はじめに
みなさん、こんにちは。晴れる屋の認定レベル1ジャッジ、島田と申します。
『ジャッジと一緒にルールを学ぼう!』では、ゲームでよく使われているカードやジャッジをしていてよく聞かれるルール”のみ”に焦点を絞り、回ごとのテーマに合わせて例を挙げ・極力わかりやすく説明していきたいと思います。
この記事が少しでもみなさんのルール理解に繋がり、ひいてはマジックの楽しさを増すことに繋がれば幸いです。
今回のテーマは、『サンダー・ジャンクションの無法者』の新要素「悪事を働く/Commit a Crime」「無法者/Outlaw」「放題/Spree」「騎乗/Saddle」「計画/Plot」です。
新しいカードのルールなので、詳細な解説というよりはプレリリース前の予習として軽くイメージをつかむための記事としてご覧ください。
それでは始めましょう。
※2024/4/15時点のマジック総合ルールに基づいています。特に新カードに関するルールのため、今後のルール改定などで内容に齟齬が発生する可能性があることをご了承ください。
※文章の都合上、表現を簡略化・省略している場合があります。
※本記事は複数のジャッジが監修していますが、誤りや疑問点を見つけましたら遠慮なくお問い合わせページまでご指摘ください。
やつらにとっちゃ「悪事を働く」なんて息をするくらい簡単なことさ
「悪事を働く/Commit a Crime」は、プレイヤーが特定の行動を取ったかチェックする目印の一種です。
プレイヤーが
・自分が唱える呪文
・自分が起動する起動型能力
・自分が誘発させる誘発型能力
のどれかで
・対戦相手であるプレイヤー
・対戦相手がコントロールしている呪文や能力
・対戦相手がコントロールしているパーマネント
・対戦相手の墓地にあるカード
のどれかを対象に取ると、そのプレイヤーは「悪事を働いた」ことになります。
「悪事を働いた」だけなら、良心が痛むだけで特にゲーム上の変化はありません。ですが『サンダー・ジャンクションの無法者』には「悪事を働く」ことで誘発する能力や、このターン「悪事を働い」ているかをチェックするカードが多数あります。基本的には「悪事を働く」ことでボーナスが得られるので(悪党の次元ですからね!)、遵法精神はいったん忘れて積極的に悪事を働いていきましょう。
「悪事を働く」ことや「対象を取る」ことに関する注意点がいくつかあるので、ここでまとめておさらいです。
基本的なことですが、呪文や能力に「対象」と書いてあれば対象を取りますし、そうでなければ対象を取らない効果です(一部例外はあります)。たとえば《稲妻》は対象を取り、《神の怒り》は対象を取りません。対戦相手に影響するカードでも、たとえば《シェオルドレッドの勅令》のように「各対戦相手」などと書いてあったら対象を取りません。
もし対象に取れるものが存在しない場合、呪文を唱えたり能力を起動すること自体ができません。たとえば相手が「呪禁」を持ったクリーチャーだけをコントロールしている場合、「悪事を働く」ために意味がないことを承知で唱えたいとしても《氷結往生》を唱えることはできません。一方「護法」であれば対象に取ること自体はできるので、たとえ「護法」コストが支払えずに打ち消されることが決まっていたとしても唱えられます。
相手のものを対象に取ってさえいれば、それがプラスの効果だとしても「悪事を働いた」扱いです。たとえば《祖先の幻視》で対戦相手にカードを引かせてあげることも「悪事」です。ライブラリーアウト狙いの押し売りかもしれませんし。
一度対象に取ったら、あとはその呪文や能力がどうなっても「悪事を働いた」ことになります。《否認》や「護法」で打ち消されたり、対象が解決前にいなくなったり、「破壊不能」で無意味になったり、対象を変更されても「悪事を働いた」事実は残ります。
あなたがこのターン「悪事を働いた」かチェックするカードは、そのカードが出る前でもあなたがこのターン「悪事を働い」ていれば条件を満たします。目ざといですね。
呪文や能力は複数の対象を取ることがあります。この場合、対象のうちどれかひとつでも対戦相手やそのパーマネントなどが含まれていれば「悪事を働いた」ことになります。
たとえば《過当な尋問》の場合、自分だけを対象にしたら無実ですが、お互いのプレイヤーを対象にしていたら「悪事を働いた」ことになります。また「最大1つ」や「望む数」など、対象の数として0を選べる場合があります。対象が0個であれば当然対象を取らないので、「悪事を働く」ことはありません。
1つの呪文や能力が「悪事を働く」のは、対戦相手のものをどれだけ多く対象に取っても1回だけです。
対象を取る呪文や能力は、それが唱えられたり起動されてスタックに置かれる時点で対象を取ります。
呪文や起動型能力は基本的に狙って使用するので問題になりにくいですが、誘発型能力は思わぬところで誘発して対象を取ることがあります。そのとき、ルール上適正な対象があれば嫌でもそれを選ぶ必要があります。もし「悪事を働」きたくない場合でも、あなたの意志に関係なくそうなることがあります。怖いですね。
また「悪事を働いた」ときに誘発する能力は、あなたがその対象を取る呪文や能力を唱えたり、起動することで誘発する能力と同時にスタックに積まれることになります。あなたはそれらの能力をどの順番で解決するか選べます。
最初に取った対象を《誤った指図》などで変更した場合、変更した先が対戦相手のものでも「悪事を働いた」ことにはなりません。大事なのは最初の対象だけです。
多人数戦の場合、誰が「自分」で誰が「対戦相手」かは形式によって異なります。たとえば、統率者戦であれば自分以外は全員「対戦相手」です。双頭巨人戦などのチーム戦では、あなたのチームメイトは「対戦相手」ではありません。
悪党の次元では「悪事」はありふれたもの。覚悟を決め、無法の世界に飛び込んで勝利を掴みましょう。
「無法者」だョ!全員サンダー・ジャンクションに集合
「無法者/Outlaw」はいくつかのクリーチャー・タイプを一まとめにしたグループです。過去のルールだと「パーティ」に近いでしょうか。 なお「無法者」自体はタイプではありません。あくまでグループを指す名称なので、《魂の洞窟》などで選ぶことはできません。
「無法者」に含まれるクリーチャー・タイプは「暗殺者・傭兵・海賊・ならず者・邪術師」の5つです。これらのタイプを1つでも持っているものは、ほかのタイプに関わらず「無法者」です(傭兵が無法者ってちょっと失礼では……)
「無法者1体が戦場に出るたび」や「無法者であるクリーチャー・カード1枚を戦場に戻す」などの効果では、「無法者」に該当するものがすべて範囲に含まれます。普通にクリーチャー・タイプを指定するよりも広い範囲から選べるのが魅力ですね。
マジック世界ではクリーチャー以外が「無法者」なこともあります。たとえばタイプが「部族アーティファクト ‐ ならず者・装備品」である《外套と短剣》は立派な「無法者」です。
ほかにも邪悪なタイプを持っていたりカード名に「無法者」を含むカードはありますが、それらは「無法者」仲間にはなれません。たとえば《尊大な無法者》のタイプは「吸血鬼・貴族」(2024年4月現在)なので、彼はこの次元では善良な吸血鬼です。また《スランの医師、ヨーグモス》のようにストーリー上でどんな悪事を働いていても、タイプが該当しなければセーフです。
注意点として、クリーチャー・タイプはルールの更新によって変化することがあります。そのため、そのカードが初登場したときと現在でタイプが違うことが多数あります。
たとえば《名うての暗殺者》は『メルカディアン・マスクス』で初登場したときは「クリーチャー ‐ スペルシェイパー」でした。しかし現在では「クリーチャー – 人間・スペルシェイパー・暗殺者」なので、「無法者」に含まれます。ゲームの際は、最新のテキストを確認するかジャッジを呼んで調べてもらいましょう。
当店では料金をお支払いいただければなんでも選び「放題」です
「放題/Spree」はモードを持つ呪文が持つ能力で、追加コストによってモードを使い分けることができます。由緒正しい「キッカー」の系譜…と見せかけて、少し変わったところがあるので見ていきましょう。
「放題」を持つ呪文は、マナコストの右上に小さく+が付いた独自の枠と「+コスト – モード」で書かれた文章を複数持ちます。これがその呪文で選べるモードです。
「放題」最大の特徴は、選ぶモードごとに追加コストが必要なので通常のマナコストだけでは唱えられないことです。モードは1つ以上選ぶ必要があるので、必ず追加コストのうちどれかは支払う必要があります。
1つ「以上」なので、それぞれの追加コストをまとめて支払えれば複数のモードを選ぶこともできます。一方でいくらマナがあっても、同じモードを複数回選ぶことはできません。
複数のモードを選んだ場合、それは書かれている順番で解決されます。たとえば《最後の決戦》の場合、全部の追加コストを支払ったら最初にすべてのクリーチャーが能力を失い、次に選んだクリーチャー1体が破壊不能を得て、最後にすべてのクリーチャーが破壊されます(恐らく途中で選んだ1体だけを残して)。ほかの複数モードを選べる呪文と同様、モードとモードの間にスタックして行動することはできません。
追加コスト系の呪文の例に漏れず、「放題」で追加コストをいくら支払ってもマナ総量は変化しません。追加コストは唱えるときに1つ以上払う必要があるので、「放題」呪文はおしなべて見た目のマナコストやゲーム上のマナ総量よりもたくさんマナがかかります。唱えられると思ったらマナが足りなかった!という状況にご注意を。
一方、《ガドック・ティーグ》がいるときなど、マナ総量が小さいことがメリットになる状況では上手く利用できそうです。
これも追加コスト系能力のお約束として、《全知》のように「マナ・コストを支払うことなく唱え」る場合も追加コストは無料にはなりません。普通は追加コストの支払いは任意なのですが、「放題」の場合はモードを1つ以上選ぶ必要があるのでほぼ確実にマナが必要になり、相性がいまいちです。「放題」カードでやりたい放題したい場合は、コスト踏み倒し系より《強靭の徳目》などマナを増やすカードのほうが相方に向いているでしょう。
もし「放題」コストを支払った呪文をコピーする場合、それはモードごとコピーされます。モードを選び直したり追加でコストを払ったりはできませんが、「放題」コストを大量に支払った呪文をコピーできればかなりお得でしょう。
好き「放題」できるのは潤沢なマナがあってこそ、世知辛いですが、それも世の理ですね。
こいつに「騎乗」するのは初めてだが、不思議としっくり来るぜ
「騎乗/Saddle」はクリーチャーが持つ起動型能力で、ほかのクリーチャーで「騎乗」持ちに乗ることができます。「騎乗」能力を持っているクリーチャーは「乗騎/Mount」のタイプを持つことがほとんどですが、これにルール上の繋がりはありません。タイプが変わったり能力が消えたりしても、ほかの要素はそのままです。
「騎乗」能力には「騎乗1」のように数字がついており、数字の分だけのパワーを持ったほかのクリーチャーをタップすると、タップしたクリーチャーはターン終了時まで「騎乗」持ちに「騎乗」できます。なるほどクリーチャー版の「搭乗」か!と思いきや、挙動はかなり異なります。どちらかというと「後援」のほうが近いような、そうでもないような。
まず「乗騎」などの「騎乗」持ちは最初からクリーチャーなので、通常通り攻撃やブロックに参加できます。必要であれば他のクリーチャーに「騎乗」することも可能です。起動のために複数のクリーチャーをまとめてタップできることや召喚酔いのクリーチャーもタップできることは「搭乗」と同じですが、「騎乗」能力はソーサリータイミング(自分のメイン・フェイズの間かつスタックが空のとき)でしか使えません。「機体」と違って生き物は勝手に動きますからね。
そして最大の違いは、「騎乗」能力は起動しただけだと基本的に何も起こらないことです。
「騎乗」したこと自体や「騎乗」されたクリーチャーが攻撃することで能力が誘発するなど、ほかの効果と組み合わさることで初めてゲームに影響を及ぼします。ソーサリータイミングでしか起動できない関係で、攻撃することに関係した効果を同時に持っていることが多いです。「騎乗」したけど何も起こらなかったよ!ということがないよう、テキストは要チェック。
一度「騎乗」能力が解決されたら、その後「騎乗」したクリーチャーが戦場を離れても「騎乗された」状態はそのターン中残ります。乗っている人を振り落として走る馬、たまに見ますよね。
「騎乗」するもしないもあなた次第。盤面を見極め、荒馬たちを乗りこなしましょう。
優れた「計画」であれば、伝えるだけで他人を動かすことができる
「計画/Plot」は呪文が持つ常在型能力で、コストを支払うことでそのカードを「計画された」状態にできます。また、何らかの効果で「計画」を持たないカードが「計画された」状態になることもあります。
「計画」能力を使うには、まずソーサリータイミングである必要があります。そのタイミングで「計画」コストを支払ってそのカードを手札から表向きに追放すると、そのカードは「計画された」状態になります。
「計画された」カードは、次のターン以降であれば追放領域からマナ・コストを支払わずに唱えることができます。ただし、そのカードがインスタントや「瞬速」持ちだとしても「計画された」状態から唱えられるのはソーサリータイミングだけです。
「計画」することは「変装」を表にすることなどと同じく特別な処理なので、それ自体はスタックに乗りません。相手が「計画」しようとするのを狙って手札破壊などを撃つことはできません。
また「計画」でカードを追放することは呪文を唱えることとは異なります。これを打ち消したりはできません。「計画された」呪文が唱えられたら、それは普通の呪文を唱えたのと同様なので、こちらは《喝破》などで打ち消せます。
マナコストにXを含む呪文が「計画された」場合、それを唱えるときはマナコストを支払わずに唱えるのでXは0で固定され、追加で支払うことはできません。だいたい無駄になってしまうので、あまり「計画」しないほうがいいでしょう。
モードを持つ両面カードや「出来事」を持つ当事者カードなどが「計画された」場合、唱えるときは第二面や「出来事」部分で唱えることができます。特にモードを持つ両面カードはいろいろ活用できそうです。ただし「計画された」カードができるのは「唱える」ことだけなので、どちらかの面が土地の両面カードでも土地としてプレイすることはできません。
コストを支払えば何枚も呪文を「計画」しておけますし、「計画された」呪文は1ターンに何枚でも唱えられます。これを利用して除去のタイミングを測ったり、1ターンに大量の呪文を唱えて一気に攻勢をかけるのが主な使い方になるでしょう。ただし「計画」したカードはそのターン中は唱えられないので、どのカードをいつ「計画」したかはしっかり記録しておきましょう。
「放題」のときにも説明しましたが、「計画」でマナ・コストを支払わずに唱える場合でもマナ総量はそのままですし追加コストが要求されたら支払う必要があります。「放題」を持つ呪文を「計画」しても必ず追加コストがかかるので、あまりお得感がありませんね。《スレイベンの守護者、サリア》や《三なる宝球》などにも注意しましょう。
また「計画」したカードは公開されているので、《翻弄する魔道士》や《選定された平和の番人》などカード名を指定するタイプの妨害を受ける可能性もあります。まさに「ご利用は計画的に」。
おわりに
今回の記事で紹介できるのはここまでです。ほかにもたくさん気になることがあると思いますので、そのときはプレリリースの会場でジャッジに質問するか、晴れる屋Discordのルール質問チャンネルでご質問ください。
また冒頭にも書きましたが、新カードに関するルールは今後の発表やルール変更で内容が替わる場合があります。最新のルールをチェックして、気になることはその都度ジャッジにご質問ください。
それではみなさま、次のイベントでお会いしましょう。また次回!