Translated by Kenji Tsumura
(掲載日 2018/07/06)
先週末に、幸運にもグランプリ・バルセロナ2018 (モダン) でトップ8に残ることができた。これで前回のグランプリ・コペンハーゲン2018に引き続き、新たな相棒である《ドミナリアの英雄、テフェリー》とともに2回連続でグランプリトップ8入賞を果たしたことになる。
デッキ選択
近代のマジックで成功を収めたいのであれば、デッキ選択は非常に重要なスキルだと思う。デッキを選ぶにあたって、環境最高だと思われるデッキを使うか、それとも全力でそれに立ち向かうデッキを使うか、という二択を迫られることが多々あるよな。こういった状況において、これまではいつだって環境最高とされるデッキを選択してきたんだが、ここ最近は少しばかり違った考え方をするようになった。
余暇の間に家族と旅行に行っていたもんだから、グランプリ・バルセロナに向けた調整はグランプリ直前の月曜日から開始した。前もって旅行することは決まっていたから、あらかじめ調整の時間が少ないということは分かっていた。
最初に思い浮かんだ大きな疑問は、これまで見て見ぬふりをしてきた《クラーク族の鉄工所》デッキについてだ。このデッキを上手く使いこなすのはかなり大変だと思うし、テクニカルなプレイングが要求されるこのようなデッキに対して俺は多大な尊敬の念を抱いている。
こういったデッキをまともに扱えるようにするために、いつも他のデッキ以上に練習時間を割くようにしているんだが、《クラーク族の鉄工所》はどっからどう見たってその他のデッキよりもプレイが難しい類のデッキだよな。結論を導き出すにあたって俺が頼りにしたのは、サイモン・ニールセン/Simon Nielsenだった。
俺たちに残された時間から逆算するとこのデッキをマスターするのは困難であり、十分に快適にプレイできるデッキではないだろうというのが彼の見解だ。各デッキを習熟するまでの期間は個々人によって異なるものの、サイモンと俺にはそれほど大きな差はないと思ったから、彼に倣って他のデッキに注力することにした。
Tier1、そしてTier1.5だと見なされる全てのデッキでリーグに参加した後、俺が最も気に入ったデッキはマルドゥ・パイロマンサーだった。その理由のひとつとして、《稲妻》が入ったデッキを使いたかったんだ。《稲妻》は5色人間デッキに対して最高の1枚であるのみならず、本質的に良いカードで、対戦相手を速やかに倒さなければならないようなマッチアップにおいても、最悪《溶岩の撃ち込み》にはなるからな。
だがグランプリまで残り1~2日というところで、結局俺はジェスカイ・コントロールに乗り換えた。長い間《思考囲い》の入ったデッキを使っているせいかマルドゥ・パイロマンサーには実家のような安心感があったもんだから、これは難しい決断だった。
《謎めいた命令》のようなカードを使いこんでいたわけじゃないから、最初はジェスカイを選びたくなかったんだ。でも俺はマルドゥ・パイロマンサーをコントロールデッキの一種だと思っているし、単に《稲妻》が入った別のコントロールデッキに乗り換えただけだな。
ジェスカイに変えた理由その1
マルドゥ・パイロマンサーからジェスカイ・コントロールに変更した最初の理由は、5色人間とのマッチアップだ。どちらのデッキもクリーチャーデッキに対してとても相性が良いとされているが、この点においてジェスカイの方が優れていると気が付いた。5色人間は素晴らしいデッキであり、これに対して大きく優位を得ることは難しい。だがもしマルドゥかジェスカイのいずれかを選べと言われたら、俺は後者を選ぶだろう。
ジェスカイに変えた理由その2
ふたつめの理由は単純な勝率だ。俺がジェスカイで参戦した数リーグはかなり結果が良く、逆に他のデッキを使っていて青白やジェスカイコントロールと対峙した際にはよく負けた。俺が使用していたウルザトロンを除く全てのデッキは、それらふたつのデッキに対して相性が悪いと感じた。それにウルザトロンに関しても、打ち消し呪文を乗り越えるのが困難な展開がよくあるし、決して楽勝と言えるほどじゃなかった。
ひとつの発見とギャンブル
そして俺は自分がグランプリに向けて良い選択だろうと考えているデッキの多くが、ジェスカイにとって相性が良いマッチアップだと気が付いたんだ。それを加味して、俺はマッチアップに関するギャンブルを受け入れることにした。グランプリ全体のメタゲームではなく、上位卓にいるであろうと思われるデッキを意識することにしたんだ。これが《ぬめるボーグル》やタイタンシフトへの対策が手薄な理由で、その代わりに上位卓で人気がありそうなデッキに対して手厚く対策を施してある。
大会前にチームメイトがグループチャットでドレッジとはどのように戦うかを尋ねてきたんだが、俺の答えは単純明快だった。投了だ。
まもなく、ヤン・ウィンチャン/Yam Wing Chunがこのデッキをジェスカイ・コンシード (=投了の意) と呼び始めた。この名前は嫌いじゃないね。
グランプリ・バルセロナ2018、本戦の結果
俺のメタゲームに関する賭けは報われ、準決勝まで無敗で駆け抜けた。しかしながら、ヤンの予言を現実のものにするためにとでも言うべきか、準決勝ではドレッジと対峙することになってしまった。
信じられないくらい相性が悪いマッチアップにもかかわらず俺は幸運にも1本目をもぎ取ったし、もっと上手くプレイできていれば2本目も勝てていたと思う。モダン環境の試合は、ときに驚くほど簡単だ。特に前のめりなデッキではよくあることだな。
だがその一方で、いくつかのゲームは非常に複雑で、上手くプレイするのは全くもって難解だ。些細な問題は山のようにあるし、例えばフェッチランドで誤った土地をサーチしてしまったり、フェッチするタイミングを間違えてしまったせいでマッチを落としてしまうことだってある。一度《謎めいた命令》や《思考囲い》のようなカードを見舞われれば、ゲーム全体を上手くプレイするのはなおのこと難しくなる。
この週末にはいくつかのミスもしたし、いくつかの良いプレイもした。まあこれこそがマジックだよな。十分に上手くプレイができなくて負けると心が痛むもんだが、この週末は全体的にとても満足のいくものだった。再びトップ8に残れたんだからな!それにこの大会は俺の地元で開催されていたし、それも喜びを増長させてくれた要因だ。
これで今現在のプロポイントは60点に到達し、これだけあれば世界選手権の出場は比較的安泰だと思われる。とはいえ、これに関しては最後の最後までどうなるか分からないけどな。
Lost in semis again, but happy anyway! Probably locked for worlds now! #GPbcn #hareruyapros
— Javier Dominguez (@Thalaiet) 2018年7月1日
訳 : またもや準決勝で負けちまったが、とはいえ嬉しいな!概ね世界選手権への出場が確定した!
調整過程とカード選択
ジェスカイを作るにあたって俺が参考にし、最もよく練習したのはグランプリ・トロント2018でセス・マンフィールド/Seth Manfieldが使用してトップ4に残ったリストだ。そうなんだ、またもやGenesisのリストをコピーしたんだ。コペンハーゲンでもこれは上手く機能してくれたな!
調整過程では一貫してセスの75枚を使用し続けたが、調整を終えて少しだけ変更を加えることにした。デッキのベースはそのままでいいと思っていたものの、バルセロナに向けてセスのサイドボード数枚は好きになれなかったんだ。
この場を借りて、デッキリストの最後の仕上げを手伝ってくれた “Danker” ことカルロス・モラル/Carlos Moralに感謝の意を。彼はいくつかの変更点を指摘し、俺を納得させた。そしてその変更のほとんどが俺を満足させてくれたんだ。残念なことに、彼は大会直前の数秒で他のデッキに乗り換えちまったんだがな。
《血清の幻視》→《選択》
《選択》か《血清の幻視》か。これは俺たちが施した変更の中で最も重要なものだろう。カルロスは《選択》の方が優れていると確信を持っており、俺はその理由の全てを受け入れた。
俺が思うに、特定のカードを探すという点で《血清の幻視》は《選択》よりも優れている。特に1ターン目に土地を探す場合にはな。だがしかし、その状況であれ《血清の幻視》をキャストするか、それとも《稲妻》のためにマナを起こしておくべきかという二択に迫られることがままある。除去を構えるべきか、はたまたドローを進めるべきか。どちらにも裏目が存在し、裏目を引いてしまった際にはひどい状況に陥ってしまうだろう。
また、このデッキはゲームレンジが非常に長いため《血清の幻視》の”特定のカードを探せる”という利点はそこまで重要ではなく、それよりも《選択》が提供してくれる “マナを有効活用できる柔軟性” の方が重要だと考えた。したがって《血清の幻視》は少し魅力に欠けるし、長期戦においては即効性がないのが仇となる。特に《瞬唱の魔道士》と組み合わせた場合にそれが顕著だ。
インスタントタイミングで相手の行動を捌いていくこのようなデッキでは、全ての情報を得られる前に決断を下さねばならない《血清の幻視》は素晴らしいカードだとは思えなかった。それよりも相手の動きを見てから、自身のマナを使って何をすべきかが分かるまで待つ方が好みだ。
《アズカンタの探索》を3枚から2枚に
他に変更を加えたのは、3枚目の《アズカンタの探索》を抜いたことだ。
グランプリで《アズカンタの探索》は大活躍してくれたもんだから、今でもこの選択に関しては自信がない。とはいえ、グランプリに参加するにあたって3枚は少し多すぎると感じたんだ。《アズカンタの探索》を減らすにあたって問題となるのは、このカードが土地を探す手段でもあったことだ。したがって、この枠には同じような枠割を担うカードを採用したかった。最も簡単な代用品は、5枚目のキャントリップ (ドローサポート) 呪文だな。しかしながら、これ以上キャントリップ呪文を増量しすぎるとデッキの中身がスカスカになってしまうため、脅威となるカードが足りずにミラーマッチで苦戦するであろうことが懸念された。
結局、この枠には2枚目の《廃墟の地》を採用した。土地を25枚に増量することには何ら抵抗がなかったし、《廃墟の地》はコントロールミラーで対面の《水没遺跡、アズカンタ》を対処できる悪くないカードだ。
このデッキにはマナの使い道がいくらでもあるため、マナフラッドが問題になるとも思えないしな。仮にゲームが真に長引いたとしても、全ての《瞬唱の魔道士》と《謎めいた命令》さえあれば、全てのマナを使いきってしまえる。その一方で、土地が止まってしまうことはしばしば深刻な問題となるし、《廃墟の地》を入れておいて良かったと思う。それに《廃墟の地》は、ウルザトロンとの相性を少しばかり改善してくれるしな。
その他の変更点
他の変更は、《廃墟の地》の採用に合わせて適用させたものばかりだ。まず基本地形の枚数を増やすために《聖なる鋳造所》を《山》に、続いて3枚目の《稲妻のらせん》を4枚目の《稲妻》に変更した。デッキに《山》がある方が、《廃墟の地》を起動した後に《稲妻》がキャストしやすいからな。
《稲妻》と《稲妻のらせん》は競っていて、本当に評価が難しい。個人的には、マナ効率が良いから《稲妻》の方が好みではあるが、《稲妻のらせん》が欲しいマッチアップにおいて《稲妻のらせん》は何枚あっても足りないくらいだ。この枠に関しては、違った枚数配分になる可能性もあるだろう。
サイドボードの変更点
《祖先の幻視》
サイドボードにも少しばかり手を加えたが、それほど大きな変更じゃあない。コントロールミラーの経験が不足している俺にとって、《ドミナリアの英雄、テフェリー》や《太陽の勇者、エルズペス》などの重いカードをたくさん採用するのは得策じゃないように思えた。もちろん、これらのカードは戦場に出て残りさえすれば最高だ。だが、これらのカードを打ち消し呪文から守ることは決して容易じゃない。
そんな折、カルロスが対コントロール用のカードとして《祖先の幻視》を提案してくれ、俺は即座に魅了された。このカードは打ち消された場合にも一定の役割を果たすからな。もしも対戦相手が《祖先の幻視》を打ち消そうとした場合には、彼らはこちらのメインフェイズの前にマナを使用する羽目になり、こちらが《ドミナリアの英雄、テフェリー》をキャストする絶好の機会を作ってしまうことになる。
実は練習段階ではあまり活躍してくれなかったんだが、多くのマッチアップにおいて役に立つカードなのでサイドボードの枠を割くだけの価値があると思う。
《外科的摘出》
また、俺は《外科的摘出》を1枚採用することにした。この枠に期待していた役割は、恐ろしい《クラーク族の鉄工所》デッキに対抗するための追加の対策カードだ。候補に挙がった《石のような静寂》と《外科的摘出》の評価は接戦だったものの、《廃墟の地》との組み合わせでウルザトロンに打ち勝つことができるようになる《外科的摘出》に軍配が上がった。
サイドボーディング
この記事内で最も素晴らしいパートだな!対峙するデッキのほとんどに対して打ち消し呪文か除去呪文のいずれかが腐ることが多いため、ジェスカイは比較的サイドボーディングが簡単なデッキだ。下記にグランプリに向けてどのようなプランを用意していたかを記すが、サイドボーディングは例によって柔軟にな。
5色人間
先手は《アズカンタの探索》を2枚とも残すが、後手の場合は1枚だけサイドアウトして《謎めいた命令》を1枚戻す。
対 5色人間
ウルザトロン
対 ウルザトロン
青白/ジェスカイ・コントロール
《稲妻》は残した方がいいと思っているが、《外科的摘出》をサイドインする価値があるかどうかいまだ確信が持てていない。グランプリでは青白コントロールに対してサイドインしたものの、おそらくこれは間違いだった。
このマッチアップでどのようにサイドボーディングすべきかは、1本目で見た相手のカードの内容次第だ。《流刑への道》は見た目ほど悪いカードじゃあないし、俺は準々決勝の対青白奇跡戦で《天使への願い》対策として《残骸の漂着》をサイドインしたりもした。
対 青白/ジェスカイ・コントロール
マルドゥ・パイロマンサー
対 マルドゥ・パイロマンサー
赤黒《虚ろな者》
多くのカードが同じくらいの効き目なので、このサイドボーディングが正しいのかどうか全くもって自信がない。相手は《謎めいた命令》の連鎖にほとんど干渉できないため、複数枚は残すといいだろう。
対 赤黒《虚ろな者》 (先手)
対 赤黒《虚ろな者》 (後手)
ドレッジ
投了。
対 ドレッジ
《稲妻》は相手ライフにプレッシャーをかけられるため、これを抜くべきかどうかはまだ確証を得られていない。
バーン
対 バーン
《クラーク族の鉄工所》
対 《クラーク族の鉄工所》
親和
対 親和
グリクシス・《死の影》
対 グリクシス・《死の影》
俺はこのマッチでサイドボード後に一定量の火力呪文を残すのが大好きなんだが、もしも対戦相手がライフの総量を多めに保つようプレイするのであれば《稲妻》は全てサイドアウトしよう。
青赤ストーム
対 青赤ストーム
《ぬめるボーグル》
対 《ぬめるボーグル》
ジャンド
対 ジャンド
おわりに
全てのデッキのサイドボードプランを用意するには、モダン環境のデッキはあまりにも数が多い。だが少なくとも、ジェスカイ・コントロールでどのようにサイドボーディングすべきかという全体像は伝えられただろう。
また、この週末に《瞬唱の魔道士》はプレイするのがとても面白いカードだってことも学んだな。
読んでくれてありがとう。
ハビエル・ドミンゲス