あなたの隣のプレインズウォーカー ~第56回 アモンケットへようこそ~

若月 繭子

小説「Emperor’s Fist: Magic Legends Cycle II, Book II」P.308より抜粋・訳

「我はニコル・ボーラス、プレインズウォーカーにしてエルダー・ドラゴン、最古にして史上最強、未来永劫最強の存在。それでも貴様は、我への策略を企てるというのか?」

 こんにちは、若月です。第50回で書いた『レジェンド』の小説を先日ようやく読み終わりました! これで詳しく語れます!! それなりに詳しい記述は(主に英語圏の)ネットにもありますが、やはり自分の目で確かめるまではね。記事を書くにあたっては常に原文や一次資料を参照するようにしています。とても大切。

『LEGEND』小説 全3巻

 画像に映っているこの表紙の人は《Ramses Overdark》。主に通勤時間を利用して読みましたが3冊で約一か月かかりました。でも面白かった! 《Tetsuo Umezawa》がひたすら格好良かった! 内容はいわゆる「武侠小説」だな、と思いました。こちらの詳しい話はいずれ「ボーラス回」を書く(……と思います)ときにまとめて紹介したいと思います。

 ですが今回は発売されたばかりの『アモンケット』、この世界を早速探りましょう!

1. どんな世界?

 アモンケットは久しぶりの「完全新規次元」。カラデシュ次元は本番の前に『マジック・オリジン』で顔見せがありましたが、今回は私たちにとっても登場人物にとっても新しい世界です。

 最初に公開されたビジュアルはピラミッドのような建築物、獣の頭部を持つ巨大な彫像。それだけで実に「エジプト的」なものに映りました。そしてそこかしこに見えるニコル・ボーラスの角の意匠、それどころか「ボーラスが支配する世界」と最初から説明されていました。たしかにボーラスほどの大ボスであったら、黒幕として隠されているよりは「これから出るぞ!」と最初からドーンと構えておいてもらった方がこちらもテンション高まります。『イニストラードを覆う影』~『異界月』で漂っていたエムラクールの気配もそれはそれで不気味でよかったですけどね。

 『アモンケット』が発表されたのは2016年8月末。ですが実はそのしばらく前に「エジプト次元」についてマローから少しだけ言及がありました。

公式記事「おしえてあなたの望むこと」(掲載:2016年3月7日)より引用

・エジプト風の世界 ― もう1つ有名な神話は、エジプト神話だろう。マジックでそれに近いものを扱ったことはないし、ポップカルチャーではよく用いられているモチーフの1つだ。

Pyramidsルーンの母

 「エジプトっぽい意匠のカード」なら時々ありますが、本格的にエジプト風世界が取り上げられるのは『アモンケット』が初になります。

 ちなみに同記事で挙げられている「リクエストの多い世界」としては「北欧神話世界」「海賊世界」「西部劇世界」などがありました。個人的には「海賊世界」が気になっています。『霊気紛争』で久しぶりに海賊・クリーチャーが登場、『エターナルマスターズ』時のMagic Storyもドミナリア、タラスの海賊が登場していました。もし海賊が取り上げられることになったら……そうですね、《ダク・フェイデン》とかイメージ合いそうだと思いません?(※個人の感想です)

 話がそれました。そんなエジプト風世界アモンケットへ、ゲートウォッチと同様私たちもわずかな情報しか持たないままに到着しました。これまでの多くの新セットでは、最初に多くの世界観情報が提示されていました。例えばカラデシュ次元では「発明博覧会」として大々的に街の様子や様々な発明品、それを作る人々が紹介されていました。そうではなくアモンケットはまさに手探りで進む、これはこれでとても新鮮です。そしてMagic Story『アモンケット』編第1話第2話では物語の進行と共にこの世界の概要が語られました。順に追ってみましょう。

■ 過酷な砂漠の世界である

 ゲートウォッチを出迎えたのは過酷な熱と砂嵐でした。何の手がかりもない中、まずは地平線上に見えたボーラスの角の形状をした巨大なモニュメントを目指します。そんな彼らへと砂に潜むゾンビや怪物が襲いかかりました。それこそ「ボーラスが支配する世界」として想像していた通りの厳しいスタート。

死後の放浪大いなるサンドワーム

 これまでもウラモグや機械巨人とタイマンをはってきたギデオン、またもデカブツとの戦いを強いられる。しかし破壊不能をいいことに毎回無茶しますね。おびただしい数の乾いた死骸が砂から立ち上がって群がり、行く手を阻みます。ゾンビということでリリアナの能力で多くを対処できたものの、続いて現れたのは巨大なサンドワーム。それも苦労しつつどうにかできると思ったときでした。ゲートウォッチは、殺したばかりのワームが自ら蘇るのを目の当たりにします。「呪いにより、死者は不死者となる」――ニッサはそんな、次元の声らしきものを聞きました。

■ 神がいる

 蘇ったサンドワームによってリリアナとニッサが同時に窮地に陥り、どちらを救うかという選択を迫られたギデオン。そんな彼を、ゲートウォッチを救ったのは突如現れた巨大で神々しい存在――それは瞬く間にサンドワームを退け、少しの間ギデオンの姿を認めた後、砂丘の彼方へ駆けていってしまいました。テーロス人であるギデオンはその存在を即座に「神」と認識し、畏敬と困惑を同等に抱きました。

熱烈の神ハゾレト/Hazoret the Fervent

※画像は公式記事「衝撃」から引用しました。

公式記事「衝撃」より抜粋

アモンケットには神々がいる。

この世界で見てきた全て――容赦のない砂嵐、死者の群れ、巨大なサンドワーム、死からの蘇り――だがこれは最も予想だにしない、そして最も奇妙なことだった。

■ 虹色の障壁に守られた美しい都市で人々が暮らしている

 一行は神が姿を消した方角へ向かい、やがて目にしたのは大河に育まれた肥沃な大地、美しく壮麗な建築物が並ぶ都市でした。そしてそこは虹色の障壁に覆われて砂漠の砂や熱、怪物から守られていました。

驚異への入り口

《驚異への入り口》フレイバーテキスト

ゲートウォッチがニコル・ボーラスに支配された次元で唯一予期していなかったのは完璧ということだった。

 「ボーラスが支配する世界」の都市とはとても思えない美しさと完璧さに、全員が困惑しました。そして全く見知らぬ文明とのコンタクトにあたってジェイスが活躍します。現地民の思考を読みながら接することで、不審がられないほどに情報を得る。すっかり「直接戦闘では役立たず」と自他ともに認めるようになってしまった彼ですが、これは面目躍如でした。やがて彼らは《ナクタムンの侍臣、テムメト》と接触し、街を案内してもらうことになりました。

ナクタムンの侍臣、テムメト

 どうやら結構偉い人。元ネタはツタンカーメン王だそうで。でもあの、この連載では何度か「白青キャラの死亡率は高い」と書いてきたけれど彼は墓地に行くこと前提なのか。トラフトやブレイゴとはまた違う方向性だ。

 それはともかく。この街、ナクタムンではミイラが労働力としてあらゆる仕事を行い、人々はひたすらに訓練に励んでいます。そして街には人間だけでなく様々な種族の姿がありました。エイヴン、ミノタウルス、ナーガ。名前こそ他次元と同じですがその姿は少しずつ異なります。アモンケットのエイヴンは頭部と翼こそ鳥ながら胴体や手足は完全に人間のそれ。ミノタウルスは牛ではなく羊の頭部です……それはミノタウルスなのか? 偶蹄目ならミノタウルスなのか? ナーガはタルキール次元で登場した蛇人ですが、ここでは明らかにコブラを思わせる姿。これも実にエジプト的。

エイヴンの思考検閲者蓋世の英雄、ネヘブ炎刃の達人生類の侍臣

 思考検閲者、未来からようこそ! 第54回で『未来予知』について語りましたが、何と10年目の本収録。そしてアモンケットで登場の新種族もありました、ジャッカル人間のケンラ。イヌ科の人型種族ということで、タルキールに登場したアイノクに近いでしょうか。でもネコ科はまとめて猫なのにイヌ科はやたらクリーチャー・タイプが細分されているんですよね。なんでなんだろう。

■ ボーラスは「王神」と呼ばれ崇拝されている、そして現在のところ不在

 地平線上の巨大なオブジェだけでなく、ナクタムンの至る所にボーラスの象徴とも言える双角の意匠があります。ボーラスの姿を実際に見たことのないメンバー(ギデオン・チャンドラ・ニッサ)も、ジェイスから教えられたらしくその角が意味するところをすぐに察知していました。そしてどうやらこの地でのボーラス=「王神」はゲートウォッチや私達が知るような恐怖の存在ではなく、聡明にして慈悲深く、砂漠の熱や怪物から人々を守ってくれるとともに栄光ある来世へと導く神であると……。それにしても王神/God-Pharaoh。ゴッドファラオ。なかなかパワーのある肩書きです。

ヘクマの歩哨華麗な苦悶

《ヘクマの歩哨》フレイバーテキスト

「王神はヘクマをお造りになり、その外の恐怖の怪物から我々をお守りくださるとともに、その愛で我々を包み込んでくださったのです。」

《華麗な苦悶》フレイバーテキスト

「街の中では常に王神の存在を感じるわ。慰めになさい。」

――修練の侍臣、ウカト

 そういえば覚えている方もいるかと思います。「デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ2012」のトレイラー冒頭、ボーラスに倒されるギデオンの姿。あれは何だったの? 一応、公式回答あります。要約しますと「あのイントロムービーは素晴らしいが、製作にクリエイティブチームは関わっていないので、正典とはみなされない」とのこと。これ2011年ですから、ギデオンがテーロス出身とわかるだいぶ前のことですね。

2. アモンケットの神々

 ナクタムンにてゲートウォッチは、人々と神々が共に生きている様を目の当たりにしました。神は人々と語り合い、慈しみ、人々は畏怖ではなく敬愛と親しみをもって神と接している。神々が畏れられているテーロスで生まれ育ったギデオンはその光景と、その神(オケチラでした)が放つ純然たる善と慈しみに心揺さぶられます。ですがここが名に聞く恐るべきボーラスの次元であることを考えると、同時に疑問と違和感を拭えず苦悩しました。

 エジプト神話には多くの神々がいるということで、三年ぶりに「神」のクリーチャーが登場するのでは、と予想していた人も多かったようです。そしてその通りに今回は単色五柱の神々が登場。マジックでは同じ種族でも次元が異なれば少しずつ姿も性質も異なります。まあ突き詰めすぎるとその種族の定義とは何か、という話になってくるのですが。では神とは?

信義の神オケチラ周到の神ケフネト栄光の神バントゥ熱烈の神ハゾレト不屈の神ロナス

公式記事「信頼」より引用

不意に、チャンドラの声が真剣味を帯びた。「でさ、実際、神って何なの?」 ギデオンはきょとんとし、彼女は続けた。「つまりさ、それって天使みたいなもの? エルドラージ? それともただでっかい人? リリアナが言ってたじゃん、自分とかボーラスは昔は神みたいな存在だったって――神ってプレインズウォーカーなの?」

 ちなみに、テーロスの神については《彼方の神、クルフィックス》がはっきりとその定義を述べていました。

公式記事「クルフィックスの洞察」より引用

『神々とは、ニクスの構造の内に姿を成した、信仰である』

 テーロスの神々はその「信心」メカニズムが示すように、人々の信仰があってこそ神として存在できるのだそうです。考えたことがあるんですよ、もしテーロス次元で文明や科学が発達し、太陽の運行や潮の満ち引きや火山噴火といった自然の仕組みが解明されたなら、その神は存在できなくなるんだろうか……と。まあこれは余談。一方で他の次元には、「クリーチャー・神」ではないにせよ物語的・設定的には十分「神」と言える、もしくは実際に神と同等に崇められているという存在もありました。神河の明神サイクルやドミナリアの《邪神カローナ》がそれですね。そもそもカード名に「神」って入ってるあたり、クリーチャー・タイプ以外の線引きは案外曖昧なのかもしれない。

夜陰明神邪神カローナ

 そういえばこの2体(二柱?)はどちらもプレインズウォーカーでないにも関わらず次元を渡っているんですよね。では改めて、「アモンケット次元における神」とはどのような存在なのか? とりあえず、一番それらしい説明はお馴染みの資料、バンドル(旧ファットパック)付属小冊子に記載されていました。

『アモンケット』バンドル付属小冊子より抜粋・訳

王神が不在の間、五柱の神々がアモンケットを統べています。王神によって創造され、自らを王神の手足と信じる彼らは人々を守り、五つの試練を通して来世へと導きます。その義務を忠実に実行したなら、自分たちもまた来世へ迎え入れられると神々は信じています。

(略)

日常的に神々は人々の中に姿を見せ、それぞれが体現する美徳を教えています。蓋世の英雄となるためには様々な要素が必要とされますが、各神がそれぞれの一面を担当して修練者を鍛えます。五つの試練は神々の碑の中で執り行われます。神々の頭部を模した巨大で荘厳な建築物が、ルクサ川に面して並んでいます。

新たな信仰ケフネトの碑

 公式記事の記述や複数のカードイラストから、アモンケットの神々はそれほど「大きくない」ことがわかります。ギデオンも話中で「テーロスの神々やエルドラージの巨人よりは小さい」と表現していました。砂漠で最初に彼が目撃したのはハゾレトですが、「人間十人ほどの長身」との事なので15-20メートルといった所でしょうか。私達が街中で見る少し高いビルくらい。以前にも書きましたがコジレックが身長150メートルほどです。また、あの頭部は仮面ではなく「生きた黄金」の、本物の頭部らしいです。

 神々のこの人々への近さと、「ボーラスの世界に存在するとは思えない」それらの性質。それがアモンケット次元最大の謎の一つです。

3. 試練とは

 様々なカードでその存在が示されている「試練」。五柱の神々が定めるものであり、一つを突破するごとにその色のカルトーシュが授けられ、全ての試練をクリアすることで来世での栄光が得られる、ということがぼんやりとわかります。ちなみに「カルトーシュ」は古代エジプトのヒエログリフにおいてファラオの名を囲む「枠」のこと(「カルトゥーシュ」と表記されることが多いですね)。これの存在がヒエログリフ解読の手がかりになった、などあって調べるといろいろおもしろいです。アモンケット世界においては一種の魔法的な装飾品であり、侍臣の身分を証明するものや試練を突破した証、またミイラを制御するために用いられています。

 それでは各試練を詳しく見ていきましょう。まずはその順番。プレリリースキットにもありました。

熱烈の神ハゾレト/Hazoret the Fervent

※画像は公式記事『アモンケット』プレリリース入門から引用しました。

 結束(白)→知識(青)→活力(緑)→野望(黒)→激情(赤)。カラーホイール順というわけではないらしい。そして各試練の様子は様々なカードに描かれており、また『アモンケット』バンドル付属小冊子に詳細が説明されていましたのでそこから大まかに紹介します。

結束の試練

結束の試練結束のカルトーシュ

《結束の試練》フレイバーテキスト

「団結して成功するか、ばらばらなままで失敗するか。」

 結束の試練は、部屋の中央に立つオベリスクを防御しつつ、オケチラ神が放つ矢を回収するというもの。ただしその部屋は絶えず様相を変化させ、さらに様々な敵が現れては修練者とオベリスクに襲いかかってきます。「結束の試練」というだけあって指揮や仲間同士の連携が重要視される試練だとわかります。

栄光半ばの修練者

 これはもしかして、オケチラ神の矢を手に入れたところ?

知識の試練

知識の試練知識のカルトーシュ

 知識の試練は精神的眼識と魔法的能力を試すものです。修練者達が挑むのは、現実を超越した幻影の迷宮。そこは幻影の怪物や罠、偽りの扉に満ちており、かつそこを脱出するには壁に描かれた文字を解読し、真の出口を見つけ出す呪文を唱えねばなりません。

判断麻痺錯覚の覆い

《判断麻痺》フレイバーテキスト

「眼は可能なことしか見ようとせぬ。鍛えた精神は不可能をも探求できる。」

――知識の神、ケフネト

《錯覚の覆い》フレイバーテキスト

「どれほど力があろうと我が試練を乗り越える助けにはならぬ。身体を忘れ精神を選ぶ必要があるのだ。」

――知識の神、ケフネト

『マジック・デュエルズ』スクリーンショット

※クリックすると拡大します。

 こちらは『マジック・デュエルズ』アモンケット編のスクリーンショット。

 公式記事「指し手」にてニッサがこの試練へと挑んでいました。話中では上記のそれと異なる展開でしたが、それは1人で挑んだためかはたまた。ちなみにこの話では本能や直観ではなく考えて行動する、「青が入った」新たなニッサの姿がよくわかります。

活力の試練

活力の試練活力のカルトーシュ

 活力の試練はとても緑らしいストレートなものです。棘のある蔓を登り、荒れ狂う滝を下り、そしてその棘の毒によって一切の魔法が使えなくなった状態で修練者らは広大な密林に入り、解毒のためにバジリスクの鱗を手に入れてくることが求められます。その密林には恐ろしい獣や危険な地形が満ちているのは言うまでもありません。

横断地のクロコダイル飛びかかるチーター

《横断地のクロコダイル》フレイバーテキスト

「試練は過酷である。襲い来るものに勝たねば餌となるのみ。」

――活力の神、ロナス

《飛びかかるチーター》フレイバーテキスト

ロナスの碑は、ナクタムンの街中で一番の多様な生物の棲家となっている。修練者には迷惑だ。

毒物の侍臣、ハパチラ

 また、この試練に携わっているのがハパチラ。蛇を使うのはクレオパトラの伝承を参考にしたのだとか。本人は公式記事「壁の記述」に登場していました。わりと軽い性格の陽気なお姉さんという雰囲気で、異邦人であるチャンドラとニッサへと嬉しそうにナクタムンの様々な物事を解説してくれていました。

野望の試練

野望の試練野望のカルトーシュ

 この試練が「Magic Story」アモンケット編の第6話「鉄面皮」にて語られていました。ギデオンは若くも頼もしい一門の仲間に加わってこの試練へ赴きます。それは様々な障害が待ち受ける多くの部屋を突破し、ハゾレト神を目指すというもの。ですが試練は最初からその人数を減らしてゆく、とても過酷で非情なものでした。そして一門の皆も、仲間の犠牲を悼むのではなくいずれ約束された栄光とともに再会するのだと、然程の未練も見せずに先へと進む……ギデオンは自分と彼ら、この世界の死生観の違いに驚きと疑念を抱かずにいられませんでした。そしてバントゥ神の目前では、仲間の心臓を捧げて神のもとへ向かう……それすらも躊躇いなく。

残酷な現実

《残酷な現実》フレイバーテキスト

その修練者が門友を殺害する場面を目撃して、ギデオンのナクタムンの街を敬愛する気持ちは恐怖へと変わった。

 その後の場面では心臓が秤に乗せられていました。これは古代エジプトにおける死者への審判を模しているんでしょうね。古代エジプトでは脳ではなく心臓に意思や思考が宿るとされていました(多少は勉強した)。こんなカードもあります。

心臓露呈

《心臓露呈》フレイバーテキスト

「真意が宿るのは頭脳ではなく心臓だ。」

――野望の神、バントゥ

 バンドル付属小冊子には「(この試練では)友情よりも自身の栄光を求める修練者が最高の栄誉を得る」とありました。一度はアモンケットの神々に惹かれたギデオンでしたが、このあまりにも相いれない死生観と神々や人々からのボーラスへの信仰を目の当たりにし、さらには試練に挑んで死んだ修練者らがミイラ化されて街で使役されるという事実を知ります。

公式記事「鉄面皮」より引用

選定された者とは、戦いで斃れた修練者の骸なのだ。失った四肢。沈黙の服従。身に着けていたカルトーシュ片。

不死とは賜物なのか、隷属の定めなのか?

神々は善き存在なのか、それともニコル・ボーラスの邪な手足なのか? 試練の悪意はこの世界の暗き歪みなのだろうか?

それとも全てが不死となるこの次元では、死は本当に最高の召命だというのだろうか?

選定された行進

 そしてまだ疑問と迷いの中ではあるものの、彼は授けられたカルトーシュを投げ捨てました。

激情の試練

激情の試練激情のカルトーシュ

 この試練はまだMagic Storyで語られていませんが、バンドル付属小冊子に書かれていた内容を要約します。

蓋世の誉れ

 つまりは「結局死ぬ」ってことじゃねーか! 《激情のカルトーシュ》フレイバーテキストにも「第五のカルトーシュは栄光の最終的な確約であり、死んだ英雄のみに授けられる」とあります。ハゾレト神自らがその槍で……。

ギデオンの介入

 ここでどうやら《蓋世の誉れ》の場面へと介入しているらしきギデオン、これが「注目のストーリー」5/5であり『アモンケット』トレイラーのラストシーンです。つまりはここが物語のクライマックス。野望の試練では疑問とともに立ち去ったギデオン、今度は面と向かって神と対決するのでしょうか。

4. ラザケシュと来世

 話は変わりまして。「リリアナの契約悪魔の3体目、ラザケシュ/Razakethがいる」というのが、アモンケット次元の数少ない事前情報でした。

公式記事「闇の手先」より引用

「ラザケシュ」

恐怖の震えに、身体の隅々までもが不意に緊張した。皮膚に刻まれた契約が示す通り、彼女へ力を振るう悪魔が二体残っている。鎖のヴェールの力を得て、コソフェッドとグリセルブランドは比較的容易に倒すことができた。だが鎖のヴェールの力には対価が伴い、今も皮膚から滴り落ちてテゼレットの顔と胸に散る血がそれを証明している。ラザケシュはそのどちらよりも強大だった。

 グリセルブランド・ラザケシュ・ベルゼンロック・コソフェッド(契約順、『デュエルズ・オリジン』より)。リリアナは力と美貌を維持するために4体の悪魔と契約を交わすも、今やその破棄を目指し、非常に危険なアーティファクトである《鎖のヴェール》の力を借りつつ悪魔を倒して回っています。リリアナがゲートウォッチに加わった目的の一つが、その悪魔討伐を手伝ってもらうというもの。とはいえ、ギデオンやニッサが素直に力を貸してくれるかどうかは疑っています。事あるごとにギデオンを嫌うリリアナですが、ニッサのこともあまり友好的に見ていません。このようにゲートウォッチ各人の関係にはしばしば白-青-黒-赤-緑のカラーホイールが現れます。

 また、リリアナが外見よりも遥かに年上というのがゲートウォッチの皆が把握していますが、それは悪魔との契約によるものという所まで彼女が明かしているのかどうかは今のところよくわかりません。ジェイスだけは過去に打ち明けられて知っている、それはたしかです。

公式記事「巻き返し」より引用

ジェイスは昔、彼女が契約を逃れる方法を共に探すつもりだった――彼女が真に何者なのかを、その自暴自棄と嘘の下にあるものを知ろうと。今や彼女は自分の手が無くともその道半ばにある……そして何かもっと悪いものに陥りつつある。

 ここでやや余談を。『デュエルズ・オリジン』をプレイすると「老女リリアナ」の姿が見られるのですが、コンセプトアートが先日フランス公式Twitterから公開されていました。

 「悪魔との契約によって若さを取り戻す前のリリアナ」(サンキューグーグル先生)、うむ。

 残るはラザケシュとベルゼンロック、ですが『アモンケット』のカードを見る限りラザケシュの気配はありません。デーモン・クリーチャーとしては《イフニルの魔神》《悪意のアムムト》《魂刺し》がいるものの、どれもラザケシュとはかけ離れた姿をしています。あるいはラザケシュも後者2体のようにデーモン以外のクリーチャー・タイプを持っているのかもしれませんが。

イフニルの魔神悪意のアムムト魂刺し

※画像は『マジック・デュエルズ』のスクリーンショット

 アモンケット次元に到着し、ナクタムンの宿舎に落ち着いた後、ゲートウォッチは各自わりと好き勝手に行動を開始しました。リリアナは密かにラザケシュの気配を探し、それを見つけるとジェイスを伴って向かいます。辿り着いたのはミイラがミイラを製造する施設、そして「来世」の壁画。

公式記事「下僕」より引用

それは来世を描いたものだった。都市のそこかしこで見られる碑文の表現形式は、今や二人にも馴染みあるものになっていた。地平線の角の間に座した副陽、来世への道を塞ぐ(と現地の者らが言う)巨大な門。この壁画では門は開いており、その先の来世がわずかに見え――だが巨大な悪魔に守られていた。

ラザケシュ。

『最後の試練』 銘刻はそう読めた。『栄誉無き者も遂にはここに死す。値せぬ者は選別される』

ラザケシュの両手は血に濡れ、足元には屍の山があった。血は川へと流れていた。

その門の先に、ラザケシュがいた。ラザケシュの先に、楽園があった。

来世への門最後の報賞

 ……来世への門。これ?

《最後の報賞》フレイバーテキスト

栄光の死を得た者は最高の名誉を得る。彼らは来世への門から葬送船で運ばれて行く。

 つまりは、激情の試練まで辿り着いた者がこの門をくぐって「来世」へ行く。そしてラザケシュはこの「来世」について重要な役割を担っている? 『破滅の刻』で登場するのか、そして登場したらしたで前の2体のように殺害されてしまうのか? 私もわからない。

 あ、それとリリアナの話が出たついでに。

公式記事「下僕」より引用

「愛情こそ操る技よ。よく効く、そうじゃなくて?」

「誰にだね? 君とジェイスくんは酒を酌み交わして一度ならず旧交を温めていたな。また彼に夢中になりつつあるということかな?」  そう、一度か三度。ゲートウォッチに加わってから、ラヴニカでの彼女の自宅で。後にギデオンがとある戦略会議の場にて、早朝にジェイスの姿がない件について辛辣に言及した。そしてその物事は静かにひっそりと終わっていた。

 君たち……。

 それカラデシュ編の前ってことだよね。わりと互いに素っ気ない振る舞いをしていた気がするんだが?

5. ボーラス様何してる?

公式記事「壁の記述」より引用

「チャンドラ……ニコル・ボーラスはこの世界を作ったんじゃないの。腐敗させたの」

 チャンドラとニッサが発見した古の壁画とヒエログリフ、そしてニッサがアモンケット次元の魂と語らうことで、街の美しさの裏に隠された真実が明らかになってきました。リリアナの説明では、ボーラスがこの次元を創造したとのことでした。ですがそうではなく、ボーラスは元々存在したこの世界を作り変え、歴史や人々、神々の記憶までも改竄して「王神」として君臨したらしい……それも、ほんの数十年前に。元々ボーラスは精神操作を得意としているのですが、ここまでの規模でやってのけるとは。

 そして神々は五柱ではなく八柱おり、三柱はいかにしてか失われたと仄めかされています。ここで疑問なのは「三」という数字。多元宇宙世界を普遍的に統べる数字は、五色のカラーホイールが示す「五」。消えたのが「三柱」なのには何か意味があるのでしょうか? 心当たりとしてはこれまでのボーラス自身が三色、青黒赤のグリクシスカラーであること。それとエルドラージ三神も三ですが、あっちは六千年以上前から存在が確認されているので数十年前に失われたとするのは辻褄が合わないしなあ……。

 そして肝心のボーラス本人。『アモンケット』のそこかしこに気配こそあれ、本人の姿は全く見えません。アモンケット世界の2つの太陽のうち、小型の方の「副陽」。日々ゆっくりと動き続けるそれが、地平線にそびえる巨大な角の間に入った時、王神が帰還する……と言われています。

副陽の接近王神の玉座

《王神の玉座》フレイバーテキスト

「副陽が地平の二つ角の間に入ったとき、啓示の刻が始まる。その後、栄光の刻、約束の刻、永遠の刻と続く。」

――刻の書

 「刻/Hour」という表現。そして次のエキスパンション名は『破滅の刻/Hour of Devastation』……。また、Magic Story「アモンケット」編では冒頭にナクタムンの風景が描かれた画像が載っているのですが、その副陽が少しずつ移動していることにお気づきでしょうか。

副陽の動き

『アモンケット』Magic Story 2~5話の副陽の動き。

※画像はマジック:ザ・ギャザリング日本公式ウェブサイトより引用しました。

 芸が細かい。そしてこの副陽が角の間まで辿り着いたとき……

熱烈の神ハゾレト/Hazoret the Fervent

※画像は『破滅の刻』製品ページから引用しました。

(終)

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