あなたの隣のプレインズウォーカー 第102回 テフェリーのオリジン:神から人へ

若月 繭子

若月 繭子

はじめに

こんにちは、若月です。引き続き、『基本セット2021』の顔であるテフェリーの過去を語りましょう。

時の支配者、テフェリー

今回は『インベイジョン』から『時のらせん』までになります。神のごとき力を持った旧世代プレインズウォーカーのテフェリーは、ファイレクシアの侵略へとどのように向き合ったのでしょうか?そしてドミナリアだけでなく多元宇宙全体の危機に対して見せた覚悟とは?……前回最後で「次回はテフェリーの歴史、残り半分を語ります!」って書いたけれど、さすがに1200年分を2回じゃ収まらなかったよ。

5. ウルザとテフェリー

早速テフェリーの過去について、と行きたいところですがまずはこちらを。プレインズウォーカーとしてのテフェリーの立ち位置を考えるにあたって、師とも言えるウルザの存在を外すことはできません。

最高工匠卿、ウルザ

ウルザは魔術の才能だけでなく、プレインズウォーカーとしての素質を察して少年であるテフェリーを目にかけていました。「時間」というものに対するテフェリーの意欲を称えることすらあったようです。

そしてテフェリーの灯が点火したのは、トレイリアでの時間遡行実験が失敗した際、服に着火したまま時の泡の中に囚われたことによる凄まじいストレスからでした。時間の魔道士、そしてプレインズウォーカーとしてのテフェリーが存在するのはウルザがいたからこそ……かといって、テフェリーは感謝してなどはいないのでした。

隔離緩慢な動き

時間災害の中を過ごした期間はテフェリーにとってほんの一瞬でしたが、外の世界との時の流れの隔絶は(特に、大好きなジョイラとの年齢差の拡大は)彼を悲嘆させ、さらに後の数十年間、後遺症ともいえる悪夢に悩まされました。

小説「Time Spiral」チャプター3より訳

テフェリー自身はそこまで幸運ではなかった。アカデミー最年少の神童は最初の爆発に巻き込まれ、衣服に着火した。パニックに陥り、炎に包まれたテフェリーはそこで極めて緩やかな時の流れに入り込んでしまった。そこでは砂時計の一粒が落ちるまでに数か月、数年を要した。彼は異常な時の流れの中で40年を過ごし、やがてジョイラの発明によって救出された。それから30年、テフェリーは生きながら焼かれる鮮明で痺れるような悪夢を見続けた。

同・チャプター18より訳

救出されたあと、彼はアカデミーの研究者兼指導者としての仕事に戻ったが、自らの新たな状態には気付いていなかった。彼は歳をとり、血を流し、病にかかり、肉体的にはクラスのほかの若者と何ら変わらなかったのである。神の如き力を得たと気づいたのは何十年もあと、故郷ザルファーに帰還してその地の豊かなマナ源に触れてからだった。テフェリーはすでに名高い魔術師だったが、自身はそれよりもはるかに恐るべき存在だと――以前からそうだったと――気付いたのだ。そして、果たして何千回目かはわからず、最後でもなかったが、ウルザの時間遡行実験とそれらがもたらした惨禍を呪った。

ですがテフェリーは、この事故からの恐ろしい精神的外傷を受けてもなお、時間への興味を持ち続けました。危険は時間そのものやその研究にあるのではなく、ウルザの不注意な方法論にあるのだと彼はわかっていたのです。時は炎のようなもの、理解や用法を誤ったならそれは牙をむく。テフェリーはそれを忘れず、ウルザをある意味反面教師として生きていこうとします――そしてその態度がもっとも顕著だったのが『インベイジョン』です。

6. インベイジョン

次元の門

4205AR(アルガイヴ歴4205年)、遂にファイレクシアがドミナリア侵攻を開始しました。世界各地にポータルが開いて戦艦や怪物がなだれ込み、猛攻撃や疫病によっていくつもの都市や地域が壊滅的な被害を受けました。

世界の荒廃疫病吐き

それと同時に『インベイジョン』ブロックは、それまでの物語の集大成でもありました。物語でずっと活躍してきたキャラクターが「伝説のクリーチャー」として(当時はまだ「クリーチャー-レジェンド」という書式)ここで初めてカード化、またこれまでの有名キャラクターも多数再登場しました。セットとしては「多色」がテーマだったこともあり、その華やかさと賑やかさも含めて『灯争大戦』に近い雰囲気、と表現してもいいかもしれません。

艦長シッセイ航行長ハナ
オーラの突然変異ギトゥの火再供給

もちろん、ドミナリアの守り手の1人としてテフェリーも再登場しました。思えば本人のビジュアル(大人の姿)が判明したのはここが初めてでしたか。ザルファーの上空にもポータルが開き、ファイレクシアの戦艦やドラゴン・エンジンが降下してきました。ウルザとバリンはそのザルファーを訪れ、そこでテフェリーに再会します。先生方を迎えたテフェリーは歓迎の意志を見せながらも、ウルザへは辛辣な言葉を向けました。

小説「Invasion」チャプター9より訳

「バリン先生、ザルファーへようこそ」

バリンは差し出された手を怪しむそぶりをし、そしてそれを握り締めた。

「びっくり握手はなしかい?衰えたものだな、テフェリー。だが昔の悪戯を繰り返しはしないとわかって嬉しいよ」

テフェリーは力強くかぶりを振った。「新しい悪戯だけですよ、バリン先生。それもたくさんです」

「我々に手助けをさせる気などないだろうに」挨拶の場に、ウルザが割って入った。

「手助けをさせる気はない?」バリンは疑うように繰り返した。冗談ではと、彼はウルザの風変りな瞳を見つめた。その試みは無益だった。

テフェリーの両目は喜びに満ちていた。「手助けをしていただかなくていいというのではありません――ウルザ先生独りだけでは、という意味です。お気を悪くしないで下さい。トレイリアが私に教えてくれたのは、研究の協力者がいない限り、ウルザ先生は本人とほかの全員にとって危険だということです」

「それは私であるべきだな」苦々しくバリンは言った。トレイリアの師2人は痛ましい視線を交わした。テフェリーはいつも明るく心優しいトラブルメーカーだったのだ、バリンとウルザがまさしく必要とするような。

握手に応じると電撃にやられる。昔カーンに対して仕組んでいた少年テフェリーの悪戯ですが、先生にもやってたんかい。そしてこの通り、いきなりウルザに対して堂々と物を言うテフェリー。ウルザにとっては生き延びることよりも勝利の方が重要、彼はそれを判っているのです。

とはいえ、攻撃の第一波を食い止めポータルを閉じなければいけないというのも確かでした。バリンが戦況を見ると、不思議なことにファイレクシアの戦艦は降下せず、ドレイクやグリフィンの空中攻撃を受けています。すると砕けた戦艦の破片が空へと急上昇し、もっと上空の戦艦を貫きました。よく見ると、すべての戦艦は上下逆さまに浮いていたのです――テフェリーは時間魔術を応用し、ザルファー上空の重力を反転させているのでした。

バリンは心から感心しますが、それでもポータルを閉じなければ根本的解決にはなりません。テフェリーはそのためにウルザの助力を求めました。その方法は、2人でポータルの内外へのプレインズウォークを繰り返し、オーバーヒートさせるというもの。テフェリーの生意気な態度に憤慨しながらもウルザは頷き、師の合図でプレインズウォーカー2人はポータルに飛び込みました。

撹乱

《撹乱》フレイバーテキスト

テフェリーはウルザの戦闘計画に加担する気はなかった。しかし2人はファイレクシアの門を閉じなければならないことでは意見が一致していた。

バリンが見つめる中、2つの光が繰り返し閃きます。やがてポータル内の空間が歪み、エネルギーがうねって火花が散り、煙が地上へ降りていき、眩しい光が弾けました。そしてそれが消 えると、ファイレクシアの戦艦とポータルもまた消え去っていたのでした。眼下にはザルファーの大地が無傷で広がり、兵士たちが歓声を上げていました。

バリンは心から感心しますが、ウルザは疑問を持ちます。この爆発のエネルギーはどこへ?「別の呪文のために用いた」、とテフェリーは答えました。勝利するためではなく、人々を救うために。それが自分たちの違いだと彼は繰り返しました。

ウルザは決して人々を救おうと思ったことはなく、敵を倒すことだけを求めてきたのだと――ミシュラ、ギックス、ケリク、そしてヨーグモス。そのためにザルファーの民を犠牲にさせはしません。そして、眼下でザルファーが震えました。すべての輪郭が浮かび上がり、まるで広大な青写真の中に閉じ込められたかのように、色のない格子の中に納まりました。呪文によって概念を現実化できるなら、現実を概念にすることもできるのです。一瞬にしてあらゆる色彩が眩い輝きと化し、閃光一つとともにザルファーは消え去りました。

テフェリーの防御

残ったのは、ザルファーがあった大地の岩盤だけでした。それを取り囲む海は一瞬静止したかと思うと、不意に現れた大穴へと猛烈な勢いで流れ込んだのです。

同チャプターより訳

ウルザは無言の驚きとともに、荒れ狂う海を凝視した。バリンは唖然とした。「何をしたんだ?」

「私の民を救ったのです。彼らは今や不変の概念の中にいます」

「こ――殺したのか!」

「違います。世界が再び安全となったなら、戻ってくるのです。彼らにとっては、一瞬すら過ぎていません」

「大津波が起こるぞ。何千人もが死ぬ」ウルザは険悪に言った。

「数百万人が救われます。先生とは違い、私はこのように民を救うのです」

「ああ。それが我々の違いだ」

こうしてザルファーはドミナリアから切り離されたのでした。《テフェリーの防御》はまさしくその場面です。『統率者(2017年版)』で登場し、そして統率者向けとはいえ「フェイジング」が突然帰ってきたことに多くのプレイヤーが驚きました。思えばその翌年春のセットが『ドミナリア』。プレインズウォーカーとしてのテフェリーが帰ってくる伏線だったのかもしれませんね。

このときウルザは、ザルファーが戻ってきたときに起こるであろう災害を危惧しました。巨大な地塊が突然現れたなら当然、大津波が発生します。実際には、こうしてザルファーを切り離したことで次元規模のもっと大きな危機がもたらされるのですが(正確には、ザルファーは多くの原因のうちの1つですが)、それは『時のらせん』にて語られます。

そして時は少し流れ、シヴでもまた戦いがありました。ただ、ここでは《点火するものデアリガズ》の奮闘もあってファイレクシア軍は一旦撃退されます。ドラゴンもドミナリアのために戦う、デアリガズのその言葉にウルザは満足でした。ジョイラもまた故郷シヴを守るために力を尽くし、マナ・リグを守るという役割を果たしていました。

ウルザはさらなる活躍を期待しますが、そこで彼女の隣にテフェリーが姿を現します。シヴはファイレクシアの手に落ちさせはしない、ザルファーと同じように守る――ジョイラも同意済みでした。ザルファーに続いてシヴもドミナリアから切り離し、ファイレクシアとの戦争から撤退するというのです。当然ウルザは怒り狂いますが、かつての生徒2人は動じませんでした。

小説「Invasion」チャプター20より訳

「ドミナリアを破滅させる気か」ウルザは怒り狂い、テフェリーは落ち着いてかぶりを振った。

「いいえ。そうしようとしているのは先生のほうでしょう」

ウルザの両目が燃えた。マイトストーンとウィークストーンがはっきりと見えた。

「私はこの世界を救う」

「それは約束していないでしょう」とテフェリー。「先生が約束するのは、どれほどの対価を払おうともファイレクシアを打倒する、それだけです。私の故郷をその対価にはさせません」

「この地を持ち出すなど!許さぬ!」

ウルザは吠え、テフェリーは肩をすくめた。

「許さないのはどうぞご自由に。ですがもうフェイズ・アウトは進んでいます。ウルザ先生、プレインズウォーカーといえども時を止めることはできません。バリン先生とデアリガズを伴って立ち去り下さい。さもなくば何十年、何百年もここに囚われます。お選び下さい」

ウルザは言葉を失い、震えた。

時間のひずみ

『インベイジョン』でテフェリーとジョイラが一緒に写っているカードがこれしかなかった。憤慨するウルザとは裏腹に、バリンは2人の決意を理解したようで、簡素な別れの言葉を告げました。プレインズウォーカーでないとはいえ、バリンもこの時点で千年以上を生きてきました。この生徒2人とはまた少し長い別れになる、くらいに思っていたのかもしれませんね……。一方でウルザは無言でバリンの手とデアリガズの鉤爪を掴み、立ち去りました。

以上が、『インベイジョン』におけるテフェリーの動きになります。この先、侵略戦争の終結まで物語を追ってもテフェリーの登場は一切ありません(ほかのキャラクターが時折名前を出す程度)。故郷をファイレクシアから守るために、戦争から撤退した。むしろ、ウルザによって故郷を戦争の犠牲とされるのを防ぐために撤退した……でしょうか。

自分はドミナリアに残って戦う選択肢はなかったのかなとも思いますが、最近公開された記事「テフェリー:ビハインド・ザ・マジック」には「ふたつの国家をフェイズ・アウトさせるために力を使い果たし、ファイレクシアと戦うために用いる力は何も残っていなかった」とありました。理由は何にせよ、ここでテフェリーは一旦物語から離れます。そして、次に本格的に戻ってくるのは『時のらせん』ブロック。ドミナリアどころか、多元宇宙の歴史における重要な転換点です。

7. スカージの謎

これも取り上げる必要があるでしょう。侵略戦争から100年後(『時のらせん』から200年前)、オタリア大陸にて。途方もない力を持つ魔法のアーティファクト、《ミラーリ》を巡る争いが勃発しました(第65回にてその前半部、『オデッセイ』ブロックの物語を解説しています)。古代のドミナリアにて上古族のドラゴンを封じた魔術師たちが再誕し、そしてドミナリアのすべてのマナが《邪神カローナ》として具現化しました。

ミラーリ邪神カローナ

彼女は女神として崇められながらも自らの存在に悩み、同じように神の如き力を持つ存在を召喚して話を聞こうとしました。その際、5色のうちの白代表として呼び出されたのが、当時まだフェイズ・アウト中だったテフェリーでした。以下、当時の会話になります。

小説「Scourge」P.172より訳

「ごきげんよう、カローナ」

彼女はその男を見つめた。『知っているのか』

その男は膝を曲げて座り、顔を上げると悪戯な笑みを浮かべた。「ずっとね」

『其方の名は』

「テフェリー」

『其方は神か?』

テフェリーはただ笑みを大きくし、それは眩しいほどだった。「子供の頃は、そうだと思っていたよ。今は違うとわかっているがね」

カローナの瞳の光が消えた。『其方は何者だ?』

彼は肩をすくめた。「魔術師で、プレインズウォーカーで、閉じた小さな次元の統治者――神には近いけれど、神ではない」テフェリーは彼女の目を覗き込み、そして視線を下へ向けた。「私は100年前に貴女の世界から来た。ドミナリアは大いなる危機にあり、私はその一欠片を――ザルファーというのがその名だ――ヨーグモスの手から守るために切り取った。シヴの一部もだ。以来ずっとそれらを守りながら、戻すべき時を待っていた。あるいは、その時が来たのかもしれないな」

ですが、後に『時のらせん』にて、フレイアリーズにこの件を持ち出されたテフェリーの反応はなぜか食い違っていました。

小説「Time Spiral」チャプター5より訳

「(裂け目は)ずっとマナを吸い取っているのですか?」

フレイアリーズはそれを睨みつけ、歯ぎしりをした。「常にではなかったわ。カローナが来てからよ」

「ふむ。それはいつのことです?」

「あなたが姿を消してから一世紀程か、もう少し。トレイリアの関係者はいつも時間の測り方を面倒くさくしてくれる」

テフェリーは肩をすくめた。「かもしれませんね。カローナとは誰ですか?」

軽蔑を隠さず、彼女は唖然とした。「知らないふりなんてどういうつもり?」

「知らないから、ですが」

「カローナはあなたと話していた。オタリアの信者たちがずっと喋っていたわよ、カローナは世界で最強の魔法的存在何人も呼び出しては追い払っていた、まるで話を聞いて回るように。話によればあなたもその中にいたということよ」

「聞いたことも、会ったことも、話したこともありません。私に会ったというのなら、それはカローナが見た夢なのでしょう」

………!?当時読んでいた私もフレイアリーズと一緒に唖然としました。どういうことなの……。テフェリーがこの件について嘘を言っている様子は全くありません。またテフェリーのメインカラーは青であり白ではありません。今もってこの件について理にかなった説明はなく、ファンの間ではカローナが見た幻か、はたまた平行世界の存在だったのではと推測されています。

8. 時のらせん

さて、『時のらせん』です。この連載では一体何度語ってきたかでしょうか。ちなみに『時のらせん』というセットが発表されたのは2006年3月、その名に「あの凶悪カードが再録されるのか!?」とも一部で話題になりました(当時は今ほど「再録禁止」の概念が広まっていなかった感じ)。セット名がカード名、というのは時々ありますが『時のらせん』ブロックは3セットがそれで一貫しています。

時のらせん次元の混乱未来予知

テフェリーがシヴとザルファーをフェイズ・アウトさせてから約300年。ようやく、それらがあるべき場所に戻るときがやって来ました。しかし、テフェリーはドミナリアの何かがおかしいと気づきます。彼の目に、ドミナリア次元はガラスの器のようにひび割れて見えたのでした。テフェリーはジョイラに状況を説明し、現地での本格的な調査が必要という結論に達しました。

2人は仲間を率いて一足先にドミナリアへと降り立ち、その風景に絶句しました。ドミナリアは荒廃しきっていたのです。確かに、この次元は数千年の間に幾度もの大災害を被ってきました。ウルザの殲滅破、トレイリアの時間災害、ファイレクシアの侵略、カローナの誕生と死。ですが目に見えないところでも、大地とマナの繋がりが激しくダメージを受けているとテフェリーは感じ取りました。

広漠なる変幻地平地山

手がかりを求め、テフェリー達はスカイシュラウドの森にてフレイアリーズに対面しました。ファイレクシアの侵略を戦って生き延びた数少ないプレインズウォーカーの1人です。彼女は侵略戦争から逃げたテフェリーに冷たくあたりながらも、何が起こっているのかを説明しました。

ラノワールの憤激、フレイアリーズ

スカイシュラウドを含むドミナリア各地で次元構造の裂け目ができており、マナがそこから流出しているのです。テフェリーが見るにそれは空間と時間のひび割れのようで、次元の構造を不安定なものにしているようです。

調査を進めると、そういった裂け目はドミナリア各地にありました。このままではマナが流出するだけでなく、ドミナリア次元はそれこそガラスのように砕け散ってしまうでしょう。またシヴとザルファーにも裂け目はありました。テフェリーが切り取った際にできたものです。フェイズ・アウトから安全に着地させるには、それらに対応する裂け目を塞がなくてはなりません。それだけでなく世界を元に戻すためには、すべての裂け目を塞ぐことが不可欠です。

また、恐らくテフェリーやフレイアリーズは知らなかったと思われますが、裂け目はドミナリアの外へも影響を及ぼしていました。ラヴニカ次元は多元宇宙の中で隔離状態に陥り、死者の霊が滞留したために《幽霊街》が形成されました。また神河次元では現し世(生物の世界)と隠り世(精霊の世界)との境が揺らいだことから「神の乱」の勃発に繋がります。

幽霊街復讐の神、大口縄

そして裂け目を調査する旅の中で、テフェリーは未知の力を秘めた者たちに出会います。スカイシュラウド・エルフとケルド人の血を引くラーダと、アーボーグ出身の人間の工匠ヴェンセール。マナが流出して痩せ衰えたドミナリアで、2人は逞しく瑞々しい生命力を放っていました。それは新たな類のプレインズウォーカーの灯なのでは、そうテフェリーは推測しました。

ケルドの後継者、ラーダ造物の学者、ヴェンセール

やがて、テフェリーは裂け目を塞ぐ手段を見出しました。プレインズウォーカーの灯は裂け目と相互作用を起こすのです。またシヴとザルファーを元に戻すにあたって、テフェリーには思い当たるものがありました。ファイレクシア侵略戦争において、ボウ・リヴァーという船乗りのプレインズウォーカーは、自らの力を使い果たして生涯愛した海の一部を守ったのです。

反論プレインズウォーカーのいたずら

シヴはまもなくドミナリアへ戻ってきます。安全に着地させるには、同じ行動を取るしかないとテフェリーは悟ったのでした。彼は旅の仲間へと感謝を告げ、ジョイラに後を託してシヴの裂け目へと身を投げました。以下、その際のテフェリーとジョイラのやり取りです。

小説「Time Spiral」チャプター25より訳

『テフェリー、さよならってどういうこと?何をするつもりなの?』

『ボウ・リヴァーと同じことを。300年前に私もこうするべきだった。侵略戦争のとき、彼は世界の片隅をファイレクシアの疫病と戦争機械から守った、私たちと同じように。違ったのは、彼はそのために自らを犠牲にしたということだ。私もそうしていれば……』

『そうしていたら、あなたは死んでシヴはドミナリアに残されたままになっていたわ』

『そうかもしれない。過去は変えられない……私の力をもってもそれはできない。できるのは、正しいとわかっていることだ。それを今すぐに。もっとも必要とされているときに』

『テフェリー、やめて。ほかの方法があるはずよ』

『あるかもしれない、だが私も君も今すぐにそれを考えつくことはできない……』

『ほかの裂け目はどうするの?ザルファーは?あなたは故郷の守護者でしょう。死んでしまったら、誰が代わりになるの?』

『わからない。だが君なら心当たりがあるだろう。さあ、よく見ていてくれ。私の行動から学んでくれ。上手くいったならフレイアリーズ、ウィンドグレイス、それとカーンに会って欲しい。ここは成功させる。軌跡をはっきりと残しておく。君はほかのプレインズウォーカーが続くように取り計らってくれ』

『できないわ。嫌よ。テフェリー、私は納得なんてしない』

『君に選択肢はない。私たちの誰にもない』

ジョイラは返答せず、怒りと失望で詰まりそうな感情がテフェリーにはわかった。戻ってくるつもりはないのというのは良いことだった。ジョイラは決してこの行動を許さないだろうから。

当時、プレインズウォーカーはまだ全知全能の神のごとき存在でした。力と自信に満ちて、定命とは異なる価値観と視点を持っていて、それゆえに例えテフェリーといえども傲慢さがあるのはどうしようもなくて……それが自己犠牲の精神を見せるということ自体、当時私はひどく衝撃を受けたのを覚えています。

え、ちょっと待って、テフェリーここで死んでしまうの!?……ですがもっと大きな衝撃がその先に待っていました。シヴの裂け目に同化するように消えていったテフェリーでしたが、不意に意識を取り戻しました。ひどい眩暈をこらえて身体を起こすと、仲間たちが取り囲んで見つめています。ジョイラは喜びよりも怒りの言葉を向けました。相談もせずに犠牲になりに行くなんて。とはいえ、テフェリーは本当に死んだと、消えたと思ったのでした。

ところでシヴは無事にドミナリアに着地したようでした。早速、斥候たちがこちらの様子を探りに近づいているとのこと。遠巻きに見つめる群衆の最前列はゴブリンで、一体がこちらに石を投げてきました。テフェリーは全く意に介さず、ジョイラと話を続けるのですが……

同チャプターより訳

ゴブリンの投げた石がテフェリーの禿頭に跳ね返った。

「っ!」

驚いたことに、彼は実際に痛みを感じた。テフェリーは手を伸ばして滑らかな頭皮に触れた。手を目の前に持ってくると、その指は赤く濡れていた。

「む、これはまずい」

ジョイラが顔を上げた。

「怪我をしたの?」

「少しだ」

「プレインズウォーカーは血を流さないわよ」

「ああ。普通は」 テフェリーは弱々しく微笑み、地面にばたりと横たわった。「怪我をしたのだろうな」

プレインズウォーカーは血を流さない。テフェリーは死ぬつもりで行き、けれど死なずに戻ってきて、こうして怪我をして血を流している、定命の存在のように……つまり、彼は、プレインズウォーカーで、なくなってしまった?そんなことありうるの!?当時これを読んだときの驚きもまた忘れません。

ザルファーの魔道士、テフェリー

この展開が語られた『時のらせん』小説の発売はカードプレビュー前でした。当時「プレインズウォーカーは強すぎるためカード化不可能」と言われていましたが、ここでテフェリー本人がカード化ということで結構騒然となりました。ヤヤ・バラードもプレインズウォーカーですが《特務魔道士ヤヤ・バラード》は過去の姿、一方テフェリーは現在の姿であり、プレインズウォーカーでなくなってしまった……そのネタバレも結構早くに公開され、やはり騒然となっていたような気がします。

9. 人として

シヴは問題なくドミナリアに着地したものの、テフェリーは力を失ってしまいました。そしてドミナリアの裂け目はまだ世界各地に残されているのです。この先も起こる様々な危機に、ただの人となったテフェリーはどのように立ち向かっていくのでしょうか。そして神のごときかつての自分の行いに、どう向き合っていくのでしょうか。

ザルファーの虚空

(続く)

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若月 繭子

若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら