セレブリティカップとマジックの可能性について

Raphael Levy

Raphael Levy

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2019/07/22)

セレブリティカップ

7月11日の午後5時30分ごろ。私はWebedia本社へと足を運んだ。Webediaとはe-Sportsやウェブコンテンツを扱う大手企業である。今大会のパートナーである陸上選手のクリストフ・ルメートル/Christophe Lemaitreはすでに現場に到着していた。我々は最後の細かい部分を詰めるとともに、円滑なコミュニケーションが図れる雰囲気作りを行った。

私たち2人がこの本社へやってきたのはセレブリティカップに参加するためだ。MTGアリーナの”大会”ではあるが、プロモーションが最大の目的であり、フランス・イギリス・ドイツの同時開催であり、Twitchで配信されることになっていた。

会場のセットはミシックチャンピオンシップと肩を並べられるほどのものであった。ゲーミングチェア最高級のコンピュータープロによる照明。一流のe-Sportsイベントにあるべきものが全て揃っていたのだ。

「セレブリティカップのセット最高!」

セレブリティカップの実況席の様子

セレブ(あるいは彼らのコミュニティ、ファン、フォロワー)を集め、楽しいカジュアルな大会を通してマジックを知ってもらう。それが本大会の思惑である。マジックのエキスパートはセレブにマジックを教え、二人一組となって特別仕様のフォーマットで勝負する。初日は国内のチーム同士で戦い、上位2チームが2日目に進出して他国とトロフィーを賭けて争う。

各チームについて知りたい方は、セレブリティカップの告知記事(リンク先は英語)で確認していただきたい。

フォーマットとデッキ選択

初日のフォーマット

初日はBO1(1本勝負)であり、部族構築で行われる。まず、各チームは2つの部族を選択する(1つはセレブのSNSのフォロワーが、もう1つはセレブが選ぶ)。そしてその部族のカードを20枚以上含むデッキを構築し、2つの部族デッキを用意する。部族のカードと判定されるには、カードの名前・カードテキストにその部族名が含まれていたり、あるいはその部族のキャラクターがイラストに描かれていたりすれば良い。

つまり、《竜髑髏の山頂》だけでなく《暴君の嘲笑》もドラゴンの部族カードになるのだ。

竜髑髏の山頂暴君の嘲笑

部族の選択肢は、ドラゴン・海賊・ウィザード・マーフォーク・騎士・ゴブリン・恐竜・吸血鬼である。

2日目のフォーマット

2日目はBO3(3本勝負)のスタンダードであるが、ひとひねり加えられている。1ゲーム目と2ゲーム目終了時、相手のメインデッキかサイドボードから土地以外のカードを1枚指定し、使用を禁止することができるのだ。メインデッキのカードが指定された場合はサイドボードのカードで穴埋めするしかない。2ゲーム目以降は1ゲーム目と同じカードを指定することもできる。

恥ずかしながら、練習時間は十分とは言えなかった。私がいくつかデッキを組んだものの、Red Bull Untappedブリュッセル予選の解説に出発する前日になって「どのデッキをアップデートすれば良いの?」と尋ねられたほどだ。デッキリスト提出の締切は、私が解説から帰宅して数時間後のことだった。

クリストフのフォロワーが初日のデッキに選んだ部族は恐竜であり、もうひとつのデッキとして私はクリストフにマーフォークをおすすめした。ご存知の通り、私は魚に精通していたからだ。

初日のデッキ選択

初日に使用するデッキがこの2つだ。

準備時間を十分に確保し、ルールの隙を上手く突いていたチームもいた。「イラストに部族のキャラクターが描かれていれば良い」というルールを悪用すれば、通常のエスパーコントロールと比べても遜色がないデッキを組み上げられる。《暴君の嘲笑》《牢獄領域》はイラストにニコル・ボーラス(ドラゴン)が描かれているし、グリクシスカラーなら《竜髑髏の山頂》をドラゴンとしてカウントできるのだ。私たちも何か方法を考えれば、もっと質が高く、革新的なデッキを作れたのだろう。とはいえ、楽しむこととささやかな栄光を見返りとする部族フォーマットに時間を多く割きたくなかったのも事実だ。

時は遡り、本番1週間前。クリストフは私の配信にゲストとして参加した。何ゲームか対戦し、彼のマジックの知識がどれほどなのかを知りたかったのだ。なんと彼は新人とは程遠い存在であり、ミシックチャンピオンシップ予選やMKMシリーズという欧州の大会でプレイした経験を持っていた!だからここで紹介する動画が彼の実力を反映しているなどと思わないで欲しい。(私自身も何度か《ラノワールのエルフ》《無法の猛竜》のエサとして差し出したことがある!)

練習期間中は、唯一プロプレイヤーが含まれていたジャン=エマニュエル・ドゥプラ/Jean-Emmanuel Depraz(以下JE)のチームと親しくさせてもらった。JEはユーチューバーであるジョン・ラシッド/Jhon Rachidがパートナーであり、彼は本番が始まる前にチュートリアルを終えた程度の知識であった。

大会レポート

初日

本番前のレヴィとクリストフ

一回戦はマーフォークとエスパーとの対戦であった。相手が《ケイヤの怒り》を引けなかったこともあり、我々は勝利することができた。

続く2回戦も愛機のマーフォークを使用したが、JEチームのグリクシスドラゴンデッキの前に敗北。しかし、3~4回戦は恐竜デッキで勝ち星を重ねることに成功した。これで2日目の進出を確定させ、フランス代表チームとしてドイツ・イギリスと戦うことになったのだ。

2日目

2日目のデッキに我々が選択したのは一般的な恐竜デッキだった。相手のデッキ内のカードを禁止できるという特殊ルールに耐性があるアーキタイプであると考えたからだ。

残念なことに、クリストフはもうひとつの戦い、世界陸上に向けて練習をしなければならなかった。彼はマジックも好きであったが、それ以上に本業は重要なのだ。国際舞台で戦うとなれば、ひとつひとつのトレーニングがものを言う。彼が初日に楽しんでくれていたことは承知していたし、間違いなく2日目も参加したかったことだろう。しかし彼はプロのアスリートであり、私は彼の想いを尊重することにした。

テレビで観ていた世界トップクラスのアスリートが自分の名前を呼んでくれるのは違和感があったが……素晴らしい体験でもあった!クリストフ、今回は貴重な時間を割いてくれてありがとう。またいつの日か一緒に呪文を唱えられることを待ち望んでいる。

クリストフに代わって私のパートナーとなったのは、ミュージックパフォーマーであり、俳優であり、本大会の初日を戦ったPV Novaだ。彼とチームを結成し、優勝を目指すこととなった。

フランス代表の2チーム

初戦の相手はイギリスのゴブリンデッキであったが、当初の見立て通り勝利することができた。(最後の2ターンはぜひ見て欲しい)

2回戦はドイツとのミラーマッチで敗北を喫してしまった。ここまでの結果は、ドイツが2勝、フランスが1勝1敗、イギリスが2敗だ。

フランスの命運はJEとジョン・ラシッドのチームに委ねられた。2マッチ終了次点でドイツは2敗、フランスは1勝、オータム・バーチェット/Autumn Burchett率いるイギリスは1勝となった。

勝てば優勝というイギリスとの大一番。しかしここがターニングポイントとなった。2ゲーム目にJEが、彼らしからぬミスでゲームを決定づけてしまったのだ。

エキスパートは経験の浅いセレブが適切にプレイできるようにできるだけシンプルなプレイを導かなければならない。そのような状況では、好ましくないように思えても思考プロセスに手を加える必要があるのだ。JEがミスをしてしまった理由が私には十分に理解できる。

全試合が終わってドイツ・フランス・イギリスの成績は横並びの2-2-2であったが、イギリスがタイブレイカー(勝利ゲーム数/敗北ゲーム数の比率)で優勝となった。ブー!

マジックの可能性

今回特別に採用されたフォーマットは楽しむことを主目的としたものであり、イベントもカジュアルなものであったが、全ての点において素晴らしかった。舞台のセット、カメラ、キャスト、参加プレイヤー、初日のフレンドリーな雰囲気での勝負、2日目の会場全体によるサポート……それからセレブを招待してマジックを広めようとする考え方。

ウィザーズが一流の大会にインフルエンサーを呼んでいるため、彼らの最終的な狙いが「マジック以外の業界から新規プレイヤーを獲得すること」であるのは明らかだ。

セレブリティカップはテストの一環だったのだろう。最初の試みとしては成功したと言えると思う。Twitchの配信で視聴者が数十万も来た訳ではないが、今までマジックに何の関わりもなかった人にマジックを知ってもらうことができたのだ。そういった層には複雑で難しいミシックチャンピオンシップには中々できないことである。

肉体+血流

マジックが成長し、さらなる投資家・スポンサーを獲得するには“新鮮な血”を流入させる必要がある。フォートナイトやリーグ・オブ・レジェンドに匹敵するほどの人を集めることが求められているのだ。口にするのは辛いが、YouTubeのチャンネル登録者数が500万人以上もいるインフルエンサーと比べて”マジックのプロプレイヤー”が持つ影響力とはどれほどあるのだろう。新規獲得という点で言えば、彼らインフルエンサーがMTGアリーナをダウンロードするように勧めるツイートをした方が、ミシックチャンピオンシップを開催するよりも実りがあるのではないだろうか。

今までにこういった大きなイベントがなかったのは実に驚くべきことである。しかし今後は今回のような動きが見られるだろう。私の記憶によく残っているのだが、Day9の番組でワールドクラスのレスラーであるジョシュ・バーネット/Josh Barnettがゲームの対戦企画に参加していた。

ダニー・トレホ/Danny Trejoも自らのイメージを使ってマジックの名を広めることに一役買ってくれている。ウィザーズの今後の戦略を物語っていると言えるだろう。

カードゲームと自らを結び付けたいセレブを見つけるのは簡単ではないかもしれないが、彼らだってときには時間を持て余す。ではみなさんが手持ち無沙汰のときにするのはなんだろうか?MTGアリーナだ。セレブが同じようにMTGアリーナをしない理由はない。

本音を言えば、セレブリティカップのような大会を開催するのはそこまで大変ではないと思う。今はエキスパートが必要とされているが、マジックの上手いハリウッド俳優たちが最も熱い大会で戦い合い、プロツアーやミシックチャンピオンシップが過去のものとなる日が来ないとも限らない。

もしそのような世界になれば、私たちヘビーユーザーはセレブの横に座って指示を出す役割が生まれる。これもウィザーズの夢のひとつだろう。もしそれが実現すれば、マジックはかつてないほど大きなものへと成長しているはずである。そして我々は椅子に座って、マジックが飛躍する姿を見届けるのだ。

垣間見る未来

少し話が脱線してしまったかもしれないが、私の妄想に終わる可能性はあるだろう。あるいは、私たちマジックプレイヤーが遥かな高みで活躍するひとつの場所となるかもしれない。マジックはe-Sportとしてリニューアルされている最中だ。私たちの居場所がなくならないことを願うばかりであるが、今は誰もマジックの未来を知る由はない。

今のところは、歴史の一端に身を置けたことを嬉しく思っている。私がみなさんを破滅へと導こうとしているのかどうかは時間が経てばわかるだろう。しかしその先が絶望でないのだとすれば、マジックの輝ける未来を期待できるはずだ。

ラファエル・レヴィ (Twitter / Twitch)

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Raphael Levy

Raphael Levy ラファエル・レヴィはフランスの古豪。初のプロツアー参戦は1997年で、そこから2017年のプロツアー『イクサラン』まで、91回連続でプロツアーに出場し続けたという驚異の経歴の持ち主だ。そして、2019年のミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019にて、歴史上で初めて100回のプロツアーに参戦したプレイヤーとなった。これまでに築き上げてきた実績は数知れず、2019年2月の時点でプロツアートップ8が3回、グランプリトップ8が23回(優勝6回)、その他にもワールド・マジック・カップ2013ではキャプテンとしてチームを優勝に導くなど、数々の輝かしい成績を残している。生涯獲得プロポイントは750点を超えており、2006年にはプロツアー殿堂にも選出されている。 Raphael Levyの記事はこちら