閉塞感が、そこにはあった。
スタンダードのデッキは、エキスパンションが増えるごとに強化されていく。
だから一線級のメタデッキは。たとえばアブザンや赤単、信心といったデッキは今が最盛期で、メインのコンセプトだけではなくサイドカードも出揃い、最も隙がない。
そしてそれは同時に、今が最もクソデッキにとって厳しい季節であることをも意味していた。
確かに『タルキール龍紀伝』は、中二心をくすぐるドラゴンたちをはじめとした様々な可能性に富んだカードを収録している、優良エキスパンションではあった。
だが、《死霧の猛禽》《棲み家の防御者》や《龍王オジュタイ》といったパワーカードは、それ以上にトップメタのデッキたちを難攻不落の要塞へと変貌させてしまったのだ。
「で、それがクソデッキと何の関係があるのか?」と思われるかもしれない。
しかしあるデッキについて、「ここがこう奇跡的にうまくいけばワンチャンもしかしたらトップメタのデッキにも勝てるかもしれない」という希望さえも存在しないとき。それをはたしてデッキと呼べるのだろうか。
10回に1回、いや20回に1回すらも勝てないものを、所詮クソデッキだからといって妥協するならば、もはやクリエイティブの敗北と同義と言えよう。
何故ならこの連載は、唯一無二の神(ゼウス)のデッキを生み出すために行われているものだからだ。
つまり、自分さえも騙すことができないものはクソデッキとすら呼べないのだ。
いつまでも読者の方々を待たせるわけにもいかないとは思いつつ、4か月以上のあいだ沈黙を守ってきたのは、言ってしまえばそれが原因だ。
『タルキール龍紀伝』で完成をみたスタンダード環境は、半端なクソデッキを許さないほどに堅牢で。
さながら峻厳たる巌のごとき威容をもって、立ちはだかっていた。
■ 1. 妄想編
クソデッキ、再び奔(はし)り出す。
泣き言ばかり言っていても始まらない。ゼウスに至っていない以上、何よりもまず我武者羅にデッキを作ることだ。
そう考えた私は、もう何度目かも知れない『スタンダード版Super Crazy Zoo』の開発に着手した。
《強大化》+《ティムールの激闘》コンボのポテンシャルはモダンで証明済だ。ならばスタンダードでこのコンボを組み込んだデッキが組めさえすれば、環境の閉塞感を打破する、全く新しいビートダウンが組めるかもしれないと思ったのだ。
だが、《強大化》があくまでも私を阻んだ。
具体的には「探査」だ。《ギタクシア派の調査》や《ミシュラのガラクタ》といった「0マナキャントリップ」が存在しないスタンダードでは、「探査」のための燃料を稼ぐために《サテュロスの道探し》や《神々との融和》、《テイガムの策謀》といったカードを使わざるをえない。
しかしそうなると、序盤の数ターンをそれらの空虚なアクションに費やさざるをえず、デッキの防御力が著しく下がってしまう。
また、せっかく《神々との融和》が入っているのにインスタントのコンボパーツだと探せないというのも大きな不満だった。《雲変化》という唯一無二の相棒を見つけたはいいが、結局《強大化》と《ティムールの激闘》を手札に加えられなければ意味がない。
何か……何かないか。《神々との融和》を撃つだけで《強大化》《ティムールの激闘》コンボが揃うような、そんな魔法のようなカードが……
あった。
《棲み家の防御者》。
そう、このカードさえあれば《神々との融和》から《強大化》《ティムールの激闘》コンボへとつなげることが可能になる。それどころか、クリーチャーだろうと土地だろうと、ありとあらゆるカードを墓地から拾うことが可能だ。
しかもこの能力。「パワーが小さいクリーチャーはブロックできない」……すなわち、《強大化》で+6/+6した日には、対戦相手は昇天確実である。
今回の符合はこれか。ようやくたどり着いた感触に満足しながら、私は着々とクソデッキの一人回しを進めていった。
……だが、数日後。
ダメだ、弱すぎる。
光明が差したかに見えた『スタンダード版Super Crazy Zoo』は、実のところ問題が多すぎた。
まずモダンと違って1マナや2マナのクリーチャーからテンポよく展開し対処を迫るといった動きができないため、相手が悠々と除去を構えられるということ。
また、《棲み家の防御者》を入れてまで《強大化》と《ティムールの激闘》コンボを達成するのに全力を注ぐあまり、コンボを決めても必然的に残ってしまう対戦相手のライフ数点を詰め切ることができない構造となってしまうこと。
これらの点から、クソデッキとしての最低ラインすらクリアしていないことが明らかとなり、あえなく『スタンダード版Super Crazy Zoo』はお蔵入りとなってしまった。
しかしそんな厳しすぎる挫折を味わいながらも、私の心はまだ《神々との融和》+《棲み家の防御者》パッケージの可能性について諦めていなかった。
要は一旦墓地に落ちたものを拾おうとするからダメなのだ。《神々との融和》で直接手札に入る、クリーチャーかエンチャントだけで完結するコンボさえあれば、《棲み家の防御者》はそのコンボのバックアップとして機能するに違いない。
だが、そんなコンボが本当に実在するのだろうか?
「困ったときは基本セットを見直せ」という格言がある。私が作った格言だ。
環境が進むと、基本セットのカードは大抵見向きもされなくなる。だがデッキビルダーにとっては、そんな時期の基本セットこそが可能性の眠る宝の山なのだ。
はたして、『マジック基本セット2015』のカードリストを見直した私は
ではなくて。
私が出会った本当のカードは……これだ。
《アーティファクトの魂込め》。
モダン環境では【ハサミタルモ親和バーン】などで活躍し、また先日の【第4期モダン神挑戦者決定戦】で【松本 友樹がフィーチャーしていた】カードだが、スタンダードでは実用に足る軽いアーティファクトが少ないこともあり、これまであまり活躍が見られなかったところである。
だが、私は気づいてしまった。スタンダードに眠る魔の海域。デッキビルダーたちを飲み込むバミューダ・トライアングルの存在に。
つまり、こういうことだ。
《神々との融和》で《羽ばたき飛行機械》と《アーティファクトの魂込め》をサーチ(?)したら最強。
しかも《棲み家の防御者》のバックアップまであるのだ。除去されても何度でも襲い掛かってくる5/5飛行を前にしては、さすがに対戦相手も手も足も出まい。
こうして、長きにわたる雌伏の時を経て。
クソデッキが、ついに実った。
3 《森》 1 《山》 3 《樹木茂る山麓》 3 《マナの合流点》 1 《ヤヴィマヤの沿岸》 1 《シヴの浅瀬》 4 《ダークスティールの城塞》 -土地(16)- 4 《羽ばたき飛行機械》 2 《エルフの神秘家》 4 《サテュロスの道探し》 4 《棲み家の防御者》 4 《炎跡のフェニックス》 3 《死霧の猛禽》 2 《わめき騒ぐマンドリル》 -クリーチャー(23)- |
4 《神々との融和》 4 《苦しめる声》 1 《爆片破》 4 《アーティファクトの魂込め》 4 《幽霊火の刃》 4 《バネ葉の太鼓》 -呪文(21)- |
そして一瞬で腐った。
《棲み家の防御者》を入れる以上、《死霧の猛禽》は入れたい。《サテュロスの道探し》と《神々との融和》でライブラリーを掘れば、アブザン大変異デッキよろしくソリッドな盤面が作れるはずだ。そう考えたまでは良かった。
しかし、「どうせライブラリーを掘るし他にも墓地から戻ってくるカードないかな」とカードを探したのが良くなかった。
《炎跡のフェニックス》は確かに、《アーティファクトの魂込め》と相性が良い。
だがこういった「《サテュロスの道探し》や《神々との融和》で墓地に落ちて嬉しいカード」を大量に入れたあまり、ものすごいハンドが来るようになってしまったのだ。
具体的には、《ダークスティールの城塞》《樹木茂る山麓》《サテュロスの道探し》《炎跡のフェニックス》みたいなハンドが来るのである。
《森》をサーチしたら二度と場に出ることはないという、この《炎跡のフェニックス》の「誰やねんお前」感たるや。
さらにそのような事態を緩和するべく《苦しめる声》を入れたのはいいが、《苦しめる声》を引かないときに手札がやばいのは一緒だし、そもそもスタンダードは初動後手2ターン目《苦しめる声》を許容するような環境ではないということに気づいてしまい、クソデッキ開発は再び行き詰ってしまった。
だがその一方で、デッキの強さを確かめるための実戦を繰り返す中で、確かな手応えを感じてもいた。
このデッキのいわば骨の部分……16枚のアーティファクトと《アーティファクトの魂込め》、それに8枚の墓地肥やしと、《棲み家の防御者》《死霧の猛禽》パッケージ。これらのラインは相互に役割を補完しあい、また程よいマナカーブを形成している。
となれば、あとはノイズとおさらばして、よりデッキを洗練させるだけだ。
(ノイズ)
ちなみにこの「初期型」は、私が「あ、こいつ(=《炎跡のフェニックス》)がノイズだ」と気づくまで、マジックオンライン(MO)の8人構築で9回連続1没という問答無用で私の歴代ワースト1記録を叩きだし、MO資産に甚大な損害を与えたことを付記しておく。
さて、こうして紆余曲折を経て。
ついに、クソデッキが爆誕した。
■ 2. 爆誕編
クソデッキ、猛(たけ)る。
ノイズを排除した完成形。その滑らかな動きは、さながら在りし日の「親和」デッキのよう。
そう、このデッキこそスタンダードの「親和」。
それではお見せしよう。環境末期になって駆けつけてきた、最強のソリューションを!!
2 《森》 1 《山》 3 《樹木茂る山麓》 1 《マナの合流点》 3 《ヤヴィマヤの沿岸》 2 《シヴの浅瀬》 4 《ダークスティールの城塞》 -土地(16)- 4 《羽ばたき飛行機械》 2 《エルフの神秘家》 4 《サテュロスの道探し》 4 《棲み家の防御者》 2 《層雲の踊り手》 4 《死霧の猛禽》 1 《わめき騒ぐマンドリル》 -クリーチャー(21)- |
4 《神々との融和》 3 《頑固な否認》 2 《爆片破》 2 《遮る霊気》 4 《アーティファクトの魂込め》 4 《幽霊火の刃》 4 《バネ葉の太鼓》 -呪文(23)- |
4 《狩人狩り》 4 《乱撃斬》 3 《部族養い》 1 《アイノクの生き残り》 1 《マグマのしぶき》 1 《軽蔑的な一撃》 1 《宝船の巡航》 -サイドボード(15)- |
ノイズを排除したらノイズが残った(哲学)
【グランプリ・神戸14】で準優勝した後藤 祐征氏の名作、【ハサミタルモ親和バーン】にあやかってデッキ名を付けてみたが、後藤氏に対して失礼なのではないかと思ってしまうほどのカオスっぷりである。
混濁したコンセプトを前にして頭に「?」が浮かんでいるであろう諸氏のために、デッキの動きを軽く説明しておこう。
■ 初手に《アーティファクトの魂込め》とアーティファクトがある場合
《アーティファクトの魂込め》をアーティファクトに付けて殴る→勝つ。
■ 初手に《アーティファクトの魂込め》やアーティファクトがない場合
《神々との融和》で《アーティファクトの魂込め》を、《サテュロスの道探し》で《ダークスティールの城塞》を探す。その過程で《死霧の猛禽》が墓地に落ちるので、《棲み家の防御者》で《アーティファクトの魂込め》や《爆片破》を回収しながら《死霧の猛禽》を呼び戻すとオシャレ。→結構勝てる。
■ マリガンする
ダブルマリガンする→死。
《アーティファクトの魂込め》をアーティファクトに付けて殴る→勝つ。
■ 初手に《アーティファクトの魂込め》やアーティファクトがない場合
《神々との融和》で《アーティファクトの魂込め》を、《サテュロスの道探し》で《ダークスティールの城塞》を探す。その過程で《死霧の猛禽》が墓地に落ちるので、《棲み家の防御者》で《アーティファクトの魂込め》や《爆片破》を回収しながら《死霧の猛禽》を呼び戻すとオシャレ。→結構勝てる。
■ マリガンする
ダブルマリガンする→死。
こんな感じ(?)である。
要するに神との対話(=初手)が大事なデッキなので、このデッキを使用する場合は祈りを欠かさないようにしよう。
■ 3. 実戦編
クソデッキ、久しぶりにFNMに出場する。
◆第1回戦 VS シディシウィップ
・1戦目 《アーティファクトの魂込め》で攻めるも《思考囲い》と《アンデッドの大臣、シディシ》が強すぎて盤面が全部止まる。そうこうしてるうちに《エレボスの鞭》置かれて投了。
・2戦目 ダブルマリガン→死。知ってた。
××
◆第2回戦 VS アブザンリアニメイト
・1戦目 相手の初動が遅かったので愚直ビートで勝ち。
・2戦目 行け、《アーティファクトの魂込め》!!……2枚目の《残忍な切断》が読めずに全てを失って負け。
・3戦目 盤面固められた挙句、《死の国からの救出》で《女王スズメバチ》を釣られて終了。ていうか何だか相手のデッキの方が楽しそうだぞ。
〇××
◆第3回戦 VS 黒単コントロール
・1戦目 全部捌かれるもトップ《わめき騒ぐマンドリル》がかけつけてクロックを継続、《幽霊火の刃》を2枚装備させて無理矢理押し切った。でも違うんだよ、今回はお前が主役じゃないんだよ……!!
・2戦目 《目覚めし処刑者》が止められず、撲殺される。
・3戦目 《頑固な否認》と《軽蔑的な一撃》でクロックパーミして勝ち。
〇×〇
結果:1-2。
■ 4. 後悔編
クソデッキ、世界へ。
今回は3か月以上の沈黙という壮大な伏線を全て吹き飛ばしていつもどおりクソデッキらしい成績を残してしまったわけだが……さりとて一切成果なし、というわけでもなかった。
MOPTQで使用して3勝3敗と微妙な成績でMOに記録を残したこのデッキが、【SCGのGerry Thompsonの目に留まって紹介された】のだ。
しかも実はGerryTにデッキを紹介されるのはこれで
どうやら私のMOアカウントである「__matsugan」が、「こいつは頭のおかしいデッキをよく使っているみたいだぞ」と目を付けられてしまったらしい。
Travis Wooだけでなく、Gerry Thompsonまでも私の才能に気が付いてしまったということか。
……いいだろう。
ならば更なる研鑽を積み、海外でクソデッキビルダーとして私の名前が広まるまでクソデッキを作り続けるのみ!!
待っていろGerryT、そしてTravis Woo。
この私こそが最高のクソデッキビルダーだと証明してやる!!
→「だらだらクソデッキ ~地下最強トーナメント編~」へ続……かない。
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