『霊気紛争』、開幕。
だが、そのこと以上に大きなインパクトをもたらしたのは、やはり先日の【禁止改定】だろう。
6年ぶりのスタンダードでの禁止カード発表。そしてモダンではとが禁止と、2017年の幕開けから大激変が我々を襲ったのである。
おまけに禁止改定の頻度も上がるということで、これから特にスタンダードは、健全なゲームバランスと引き換えに、変わらないものなど何一つない激動の時代を迎えるものと予想される。
もはやマジックを続ける上で、我々に抗う術は残されていないのだろうか?
否。一つだけ残されているものがあるとすれば。
それは、デッキを作ることだ。
このような時代にあっても、むしろ「逆に環境のバグを見つけて俺が禁止カードを作ってやるぜ」と燃え上がるのがデッキビルダーというものだからである。
だから、やることは変わらない。嘆くよりも前に、試すべき組み合わせがある。挑むべき発想がある。
高みに至るその日まで、弛まずデッキを作り続けていこう。
■ 1. 妄想編
クソデッキ、セットのポテンシャルを見誤る。
実は、私が一番最初に【『霊気紛争』のカードリスト】をざっくりと見たときは、「なんか地味なセットだな」という印象しか持たなかった。
【私の大好きな「10」】もなく、「即席」や「紛争」といったキーワード能力や5種類の「巧技」にしても、いずれもちょっとひねった感じのことをやるだけの、見掛け倒しの能力に見えていたからだ。
だがデッキ作りとはカードに隠されたポテンシャルを最大限引き出すことだ。それゆえ、新セットのカードについて初めからそんな穿った見方をしていては、シナジーやコンボなど見つかるはずもない。
こうしていつものように暗礁に乗り上げた私は、『霊気紛争』のカードの中でもとびっきりの危険地帯、一度入ると二度と出てこられないアルカトラズに足を踏み入れようかとすら考えていた。
「アルカトラズ」
-土地 (0)-
-クリーチャー (0)- |
4
4
-呪文 (8)- |
絶対ヤバい(確信)。
しかし、こんなデッキを作りたくなかったので 私は思い直したのだ。
どんなカードにも、デザインの意図は必ずある。デザイナーが具体的に何を考えて作ったかまではわからないが、カードに与えられた機能が何と結合し、最終的に何を生み出すのかは、カードテキストから想像が可能なのだ。
そう、必要なのは「想像力」だ。「10」とか「即席」「紛争」といったわかりやすいだけの見せかけの記号にとらわれず、自由に考える。その視点が、先ほどまでの私には欠けていた。
想像しよう。
カードは、クソ デッキになりたがっている。
だから、必ずあるはずだ。私のような頭のおかしいビルダーでも満足できるように、きっと仕込みがなされているはず。
そう思って藁にもすがる思いで今一度『霊気紛争』のカードリストを一から見直した私は……ついにそのカードに、出会った。
。
マナを踏み倒す能力というのは、「待機」や「続唱」を例にあげるまでもなく、マジックの歴史において何らかの悪さをしでかしてきた。
もちろん「即席」の場合はマナを支払わないとすれば代わりにその分だけアーティファクトをタップする必要があるので、厳密にはきちんとリソースを支払っていることに変わりはない。
だがこのカードがあれば、今まで重すぎてプレイできなかった呪文や、到底実現不可能に思われていたコンボなどにも、光が当たる可能性が出てくるのだ。
「には、絶対に何かやばいコンボの可能性が眠っている」
そのように想像力を働かせた私は早速、「最もマナコストを踏み倒して嬉しいカードは何か」を検討し……
……そしてすぐに、そのコンセプトにたどり着いた。
と0マナアーティファクトの組み合わせ。
が置いてあれば、0マナアーティファクトはさながらMoxシリーズのように扱える。すなわち、3枚の0マナアーティファクトとがあれば、何とを実質(青)のみでプレイできるのである。
けれどもそれだけなら、結局0マナのゴミ3枚でカードを3枚引けるだけなので、大した効果とは言えない。
だがもし、0マナのアーティファクトたちをリソースとして回収する手段があるとしたら?
祭りが始まるであろうことは想像に難くない。しかし、そんな都合の良いカードがあるのだろうか?
その答えは、同じ『霊気紛争』のカードの中にあった。
。
このカードについては、モダンの【純鋼ストーム】を一線級へと押し上げるカードとして既に注目していたので、すんなり思いつくことができた。
何といってもこれがあれば、アドバンテージを失わずに0マナ装備品たちを戦場に並べることができる。ということは、を打った分のドローは丸々得できるということだ。
--0マナ装備品-。
こうして想像を超えた妄想の結果、緊密に結びついたシナジーのラインが織りなす四角形が完成した。
だが、まだだ。まだこれだけでは、ただカードを引き続けることしかできない。このままだと大量の手札を抱えてライブラリアウトするお間抜けさんが出来上がるだけである。
必要なのは、フィニッシャー。大量のドローを勝ち手段へと変換する砲台だ。
それも、ここまで読んだ方なら薄々気付いていることだろう。0マナの装備品を出し入れすると、「ストーム」カウントが勝手に増えていく。
ということはそう、もちろん。
50点砲の出番だ。
そう、【30点】、そして【40点】と立て続けに明後日の方向にシュートを決め続けた私に、新たな試合のホイッスルが鳴ったのである。
無論これに対しては、【前回】の最後でゴリラはやめようと誓ったばかりではなかったのか?と思う向きもあるかもしれない。
このゲームでは人間は20点当てたら死ぬのだから、わざわざ50点も当ててゴッドフィンガーする必要はないのではないかと。
だが、今回私にはを使わざるをえない必然性があったのだ。
思い出して欲しい。今回の主役は。そしての50点はダンクシュートのごときインパクトを持っている。しかもスラムは見た目がどう見てもゴリ
スラム……ダンク……あっ、まさか!
そう、「スラムダンク」だ(直球)
あの名作バスケットボール漫画が、よもやマジック:ザ・ギャザリングとこんな形で符合するとは。【バトルワーム】以来の2年ごしの伏線が、ようやく回収されるときが来た。
すなわち、やといった、あからさまにをプッシュするパーツを『霊気紛争』に収録したのは、「スラムを使って50点を決めろ」というウィザーズ社からのメッセージだったのだ。
やはりマジックはバスケットボールだった。野球だテニスだと遠回りをしたが、今度こそ間違いない。
ならば。再びインターハイに挑戦するしかないだろう。
50点のダンクでリングを破壊し、私が湘北を優勝に導く!
……と、ここまでの話だけでデッキが完成すれば話が早かったのだが。
まさかここから累計30時間にも及ぶ一人回しの日々が始まるとは、予想だにしていなかった。
だが、考えてみれば当然だ。これまでのクソデッキとは違い、「ストーム」系コンボデッキを作る際には、かなり繊細なデッキ構築が求められる。
とりわけこのデッキにおいては、一人回しを続けるにつれ、4つの課題が複雑に絡み合ってデッキの完成を妨げていることが浮き彫りとなっていったのだった。
「初期脳内型」
6
2
4
2
4
4
-土地 (22)-
4
4
4
-クリーチャー (12)- |
4
4
2
4
4
4
2
2
-呪文 (26)- |
この、一切の一人回しをせずに「即席」と書いてあるカードと軽いアーティファクトをただ何となくかき集めて作った「初期脳内型」のレシピを見ると、一見問題なく「ストーム」を大量に稼げそうな感じではある。
だが、【青白GAPPO】の例を見ればわかるように、理想と現実との間には常に大きな隔たりがあるのがデッキ構築というものなのだ。
まず第一に、青白というカラーリングはマナベースがクソという問題がある。とりわけを運用するのであれば1ターンに(青)(青)(青)(青)を要求することも珍しくないのに対し、友好色のバトルランド+シャドウランドではタップインが多すぎてまともに戦えそうもない。
第二に、コンボ発動のシチュエーションに辿り着くのはおおよそ6ターン目くらいなのだが、そのターンに辿り着くまでどうやって生き残るのかというのも難題だ。スロットの大半をコンボパーツが占めるこのデッキは、裏を返せば5ターン目まではマグロそのものなのである。4ターン目に+が決まるこの時代に5ターン目までマグロとかコンセプトが破綻していると思うかもしれないが、考えたら負けである。
第三に、仮に生き残ることができたとしても、ではマナコストを軽減できないためにどうやっても4マナかかるを、いつどうやって設置するのかという問題が出てくる。ちなみにをカウンターされたらどうしようとか割られたらどうしようとかは最初から詰んでるので特に検討はしない。コンボとはそういうものなのである。
第四に、実はこのデッキ、が除去されたり、を引き込めないと、意外とすぐにドローが止まって「ストーム」が足りなくなってしまう。ドロースペルのチェインが止まらない工夫が必要なのだ。もうなんか色々と必要すぎて開幕のジャンプボールだけで要介護みたいな状態になっているが諦めたらそこで試合終了なのである (名言の無駄遣い)。
◆ クソの課題
1. マナベースを改善する
2. マグロを回避する
3. を設置するターンを作る
4. ドローが止まらないようにする
これらの課題をクリアしない限り、このデッキは完成しない。だがそれは、あまりに遠すぎる道のりだった。
それでも、「こんなん無理ゲーでしょ」と口に出したい気持ちをぐっとこらえて、私は一人回しを続けた。
そして、ついに。
30時間にも及ぶ試行錯誤の果てに、4つの課題すべてをクリアする構成に辿り着いたのだ。
■ 2. 爆誕編
クソデッキ、強化合宿を乗り越える。
バスケとマジック……球技と卓上遊戯。一見交差しない2つの競技が、運命的な出会いを果たす瞬間が来た。
マジックをバスケで例えるなら、デッキはボールだ (?)。
そしてゴールリングは対戦相手のライフである。マジックでは2点や3点のシュートを決めてもすぐ取り返されてしまう。勝つには50点を決めるしかないのだ。なら4億点くらい入れられるけど
それではお見せしよう。これがバスケットボールの精神を体現したデッキ……「Sram Dunk」だ!
「Sram Dunk」
3
3
1
4
3
4
1
-土地 (19)-
4
-クリーチャー (4)- |
4
4
3
4
3
4
4
4
4
3
-呪文 (38)- |
4
4
3
2
2
-サイドボード (15)- |
やっぱりマグロなのでは?
そう……を置くデッキなのだからある程度マグロなのは仕方がないのだ(開き直り)。
とはいえマグロかどうかはさておき、読者諸兄としてはこのレシピが完成形であるという必然性はどこにあるのか、そもそもこれのどこがバスケの精神を体現しているのかと問い直したくなっていることだろう。
しかし、無限の一人回しの末にたどり着いた私には、既に「これが完成形だ」と感覚でわかっていた。
「クソの課題」のクリアは、「スラムダンク」への道のりでもあった。すなわちこのデッキには既に、「スラムダンク」との多数の符合が隠されていたのだ。
まずこちら、先ほど述べた4つの「クソの課題」のうち「マナベース」の解決は、青緑ベースにすることだった。に加えて、最強のアンタップインランドであるの運用。これによりタップイン多すぎ問題は瞬く間に解決した。
もちろん何らのエネルギーサポートもなしでははさすがに使えないが、そこはが、ライブラリーの圧縮兼設置後のスペルカウント水増し役として、デッキを裏からサポートしてくれる。
ん?湘北を裏から支える……はっ!
まさか、マネージャーの彩子さん!?(※ニッサです)
「マグロ」の解決策として見出されたのが。地味にサヒーリ・コンボに対しても1ターン作ることができるので、腐りにくいカードだ。
そしてこのカードのイラストは遠くからよく見ると、これは1 on 1をプレイしている2人では!? ならば祝祭とはまさかインターハイ……?(※違います)
えっと……これは何だ?(破綻)
一応、が設置された状態では、は (他に装備品3枚あれば) 実質(青)(青)でを設置できるという役割があり、もちろん相手のクリーチャーや「機体」に打つことで打点を下げる的な使い方もできるので、直接の勝利パーツではないにせよかなり便利なカードなのだが、バスケ的には特に符合してないような……いや!あれだ!なんかすごいディフェンスしてる人だ!(適当)
「途切れないドロー」についてはが全てを解決してくれた。このデッキは一度をプレイすると余計な土地や2枚目以降のなどで不要な手札が溢れかえるので、それらを有効札に変えられるこのカードは、でバウンスできるという点も含めて、このチームのエース的ポジションと言って差し支えない。背景世界ストーリー上の主人公的立ち位置も含めて、湘北で言えば流川ということになるだろう。
さらに符合はまだまだ続く。
ディフェンスに定評のある池上。
なんかめっちゃ盾持ってるし (けど既に湘北ですらない)。
安西先生……!!バスケがしたいです……
原作通りベンチサイドボードに控えていて、チームに的確な指示を出してくれる。しかも怒る (裏面になる) と怖い。
メガネくん!メガネくんじゃないか!
あいつも三年間 (?) 頑張ってきたカードなんだ……侮ってはいけなかった……
■ 3. 実戦編
クソデッキ、マジックオンラインの競技リーグに参加する。
◆第1回戦 VS ジェスカイサヒーリ
1戦目 相手が4マナ目を置いた返しのターンから→→とマスカンを連打して打たせないようにしたらが通ったので適当にゲイン祭りして50点。
2戦目 ドローが芳しくないところで6ターン目におもむろに出されて負け。
3戦目 こっちのフルタップの隙に相手がメインで打った返しでだけ通す。色々打つもカウンターされつつに殴られ、最後相手の手札が5枚、残り4マナという状況でカウンターされたら負けのが相手何も持ってなくて通ってストーム足りて50点。
〇×〇
◆第2回戦 VS ジェスカイサヒーリ
1戦目 ドロー悪くて攻められず相手のコンボが決まって4億点。
2戦目 が通って絡みでシャクったりして50点。
3戦目 2枚から出したら相手が投了。
×〇〇
◆第3回戦 VS ジェスカイコントロール
1戦目 早々にを置かれて動きが制限され、それでもなんとか2枚置いてターン返したら2枚ともされて目の前が真っ暗になって負け。
2戦目 ほぼ同様の展開でまで持たれてて負け。
××
◆第4回戦 VS 4Cサヒーリ
1戦目 先手5ターン目50点。ラン&ガン。
2戦目 今度は相手が先手4ターン目に4億点。モダンかな?
3戦目 をしたら相手が土地祭っては出されたけど後続がなくて50点決めて勝ち。
〇×〇
◆第5回戦 VS 黒緑ビート
1戦目 2ターン目から装備4枚ばら撒いて、4ターン目設置、5ターン目のエンドにから先手6ターン目に50点。
2戦目 から×2と動かれたけど1枚はできて、相手の土地が詰まったのもあって余裕ができ、からリカバリーしてラストアタックをでかわして返しのターンに→装備3枚から+→装備3枚で68点ゲインして50点。
〇〇
結果:4-1。
■ 4. 後悔編
クソデッキ、想像を超えた活躍。
見た目はアレだがわからん殺し要素が強いこともあり、今回は特に後悔もなく、納得のいく仕上がりとなった。「機体」に当たらなかっただけとも言う
強いて言えば、まだ完成前のこのデッキを【KenjiWayfinder】に提供したところ、「Sram Dunkっていうデッキ名は最高だ」的な上々の感想を海外からたくさん頂戴したので、【Super Crazy Zoo】のときのように、私が作ったデッキとして世界に発信できるよう、5-0したかったという点が心残りといえば心残りか。だがまあ、それについてはこれからもチャンスがあることだろう。
さて、ここで重大でもなんでもない発表があるのだが……私は来月開催の【グランプリ・静岡2017 (春)】にも参加予定なので、できる限りこのデッキを持っていくつもりだ。
ちなみに今回も【青白GAPPO】の絆で結ばれた高桑 祥広とデッキをシェアする予定である。またマジックの神に感謝 (サンキュー) してしまうかもしれないが、はたして何勝できるのか、乞うご期待である。
「なのにどうだあの目は……」
また次回!
伊藤 敦
通称”まつがん”。
独自の構築理論と情熱を武器に、次々と独創的なデッキを世に送り出してきた。またプレイヤーとしてだけでなく、ライターとしてもその名をはせており、これまでに数々の名作を手掛けている。そんな彼の集大成とも言える【Super Crazy Zoo】は国内外を問わず大きな話題となった。
永遠のライバルは、アメリカが生んだ”鬼才”Travis Woo。
伊藤 敦の記事はこちら