第6期スタンダード神決定戦: 和田 寛也(東京) vs. 後藤 広行(東京)

晴れる屋

By Kazuya Hirabayashi



 【第5期スタンダード神決定戦】で高橋 優太を下し、スタンダード神に就任した和田 寛也

 神というタイトルに並々ならぬ思いを見せる和田だが、ことスタンダード神の防衛ほど難しいものはない。他フォーマットに比べ環境の変化が大きく、最適のデッキを探すこと、対戦相手の選択に対する手がかり、いずれを見つけることにも大きな労力を要するからだ。

 何よりそれを証明するように、過去スタンダード神を防衛したのは【第3期の瀬尾 健太】ただ1回のみである。

 そしてカードプールが狭いからこそ、スタンダードは繊細なフォーマットだ。故にプレイヤーにはデッキのパフォーマンスを最大限に発揮させる素養が求められる。

 まして神決定戦という晴れ舞台。自信のある選択をしたい、それがプレイヤーの常だろう。相手の予想を裏切る選択というのもまた難しい。

 挑戦する者、後藤 広行が手にしたのは青赤エルドラージ。これが【彼のアイデンティティ】

 だが往々にして神は挑戦者の先を行く。デッキ選択が神決定戦の肝であること。それを何より理解している者が神だからだ。





Game 1


 後手番の後藤、痛恨のダブルマリガン。そして事実上このマリガンが1ゲーム目の決め手となった。 

 初動となった《鎖鳴らし》《コラガンの命令》を合わせられ(《焙り焼き》をディスカード)、《空中生成エルドラージ》で攻めの姿勢を見せるも《ゲトの裏切り者、カリタス》の最速登場と、ディスカードの判断が裏目に出てしまう。


ゲトの裏切り者、カリタス


 後藤もエルドラージ・末裔トークンによるマナ加速から《現実を砕くもの》とむしろ順調に回っている方なのだが、後手であることとが響きこのターンのアタックが初ダメージ。ライフ面にプレッシャーをかけることができていない。

 ライフに余裕がある。《ゲトの裏切り者、カリタス》が生き残っている。こうなってはグリクシスコントロールの独壇場である。

 《焦熱の衝動》《破滅の道》が後藤の場を空にすると、後藤にできることは《焦熱の衝動》《粗暴な排除》でゾンビ・トークンを処理しながら時間を稼ぐことのみだった。

 ブロッカーに立てようとした《さまよう噴気孔》にも《闇の掌握》を合わせられ、和田が第1ゲームを先取する。


和田 1-0 後藤


 どれほど捨て身になれるか否か。

 それは勝つためのリスクテイク。4回の防衛を果たしているレガシー神、【川北 史朗がマリガンについて語っている】ように、勝つということは対戦相手からそれもぎ取ることに他ならない。

 勝利への執念が肝要だ。1対1のマッチのみで全てを決する神決定戦を勝ち切るには、良くも悪くも貪欲でなければ。

 神の座を防衛するため、言葉とは裏腹に攻める必要がある。




 高橋のダークジェスカイを1点読みで屠った【和田が見定めた】のは、エスパーコントロールと青赤エルドラージだった。

 前回ほどの精度ではないにせよ、和田のグリクシスコントロールは後藤の選択を的確に捉えていたのだ。



Game 2


 メインボードのまま先手が後藤へと移った2ゲーム目。1ゲーム目はダブルマリガンを喫した後藤だが、今度は和田がマリガンを。

 和田《ヴリンの神童、ジェイス》、後藤《次元潜入者》と切り出し、和田の《ヴリンの神童、ジェイス》《焦熱の衝動》で処理される。




 マナを残し続ける後藤に対し、和田は悩みつつも《コラガンの命令》《次元潜入者》と墓地の《ヴリンの神童、ジェイス》を対象)。後藤はここで当然のように《否認》を。


否認


 返すターンで和田は《精神背信》。だが公開されたのは《否認》《次元の歪曲》と捨てさせる対象がない……やむなく《闇の掌握》《次元潜入者》を処理した上でターン終了とする。

 ここで後藤がトップデッキした《空中生成エルドラージ》を呼び出し、和田は《ゲトの裏切り者、カリタス》。後藤はさらに《作り変えるもの》を続け、手札には依然として《否認》《次元の歪曲》が残っている。

 見えている手札、されどここまで2枚のアドバンテージを失っている和田。この《ゲトの裏切り者、カリタス》が生命線になるだけに長考。だが結局のところ手札には《闇の掌握》があるだけ。後藤の有利は変わらない。

 動けなかった和田。《空中生成エルドラージ》《作り変えるもの》で攻め立てる後藤。

 和田は悩んだ上で《闇の掌握》《作り変えるもの》に撃つのだが、後藤は当然のごとく《否認》

 手が尽きた和田、当然ドローには力が入る。ライブラリートップに神は……いた!


骨読み


 《骨読み》《破滅の道》《ゴブリンの闇住まい》を導き、《破滅の道》《作り変えるもの》へ。ライフを6に落としながらも支えきる可能性を残す。

 後藤、損を承知でゾンビトークンに《次元の歪曲》。さらに《さまよう噴気孔》を起動すると《空中生成エルドラージ》《さまよう噴気孔》エルドラージ・末裔トークンによるフルアタックを敢行し、ガンとなる《ゲトの裏切り者、カリタス》を落とすことに成功する。

 だがこの展開は和田の思惑通り。《ゴブリンの闇住まい》《コラガンの命令》《空中生成エルドラージ》に放ち《ゲトの裏切り者、カリタス》を回収すると、後藤は《作り変えるもの》を呼んでターンを返すのみ。ライフこそ少ないが和田有利の状況ができ上がりつつある。  

 しかしここで和田の油断が。《強迫》から《ゲトの裏切り者、カリタス》と繋げたため、《ゲトの裏切り者、カリタス》を強化するためのマナが足りていない! 

 そして本当にここしかないタイミングで後藤が《焙り焼き》をトップデッキ。あわや一方的になりかかったゲームが分からなくなってしまった。


焙り焼き


 和田としては残りライフが乏しく、だからこそ後藤の《作り変えるもの》のプレッシャーが強く動くに動けない。2枚目の《ゴブリンの闇住まい》から《骨読み》で回答を探すも成らず、一方の後藤もクロックが引き込めず《ウェストヴェイルの修道院》を起動するのみ。互いに焦燥するターンが続く。

 ここまで攻めあぐねていた和田だが3枚目の《ゴブリンの闇住まい》を引くにいたってついに攻勢に出た。ライフは2しかないとはいえ盤面は十分に有利すぎる。何しろ後藤の場には《作り変えるもの》と1/1トークンが並ぶだけ。

 だが少しだけ遅すぎた。和田が4枚目の《ゴブリンの闇住まい》を呼び出し次ターンの勝利を確定させたそのとき、後藤もまた《次元潜入者》を引き込んでいたのだ。


次元潜入者


 後藤がオーバーキル気味の《ならず者の道》をも叩きつけると、インスタントの対処手段を持たない和田は崩れ落ちた。


和田 1-1 後藤


 「裏をかかずに青赤エルドラージで真っ向勝負したくなったのでデッキ選択は青赤エルドラージを選択」




 この威風堂々たるや。【第1期モダン神の小堺 透雄】を髣髴とさせる力強さである。

 読み合いが重要な神決定戦においては思考放棄ともいえる選択だが、たとえ読まれたとしても青赤エルドラージはクセのあるデッキだ。和田も読み筋に入れながらも、後手番は不利と漏らしているほどだ。

 事実この第2ゲーム、和田は4枚の《ゴブリンの闇住まい》を引きながらもライフ面のプレッシャーに耐え切ることができなかった。 



Game 3


 互いにマリガンを経て始まった3ゲーム目。このゲームで鍵となったのは土地だった。

 まず後藤の手が止まる。土地が2枚、それも《領事の鋳造所》《海門の残骸》で色マナが出ないのだ。


領事の鋳造所海門の残骸


 だが和田も土地が3枚で止まってしまい能動的なアクションも取れない。後藤がディスカードを続ける中、和田の手札も8枚になってしまう。

 ただディスカードをするよりは、と和田がここまで温存していた《精神背信》によって《現実を砕くもの》を奪うと、後藤《シヴの浅瀬》、和田《凶兆の廃墟》と両者のマナが伸び始めた。

 《次元潜入者》《焦熱の衝動》。攻める後藤と捌く和田。だがここで後藤の負担となったのがマナ差である。

 和田が《ゲトの裏切り者、カリタス》を展開しながら《鎖鳴らし》《焦熱の衝動》をプレイできたのに対し、後藤は追加の《鎖鳴らし》を持ちながらもプレイするマナがない。ただの1マナが両者の明暗を分けてしまった。

 後藤は《空中生成エルドラージ》を呼ぶのみ。《ゲトの裏切り者、カリタス》とゾンビトークンを止めることができず、和田がアップキープに唱えた《コラガンの命令》《否認》することしかできない。

 和田が《闇の掌握》《空中生成エルドラージ》に撃つと……後藤のレスポンスはなし。《ゲトの裏切り者、カリタス》が2体のゾンビトークンを引き連れ、後藤の場にはエルドラージ・末裔トークンのみ。

 後続の《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》こそ《エルドラージの寸借者》で落とすものの、肝心の《ゲトの裏切り者、カリタス》が生きたままではまともなゲームになるわけもなかった。




 追加した《難題の予見者》には《破滅の道》が差し向けられ、《鎖鳴らし》《焦熱の衝動》。後藤の心が折れた。


和田 2-1 後藤


 後藤の青赤エルドラージに死角は少ない。除去、カウンター、ダメージクロック。ピーキーな構成に若干の懸念はあれど、対応力の高さが強みである。

 だがグリクシスコントロールをトップメタに押し上げた要因である《ゲトの裏切り者、カリタス》。その処理能力には若干の問題を抱えてしまっている。


ゲトの裏切り者、カリタス


 《石の宣告》《究極の価格》《反射魔道士》のいずれも使えない以上、青赤という色の限界ではあるのだが。

 ゲームの趨勢は1点に集約される。すなわち《ゲトの裏切り者、カリタス》を引かれるか否か。



Game 4


 マリガンに苦しめられてきた2人だがここにきて両者が初手をキープ。

 和田の初手


ゲトの裏切り者、カリタス闇の掌握闇の掌握コラガンの命令
窪み渓谷シヴの浅瀬シヴの浅瀬


 黒マナ不足にややリスクはあるが、マッチアップのキーとなる《ゲトの裏切り者、カリタス》がいる以上マリガンするほどではないという判断か。

 だが展開は和田の希望を裏切る。引くのは《破滅の道》《島》と求める黒マナが手に入らない。この間後藤は《鎖鳴らし》で攻め立て、和田の《コラガンの命令》《否認》で退けた。


コラガンの命令否認


 続くターンも前ターンの鏡打ち。2枚目の《コラガンの命令》が2枚目の《否認》で弾かれ、ここで和田がようやく《凶兆の廃墟》をドロー。やっとのことで以降のアクションを可能とする。

 だが3枚目の《コラガンの命令》もこれまた3枚目となる《否認》でかわされてしまうと、《シヴの浅瀬》でダメージを受け続けているため和田の受けているダメージもバカにならない。

 とはいえ後藤も楽ではない。ライフ面でプレッシャーがかけられているものの和田の《ゲトの裏切り者、カリタス》に触れることができないからだ。 

 《難題の予見者》を出してみても、


闇の掌握闇の掌握破滅の道灯の再覚醒、オブ・ニクシリス


 と、和田の手札は全て除去。《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》を取り除いても《闇の掌握》《難題の予見者》に差し向けられると、1ドロー、ゾンビトークン生成、そして絆魂によるライフ回復。《ゲトの裏切り者、カリタス》の存在だけで後藤の有利が消えようとしている。




 前ターンに《空中生成エルドラージ》を追加している後藤は《ゲトの裏切り者、カリタス》の攻撃を受けて長考。ライフを減らし切る以外に勝つ手段はなく、エルドラージ・末裔トークンのブロックをチャンプブロックを悩んでいるのだろう。

 ところが後藤の決断はあえてライフ回復させるシングルブロック……ということはつまり?

 和田は《精神背信》で後藤の目論見を暴き立てる。


難題の予見者現実を砕くもの次元の歪曲


 やはり《次元の歪曲》《現実を砕くもの》を除外しながら黒マナを残し、《ゲトの裏切り者、カリタス》を処理させない。後藤が見られた《難題の予見者》を出しても《闇の掌握》で処理され、《ゲトの裏切り者、カリタス》が育つとライフレースはついに互角となってしまった。

 ここで後藤は《焙り焼き》《次元の歪曲》の合わせ技で《ゲトの裏切り者、カリタス》を落とすが、和田もトップデッキした《光輝の炎》により《鎖鳴らし》《空中生成エルドラージ》を除去。後藤は万策尽きてしまう。


光輝の炎


 後藤のラストドローは《エルドラージの寸借者》。和田のブロッカーは《墓刃の匪賊》のみ。和田のライフは8。墓地のクリーチャーは2体。除外されたクリーチャーは3体。


エルドラージの寸借者墓刃の匪賊


 最後の最後まで後藤を祟ったのは《ゲトの裏切り者、カリタス》


和田 3-1 後藤


 全てのゲームで《ゲトの裏切り者、カリタス》が降臨し、後藤の青赤エルドラージは黒き奔流に飲まれた。

 無論和田もただ幸運を待っていたわけではない。決着となった4ゲーム目、黒マナに懸念がある手札をキープした理由はやはり《ゲトの裏切り者、カリタス》だと言う。

 マッチアップのキーとなる《ゲトの裏切り者、カリタス》が引けている以上リスクは許容すべきだと。 


 ”挑戦者”後藤 広行が正面切って挑んだ神決定戦。”スタンダード神”たる和田 寛也もまた真っ向勝負の末、それを退けたのだ。




 第6期スタンダード神決定戦、和田 寛也が後藤 広行を下しスタンダード神の座を防衛!



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