あなたの隣のプレインズウォーカー ~第49回 てぜれっとオリジン~

若月 繭子


小説「Test of Metal」冒頭より翻訳

これは時計仕掛けの男の物語。
あらゆる世界で、あらゆる現実にそぐうように、人工少女や機械仕掛けの少年がいつか人となる日を夢見る物語が語られている。これはそういった類の物語ではない。
この時計仕掛けの男は生きており、機械仕掛けとなる日を夢見ていた。
男は肉体と悪臭から、出生と血統と汚れから目を背け、四肢と胴と頭をも輝く金属に置き換えようとした。輝く歯車と爪車、ばねと重しと正確極まりない平衡で精神を、レバーと滑車、支点、傾斜面、そして輝くねじを集めて心を造り上げた。
肉体とは堕落。金属こそ高潔なるもの。
これは、時計仕掛けの男の夢が叶う、悲劇の物語である。


 マジックの物語に古くから存在する重要な職業の一つに、アーティファクト職人を指す「工匠」があります。


ウルザの激怒工匠の神童、ミシュラ


 まず何といっても「兄弟戦争」を引き起こし、後に長いことドミナリアの物語に関わってくるウルザ・ミシュラ兄弟。


アーカム・ダグソン航行長ハナゴブリンの修繕屋スロバッド


 時代はずっと下って氷河時代に活躍したアーカム、ウェザーライト・サーガのヒロインの1人ハナ、旧『ミラディン』ブロックのメインキャラでありその心意気の熱さと友情の篤さで名高いスロバッド。……ここまで読んで「あれ?」と思った人はかなりこの連載を読み込んでくれていますね。イエス、第12回の冒頭と全く同じこの流れ。なぜって? この導入部分は元はというと今回の彼のために書かれたものだったんですが、なかなか扱う機会が来ずに埋もれていたところを利用したんです。


※画像は「プレインズウォーカー略歴│テゼレット」より引用しました。



テゼレットの野望


 こんにちはー若月です。この連載を開始してから5年以上、まもなく第50回を迎えるというところでやっと! やっと彼を扱える時がきました! いや、これまで扱ったらいけないとかそういうわけではなかったんですけれど、やっぱり物語で今まさに登場しているタイミングで取り上げる方が熱いじゃないですか。せっかくなのであまり語られてきていない過去話や故郷の次元についてもいろいろ触れていきますよ。なにせマジックの物語がウェブで公開・翻訳されるようになり、誰にとっても触れやすくなったのはほんの2年前。つい最近初めて『Magic Story』に登場した彼のことはよく知らないという人も多いでしょうからね。

 というわけで久しぶりの通常回は「テゼレット編」、アラーラからスタート!



1. テゼレットの故郷

 多くのみなさんがご存じの通り、テゼレットの故郷はアラーラのエスパー。そこは目的意識と統制が野性と混沌を征服し、魔術と知性が支配する地です。今でこそアラーラは一つの世界ですが、テゼレットが登場した当時はまだ5つの「断片」に分かれていました。アラーラについては第13回14回でわりと詳しく取り上げましたが、その中でもエスパーは青を中心色として白と黒も含む友好3色の世界です。


エスパーの戦闘魔道士エスパーの魔除けエスパーのオベリスク


 『アラーラの断片』ブロックには数多くの「サイクル」があり、断片の色を理解するのに一役買っています。そしてこの断片名はすっかり「友好3色の組み合わせ名」として定着しました。

 他の断片もそうですが、各断片には友好3色のマナのみが存在し、もう2色は完全に欠けていました。このあたりも第13回からの繰り返しになりますが、「3色の世界」というよりもむしろ「2色が失われた世界」という視点で考えると各断片の特色がよく見えてくるかもしれません。赤と緑、情熱や野生といったもののない世界。白-青-黒という組み合わせを見ただけでも「寒色系」の世界ですね。その世界の風景を最もわかりやすく見せてくれるのはいつも基本土地。『アラーラの断片』の基本土地には対応する断片の風景が描かれていますが、エスパーの土地4種類を並べてみるとほらこの通り。


平地島島沼


 寒々とした、ですが美しい世界。特にこの沼は人気が高いのですよね。平地と島の空に見える線はエスパーの魔術師が空に描いた「罫線」であり、よく見るとこの線に合わせて雲が切り取られているのがわかります。赤と緑、つまりは野生の色を欠くために「手つかずの自然」は存在しませんが、非常に荒々しい風雨や波濤といった気象だけが完全に制御できない「自然の要素」として残されています。

 赤と緑のマナの欠落はエスパーの地勢だけでなく、そこに住む人々の性質をも定義しています。エスパーの知的生物はスフィンクスを頂点に人間とヴィダルケン、そしてホムンクルスが存在します。人間は多くの次元で全ての色に存在しますが、ヴィダルケン・スフィンクス・ホムンクルスは青をメインとする種族です。


エーテリウムの達人覇者シャルム宮廷のホムンクルス


 ……調べたら『アラーラの断片』ブロックのホムンクルスクリーチャー、白にしかいなかったけど。

 そしてエスパーという断片を何よりも特徴づけるのが、カードを見れば一目でわかるように、全ての生物がアーティファクト・クリーチャーであること。その特性をもたらしているのが、魔法金属エーテリウムです。



2. エスパーとエーテリウム

 エーテリウム。多くのカード名にも使われており、どのようなものかを知っている人も多いかと思いますが、ここで改めて探っておきましょう。そもそもエーテリウムとは何なのか。書籍「A Planeswalkers’ Guide to Alara」からエーテリウムについての説明を翻訳します。


■ エーテリウム


 エスパーの民は、宇宙の精髄である霊気との本質的な繋がりなくして、あらゆる生命は欠陥であり不完全だと信じています。不断の実験を経て、彼らはあらゆる有機組織に霊気の吹き込まれた不可思議な金属、エーテリウムを人工的に付加させる複雑な術を発案しました。エスパーのほぼあらゆる生命体で、その組織に少量のエーテリウムが融合しています。有機組織と人工組織の境はぼやけており完全に区別することはできません。新たなエーテリウムを作り出す手法はクルーシウスという名のスフィンクスだけが知っていますが、その行方は定かでありません。彼が失踪して以来、エスパーに現存するエーテリウムは果てしなく精錬され、減少傾向にあることからさらに繊細な構造へと変化しています。



※画像は公式記事「PERFECTION THROUGH ETHERIUM」より引用しました。



雲荒れの原のドレイクエスパーゾア墨溜まりのリバイアサン


 ざっくり言うと、エスパーのあらゆる生物にシームレスに融合している暗い銀色の金属がエーテリウムです。それまでにも生体と金属の組み合わせはマジックの歴史上何度か登場してきました。


東の聖騎士オーリオックの廃品回収者


 有機組織と金属の合わさった異形のファイレクシア、肉体の一部が金属と化しているミラディン。ですがエスパーのそれは洗練されて優雅、「付加されている」というよりも「置き換わって」います。ファイレクシアの「隷属」と「完成」やミラディンの金属世界生命とは思想も環境も異なるものだとわかります。

 では何故エスパーの生物はこのような姿をしているのでしょうか。先ほどの翻訳のこの部分です。


 エスパーの民は、宇宙の精髄である霊気との本質的な繋がりなくして、あらゆる生命は欠陥であり不完全だと信じています。


 つまり彼らはエーテリウムこそが、「宇宙の精髄である霊気との本質的な繋がり」を得るための手段とみなしているのです。そしてその、エーテリウムを生体に組み込むという「気高き行い/Noble Work」を進めているのが「エーテル宣誓会」と呼ばれる魔術師の一団です。多様なフォーマットで使用されているカードがありますね。


エーテル宣誓会の法学者


《エーテル宣誓会の法学者》フレイバーテキスト
「エスパーの生命全てにエーテリウムを吹き込むことこそが、我等の騎士団の気高き行いなのです。 我等の目的は、さらに素早く達することでしょう。新たな生命を……押さえ込むことができれば。」


 エーテル宣誓会の思想は多くのカードのフレイバーテキストで知ることができます。


鋼覆いの海蛇自我の危機


《鋼覆いの海蛇》フレイバーテキスト
「最も高い塔の上から最も深い海の底まで、全ての生命はエーテリウムに触れねばならぬ。」
――エーテル宣誓会のローダス


《自我の危機》フレイバーテキスト
「我らの地位に至るには、純粋であるべし。 純粋であるには、エーテリウムの祝福あるべし。 祝福受けるには、自身を忘れ去るべし。」
――エーテル宣誓会の祈り


 「通常」の有機的肉体の不完全さを解消するために、あらゆる生命にエーテリウムを吹き込む。エーテル宣誓会の者らはそれを使命としています。

 ですが、そんなエーテル宣誓会がエーテリウムを製造しているわけではありません。厳密には彼らは現存するエーテリウムを果てしなくリサイクルして使用しているだけであり、新たなエーテリウムの製法は知らないのでした。

 ではそれを知る者はいるのでしょうか? 「カルモット求道団/The Seekers of Carmot」と呼ばれる一団がエーテリウムの製法を極秘の「金線の書/The Filigree Texts」に記して厳重にその秘密を守っていると主張しています。エーテリウムの製造においては「サングライト/sangrite」という赤い石と、その一団の名にもなっている「カルモット」と呼ばれる触媒か何かが不可欠とされていますが(さらに言いますと、サングライトとカルモットについての記述も資料によって微妙に異なっていてややこしい)、その2つともエスパーの何処にも見つかっていないのです。エスパーの何処にも。

 さらに、エーテリウムの起源について鍵になるのは、クルーシウス/Cruciusという名のスフィンクスです。「A Planeswalkers’ Guide to Alara」からクルーシウスについての説明を翻訳しましょう。


「A Planeswalkers’ Guide to Alara」より引用・訳

スフィンクスのクルーシウスはエスパーの歴史において重大な、ですが物議をかもす存在です。今でこそエスパーの民はエーテリウムをその次元にもたらしたその鬼才を罵り、彼は遠い昔に姿をくらましたか死んだと考えています。ですが幾つかの証拠から、彼はプレインズウォーカーであり、エスパーの苦境を理解し、正そうとしていたのだという可能性があります。
数十年前にクルーシウスは魔法金属エーテリウムを発明し、エスパーの生物にそれを吹き込む大計画を開始し、それを気高き行いと呼びました。記録によれば、彼は気高き行いを定命の肉体の脆さと限界を克服するために定めたとしています。ですがクルーシウスは実のところ、エスパーから二つの重要な要素、緑と赤のマナが欠けていたことに気付いていたのかもしれません。事実、彼はエーテリウムを次元中に広げることで、エスパーを他の次元断片と統合する術が可能になると意図していたのかもしれません。



金線の天使


《金線の天使》フレイバーテキスト
「私は天啓を渇望し、クルーシウスのエーテリウムはその私の目を開いてくれた。私に見えるものをお前にも分け与えよう。ただ、そのためにまず信じねばならない。」


 その名は《金線の天使》のフレイバーテキストに記されています。

 クルーシウスはエーテリウムを生物へと過剰に吹き込んだ結果、エーテリッチという異形を生み出してしまい、それを非難されたことで失踪したとされています。以来長い時が過ぎ、クルーシウスの真の目的だったかもしれないものは忘れ去られてしまいました。

 『コンフラックス』~『アラーラ再誕』にてアラーラ世界が一つとなった後、求道団の者らは(地続きとなった)他の断片へとエーテリウムの原料の一つである赤い石を探す旅に出ました。ですが隣接しているとはいえグリクシスは地獄そのものであり、バントですら異質な生物と異質な魔法の存在する馴染みない世界でした。とはいえ、ある者はその旅の中で新たなマナに触れ、新たな経験と視点を得て、一つのアラーラ世界を体現するような存在となっていくのでした。


ヴィダルケンの異国者ヴィダルケンの異端者


 そしてエーテル宣誓会の方といえば、『アラーラの断片』ブロックだけと思いきや2年前ほど前に物語へ顔を出していたのを覚えていますでしょうか? 『基本セット2015』、こちらの記事です。


公式記事「狩人は憐れむなかれ」(翻訳掲載:2014年7月16日)より引用

 彼はプレインズウォーカーという存在について聞いたことは一度もなかった。それは彼のように、いかにしてか、隔てられた世界の間を、存在を構成する間を旅することができる者。だがこの、エーテル宣誓会と名乗る奇妙な学者たちは、そのような旅について長いこと研究してきた。彼らがエーテリウムと呼ぶ神秘的な金属が、生命と、あらゆる次元が浮かぶエネルギーの海とを強く結びつける、そう彼らは仮定していた。青い顔の者達、ヴィダルケンは、その肉体の結構な量に及ぶ部位を金属に置き換えることさえしていた。だが霊気の間を旅する秘密については、ヴロノスと同じように、彼らの知の及ばない所にあった。



※画像は公式記事「狩人は憐れむなかれ」より引用しました。


 詳しくは第26回に書きました。『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ2015』にて登場した新プレインズウォーカー、ヴロノス。彼は灯が点火して初めて飛んだ先のエスパーにてエーテル宣誓会に拾われ、研究に協力する代わりに彼らの知識を求めたのでした。オープニングムービーや同じ記事内で《頂点捕食者、ガラク》にやられてしまいましたけど……。

 さらに話は変わりますが、この細く優雅に流れるような金属を今まさに私達は全く別の世界で目にしているんですよね。カラデシュ世界の金属構築物を。


金線の使い魔サヒーリ・ライ新緑の機械巨人


 カラデシュ世界ではあらゆる存在に「霊気」が吹き込まれており、自然物も人工物も、その流れに沿って優美な曲線を描いています。カラデシュの金属の多くはくすんだ金色であり、様々なものがあるようですが記事では多くが「真鍮」と書かれています。「博覧会審判長」テゼレットの右腕を見たカラデシュ人はその金属には馴染みがないようでした。カラデシュの、霊気の流れに従う金属。エスパーの、霊気を吹き込んだ魔法金属エーテリウム。この2つが同一のものなのかどうかは、今はまだわかりません。



3. テゼレット概要

 主に「他キャラとの関わり」という点からですが、この連載では主役回こそ無いながらも結構頻繁にテゼレットを取り上げてきました。


第3回 – ジェイスとの関わり、無限連合
第12回 – ヴェンセールとの関わり
第13回 – 『アラーラの断片』ブロックのプレインズウォーカー紹介にて少々
第14回 – その後日談を少々
第21回 – エルズペスとの関わり
第31回 – デュエルデッキについて


 こうして見ると登場して長いだけあって、結構いろいろなところに顔を出しているイメージがありますね。

 テゼレットは過去2度カード化されています。初登場の『アラーラの断片』、後に『ミラディン包囲戦』。さらに『モダンマスターズ(2015年版)』にて再録されましたが、そのときは「お、ついにテゼレット主人公のブロックが来るのかな?」と思いました。ほら、『モダンマスターズ』が2013年6月発売でそこに収録されていたのが《遍歴の騎士、エルズペス》《サルカン・ヴォル》、その後『テーロス』ブロック→『タルキール覇王譚』ブロックと続いたので……けれど特にそんなことはなかった。

 そのようにテゼレットは『アラーラの断片』からの登場ですが、彼自身は『アラーラの断片』ブロックの物語、衝合する断片とその背後に動くニコル・ボーラスの陰謀といった「メインストーリー」には表立って関わってはいませんでした。ここではWebコミック「求道者の転落/The Seeker’s Fall」と小説「Test of Metal」の内容を踏まえ、「テゼレットとそのオリジン」について解説します。

 ですがまず、一つ注意書きをさせて下さい。

 『ローウィン』にてプレインズウォーカーが初めてカード化されてから早9年。多くの小説・コミック・公式記事などでそれぞれの設定や物語が語られてきました。ですがご存じの方も多いかと思いますが、『マジック・オリジン』にて登場のプレインズウォーカー5人については、それまでに語られてきた過去設定に多かれ少なかれ変更が入りました。この回にこんなタイトルを冠しておいて何ですが、「この情報は2016年9月下旬現在のものである」ことをご了承下さい。


求道者テゼレット


 繰り返しますがテゼレットは2008年、『アラーラの断片』にてプレインズウォーカーとして登場しました。『ローウィン』で登場した《ジェイス・ベレレン》に続く、2人目の「青」のプレインズウォーカーです。青、ですが彼の場合はその故郷であるエスパーの思想を大きく体現するように、真理や知識(青)秩序立って(白)、かつ野心を持って(黒)求めています。エスパー世界の有様はそのままテゼレットという人物の有様でもあると言えるでしょう。青のキャラクターとしては珍しいことにけっこう荒い気質を持ち(普段は紳士的な態度を装ってはいますが)、力と知識への渇望に突き動かされて時に暴力的な癇癪を起こします。

 そしてジェイスの専門は精神魔術ですが、テゼレットのそれは工匠術とでも言いましょうか、つまりはアーティファクトに関する魔法です。アーティファクトの作成や操作、そして命を吹き込んで生き物のように動かします。カード能力の通りに、逞しい5/5サイズに。


知識の渇望


 再録カードではありますが「知識の渇望」というカード名はテゼレットにぴったりです。

 さてテゼレットが生まれたのは「潮の虚ろ」と呼ばれる、エスパー最大の諸島地下に広がる半地下の洞窟網地域でした。いくつかのカードにその名があります。


潮の虚ろの漕ぎ手潮の虚ろの大梟


 テゼレットはその貧しい家庭の生まれで、両親は彼をほとんど顧みず、名前で呼ばれたことすらなかったと彼は記憶しています。「テゼレット」という名は潮の虚ろの少年少女の間で彼がそう呼ばれていた名であり、現地のスラングで「小さな即席の、もしくは手製の武器で、身に隠し持つもの/Any small, improvised or homemade weapon kept concealed on one’s body」を意味します。

 そのような生まれだったので自身の正確な年齢すらもわからないのですがおそらく7歳程の頃、テゼレットの人生観を決定づける出来事が起こります。それは母親が馬車に轢かれて死亡したことと、その屍を片付けながら父親が彼へと語った内容でした。力を持つ者が持たない者から奪う、そしてエスパーで最も力を持つのは(彼はまだその言葉の意味すらわからなかったのですが)「魔道士/mage」なのだと。そして母親の無残な死骸を父とともに片付けながら、彼は「力を持つ者」らが持つ輝くエーテリウムの身体と、そうでない自分達との差を実感し、それはわずか7歳の少年の心に深く刻まれたのでした……この回の冒頭で紹介した記述が示すように。

 そしてその翌日から、テゼレットは父親を手伝って汚水の中で金属漁りを始めます。前述の通り、実のところ新たなエーテリウムの製法は失われており、果てのない再利用が続いていたためにそうして生計を立てる者が下層階級には多く存在したようです。そこで彼は、金属への「親和性」とでも言うものがあったのか、容易くエーテリウムの欠片を発見できることに気が付きます。やがて発見したエーテリウムの一部をかすめ取ることを覚え、11歳の頃には自分の皮膚や髪の中に200gものエーテリウムを蓄え、そして彼は潮の虚ろを、何も言わず一人旅立ちました。

 それを元手に彼は身なりを整えて人間の城塞都市「ヴェクティス/Vectis」でとある工匠へ弟子入りし、熱心に学び、そこから「機械技師ギルド/Mechanist’s Guild」へ進んで技術と知識と力を身につけ、さらに多くのエーテリウムを手に入れ、やがて自らの右腕を完全にエーテリウムに置き換えました。その行いによって彼はカルモット求道団傘下の学院への入学が認められました。


※画像は公式記事「プレインズウォーカー略歴│テゼレット」より引用しました。


 ですが試験にて学友のサイラス・レン/Silas Rennとの決闘に敗れたことで、実力不足として教師から退学を命じられます。それは彼らがテゼレットの生まれの卑しさを疎んでのことであるのもまた明らかでした。彼はその教師を殺害して退学命令をもみ消し、学院に留まり続けました。

 それからしばしの時が経ち、教師殺害は誰にも発見されませんでしたが、それでも彼は見下され続けていました。サイラス・レンがエーテリウムの心臓を得た後、テゼレットは「エーテリウム写本/Codex Etherium」が置かれている宝物庫に忍び込み、エーテリウム製法の秘密を見つけ出そうとします。製法を知り、自身の力でエーテリウムを製造し、誰にも自分を見下させないために。

 ……ですが全ては欺瞞でした。エーテリウム写本には何も書かれていなかったのです。


※画像は公式記事「THE FILIGREE TEXTS」より引用しました。


輝く根本原理


 《輝く根本原理》のアートは、テゼレットがエーテリウム写本を求めて忍び込んだまさにその場面が描かれています。アート右端、開かれた扉にテゼレットの影が浮かび上がっているのが見えます。

 彼の侵入は衛兵に発見され、知ってはならぬことを知ってしまったとして殺害されかけたとき、テゼレットの「プレインズウォーカーの灯」が点火しました。深い傷を負った彼が辿り着いたのは……


沼沼


 死と怪物で満ちた世界グリクシス。自分に一体何が起こったのかもよくわからないまま、彼は怪物の攻撃を生き延び、そしてやがて、とあるドラゴンのもとへ辿り着きました。そしてそのドラゴンは、服従と引き換えに彼へと力を約束しました……もうお分かりですよね。


プレインズウォーカー、ニコル・ボーラス


 この連載では何度か繰り返してきましたが、プレインズウォーカーの運命の多くは「初めて渡った次元」に左右されます。『アラーラの断片』に登場したプレインズウォーカーでもアラーラ出身は2人ですが、それぞれが覚醒して隣の断片に飛び、その地に住んでいた別のプレインズウォーカーに出会い、教えを受けました。ナヤ生まれのアジャニはジャンドに飛んでサルカンに出会い、一方でエスパー生まれのテゼレットはグリクシスに飛んでニコル・ボーラスに。アジャニのそれはとても幸運な出会いだったと言えるでしょうが、テゼレットは……どう表現すべきでしょうかね。

 そしてボーラスの多元宇宙間犯罪組織、「無限連合」の一員となったテゼレットはやがて組織内でボーラスへと通じる地位の者らを一斉に暗殺し、自分の息のかかった者とすげ替えることで組織の乗っ取りに成功します。そしてあるときラヴニカにて、1人のプレインズウォーカーを引き入れようとします。若き精神魔道士を……


ジェイス・ベレレン




4. 話は飛ぶのですが

 ……というのがだいたい『アラーラの断片』での出来事でしたのでそこから一旦8年程飛びまして(ジェイスとの因縁や『ミラディンの傷跡』ブロックでの物語については続きを書いたときにきちんと取り上げますのでご安心下さい)。先日世界選手権2016と共に行われました『カラデシュ』の大型プレビューイベント。多くの目玉カードやメカニズムが紹介されましたが、その中にあった1枚のカード。




 《気宇壮大》はその時に初めて公開されたカードですが、当初そのテキスト下半分は隠されていました。そして予告通りに月曜に公開されたその完全なテキストと、ほぼ同時に掲載された公式記事「反逆の先導者」の結末部分。


気宇壮大


《気宇壮大》フレイバーテキスト
「テゼレット審判長は博覧会の発明品すべてを自分で確かめるらしいんだ。だから目立つ物を作ったんだ。」
――バハダールの工匠、ジェバニー


公式記事「反逆の先導者」より引用

「ようやく会えたな、改革派の長」その男は言って、まるで武器の狙いを定めるかのように金属の手を向けた。「その粗末な見世物で私の博覧会を邪魔できると思ったか?」
 女性は男へとあざけった。「お前を止めてみせる、審判長。今日でなくてもすぐに」
 リリアナはその男を掴んで振り返らせた。そしてチャンドラの知らない名前を、チャンドラの理解できない嫌気とともに呟いた。
「テゼレット」



 「テゼレット審判長」の名にネットは一気にざわつきました。

 人気のあったプレインズウォーカーがセンセーショナルに再登場、というのはこれまでにも数度ありましたが、今回のテゼレットは当時発表済だったカードや記事にも一切の気配がないところからの登場だっただけに、多くの驚きと喝采で迎えられました。カラデシュはアーティファクト技術の進んだ次元ということで工匠プレインズウォーカー、テゼレットの再登場を期待 or 予想していた人はもしかしたら多かったのかな? と思いまして、いつものようにちょっとアンケートを取ってみた結果がこちらです。




 しかし「審判長/Head Judge」という肩書に驚いた、そして笑った人は多かったでしょう。ヘッドジャッジですよ。マジックのトーナメントで普通に耳にする役職ですよ。さらに言うと発明博覧会の審判員はとても偉い立場です。続きを書いたときに触れると思いますが、新ファイレクシアに潜入したときも結構いい地位まで行ってたんじゃないでしたっけ。プレインズウォーカーとして覚醒するまでの経歴を見てもわかりますが、基本的にアーティファクト分野では優秀かつ有能なんですよねテゼレット。

 ゲートウォッチのメンバーのうち、現在判明している範囲でテゼレットと面識・因縁があるのはジェイスとリリアナの2人です。前述の通りテゼレットはボーラスから無限連合を乗っ取ったのですが、密かにボーラスの命を受けて組織を取り戻すべくリリアナが動き、彼女はその過程でジェイスに接触して彼を利用します。最終的にジェイスは組織を転覆させ、またリリアナに利用されていたことを知るものの彼女の方はいつしかジェイスに本気の恋をしてしまっていた……。『イニストラードを覆う影』『異界月』を経て、ようやく解れてきたように思われる2人の関係、ですがここにもう1人因縁深いテゼレットが加わって、果たしてどうなるんでしょうね!(目を輝かせながら)


公式記事「改革派の長」より引用

 リリアナは二人の隣へと進んだ。神経が絞首刑執行人の紐よりも張りつめていた。「金属の腕の男――あいつのことは知ってる。あいつは――」
 焼け付く記憶が脳裏にひらめいた。ジェイス、マナブレードの刃の醜い白い傷が走る背中。指でなぞると彼は暗闇の中、両目を燃え上がらせてひるんだ。


 これはジェイス主人公小説「Agents of Artifice」のエピソードを踏まえた描写です。無限連合に所属していた当時のジェイスが任務に失敗した時、テゼレットは特殊な魔法の短剣でジェイスの背中を切りつけることによって罰したのでした。しかしこの少し前の記事「郷愁」にもありましたけれど、いちいちジェイスとの昔のそういう関係をリマインドしてくるリリアナは可愛い。

 そんな訳で今回はここまでです。テゼレットの今後の活躍に期待しつつ、続く!


(終)





※今回の内容につきましては、こちらの書籍及び記事を参考にさせていただきました。


書籍

「A Planeswalkers’ Guide to Alara」 Doug Beyer, Jenna Helland (著)
「Agents of Artifice: A Planeswalker Novel」 Ari Marmell (著)
「Test of Metal: A Planeswalker Novel」  Matthew Stover (著)


ウェブサイト記事

Perfection through Etherium
The Filigree Texts
An Etherium Tale
The Seeker’s Fall
ストーリー / 次元 アラーラ
ストーリー / プレインズウォーカー テゼレット
TEZZERET



この記事内で掲載されたカード


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