3年計画の終わり -GPラスベガス2017レポート-

原根 健太

ここまでの経緯

3年でレベルプロになる。

マジックを始めた頃に打ち立てた「3年計画」もいよいよ大詰めとなった今シーズン。グランプリ・京都2016のトップ4入賞を契機にコツコツとポイントを積み上げていき、プロツアー『アモンケット』地域予選を突破したことで、その達成は現実的なものとなりつつありました。

開催日 大会名 成績 獲得PP 累計PP
(2016) 8/27-28グランプリ・広州201611-42点2点
9/10-11グランプリ・京都201612-24点6点
10/22-23グランプリ・クアラルンプール201610-51点7点
11/26-27グランプリ・千葉201610-4-11点8点
(2017) 2/4-6プロツアー『霊気紛争』9-74点12点
2/26プロツアー『アモンケット』地域予選権利獲得

シルバーレベル到達に必要なプロポイントは20点。プロツアー『アモンケット』の参加点 (※1) を含めると2月末時点で15点のポイントが確定しており、残り5か月で追加の5点を獲得すれば良い状態。グランプリキャップ (※2) にも余裕があり、内心達成は手堅いと感じていました。

※1 プロツアーの参加点……プロツアーは参加するだけで最低3点のプロポイントが付与され、9勝7敗以上の成績で加点が発生していく。
※2 グランプリキャップ……シーズン中グランプリで獲得できるプロポイントは6大会に限られており、それを上回る数の出場が行われた場合は成績の良かった上位6大会のポイントのみが加算される。

開催日 大会名 成績 獲得PP 累計PP
3/11-12グランプリ・バルセロナ201710-51点13点
3/18-19グランプリ・静岡2017春11-42点15点

3月は2つのスタンダード・グランプリに参加。

プロツアー『アモンケット』地域予選時の相棒だった「4色サヒーリ」を引き続き使用することができたため、理解度の面でも期待値は高いと考えていましたが、結果は奮わず3点の加算のみ。合計プロポイントは18点確定にまで迫ったものの、キャップが埋まってしまった関係で追加のポイントを得るためのボーダーが設定されてしまいました。これ以降、グランプリでは11勝4敗、プロツアーでは9勝7敗以上の成績でなければポイントの加算が行われません。

そしてこの状況が、今後のトーナメントに臨む心境に多大な影響を与えていくこととなります。

開催日 大会名 成績 獲得PP 累計PP
5/6-7グランプリ・北京201710-51点15点 (更新なし)
5/12-14プロツアー『アモンケット』8-83点18点
5/27-28グランプリ・神戸201711-42点19点 (1点更新)
6/3-4グランプリ・マニラ20176-51点19点 (更新なし)
6/11プロツアー『破滅の刻』地域予選最終戦敗退

5月~6月前半は4つのプレミアイベントに出場しますが、プロツアー参加の確定分を除く加点は1点のみ。成長を目的とし、無我夢中で前進を続けるうちは挑戦の全てが楽しみで仕方ありませんでしたが、目標が具体化されたことで、常時結果を求められることに対してプレッシャーを感じ始めていました。

マジックを始めて以来、これほどこのゲームを辛いと感じたことはありません。イベントのたび、またその進行中、「ここで負けたらどうしよう」「もうこれ以上負けられない」と心の内が不安や焦燥感に支配され、これまで抱いていた期待や高揚感の類いは全くなくなっていたのです。

グランプリ・マニラではその息苦しさがピークに達し、「これ以上対戦を続けたくない」と苦渋のドロップ。グランプリをドロップしたのはこれまでで初めての出来事でした。

そして帰国後に参加したプロツアー『破滅の刻』地域予選では、「ここを勝てばプロツアー権利獲得+プロツアー参加点でシルバーレベル達成」という最後の1戦を敗北

内容的にも己の未熟さを顕著に表す結果であったためにこれは相当に堪え、連日の苦難に「今後本当にこの生活を続けていけるのか」を真剣に考え出すほど追い詰められました。そして思えばこの最終戦でも、「ここを勝てばプロツアー、シルバーレベル」というポジティブな気持ちよりも、敗北することによって失われる機会に恐怖する気持ちが勝っていたのです。

追い続けた目標はいつしか僕自身を追い回す脅威に姿を変え、楽しみを奪い去っていました。目指し続けた今だったはずなのに、マジックが好きで仕方なかったはずなのに。好きだったものが苦しみに変わる。これ以上の不幸があるでしょうか。

僕にとって最も幸福で、最も愛せるマジックとは何なのか。いつしか、そんなことばかり考えるようになっていました。

しかしながらそんな思いに時間は付き合ってくれず、タイムリミットは着々と迫ってきます。

プロポイントのシーズン集計は7月末に行われるため、残された時間もわずかなもの。なかなか踏んぎりがつかず燻っていましたが、この間たくさんの方々から叱咤激励をいただき、その中でも最も心に響いた「やらない後悔は一生残る」の言葉に突き動かされ、グランプリ・ラスベガスへの参加を決心しました。

グランプリ・ラスベガス2017

グランプリ・ラスベガス2017は、3つのグランプリが連日開催される異例のビッグイベントです。うち1つは残り2つに重なるようにスケジュールされていますが、レガシー・モダンの2フォーマットであれば双方への参加が可能となります。

最も多くのチャンスを手にするため、この2フォーマットに参戦。

レガシー (6/15-16)

レガシーをプレイするのはグランプリ・千葉2016以来。それ以降レガシーフォーマットではReid Dukeの放った《真の名の宿敵》4枚入りのスゥルタイコントロールが隆盛したり《師範の占い独楽》が禁止になったりといくらか大きな動きがあり、ブランクの影響は少なくなさそうでした。

その上で練習時間もあまり多くは確保できないため、極力プレイが簡単なデッキをという思いから「URデルバー」を選択。


原根 健太「URデルバー」
グランプリ・ラスベガス2017 (レガシー)

2 《島》
2 《山》
3 《Volcanic Island》
4 《沸騰する小湖》
3 《汚染された三角州》
2 《血染めのぬかるみ》

-土地 (16)-

4 《秘密を掘り下げる者》
4 《僧院の速槍》
3 《嵐追いの魔道士》
1 《瞬唱の魔道士》
2 《真の名の宿敵》

-クリーチャー (14)-
4 《ギタクシア派の調査》
4 《渦まく知識》
4 《思案》
4 《稲妻》
4 《稲妻の連鎖》
4 《目くらまし》
2 《発展の代価》
4 《意志の力》

-呪文 (30)-
2 《外科的摘出》
2 《紅蓮破》
2 《狼狽の嵐》
2 《粉々》
2 《発展の代価》
2 《血染めの月》
1 《渋面の溶岩使い》
1 《騒乱の歓楽者》
1 《猛火の斉射》

-サイドボード (15)-
hareruya

デルバーデッキの中でもライフを攻めることに特化したこのデッキは、プレイング指針に一貫性があってブレが発生しづらく、2色デッキゆえ基本地形を活用しやすいので、《不毛の大地》《血染めの月》のケアも簡単、目の前のプレイに集中しやすいのが特徴です。「ちょっとテクニカルなバーン」のイメージですね。

ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 1BYE
Round 2BYE
Round 3赤黒リアニメイト ××
Round 4白単エルドラージ&タックス 〇〇
Round 5赤単ストンピィ 〇〇
Round 6エルドラージストンピィ ×〇〇
Round 7青白石鍛冶 〇〇
Round 8土地単 〇×〇
Round 9グリクシスデルバー 〇〇

BYE明けに相性の悪い赤黒リアニメイトにコテンパンにされたり、その後も苦手な《虚空の杯》デッキと3連戦するなど雲行きの怪しい展開が続きましたが、《発展の代価》《粉々》が終始活躍し続けて6連勝。初日を8-1の好成績で終えることができました。

ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 10グリクシスコントロール ×〇〇
Round 11マーフォーク 〇〇

2日目は開幕2戦を連勝し、ここまで1敗をキープ。目標とする11勝まであと1勝と迫っただけでなく、トップ8さえ見えるラインです。

しかしここで顔を見せたのが…

ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 12グリクシスコントロール
(Lukas Blohon)
 〇××

ルーカス・ブローン。必死に食らいつきましたが、鉄壁のプレイの前にあえなく撃沈。

あまりの強さに高橋 (優太) さんに「あの男、上手すぎませんか?」と尋ねたところ、「ヤソクラス。間違いなく世界でも5本指に入る。マジッククリア済みで、2周目みたいなもん」とのことでした。

ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 13土地単 ×〇×
Round 14エルフ ×〇×

その後の2戦も良いゲームにはなるものの、あと一手が足りずに惜敗。果敢1回分の差で負けるゲームが2回もあり、非常に悔しい思いをしました。

あれよあれよと3連敗し、10勝4敗の土俵際。ここまで来てまたダメなのかと、込み上げる焦りと恐怖に内心気が気ではありませんでした。

ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 15グリクシスデルバー 〇×〇

幸い、最終戦の相手は相性の良いグリクシスデルバー。2ゲーム目に1枚しかなかった土地を《もみ消し》されて血の気が引きましたが、3ゲーム目を何とか取り返して最終結果は無事11勝4敗に。

開催日 大会名 成績 獲得PP 累計PP
6/15-16グランプリ・ラスベガス2017 (レガシー)11-42点20点 (1点更新)

プロポイント2点を獲得し、キャップを更新して20点に到達。ついにシルバーレベルの目標を達成することができました。

この瞬間を迎えるまでずっと緊迫状態が続いていて、前日の夜もまともに眠れずに深夜に3度目覚めて3度とも翌日の対戦風景を夢に見るなど、本当に余裕がありませんでした。

この日ぐらいは喜びを噛みしめようと会場近くのステーキハウスで贅沢を。グランプリでトップ4に入ったり地域予選を勝ったり、シーズン前半は喜ばしいことの方が多くありましたが、最近はそのことをほとんど覚えておらず、シーズン後半の苦しかった時期のことばかりが頭の中を占めていました。

ようやくそうしたものから解放されたことで肩の荷が消え、久方ぶりに覚えた安堵感で夜を熟睡。翌朝は嘘のように身体が軽くなりました。

モダン (6/17-18)

デッキは「アブザンジャンク」を使用。


原根 健太「アブザンジャンク」
グランプリ・ラスベガス2017 (モダン)

1 《森》
1 《平地》
1 《沼》
1 《神無き祭殿》
1 《草むした墓》
1 《寺院の庭》
4 《新緑の地下墓地》
3 《湿地の干潟》
2 《吹きさらしの荒野》
4 《花盛りの湿地》
2 《乱脈な気孔》
1 《活発な野生林》

-土地 (22)-

3 《貴族の教主》
3 《残忍な剥ぎ取り》
4 《タルモゴイフ》
2 《漁る軟泥》
2 《包囲サイ》

-クリーチャー (14)-
3 《致命的な一押し》
3 《流刑への道》
3 《思考囲い》
3 《コジレックの審問》
2 《突然の衰微》
4 《未練ある魂》
1 《大渦の脈動》
1 《虚無の呪文爆弾》
3 《ヴェールのリリアナ》
1 《最後の望み、リリアナ》

-呪文 (24)-
3 《大爆発の魔道士》
3 《集団的蛮行》
2 《外科的摘出》
2 《鞭打つ触手》
2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
1 《思考囲い》
1 《大渦の脈動》
1 《虚無の呪文爆弾》

-サイドボード (15)-
hareruya

ラスベガスに向けての全練習時間はブランクのあるレガシーに割き、モダンはグランプリ・神戸の経験値で戦うことを決めていました。

アブザンはフェアデッキ同士の対戦にすこぶる強く、逆にコンボデッキの多くを苦手とするデッキです。とはいえグランプリで13ラウンド (2BYE込み) をこなせばそうしたコンボデッキとも何度か遭遇せざるをえないので、体感4敗ぐらいが期待値だと感じます。神戸でも11勝4敗の成績を記録しており、当時の手応えから、プロポイント2点を目指す上では安定感のある良いデッキだと出発前は感じていました。

既に目標を達成してしまった現在の状況にはマッチしませんが、それは嬉しい誤算ですので気にしないことにしました。

ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 1BYE
Round 2BYE
Round 3エターナルブルー 〇〇
Round 4グリクシスシャドウ 〇〇
Round 5タイタンシフト ××
Round 6ナヤブリッツ 〇〇
Round 7親和 〇〇
Round 8《献身のドルイド》コンボ入りナイトフォール ××
Round 9バーン ×〇〇

初日は7-2と期待値どおりのスコア。結果も非常にわかりやすいもので、内容自体もストレート勝ち4回・ストレート負け2回と極端なものでした。

ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 10ジェスカイコントロール 〇〇
Round 11グリクシスシャドウ
(Seth Manfield)
 ×〇〇
Round 12青白コントロール 〇×〇
Round 13グリクシスシャドウ ×〇〇
Round 14グリクシスシャドウ 〇〇
Round 15バーン 〇×〇

そして2日目。なんと望外の6連勝で最終結果は13勝2敗。怒涛のフェアデッキ6連戦で、苦手なアンフェアデッキには一切遭遇しない上振れを発揮。上位卓に得意な「グリクシスシャドウ」が多く残ってくれていたのが追い風となりました。

あわやトップ8というラインまで漕ぎ着けましたが、オポネントが足りず10位止まり。トップ8の面々は全員初日を8-1以上で終えていたので、参加人数の多いグランプリのトップ8には初日1敗が必須条件ですね。

開催日 大会名 成績 獲得PP 累計PP
6/17-18グランプリ・ラスベガス2017 (モダン)13-24点23点 (3点更新)

とはいえ13勝2敗の成績にはプロツアー権利が発生しますので…

プロツアー『破滅の刻』 ……2016-2017シーズンのシルバーレベル権利
プロツアー『イクサラン』 ……GPラスベガス (モダン) 39ポイント
プロツアー『イクサランの相克』……2017-2018シーズンのシルバーレベル権利

といった具合で、この先3つのプロツアー権利が確定。出発前は全く気乗りしなかった今回の遠征ですが、終わってみれば大収穫の結果となりました。

もうひとつの収穫

そして収穫という面ではもうひとつ、大きな成果がありました。それは精神的な成長、ひいてはマジックに対する考え方です。

前日のレガシーグランプリで目標を達成できていたことから、このモダングランプリには非常にリラックスした気持ちで臨めており、自分でも信じられないぐらい落ち着いてプレイできていました。そのことはプレイにも反映され、ミスもほとんどなく、試合後ギャラリーや対戦相手から「良いプレイだった」と話しかけられるなど、喜ばしい経験もしています。

この日に至るまでの大会はとにかく「勝たなければ」の精神でゲームをプレイしており、これには多大な苦しみが伴っていて、それこそ今後が脅かされるレベルでもありました。

一方、この日は前日の達成感から「負けてもいい」ぐらいの気持ちでプレイしており、当初自分ではこれを怠惰だと自嘲していたのですが、不利なデッキとのマッチアップや事故でゲームを落とすことにも下手に気落ちすることなく、健全な状態で次のラウンドに臨むことができていたことに気が付きます。

つまり無意識的に、ごく自然に前向きな気持ちを形成できていたのです。

それは、ダメなものはダメ、でもその代わりにベストを尽くす。その上でなら「負けてもいい」、という気持ちです。勝利を目指す上で敗北は最悪の結果ですが、その結果をポジティブに受け入れることができれば、あらゆる結末にも楽しみを見出すことができます。

敗北の恐怖が取り除かれたその先には、真に楽しいマジックが待っていたのです。

奇しくも、2日目を5連勝し最終戦に臨む様子は初めてのグランプリだった静岡と同じもの。

当時は燃え滾るモチベーションと高揚感の中、一つ一つの大勝負を純粋に楽しんでいました。最後の握手も、妙に清々しいものであったことを覚えています。

僕が愛して止まなかったのはそうした瞬間の一つ一つにあり、「最高の舞台で最高のゲームをすること」こそが、夢への入り口を前に見据えたゴールであったことを思い出したのです。

ちょうど僕がマジックを始めようと考えていた頃、プロツアーシーンで目覚ましい活躍を遂げていた市川ユウキプロの影響を強く受けた格好で、いつか自分もあの舞台で立派に戦ってみたいと強い憧れを抱きました。

それを叶えてくれる舞台こそがプロツアーでありマジックであり、僕が魅せられたものたちでした。

手段に追われ、目的を見失い、危うく何もかもを失いかけましたが、焦ってもいい結果が訪れないことは、この一年で身をもって知りました。自分が夢の器に足りえるのであれば、その瞬間はこの先きっと訪れることでしょう。

大事なのはマジックをプレイし続けること、好きであり続けること、決して苦しみや絶望の中でプレイしないこと

マジックは二十数年経ってなおここにあり続け、諦めることさえしなければ機会もまた存在し続けますからね。悩み苦しんだ半年間でしたが、ここでの体験や気付きは財産となり、この先の僕のマジックを支えていくことでしょう。

レベルプロを追い求める活動は、これで一区切りを迎えました。この後は3度のプロツアーを経て、これを維持することができるか、はたまたその先へ進むことができるのか。また新しい挑戦が始まります。

最後に、Twitterやニコニコ生放送でたくさんの祝福のコメントをいただきました。遠く離れたアメリカの地でひっそり目標達成を迎えたわけですが、なんだか肩を叩かれているような気持になれてとても嬉しかったです。

応援ありがとうございました。そして今後も引き続きよろしくお願いします。

原根

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