Translated by Nobukazu Kato & Takumi Yamasaki
(掲載日 2020/05/14)
朝礼
やあ、みんな!スタンダードのメタゲームは間もなく一周しようとしている。『イコリア:巨獣の棲処』の発売直後、《深海の破滅、ジャイルーダ》と《灯の分身》のコンボが注目を浴びたが、その「無敵の強さ」は1日しか持たなかった。このデッキは《墓掘りの檻》1枚で封じられること、あるいは高速の安定したアグロデッキに勝てないことが認知され、環境は適応していったのだ。
次の「最強のデッキ」の座を1週間ほど守っていたのはルールスサクリファイスだ。しかし、アグロデッキが環境を席捲するようになると、次に日の目を浴びる「相棒」が出てきた。それが《巨智、ケルーガ》とジェスカイファイアーズだ。『イコリア:巨獣の棲処』前のジェスカイファイアーズはアグロデッキに非常に有利であることで知られていたため、再び《轟音のクラリオン》に手を伸ばすには最善の時だったといえよう。事実、この結果として環境の速度は低下し、さらに太いミッドレンジデッキがチャンスをうかがうようになった。
そして現在は「ヨーリオン環境」になっており、特にパフォーマンスが高いデッキたちは80枚構成になっている。ジェスカイ/バントヨーリオンを倒す選択肢は2つある。まず、テンポで相手を押し切る。MagicFest Online Finals(以下、MFO Finals)では赤単オボシュがそれを実践してみせた。もうひとつの選択肢は、もっとデッキを太くし、終盤戦にさらに強い戦略を持った構築を使うことだ。
私は長く消耗する戦いのほうが性に合っているため、選択肢はひとつしかなかった。かつてのティムールエレメンタルのコンセプトを再評価し、あるひとつの目的を念頭に構成を練り上げた。その目的とは、ヨーリオンミラーを制すことだ。
ティムールエレメンタル
3 《森》
1 《山》
4 《ケトリアのトライオーム》
4 《繁殖池》
4 《蒸気孔》
4 《踏み鳴らされる地》
4 《寓話の小道》
4 《奔放の神殿》
4 《天啓の神殿》
4 《神秘の神殿》
-土地 (39)- 4 《樹上の草食獣》
4 《枝葉族のドルイド》
4 《発現する浅瀬》
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
4 《乱動の座、オムナス》
2 《駆け回る物焦がし》
1 《深海住まいのタッサ》
4 《茨の騎兵》
4 《裏切りの工作員》
-クリーチャー (31)-
2 《霊気の疾風》
2 《軽蔑的な一撃》
2 《萎れ》
2 《炎の一掃》
2 《魂標ランタン》
1 《厚かましい借り手》
1 《空を放浪するもの、ヨーリオン》
-サイドボード (15)-
ミシックのランクマッチ、MFO Finals予選、MFO Finals本選をこの構成で参加したところ、対ジェスカイルーカの通算成績は13-4、対バントヨーリオンのそれは10-3であった。確かに大したサンプル数ではないが、このデッキのパワーを感じるには十分な出来だった。ティムールヨ―リオンは数々の強力な動きを実現でき、ゲーム中に3回は投了したくなるようなゲームにも勝てる力がある。
しかし、必ずしも日が射して虹がかかるわけではない。80枚で構成されている以上はドローに大きなムラがでるが、呪文の欲しい順番は決まっている(土地を伸ばす呪文が先で、マナコストの重い呪文が後)。《発現する浅瀬》はライブラリートップから土地を置ければMVPのカードになるが、そうでなければ《雲族の予見者》の劣化版になってしまう。また、《発生の根本原理》は単体で勝てることもあるが、土地が5枚めくれることもある。
つまり何が言いたいのかというと、いわゆる「ティルト」に陥りたくない人にはおすすめできないデッキであるということだ。このデッキを使い始めるのなら、まずは簡単なデッキではないということを肝に銘じておこう。膨大な数の能力が誘発しても、正しい対象をとりつつ、適切な順序でスタックに積まなくてはいけない。鍛錬なくして簡単に使えるデッキではない。忍耐力が求められる。
デッキの動き
一見するとデッキの動きはシンプルだ。できるだけ早くマナ加速し、《裏切りの工作員》や《発生の根本原理》につなげる。スタンダードのほかのランプデッキと異なるのは、その過程において強力なエレメンタルシナジーを駆使している点だ。
《発現する浅瀬》はデッキの核である。1枚のカードで土地を伸ばし、カードアドバンテージをもたらす。《乱動の座、オムナス》も土地が8枚まで伸びれば破格のカードアドバンテージ源となり、さらには除去やフィニッシャーを兼ねる。《駆け回る物焦がし》は単体では弱いものの、デッキ内のそのほかのカードの価値を高めてくれる。戦場に《発現する浅瀬》1体しかいなくとも、《駆け回る物焦がし》が出れば3枚のアドバンテージを得つつ、マナ加速ができる。《繁栄の狐》を3回ブロックしたり、速攻で不意を突いてプレインズウォーカーを落としたりできる能力にはいつも感謝している。
《発生の根本原理》で展開されたカードはお互いに参照するから気をつけよう。さて、戦場に土地6枚と《枝葉族のドルイド》1体が出ている状況で、《発生の根本原理》から土地2枚、《発現する浅瀬》、《乱動の座、オムナス》、《駆け回る物焦がし》がめくれたとするとどうなるか見てみよう。
このケースでは《裏切りの工作員》がめくれていない。最初はデッキの扱いに圧倒されてしまうかもしれないが、信じてほしい。使っていくうちにどんどん楽に扱えるようになる。このデッキを自在に操れるようになったとき、努力して良かったと思えるはずだ!
サイドボードガイド
現在のメタゲームにおける主要なマッチアップの完全サイドボードガイドをご用意した。それぞれの戦い方も簡単に解説する。サイドボードの入れ替えをまとめた表へのリンクはこちら。印刷していただいてもいいし、自身で使うために保存してもらっても構わない。
ルーカファイアーズ(《空を放浪するもの、ヨーリオン》):非常に相性がいい
vs. ルーカファイアーズ
中盤戦はややルーカファイアーズに分がある。お互いに大した妨害もしないため、5ターン目に《創案の火》、《銅纏いののけ者、ルーカ》、何らかのトークンを揃えられてしまうと、なす術はあまりない。しかし正直なところ、打ち消し呪文がないデッキの多くはこの動きに太刀打ちできないはずだ。
4ターン目に《創案の火》を置かれ、5ターン目に《銅纏いののけ者、ルーカ》を出されると、次に《空を放浪するもの、ヨーリオン》がマナコストを踏み倒しながら出てくる。そうなると、《裏切りの工作員》《銅纏いののけ者、ルーカ》《創案の火》が「明滅」され、それまでの展開で温存されたマナを使ってさらなるアクションをとられるのだ。
幸いにも、この動きはそう頻繁に起こるわけではない。相手のデッキは80枚であるし、3枚のパーツを見つけるのは簡単ではないからだ。5ターン目に「負け」なければ、終盤はこちらのものだ。先ほどの動画をご覧いただいたみなさんであれば、私の言うことがわかることだろう。
本当の勝負は、お互いにいくらか妨害を投入し合うサイドボード後から始まる。相手のメインプラン(《創案の火》)はこちらのターンに動くことができなくなるため、総合的に見れば我々が有利な状況だ。
可能ならば4~5ターン目の《創案の火》は必ず打ち消すべきだが、ゲーム後半になるとパワーを失い、こちらの《裏切りの工作員》や《発生の根本原理》が打ち消されないように力を貸してくれるほどだ。
《創案の火》が唱えられるたびに、それを本当に打ち消すべきなのかを考えてほしい。特に相手の手札が少ない場合は、《創案の火》を着地させ、2枚目の呪文を打ち消したほうがいいこともある。そうすれば、返しのターンを100%の力で動き、打ち消されたくなかったものすべてを安全に唱えられる。
バントヨーリオン:非常に相性がいい
vs. バントヨーリオン
バントを使うプレイヤーはこちらに対して「フェアなゲーム」を仕掛けてくる。彼らは呪文を唱えるためにマナを使い(と書くと変な感じがするが、最近では珍しい)、ルーカファイアーズのような明確なイージーウィン手段を持ち合わせていない。その一方で、彼らは代わりに打ち消し呪文を用いて対話してくるのだ。そのため、こちらの本命を相手のフルオープンしたマナに突っ込ませてはいけない。
このデッキは《発現する浅瀬》と《茨の騎兵》のおかげで、ゲームの後半にはより多くのマナと手札を手にすることができる。たとえ《裏切りの工作員》や《発生の根本原理》が手札にあったとしても、相手に打ち消されると思ったのなら「中程度の脅威」である《発現する浅瀬》や《乱動の座、オムナス》からプレイしていったほうがいいだろう。
こうすることで、あまりゲームに関係のないカードに打ち消し呪文を使うか、こちらの本命のために取っておいたマナを使わずに小さなバリューを許すかの2択を相手に迫れる。
《イルーナの神話》にとって最良のターゲットは《裏切りの工作員》と《エルズペス、死に打ち勝つ》(相手の《エルズペス、死に打ち勝つ》に対する解答になるため)であり、4ターン目に安全に解決できるのであれば、ときには《発現する浅瀬》を対象にすることもあるだろう。一度だけ《乱動の座、オムナス》をコピーしてゲームに勝ったこともあったが、《空の粉砕》を4枚擁しているデッキに対してはそうそうそんなことは起きないだろう。
ミラーマッチ:互角
vs. ミラーマッチ
ここで言うことはあまりない。ゲーム1はかなり運任せで、できるだけ早くマナを伸ばして《裏切りの工作員》か《出現の根本原理》を相手よりも先にプレイできることを期待するだけだ。
サイドボード後はお互いが打ち消し呪文をサイドインするため、ゲームが少し厄介になる。ゲームプランは変わらず、急いでマナを伸ばし強力な呪文を叩きつけることだが、1マナの《神秘の論争》に《出現の根本原理》を差し出さないよう気をつけよう。
たいてい、ゲーム中盤か後半にマナを多く有しているプレイヤーが勝つので、2ターン目の《成長のらせん》を《神秘の論争》したり、3ターン目の《自然の怒りのタイタン、ウーロ》に対して《霊気の疾風》をプレイすることを恐れてはいけない。序盤から相手のマナ加速に介入し、ゲームを優位に進めよう。
できるだけ多くの土地があったほうがいいとはいえ、このマッチアップでは《樹上の草食獣》はいいカードではない。0/3でかつエレメンタルでもないこのカードは無価値なので、代わりに《成長のらせん》《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《発現する浅瀬》《茨の騎兵》などで土地を伸ばそう(これらのカードはすべて解決時にカードを1枚もたらしてくれる)。《樹上の草食獣》を2枚引いて5ターン目に手札が1枚になることほど悪いことはない。
サイクリング(《夢の巣のルールス》):互角
vs. サイクリング
すべては《繁栄の狐》にかかっている。もし1ターン目に《繁栄の狐》が飛び出してきたら勝つのは難しいし、サイクリングデッキは安定しているので、このカードが育たないなんてことはまずありえない。たいていの場合、《繁栄の狐》で十分なダメージを与えられて、1発目の《天頂の閃光》で丸焦げにされるためどうすることもできない。逆に「1マナの《タルモゴイフ》」さえ出てこなければ、あまりに遅いので何の問題もなくゲームをコントロールすることができる。
《魂標ランタン》はこのマッチアップにもってこいのカードだ。メインの起動型能力のコストが0なので、本体の1マナさえ払って置いてしまえば、相手が《天頂の閃光》か《夢の巣のルールス》をプレイするまで待つことができるんだ。さらに、《発生の根本原理》で見つけられるのも嬉しいボーナスだ!
《厚かましい借り手》は、ゲームのどの段階でも《繁栄の狐》の解答になるため、「アンチサイクリング」として土壇場で加えた。基本的には2ターン目にバウンスせず(3ターン目と4ターン目にいいアクションがとれない場合だ!)、少なくとも5/5になるのを待ったほうがいい。対戦相手により多くのリソースを失ってもらおう!
《樹上の草食獣》も同様だ。2ターン目に3/3をチャンプブロックしてはいけない。長く待てば待つほどブロックしたときのダメージを防ぐことができる。ただし、《天頂の閃光》の射程圏内に入らぬようあまり待ちすぎないように気をつけよう。
ジェスカイファイアーズ(《巨智、ケルーガ》):非常に相性がいい
vs. ジェスカイファイアーズ
残念なことに、このデッキを見かける機会はほとんどなくなってしまった。一番の理由は相性の悪い《空を放浪するもの、ヨーリオン》デッキが環境に増えたことにある。《創案の火》のおかげで、彼らはあまりこちらに干渉してこないので、目指すべきゴールは素早くマナを伸ばして《裏切りの工作員》や《発生の根本原理》でゲームを終わらせることだ。
ここでひとつ重要な注意点がある。それは、《創案の火》はこちらにとって悪い状況を招くということだ。通常このデッキでは、ゲーム後半に3枚以上の呪文を唱えるのに十分な土地と手札がある場合が多いので、《裏切りの工作員》で相手の《創案の火》を盗むのは非常に危険なのである。対戦相手の《創案の火》をどうしても処理したいと感じていて、ほかに処理できる方法がない場合にのみ行うべきだろう。
赤単/ラクドス(《獲物貫き、オボシュ》):互角/相性がいい
vs. 赤単/ラクドス
すべては正しいマリガンにかかっている。「相棒」のおかげで対戦前にアグロデッキであると分かるので、それに応じてマリガンすることが重要だ。《樹上の草食獣》や《枝葉族のドルイド》を探してみよう。0/3のサイズに加えて土地を伸ばしてくれる彼らは、こちらがゲームを支配する前に攻めてくる「1マナの怒れる軍団」を止めるために必要な要員だ。この手のデッキに対して遅い手札を絶対にキープしてはいけない!
《獲物貫き、オボシュ》を除去する手段になるので、《イルーナの神話》を残す唯一のアグロ・マッチアップでもある(相手の《獲物貫き、オボシュ》をコピーして格闘するので、お互いに6ダメージを与えあう)。
《萎れ》をサイドインするのは、《魔女のかまど》と《紋章旗》があるラクドスとのマッチアップだけだ。赤単色の場合はサイドインせず、代わりに《駆け回る物焦がし》を残したままにしよう。3体のブロッカーは1マナの軍団に対してただただ優秀であり、ときにはサイズの大きい《鍛冶で鍛えられしアナックス》をブロックしてくれる(しかも、《獲物貫き、オボシュ》デッキには《エンバレスの宝剣》が入っていない)。
ティムール再生:非常に相性が悪い
vs. ティムール再生
正直に言おう。ティムールエレメンタルはティムール再生に対してまともに戦うことができない。相手には《荒野の再生》+《発展/発破》があるためゲーム終盤で有利に立たれ、打ち消し呪文によりこちらの脅威に対して多くの解答を有しているからだ。その一方で、こちらは相手の行動を止める術を持ち合わせていない。メタゲーム上にティムール再生が多いのであれば、このデッキは絶対におすすめできない。
幸いなことに、MFO Finalsを制したのはティムールクローバーであり、週末に最高のパフォーマンスを発揮したデッキは赤単オボシュだった(これらはティムール再生に対して非常に有利である)。
終礼
ティムールエレメンタルをまたプレイするのが本当に楽しみだ。つまるところ、非常に相性の悪いマッチアップがひとつあるだけなのは全然問題ないし、ティムール再生がスタンダードを支配するとは思っていない。あのデッキはほかに相性の悪いデッキが多すぎるからね。
何か質問があれば、いつものようにTwitterで聞いてくれ!喜んでお答えしよう。
では、よい1日を。