はじめに
こんにちは、若月です。
いやかっこよすぎるわ!!ちょうど年末ということで、毎年恒例クリスマス合わせのプレビューを待っていたらすごいのが来た。遠い遠い親戚?の《逃亡者、梅澤哲子》と相性いいのが嬉しいですね。この梅澤 悟は梅澤 俊郎の関係者なのか?という件は前回考察していましたので、興味がありましたらそちらをご覧ください。
さて、『ゼンディカーの夜明け』にてストーリーのウェブ連載が復活して1年以上が経過しました。やはり母国語で手軽に物語を把握できるというのはとても良いことです。2021年最後の記事は、今年のマジックの物語において特に重要だったと思う出来事を3つ取り上げます。もちろん、私の主観であることはご了承ください。それでは……
■第3位 ソリンの名誉回復
『イニストラード:真夜中の狩り』『イニストラード:真紅の契り』では、この次元に欠かせないプレインズウォーカーであるソリンが重要な役割を果たしました。
昼夜のバランスが崩れ、ついには永遠の夜に閉ざされてしまったイニストラード。遥か昔よりこの次元を案じてきたソリンは、同じくこの次元を気にかけるプレインズウォーカーのアーリンやゲートウォッチの声を受け、行動に出ます。
『異界月』のエピソード以来ずっと鬱屈としていた彼ですが、今回は深い内面描写や苦境に屈することなく立ち向かう姿、尊敬する祖父との決別、そしてなんといっても素晴らしく格好良いカードのおかげで、そのストーリー的評判はかなり持ち直したように感じます。
さて、ソリンは『異界月』にてナヒリとの戦いの破れ、岩に閉じ込められたまま放置されてしまいました。その後『灯争大戦』には顔を見せていたので、脱出したのはわかっていたのですが、その手段については不明のままでした。『灯争大戦』でソリン(とナヒリ)がどんな動きをしていたのかは第80回にて解説していますので、知らない人はぜひ読んでください。Two idiots……
ソリンが「壁に閉じ込められていた」件は多くの吸血鬼や、シガルダまでもが知っていました。現場を目撃していたオリヴィア・ヴォルダーレンだけでなく、ソリンを嫌う多くの吸血鬼が喜んで広めたのだと思います。そんな彼はマルコフ家の居城に籠っていましたが、収穫祭の儀式が失敗して永遠の夜が訪れると、さすがに重い腰を上げて祖父エドガーの助言を求めようとしました。
エドガーとソリンの関係については、これまで「祖父と孫」以上の説明はほとんどありませんでした。ですが、今回のイニストラードではソリンの心情が深く語られており、彼がエドガーを深く尊敬しているのが伝わってきます。遠い昔から、自分を理解してくれていた数少ない存在として心から頼りにしているということも。
そんな祖父が誘拐され、嫌な女との政略結婚の道具にされようとしている。そりゃ「不笑」にもなります。そして今一度彼の助力を求めて訪れたプレインズウォーカーたちに対面すると、ソリンは何が起こっているのかを説明します。オリヴィアはエドガーと結婚することで権力を固め、イニストラードを支配しようとしている。ならば――結婚式をぶち壊しに行く。出た結論はそれでした。
ところで今回のソリンについて驚いたのは、どうもテフェリーとは昔からの知り合いらしいということでした。
『イニストラード:真夜中の狩り』メインストーリー第3話「ベツォルド家の凋落」より引用
「ソリン殿」 テフェリーが呼びかけた。言うまでもなく、踏み出したのは彼だった。言うまでもなく、彼は威圧的な様を全く見せなかった。宮廷儀礼に従ったそのお辞儀は、どんな貴族も恥じ入るほどのものだった。「再びお目にかかれて光栄に思います。些細な用件で参りました。手短なものです」
吸血鬼は書物から顔を上げた。「お前の『手短』は信用できないとわかっている。用件を言え、今すぐだ」
『イニストラード:真紅の契り』メインストーリー第1話「徴税と招待状」より引用
「ソリンを長いこと知る者としては、彼に接触するべきだろうと思う。確かに、彼が機嫌を損ねるのはこれが初めてではない。むしろ、不機嫌でない彼に会った試しがないな。だが少なくとも、ソリンはオリヴィアの計画を教えてくれるはずだ」
たしかに『灯争大戦』には両者とも収録されていました。これを読むと互いの台詞には、もっと以前から知り合いだったような雰囲気があります。テフェリーは『時のらせん』から『ドミナリア』までの約60年間、プレインズウォーカーではありませんでした。そして『ドミナリア』はまだ割と最近であると考えると、旧世代当時の知り合い!?ちなみにソリンのほうがずっと年上です、それこそテフェリーの師匠であるウルザ以上に。そう考えるとなんだか妙な感じ。
話を戻して。こうして久しぶりに多人数で行動することになったソリンは、始終不機嫌ではあるものの冷静かつ現実的に物事を判断して動いていました。式場である《ヴォルダーレンの居城》には招待状を持つ者しか入れないということで、彼は単身で踏み入ります。そして吸血鬼たちの嘲笑を背に受けながらも、向かった結婚式の広間で目撃したのは、オリヴィアによって祖父が目覚めさせられる様子でした。
ソリンは止めようとしますが、吸血鬼の衛兵たちによって鎖で拘束されて新郎新婦の前に引きずり出され、式が執り行われる様を見せつけられます。さらにそこには、捕らえられ天井から吊るされたシガルダの姿がありました。かつてエドガーが執り行った吸血鬼化の儀式を模倣するかのように。
オリヴィアは収穫祭から奪った《月銀の鍵》を用いて血の儀式を執り行い、天使をも支配しようとしているのでした。それはつまり、イニストラードすべての支配を意味します。ソリンにとっては何もかもが徹底的な侮辱。彼は血の刃を作り出して拘束の鎖を断ち切り、同時に《ドーンハルトの殉教者、カティルダ》が月銀の鍵から姿を現してシガルダを解放するまでの時間を稼ぎます。そしてこれがきっかけとなって、プレインズウォーカーや聖戦士たちがヴォルダーレンの居城に突入しました。
そして大混乱の中、ソリンは逃亡したエドガーを追いました。吸血鬼が隆盛すれば人間は数を減らし、それはやがて吸血鬼自身の滅びへと繋がる。この問題についてエドガーは何か考えを持っているはず……ソリンは長いことそう信じてきました。吸血鬼たちが耽る退廃以上のものがそこにはあるのだと。オリヴィアに賛同する言葉も、彼女の血の影響を受けてその思想に染まってしまったためだと。
しかし一対一で対面し、言葉と無骨な武器をぶつけ合う中で、どうやらそうではないという事実がソリンを打ちのめします。たしかに結婚を計画したのはオリヴィアだったかもしれませんが、エドガーもこの世界の支配を求め、自らの意志で同意したのでした。
ソリンは一度はエドガーに打ち負かされますが、それでも再び浮上します。血を飲んで力を取り戻し、剣を手に取り、祖父と決別するために今一度戦いへと赴きました。そして再度の戦いにて、先に武器を落としたのはエドガーのほうでした。ソリンはとどめを刺すこともできましたが、そうはしません。その手を押し留める何かがあったのです。
「それは、死して久しい天使の見えざる手かもしれない」――ソリンの内にはアヴァシンの慈悲が今も生きていた、のかもしれません。私の前から消えろ、とソリンが吐き捨てるように言うと、エドガーはオリヴィアとともに逃げていきました。
イニストラードの人間の視点で見れば、強大な吸血鬼始祖であるエドガーを殺すほうが絶対良いはずです。それでもプレインズウォーカーたちは、エドガーを生かしたソリンを責めはしませんでした。
『イニストラード:真紅の契り』メインストーリー第5話「死が我らを分かつまで」より引用
「あんた、大丈夫?」
あの紅蓮術師だろうか。その声に込められた心配にソリンは驚いた。この娘は決して自分を好いてなどいないだろうに。
「ああ」それは嘘だった。ソリンは刃を拭った。やがて顔を上げると、他の者たちは遠巻きに彼を取り囲んでいた。まるで饗宴の残骸のように、吸血鬼の屍が床に散らばっていた。
「ソリン殿、察します――貴方にとっては辛い出来事だったでしょう。それでも正しい行いを成して下さいました」 テフェリーがそう言った。
ソリンは彼を睨みつけたかった。お前に何がわかる?お前などに判断されてたまるものか。それでも彼はわかっていた――テフェリーもまた、古い存在だ。テフェリーもまた、喪失を知っている。想像を超える物事を見てきた者なのだと。
そして他の者たちはもっと短命かもしれない――それでも、全員が共通する本質を理解している。一つ所に留まっていられない落ち着かなさを。放浪熱を。
「感謝する」
彼に言えたのは、それだけだった。
ソリンの年齢は7000歳以上。これほどの長さを生きるキャラクターはそう多くありません。かつて長い時をともに過ごしたナヒリは離れていってしまいました。古くからの友、ウギンはもういません。エドガーはソリンを大昔から知る唯一と言っていい人物だったのです。その相手と決別しなければならない辛さは途方もないものだったでしょう。チャンドラやテフェリーはその苦悩を察し、ソリンもまた、プレインズウォーカーとして自分と同じものを持つ彼らの気遣いを受け止めたのでした。
……お疲れ様でした、ソリン。個人的には、しばらく休んで心身共にゆっくり立ち直って欲しいと思っています。
■第2位 リリアナ、教師になる
【プレビュー】俳優のダニー・トレホ氏が、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』の新カード《オニキス教授》をお披露目!さらなる情報は今週木曜日深夜のデビュー放送にて! #mtgjp #MTGStrixhaven https://t.co/GsFG6LDV03 pic.twitter.com/FLMoTaZbAt
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) 2021年3月23日
このカードの公開はいろいろな意味で衝撃的でした。おや、新プレインズウォーカー……ですがよく見たら「伝説のプレインズウォーカー — リリアナ」。ラヴニカに対しては死をうまいこと偽装し(詳細は第105–108回を参照)、贖罪への道を歩み始めた……ってそれ!!??
「テゼレット審判長」「王神ニコル・ボーラス」「ヴラスカ船長」というように、既出のプレインズウォーカーが思わぬ肩書とともに再登場というのはときどきありますが、これもまた「何やってるんですか!!!」と大いに話題になりました。
リリアナは昔、ストリクスヘイヴンに在学していました。彼女の出身はドミナリアですので、言うまでもなくプレインズウォーカーとして覚醒した後ということになります。MTGアリーナでの解説には「ウィザーブルームの卒業生であるオニキス教授は、教師として母校へ帰ってきました。」とありました。ウィザーブルームは生と死の魔法や薬学を扱います。なるほどリリアナはかつて癒し手になるために修行していましたし……え、髪飾りがないからリリアナじゃない?アッハイ。
《デーモゴスのタイタン》フレイバーテキスト
「もちろんあれは力をくれるでしょう。悪魔はいつでもそう。でも、手に入るものが魅力的であればあるほど、代償は破滅的なものになるのよ。」――オニキス教授
『ストリクスヘイヴン:魔法学院』メインストーリー第3話「課外授業」より引用
「私が見る限り、稲妻を浴びせるというのは喧嘩の度を過ぎていますね」教授は厳しい目でローアンを見つめた。「血を分けた者同士の争いというのは非常に辛いものです。そしてそれを煽るのは非常に愚かという他ありません」
悪魔との契約がやがてもたらすもの。肉親を傷つけることの辛さと愚かさ。たしかに「自らの人生の反省を踏まえ、後進を育てる」というのは立派な行いであり、これらの言葉には並々ならぬ重みが込められているのが(リリアナの過去を知っている)我々にはわかります。
しかしいくら変装しているとはいえ、リリアナは身を隠さねばならない立場です。たしかにラヴニカを離れればある程度は安全でしょうが、決して100%ではありません。現実として、ほかにも何人ものプレインズウォーカーがこの次元を訪れている(カードになっている)のです。まあ同じ『ストリクスへイヴン』に登場しているプレインズウォーカーでも、ウィルとローアンとルーカは物語を読むに『灯争大戦』以降に覚醒したようなので、ラヴニカの件は知らないかもしれませんが。
そして物語が公開され始めると、意外なことに(失礼)リリアナは凄く真っ当に教師をやっていました。生徒にとってはとても厳しい、また怖い噂が漂う先生であるようです。
『ストリクスヘイヴン:魔法学院』メインストーリー第3話「課外授業」より引用
ウィルは勉強机から立ち上がった。「霊気的改竄倫理学の宿題は終わったのか?」
「ん」ローアンは冬服の部品を放り投げた。
「今週末の準備はいいのか?オニキス教授の試験はとんでもなく難しいって噂だ」
同記事より引用
オニキス教授の機嫌を損ねない方がいい、誰もがそう言っていた。プリズマリの寮ではこの女性に関するあらゆる類の怪談が噂されていた。ウィルも、さすがに肉食性の亡者茸の苗床にされるなどとは思っていなかったが、その可能性を完全に除外もできなかった。なお悪いことに、もし放校処分になってしまったら?
これはちょっと笑いましたが。知ってます?オニキス先生って人間なのに200歳超えてるって話ですよ?またオリークが学院を襲撃した際は、ほかの教授たちとともに体を張って生徒を守っていました。
『ストリクスヘイヴン:魔法学院』メインストーリー第4話「試験開始」より引用
「オニキス先生、危ない!」
生徒の叫びに振り向いた瞬間、オリークの工作員が物騒なエネルギーの渦を放ってきた。相手から生命力を吸い取るための危険な呪文――だが彼女はそういった類の呪文に極めて長けていた。彼女は伸ばした掌から数インチの所でその呪文を止め、冷淡に見つめた。背後で、少し前まで授業を受けていた生徒たちが見つめ、唖然とし、恐怖していた。この子たちに当てる気だった――いいわ、それならこちらも。身振りひとつで、そして威力を倍にして、リリアナはそれを唱えた相手へと送り返した。工作員は避けようとしたが、その貪欲な魔法は叫ぶ暇すら与えずに相手を飲み込んだ。
(略)
直ちに、キアンとリリアナは大股で駆けた。この時は別の悲鳴が続いた。見ると、ひとりの生徒が地面に倒れて縮こまり、昆虫に似た怪物が迫っていた。「魔道士狩りだわ」 キアンが小声で囁いた。影から、更なる数が湧き出るのが見えた。それらの尖った脚が石畳に音を立てた。
その生物はのけぞり、身体の節が輝き、その時キアンが幾何学の魔力を槍にして放ち、それを貫いた。リリアナは怯えた生徒を掴んで背後に押しやった。「逃げなさい」
すごい……リリアナが他者を守っている。そんな感慨すら抱きました。もちろんリリアナが何の理由もなく教師をやっているわけではありません。リリアナがストリクスヘイヴンへ赴いた目的は、物語にて割とすぐに明かされました。
『ストリクスヘイヴン:魔法学院』メインストーリー第2話「それぞれの教訓」より引用
「霊気的再構成について、幾つか研究をしておられますよね」リリアナは尖った一つの金属片をポケットから取り出した。それは彼女が持つギデオンのただひとつの形見、スーラの刃の先端だった。「そういった手法を人間相手に用いる際には、何が必要になるのでしょうか?」
それは「ギデオンを蘇らせる手段を見つけるため」。それもゾンビとしてではなく、生前の姿のままで。ギデオンの死はゲートウォッチ、特に初期メンバーに大きな影を落としています。
小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター4より訳
ゲートウォッチをひとつにまとめていたのはギデオンだった。
あいつがいなくなって……
ギデオンの存在なしに、ゲートウォッチは存続できるのか。それすらもジェイスは定かでなかった。
ジェイスにとってギデオンは親友と言っていい存在でした。彼の場合はそれだけでなく、ボーラスの死に関する秘密にも苦しんでいるのですが。チャンドラはコミックにてティボルトに目をつけられ、ギデオンの死の辛い記憶を呼び起こされて苦しめられていました(第109回で少し解説しています)。人との関わりをあまり好まないニッサですら、窮地にはギデオンの頼もしさや決断力を思い、「ギデオンならどうする?」と自問自答していました。
リリアナが「ギデオンを蘇らせる」という目的に至ったのは、長いこと死霊術を扱ってきた彼女であれば自然なことだと思います。これまでリリアナは何度となく死者をゾンビとして蘇らせてきました。
しかし、今回は少し考えただけでも、とてつもなく難しいというのがわかります。まずゾンビではなく、生前の姿で蘇らせるのが目的です。そして蘇らせようにも遺体すら残っていないのです。いくらリリアナでも、無からゾンビは作れません。ましてや生きた姿など。
死霊術とは異なる蘇生の術。カードとしては黒以外のリアニメイト呪文ということで、このあたりになるのでしょうか。そしてギデオンの場合、遺体が存在しない=リアニメイトしようにもそのカードがないとも取れます。
リリアナは『ストリクスヘイヴン:魔法学院』の話中にて蘇生の方法を求め、《ベレドロス・ウィザーブルーム》を尋ねました。プレインズウォーカーでなくとも、アルケヴィオス(ストリクスヘイヴンの次元)の創始ドラゴンは極めて古く強大な存在です。それでもウィザーブルームの返答は「極めて難しい」。リリアナは引き下がらず、自分の身代わりになって死んだ相手を蘇らせたいのだ、と伝えます。「私にはできぬ」――それがウィザーブルームの答えでした。
それでもリリアナに諦めた様子はありませんでした。彼女にとってはそれがギデオンへの贖罪であり、ギデオンへの恩返しなのでしょう。
オリークの襲撃や大図書棟の戦いが終結して学院の日常が戻ってくると、リリアナは今後もストリクスヘイヴンに残り、「リリアナ・ヴェス」として死霊術を教えていくことになりました。繰り返しますが、死者を生前の姿に蘇らせるというのはとても困難な技です。そのような分野を研究するには、後進の育成もまた重要ですからね。
もし本当にいつかそれが成し遂げられたなら、リリアナはどんな顔をしてギデオンに対面するのか……それはちょっと見たくもあります。
そしてリリアナといえばもうひとつ。マジックのコミック「MASTER OF METAL」でも、ストリクスヘイヴンにてリリアナが登場していました。
これはBOOM! Studiosから毎月発刊されているシリーズの番外編的なストーリーです。本編の主な舞台はラヴニカで、主人公はラル・ケイヤ・ヴラスカの3人。あるとき、それぞれのギルドが正体不明の敵から同時に襲撃を受けます。明らかにプレインズウォーカーを狙っての行動。3人は協力して事態の解明を目指すのですが、その背後には誰一人思いもよらぬ、極めて古い存在の気配が……というようなストーリーです。
このコミックにてリリアナは、ストリクスヘイヴンの大図書棟へ盗みに入ったテゼレットを追い返していました。台詞をひとつ引用して訳しますと、「図書館から本を盗むなんて。お前にしても墜ちたものね、テゼレット」。ちなみにテゼレットが盗もうとした本のタイトルは「EMBRACE OF ICE: A CHRONICLE OF MARIT LAGE(氷の抱擁:マリット・レイジ年代記)」(ネタバレのため文字色変えています)。ドミナリア出身のリリアナはその名前を聞いたことがあるようです。
実のところ、このシリーズがマジックストーリーの「正史」に入るかどうかはよくわかりませんが、それでもものすごく面白いんです!一癖あるプレインズウォーカーたちのかけ合い、彼らが次第に友情を築いていく様子、都市次元ラヴニカの風景、ミジウムの身体を得たニヴ=ミゼット、意外かつ非常に熱い展開……完結したらまとめて紹介しようと思っています。
■第1位 ファイレクシア脱出
2021年にマジックの物語中で起こった最大の事件は?と聞かれたら、誰もがこれだと答えるかと思います。極光と神々の次元カルドハイム、そこになぜか現れたとんでもない異物。
このヴォリンクレックスを初めて見たときの感想は「何でお前がここにいる!!!!!」でした。いやたしかに、今年で『新たなるファイレクシア』からとうとう10年が経ちました(2011年5月13日発売)。エルドラージもボーラスも対処され、さすがにそろそろ何か動きがあるかな……と思っていましたが、新ファイレクシアに再訪するのではなく、新ファイレクシアの方から外に出てくるとかある!!!???
「あんなのは……狼じゃない」 ケイヤは低く囁いた。
それは体高十二フィート、あるいはもっと高いだろうか。身体は生々しい肉色をしていた。両肩にはまだら模様の毛皮が生え、様々に異なる色がうねっていた。熊に埋もれていた腕は長く力強く、その先端には湾曲した恐ろしい鉤爪が生えていた。胸からは細長い腕がもう二本伸び、鉤爪の手が蜘蛛のように悶えていた。何もかもが異質、だが最も異質なのはその頭部だった。頭蓋骨のようなその顔面は剃刀のように鋭い牙と尖って広がる枝角で囲まれ、それらはインガのランタンの光を受けて、骨の色でありながら金属のように輝いていた。
『カルドハイム』ストーリー序盤にて、ケイヤたちはヴォリンクレックスに遭遇します。このときは取り逃がしてしまうのですが、この「怪物退治」の任務を請け負っているケイヤは《星界の神、アールンド》の力を借りて追跡します。
ただ足跡が途絶えており、また《星界の騙し屋、ティボルト》や《タイヴァー・ケル》との遭遇を経て、物語の流れは「複数の領界の衝突、ドゥームスカールを何としても止める」という方向に変わっていくのでした。
このカルドハイムの「最終決戦」はとても熱いものでした。多くのキャラクターが集結し、ひとつの目的を目指す――《戦闘の神、ハルヴァール》に《領界の剣》を届け、ドゥームスカールを止めるのです。
サイドストーリーでいい存在感を出していた《傷頭のアーニ》や《牙持ち、フィン》。カルドハイムの現在の神々を嫌ってはいるものの、今は同じ大義を持つ《スケムファーの王、ヘラルド》とエルフの軍勢。途方もない巨体で戦場に混乱をもたらして流れを変える《星界の大蛇、コーマ》、そしてそれを連れてきたといっていい《ニコ・アリス》とシュタルンハイムの天使たち。全員の奮闘が実り、カルドハイム最大の危機は終わったのでした……が。
『カルドハイム』メインストーリー第5話「決戦、カルドハイム」より引用
「ケイヤ殿はどうされるのですか?」インガが尋ねた。「怪物を捕らえるという依頼を受けていたのではありませんか?」
「ええ」とケイヤ。領界路探しとの旅はまるで百年も前のことのように思えたが、あの洞窟での遭遇を忘れてはいなかった。「けど、あれが結局どこへ行ってしまったのかの手がかりはないのよ。それに、あれは領界の間じゃなくてもっと遠くへ旅ができるような気がするの」
このようにケイヤの追跡は行き詰まったまま終わりのようです。一方で物語序盤以来、姿を見せていなかったヴォリンクレックスは、人知れず《タイライトの聖域》へと押し入り、世界樹の樹液――《星界の霊薬》の材料となるもの――を奪ってファイレクシアへと帰っていきました。
結局、ヴォリンクレックスがカルドハイムへやって来た手段は明かされないままでした。少なくとも片道切符で、実験体や鉄砲玉として送り込まれたのではなかったということはわかりましたが。このあたりの詳細は第111回にて考察しています。
その後、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』と『イニストラード:真夜中の狩り』&『イニストラード:真紅の契り』にファイレクシアの気配は特にありませんでした(『フォーゴトン・レルム探訪』はコラボなので除外です。いやあったらそれはそれで困るが)。ですが『イニストラード:真紅の契り』最終話のエピソードには、「やはり近々来るのか……」と感じずにはいられませんでした。
『イニストラード:真紅の契り』メインストーリー第5話「死が我らを分かつまで」より引用
「その脅威がいかに深刻か、私は誰よりも知っている。ファイレクシアという名の脅威だ。もしも奇妙な黒い油か、肉体と機械が混じり合った存在を見かけたなら……何かしら奇妙なものを見かけたなら、私たちの誰かに知らせて欲しい。この旅の間に何か手掛かりが見つかるかもしれないと思っていたのだが、何事もなくてそれはそれで良かった。この鍵は役に立ってくれるだろう」
以前、テフェリーはかつてよく知る、かつて失った地について語っていた。彼の目から、その二つには関係があるとアーリンは察した。
「何かが迫りつつある。どうかそれに備えていて欲しい」
ケイヤはヴォリンクレックスに遭遇した際、それがファイレクシアンだとはわからないようでした。ファイレクシアのドミナリア侵攻はすでに昔の出来事です。そしてミラディン次元が新ファイレクシアと化した件はある程度広まっているにしても、「極めて危険なので行ってはいけない」とも言われているでしょう。
現在のプレインズウォーカーの多くが、そのクリーチャー一体を見ただけではわからなくても仕方ないかと思います。テフェリーはケイヤから話を聞いてそれがファイレクシアンであると気づき、ファイレクシアがほかの次元に手を伸ばしていると知った……と考えるのが妥当でしょう。
そして、新ファイレクシアと化したミラディンにて今も戦い続けているであろうコス。死亡したキャラクターを除けば、最も長く物語に再登場していないプレインズウォーカーになります。ときどき、特殊セットの新規アート・新規フレイバーテキストで「生存報告」をしてくれていますが、実のところコスは今年カード化の計画があったと明かされていました。
公式記事「こぼれ話:『モダンホライゾン2』 その1」より引用
ミラディンをテーマとしたカードを大量に入れる予定だったので、3人目のプレインズウォーカーは最近登場していなかったコスの新カードになる予定でした。そのコスは手の込んだ忠誠度の構想がありましたがこれは最終的にうまく行かなかったので彼をボツにして、その代わりに、クリエイティブ・チームがセット内の別の場所でカード・コンセプトに登場させていた《ジアドロン・ディハーダ》を入れました。この入れ替わりの結果、セットにはダッコン、ピルー、ディハーダ、《獅子のカルス》と、1996年のダッコンのコミックの登場人物が登場することになりました。
むう……『モダンホライゾン2』でのダッコン関係者全員参戦はエキサイティングでしたが、これはけっこう可哀相だ。いや本流のセットで出ないことには……という気持ちもありますが。
《大修道士、エリシュ・ノーン》フレイバーテキスト
「ギタクシア派は、異世界について仲間うちで囁いている。それが存在するなら、ファイレクシアの素晴らしさをもたらしてやらねばならぬ。」
このフレイバーテキストが示すように、ファイレクシアが他次元への進出を狙っているのは間違いありません。かつての『インベイジョン』ブロックや『灯争大戦』のような「最終決戦」の時が訪れたなら、その舞台は果たしてひとつの次元で済まされるのでしょうか……
■今年もありがとうございました
以上になります!正直に言いますと、11月に記事を上げられなかった分もう一本書きたかったんですよ。とはいえ今年もたくさん書きました。これを入れて計15本。一応月刊連載のつもりなのですが、近年は割と無視してしまっています。好きに書かせていただけているということで、本当ありがたく思っています。
さて、2022年のマジックの物語は……すごいことになる予感がします。『サイバーパンク日本次元神河』、『ギャング次元ニューカペナ』と真新しい(ネオ神河は再訪ですが)世界を経て、『Dominaria United』『The Brothers’ War』とドミナリア次元のセットがふたつ続きます。特に後者は、「兄弟戦争」を再び描く……つまりファイレクシアのドミナリア侵攻、その発端が描かれるということです。
これまでにも、兄弟戦争の物語は小説「The Brothers’ War」にて非常に詳細に語られています。それが現代風にリファインされ、読みやすい形で展開されるのであれば楽しみというほかありません。
それでは、良いお年を!
(終)