あなたの隣のプレインズウォーカー ~第65回 陰謀団とオデッセイブロックもリマスター~

若月 繭子

若月 繭子

 こんにちは、若月です。まずは宣伝させて!

 今回も監修を担当させて頂きました。ありがたいことに反響も非常に大きく……。2ページ目のジェイスを抱きしめるヴラスカの場面、そう、これ、何よりも絵で見たかったものがここにある……! 背景世界好きにとっては素晴らしい時代になったものです。私もまだまだ頑張るよ!!

 そして『ドミナリア』の展開についても、著者インタビューの形式で幾つかの情報が提示されています(参考: 1 / 2 / 3 )。そこから今ひとまず間違いなく言えることは、

 !!!!!

洞察のひらめき

 さすがに……これは……興奮するなって方が無理じゃね? 陰謀団にウェザーライト、そしてそんな要素がきっと現代のプレインズウォーカー達と遭遇してあれやこれやの物語が、なんですよね? 死にそうなくらい楽しみなんだけど!!!

 で番外編4の時にも思いましたが、ドミナリア次元は過去の積み重ねが只事でないくらいにあるので、ほんのちょっと新情報が出るだけで復習すべき内容が氾濫してしまいます。ウェザーライト号についてはちまちまと進めていますが陰謀団はこれまでほとんど触れていませんでした。彼らが活躍するのはオデッセイ・オンスロートブロックであり、私はここの話も結構好きなのですがなかなか機会がなくて詳しく取り上げてきませんでした。なら今書くしかないでしょ!

 そういうわけで今回は『ドミナリア』への予習として、「陰謀団」を中心にオデッセイブロックの物語をおさらいします!

1. オデッセイブロックとは

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 まずはオデッセイブロックの大まかな解説から。これは小説「Odyssey」に掲載されていた、オデッセイ・オンスロート両ブロックの舞台であるオタリア大陸の地図です。非常に簡素ではありますが、主要キャラクターの出身地や物語中で訪れる場所の位置関係がだいたい把握できます。次元カードも存在します。

公式記事「THE PLANES OF PLANECHASE」より一部抜粋・訳

ドミナリア次元、オタリア

このカードには『オデッセイ』『オンスロート』ブロック、《カマール》《ミラーリ》の物語の舞台となったオタリア大陸の遠景が描かれています。《陰謀団のピット》で有名なカバル・シティと、ボールシャン湾周辺地域が見えますね。

 ドミナリア次元、『アポカリプス』から約100年後のこと。オタリア大陸はファイレクシアによる侵略の主戦場にこそならなかったものの、疫病が撒かれて人口が激減してしまいました。「力こそ正義」の混沌が満ちる新時代、それを自ら切り開き、力を得てのし上がろうとする人々……この両ブロックはそんな舞台で繰り広げられる物語です。オデッセイ・オンスロートブロックは連続しており、何人かの登場人物も継続して登場しています。『オデッセイ』から『スカージ』まで、ある意味六部作のように考えても良いかもしれません。

製品アーカイブ-オデッセイより引用

命懸けのピットファイトが新たな世界秩序となった、100年後の苛酷なドミナリアが舞台。『オデッセイ』は、墓地の力を利用するようデザインされた新メカニズムが特色だ。全く新しい種族や舞台による、新たな三部作がここから始まる。

 「ピットファイト」とは、物語のメイン舞台の一つカバル・シティの闘技場で行われている、見世物と賭けを目的とした戦闘です。この時代のオタリア大陸で最もポピュラーな娯楽であり、多くの人々が観戦と賭けに興じ、それによって主催の陰謀団は更なる利益を得ています。そして勝者へ贈られる褒賞や自身に賭けることで得る金、はたまた実力試しや名誉を目的に大陸各地から多くの強者がカバル・シティに集います。

陰謀団のピット

 次に「全く新しい種族」。オデッセイブロックでは新登場の種族や、登場はしていたもののマイナーだった種族が大きく取り上げられました。前者はエイヴンやセファリッドやナントゥーコ、後者はケンタウルスやドワーフ。逆にオタリア大陸には生息していないということで、ゴブリンやエルフといった「定番種族」が全く登場しませんでした(次のオンスロートブロックにて「海を渡って来た」という設定で登場しましたが)。

エイヴンの魚捕りセファリッドの警官ナントゥーコの影

 メカニズムも全く新しく、まず『オデッセイ』で登場したのは「スレッショルド」「フラッシュバック」。ここまで墓地を意識し活用するというのも、それまではリアニメイトのような特定のデッキ以外にはありませんでした。スレッショルドは続く『トーメント』で登場した「マッドネス」ともよく噛み合いました。

秘教の十字軍獣群の呼び声癇しゃく

 ともかくも長く続いたウェザーライト・サーガが終わり、舞台となる次元こそ同じドミナリアでありながらも、カードはあらゆる面で新しい世界を語ってくれていました。

2. そのキャラクター

 ウェザーライト・サーガ程ではありませんが、こちらも多くの伝説クリーチャーが物語で活躍していました。オデッセイブロックの主要キャラクターを紹介します。

■ カマール

ピット・ファイター、カマール

 主人公カマールはオタリア大陸西部の山岳地帯、パーディック山出身のバーバリアンです。実力を示し名誉を得るべく山を下りてカバル・シティへやって来ました。普段は誰に対してもそっけない態度で接しますが、誠実な相手に対しては心を開き、真の友情を捧げます。戦いにおいては恵まれた体格で振るう大剣と、炎の魔法を武器とします。 カマールが愛用する剣、その根元から柄部分は独特の形状をしていますが見覚えはないでしょうか? これはウルザの杖を鍛え直したものです。

 時は侵略戦争終結直後。荒野を放浪していたドワーフのバルソーは、ファイレクシア兵の残骸に刺さったままの杖を発見しました。それは古代スランの金属製、そのような杖を振るう者は一人しかいなかったと彼は即座に察しました。少しして彼はファイレクシアの生き残りに取り囲まれた人間の戦士マトックに遭遇し、協力して蹴散らします。会話を交わすと二人は同郷とわかり、オタリアへの帰路を共にすることになりました。陸路も海路も決して楽ではなく、旅路の中で二人は友情を育みました。

 ある時バルソーは明かします。戦いに生きてきた自分は今更ドワーフ一族の平穏な生活に戻ることには耐えられないと。それを聞いたマトックは自分の部族へ来ないかと提案しました。バルソーはマトックの故郷の村へ向かい、余所者が部族に入るための試練を通過し、種族は異なれど受け入れられました。後にバルソーは例の杖を剣へと鍛え直し、友情の証としてマトックに与えました。そしてカマールはマトックの孫にあたります。

 この話は短編集「The Secrets of Magic」にて語られました。バルソーとマトックの、熱くも心地良い友情の物語です。ちなみにウルザの杖だから何かあるというわけではなく、単にそういう設定だよ、というだけのようです。

■ バルソー、ジェスカ

頑強なるバルソー熟達の戦士ジェスカ

 そのバルソー。ファイレクシアの侵略戦争を生き延びた古参兵であり、上に書いたようにカマールの祖父の親友でした。最新のオラクルではバーバリアンのクリーチャー・タイプをしっかり得ています。ジェスカはカマールの妹、カード能力もそっくりですね。兄妹にとってバルソーは師匠であり親代わりです。

■ チェイナー、シートン

狂気を操る者チェイナークローサの庇護者シートン

 カバル・シティでカマールが出会い、友人となるのがこの二人です。チェイナーは陰謀団の所属、物語の中で「狂気の召喚士」となってカード能力の通りにナイトメアを使役します。「チェイナー」は通り名であり、その通りに鎖(Chain)での戦いを得意とします。彼はカバル・シティへ来たばかりのカマールへと街の様々な流儀を教えました。『トーメント』の物語はむしろチェイナーが主人公と言っていいかもしれません。最近パウパーで《チェイナーの布告》が有名ですが、こちら当時のスタンダードでも黒系コントロールで盛んに採用されていました。

 一方のシートンはクローサの森出身、ピットで共に戦ったことからカマールと意気投合しました。カマールは赤、その友が黒と緑。ここにも人間関係のカラーホイールがわかりやすく現れています。

■ カーター、ティーロ、イーシャ

隊長補佐カーターティーロ大隊長司令官イーシャ

 オタリア大陸北端と南端に勢力を持つのが白のオーダー(騎士団)。彼らは「祖神」という存在を信仰する宗教的かつ軍隊的な組織です。オデッセイブロックではその代表者格の伝説クリーチャーが代替わりして3人登場しました。陰謀団に対するスタンスもそれぞれ異なります。カーターは自らピットで戦うことで騎士団の強さを示そうとし、ティーロは陰謀団を嫌悪して大規模な戦いを仕掛け、一方イーシャは穏健な対応に努めて最終的には一連の争いから撤退しました。ご存知の方もいるかと思いますが私この《司令官イーシャ》というカードが(キャラクターも)大好きでして、当時から無限収集を行っています。現在たぶん800枚以上あります。

■ ラクァタス

ラクァタス大使

 大陸の周辺海域はセファリッドが支配するMer Empire(海の帝国)となっているのですが、地上の活動能力が非常に限られる彼らに代わって陸上との使者を務るのがこのラクァタス。水中ではヒレ、陸上では二本脚になる水陸両用マーフォークです。精神魔術と権謀術数に長け、陰謀団とオーダーに顔がきくこともあり、やがて大陸を我が物にするという欲を見せはじめます。

 余談ですが私このラクァタスにちょっと負い目がありまして。『基本セット第10版』にて過去の伝説クリーチャーが各色2枚ずつ再録され、当時の日本公式ウェブサイトに彼らの背景ストーリー記事が掲載されました。そしてそれらが私のMTG公式デビュー作だったのですが、ラクァタスについては当時の私の身辺的事情でいつまでも書けないまま時が流れてしまったのでした。ごめんよ。

 次の項目では、そもそも今回の記事を書くきっかけになった「陰謀団」について解説します。

3. 陰謀団とは

 この項目では「オデッセイ・オンスロートブロック当時の」陰謀団について解説します。話中で260年を経ている『ドミナリア』の陰謀団とは異なる点があるかもしれません。そこはご了承ください。

 元の陰謀団はオタリア大陸の一勢力でした。当時のスタンダードでは黒が強く、そしてその名を冠する多くのカードが活躍していたことから知名度は高いかと思います。今もレガシー・ヴィンテージで使われるカードがありますね。

陰謀団式療法

 「前任」の黒勢力、ファイレクシアはドミナリアの全てを賭けても滅ぼさねばならない敵でした。ですがオタリア大陸の陰謀団が物語における「敵」かと言われると必ずしもそうとは限りません。彼らは金と富、そしてそれを統べる魔神クベールを信奉しています。とはいえ宗教色は薄く、富と繁栄に重きを置いてオタリア大陸中央部を支配しています。そして侵略戦争の爪痕が残る厳しい世界で、恐怖や力だけでそれらは手に入らないことをよく心得ています。

小説「Torment」P.7-8より抜粋・訳

陰謀団は大陸全土で繁栄している。だが彼ら(オーダー)は、陰謀団の構成員は一人残らず犯罪者であり、陰謀団そのものも社会に腐敗を振りまく存在とみなしている。文明的なオタリア人はあらゆる場所で陰謀団に関わっている。彼らは望んで、そして繰り返し陰謀団の興行に赴き、陰謀団の金を借り、陰謀団の保護を求める。チェイナーが知る限り、オーダーは漠然とした精神的報酬だけを約束している、それも彼らの子供じみた正義感への服従次第だ。陰謀団はずっと具体的かつ現実的だ。食べ物を、家を、そして陰謀団のために働きたいと思う者には教育をくれるのだから。

 丁度ラヴニカのオルゾフギルドが「ある程度の平和あってこその金儲け」と秩序側にいるのに近いかもしれませんね。原語の「Cabal」は普通名詞であり、手元の辞書には「(通例政治目的を持った小規模の)陰謀団、秘密結社、徒党、派閥、陰謀(plot)」とあります。物語で描かれる陰謀団は確かに「秘密結社」的な性格を多分に含んでいます。例えば陰謀団の構成員は皆「秘密の名」を持っており、誰かのそれを知ることはその者を支配することを意味します。

 そのように陰謀団には様々な面があるのですが、最も有名かつ多くの利益をもたらしているのが首都とでも言うべきカバル・シティにおけるピットファイトです。戦うのは富や栄誉を求めて訪れた闘士だけでなく、クローサの森やパーディック山から連れて来られた野生生物、狂気の召喚士が創造する怪物と様々です。

 そして陰謀団ではこの「狂気の召喚士」が重要な地位にあります。オデッセイブロックには「ナイトメア」のタイプを持つクリーチャーが多数存在しますが、これらは狂気の召喚士らが呼び出す怪物。実在する動物をどこか歪ませたものから、全くの異形までその姿は多種多様です。

顔なしの解体者催眠の悪鬼世界喰らいのドラゴン

 狂気の召喚士は自らの心の奥底にある狂気の空間を開き、その中からおぞましい怪物を呼び出します。彼らは陰謀団の中で高い地位を持ちますが、魔術の才能を持っていてもそこに至る者は稀で、多くが命を落とし、もしくは狂気から二度と戻ってきません。

 また、負傷した闘士が速やかにピットへ戻れるよう、陰謀団は医療技術にもある意味で秀でています。失った肢や組織の代わりに義手義足や別の生物の組織を縫合することも珍しくありません。

縫合陰謀団の外科医怪奇な混種

 というようにある面では現実的な、ある面では非常におぞましい組織である陰謀団。それを統べるのは齢二百歳以上を数える総帥です。誰もが怖れ敬う存在、落ち着きと余裕を漂わせる支配者であり、陰謀団だけでなくオタリア全体を見通す視野の広さと度量の大きさを持ちますが、時には情け容赦のない一面も見せます。ただそこにいるだけで死のオーラを放ち、直接触れた者は直ちに萎びて死に至るという恐ろしい能力の持ち主です。

陰謀団の総帥

 総帥は陰謀団の創設者であり、魔神クベールの最初の信奉者です。遠い昔、永遠の命を得てその神へ仕え続けることを願い、家族を生贄に捧げることで死の力と不老の肉体を得ました。第48回でも書きましたが、《占骨術》『コンスピラシー』版に付いたフレイバーテキストは総帥を指しているものと思われます。

占骨術占骨術

《占骨術》 『コンスピラシー』版フレイバーテキスト

彼が惹かれた闇の宝に比べれば、彼の家族など安い代償であった。

 そして上に書いた「死のオーラを放ち、直接触れた者は死に至る」その力は権力と富だけでなく、彼に大いなる孤独をもたらしました。それは次のオンスロートブロックで重要になってきます。

 そして陰謀団のキャラクターとしてはもう一人、カードも印象的なこちら。

陰謀団の先手ブレイズ

 ブレイズは熟練の「狂気の召喚士」であり、長年陰謀団に仕えてきました。「狂気の召喚士」の多くがそうであるように、一見全くもって正気である中に尋常でないものが潜む、そんな人物です。

 そして本人のカードもトーナメントで活躍していました。「ノワール」などの黒系コントロールが有名かと思います。『次元の混乱』ではとても清純な「平行世界のブレイズ」がカード化されましたが、残念なことに物語には関わっていませんでした。

妖術の達人ブレイズ

 更にオデッセイブロックの物語を動かすのが、この陰謀団が所持していた一つの宝物です。

ミラーリ

 持つ者の願いを増幅し、それを現実にするだけの力を与える宝玉。多くの者がこれを手に入れたいと願い、そしてその力に取り憑かれて破滅していきました。同時に陰謀団はミラーリを巡る者らの強欲を利用し、潜在的な敵を自滅させるように仕向けました。

カーターの願望アボシャンの願望総帥の願望
カマールの願望シートンの願望

 これは一体何なのか? 既にこの連載でも何度か取り上げていますし書きましょう。ミラーリの正体はプレインズウォーカー・カーンがドミナリアへ放った「探査機」です。物理的にではありませんがミラーリはひび割れており、それを持つ者へと悪しき影響を与えていたのでした。まあ、物語に関係してくるのはミラーリが持つ力であってその正体ではなかったのも事実なので。

4. その物語

 さてオデッセイブロックは言うなれば「ミラーリを巡り争う人々の物語」になります。記事構成の都合上、3セット分一気になりますので結構な駆け足になってしまいますがご了承ください。詳しい内容を知りたい人は2001-2003年頃の「デュエリスト・ジャパン」や「GAME ぎゃざ」のバックナンバーを探すべし(晴れる屋TCの本棚でも読めます)。

■ オデッセイ

 物語はカマールがカバル・シティへ到着する所から始まります。故郷で並ぶ者のない戦士であった彼はピットで更なる栄光を手にしようとしていました。そこには彼が望む強者との戦いだけでなく、出会いもありました。騎士団の鳥人カーターの恐るべき戦いぶりを目撃し、陰謀団の若者チェイナーからは街の流儀を学び、クローサの森出身のシートンとはタッグ戦にて勝利したことで意気投合しました。

 ある時、クローサの森に棲むドラゴンがカバル・シティを襲撃しました。人々が逃げ惑う中、カマール達ピット・ファイターはドラゴンと戦います。カマールがその剣と炎の魔法でとどめを刺すも、ドラゴンの下敷きとなってしまいました。自身の数十倍の体重に、自力で脱出するのは不可能でした。彼は長時間放置された屍の下でもがき続け、ですがその間に、街を救った英雄としてカーターが称えられていました。彼は陰謀団からの褒賞を提示された際、その中にあった宝玉に目をとめました。

小説「Odyssey」P.86より抜粋・訳

その球は力の叫びを放っていた。鈍色の金属の表面はまるで燃え上がったように、カーターの目に涙が滲んだ。柔らかく呼ぶその魔力は今や世界を満たしていた。揺らめくエネルギーが落ち着くと、カーターは傷一つないその球を手にとった。明晰の深淵が彼へと呼びかけ、カバル・シティからその心を引き離した。戦いの惨害と街路の悪臭は消え去った。清純と栄光がカーターを包んだ。物言えぬ観衆は彼だけを見つめ、その周囲に広がる展望に目を向けてはいなかった。

気が付くとカーターは戦場にて、敵の只中を駆けていた。誰も動けず無力で、彼の呪文はそれらを無へ帰した。オーダーの戦旗が勝利にはためいた。征服、栄光、それが手にされる時を待っている。カーターの心臓が跳ねた。

手にしたその途方もない球を再び見つめると、映像は消えた。耳には観衆の歓声が届いたが、彼はそれを無視した。自分が見た未来を味わうには値しない者達。今や真の力を手にした自分にはそぐわない街。彼は報酬をその手に、授けられた未来視をその心に固く握りしめた。

 少ししてカマールはシートンにより救出されますが、その時には既にカーターはミラーリを持ってカバル・シティを去っていました。本来は自分のものになる筈であった名誉と褒賞を横取りされた彼は怒り、シートンを伴ってそのエイヴンを追いかけました。同時にラクァタスも、その宝玉が何か途方もない力があるものだと気付き、オタリア大陸に巡らせた地下水脈を辿ってカーターを追いました。

 カーターはミラーリを大陸北部の城塞へ持ち帰るも、そこへ至る頃には完全に征服の夢に取り憑かれていました。有力者の一人であるピアナと口論になった彼はミラーリの力を暴走させて彼女を殺害し、更には力の暴走を制御できず、城塞を破壊して自らも衰弱死してしまいました。

遊牧の民の長ピアナカーターの怒り

 そしてミラーリはラクァタスの配下によって海の帝国へ持ち去られるのですが、ラクァタスの意図に反してそれは皇帝アボシャンの手に渡ってしまいました。アボシャンは地上に住む空気呼吸生物を下等な存在とみなし蔑んでいました。ミラーリを覗き込むとその思いは増大し、やがてアボシャンの力は巨大な津波を引き起こしてオタリア大陸の一部を水没させるとともに、暴走したその力によって彼の宮殿もまた崩壊してしまいました。

大洪水

 同時にアボシャンも命を落とし、一方でミラーリは海の帝国を訪れていたブレイズの手によって再びカバル・シティへ戻されることになりました。狂気の召喚士である彼女には、ミラーリの誘惑など通用しなかったのです。ミラーリを追っていたカマールは大津波に遭遇するも生き延び、ですがカバル・シティへと引き返さざるを得ませんでした。

■ トーメント

 ここで時間は『オデッセイ』の少し前へと遡ります。陰謀団の若者チェイナーは、ある時何かに呼ばれるような気がしてとある廃屋へ忍び込みました。そこで彼は神秘的な宝球を発見し、途方もない宝物であると即座に察します。彼は師匠のスケラム/Skellumと共にそれを総帥のもとへ持ち込みました。正直かつ忠実なチェイナーを総帥は称え、後にミラーリとして知られることになるその宝球は陰謀団の宝物庫へと入れられました。

陰謀団の貴重品室

 同時期に、総帥はパーディック山から一人の闘士がやって来ることを把握していました。ミラーリを見たならそれを求めることは疑いなく、そして上手く利用すれば陰謀団に大きな利益をもたらす存在。総帥はチェイナーに、その闘士カマールに接触するよう命じます。敵ではなく友となり、多くを学ぶようにと。初めて観戦するピットで突然声をかけられたカマールは当初警戒しますが、チェイナーが自らの身分と目的を正直に明かし、会話を交わすと二人はすぐに友人となりました。 やがてカマールはミラーリを追ってしばしカバル・シティを離れるのですが、その間にチェイナーは師のもとで狂気の召喚士としての修業を積みました。彼の才能と成長は目覚ましく、ピットで自らのナイトメアを用いて勝利を重ねました。ミラーリはオーダー北部城塞と海の帝国へ破滅をもたらして再び陰謀団のものとなり、続いてカマールも戻ってくると二人は再会を喜びました。

 そしてチェイナーは狂気の召喚士として一人前になるべく、クローサの森の獣を自らの糧とする戦いへ向かうことになりました。同時に師の存在がチェイナーの成長の妨げになっていると感じた総帥は、オーダーのティーロとの戦いにスケラムを向かわせることで彼を始末します。ですがスケラムは最期の力をもってチェイナーへと総帥の意図を伝えました。チェイナーはカマールを伴って森へ向かい、多くの獣を狩り、無事に儀式を完遂させました。一方でカマールは言葉少なにチェイナーの助けとなりつつも、そのようにして森の獣に死を与えることに疑問を感じずにはいられませんでした。

 二人が戻ると、カバル・シティがオーダーの襲撃を受けていました。二人は速やかに戦いに加わり、チェイナーは新たに得た力を振るって侵入者を殺戮しました。オーダーの生き残りは逃走しますが、その戦いでカマールは重傷を負ってしまいました。総帥はチェイナーの戦いぶりを称え、チェイナーは報奨としてミラーリの使用を求めます。カマールを治療し、また陰謀団の同盟者であるラクァタスのために使い魔を作るという約束を果たすために。総帥は交換条件としてオーダーへの復讐を命じました。チェイナーはティーロを追い、ナイトメアを用いて彼を殺害するだけでなく負傷兵の宿営地を壊滅させてしまいました。

 チェイナーが帰還すると総帥は約束通りミラーリの使用を許しました。まずチェイナーはラクァタスのために、ナイトメアの使い魔を創造しました。主の命令に忠実に従い、水陸両用の強靭な身体と戦闘能力を誇るそのクリーチャーは、総帥すらも目をみはるものでした。

ラクァタスのチャンピオン

 続いてチェイナーはカマールを、その傷に蛇の皮を魔法的に移植することで治療しました。ですがカマールはそれを喜びませんでした。バーバリアンの文化では、自らの力で回復し、失ったものがあればそれが無くとも戦える術を学ぶべきとされています。カマールは部族の信条に反するよりも、チェイナーからの贈り物を拒み、その皮膚を自ら焼き尽くすことを選択しました。

 一方で総帥はラクァタスのチャンピオンに感銘を受け、同様のものを自分にも作ってくれるかとチェイナーに願いました。それを了承してミラーリを手にしたその時こそ、スケラムの復讐をする好機でした。彼は以前にラクァタスと取引をし、海の帝国の古の書庫から総帥の真の名を把握していたのです。チェイナーは総帥を屈服させ、南の都市アフェットへと追放しました。

 間もなく、チェイナーはミラーリに完全に捕われてしまいました。彼は自らの望む陰謀団を創造すべく、これまでの全てを破壊しようと考えました。そしてミラーリの力を自らの狂気へと注ぎ、おびただしい数のナイトメアをカバル・シティへと放ちました。

 そして混沌と殺戮の中、友を止めるべくカマールが現れました。

小説「Chainer’s Torment」P.294より抜粋・訳

「カマール」

「チェイナー」

「謝りに来たのか、それとも俺を殺してミラーリを奪いにか?」

「どちらでもない。お前を止めに来た」

「止めに? 俺の何を止めに?」

「お前の破滅を。街の破壊を」 そして彼は肩をすくめた。「お前が何もかもを壊してしまうのを」

チェイナーの笑みが消えた。

「まだ俺のことを心配してくれてるのか、兄貴? 知っての通り俺はお偉いさんとは上手くやれない。いつも死ぬか、俺を裏切るかだ」

「チェイナー、俺はお前の兄じゃない。友だ。話を聞いてくれ。ミラーリを手放せ、でなければお前も俺も死ぬことになる」

「ああ、俺達も死ぬことになる。全てを作り変えるにはそれが必要だ」

「お前が手放さないのなら、俺がそうさせてやろう」

チェイナーの顔に笑みが戻った。「力づくでか。俺に勝てると本気で思ってるのか?」

「話は終わりだ」カマールは剣を抜いた。「戦おう」

 ミラーリを手にするチェイナーは、まだ完全な回復に至っていないカマールを易々と打ち負かします。ですがカマールはチェイナーの腕を炎の魔術で溶かし、チェイナーはミラーリの力を用いてそれを再生しようとしました。ですがその試みは失敗し、彼の腕からは別の生物のねじくれた組織が生えました。チェイナーはやり直すも、また更なる怪物的な身体となるだけでした。ですが彼はどこか冷静に、自らの惨状と周囲の大混乱はこの場に相応しくないと考えました。友に死を与える場には、自分達だけの静寂が必要だと。チェイナーは街から全てのナイトメアを呼び戻し……それらはチェイナーの狂気の内ではなく、身体に吸い込まれました。彼はおぞましく身悶えする怪物の塊と化してしまい、酷く不安定なそれが間もなく死に至るのは明らかでした。苦しむ友の最期を看取るとカマールはその遺体を炎の魔法で燃やし尽くし、ミラーリを手に取りました。

■ ジャッジメント

 カマールはパーディック山へ帰還し、ジェスカとバルソーに再会しました。ですが彼もまた、ミラーリの影響に抗うことはできませんでした。やがて襲い来るであろう陰謀団の軍勢に対処すべく、彼はパーディック山に散らばる部族をまとめる一人のリーダーを選出しようと呼びかけます。決める方法は無論、戦い。ですがそれは実質、カマールが全員に勝利して独裁的に支配することを目指すものでした。日に日に攻撃性と偏執を増していく兄をジェスカは止めようとしますが、結果としてパーディック山の蛮族はカマールの支持者とその反対者とに勢力を分かち、争いが始まろうとしていました。

限界点

 ジェスカはその争いを止めようとしますが、激昂した兄の剣がその腹部を貫きました。ジェスカは倒れ、そしてそれに至ってようやく、カマールは理性を取り戻し、ミラーリの影響を思い知ります。ジェスカはかろうじて生き延びるも、傷の中で青い炎を燃やしながら生命力を消耗していく状態でした。パーディックの蛮族にそれを治療する術はなく、カマールは友人のシートンを頼ってバルソーと共にクローサの森へ向かいました。道中、二人はオーダーと陰謀団が自分達を探していることに気付いていました。罠の可能性も考えつつ進みますが、森の端まで到着した所で遂に襲撃されます。自分が相手をする、と叫ぶバルソーを信じ、カマールは森の中へと急ぎました。

 やがて、待っていたようにシートンが現れました。短く再会を喜び合うと、シートンは可能な限りジェスカへと治療を施し、あとは彼女次第となりました。カマールは友へとこれまでの全てを話し、一方シートンはクローサの森の奥深い中心に住む最長老、スリスの存在をカマールに教えます。スリスは森の魂そのもの、元々シートンが森を出てカバル・シティで戦っていたのも、スリスに命じられてのことでした。ミラーリの存在を感じ取ったスリスは、それを調査し、必要とあらば戦うようシートンに命じていたのです。シートンはそれを持ち帰りこそしませんでしたが、スリスはミラーリの動向をはっきりと把握しており、今カマールが正しい意志と共にそれを森に持ち込んだと信じているのだと。

ナントゥーコの最長老スリス

 カマールは友にジェスカを委ねると、スリスを探しに森の奥深くを目指しました。何日も森を歩く中で、自身の内の何かが変化していくのを次第に感じながら。やがてナントゥーコの村へ着くと、スリスが彼を待っていました。カマールはこの場にミラーリを埋め、この呪われた宝物を巡る探究を終わりにしたいと申し出ました。スリス曰く、ミラーリは呪われてなどいない。ミラーリはこの外の世界からもたらされたものであるが、惨禍を引き起こしているのはミラーリではなく、それを持った者なのだと。そしてカマールはスリスからドルイドとしての生き方を、その力をもって心に静穏を見出す道を学ぶこととなりました。カマールは多くの時間を静かな瞑想の中で過ごし、森に向き合い、自然と共に生きる道を知っていきました。

 緩やかなその日々は、ですがラクァタスによって中断されました。彼はアボシャンの死後、その妃であった《セファリッドの女帝ラワン》に取り入ろうとするも結果は芳しくなく、オーダーを新たに率いるイーシャもラクァタスの権力欲と企みを察して離れ、遂にはわずかな部下だけを率いて自らミラーリを奪いにやって来たのでした。スリスは止めますが、カマールはそれを振り切りって戦いへと向かいました。

 そしてカマールの前にはラクァタスだけでなく、ゾンビと化したバルソーが現れました。ラクァタスのチャンピオンと相討ちとなって死んだ彼はブレイズの手によって蘇り、今や陰謀団の手駒でした。

汚らわしき者バルソー

 ラクァタスはそのバルソーを精神支配し、カマールと戦うよう仕向けました。バルソーはこの苦しみを終わらせてくれとカマールに懇願し、彼はその願いを叶えました。そしてようやくカマールはラクァタスに対峙し、ミラーリの剣でラクァタスを突き刺し、その刃を地面に埋め込みました。ミラーリの魔力が弾け、生命力が迸ると瞬く間に草がその屍と剣を覆い、木々は新たな枝を空へ伸ばし、花が咲き誇りました。そしてカマールはミラーリと荒々しい過去を捨て、真にドルイドとしての道を歩み出すことになります。

ミラーリの目覚め

5. 黒い恋人2018

 ……というように、ああラクァタスは倒されてカマールは悟りを開いて、ミラーリは森で安全に守られ、そしてジェスカも助かってめでたしめでたしなんだな、って思ったんですよ当時は。そうじゃなかった。カマールが戦っている間にジェスカはブレイズによって誘拐され、総帥の手によって触れる者に死をもたらすフェイジとなり、陰謀団やオタリア大陸も更に色々大変なことになるのが次のオンスロートブロックです。当初は今回一緒に書こうと思っていたのですがさすがに無謀でした(既にこの長さというあたりお察しください)。

触れられざる者フェイジ闇の末裔

 《闇の末裔》はクリーチャー・タイプ「アバター」が示すように、陰謀団の神クベールの顕現です。元のオンスロートブロックでは、総帥とフェイジの息子の肉体を得て現世に顕現しました……ほんと理解に飛躍を要するなこの説明。『レギオン』がそういう話なのですよ。触れた者を死に至らせる力を持つ総帥は、自身が触れても死なないフェイジへと焦がれるほどの恋慕を抱くようになる……「そんなキャラだったの!?」と思わず驚く、とても熱く濃い愛憎があります。総帥の心情描写を一つご覧ください(割と控え目なシーン)。

小説「Legions」P.63より抜粋・訳

フェイジが戻ってきたなら、我が物としよう、そして彼女もまた自分を求めるように。望む限り、フェイジが我が物となる――クベールが約束したように、そして彼女が背を向ける前に、殺そう。どのように? 薔薇の花を持って会おう。そう、だが彼女の手の中で腐り落ちてしまう本物の薔薇ではなく、鋼の薔薇を。その花弁を鋭く尖らせよう、彼女の心をものにできるように、そしてその心臓をえぐり出せるように。

 私は常々「同色・友好色のキャラは仲良し」と言ってますが、この二人は黒マナの濃さがとんでもない。たまにマジックにもこういう展開がある、とは今でこそ心得ていますが私もまだ若かったのでびっくりしたの何の。ちなみにこの最後の一文、原文は「after he captured her heart, he could cut it out of her body.」で、「heart」の単語一つで「心」と「心臓」の両方を意味してるんですよ。恐ろしくってロマンティック。

 この連載を続けてもう7年近くになり、マジックの物語については結構な範囲で触れてきた……と思っていました。そんなわけなかった。いや、今回の記事で改めてわかった、オデッセイ・オンスロートブロックについてはここで初めて書く内容の多いこと多いこと。そして過去の資料や情報や記述を漁るたびに15年前の私がひっきりなしに殴りかかってくるのでメンタルに来る。私が背景世界を探るだけでなく拙いながら色々発信するようになったのが丁度このオデッセイ・オンスロートブロックの頃であり、このあたりについてはあまりアップデートをしてこなかったので記憶や記述が当時のままなんですよ。黒歴史と言うつもりはないけれど若さと未熟さが溢れていてね……。

 それではまた次回に。

(終)

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