こんにちは。らっしゅです。
先週末は新環境恒例の道標こと【SCG Standard Open】がColumbusで開催されました。もう皆さんもご存知のように「バントカンパニー」が大流行したようです。2日目に進出した120名の内47名が「バントカンパニー」あるいは亜種という有様で、2番手が18名の「青白スピリット」という結果からも《呪文捕らえ》が新環境に残した爪痕は重く深いことが窺えます。
この圧倒的な戦果から、巷ではすでに最強デッキの呼び声も高い「バントカンパニー」ですが、はたして本当に最強のデッキなのでしょうか?
今週はさっそくその辺りの話題からさらっていきましょう。
この連載では、環境の登場人物についての紹介を省いて話題を進めることがあります。「あれ?このデッキってなんだっけ?」と手が止まってしまった方は、【Kenta Hiroki】の連載をご覧ください。現環境に登場するデッキが丁寧に解説されています。
【話題1】「バントカンパニー」に《呪文捕らえ》が与えた変化
おそらく先週末に最も使われた『異界月』のカードである《呪文捕らえ》は「バントカンパニー」期待の新人です。ちょっと軽くて強い《神秘の蛇》は、かつての《反射魔道士》に匹敵するほどの衝撃を環境に与えました。
そんな強力な1枚が加わった「バントカンパニー」は、前環境と比較してデッキリストに大きな変化が起きているようです。まずはこの変化から見ていきましょう。
4 《森》 3 《平地》 2 《島》 4 《大草原の川》 3 《梢の眺望》 4 《進化する未開地》 3 《ヤヴィマヤの沿岸》 2 《伐採地の滝》 -土地 (25)- 4 《薄暮見の徴募兵》 4 《ラムホルトの平和主義者》 4 《森の代言者》 4 《跳ねる混成体》 4 《反射魔道士》 4 《呪文捕らえ》 2 《異端聖戦士、サリア》 -クリーチャー (26)- |
4 《ドロモカの命令》 4 《集合した中隊》 1 《実地研究者、タミヨウ》 -呪文 (9)- |
3 《不屈の追跡者》 2 《空への斉射》 2 《石の宣告》 2 《否認》 2 《悲劇的な傲慢》 1 《巨森の予見者、ニッサ》 1 《払拭》 1 《即時却下》 1 《実地研究者、タミヨウ》 -サイドボード (15)- |
先週末の「バントカンパニー」使用者全体の傾向としては、《呪文捕らえ》を効果的に使うために、2マナ域の狼男と3マナ域の瞬速持ちが採用されていました。これは3ターン目にマナを構える機会が増えたため、“何もせずにターンを渡す”リスクを軽減する工夫です。
前環境初期の「バントカンパニー」の雛形を作りあげたJim Davisらの調整チームが持ち込んだ形が象徴的で、《ラムホルトの平和主義者》と《跳ねる混成体》をしっかり4枚ずつ採用するスマートな構成に仕上がっています。
4 《森》 3 《平地》 1 《島》 4 《大草原の川》 3 《梢の眺望》 4 《進化する未開地》 4 《ヤヴィマヤの沿岸》 2 《伐採地の滝》 -土地 (26)- 4 《薄暮見の徴募兵》 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 4 《森の代言者》 4 《反射魔道士》 4 《不屈の追跡者》 3 《変位エルドラージ》 2 《巨森の予見者、ニッサ》 -クリーチャー (25)- |
4 《ドロモカの命令》 4 《集合した中隊》 1 《オジュタイの命令》 -呪文 (9)- |
4 《ラムホルトの平和主義者》 3 《否認》 3 《悲劇的な傲慢》 2 《石の宣告》 2 《オジュタイの命令》 1 《巨森の予見者、ニッサ》 -サイドボード (15)- |
これは前環境のデッキなので厳密な比較をすることはナンセンスですが、参考までに有力だったリストと見比べると、《ヴリンの神童、ジェイス》《不屈の追跡者》《巨森の予見者、ニッサ》《変位エルドラージ》といった中長期戦に強いカードの採用率が下がっています。
このことから《呪文捕らえ》を手にした「バントカンパニー」は、消耗戦を制するアドバンテージ重視の構成から離れて、3~5ターン目にピークを迎えるテンポ重視の構成へと変化しているようです。《不屈の追跡者》はまだ見かけますが、《ヴリンの神童、ジェイス》は多くのリストから姿を消しています。
優勝者のレシピが同型に強い《無私の霊魂》や《異端聖戦士、サリア》を採用した構成だったことは必然だったのかもしれません。テンポ重視の構成が増えたことで《大天使アヴァシン》+《無私の霊魂》のコンボは強烈に刺さったでしょうし、いつだって同型を制するのは少しだけ重い構成なのです。
《呪文捕らえ》を手に入れた「バントカンパニー」は、《呪文捕らえ》との整合性を求めてテンポを重視した構成へと変化しました。一見すると合理的な判断ですが、それが最適な選択であるかは疑わしいところです。次の話題では、その疑わしさについて考えていきましょう。
【話題2】「バントカンパニー」が消えた理由と復活した理由
なんだかんだで前環境の初期と末期に主流だった「バントカンパニー」は、ずっとメタゲームの主要人物だった気もしますが、実は一度環境から姿を消していたデッキだったことを覚えているでしょうか。
さかのぼること【プロツアー『イニストラードを覆う影』】の直前に大流行した「バントカンパニー」は《跳ねる混成体》が採用されたテンポ重視のものでした。当時は「白系人間」が多く、瞬速かつ3/3のスタッツをもつ《跳ねる混成体》はよい選択だと考えられていました。
3 《森》 3 《平地》 2 《島》 4 《大草原の川》 3 《梢の眺望》 4 《進化する未開地》 4 《伐採地の滝》 1 《要塞化した村》 1 《港町》 -土地 (25)- 4 《薄暮見の徴募兵》 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 4 《森の代言者》 1 《棲み家の防御者》 1 《隠れたる龍殺し》 4 《跳ねる混成体》 4 《反射魔道士》 2 《不屈の追跡者》 1 《巨森の予見者、ニッサ》 2 《大天使アヴァシン》 -クリーチャー (27)- |
3 《ドロモカの命令》 4 《集合した中隊》 1 《オジュタイの命令》 -呪文 (8)- |
3 《否認》 2 《ランタンの斥候》 2 《翼切り》 2 《石の宣告》 2 《聖トラフトの祈祷》 1 《棲み家の防御者》 1 《隠れたる龍殺し》 1 《不屈の追跡者》 1 《オジュタイの命令》 -サイドボード (15)- |
しかし、プロツアー本戦では一部のプレイヤーを除いて「バントカンパニー」は大敗を喫することになります。「緑白トークン」「黒系コントロール」「ゴーグルランプ」「黒緑アリストクラット」など、《反射魔道士》と《跳ねる混成体》がもたらす細かな戦場のテンポを無視するデッキがプロツアーに蔓延していたからです。
その後は苦手な「緑白トークン」「黒緑アリストクラット」「黒系コントロール」が流行し、環境の中心にいた「緑白トークン」に不利だったことが決定打となり、「バントカンパニー」は環境から退場することとなりました。
しばらくの間を空けて「バントカンパニー」は環境に戻ってきました。日本勢が【プロツアー『イニストラードを覆う影』】の開催時に開発した「バントカンパニー」をBrian Braun-duinが発掘し、脚光を浴びたのです。《不屈の追跡者》《変位エルドラージ》《巨森の予見者、ニッサ》を採用したリスト(上で紹介した市川 ユウキの75枚と同じ)で、中盤から終盤にかけての消耗戦に焦点を当てています。
ミッドレンジばかりの環境だったことも背景にはありますが、それ以上に“「バントカンパニー」というデッキタイプがどの時間帯に強くあるべきか”を明確にしたことが重要だったのではないかと思われます。
4ターン目の《集合した中隊》でピークを迎えるならば「バント人間カンパニー」の方が優れていますし、シナジーよりはグッドスタッフに偏ったカード選択も相まって消耗戦に強い構成にする土壌は整っていました。つまり、デッキの細部の構造ではなく、デッキタイプの大枠をどう捉えるか、が重要だったというお話です
これは現状のテンポ重視となった「バントカンパニー」にも同様のことが言えるのかもしれません。《呪文捕らえ》を中心にカード選択することは合理的ではありますが、《呪文捕らえ》をもとに「バントカンパニー」というデッキタイプの方向性を決めるのは、また別の話になります。
たしかに《呪文捕らえ》は強力なカードです。ただ、それをグッドスタッフのひとつとして使うのか、それともデッキの中核として構築するのか。そのさじ加減ひとつで「バントカンパニー」というデッキの評価は大きく変わりします。
前環境の終盤に活躍した「バントカンパニー」と、新環境の1週目に顔を見せた「バントカンパニー」がまるで別のデッキだということは見えてきました。それでは、新しい「バントカンパニー」は“どの時間帯に””どうやって勝つ”デッキタイプなのかを突き詰めるべきでしょう。その答えが明確ではないこと。それこそが新しい「バントカンパニー」に感じる疑わしさの正体です。
【話題3】《呪文捕らえ》と単体除去
とはいえ、「バントカンパニー」が一週目に大勝したことは事実です。
勝ったものは偉い。結果を出したものには相応の勝因があるものです。「バントカンパニー」というデッキタイプが強かった。テンポ重視の構成が強かった。《呪文捕らえ》が強かった。他のデッキが弱かった。様々な要因が思い当たりますが、個人的にピンときている候補がひとつあります。
それは、“単体除去が過小評価されていた”のではないかということです。
主に他のデッキの構成についての話ですが、前環境の印象を受け継いでいる場合、単体除去の評価は低い傾向にあるはずだからです。前環境では除去に強い「緑白トークン」が幅を利かせていたことから、パーマネントにはパーマネントで対応しようと、より能動的な、【プロアクティブ】なカード選択が推奨されていました。
そのため、除去色である黒や赤のデッキタイプは鳴りを潜めていたのですが、『異界月』環境になってから単体除去の価値はぐっと増しているのです。
それは《呪文捕らえ》や《異端聖戦士、サリア》といった、除去以外では対処できないパーマネントが登場したからです。特に《闇の掌握》《次元の歪曲》といったインスタントの除去の価値は高く、《呪文捕らえ》が加入したことでインスタントタイミングでの攻防が活発になった今こそ注目すべきカードタイプなのです。
かつての《反射魔道士》を巡る攻防のように、クリーチャー選択を軽量化、あるいはノンクリーチャーにする、といった対抗策は《呪文捕らえ》には通用しません。スタンダードの多くのデッキに4マナ以下の呪文は多く採用されており、《呪文捕らえ》の対象を減らす方向に調整することは難しいからです。
そのため、《呪文捕らえ》への対策は、インスタントの単体除去を採用すること。単純ながらも、これに尽きます。
また、《呪文捕らえ》を使うデッキが「バントカンパニー」であることは単体除去を採用するデッキにとって朗報かもしれません。これまで話してきたように現在の「バントカンパニー」はテンポ重視の構成をしているため、以前と異なり消耗戦に強くないからです。《ヴリンの神童、ジェイス》を失い、《不屈の追跡者》の枚数も減ったことでアドバンテージ源は以前よりも大幅に少なくなっています。
そのため、1枚1枚を丁寧に除去していくことで不利になることはなく、「緑白トークン」の減少も踏まえて環境からプレインズウォーカーの数が減るようなことがあれば、除去系コントロールの復活はそう遠い話ではなさそうです。
《呪文捕らえ》を手にして強化された「バントカンパニー」ですが、他のデッキが漬け込む攻略の糸口も、また《呪文捕らえ》に隠されています。たとえ強力なカードであっても、それが加わったことによるメリットとデメリットは存在するのです。今週末の新環境2週目は、《呪文捕らえ》をどう乗り越えるかが問われることになるでしょう。
【まとめ】《呪文捕らえ》を狙い撃て
《呪文捕らえ》はただただ強力なカードですが、記事中で紹介したように単体除去を増やすことや、消耗戦の弱さを突く《精神背信》、飛行クリーチャーを牽制する《首絞め》や《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を採用すれば対抗できないカードではありません。
今週末に「バントカンパニー」の数が減ることは考えにくいですが、先週末に引き続いての好成績を残せるかというと、それは難しいのではないかと思っています。
個人的に注目しているのは、《精神背信》と《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を擁する「黒系コントロール」です。先週末はAli Aintraziの「スゥルタイコントロール」が2位に入賞していましたが、より洗練されたリストが今週末も活躍するのではないかと思っています。
それでは《呪文捕らえ》には細心の注意を!また来週お会いしましょう!
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- 高橋純也のデッキ予報 vol.18 -『異界月』モンスーン-
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