたりグリクシスバージョンもありますが、イゼット天啓が最大勢力となりました。その一方で最有力選手であったパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaセス・マンフィールド/Seth Manfieldの両選手が緑単アグロを選択したのは意外でした。

溺神の信奉者、リーア強迫真っ白

イゼット天啓ミラーという括りで見ると、ガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassif選手らが持ち込んだ黒をタッチした構築は未知数な部分はあるものの、カウンターがほとんど採用されておらずやりやすそうな印象を受けます。手札破壊がどれだけ刺さるか次第といったところでしょうか。

予想外の授かり物

逆にオンドレイ・ストラスキー/Ondrej Strasky選手らが持ち込んだコンボ特化型のリストはミラーマッチを意識しておりやりにくそうな印象。《予想外の授かり物》によるマナ加速は展開にかなり差をつけられそうでした。

大会レポート

冒頭でも触れましたが、2日間でスイスラウンド10回戦を行い、上位4名が3日目に進むことができます。

1日目

対戦相手 プレイヤー 結果
1回戦 Eli Kassis 1-2
2回戦 Matt Sperling 1-2
3回戦 Seth Manfield 0-2
4回戦 高橋 優太 1-2
5回戦 Arne Huschenbeth 2-1

DAY2

対戦相手 プレイヤー 結果
6回戦 Seth Manfield 2-1
7回戦 Gabriel Nassif 2-1
8回戦 Bye 2-0
9回戦 Seth Manfield 2-1
10回戦 Paulo Vitor Damo da Rosa 2-0

ドラフト0-3、スタンダード4-3の計4-6という結果で初めての世界選手権は終了しました。不安であったドラフトで全敗してしまい、巻き返しを図ろうとするも及ばず。やっぱり世界は甘くないと実感した2日間でした。

一時帰路へ

初めての世界選手権は結果振るわずでしたが、とにかく楽しい大会でした。ここまで厳選された世界のトッププレイヤーが一堂に会するイベントは滅多にありません。

ただ、楽しみながらも強豪プレイヤーとの試合で勝利を目指す必要がありますので、変に緊張せずに普段通りリラックスするように心掛けています。舞い上がっていつも通りの力が出せないと悔いが残りますからね。

ここからは今回の反省点など分析していきたいと思います。

得たもの

今回茂里選手をはじめとしたチームに誘っていただき、初めて複数人で大会に向けた調整をしました。同じ目的やモチベーションを持った人同士でコミュニティを形成するのは中々ないので、大変ありがたいことでした。

これまで自分一人で調整してきたため不慣れな部分もありましたが、改めてチーム調整の良さを知る機会となりました。些細なことでも思ったことや気がついたことを共有していくことで、チーム全体のプラスとなり、チームがレベルアップすることで自分も上達していきます。試合に勝つことが目標のチーム調整ではありましたが、何よりも全員マジックが好きで楽しみながらできたのは良かったです!

茂里選手を初め、チームのメンバーにはこの場を借りて改め感謝をさせていただきます。ありがとうございました!

くすぶる卵竜巻の召喚士

また、メタゲームは予想通りイゼット天啓が半数を占める結果となりました。次点で緑単アグロが多く、メインボードの《くすぶる卵》は大正解。どのマッチアップでも腐らず、ほかのイゼット天啓と差をつけられた部分といえます。

さらに緑単アグロ用に採用した《竜巻の召喚士》も的中しました。グリクシス天啓にも採用されており、トッププロと同じ思考に至れたことは純粋に嬉しく、過程が間違っていなかったと確認できました。実際の試合でもパウロ選手相手にプレイして勝利に貢献してくれました。

今後の課題

最大の敵はやはり時間でした。練習時間の確保は非常に難しく、すべての可能性を追うことはできずイゼット天啓へとたどり着きました。ミッドレンジやコントロールを好む自分として不満はないものの、ミラーマッチでは構築部分で差をつけられないと腕の勝負となってしまいます。世界選手権に出場する選手なのですから楽に勝たせてはくれません。

だとするならば、もう少しほかのデッキを試すことができれば技術介入度の高いミラーマッチを避けてアグロを使用する選択肢もあったかもしれません。得意なアーキタイプを増やし、大会へ持ち込める選択肢を増やせるように取り組んでいこうと思います。

出場者のレベルが高く実力が劣る自覚はあるものの、「負けて悔しい」という気持ちはもちろんあります。特にリミテッドは大きな課題ですね。リミテッドの上達には特効薬はなく、一朝一夕で上達するものではありませんが、今後は触れる機会を増やしていこうと考えています。

もちろんただ増やすだけでは意味がありませんので、自分なりの課題を意識しつつ地道に頑張っていこうと思います。幸いなことにマジックすべてが好きなので、楽しんでやれると思います!

旅は続く

ここまでご覧いただきありがとうございました。思えばアリーナ予選から始まった世界選手権への旅でしたが一旦は一区切り。とても貴重な体験ができましたが、負けて当然悔しいので次回の大会へのモチベーションは増すばかりですね。今後の競技シーンは不透明ではありますが、実力をつけてまた大舞台に立てればと思います。

自分は負けてしまいましたが、高橋 優太選手の優勝はとてもめでたいですね!少しでも近づけるように努力していきます。

旅の準備

旅はまだまだ続きます…それではまたどこかの機会でお会いしましょう!

佐藤 啓輔 (Twitter / Twitch)

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佐藤 啓輔 グランプリで2度のトップ8入賞経験があるほか、MTGアリーナで行われた『カルドハイム』チャンピオンシップで15位、日本選手権2021 SEASON2でもトップ4の好成績を残す関東のプレイヤー。2021年8月に開催されたチャレンジャー・ガントレットにて来期MPL加入とマジックで最高峰の舞台とされる世界選手権への出場を決める。日本だけでなく世界に通用する確かな腕前を証明して見せた。 佐藤 啓輔の記事はこちら