決勝: 鈴木 亨(東京) vs. 三上 由朗(東京)

晴れる屋

By Atsushi Ito


 誰も見たことがない新天地。

 広大な未開の原野に挑むフロンティア・フォーマット、その初の大型大会となるBIGMAGIC協賛 フロンティアチャレンジカップは、300人もの勇気あるチャレンジャーを集める結果となった。

 アブザンアグロ、ダークジェスカイ、《先祖の結集》といった『タルキール覇王譚』期を彩った強力なデッキたちのアレンジから、【パンハモニコン・エルフ】【究極完全体ドレッジ】のような個性溢れる意欲作まで。

 蓋を開けてみればフロンティアは、自由なマナベース、強力無比なカードパワー、そしてセットの垣根を超えた様々なシナジー、そのすべてを内包した、極めて懐の深いフォーマットであることが明らかになる結果となったのだ。


 そして、そんな多様性を持つフォーマットの黎明期、始原のカオスで、開拓の先駆者として名を刻もうとしている者が2名。

 鈴木 亨。

 三上 由朗。

 優勝賞品、『マジック基本セット2015』~『カラデシュ』までの10個のセットのブースターそれぞれ1ボックスずつ、合計10ボックスを手にする資格を得た2人だ。

鈴木「(賞品のボックスを) 分けたりします?」

三上「いや、10ボックスで」

鈴木「じゃあそれで」

 彼らはシングルエリミネーションの決勝戦だけに許されたスプリットをよしとせず、完全決着を望んだ。

 ここまで勝ち上がってくる以上、決勝の相手が自分と同じかそれ以上に強いであろうことは間違いない。にもかかわらず、そんな相手に保険なく挑もうとしているこのシチュエーションは、互いに蛮勇と評するべきなのだろうか?

 否。

 未知なる未来でも、己の力で切り拓いていけると信じ、前に進む心。その精神こそ、開拓者にふさわしい。

 300名のプレイヤーの頂点。

 これから始まっていくフロンティアの歴史、その最初のチャンピオンとなるのは、鈴木か、それとも三上か。






Game 1


 先手の鈴木が送り出した《スレイベンの検査官》を2ターン目のアタック後、エンド前の《焦熱の衝動》で処理した三上は、《ヴリンの神童、ジェイス》を送り出す。少し前のスタンダードでは当たり前のように見られた、しかし今では見られなくなってしまった光景。

 その追憶のフィルムを継ぐかのように《カマキリの乗り手》で鈴木が応えると、返す三上は《稲妻の一撃》でこれを処理し、鈴木の攻めを受けきる構えを見せる。


ヴリンの神童、ジェイスカマキリの乗り手


 だが鈴木が《反射魔道士》《ヴリンの神童、ジェイス》を手札へと追い返し、《霊廟の放浪者》も展開すると、次のターンに《ヴリンの神童、ジェイス》の「変身」からの墓地の呪文再利用で優勢を維持しようとしていた三上の目論見は外されてしまう。

 さらに代わりに《魂火の大導師》を送り出した三上に対し、鈴木はこれをお返しとばかりに《稲妻の一撃》で葬ると、3点のアタックののちに《密輸人の回転翼機》をプレイ。除去コントロールであるダークジェスカイが隆盛していた当時には発明されていなかった「機体」で、三上を攻め立てる。



鈴木 亨



 対してここで三上は、鈴木のターンの「搭乗」まで待てば《呪文捕らえ》にハマりかねないと判断したか、メインで《はじける破滅》をプレイし、《反射魔道士》を生け贄に捧げさせて鈴木のクロックを下げると、さらに1ターンをおいて呪縛が解けた《ヴリンの神童、ジェイス》を送り出し、鈴木のクリーチャーを根こそぎ除去しきろうとする。

 だが鈴木は、2枚目の《反射魔道士》で三上の《ヴリンの神童、ジェイス》をさらなる時の牢獄へと追いやると、次のターン、三上が鈴木の《スレイベンの検査官》に対応して放った起死回生の《オジュタイの命令》に、狙いすました《呪文捕らえ》を合わせる!


オジュタイの命令呪文捕らえ


 スピリットが場に出てパワーが上がった《霊廟の放浪者》《密輸人の回転翼機》《反射魔道士》の7点アタックで、既に三上のライフは残り1点。実質4体、しかも《霊廟の放浪者》含みのクリーチャー陣を前に、三上の応手は尽きたかと思われた。

 それでも、ここまでの攻防で三上の墓地は潤沢に肥えている。そしてフロンティアには、不可能を可能にする力がある。


時を越えた探索


 《時を越えた探索》

 「他のフォーマットで禁止または制限されている《宝船の巡航》《時を越えた探索》を気兼ねなく4枚使いたい人にオススメ」という宣伝文句でスタートしたフロンティア・フォーマット。その触れ込みのとおりに、今日の大会では《宝船の巡航》《時を越えた探索》があちこちで乱れ飛んでいた。《時を越えた探索》《ヴリンの神童、ジェイス》が好きだから」【トップ8プロフィール】で語った三上も、まさしくこの瞬間のために大会に参加したのだ。

 7枚から2枚。十分すぎる選択肢の中から慎重にカードを選んだ三上は、4マナを立たせてターンを終える。

 そして鈴木のフルアタックに合わせ、引き込んだ《稲妻の一撃》《呪文捕らえ》に打ち込む!

 解決すれば、異次元に捕らえられていた《オジュタイの命令》が解放され、三上の反撃の狼煙となるだろう。

 その未来を。


ジェスカイの魔除け


鈴木「じゃあ、本体4点」

 《ジェスカイの魔除け》が、寸断したのだった。


鈴木 1-0 三上


 【デッキテク】でも取り上げた鈴木の「フライング・ジェスカイ」は、飛行クリーチャーの群れによる不可避のクロックから《稲妻の一撃》《ジェスカイの魔除け》という強力なインスタント火力によるフィニッシュにつなげるというシンプルなビートダウンのようでいて、相手からしたら実に対処しづらいデッキに仕上がっている。

 あとのクリーチャーに飛んでくる除去に対するけん制となる《霊廟の放浪者》に始まり、これまた先置きで除去対策となる《無私の霊魂》と、相手の除去を吸収する《呪文捕らえ》が続く。

 そしてそれらに守られながら有無を言わさぬクロックとして相手を追いつめるのが、まさしく今のスタンダードの制空権を握っている《密輸人の回転翼機》と、かつてスタンダードの空を支配していた《カマキリの乗り手》だ。


密輸人の回転翼機カマキリの乗り手


 時代を超えた2つの翼が融合し、未踏の地でともに空を翔ける。

 この新たなデッキコンセプトを生み出した知的営為こそ、「開拓」にほかならないのだ。


Game 2


 三上の先手で始まった2ゲーム目。3ターン目の《最後の望み、リリアナ》こそ返しの《ジェスカイの魔除け》で落とした鈴木だが、土地が3枚で詰まってしまう。

 やむなくエンド前の《呪文捕らえ》からクロックを作り、《密輸人の回転翼機》を追加するが、そこに天敵が出現する。


ゲトの裏切り者、カリタス


 《ゲトの裏切り者、カリタス》。除去コントロールであるダークジェスカイにこれの定着を許したなら、程なくして目も当てられない盤面になるであろうことは想像に難くない。

 タフネス4を対処できる根本的な除去手段がないため、これにより短期決戦を迫られた鈴木は、それでも返しで4枚目の土地を引き込むと、《反射魔道士》で若干の猶予を得つつ、三上の《稲妻の一撃》《払拭》を合わせてクロックを継続していく。

 さらに続くターンの《奔流の機械巨人》による《稲妻の一撃》の再利用にも《呪文捕らえ》を合わせ、三上の残りライフが7点、盤面に飛行7点クロックと手札に火力が2枚という、「あと一歩」のところまで追いつめる。

 だが。

 8マナに到達した三上は、まず《ゲトの裏切り者、カリタス》、続けて《魂火の大導師》をプレイすると、鈴木の《呪文捕らえ》《稲妻の一撃》をお見舞いする。


ゲトの裏切り者、カリタス魂火の大導師稲妻の一撃稲妻の一撃


 これにより何が起こったか。

 《稲妻の一撃》を捕らえた《呪文捕らえ》が力尽きると、さらなる《稲妻の一撃》がスタックに乗り、もう1体の《呪文捕らえ》をも巻き添えに。合計4点分のクロックを処理した三上はこの一連で6点のライフを得た上に、ゾンビトークン2体を獲得。

 つまるところ、天地が引っくり返ったかのような鮮やかな逆転劇だ。

 「あと一歩」を逃した鈴木は《カマキリの乗り手》で追いすがるが、ゾンビトークンを贄に巨大なサイズに膨れ上がった《ゲトの裏切り者、カリタス》が、ダメージレースという言葉を過去のものにしたのだった。


鈴木 1-1 三上


 三上の駆るデッキ、ダークジェスカイは、「何ターンのゲームでも戦い抜ける究極の除去コントロール」だ。

 《ヴリンの神童、ジェイス》《魂火の大導師》は2マナのクリーチャーながら1枚のスペルを何度も使いまわし、引きすぎた土地にも何らかの役割を与える。

 フェッチ+バトランのマナベースが可能にした4色均等のマナベースは、青白黒赤各色あるいはその組み合わせの最も優秀な除去、カウンター、ドローを、ほとんどテンポロスすることなくプレイすることを可能にする。

 そして何よりフロンティアにおけるこのコンセプトが持つ最大の武器は、夢のシナジーにある。


時を越えた探索奔流の機械巨人


 ただでさえ使用者にβエンドルフィンの分泌を促す《時を越えた探索》を、インスタントタイミングで5/6のクリーチャーを出しながら再利用できる。

 スタンダードでは決して実現しえない至福の喜びが、そこにはある。


 時刻は23時を回っている。

 観客たちはとうに閉店時間で店を去り、スタッフすらも撤収の準備を始めているこの晴れる屋トーナメントセンターで2人が戦う姿からは、グランプリの決勝戦で感じられるような、あの独特な静謐さが醸し出されていた。

 残り1ゲームという、この最終段に至ったプレイヤーの心境を、私たちは決して共有できない。

 10ボックスも、フロンティアも。鈴木と三上、それぞれの目の前にいる対戦相手すらも、2人の眼には映っていない。

 ただ「勝ちたい」という、個と個。

 それだけがある。それ以外はない。

 シャッフル。呼吸。

 勝ちたい。勝つ。

 ただ一心に。

 7枚を見る。

 一人が決意し、一人が嘆息し。

 やがて。

 最後のゲームが、始まった。


Game 3


 マリガンしたのは、三上だった。

 それでも鈴木の《密輸人の回転翼機》の返しで《ヴリンの神童、ジェイス》を送り出す悪くない立ち上がりを見せるが、対する鈴木は《呪文捕らえ》をメインでプレイして「搭乗」させ、先行して手札を整えつつ3点を与える上位互換の動き。さらに続けて鈴木が《無私の霊魂》をプレイすると、三上は5点アタックを受けつつも、どうにかエンド前に《焦熱の衝動》《無私の霊魂》を処理して耐え忍ぶしかない。

 だが対する鈴木は「変身」からの逆転の可能性をケアして三上のエンド前に《ヴリンの神童、ジェイス》《稲妻の一撃》を打ち込んでこれを除去すると、続けてメインで2枚目の《無私の霊魂》をプレイ。

 これに露骨に嫌そうな顔を見せた三上は、《密輸人の回転翼機》のために構えていた《稲妻の一撃》を、《無私の霊魂》にスタックで《呪文捕らえ》に打ち込まざるをえなくなってしまう。

 ダメージが蓄積した三上は逆転の望みを込めて《ゲトの裏切り者、カリタス》を送り出すが、鈴木にきっちりと《反射魔道士》を合わせられ、諦めたように吐息を漏らしつつ手札に戻す。



三上 由朗



 それでも、残りライフ4点というところでようやく5枚目の土地にたどり着いた三上は、鈴木が「搭乗」できない隙に《コラガンの命令》《無私の霊魂》《密輸人の回転翼機》をようやく打ち落とすことに成功すると、これにより鈴木のクロックを《反射魔道士》のみとする。

 さらに三上の残りマナが2つしかないとみるや勝ちを確信した鈴木が勢い勇んで自分のターンにプレイした《稲妻の一撃》を、これしかないという《否認》で弾くことに成功する。

 たどり着いた状況は、ライフ2、場には《反射魔道士》というもの。

 この細い糸、どうか渡りきれていてくれ。

 そう願いながら、三上は再び《ゲトの裏切り者、カリタス》をプレイする。


ゲトの裏切り者、カリタス軽蔑的な一撃


 そしてそこに、鈴木が途中からずっと構えていた《軽蔑的な一撃》が突き刺さり。

 三上は、ついに右手を差し出したのだった。


鈴木 2-1 三上





BIGMAGIC協賛 フロンティアチャレンジカップ、優勝は鈴木 亨!おめでとう!


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