目覚めよ、『戦乱のゼンディカー』。
そう、世はまさに戦乱の時代へと突入した。
フェッチランドとバトルランドの共存によって実現した自在なマナベース。強力な楔の3色のカードたちと龍王、さらに変身するプレインズウォーカー。
今やスタンダードにおいて強靭なコンセプトは遍く存在する。
ならば強いデッキとそうでないデッキとを分けるものは何か?
決まっている。オリジナリティだ。
我々は対戦相手の予想を、R&Dの予測を、そして自らの限界をも超える。
想像せよ。創造せよ。
己の存在をデッキに込め、「ここにいるぞ」と叫ぶのだ。
■ 1. 妄想編
クソデッキ、ゴミからスタートする。
新セットの発売時期に注目すべきは、その新セットのカードだけに限られない。
今まで全く見向きもされてこなかった旧セットのカードが、突如として光り輝き、本来のカードパワーを発揮して活躍を始めることもあるのだ。
その一例として、特定のカードタイプを参照するカードがある。
たとえば「あなたがエンチャント・呪文を1つ唱えるたび」という一文が含まれているカードが存在したとするなら、そのカードの強さは環境に存在するプレイアブルなエンチャント呪文の数によって変動する。つまり、環境が広がれば広がるほど強くなるということだ。
この類のカードは収録されたエキスパンションの発売時には「プレイアブルな『参照するカードタイプのカード』が少ないから」といった理由でゴミ用ストレージへと行ってしまうのが常だが、新セットが発売し、そのカードが参照するカードタイプを持ったカードが増えると、一気に牙を剥いてくる。
つまり、そういうカードは言ってしまえばウィザーズが将来のエキスパンションに向けて蒔いた伏線なのである。
したがって、伏線がいつ回収されるのか、その回収タイミングを見極めることができれば、世界中を驚かせるようなデッキを誰よりも早く作り上げることも不可能ではないのだ。
そういうわけで、『戦乱のゼンディカー』が発売したとき、私が見ていたのは『戦乱のゼンディカー』のカードリストではなく、『タルキール覇王譚』『運命再編』『タルキール龍紀伝』『マジック・オリジン』といった既に発売したエキスパンションのカードリストだった。まさしくその伏線を探すためだ。
『戦乱のゼンディカー』は強大なエルドラージとの対決を物語の軸にしており、セット内にも大量のクソ重いカードが含まれている。
ならばきっとあるはずだ。このクソ重いカードたちをうまく活用する方法が。ウィザーズがあらかじめ用意しておいた伏線が。
キーワードは「7マナ以上のクリーチャー」……「マナコストを支払わずに場に出す方法」……「リアニメイト」……あるいは……
「無色」。はっ、まさか「アーティファクト」か!?
確かに《アーティファクトの魂込め》がスタンダードから去ったことでアーティファクトには誰も注目していない。だが、そこにこそ真の宝が眠っているとしたら……?
こうして私は辿り着いた。ウィザーズが張り巡らせた伏線の正体
《名高い武器職人》。
このカードこそスタンダードに蘇った《石鍛冶の神秘家》だ。
ライブラリーの中から2種のアーティファクトをサーチできるアドバンテージ源としての能力。さらにそれらアーティファクトのプレイをサポートするマナ能力。
だがここで私が着目したのは
今、スタンダードにおいては「なぜ《不屈の自然》がないのか」と嘆く声が少なくない。マナランプデッキは、2マナ域を《爪鳴らしの神秘家》や《荒野の囁く者》といった不安定なマナクリーチャーに頼らざるをえないことが構造的な欠陥となっている。
しかしこのカードはその1/3というボディーによって、《焦熱の衝動》《乱撃斬》で落ちないという頼もしさがある。しかもこのカードが出すマナは1マナではなく2マナ。つまり2マナ域にして《失われた業の巫師》と同等の加速力を持つのだ。
あとはこの加速を生かす強力なアーティファクトを探せばいい。
『戦乱のゼンディカー』のアーティファクトの中でも《面晶体の記録庫》は、《名高い武器職人》からのプレイ先に最適だ。またスタンダードを席巻する《搭載歩行機械》はマナを注げば注ぐほど大きくなるため無駄がない。
と、ここまで考えたところで私は気づいてしまった。ウィザーズが残していたもう1つの伏線の存在に。
これかぁ!!
11 《島》 2 《大草原の川》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《汚染された三角州》 3 《精霊龍の安息地》 -土地(24)- 4 《搭載歩行機械》 4 《名高い武器職人》 4 《龍王オジュタイ》 -クリーチャー(12)- |
4 《乱動の噴出》 4 《水の帳の分離》 2 《時間への侵入》 2 《龍火の薬瓶》 4 《オジュタイの碑》 4 《面晶体の記録庫》 4 《ウギンのきずな》 -呪文(24)- |
馬鹿な……デッキじゃないだと……?
数回一人回ししただけでこみ上げる不快感が「これじゃないよ」と告げていた。
『戦乱のゼンディカー』で加入した《水の帳の分離》によって環境に3種のタイムワープが共存することとなったという事実……さらにそれらを《龍王オジュタイ》で殴るたび探しだしてはプレイし、相手に何もさせずにフィニッシュという美しさ……これこそが符合と思ったが、余裕で気のせいだった。
ちなみにこのデッキの最大の問題点は、賢明な読者なら既にお気づきかもしれないが、「プレイヤーが追加ターンを始めるなら、代わりにそのプレイヤーはそのターンを飛ばす。」という一文を読み飛ばしていたせいで、《ウギンのきずな》を置くと自分がロックされて死ぬことにある。2個設置したら1個墓地に落ちてタイムワープすると思ったらしないのかよ!
こうしてゴミ未満1号は不発に終わったのだった。
次に私が着目したのは、土地だった。
『戦乱のゼンディカー』は近年稀に見るほどに土地が強いエキスパンションだ。しかしなかでも無色土地については、今でこそ【エルドラージランプ】が活躍しているものの、発売当初はほとんど注目されていなかった。
ところで私はかつてマナベースに無色土地しか採用しないデッキを組んだ経験があった (参照:【マグロ無色】) 。
それもあって、環境に大量に無色土地があるときには、デッキ構築のテンプレートとして、必ず無色単を作ると決めていたのだ。
そして、そこにきての『戦乱のゼンディカー』だ。《見捨てられた神々の神殿》《ウギンの聖域》《繁殖苗床》という強力な3種類の無色土地の加入。
さらにエルドラージという唯一無二のフィニッシャーも獲得した今、これはもはや再び無色単を作るしかない!!
4 《精霊龍の安息地》 4 《精霊龍の墓》 4 《魔道士輪の魔力網》 4 《繁殖苗床》 4 《領事の鋳造所》 4 《見捨てられた神々の神殿》 2 《ウギンの聖域》 -土地(26)- 4 《搭載歩行機械》 4 《爪鳴らしの神秘家》 4 《ウギンの構築物》 4 《コジレックの媒介者》 4 《破滅の伝導者》 2 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 -クリーチャー(22)- |
4 《タイタンの存在》 4 《面晶体の記録庫》 4 《精霊龍、ウギン》 -呪文(12)- |
そしてまたゴミが生まれた。
さすがに無色縛りだとろくな除去やマナブーストもなく、デッキ構築の限界を感じた。
《ウギンの構築物》《タイタンの存在》といった無色ならではの選択肢には光るものを感じなくもなかったが、結論としては「今はまだそのときではない」といった感触だった。
こうしてゴミ未満2号も解体を免れえなかった。
2つのゴミ未満の何かを作って思ったのは、何とかしてこれらの折衷案が作れないだろうかということだった。
ゴミ未満1号の失敗は《名高い武器職人》からのマナブーストの終着点をタイムワープに設定したことにある。この点ゴミ未満2号は《絶え間ない飢餓、ウラモグ》という明確なゴールがあったが、さすがに無色だけだと相手への干渉手段が限られるのが難点だった。
そこで、ゴミ未満1号と2号を合体させることにより、《名高い武器職人》の青をベースとし、除去の赤、マナ加速の緑をタッチで供給しつつ、さらに大量の無色土地を搭載する狂気の3色マナランプが完成するのではないか。そんな仮説を思いついたのだ。
だがはたして8枚以上の無色土地を積んだ3色デッキなど成立するのだろうか?もしそんなデッキがあったとしたら、序盤にプレイすべきスペルがプレイできず、死んでいくだけではないだろうか。
そう思った私はしかし、とにかく組めばわかると早速デッキを仮組みし……
3色マナランプを完成させる、ソリューションにたどり着いた。
ソリューション (10円)
そして出来たのがこれだ!!
4 《山》 3 《森》 1 《島》 4 《シヴの浅瀬》 4 《ヤヴィマヤの沿岸》 4 《魔道士輪の魔力網》 4 《見捨てられた神々の神殿》 -土地(24)- 4 《搭載歩行機械》 4 《名高い武器職人》 4 《爪鳴らしの神秘家》 4 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 -クリーチャー(16)- |
4 《焦熱の衝動》 4 《軽蔑的な一撃》 4 《ニッサの復興》 4 《ティムールの戦旗》 4 《面晶体の記録庫》 -呪文(20)- |
どこからどう見ても腐臭が漂っているが、2つのゴミ未満を経てようやく、今回のクソデッキのコンセプトが見えてきた。
つまり、「《名高い武器職人》→《面晶体の記録庫》+《ティムールの戦旗》」という美しすぎる三連星である。
あとは適当に《ニッサの復興》でも打てば《絶え間ない飢餓、ウラモグ》までひとっ飛びだろう。
そう、ゴミ未満たちは無駄ではなかった。全ては、このゴミに辿り着くための伏線だったのだ。
そして伏線とは回収されるためにある。
すなわち、このコンセプトを練り上げて最強のティムールランプを作る!
■ 2. 爆誕編
クソデッキ、ゴミから出来上がる。
幾多の失敗を経て、ようやく導き出されたコンセプト。
ゴミとゴミとの掛け算から生まれた新たなるゴミ。
お見せしよう。これこそがTNG……
3 《森》 3 《山》 1 《島》 3 《開拓地の野営地》 4 《シヴの浅瀬》 1 《ヤヴィマヤの沿岸》 1 《伐採地の滝》 3 《精霊龍の安息地》 4 《魔道士輪の魔力網》 1 《見捨てられた神々の神殿》 1 《ウギンの聖域》 1 《荒廃した瀑布》 -土地(26)- 3 《搭載歩行機械》 2 《龍王アタルカ》 2 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 -クリーチャー(7)- |
4 《焦熱の衝動》 3 《払拭》 1 《火口の爪》 2 《龍詞の咆哮》 2 《軽蔑的な一撃》 1 《予期》 2 《ニッサの復興》 1 《彼方より》 4 《ティムールの戦旗》 3 《面晶体の記録庫》 2 《揺るぎないサルカン》 2 《精霊龍、ウギン》 -呪文(27)- |
2 《僧院の群れ》 2 《乱撃斬》 2 《光輝の炎》 2 《飛行機械の諜報網》 1 《巨森の予見者、ニッサ》 1 《龍王シルムガル》 1 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 1 《払拭》 1 《焙り焼き》 1 《否認》 1 《宝船の巡航》 -サイドボード(15)- |
ありがとう武器職人、君のことは忘れないよ。
コンセプトという話だった「《名高い武器職人》→《面晶体の記録庫》+《ティムールの戦旗》」だが、実は《名高い武器職人》がいない方が強いことに気づいてしまったのが終わりの始まりだった。
ていうか冷静に考えて《絶え間ない飢餓、ウラモグ》や《精霊龍、ウギン》のマナコストの支払いができない時点で、引いたらマリガンと同義である。【星になったマンドリル】と違って二度とデッキに戻ってこなくていい弱さであった。
「ゴミ」から進化した点としては、やはり《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を必要最低限に抑えたのと、《揺るぎないサルカン》を採用した部分だろう。
前者は4枚入れてしまうとすぐ初手に来て自己主張を始めるので、健全なマジックを楽しみたいなら2枚程度が無難だ。一応《彼方より》が3枚目の役割も担っている。
後者については、トークンを出すと《はじける破滅》で一瞬ではじけることに定評がある情けないプレインズウォーカーだが、毎ターン「+1」で使う分にはリソースが増えてなかなか強いので、実はこのカードこそ『タルキール龍紀伝』に込められた伏線だった……と言えるかもしれない。
ほか、サイドボードには見慣れないカードがたくさん並んでいるが、対戦相手を憤死させるというコンセプトでカードをチョイスしてみた。特に相手が《棲み家の防御者》だと思って変異に火力を打って《僧院の群れ》だったりするとかなり煽り値が高い。
ちなみにこのデッキは《コラガンの命令》を打たれると自分が憤死するので気を付けよう。
ゴミ未満、ゴミとレベルアップしていったデッキはついにクソデッキとなった。
あとはこの「Temur New Generation」で結果を残すのみ!!
■ 3. 実戦編
クソデッキ、MOPTQに出場する。
ラウンド | 対戦デッキ | 勝敗 |
Round 1 | 緑白大変異 | 〇〇 |
Round 2 | アブザンアグロ | ×× |
Round 3 | 緑タッチ赤エルドラージランプ | ×〇〇 |
Round 4 | アブザンアグロ | ×× |
Round 5 | 緑白大変異 | 〇〇 |
Round 6 | アタルカレッド | ×× |
Round 7 | エスパーコン | 〇×〇 |
・ハイライト
◆第2回戦 VS アブザンアグロ
《先頭に立つもの、アナフェンザ》を横に倒されてるだけで敗北。
◆第4回戦 VS アブザンアグロ
《先頭に立つもの、アナフェンザ》を横に倒されてるだけで敗北。
結果:4-3。
■ 4. 後悔してない編
クソデッキ、結構気に入る。
あれ?と思うかもしれないが、今回私は何と特に後悔していない。アブザンアグロに当たったときのことを何も考えていなかったために残念ながら結果はふるわなかったものの、むしろデッキの感触はかなり良かった。
というのも、このデッキでスタンダードDEでは3-1、MOPTQ予選では4-1と、そこそこの成績は残せているからだ。
後悔しているとすれば特にGP神戸に出るわけでもないのに勢い余ってリアルのカードを全部揃えてしまったことくらいである。もしかしたら近いうちにこのデッキで晴れる屋の平日スタンダードに出る私の姿が見られるかもしれないが、そのときは《コラガンの命令》だけはやめていただきたい。憤死します。
最後に一応真面目なデッキ解説もしておくと、まずこのデッキはダークジェスカイを強烈に意識している。ランプデッキがダークジェスカイに勝つためには、《カマキリの乗り手》を除去できることが必要条件だ。《龍詞の咆哮》はほとんどそのためだけに入っていると言っていい。《火口の爪》はその3枚目だが、同時にフィニッシャー枠も兼ねている。サイドボードの《僧院の群れ》も、《雷破の執政》対策を兼ねた《カマキリの乗り手》対策となっている。
またメインの《払拭》は、ダークジェスカイ/アタルカレッドという2大メタデッキの両方に極めて有効であることが採用理由だ。腐りやすいことはデメリットではあるが、ダークジェスカイがトップメタである以上はメリットの方が上回っていると考えられる。ただ、これから《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が増えるようなら、《軽蔑的な一撃》を増やしてもいいかもしれない。
デッキの構造的には、意図的にビッグアクション部分を減らしてマナフラッドしやすいようになっている。ビッグアクションを引きすぎると何もできないが、マナが多い分には、余ったマナをドローに変換すればいつかはビッグアクションにたどり着くことがその理由だ。そのため、土地も《精霊龍の安息地》や《荒廃した瀑布》《ウギンの聖域》を採用するなど、後半は土地をどんどんスペルに変換できるようにしてフラッド時のリスクを緩和している。
さて、「クソデッキを作る」という目的でスタートした今回の調整だったが、できたのは意外にまともなデッキだった。もしかしたら《名高い武器職人》と《ウギンのきずな》を諦めなければあるいはまた別のクソデッキができたのかもしれないが……正直に言おう、私のMO資産に甚大な損害を与える予感しかしないので手は出さないでおく。
とりあえず、私は『戦乱のゼンディカー』環境が終わるまでこの「Temur New Generation」を使い続けるつもりだ。
ギリギリだが【足跡】も残せたことだし、Travis Wooはこの程度のデッキには見向きもしないだろうが、最近徐々に「__matsugan」アカウントのファンになりつつあるGerry Thompsonが (拾ってくれるかはわからないが) これを何と評するかが楽しみだ。
また次回!
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