プロツアー『マジック・オリジン』直前!観戦ガイド・3日目編

高橋 純也




※画像は【mtg-jp】より引用させていただきました。



準々決勝  準決勝  決勝  優勝
1山本 賢太郎     
8Mike Sigrist 
    
4Stephen Berrios  
5Paul Jackson  
    
2Stephen Neal 
7Joel Larsson 
    
3Patrick Cox 
6Matthew Sperling  



日程 時間帯 フォーマット 放送ページ
8/3 (月)日曜25時~月曜11時トップ8 (スタンダード)放送ページ

※ドラフトラウンド終了後に1時間ほどの休憩時間があります。
※※表記時間はすべて日本時間です。



プロツアーについての説明や、初日の様子については【初日編】【2日目編】を参照して欲しい。




 それでは2日目のおさらいから見ていこう!



■ 【ドラフト】白熱する2ndドラフトと6-0プレイヤーに学ぶ”心得”


 2ndドラフトのフィーチャーポッドに選ばれたのは、初日全勝で好スタートを切った山本 賢太郎Rich Hoaenが競うファーストポッド。Joel Larson、Mike Sigrist、Timothee Simonotら強豪も座るテーブルで、一筋縄ではいかないピック展開が予想された。


Rich Hoaenの「赤黒緑コントロール」[動画時間 00:07~00:30]

(以下、動画時間は全て「時間:分」表記)


 初手の《衰滅》から《焦熱の衝動》を2枚ピックし、除去が満載の「赤黒」を目指していくHoaen。2パック目には《地震の精霊》と悪くないカードを手に入れるが、しかしその後の赤の流れが芳しくない。そこで3色目も視野に入れてか、緑のカードをピックして選択肢の幅を広げていく。


衰滅焦熱の衝動焦熱の衝動


 3パック目でも《アクロスの兵長》という貴重なクリーチャーを手に入れはするものの、2パック目から続く赤の流れの不調が止まらない。たまらず緑へと手を伸ばしてカードの枚数を確保するが、果たして最終的に組み上がったデッキはあまりいいデッキとは呼べないものだった。リミテッドマスターがこの窮地をどうしのぐのかが最大の注目ポイントだ。


山本 賢太郎の「赤白」[動画時間 00:32~00:54]


 一方、トップ8進出への期待がかかる山本に視点を移すと、初手は《ピア・ナラーとキラン・ナラー》という最高の赤いゴッドレアに恵まれる。続くピックも《焦熱の衝動》《ドラゴンの餌》と赤いカードを集めていくが、そこから赤いカードに巡り合えない。

 その後は《名誉ある教主》《霊気への抑留》《アンプリンの戦術家》と空いている色を探しながら慎重に手を進めていく。そして《空荒らしの巨人》《巡礼者の道の騎士》の2択が流れてきたところで、鋭く後者をピックして白に活路に見いだす。


ピア・ナラーとキラン・ナラー焦熱の衝動巡礼者の道の騎士


 2パック目では《焦熱の衝動》《戦乱の神託者》《ギラプールの歯車造り》とピックして「赤白」路線へと踏み出すことに決める。そして3パック目に山本に幸運が訪れた。なんと《ピア・ナラーとキラン・ナラー》の2枚目を手に入れたのだ!一気にデッキが強化された山本は、的確に赤と白のカードを集めて満足のいく「赤白」をドラフトすることに成功した。


名誉ある教主霊気への抑留アンプリンの戦術家


 だが、1パック目から簡単なドラフトだったかというとそうではなかった。《ピア・ナラーとキラン・ナラー》というレアには恵まれたものの、その後の赤の流れは不安定でしばらくは色さえも定まらなかったのだから。しかし、冷静に状況を見定めるため、手広く強力なカードを押さえて対応していったのは流石の一言だ。

 日和見とも思える手広いピックは、ときに成功から遠ざかることがある。なぜなら、他のプレイヤーがその一手で有力なカードをピックしているにもかかわらず、自分は数手を無駄にしてしまう可能性があるからだ。


◆ (参考資料) The 6-0 Drafters


 しかし、ドラフトラウンドを6勝0敗で切り抜けたMike Bryant曰く、この環境は”Stay open if you can”らしい。要するに、「できるだけ手広く構えろ」とのことである。明確な色のシグナルを受けるまでは慎重に、自分が取るべき戦略の可能性を必要以上に狭めてはいけないのだろう。まさに山本のピックでもみた光景だ。みなさんも『マジック・オリジン』ドラフトをするときに気をつけてみるといい結果が待っているかもしれない。




■ 【スタンダード】「赤単」の快進撃止まらず!迫るは「青赤<魂込め>」か?


 まずは恒例の2日目のメタゲームブレークダウンから見てみよう。


◆ (参考資料) Day two Standard Metagame Breakdown


 昨日に紹介したデッキ分布の2日目バージョンである。

 このデータで驚くべきは「青赤《アーティファクトの魂込め》」の初日通過率だろう。使用者33人中28人が通過と、84.85%の通過率を誇るこのデッキはいい立ち位置だったに違いない。使っているプレイヤーたちに強豪が多いことも通過率に影響はあるだろうが、それ以上にデッキのポテンシャルを感じさせる成績だ。

 最大勢力の「緑赤信心」「赤単アグロ」「アブザンコントロール」も順当に駒を進めているが、上の記事内でも指摘されているように、初日で最も活躍していたのは「アブザンアグロ」「青赤《アーティファクトの魂込め》」「赤単アグロ」といった攻撃的なデッキたちだった。特に「青赤《アーティファクトの魂込め》」と「赤単アグロ」は成績上位者にも多く、単なる初日突破率だけでなく、勝率も高いデッキだったことが窺える。


先頭に立つもの、アナフェンザアーティファクトの魂込め鐘突きのズルゴ


 2日目のスタンダードラウンドには、「青赤コントロール」「緑黒《悪魔の契約》」「青黒コントロール」のように様々なデッキが登場したが、予選終盤に近づくにつれて「赤単アグロ」は明らかに増えていった。どうやら【2日目の見どころ】で話したような「赤単」を脅かすデッキの登場はなかったらしい。

 はたしてTop8に3名も送り込んだように、「赤単アグロ」の快進撃は止まらなかった。だが、その快進撃の裏でChannel Fire ballとFace to Face gamesが制作した「青赤《アーティファクトの魂込め》」も着実に勝ち星を稼いでいたらしい。Mike SigristがTop8に入賞したリストがそれだ。Luis Scott-VergasやShaun McLarenが使用したものは《頑固な否認》が4枚採用されていたようだが、Sigristのリストでは3枚となっている。


◆ (参考資料) Top8 Decklists


 このデッキの魅力はなんといっても《アーティファクトの魂込め》《爆片破》だ。「赤単アグロ」が成功した要因でもある、序盤からの高いプレッシャーとライフを削り取る飛び道具に相当する2枚である。どちらもアーティファクトの枚数を求めるカードだが、その制限に沿ったデッキを構築する価値はある。

 これまでも《アーティファクトの魂込め》《爆片破》は環境に存在していたが、そのデッキを組むには周囲のカードが弱かったことが玉に瑕だった。しかし、《つむじ風のならず者》《搭載歩行機械》を『マジック・オリジン』で手に入れたことが一気にトップレベルまで引き上げたようだ。


爆片破つむじ風のならず者搭載歩行機械


 Top8には、「青赤《アーティファクトの魂込め》」が2人、「赤単アグロ」が3人と、似たコンセプトのデッキが5つも残っている。このままそれらが勝ち抜くのか。それとも山本 賢太郎の「アブザン大変異」を筆頭としたミッドレンジが王座を守るのか。3日目の決勝ラウンドから目が離せない。




■ 【観戦】フィーチャーマッチをプレイバック!


 ここでは2日目のフィーチャーテーブルを賑わせたマッチアップの数々を紹介する。動画の再生時間も付記するため、見逃した人、見返したい人はタイムシフトからご覧頂きたい。

◆ 【ドラフト】

・Rich Hoaen(赤黒緑) vs 山本 賢太郎(赤白)
[動画時間 01:09~01:39]

・Owen Turtenwald(青緑) vs Scott Markeson(緑黒)
[動画時間 02:14~02:30]

・山本 賢太郎(赤白) vs Joel Larsson(緑青)
[動画時間 02:36~02:40]

★Ben Stark(青単) vs Jesse Hampton(緑黒)
[動画時間 03:20~03:48]

・山本 賢太郎(赤白) vs Bryan Gottlieb(白青)
[動画時間 03:48~04:01]


◆ 【スタンダード】

★Raphael Lavy(緑赤信心) vs Antonio Del Moral Leon(黒緑《悪魔の契約》)
[動画時間 04:39~05:24]

・Samuel Black(赤単アグロ) vs Gerry Thompson(緑赤信心)
[動画時間 05:45~06:14]

・Joel Larsson(赤単アグロ) vs Peter Vieren(青黒コントロール)
[動画時間 06:15~06:19]

・Matt Sperling(アブザンコントロール) vs Shaun McLaren(アブザン《先祖の結集》)
[動画時間 06:19~06:32]

・Eric Floehlich(青赤《アーティファクトの魂込め》) vs Andrew Cuneo(青赤コントロール)
[動画時間 06:51~07:01]

★Samuel Black(赤単アグロ) vs Mike Flores(赤単アグロ)
[動画時間 07:05~07:22]

・Rich Hoaen(赤単アグロ) vs Matthew Sperling(アブザンコントロール)
[動画時間 07:54~08:20]

・Mike Sigrist(青赤《アーティファクトの魂込め》) vs Bryan Gottlieb(アブザン《先祖の結集》)
[動画時間 08:55~09:22]




■ 【観戦】Top8出揃う!山本 賢太郎が予選ラウンドを1位通過!


山本 賢太郎

※画像は【MAGIC: THE GATHERING】より引用させていただきました。


 初日を全勝した勢いのまま、13勝2敗1分で日本の山本 賢太郎が予選ラウンドを1位で通過した。決勝ラウンドは予選ラウンドの通過順位が上のプレイヤーに「先手後手決定権」が与えられるため、「青赤《アーティファクトの魂込め》」や「赤単アグロ」など先手番の優位が大きなデッキが大勢いる今大会での1位通過はとても大きなアドバンテージとなるだろう。

 山本がTop8に向けての抱負を語ったインタビューは[動画時間 09:26~]で見ることができる。やまけんファンは必見だ。



 その他の注目プレイヤーとして、準々決勝で山本の前に立ちはだかるMike Sigiristは、今シーズン【プロツアー『タルキール覇王譚』】でもトップ4に入賞している。「アブザンアグロ」の製作者として知られているプレイヤーで、今大会を優勝すればPOYに輝く。現POYレース1位のEric Floehlichが健闘したため、有力候補だったLee Shi-tian、Samuel Blackらの可能性が潰えるなかで、Sigristは最後の挑戦者となったのだ。Floehlichにすれば気が気ではないだろうが、観戦者の僕達にとっては気になるトピックの一つだ。


Mike Sigrist

※画像は【MAGIC: THE GATHERING】より引用させていただきました。


 また、Pat Cox、Matthew Sperling、Joel Larssonといったプロツアー常連の強豪もTop8入りしていることは忘れてはいけない。彼ら3人は山本の逆ブロックなので、決勝戦まで山本とのマッチアップは起こらないが、歴戦の強者らしくTop8というスポットライトに当たった特殊な状況でも的確なプレイを見せてくれることだろう。3人ともに魅力的なプレイヤーなので、是非最後まで彼らのゲームを見届けてほしい。




■ 【観戦】準々決勝のマッチアップを簡単に分析!


 ここでは準々決勝のマッチアップそれぞれの簡単な見どころを紹介していこうと思う。



◆1. 山本 賢太郎 (アブザン大変異) vs Mike Sigrist (青赤《アーティファクトの魂込め》)


 まずは日本からの注目度が最も高いこのマッチアップは、予選ラウンド1位通過の山本の先手でゲームが始まる。これは「青赤《アーティファクトの魂込め》」とのマッチアップにおいてはゲームの展開を大きく左右する。

 山本が繰る「アブザン大変異」は、3ターン目からがスタートともいうべきスロースターターなデッキである。そのため「青赤《アーティファクトの魂込め》」とのゲームでは、3ターン目以前にどれだけ「青赤《アーティファクトの魂込め》」に盤面を作られてしまうかが勝敗に直結するのだ。盤面を作られてしまっていると、そこから1ターンに1行動ずつカードを交換していったとしても、序盤に作られた優位だけ負けてしまう。だからこそ、序盤の優位が作られる可能性が少なくなる先手番は貴重なのだ。

 マッチアップ全体の有利不利については、メインボードはやや不利、サイドボード後はやや不利~五分で進行するだろう。「青赤《アーティファクトの魂込め》」のほうがターンが経過するに連れて弱いカード(《羽ばたき飛行機械》とか)が多いため、ゲームを遅らせることさえできれば山本に形勢は傾くはずだ。


頑固な否認飛行機械の諜報網


 ただ、《頑固な否認》やサイドボード後の《飛行機械の諜報網》がゲームを複雑にしてしまう。前者はゲームを加速させ、後者は「山本が遅らせれば勝利する」という前提さえもひっくり返す力を持っている。そのような搦手に付き合わずに《包囲サイ》と除去で押し切れれば山本の勝利は近い。

 「青赤《アーティファクトの魂込め》」はとてもピーキーなデッキなので、半ば自滅のようにゲームを終えることも度々ある。そのため、安定した動きをし続ける山本の「アブザン大変異」が相手の機能不全を見逃さずに咎められるかは、ひとつの見所に違いない。山本の幸運を祈る。



■2. Stephen Berrios (青赤《アーティファクトの魂込め》) vs Paul Jackson (緑赤信心)


 Channel Fireballs/Face to face games謹製ではない独自の形の「青赤《アーティファクトの魂込め》を持ち込んだStephan Berriosは、今大会きっての仮想敵だった「緑赤信心」と準決勝を戦う。

 マッチアップの有利不利は、基本的には終始Berriosの有利で進行するだろう。《アーティファクトの魂込め》《爆片破》が常にプレッシャーを与え、細かい飛行からのダメージの蓄積も「緑赤信心」にとっては悩みの種だ。

 Jacksonの勝機はずばり《龍王アタルカ》にある。「緑赤信心」なのだから当然ではあるのだが、そうとはいってもやはり《龍王アタルカ》だ。マナ加速から《囁きの森の精霊》を展開することにも価値はあるのだが、地上の戦力に依存しておらず、除去がとりわけ多いわけでもない「青赤《アーティファクトの魂込め》」相手にはさほどの効果はない。


龍王アタルカ世界を喰らう者、ポルクラノス


 必要なのは、でかくて相手に干渉するカードだ。要するに《龍王アタルカ》、もしくは《世界を喰らう者、ポルクラノス》である。先手4ターン目に着地してしまえば、そこは「緑赤信心」のフィールドだ。



■3. Stephen Neal (赤単アグロ) vs Joel Larsson (赤単アグロ)


 さあ今大会を通じて幾度も見てきたマッチアップだ。両者の違いは、《灼熱の血》《火飲みのサテュロス》《大歓楽の幻霊》などに見られる。全体的にJoel Larssonの方が軽く構成されていて、3ターン目の手数差がそのまま形勢に関わってくるならば優位に立てそうだ。

 だが、その手数の一端を担っている《火飲みのサテュロス》は同系のマッチアップでは引きたくないカードだ。理由はいわずもがなである。その代わりに《焦熱の衝動》《灼熱の血》といった有効なカードが増えているので、結果としてはそう悪くもないのかも知れないが、《火飲みのサテュロス》は明確にJoelに不利に働く。


火飲みのサテュロス灼熱の血


 予選ラウンドの結果、先手番を選ぶのはNealだ。おそらくメインボードは先手を選び、その分だけNealに軍配が上がるだろう。しかし、このマッチアップが面白くなるのはサイドボード後である。Nealは《雷破の執政》を加え、Joelは《サテュロスの火踊り》を手にするだろう。

 そしてそのサイド後に、彼らが果たして先手を取るのかどうかは興味深いトピックだ。

 一般的に「赤単アグロ」の同系はリソースの消耗戦である。お互いに「相手よりも早く倒せるまで妨害を続ける」ため、相手のクリーチャーが潰えるまで火力を撃ち続けるゲーム展開になる。そのため、消耗戦を見越して後手を取る戦略が古くからあるのだ。

 現スタンダード環境でも同様の戦略が取られるだろうか。興味は尽きない。お互いのサイドボーディングも含めて、「赤単アグロ」という単純なデッキにも関わらず見応えたっぷりの複雑なゲームを見ることができるだろう。



■4. Pat Cox (赤単アグロ) vs Matthew Sperling (アブザンコントロール)


 アメリカの有名人同士のマッチアップだ。どちらも今大会で大多数を占めたデッキタイプを使っている。マッチアップの有利不利を話すと、メインボードは先手であることも踏まえてPat Coxに大きなリードがある。しかし、サイドボード後からはその差がグッと縮むだろう。

 Sperlingの「アブザンコントロール」は、「緑赤信心」と同型戦を意識したメインボードとなっているため、「赤単アグロ」相手の性能が問われるのはサイドボード後だ。《羊毛鬣のライオン》を筆頭に11枚前後がサイドボードされるため、まるで違うデッキに生まれ変わるといっても過言ではない。


ファリカの療法羊毛鬣のライオン


 それに対してPat Coxは《ゴブリンの踵裂き》《焙り焼き》で対抗する。どちらも有効なカードではあるが、Sperlingが先手で始まる2ゲーム目などは先手後手差でやや不利に追い込まれるだろう。

 おそらくマッチの正念場は先手後手の行方がわからない3ゲーム目だ。基本的にメインサイドを問わず先手番が有利なマッチアップなので、もつれた3ゲーム目の先手番がどちらかはマッチの成績を左右するだろう。テニスでいうところの(先手を)ブレイクしたほうが勝ち上がるのではないだろうか。




 さて、以上のトピックがプロツアー『マジック・オリジン』3日日の観戦ガイドだ。

 絶好調のままTop8に残った山本 賢太郎にはこのまま優勝してほしいものだ。平日の午前中ということもあってライブで視聴することは難しいかもしれないが、是非あたたかい応援を送ってほしい。頑張れ、やまけん!


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