(某国民的アニメの節で) はぁ゛ぁ゛い!呪禁オーラぁ゛!
というわけで (どんなわけだ) 今日はモダン環境における「呪禁オーラ」 (白緑オーラ) について、ある程度触ったので一歩進んだ解説を行おうと思う。
デッキの基本的な動きはモダンデッキ案内を参照してもらうとして、ここではなぜ今「呪禁オーラ」という発想に至ったのか?という点を中心としたモダンにおけるデッキ選択の一般論と、それを踏まえた調整過程をお届けしたい。
1. モダンにおけるデッキ選択とは
モダンというのは、潮目を見る環境だと思っている。
なぜなら、モダンにはレガシーにおける《意志の力》のような万能の妨害がない。その代わり、「手札破壊」「クリーチャー除去」「墓地対策」「マナベース対策」といったリソースごとの対策が用意されているので、「対策する側」のデッキは時機に応じてどのリソースを対策するかを選択し、「対策される側」は対策されていないリソースを使ったデッキを持ち込むことでそれをかいくぐる、というメタゲームが発生する。
なのでモダンというフォーマットにおいて適切なデッキ選択を行うには、「対策する側」と「対策される側」のどちらに回るかも含めて、目まぐるしく変わる環境全体の意識の流れを把握しておく必要がある。
だがその意識の流れとは、具体的にどのような要素によって判別できるのだろうか?
ここで、「インタラクション」という概念を導入したい。原義としては「相互作用」だが、マジックの言葉としては違った意味にも用いられる。それは、対戦相手の行動に対する介入・干渉・妨害といったニュアンスだ。
モダンというのは極めて決着が早い環境であり、先手を取った対戦相手の動きに干渉できなければ、3ターン目にして勝負の趨勢が決することも珍しくない (《献身のドルイド》《療治の侍臣》コンボを想起されたし)。だがたとえば仮に2ターン目に《献身のドルイド》を出されても、返しのターンで《思考囲い》を撃ったり《稲妻》で除去したり《翻弄する魔道士》で《召喚の調べ》を指定するなどの「インタラクション」を挟むことで、相手のやりたいこと (コンセプト) の実現を妨げることができる。
さてここで、私が純粋なオールインデッキである「エターナル・デボーテ」を作ってわかったことは、現在のモダン環境はかなり「インタラクション」に寄っているということだった。
「エターナル・デボーテ」は自分が相手の妨害をしない代わり、手札破壊、クリーチャー除去、墓地破壊、土地破壊、スペルのプレイ制限や起動型能力の制限など、ありとあらゆる「インタラクション」に引っかかるコンボデッキである。オールイン同型では最速クラスの速度を持つ「エターナル・デボーテ」がモダン環境で勝てないということは、ゲーム中に挟まれる「インタラクション」の回数が平均して多いということを意味している。
どういうことかといと、「1ゲーム中の平均インタラクション回数」という横軸の線分を想定し、感覚的な平均インタラクション回数をもとに試しにモダンのデッキをそこにいくつか放り込んでみたとき、平均インタラクション回数が2以上のデッキが環境で多数を占めているというイメージだ。
最近では、《難題の予見者》を擁するエルドラージトロンや《スレイベンの守護者、サリア》《翻弄する魔道士》《帆凧の掠め盗り》を用いる5色人間、《潮の虚ろの漕ぎ手》を使うエルドラージ&タックス、《呪文捕らえ》があるジェスカイテンポのように、「インタラクション」と平均以上のスタッツを兼ね備えたクリーチャーたちを搭載した「インタラクション・アグロ」が環境の主役となってきている。
この背景には、RPTQ東京のメタゲームブレークダウンでも語ったように、 モダン環境のデッキがあまりに多種多様であるため、手札破壊とスペル妨害というほぼすべてのデッキに対して機能する手広い「インタラクション」が重宝されているというのがあるだろう。
しかしこのような環境に対して、どのようなデッキを選択すべきなのだろうか?
私は宗教上の理由で「インタラクション」が少ないデッキを好んでいるので、欲を言えばオールインデッキを使いたい。しかしこうも環境の「インタラクション」が多いと、オールインで勝ち越せる自信はない。
「インタラクション」に強いオールインはないものか……?
そう考えたとき、思いついたのが親和「呪禁オーラ」だった。
2. 「呪禁オーラ」という選択 -「インタラクション」過多環境へのアンチテーゼ-
1 《平地》
3 《寺院の庭》
1 《ドライアドの東屋》
4 《吹きさらしの荒野》
2 《樹木茂る山麓》
4 《剃刀境の茂み》
4 《地平線の梢》
-土地(20)- 4 《ぬめるボーグル》
4 《林間隠れの斥候》
3 《コーの精霊の踊り手》
-クリーチャー(11)-
「呪禁オーラ」の良い部分としては、まずもってデッキが安いという点が挙げられるだろう。
値段が一番高いカードは《地平線の梢》で、それすらも『アイコニックマスターズ』で再録されている。《夜明けの宝冠》も『モダンマスターズ 2015年版』で再録されており、モダンの中でも金銭的にはかなり組みやすいデッキなのは間違いない。
だが何より最も魅力的なのは、モダンで最もお手軽な「インタラクション」である「除去スペルが効かない」という点だ。
《致命的な一押し》、《流刑への道》、《稲妻》……せっかくこちらが出したクリーチャーをわずか1マナで得意気に屠ってくる、モダン環境でありふれた除去スペルたちが、このデッキに対しては紙クズ同然となる。もちろんプレイできない以上相手が何を何枚持っていたか明らかになることはないが、確実に手札の中で何枚か腐っているであろうという、その潜在的優位性こそがこのデッキの強みなのだ。
この「インタラクション」に満ちた環境だからこそ、「呪禁オーラ」は光り輝くのではないか。
そう思って早速手に取ったところ、デッキに独特の勘所があって慣れるまでは苦戦したものの、どうにかMagic Onlineの競技リーグで5-0を達成。
呪禁オーラ、ワンチャン良いポジションじゃないかな?と思って完コピスタートのデッキを回しながら結構調整し、6度目のリーグでバーン2回踏んで5-0。アドグレイスを倒したのがハイライトだった。当たった中では、Selfeisek式マルドゥに死の影が (サイドかもだけど) 入ったやつが面白そうだった pic.twitter.com/znSzc5cKoE
— Atsushi Ito (@matsugan) 2017年11月26日
さらにその週末にはMagic Onlineの定期イベント「Modern Challenge」で「呪禁オーラ」が2位と3位に、さらにオンラインのプロツアー地域予選でも7-1で権利獲得と、空前の「呪禁オーラ」ブームを予感させる破竹の快進撃ぶりを見せた。
だが。
その週以降、「呪禁オーラ」はぱったりと活躍を見せなくなってしまう。
私自身も何度か回したものの、再び5-0を達成することはおろか、4-1することも難しくなってきていた。
はたして、「呪禁オーラ」に何があったというのだろうか?
3. 「呪禁オーラ」の弱点 -「インタラクション」放棄が招いた相性差のスウィングの大きさ-
その原因は、考えてみれば明白だった。
一般的なレシピにおける「呪禁オーラ」の各マッチアップごとの有利不利を表にして並べてみると、以下のようになる。
有利 | 五分 | 不利 |
---|---|---|
|
|
|
一瞥しただけで、五分のデッキが少なく、相性差が極端なのが見てとれるだろう。
有利なのは「ライフを削ってくるアグロ全般」「速度の遅いコンボ」そして「(《血染めの月》を貼らない) コントロール全般」。
対し、高速コンボや《死の影》相手には軒並み不利が付いてしまう。
これは、「呪禁オーラ」というデッキの性質に由来する。
まず、「呪禁オーラ」は決して高速デッキというわけではない。1ターン目にプレイするのは1/1のバニラ。それを2ターン目と3ターン目にオーラを連続で貼ることで地道に育てていくのである。2ターン目の最大クロックは5点。3ターン目になれば最大23点を叩き込めるとはいえ、平均的には20点を削りきれるのは4~5ターン目がせいぜいだろう。
加えて、こちらがバニラの育てゲー要素にすべてのリソースを割いているせいで、それまでの過程でこちら側が対戦相手に「インタラクション」を挟む余地はほとんどない。せいぜいチャンプブロックか、《流刑への道》を打つくらいである。
そうなると、まず3ターン目までにこちらを倒してくるデッキ相手に勝利できる要素はどこにもないということになる。
しかも他にも《死の影》デッキ相手には、13点を一度に削ることがほとんど不可能なため、巨大な《死の影》の着地を確実に許してしまい、結果として突破することがかなり困難なのである。
つまりこのデッキは「相手から『インタラクション』を受けない」という目的のために、犠牲にしているものがあまりにも大きすぎるのだ。
それゆえ、少しでもメタゲームの潮目が変わってしまうと途端に勝てなくなってしまうのである。
このことから、他のデッキにも言えることではあるのだが「呪禁オーラ」については特に、一年中常に勝てるデッキというわけではなく大会に持ち込むタイミングが最も重要ということが私の導き出した結論だ。
逆に、もしそのときの環境や自分のよく行くショップのフィールドが青白やジェスカイ、バーンといった中速のフェアデッキで溢れているなら、迷いなく「呪禁オーラ」を手に取ることをオススメする。
4. 「呪禁オーラ」の改良を試みる
とはいえこれだけだと「当たり前だろ」で終わってしまう話なので、ここでは「呪禁オーラ」の一般的なレシピに対して少しアレンジを加えることで、相性差のスウィングを多少なりとも改善することに挑戦してみよう。具体的には、「呪禁オーラ」というデッキのコンセプトの有利はある程度維持したまま、どれだけ不利なマッチアップを減らせるかという試みになる。
さて、これは私の考えだが、「あるコンセプトを持ったデッキがどのカードを何枚入れるべきか」ということについては、能動的な要請と受動的な要請とのバランスによって決まる。
能動的な要請とは、デッキのコンセプトそのものに基づく要請のことだ。「呪禁オーラ」で言うなら、「呪禁持ちのクリーチャーにオーラを貼ることで不可避のダメージクロックを作り出して勝利する」というコンセプトになるので、「一定数の呪禁クリーチャーの投入」と「一定数の強化オーラの投入」という要請がデッキ全体に働く。
対して受動的な要請とは、自分の周りの環境全体が求める要請だ。「呪禁オーラ」においてはたとえば「《死の影》を出されるとクロックが止まって詰む」という問題があるので、「一定枚数の回避付与オーラが必要」といった要請が生じる。
デッキのスロットを埋めるとは、この能動的な要請と受動的な要請とのバランスを主観的に満たすことだ。具体的にはそれらの要請を見極めた上で、以前にも述べた「求められる条件からカードの能力を逆算する」という手法をとることで、求めるカードやそれに近いカードをデッキに投入することができるのだ。
だが能動的な要請はともかく、受動的な要請についてはデッキリストをただ眺めているだけではわからないことの方が多い。なぜなら、人によって感じる要請は異なるし、当たったマッチアップによっても異なってくる。それゆえ、同じアーキタイプでも細部が違うデッキリストが出てくるのだ。
だから受動的な要請を知るためには、とにかくデッキを回してみるしかない。回している中でどうしても勝てないシチュエーションや確率的に不安定だと感じる部分を要請として受け取り、より要請を満たすカードに差し替えてバランスをとること。それがデッキの細部の調整と呼ばれる作業になる。
それでは、50マッチほどの実戦を経て私が感じた「呪禁オーラ」に関する能動的な要請と受動的な要請を一度整理してみよう (カッコ内はその要請に関連するカード)。
「このデッキ、デフォルトで要請多すぎじゃね?ただの欠陥デッキでは?」と思ったあなたは賢明である。
「呪禁オーラ」は確かに除去は効かないのだが、だからといって「1ターン目に1/1のバニラを出す」というゲーム的にマイナスの行動が戦略的に強制されているデッキが、全自動でダメージレースに勝てるはずもない。どちらかというと数々の手厚い介護が必要な要介護クリーチャーを超頑張って運用するデッキと捉えた方が話が早い。
さらに、もちろん要請はこれがすべてではないし、要請があったとしても「満たせない」と判断して切り捨てているものもある。
たとえば《仕組まれた爆薬》がそれで、このカードは「呪禁オーラ」にとっては「3マナで起動できる《忘却石》」なので、はっきり言って置かれたら100%負けなのだが、一応《真髄の針》であらかじめ対策をすることもできるところではある。
が、「入っているかもわからず、入っていたとしてサイドボードに1~2枚」というカードに対して対策をするのは全体として勝率の安定性を損ねるので、《仕組まれた爆薬》に対しては「一律でサイドボードはしない。出されたらそもそもこんなカードがサイドに積まれているようなメタゲームで『呪禁オーラ』を握った己の不明を恥じて潔く死ぬべき」という結論に達した。そう、武士である。
ともあれ、これらの要請を前提に私が作り直した、不利なマッチアップを少しでも減らす「呪禁オーラ」の新たなレシピがこちらだ。
呪禁オーラ
最近のストームはサイドボードに《血染めの月》をとっていないことが多いこともあり、メインに《神聖の力線》と、サイドボードに《精神壊しの罠》を3枚とることで、対「ストーム」の相性は「有利」と言えるほどに圧倒的に改善 (マッチ8勝1敗) した。絶対に、許さない。
他方で対《死の影》の相性は、これだけメインとサイドに対策カードを積んでも気持ち程度しか改善していないが、フィールドにそこそこ多くいるデッキに対して何もしないでただ狩られるだけというのは筋が悪いので、ワンチャンスくらいは作れるよう《真心の光を放つ者》といったメタカードの採用は外せないだろう。
また《はらわた撃ち》はカウンターカンパニー/5色人間/親和などの決して有利とは言えないマッチアップを制する切り札となりうる。
5. サイドインアウト例
対 「ストーム」
《パズルの欠片》が流行っているので、今のところ《血染めの月》を置かれる確率は低い。見るまでは《解呪》は入れない方が無難だろう。もちろんフェッチできるときにはなるべく《平地》を持ってくるようにしたい。《外科的摘出》は有効活用が難しい上に結局どれに打っても勝てるわけではないのでクロックとなるオーラを優先している。また、《神々の憤怒》にも気を付けよう。
《精神壊しの罠》は当てどころが難しいが、一般的な儀式2枚+《魔力変》+《炎の中の過去》のサーチパターンだと、《けちな贈り物》は通して《炎の中の過去》を墓地に送った上で「フラッシュバック」に当てると (相手がケアしていない限り) リカバリーが遅くなる。フィニッシュを3枚サーチされる裏目もあるが、《精神壊しの罠》を見せるまでは狙っていいプレイングだろう。
対 「親和」
《思考囲い》《鞭打ち炎》《摩耗+損耗》《血染めの月》といったサイドカードが想定されるが、どれも1~2枚なので的を絞ることには意味がない。相手が引いたサイドカードの「インタラクション」がたまたま刺さるかどうかという勝負になるので、ある程度割り切って行動しよう。
またこちらの目標はただ巨大なクリーチャーを作ることではなく、飛行のクロックを通らなくした上で除去を構えつつ《夜明けの宝冠》を設置することになる。防御的に振る舞う必要があるので、《オパールのモックス》や《バネ葉の太鼓》絡みで相手の行動が鈍くなると感じたら《はらわた撃ち》は《鋼の監視者》以外にも積極的に打ち込んで良い。
対 「死の影」
全力で攻撃的に振る舞うと《死の影》が早く出てくる上に《頑固な否認》や《ティムールの激闘》でハマって死ぬので、とりあえず《グリフの加護》やドロー系のオーラだけ早めに付けてライフは相手に勝手に減らしてもらい、「うっかり1/1の《死の影》が《はらわた撃ち》で死ぬ」とか、「《真心の光を放つ者》を都合よくトップする」などの上振れを期待しつつ、可能な限り「最後の2パンで勝つ」という視点でプランを組み立てると良い。
《神聖の力線》が置けなかった場合は、緑フェッチを残して《ヴェールのリリアナ》をケアしよう。
対 「エルドラージトロン」(先手)
対 「エルドラージトロン」(後手)
先手後手で大きく相性が変わるマッチアップ。先手は「1→1+1」で動くと返しで《虚空の杯》を置かれても《夜明けの宝冠》で勝てるが、後手は2ターン目《虚空の杯》で動きが止まり、《難題の予見者》マウントで詰むことも珍しくない。
ひとまず「ダメージレースに勝てるだけの最強無敵生物を作り出すこと」を目標にし、あとは対戦相手の《漸増爆弾》《全ては塵》《精霊龍、ウギン》の採用具合に委ねよう。
6. 終わりに
「呪禁オーラ」は「勝つにはタイミングを選ぶ必要がある上に相手からは『つまんねーデッキ使うな』と文句を言われやすい」デッキなので、決して軽々にオススメできるデッキではないことだけは確かだ。
だが、オールイン好きの私からしたら相手からの「インタラクション」を受けないオールインというのはまさしく理想形だし、《稲妻》と《瞬唱の魔道士》と《呪文捕らえ》でひたすらこちらの動きを捌いてくる「ジェスカイテンポ」とか、壁とカウンターで時間を稼いで何となく《天界の列柱》で勝つ「青白コントロール」とかの方がよっぽど「つまんねーデッキ」なので、そういうデッキを殺したいという黒い意志に染まったときは遠慮なく「呪禁オーラ」を握って自爆テロを引き起こす所存である。
むしろこの記事で伝えたかったのは、私なりの「デッキ選択」と「デッキ調整」の方法論の言語化の部分なので、「呪禁オーラ」に限らず他のデッキを選んだり使用する際にも、何かの参考になれば幸いだ。
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