先日開催されたワールド・マジック・カップ2017 (以下WMC) に参加してきました。今回はそのイベントレポートです。
あらすじ
今年9月に行われた日本選手権2017を優勝したことで、このWMCを日本の代表として戦う権利を手にしました。
今大会は3人1組のチーム戦にて開催されます。そして同じく日本代表を務めることになったのが、先の日本選手権で決勝を戦ったヤソさん (Team Cygames・八十岡 翔太) と、2016-2017年シーズンで日本最多プロポイントを獲得したナベさん (Team Cygames・渡辺 雄也) です。
「マジック殿堂」であり「現プラチナレベルプロ」である2人。日本マジック界でこのステータスを保持しているのは彼らだけです。日本における最強を語る際には必然的に両者の名が上がりますし、その枠を世界に広げても彼らが引けを取ることはないでしょう。
下馬評でも彼らの名をもってして優勝候補の筆頭に挙げられていました。僕個人の力が彼らと比べ大きく劣ってしまうことは間違いありませんが、日本、ひいては世界中の期待に応えるべく、代表として力を尽くすことを心に決めます。
WMC概要
まずは今大会の概要について説明します。WMC2017で採用されるフォーマットは「チームシールド」と「チーム共同デッキ構築・スタンダード」の2種。
チームシールド
日本でもグランプリ静岡・2017秋が開催されたので、馴染みがあるかと思います。使用するパックもそのときと変わらず、『イクサラン』・ブースターパックを12パック。3デッキを構築し、それぞれのプレイヤーで使用して勝敗を競います。
チーム共同デッキ構築・スタンダード
現行のスタンダードカードプールの中から3つのデッキを構築し、それぞれのプレイヤーで使用して勝敗を競います。注意点は同一カードが1チーム4枚までしか使えないことと、同一種カードを複数プレイヤーで分けて使用できない点です。例えばプレイヤーAが《否認》を2枚使ってしまうと、プレイヤーB・Cは《否認》を1枚もデッキに入れることができなくなる、といった仕様です。
構築練習
上記制約のため、当たり前ですが3人全員が同じデッキを使うようなことはできません。もしそれがなければ僕たちは3人とも「ティムール・エネルギー」の使用を検討したことでしょう。それでは面白くありませんからね。
練習を開始するにあたり、3人で集まり会議を実施。「考え得る組み合わせ」を書き出し検討した結果、以下の組み合わせが候補に挙がりました。
パターン | 組み合わせ |
A | ラムナプ・レッド / スゥルタイ / サードデッキ |
B | ラムナプ・レッド / ティムール / サードデッキ |
C | ティムール / サードデッキ / サードデッキ |
環境のTier1である「ティムール」と「ラムナプ・レッド」の使用を念頭に置いて検討を開始します。
各パターンのメリットとデメリット
パターンAのメリットは全デッキがほぼMAXパワーで使用できる点。デメリットは現在のスタンダード環境で明確に立ち位置の悪いスゥルタイをエネルギーデッキ枠で使用しなければならない点でしょう。
パターンBのメリットは環境の2トップ両方をチームに取り入れられる点。デメリットはティムールとラムナプ・レッドの間で《削剥》《反逆の先導者、チャンドラ》《栄光をもたらすもの》《チャンドラの敗北》といった代えの効かないパーツの重複が発生することで、譲り合いの結果デッキの弱体化が避けられないことです。
パターンCのメリットは現在のスタンダードで最強と称されるティムールをMAXパワーで使用できる点。デメリットは他2デッキのパワーが大きく低下することです。
他にも変則的な組み合わせはいくつか考えられますが、主立ってはこんなところでしょう。協議の結果、僕たちのチームはパターンBを採用することに。
かなり高い確率でチームに存在するティムールとラムナプ・レッドに相性の悪いスゥルタイをチームに入れるのはいささか心許なく、サードデッキを2つ立てるようなやり方は言わずもがな。絶対的なエースであるティムールも事故やミラーマッチを考えれば確実に勝利できる保証などどこにもありません。全体の期待値を担保しつつ、総合的な勝率を求めるにはパターンBが最適だと考えました。
各人の担当デッキ
各デッキの担当ですが、まず直近のグランプリ・上海2017でトップ8入賞経験のあるナベさんがティムールの担当に決まりました。チーム内にラムナプ・レッドを用意する都合《反逆の先導者、チャンドラ》と《栄光をもたらすもの》の両方を使えるとは考えづらく、その点《栄光をもたらすもの》が入っていないタッチ黒バージョンのティムールを研究していたナベさんは適任だったといえます。
続いて、ラムナプ・レッドの担当はヤソさんに決まりました。
コントロールマスターとして名高いヤソさんですが、実はビートダウンデッキも抜群に上手いです。 (というかマジックが上手いです。)
その様子はリミテッドの正確無比なコンバット技術の中に垣間見ることができるでしょう。また、ティムールとラムナプ・レッドは前述の通りパーツの重複が著しいことから譲れるもの・譲れないものを見極めるバランス感覚が非常に重要で、調整の難度が高いことから、その観点で見ても2人が担当することが適切に思います。
残された僕の担当は必然的にサードデッキ。担当が決まった後は各自Magic Online (以下MO) で走り込みを行うことになりました。
サードデッキの選定
他2人と異なりデッキタイプさえ決まっていない僕は、まずは候補探しからです。
残ったカードプールで構築できそうなデッキは「白単アグロ」「黒単アグロ」「副陽コントロール」「王神の贈り物」。手当たり次第調整を開始しますが、ここからは本当に苦難の道のりでした。
最初にテストしたのは、「白単アグロ」と「黒単アグロ」。
4 《シェフェトの砂丘》
3 《屍肉あさりの地》
-土地(22)- 2 《薄暮まといの空渡り》
4 《アダントの先兵》
4 《金属ミミック》
4 《格納庫の整備士》
4 《軍団の征服者》
3 《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン》
3 《発明の天使》
-クリーチャー(24)-
テストする前は「本当にこのようなデッキが通用するのか」と見くびっていましたが、良い意味で予想を裏切るスペックに驚かされます。MOリーグでは3-2は手堅く、調子が良いときは4-1のスコアも出ます。
しかし数を重ねれば重ねるほどに、このデッキが現在のトーナメントに向かない理由が分かってきました。《栄光をもたらすもの》がこれらのデッキにとっての癌だったのです。
その上で、これらのデッキはサードデッキ同士の対決においても不利を被りやすく、王神・副陽・サイクリングの青白デッキ3種にはまるで歯が立ちませんでした。黒単は副陽に対して少しばかりマシでしたが、サードデッキの内1種に勝てることがどれだけの強みになるというのでしょうか。より良い選択肢を求めて次に移ります。
次いで着手したのが「青白副陽タッチ黒」です。
1 《島》
4 《灌漑農地》
4 《異臭の池》
4 《氷河の城砦》
4 《水没した地下墓地》
4 《秘密の中庭》
2 《霊気拠点》
-土地(26)- 1 《奔流の機械巨人》
-クリーチャー(1)-
2 《スカラベの神》
2 《奔流の機械巨人》
2 《否認》
2 《ヴラスカの侮辱》
1 《アズカンタの探索》
1 《ジェイスの敗北》
1 《明日からの引き寄せ》
-サイドボード(15)-
相手を問わず1ゲーム目をほぼ100%勝利できるアンフェアなゲーム感を気に入り熱心に調整を続けますが、ある問題につまずきました。それは「サイドボード後の戦い」です。1ゲーム目を極端に有利なデッキが、2ゲーム目以降著しい不利に陥るのは珍しいことではありません。副陽デッキも例外ではありませんでした。
特に厳しかったのがティムールとラムナプ・レッドの2つで、お察しの通り、この2つに勝てないようでは話にならないのです。僕たちのようにティムールとラムナプ・レッドを選択する流れが主流となるのであれば、着席の時点で勝率はたったの33%ということになります。
あらゆる解決策を検討しましたが、答えを見つけることはできず。僕を特に打ち砕いたのは《反逆の先導者、チャンドラ》で、彼女だけで6ゲームを落とし、2-3したMOリーグを最後にこのデッキの調整は終了しました。
挫折に次ぐ挫折。さらっと書いていますがここまでですでに50マッチほど消化しており、その結果が「断念」なのでやっていることは想像以上にツライです。
しかしながら、この過程は単なる苦難というわけではありませんでした。僕はこれまでスタンダードで「4Cサヒーリ」「霊気池の驚異」「ティムール・エネルギー」といった「王道マジック」ばかりをプレイしてきていたので、Tier3周りのデッキを延々とプレイし続けるのは初めての体験です。
見る見る減り行くチケット (MOにおけるゲーム内通貨。1チケット=1ドル) にゲッソリしながらも、ああでもないこうでもないと試行錯誤する様 (さま) に、少しばかりの楽しみを見出すことができました。
練習を続ける上でモチベーションを保つことは非常に重要なことで、この作業の中に楽しさを覚えることができたのは幸運だといえます。
大変な作業でしたが、努力の結果ついにこの苦難に終止符を打つデッキを見つけることができました。それが「青白王神」です。
使い始めは可も不可もなくといった感じで淡々と試合をこなしていたのですが、このデッキの真価に気付いたのはコンボを抜き去るプランを覚えてからのことです。
王神デッキをプレイする前に「青白トークン」をプレイしており、このデッキ自体は大したことはなかったのですが、《航路の作成》《機知の勇者》《排斥》《賞罰の天使》のラインで戦うミッドレンジ戦略が現在のスタンダード環境で通用することを理解できていたのは大きな収穫であったといえます。
この経験から、勝率が上がらないマッチアップにおいて《査問長官》や《復元》のようなコンボに特化したカードを外し、ミッドレンジ戦略へとスイッチさせる戦いを適用したところ、面白いように勝率が上がっていき、次第にそれは満足の行く数値に達するようになりました。
この頃になると各国の代表も練習を本格化し始めたようで、明らかにサードデッキの練習をしていると分かるような対戦が増えていきます。僕はこの対決においてただの一度も負けることはなく、対サードデッキへの勝率は100%を示しました。
また同様に、サイドボード後のミッドレンジ戦略が極めて有効なラムナプ・レッドに対しても高い勝率 (9勝1敗の勝率90%) を示すことができ、チームメンバーに「有力なデッキを見つけることができた」と報告を行ったのです。
使用デッキが確定してからは、王神の習熟に力を入れることになります。
グランプリ・上海2017で実際に王神デッキを使用し賞金圏への入賞を果たしている瀬畑さん (Team Cygames・市川 ユウキ) にもゲームプランの相談を行い、実戦経験からの知識を授かることもできました。
原根さんへ
— Yuuki Ichikawa (@serra2020) 2017年12月3日
王神のサイドプラン聞かれたとき2行くらい返したんでお礼待っています。
せばたより
ちなみに、2行どころではない手厚いサポートがあったことを補足しておきます。感謝しています。
シールド練習
WMCには「チームシールド」もフォーマットとして採用されています。しかしながら、僕たちのチームは前もってこれに向けた練習をすることはしませんでした。理由は2つあります。
1つは「見返りが低い」こと。
WMCは予選ラウンド13回戦、決勝シングルエリミネーション3回戦の全16回戦から成りますが、チームシールドによって行われるラウンドはその内たったの3戦。しっかりとした練習時間を割いて臨んでも、それに見合ったものが得づらいのです。
そして2つ目は「グランプリ・リヨン2017への参加を決めたから」です。
WMC1週間前、フランス国内で開催される当イベントに参加することにしました。フォーマットはもちろんチームシールド。この大会で経験値を培い、あわよくば上位を狙って行こうというプランです。
そうして迎えたグランプリの成績は初日を6-2-1で通過し、2日目は2-2でドロップ。成績は奮いませんでしたが、グランプリ・静岡2017秋以来だったチームシールドの感覚を取り戻すことができましたし、大きな収穫もありました。
それは「席順」です。両日を通し僕はB席に座り「赤白アグロ」と「弱めの白黒吸血鬼」をプレイしました。どちらも「普通以上の白黒吸血鬼」を苦手とするデッキですが、なんと全13回戦中8回戦で「白黒吸血鬼」とマッチアップ。
不幸な偶然で片づけるには多過ぎる数値でした。このことは「B席に座るリーダー格が勝利期待値の高いデッキを使う」傾向を示すものだと考えられ、「本番ではB席に白黒吸血鬼に強いデッキを配置する」ことが決まりました。
具体的には緑系の多色デッキや恐竜デッキですね。そのデッキの担当だったナベさんをB席に移動し、僕と入れ替わることになりました。
構築デッキの決定
ニースの地に到着したのち、チーム内で最後の協議が交わされます。
☆ヤソさんのラムナプ・レッド☆
・《削剥》《栄光をもたらすもの》は必須。
・《チャンドラの敗北》はあるに越したことはないが、譲れないことはない。
・《反逆の先導者、チャンドラ》は要らないので譲れる。
☆ナベさんのティムール☆
・《栄光をもたらすもの》はタッチ黒にするなら不要。
・《削剥》はあるに越したことはないが《木端+微塵》でもギリギリいける。ただしそうする場合《チャンドラの敗北》は必須。
・《反逆の先導者、チャンドラ》はぜひ貰いたい。
☆原根の王神☆
・《否認》がほしいけど口を開くのもおこがましいので黙って《不許可》を打ちます。クリーチャーを打ち消したことはただの一度もないです。
最後の整合を取り、最終的なリストは以下に決定。
4 《ラムナプの遺跡》
4 《陽焼けした砂漠》
2 《屍肉あさりの地》
-土地(24)- 4 《ボーマットの急使》
4 《損魂魔道士》
4 《地揺すりのケンラ》
2 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
2 《過酷な指導者》
4 《アン一門の壊し屋》
2 《暴れ回るフェロキドン》
4 《熱烈の神ハゾレト》
-クリーチャー(26)-
1 《島》
1 《山》
1 《沼》
2 《隠れた茂み》
4 《植物の聖域》
4 《尖塔断の運河》
3 《根縛りの岩山》
4 《霊気拠点》
-土地(23)- 4 《導路の召使い》
4 《牙長獣の仔》
4 《つむじ風の巨匠》
4 《ならず者の精製屋》
2 《逆毛ハイドラ》
2 《スカラベの神》
-クリーチャー(20)-
3 《チャンドラの敗北》
3 《否認》
1 《宝物の地図》
1 《人工物への興味》
1 《領事の旗艦、スカイソブリン》
1 《自然に仕える者、ニッサ》
1 《反逆の先導者、チャンドラ》
1 《王神、ニコル・ボーラス》
-サイドボード(15)-
この協議で最も大きかったのは、ヤソさんが《反逆の先導者、チャンドラ》は不要という結論を導き出していたことですね。
曰く、《チャンドラ》は勝ち筋にもなり得るが負け筋にもなり得るカードで、パフォーマンスが安定しているマッチアップは対コントロールデッキに限られるとのこと。
コントロールデッキはクリーチャーをほとんど採用していないので、《チャンドラ》を対処するためには必ずカード消費を求められますからね。その他のデッキはクリーチャーの攻撃による対処を図ることで、《チャンドラ》は損失を被るだけのカードに成り下がる可能性があります。
その点、ナベさんのティムールにおける《チャンドラ》はその性能を遺憾なく発揮できます。クリーチャーによる攻撃は《つむじ風の巨匠》でシャットアウトでき、ティムールにありがちなマナスクリュー・マナフラッド両面の事故を支え、《導路の召使い》からのブン回りありと、明確に勝率に影響を与えるカードです。
《削剥》を譲っている分、盤面に影響を与えるカードが増えたのも嬉しいところですね。
WMC本戦レポート・初日
この日は始めにチームシールド3ラウンドをこなし、その後スタンダードを最大で4ラウンド行います。4勝すればその時点で勝ち抜けとなり2日目進出が確定する仕様です。
シールドラウンド
シールドプールは65点ぐらいの内容。
ヤソさんはグランプリ・静岡からグランプリ・リヨンまで4回連続《海賊のカットラス》が2枚入った海賊デッキをプレイしていたのですが、ここにきてついに《カットラス》は1本のみ。
代わりに《順風》が3枚も出て「こんなに要らない……」と嘆いていましたが、落ち着いて飛行クリーチャーを数えてみると青黒のカラーリングで11枚もあり、かつ綺麗に各マナ域に散っていたことから、現実的な「順風デッキ」を構築できそうでした。
順風デッキは構築の条件がかなり厳しいため (複数枚の《順風》に潤沢な飛行クリーチャーが必要) 、非常にレアケースでおそらく過去このようなデッキになった経験はほとんどなかったと思われます。
そんな中、ヤソさんの組み上げた順風デッキは非常にバランスの取れた出来栄えとなっており、ここ一番でイレギュラーに即座に対応できるのもメンバーの地力の高さが表れているかと思います。
最終的なデッキは以下の通りに。
席順 | プレイヤー | 使用デッキ |
シートA | 原根 健太 | 白黒吸血鬼 |
シートB | 渡辺 雄也 | 赤緑タッチ白恐竜 |
シートC | 八十岡 翔太 | 青黒《順風》 |
より詳細な構築の様子やデッキの写真はTeam Cygames様のイベントレポートに記されていますので、ぜひこちらもご覧になってください。
ラウンド | 原根 | 渡辺 | 八十岡 | チーム勝敗 |
Round 1 (ベラルーシ) | 〇 (赤黒海賊) | – (白黒吸血鬼) | 〇 (青緑マーフォーク) | 勝ち |
Round 2 (スロバキア) | 〇 (青緑マーフォーク) | 〇 (白黒吸血鬼) | × (赤緑恐竜) | 勝ち |
Round 3 (ウェールズ) | × (青白コントロール) | × (青黒海賊) | – (赤緑恐竜) | 負け |
全員が2-1できそうなスペックのデッキであったため、期待値2-1、上手くいけば3-0もあるかといった見た目で、期待値通りの2-1。
開幕2連勝を遂げたため「これは3-0あるかも!」と思わせた後のウェールズ戦はデッキが三者共に強力で、《人質取り》などレアも豪勢。完全に上を行かれた内容で沈められました。とはいえ、悪くないプールを引けた上で2-1の成績なのですから文句はないですね。
ちなみにB席のナベさんは白黒吸血鬼をきっちり2回踏んでおり、踏まなかったチームには白黒吸血鬼がいなかったので作戦もバッチリハマっていました。上々の結果です。
スタンダードラウンド
スタンダードの席順は以下の通り。
席順 | プレイヤー | 使用デッキ |
シートA | 八十岡 翔太 | ラムナプ・レッド |
シートB | 渡辺 雄也 | ティムール・タッチ黒 |
シートC | 原根 健太 | 青白王神 |
B席にはチームのキャプテンが座すことが多く、その中でも勝利期待値の高いデッキ (=ティムール) が多いだろうと読み、それに強いデッキを使うナベさんがB席に。「C席にはサードデッキが座りやすい」という経験談をもとに対サードデッキ自信ニキの僕がここに座り、残ったA席にヤソさんという格好となりました。
ラウンド | 八十岡 | 渡辺 | 原根 | チーム勝敗 |
Round 4 (グアテマラ) | 〇 (スゥルタイ) | × (ラムナプ・レッド) | 〇 (青白副陽) | 勝ち |
Round 5 (韓国) | – (アブザントークン) | 〇 (ティムール) | 〇 (白緑アグロ) | 勝ち |
Round 6 (Bye) | – | – | – | – |
Round 7 (Bye) | – | – | – | – |
狙い通り僕がサードデッキを打ち倒す展開となり、残り1勝を2人がそれぞれ達成。
これで4勝となり、R6・R7はBye、初日突破が確定しました。まだまだ始まったばかりとはいえまずは一安心ですね。
WMC本戦レポート・2日目
この日のラウンドは「ステージ1」と「ステージ2」に分けて行われます。
「ステージ1」では2日目進出を果たした32チームを4チームずつの8グループに分け、グループの中で3戦中2勝したチームが「ステージ2」に進出します。「ステージ2」でも同様に3戦中2勝を果たしたチームが3日目の決勝シングルエリミネーションに進出するわけです。
ステージ1
ラウンド | 八十岡 | 渡辺 | 原根 | チーム勝敗 |
Round 8 (ペルー) | 〇 (ラムナプ・レッド) | × (スゥルタイ) | 〇 (青白副陽) | 勝ち |
Round 9 (リトアニア) | × (ティムール) | 〇 (ラムナプ・レッド) | 〇 (青白王神) | 勝ち |
Round 10 (Bye) | – | – | – | – |
ステージ1でもC席にはサードデッキが座しており、快勝。王神デッキがサードデッキ対決、とりわけ青白同士の対決に強い理由はドローソースの量です。
《機知の勇者》《巧みな軍略》《航路の作成》《アズカンタの探索》と計14枚ものドローソースが入っていることから常に一定の動きを取ることができ、ゲームに必要なキーカードを安定的に確保することができます。その上で《復元》《王神の贈り物》《機知の勇者》の「永遠」など対処すべき動きが多くあり、相手からすればやりづらいことのこの上ありません。
青白王神のミラーマッチは完全に同じ土俵であるため運が必要ですが、理解度次第では大きな差が生じます。このマッチアップに対する考え方は後述のサイドボーディングガイドを参照してください。
ステージ2
ラウンド | 八十岡 | 渡辺 | 原根 | チーム勝敗 |
Round 11 (ベルギー) | 〇 (ラムナプ・レッド) | – (青白王神) | 〇 (スゥルタイ) | 勝ち |
Round 12 (スロバキア) | 〇 (青白王神) | × (ティムール) | × (マルドゥ機体) | 負け |
Round 13 (ベルギー) | 〇 (ラムナプ・レッド) | 〇 (青白王神) | – (スゥルタイ) | 勝ち |
あと1勝すれば3日目が確定するスロバキアとの対戦。
僕は1ゲーム目を1マリガン後の1ランドストップで敗北し、2ゲーム目は《査問長官》《航路の作成》《機知の勇者》《復元》《王神の贈り物》土地2枚のベストハンドでスタート。しかし今度は3枚目の土地が引けずに敗北。ここにきて運に見放されてしまいガックリ。チームも負けてしまいました。
最終戦はベルギーとの再戦となり、1度は勝利しているといってもチーム全体の相性は良くありません。特に僕のマッチアップは相性最悪のスゥルタイなので流石に2度続けての勝利は期待が持てず、案の定苦しいゲーム展開を強いられていましたが、2人が迅速に勝利!
ヤソさんが《熱烈の神ハゾレト》をトップデッキして叩き付けたとき、相手が大きくのけぞり風圧で吹き飛んだように見えたのが印象的でした (笑)
WMC本戦レポート・3日目
ついに辿り着いた3日目のシングルエリミネーション。
この日は1試合ずつビデオマッチを行っていく形式で待ち時間が非常に長く、張り詰めた空気の中で徐々に緊張感が増していきました。緊張がピークに達したタイミングでプツリと糸が切れてしまい、知らぬ間に爆睡。始まる直前にヤソさんに起こされました (笑)
でも逆にそれでリラックスできたかもしれません。
準々決勝:オーストリア
ラウンド | 八十岡 | 渡辺 | 原根 | チーム勝敗 |
準々決勝 (オーストリア) | 〇 (4色エネルギー) | – (青白王神) | 〇 (ラムナプ・レッド) | 勝ち |
全席非常に相性の良いマッチアップでした。スイスラウンドを上位通過しているため先手も確定しており、余程のことがない限り負けることはないだろうと話していましたね。 実際の試合の方も特に危なげなく勝利しています。
準決勝:イタリア
ラウンド | 八十岡 | 渡辺 | 原根 | チーム勝敗 |
準決勝 (イタリア) | 〇 (青黒コントロール) | 〇 (青緑打撃体) | × (ラムナプ・レッド) | 勝ち |
最も過酷な展開になることが予想された試合。
予選通過順位の関係で相手側に先手が確定しており、B席の相性差は特に致命的。最も相性が良いのは僕ですが、先手のラムナプ・レッドを相手に必勝を掲げるのは困難です。予定調和気味に1ゲーム目を落とし、2ゲーム目を取り返し、迎えた3ゲーム目は盤面を掌握するもライフだけが持たず、火力呪文をトップデッキされて敗北。
しかしB席のナベさんが相手の事故により望外の勝利を収めており、A席のヤソさんも驚異のプレイングにより勝利。対戦動画をぜひご覧ください。やはりここ一番でメンバーが頼りになりますね。
決勝:ポーランド
ラウンド | 八十岡 | 渡辺 | 原根 | チーム勝敗 |
決勝 (ポーランド) | 〇 (青白サイクリング) | × (ティムール・タッチ黒) | 〇 (ラムナプ・レッド) | 勝ち |
決勝戦の各マッチアップも比較的良好で、その上先手。しかし決勝戦というだけあって相手も強く、全テーブルが3本目に突入する熱戦となりましたが、僕が先取し、最後はやはりヤソさんが決めてくれました。
ちなみにこの日は3試合ともヤソさんが決めてくれたわけですが、そういった絵面がほしかったためかヤソさんは常に最後のゲームになるように待機させられており、「待ち時間が長過ぎる」とボヤいていました (笑)
何はともあれ最高の結果を手にすることができました。この結果に至った最大の勝因は間違いなく、最高のチームメンバーと戦えたことでしょう。この3日間、彼らでなければ勝てなかったであろう瞬間に幾度となく出くわしてきました。
単純な個の力に加え調整段階から的確な意見交換が行われたことが大きく、各判断が非常高い精度で行われ続けたことが成功の理由に挙げられます。チーム構築はデッキの選択、カードの採択が綿密に結び付いており、どこか一つでも踏み外してしまえば連鎖的に失敗を積み重ねてしまいます。
間違ったものを積み上げ続けたとき、それに気付くことができなければ本番では大きな失敗となり、仮に気付けたとしても貴重な時間の損失は免れず、どこかで精度を落とすことになります。彼らの経験と力が勝利を導いてくれたのです。
メンバーに感謝を。共に戦えたこと、またそうした彼らの力となれたことを誇りに思います。
シルバーレベルへの到達、ゴールドレベルへの昇格、日本選手権を優勝し、最後はこのワールド・マジック・カップを優勝で締め括りと、2017年は激動の1年となりました。
良い1年でした。今回のかけがえのない経験も、また一つ僕を強くしてくれることでしょう。
サイドボーディングガイド
最後に、今回の結果・記事を通してこの青白王神というデッキに対し興味を持ってくれた方に向けて、その運用を手助けするサイドボーディングガイドを掲載します。
僕はサイドボーディングを臨機応変に変えていくタイプの人間なのですが、今回は練習を相当数こなし、サイドプランもバチバチに練ってきた関係で、全ラウンドほとんど固定のサイドボーディングをこなしていました。
用意したプランには自信があります。しかし、これを知られることによって相手側のサイドボーディングにも変化が生じる可能性がありますので、そういった兆候が見受けられた場合にはこちら側のプランにも変化を加える必要があるでしょう。
もし《否認》がサイドインされないのであれば、《復元》を積極的に狙う動きは悪くありません。以下はゲームに対する考え方の一例としてご覧になってください。
サイドボーディングの基本 ~コンボを維持するか否か~
さて、サイドボーディングの基本としてはまず、「コンボを維持するか否か」を考えます。そもそもとして「コンボを抜いても大丈夫なのか」という懸念があるかもしれません。 実際僕も始めはそういった発想を全く持っていませんでしたが、コンボを狙うことはリスクがあることだと認識してください。こちらのコンボに対し相手側に対応策がない状況は最上ですが、もしあった場合には急激に状況が悪化します。
サイドボード後は3枚の《博覧会場の警備員》と4枚の《賞罰の天使》を投入することで「青白ミッドレンジ」に変形することが可能で、もしこのゲームプランで問題なくゲームを行うことができる相手なのであれば、積極的にそうすべきです。
対戦相手の《貪る死肉あさり》《否認》《削剥》といったアンチカードの一通りは機能することなく、有利なゲーム展開を迎えることができます。
ティムール (純正3色)
対 純正3色ティムール (先手)
対 純正3色ティムール (後手)
先攻時は余裕があるためコンボを狙いますが、相手も《削剥》や《否認》で妨害を図っているため、狙い過ぎは良くありません。
最も有効なのはそれらを構えている相手に対しコンボ以外の行動を取って思惑をズラすことです。《発明の天使》と《賞罰の天使》はその狙いを実現するのに最適なカードです。 相手が3マナのカードをプレイし《否認》や《削剥》を構えているところに5マナのカードをプレイするのです。3マナと5マナのカードには大きな性能差があり、何ターンも繰り返せばその差は取り返しがつかないレベルにまで開いていきます。
この考え方は他のあらゆるマッチアップに適用され、ゲーム中にも強く意識する必要があります。備えがある相手に対し、わざわざその思惑に乗っかってやる必要はありません。 ただし、対戦相手は《反逆の先導者、チャンドラ》や《栄光をもたらすもの》といった強力な巻き返しの手段を有しているため、このタップアウトを咎めるために《復元》を残します。
後攻時はそうした事情を理解した上でもコンボを狙う余裕がないので、《復元》はサイドアウトします。《聖なる猫》は相手の先攻マウントを凌ぐ上では最良の回答となり得るので、《牙長獣の仔》のあるデッキの後手時は残すようにします。
ティムール (タッチ黒)
対 ティムール・タッチ黒 (先手)
対 ティムール・タッチ黒 (後手)
黒入りのティムールは純正とは勝利手段が異なっており、《スカラベの神》や各種プレインズウォーカーのような、1枚でゲームを決定付けるものが多く存在します。打ち消し呪文の用意は必要不可欠です。
また純正ほど攻撃的なデッキではないため、《聖なる猫》と《博覧会場の警備員》を合わせて入れすぎないように注意することが必要です。
スゥルタイ・エネルギー
対 スゥルタイ・エネルギー
先手後手に関わらずコンボは狙いません。スゥルタイは他のデッキと比較しても圧倒的に《貪る死肉あさり》の採用率が高く、コンボに向けた動きがリスクを背負い過ぎるからです。
また相手側の除去が「紛争」の必要な《致命的な一押し》であったり、4マナと重い《ヴラスカの侮辱》であったりする都合、ミッドレンジ戦略は極めて有効だといえます。
4色エネルギー
※《牙長獣の仔》のない、《豪華の王、ゴンティ》や《奔流の機械巨人》が入っているタイプのもの。
対 4色エネルギー
リストが複雑な相手ですが、要点は《光袖会の収集者》と《奔流の機械巨人》だけです。両者にしっかりと対処してアドバンテージ差をつけられないように気を付けていれば怖い相手ではありません。
純正のコントロールデッキと異なり《貪る死肉あさり》を採用していることを忘れずに。
ラムナプ・レッド
対 ラムナプ・レッド
このマッチアップには《復元》どころか《王神の贈り物》さえも不要です。単色ながら《削剥》《暴れ回るフェロキドン》《屍肉あさりの地》と強い耐性を持つため、コンボを中心とした立ち回りは負け筋になり得ます。
メインとなる勝ち筋は天使達の連打、もしくは除去呪文により相手の脅威を一層した後の《機知の勇者》の「永遠」能力です。サイドボーディングはそれを行うのに最適な構造を目指します。ラムナプ・レッドは速く熾烈なデッキなので「あわよくば」といったような幻想は切り捨てるべきです。
青白副陽コントロール
対 青白副陽
こちらの打ち消し呪文には限りがあるので、打ち消す呪文をきちんと定めておくことが重要になります。《不許可》は2回目の《副陽の接近》か、ゲームを決める際の《残骸の漂着》、《ジェイスの敗北》は《奔流の機械巨人》か相手の打ち消し呪文を対象に取ることになり、それ以外の呪文を対象にプレイすることはほぼありません。
また一度目にプレイされた《副陽の接近》は《査問長官》か《イプヌの細流》で必ず墓地に落とし、打ち消し呪文を温存するテクニックを忘れてはいけません。適切にプレイすることができれば歓迎すべきマッチアップです。
青白サイクリング
対 青白サイクリング
これも歓迎すべきマッチアップです。注意すべきは《残骸の漂着》で、この対処には慣れが必要ですが、端的にいえば「トークンでないクリーチャーと《発明の天使》と《賞罰の天使》は極力攻撃に参加しない」ことが重要になります。
闇雲に攻撃を仕掛けていると、《王神の贈り物》で釣り上げるクリーチャーがいなくなります。《王神の贈り物》が脅威でなくなると対戦相手は《排斥》を《王神の贈り物》ではなくこちらの《賞罰の天使》や《排斥》の対処に使用するようになり、《ドレイクの安息地》や《見捨てられた石棺》といった相手側の勝ち手段が解放されてしまいます。
焦らず騒がず、《発明の天使》や《王神の贈り物》で生み出されたトークンでじわじわと追い詰めていくのが定石です。
青白王神 (ミラーマッチ)
対 青白王神
《王神の贈り物》は《賞罰の天使》なり《排斥》なりで「追放」されることがメインとなり、あまり墓地に落ちないため《復元》は腐りやすいカードです。このことからも、このマッチアップで重要になってくるのは《賞罰の天使》で、あらゆる脅威を対処し、フィニッシャーにもなります。《博覧会場の警備員》をサイドインすることは、《賞罰の天使》を巡る攻防がいかに重要かを物語っています。
《賞罰の天使》にアクセスしやすくなる《査問長官》は一見良いカードに見えますが、「不朽」した《天使》は相手の《博覧会場の警備員》《賞罰の天使》《排斥》を完全除去に変えてしまうため、手札からプレイする必要があります。そのため《査問長官》も削減の対象です。
マルドゥ機体/黒単機体
対 マルドゥ機体/黒単機体
《否認》がなく、場合によっては《削剥》もない相手にはコンボを狙いたくなりがちですが、これらのデッキには代わりに手札破壊呪文が多く採用されているため、実際のところはそれほど大きな差がないことを認識する必要があります。
逆にミッドレンジ戦略を取ることは、そうした手札破壊呪文の効力を著しく低下させることができます。ゲームが長引けば長引くほど手札破壊呪文の価値は低くなりますからね。
ラムナプ・レッド以外に投入する《領事の権限》には違和感を覚えるかもしれませんが、《キランの真意号》への「搭乗」を遅らせることには大きな意味があります。またこのマッチアップで必要とされない《アズカンタの探索》《復元》《王神の贈り物》の内どれか1枚を残すよりも遥かに優れた選択肢であることも理由に挙げられます。
おわりに
以上です。今回の記事はいかがでしたか?
先日のインタビュー動画でもお話しさせていただきましたが、みなさんのお声一つひとつが励みになっています。
どこかでお会いした際にはぜひ気軽にお声がけください。今後も引き続き応援よろしくお願いします。
それではまた次回。
原根