スタンダード情報局 vol.91 -『ニューカペナの街角』期環境総括-

富澤 洋平

はじめに

みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。

『ニューカペナの街角』期のスタンダードも終わりが近づくと同時に、『団結のドミナリア』の足音が聞こえてきました。

先週に全カードリストが公開になりましたが、新カードの情報を紹介したい気持ちをグッとこらえて、今回は『ニューカペナの街角』期のスタンダードの総括をお届けします。

『ニューカペナの街角』期の振り返り

『ニューカペナの街角』は友好3色を組み合わせた弧3色をフィーチャーしたセットでした。これまで単色だったデッキは2色や3色へ、3色だったデッキは《ラフィーンの塔》などにより安定性を手に入れ、スタンダードは大多色時代の幕開けとなりました

ラフィーンの塔嵐削りの海岸岩山被りの小道

多色環境にありがちなのは、マナベースの不安定な3色デッキに強い低コストに寄せた単色アグロが覇権を握るといった流れ。しかし、3色土地、スローランド、両面土地の強固なマナベースから繰り出される多色呪文は、単色アグロの速度に引けを取りませんでした

策謀の予見者、ラフィーン暁冠の日向日の出の騎兵

結局単色ゆえのパワー不足から単色アグロは早々と環境から去り、世にも珍しいミッドレンジ祭りとなります。ミッドレンジ祭りの後は干渉領域の広い青系コントロール、速度に特化した2色アグロが隆盛し…と最後まで多色アーキタイプばかりの環境となったのでした。

続いてはメタゲームの移り変わりとともに注目デッキを振り返っていきましょう。

代表的なデッキ紹介

《オブ・ニクシリス》コピー祭り

敵対するもの、オブ・ニクシリス

前環境とは打って変わって3色が主役となった『ニューカペナの街角』スタンダード。スタートダッシュに成功したのはマナベースと除去に加えて、発売前に話題だった《敵対するもの、オブ・ニクシリス》をフィーチャーしたジャンドミッドレンジでした。

ジャンドミッドレンジは新プレインズウォーカー《敵対するもの、オブ・ニクシリス》を中核としたデッキ。「犠牲」で《敵対するもの、オブ・ニクシリス》のトークンを生成しておくことで、《エシカの戦車》でコピーできるようになります。攻撃のたびにプレインズウォーカーが増えてしまっては、相手もゲームを諦めるよりほかありません。

敵対するもの、オブ・ニクシリスエシカの戦車土建組一家の魔除け

除去呪文が豊富に採用されており、速度で押してくるアグロデッキに対しても隙はありません。《土建組一家の魔除け》は除去以外に2つのモードがあり、どのマッチアップでも無駄にならない魔除けらしい1枚。除去モードはクリーチャーを対象に取らないため、《黄金架のドラゴン》を処理するのにも適していました

続・ミッドレンジゲーム

《エシカの戦車》《敵対するもの、オブ・ニクシリス》のシナジーにより、環境はジャンドミッドレンジ一色かと思われましたが、すぐさま対抗馬が現れます。軽量クリーチャーを《策謀の予見者、ラフィーン》で育てるエスパーミッドレンジです。

策謀の予見者、ラフィーン

環境初期こそジャンドミッドレンジがやや優勢か同数程度でしたが、時が経つにつれてエスパーは一大勢力へと成長します。

エスパーミッドレンジは《光輝王の野心家》などの優秀な2マナ域からスタートして《策謀の予見者、ラフィーン》《放浪者》へと続けていく攻め手の厚い中速デッキ。これらのカードの特徴はターン経過とともに戦場が強化されていく点でした。

婚礼の発表消失の詩句常夜会一家の介入者

各種プレインズウォーカーに《婚礼の発表》と攻めるオプションが多彩であり、万能除去の《消失の詩句》まで揃っています。オーバーアクションに対しては《常夜会一家の介入者》で一時的に対処し、その間にライフを削りきって攻めるミッドレンジでした。

ミッドレンジの攻略法

増え続ける多色ミッドレンジデッキ。3色ゆえにカード選択は無限にあり、サイドボードを含めてあらゆる状況に対する解決策が用意されていました。完全無欠と思われたこれらのデッキですが、攻略の糸口は意外なところにありました

イゼットコントロール

デッキの色が増えるにつれて、マナベースは不安定になっていきます。必要なときに必要な色マナが出なければ、強力呪文もないのと同じです

浄化の野火廃墟の地

そのため、多色デッキは序盤の安定性を求めて複数の色マナが出る特殊土地を多めに採用します。イゼットコントロールが目をつけたのはまさにこのマナベース。土地破壊呪文を使って色マナを絞り、呪文をプレイさせないようにしたのです。

イゼットコントロールは《浄化の野火》《廃墟の地》を使い、マナベースへ徹底してダメージを与えていきます。当時の3色ミッドレンジ内の基本土地は1枚か多くて2枚しか採用されておらず、これらのカードは限りなく《露天鉱床》に近い性能となりました。

表現の反復秘儀の砲撃家の焼き払い

相手の動きが止まればしめたもの。出ていたクリーチャーを火力で対処し、《秘儀の砲撃》へと繋げてゲームエンドです。インスタントかソーサリーをプレイするたびに1枚ずつコピー呪文が増えていくため、1~2ターンで驚くほどのリソース差が生まれてしまいます

単体でも十分強力な《表現の反復》《秘儀の砲撃》との相性も抜群。カードを引き込めるため継続的な誘発が見込めるのです。

《秘儀の砲撃》でコピーされる呪文はそれぞれ任意でプレイするかどうかを選択できるため、うっかりライブラリーアウトするような心配もありません。最終的に相手のマナベースを破壊しつくし、《家の焼き払い》のトークンや直接ダメージなどで勝利します。

グリクシス吸血鬼

電圧のうねり税血の収穫者

ランデスのような絡め手ではなく、正面からエスパーミッドレンジを攻略するデッキも現れます。軽く汎用性の高い除去と《消失の詩句》に耐性のある多色クリーチャーから構成されたグリクシス吸血鬼です。

グリクシス吸血鬼は軽量除去と複数のアドバンテージ獲得手段、多色の吸血鬼から構築されたアーキタイプ。《欲深き者、エヴリン》を除いて大半が3マナ以下のカードです。軽量除去で相手の重いクリーチャーなどを対処し、その際に生まれたテンポ差を利用して手数でエスパーを攻略しようと試みました。

電圧のうねり冥府の掌握レイ・オヴ・エンフィーブルメント

《電圧のうねり》《冥府の掌握》、極めつけはメインに採用された《レイ・オヴ・エンフィーブルメント》と2マナ以下の除去が目立ちます。これにより《光輝王の野心家》《策謀の予見者、ラフィーン》はほとんど機能しません

死体鑑定士鏡割りの寓話表現の反復

対処されたクリーチャーはアドバンテージ源へと変換されます。《死体鑑定士》は墓地へ落ちたクリーチャーをコストにデッキを掘り進め、ときには《しつこい負け犬》を対処してくれました

《死体鑑定士》《鏡割りの寓話》《表現の反復》と、1枚で複数交換できるカードが多数採用されています。軽い構築ながらロングゲームに強いのも特徴でした。

ティムールコントロール

グリクシス吸血鬼が軽いカードによって生み出されるテンポ差でエスパーミッドレンジを攻略するなら、逆もまた然り。ティムールコントロールは軽い干渉手段と重いフィニッシャーにより、カードパワーでエスパーへと挑みました

ティムールコントロールは打ち消し呪文と火力によるボード制圧を狙うインスタントベースのデッキ。2マナ以下の干渉手段と《鏡割りの寓話》はイゼットコントロールと共通しているものの、注目すべきはそのフィニッシャーです。《黄金架のドラゴン》の後ろに控えている《産業のタイタン》は多くのプレイヤーが度肝を抜かれた1枚でした。

産業のタイタン鏡割りの寓話

高いスタッツと2種類の誘発型能力を持つオリジナルカードのようなタイタンは当時の環境的に想定外のカードであり、奇襲性も相まって大成功を納めました。軽視されがちなエンチャントとアーティファクト破壊ですが、《キキジキの鏡像》《婚礼の発表》《エシカの戦車》が活躍していたため重宝されました。戦場に出た瞬間にカード3枚分となる、まさにカードアドバンテージの体現者だったのです。

戦場に出ただけで仕事をしてしまうだけに、打ち消し呪文か手札破壊以外では対処が難しいカードでした。おまけに《鏡割りの寓話》との相性も良く、うっかり揃ってしまえば毎ターン誘発型能力に加えて7/7に突撃され、瞬く間にライフを削りきられてしまいます。

2色で差をつけて

コントロール色の強いデッキによってミッドレンジデッキが攻略されたことで、環境はひとつの転換期を迎えました。

シルバークイルの口封じ永岩城の修繕

その1週間後に開催された日本選手権2022 -Tabletop Returns-では、2色デッキであるオルゾフミッドレンジとイゼットコントロールが覇権を争いました。このオルゾフミッドレンジは《シルバークイルの口封じ》《永岩城の修繕》を採用した攻撃的で粘り強いデザインでした。

圧倒する日向

対ミッドレンジやコントロール同士の勝敗をわけるのは制圧力の高いフィニッシャーです。ティムールコントロールは《産業のタイタン》に頼っていましたが、何も1枚である必要はありません。ジェスカイオパスは《暁冠の日向》《マグマ・オパス》の組み合わせをフィニッシャーと見定めました

ジェスカイオパスは、火力と打ち消し呪文を組み合わせたイゼットベースのコントロールデッキ。定番の《表現の反復》《鏡割りの寓話》のおかげでリソースが枯渇する心配もありません

暁冠の日向マグマ・オパス

延命できる程度にボードを捌き、《暁冠の日向》さえ着地すればそこからはジェスカイオパスだけの時間です。《暁冠の日向》の効果を利用して《マグマ・オパス》のコストを大幅に減らし、早期キャストを狙います。最大6つの対象を取ることでそのコストは2マナまで減ることになります。8マナが2マナに!

コンボが決まれば本来よりも少ないマナでボードを半壊させ、一時的とはいえマナをロックしたうえで、カードとトークンを手にすることになります。この一挙動でさまざまなアドバンテージが生まれるため、差を埋めるのはどんなデッキ困難を極めます。

速さこそ強さ

熊野と渇苛斬の対峙光輝王の野心家

ミッドレンジに強いコントロールの筆頭となったジェスカイオパスですが、すぐ後ろに敵が迫っていました。低いマナカーブから始まる打点と速攻の組み合わせ、直接ダメージまで含めてピッタリ20点削りきるように設計されたボロスアグロです。

ボロスアグロは1マナ域からクリーチャーを並べるビートダウンデッキです。《熊野と渇苛斬の対峙》はタイムラグがあるとはいえ、1マナ2/2相当のカード。II章ではクリーチャーを強化できるため、火力に耐えて戦場の主導権を握りやすくなります。

日の出の騎兵轟く雷獣

序盤の展開に加えて、《日の出の騎兵》《轟く雷獣》が後押しします。どちらもライフを削ることに特化したクリーチャーであり、対戦相手からすれば素早く対処する必要があります。前者は昼夜システムにより相手に動くことを強制し、後者は《熊野と渇苛斬の対峙》《光輝王の野心家》でバラ撒いてあった+1/+1カウンターに付加価値をもたらします

そしてメタは回る

ボロスアグロが増加しクリーチャー対処に追われる日々。終止符を打ったのはボードコントロールに長けたオルゾフでした。

オルゾフコントロールは軽い除去と手札破壊を組み合わせて、ゲームの膠着を狙います。《婚礼の発表》《放浪者》はボードを作り、ゲームの主導権を握るキーカード。ミッドレンジとコントロールの中間に位置するこのオルゾフは、クリーチャーを使った新しいパッケージが内蔵されていました

救出専門家収得の熟練者

《収得の熟練者》はハンデスしつつ、1/2のクリーチャーがおまけでついてきます。単体で相手のクリーチャーを止めることは難しいものの、この死亡しやすいサイズがポイントです。

パートナーを務める《救出専門家》《収得の熟練者》を戦場へと戻すことで、再度能力が誘発します。相手の戦力を削ぎ、攻めにくい戦場を構築することで、中~長期戦の足掛かりとするのです。


暁冠の日向日の出の騎兵消失の詩句

この後、主にジェスカイオパス、ボロスアグロ、オルゾフミッドレンジを中心としたメタゲームが形成され、今へといたります。

おわりに

今回は『ニューカペナの街角』期のスタンダードの総括をお届けしました。

メタゲームは毎週目まぐるしく動き、次から次へと登場するデッキはどれも使いがいがあるものばかりでした。はじめからおわりまで充実したスタンダードライフだったように思います。『団結のドミナリア』リリース後も楽しみですね。

次回からは新環境のスタンダードの情報をお届けしたいと思います。それでは!

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富澤 洋平 晴れる屋メディアチームスタッフです。最近は《黙示録、シェオルドレッド》に夢中な日々です。 富澤 洋平の記事はこちら

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