禁止改定を経たモダン環境の今を追う

伊藤 敦

 2017年1月9日……それはスタンダードに6年ぶりの禁止カードが生まれた日であると同時に、大きな衝撃がモダンプレイヤーを襲った日ともなった。

 すなわち、《ギタクシア派の調査》《ゴルガリの墓トロール》【禁止】

 《思案》《定業》に続いて3枚目となる軽量ドロースペルの禁止と、【2年前に禁止解除】されたカードの再びの禁止は、1年前の《欠片の双子》《花盛りの夏》【禁止】と同等かそれ以上のインパクトをモダン環境に与えるであろうことは想像に難くなく、モダンプレイヤーたちは再び全く新たな環境・新たなメタゲームに立ち向かうことを余儀なくされたのだった。

 さて、それから1か月。禁止改定を経たモダン環境の現状は、いったい今どうなっているのだろうか?

 ということで、ちょうど今週末にオーストラリアでモダンのグランプリ・ブリスベン2017が開催されることもあり、今回の記事ではそれに先立ってモダン環境の現状での整理と、環境の変化に伴い登場してきた注目のアーキタイプ紹介の2本立てでお送りしよう。

禁止改定がモダン環境にもたらした変化

ギタクシア派の調査ゴルガリの墓トロール

3キルアグロ、ドレッジの衰退

 まず、《ギタクシア派の調査》《ゴルガリの墓トロール》の禁止によってダメージを受けたアーキタイプを見ていこう。

ぎらつかせのエルフ死の影氷の中の存在

 モダンで《ギタクシア派の調査》を4枚搭載していた主なデッキといえば、ライフペイを厭わず3ターンキルにすべてをかける、いわゆるオールイン系のアーキタイプ……具体的には感染【Super Crazy Zoo】、Suicide Bloo (《窯の悪鬼》《氷の中の存在》アグロ) がこれに当たるが、これらのデッキは《ギタクシア派の調査》の禁止によって当然壊滅的な損害を被る結果となった。

 感染にとっては0マナで相手が除去を構えているかどうか判別する手段かつ《強大化》の「探査」材だったし、【Super Crazy Zoo】にとっても0マナでライフを支払う手段兼「探査」材、Suicide Blooにとっては0マナでソーサリー呪文を唱える手段と、それぞれ用途は微妙に異なっていたものの、いずれにせよ《ギタクシア派の調査》がデッキコンセプトを支える屋台骨であったことに変わりはない。

 それほどのキーパーツを失ったことで、これらのデッキはデッキのポテンシャルを著しく落としてしまった結果、そのままの形では存続が不可能となったり、Tier1からTier2あるいは3へと、大きく後退を余儀なくされてしまった。

秘蔵の縫合体安堵の再会ゴルガリの凶漢

 また、《ゴルガリの墓トロール》はほぼ【ドレッジ】のみを狙い打ちにした禁止だ。

 「発掘6」という最大の武器を失ったのはやはり大きな痛手となったか、代わりに《ゴルガリの凶漢》の枚数を増やすことでアーキタイプとして存続はできているものの以前ほどの爆発力は持ち合わせておらず、こちらもメタゲームの第一線からは姿を消すこととなった。

土地コンボ、親和の復権

 では次に、それらのデッキが沈んだ結果として相対的に良いポジションになったデッキを見ていこう。


jmontano1「赤緑ヴァラクート」
Competitive Modern Constructed League(5-0)

7 《山》
3 《森》
4 《燃えがらの林間地》
2 《踏み鳴らされる地》
4 《樹木茂る山麓》
3 《吹きさらしの荒野》
4 《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》

-土地 (27)-

4 《桜族の長老》
2 《クルフィックスの狩猟者》
4 《原始のタイタン》

-クリーチャー (10)-
4 《稲妻》
4 《探検》
2 《遥か見》
4 《明日への探索》
2 《神々の憤怒》
2 《風景の変容》
2 《原初の命令》
3 《カルニの心臓の探検》

-呪文 (23)-
3 《強情なベイロス》
3 《塵への崩壊》
2 《不屈の追跡者》
2 《自然のままに》
2 《突然のショック》
1 《古えの遺恨》
1 《神々の憤怒》
1 《粉砕の嵐》

-サイドボード (15)-
hareruya



原始のタイタン溶鉄の尖峰、ヴァラクート風景の変容

 モダンという環境はジャンドあるいはアブザンという黒緑系デッキが常にトップメタとして存在している。そして手札破壊と除去と軽量クロック、《ヴェールのリリアナ》というラインナップと柔軟なサイドボードであらゆるデッキに対して五分以上に戦える黒緑系のデッキが唯一、構造的に苦手としているのが、土地コンボと総称される【トロン】《白日の下に》スケープシフト、《精力の護符》ランプ、そしてこの赤緑ヴァラクートといったデッキ群なのだ。

 これらの土地コンボは全て土地を探す/伸ばすといったアクションだけのターンを必要とするため、妨害がなければ開始3ターンで決着を付けにくる3キルアグロに対しては相性が悪かったところ、《ギタクシア派の調査》の禁止により3キルアグロが大幅に弱体化したため、本来の「アンチ黒緑系デッキ」としてのポテンシャルをメタゲーム上で発揮し始めている。


Hernan72「親和」
Competitive Modern Constructed League(5-0)

1 《島》
1 《山》
2 《産業の塔》
4 《ちらつき蛾の生息地》
4 《墨蛾の生息地》
4 《ダークスティールの城塞》
1 《海門の残骸》

-土地 (17)-

4 《羽ばたき飛行機械》
3 《メムナイト》
4 《信号の邪魔者》
4 《大霊堂のスカージ》
3 《鋼の監視者》
4 《電結の荒廃者》
3 《刻まれた勇者》
2 《エーテリウムの達人》

-クリーチャー (27)-
3 《感電破》
1 《物読み》
4 《オパールのモックス》
4 《バネ葉の太鼓》
4 《頭蓋囲い》

-呪文 (16)-
2 《思考囲い》
2 《頑固な否認》
2 《古えの遺恨》
2 《ギラプールの霊気格子》
1 《呪文滑り》
1 《刻まれた勇者》
1 《摩耗+損耗》
1 《鞭打ち炎》
1 《安らかなる眠り》
1 《血染めの月》
1 《虚空の杯》

-サイドボード (15)-
hareruya



産業の塔電結の荒廃者刻まれた勇者

 また、禁止改定によって意外にも【親和】が上位メタのポジションを取り戻す結果となった。

 この理由は、苦手だった感染とドレッジの両方が禁止改定によってポジションを落としたことによる。もともと親和は長い間モダン最強クラスのデッキであり、それが『カラデシュ』以降はドレッジの隆盛によって隅に追いやられていたわけだが、ドレッジがいなくなれば再びトップメタに返り咲くのは考えてみれば当然の話だ。

注目の新興アーキタイプ

 ここまでの流れを見てみると、禁止改定によって3キルアグロとドレッジという鋭角なアーキタイプが消え去りはしたものの、黒緑系、親和、バーン、トロンといったモダンでお馴染みのアーキタイプには影響がなく、したがって環境は『カラデシュ』や『異界月』以前に回帰したのではないか?とも考えうる。

 だが、そう簡単にはいかないのがモダンの面白いところだ。万能の防御手段がなく、多様なコンセプトが存在を許されているがゆえに、カードプールが大して変わらないのにデッキビルダーたちの力によって新しいアーキタイプが次々と生まれるダイナミズムを持ち合わせていることこそが、モダンというフォーマットの最大の魅力と言えるだろう。

 ここではそんなモダンのメタゲームの流動性をよく表す、禁止改定後に活躍している最新のアーキタイプ3つを紹介しよう。

ジャンド《死の影》アグロ


GHash77「ジャンド《死の影》アグロ」
Competitive Modern Constructed League(5-0)

1 《森》
1 《沼》
2 《血の墓所》
1 《神無き祭殿》
1 《草むした墓》
1 《踏み鳴らされる地》
4 《血染めのぬかるみ》
4 《新緑の地下墓地》
3 《樹木茂る山麓》

-土地 (18)-

4 《死の影》
4 《タルモゴイフ》
4 《通りの悪霊》

-クリーチャー (12)-
4 《ウルヴェンワルド横断》
4 《タール火》
4 《思考囲い》
4 《コジレックの審問》
2 《集団的蛮行》
2 《ティムールの激闘》
1 《突然の衰微》
3 《コラガンの命令》
4 《ミシュラのガラクタ》
2 《最後の望み、リリアナ》

-呪文 (30)-
4 《致命的な一押し》
4 《未練ある魂》
3 《大爆発の魔道士》
2 《外科的摘出》
2 《神々の憤怒》

-サイドボード (15)-
hareruya



死の影タルモゴイフ思考囲い

 実は既に禁止改定の少し前から、【Super Crazy Zoo】から派生したジャンド《死の影》は活躍を見せ始めていた。

 そして、《強大化》《ティムールの激闘》のコンボデッキだった【Super Crazy Zoo】からコンボ部分を排除し、《死の影》の圧倒的なマナレシオとモダンで最軽量の妨害である手札破壊とを組み合わせた疑似クロックパーミッション的なコンセプトを持ったこのデッキは、《強大化》を使わないがゆえに《ギタクシア派の調査》禁止による弊害が少なく、若干の土地と手札破壊の増量だけで、デッキパワーを維持することが可能だったのだ。

 「毎ゲーム必ず手札破壊を打ち」「必ず3ターンクロックをかける」ということに関して、このデッキの一貫性に勝るコンセプトは存在しないだろう。そしてそれはモダン環境に存在するほとんどのアーキタイプに対して有効な戦略なのだ。

 「ハンデス・タルモ・リリアナ」は長い間モダンのA定食として君臨し続けてきた。だが、これからは「ハンデス・死の影・死の影」の時代がやってくるかもしれない。死滅したコンボ型SCZに代わって登場した、この生まれ変わったSCZの今後の活躍が楽しみだ。

エルドラージトロン


lSoLlAKirA「エルドラージトロン」
Competitive Modern Constructed League(5-0)

2 《荒地》
4 《ウルザの鉱山》
4 《ウルザの魔力炉》
4 《ウルザの塔》
4 《エルドラージの寺院》
4 《幽霊街》
1 《ウギンの聖域》
1 《海門の残骸》

-土地 (24)-

4 《歩行バリスタ》
4 《作り変えるもの》
4 《難題の予見者》
4 《現実を砕くもの》
2 《終末を招くもの》
2 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》

-クリーチャー (20)-
3 《四肢切断》
2 《全ては塵》
4 《虚空の杯》
4 《探検の地図》
2 《バジリスクの首輪》
1 《解放された者、カーン》

-呪文 (16)-
4 《次元の歪曲》
3 《外科的摘出》
2 《真髄の針》
2 《大祖始の遺産》
2 《漸増爆弾》
1 《魔女封じの宝珠》
1 《殴打頭蓋》

-サイドボード (15)-
hareruya



歩行バリスタ難題の予見者虚空の杯

 「エルドラージトロン」は何らかの新カードをコンセプトの中核にしているというわけではなく、《ウギンの目》がまだ禁止されていなかった頃から、エルドラージの中のマイナー勢力として存在していたアーキタイプではあった。だが、それがここにきてにわかに注目を浴びはじめ、そして実際に好成績を収めている。

 《歩行バリスタ》は最低限1点除去としても働くので序盤の弱さを補いつつ、《バジリスクの首輪》と組み合わせての接死ティムコンボもあり、終盤に《ウギンの聖域》を起動させやすくなった点も合わせて、かなりデッキに噛み合った1枚と言えるだろう。

 無色単ゆえのサイドボードの選択肢の少なさはあるものの、レガシーやヴィンテージでも通用するコンセプトはやはり伊達ではない。《猿人の指導霊》《宝石の洞窟》でアレンジもできるので、ストンピィ系のデッキが好きな方にはオススメのデッキだ。

純鋼ストーム


Finalnub「純鋼ストーム」
Competitive Modern Constructed League(5-0)

2 《平地》
2 《神聖なる泉》
1 《聖なる鋳造所》
4 《湿地の干潟》
3 《吹きさらしの荒野》
2 《金属海の沿岸》
1 《地平線の梢》

-土地 (15)-

4 《純鋼の聖騎士》
4 《上級建設官、スラム》

-クリーチャー (8)-
4 《撤収》
4 《血清の幻視》
2 《有毒の蘇生》
2 《白鳥の歌》
1 《ぶどう弾》
4 《オパールのモックス》
4 《極楽のマントル》
4 《聖戦士の盾》
4 《調和者隊の盾》
4 《蜘蛛糸の網》
2 《骨の鋸》
2 《卓越の印章》

-呪文 (37)-
4 《神聖の力線》
3 《砦の発明者》
3 《沈黙》
3 《残響する真実》
2 《逆説的な結果》

-サイドボード (15)-
hareruya



純鋼の聖騎士上級建設官、スラム撤収

 『霊気紛争』によって強化された中で最も話題を呼んだアーキタイプがこちらの純鋼ストームだ。最速1キル、妨害なしならすわ平均3キルかという驚異の速度を持つこのチェーンコンボは、発売直後に大暴れしすぎたせいで現在では対処法が確立されてしまった感があるものの、新興アーキタイプだけにまだまだ改良の余地は残されていると思われる。

 このデッキの問題は除去を構えられるとコンボが決まらないという点にあることから、メイン戦はいかにうまく他のデッキに擬態するか、またサイド戦は単体除去に対する軸をずらしたプランニング作りが重要となる。

 その点、このリストはサイドボードに《コジレックの審問》が効かない《砦の発明者》を採用し、大量の装備品を持たせるプランをとっている点で先進的だ。また、《逆説的な結果》は消耗したリソースを一気に回復する切り札となる。

 この上でメインボードは白が絡まない《汚染された三角州》《沸騰する小湖》から《神聖なる泉》を持ってくる構成にすると、対戦相手の油断を誘えるかもしれない。今後のデッキリストの洗練に注目だ。

今週末はグランプリ・ブリスベン2017が開催!

 まだまだこの他にも【デッキウォッチングでも紹介】した《遵法長、バラル》《けちな贈り物》型ストームなど注目のデッキはあるが、ひとまず今週末のグランプリ・ブリスベン2017で禁止改定後のモダン環境の全体像が見えてくることになる。

 Hareruya Prosの【齋藤 友晴】【井川 良彦】をはじめ、多数の日本人プレイヤーの参加が予想されるこのグランプリで、最終的な勝ち組となるのははたしてどんなアーキタイプなのか?今週末の大会結果に注目だ。

 さて、今回はここまでとなる。グランプリ後には結果の分析記事をお届けする予定なので、お楽しみに!

 それでは、楽しいモダンライフを!

この記事内で掲載されたカード


Twitterでつぶやく

Facebookでシェアする

関連記事