『異界月』、存分に猛る。
バントカンパニー一色だった『イニストラードを覆う影』環境のスタンダードは、『異界月』の出現によりまさしく一変した。【プロツアー『異界月』】は確かに、《約束された終末、エムラクール》や「昂揚」が持つポテンシャルの高さを改めて示したのだ。
だが、それも泡沫の夢だったのか。
今や世界は再びバントカンパニーに支配されようとしている。
時代は、デッキビルダーを必要としていた。
バントカンパニーなどものともしない最強のデッキを作ることができるゼウスの登場を、みんなが待っているのだ。
ならば作ろう。新しいデッキを。
そして告げよう。新時代の幕開けを。
『異界月』の力は、きっとまだこんなものではないはずだ。
■ 1. 妄想編
クソデッキ、完全に崩壊する。
前回渾身の力で作り上げた傑作、【Tide Walk】。その完成度は、「《瓶詰め脳》と《パズルの欠片》と《岸の飲み込み》がスタンダード落ちするまでは使い続けよう」と私に決心させるのに十分なほどだった。
しかし、その決心は2秒で粉砕されることとなる。
『異界月』のカードリストにあった、とあるカード。
その存在は、【Tide Walk】にとってあまりに致命的すぎたのだ。
そのカードとは……
《呪文捕らえ》。
このカードの登場は、本当にダメだった。
何せこちらは青単、一切の除去は入っていない。しかも《乱動の握撃》や《逆境》で時間を稼ぎ、盤面に溜まったクリーチャーを《岸の飲み込み》で一掃してテンポを獲得するというのが主な勝ちパターンなのだが、その《岸の飲み込み》をカウンターされてしまうと、もはやガラ空きのボディが残るだけなのである。
要はメインから2/3飛行というクロックのついた《否認》を搭載されているようなものなのであり、早い話がこの《呪文捕らえ》の登場によって【Tide Walk】はゴミ以下の虚無へとあっさり変貌を遂げたのだった。
【Temur New Generation】から繋いできたクソの系譜を丸ごと否定された私は、けれどもそれ以上の怒りに打ち震えていた。
その理由は《呪文捕らえ》というカードの性質にある。
【Tide Walk】が否定されただけならまだいいが、《呪文捕らえ》は4マナ以下の呪文すべてを封殺するのである。
クソデッキがこれを乗り越えるには4マナ以下の呪文を使わないか、1スロット以上の除去を搭載するほかない。
しかし冷静に考えてみるとクソデッキとは「一見して実現困難なコンセプトを何とかして実現する」といった類のものであるから、往々にして単体除去を積むようなスロットは持ち合わせていないことが多いのである。
そう、《呪文捕らえ》とは言ってしまえばクソデッキの天敵、最悪のクソデッキキラーなのだ。
「ウィザーズ開発部はどうしてこのようなカードを印刷したのだろう?」
せっかく作ったクソデッキを否定された上に、新たなデッキ開発の道も閉ざされてしまった私は、そう言ってただ嘆くことしかできなかった。
そしてそのようなネガティブな思考の果てに、「いっそのこと4マナ以下のカードは全部抜いて10マナスペシャルを組んだらどうだろうか?」という人間性を喪失したデッキを組む直前まで行ったのである。
-土地 (0)- 4 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 4 《大いなる歪み、コジレック》 4 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー (12)- |
-呪文 (0)- |
無論こんなデッキを組んだら初手7枚で3神が揃って(対戦相手が)エクゾディアするであろうことは想像に難くない。
しかしもはやあらゆるクソデッキは死んだのである。
ならばかつての【イケメンパラダイス】のように、マジックであってマジックでない、ルールの枠を超えたデッキじゃないデッキで『異界月』環境のスタンダードをやり過ごすのもありかもしれない……などという弱い考えを抱くようになっていた。
だが、そんな私に喝を入れたのは、他でもない奇才デッキビルダー・Travis Wooであった。
2016-2017シーズンの開幕に開催された【グランプリ・ポートランド2016】。そこでWooは準優勝という快挙を成し遂げたのである。
気になるWooのデッキは、いつものような電波デッキではなく、極めてソリッドな白黒コントロールだった。
それでも、「Wooもまたバントカンパニーと、何より《呪文捕らえ》と戦っているのだ」という思いが、私を奮い立たせた。
Wooの奮闘に報いるためにも(?)、クソデッキを作るしかない。
しかし《呪文捕らえ》は4マナ以下の呪文すべてを封殺してしまう。何か……何かないか……
Travis Woo……私に力を……!!!
そして天啓が舞い降りた。
どのみち《呪文捕らえ》に対抗するには、5マナ以上の呪文で戦うしかないのだ。
ならばいっそのこと開き直って5マナ以上の呪文と5マナ以上の呪文でコンボすればいいのではないか?
つまり。
バスケットボールを始めればいいのではないか?
この2枚の画像だけではよく意味がわからないという読者のために改めて文字で説明すると、《死の宿敵、ソリン》を出して「+1」能力で《約束された終末、エムラクール》をめくると相手は13点食らうのである。
したがって、2回めくるか、めくれた《約束された終末、エムラクール》をプレイして殴れば26点ということだ。
そしてバスケットボールとはどういうことかというと、26点という巨大なダメージやランダムなトップをワンチャンスにかけてめくる感覚は、あるデッキのコンセプトにそっくりなのだ。
そう、【バトルワーム】……すなわちスラムダンクだ。
【前回】の冒頭で、エキスパンションごとの最高マナコストの話を出した。
そしてその途端に『異界月』でスタンダードの最高のマナコストがいきなり13マナに跳ね上がったのである。
これはもはや「《約束された終末、エムラクール》のマナコストを参照しろ」というウィザーズからのお告げに違いない。
すなわち、《死の宿敵、ソリン》で《約束された終末、エムラクール》をめくり、相手プレイヤーの顔面に13点(=スラムダンク)を叩き込むのだ。
だが冷静に考えてみると、《死の宿敵、ソリン》の「+1」能力でめくれるトップは全くのランダムであり、《約束された終末、エムラクール》は4枚しか入らない以上、机上の空論なのではないかとも思える。
-土地 (0)- 4 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 4 《大いなる歪み、コジレック》 4 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー (12)- |
4 《死の宿敵、ソリン》 -呪文 (4)- |
我々は人間である以上、初手に引くと一切ゲームに寄与しないために自動的にマリガン扱いになるカードを12枚も採用する全自動ダブルマリガンは許容できない。
ではどうやってスラムダンクを実現するのか?
その答えは、《死の宿敵、ソリン》というカードの能力自体に既に内包されていた。
《死の宿敵、ソリン》はプレインズウォーカー。つまり、「+1」能力を起動するターンを増やせばいつかは13点入るのである。
そうと決まればあとは話が早い。
「+1」能力を起動するターンを増やすためには、「早く場に出す」と「忠誠値を守る」の2つのアプローチがある。
さらに手札に来てしまった《約束された終末、エムラクール》をプレイする手段がないとスラムダンクは決まらないので、「《約束された終末、エムラクール》を素でプレイできるようにする」ことも必要だ。
これらの要請をまとめると、以下のようになる。
◆ クソの献立
・《死の宿敵、ソリン》で《約束された終末、エムラクール》をめくると13点、プレイすると13点、合わせて26点=die.
・《死の宿敵、ソリン》を早く場に出す
・《死の宿敵、ソリン》の忠誠値を守る
・《約束された終末、エムラクール》を素でプレイする
・《死の宿敵、ソリン》で《約束された終末、エムラクール》をめくると13点、プレイすると13点、合わせて26点=die.
・《死の宿敵、ソリン》を早く場に出す
・《死の宿敵、ソリン》の忠誠値を守る
・《約束された終末、エムラクール》を素でプレイする
はたしてこれらの要請をすべて満たすことが可能なのだろうか?
いや、可能かどうかは既に問題ではない。やるしかないのだ。
それに【前回】述べたとおり、私のクソデッキ作りにおける信念の一つは「明確な『必要』を感じてカードを探す者には、マジックは必ず応えてくれる」である。
きっとウィザーズは用意してくれている。これらの条件を満たすだけのカードプールを。
そう思いながらデッキ作りが始まり……
そしてついに、完成したのだ。
■ 2. 爆誕編
クソデッキ、新時代へと羽ばたく。
《約束された終末、エムラクール》のために「環境最強のインスタント」と「~ソーサリー」「~エンチャント」「~アーティファクト」等々用意していったら誰も見たことがないクソが爆誕してしまった。
だが、ある意味でそれも仕方のない話と言える。
なぜなら、私はもはや「マジック・ザ・ギャザリング」というゲームの枠を超えた新境地……いわば「マジック:ザ・ギャザリング2(ツー)」へと踏み出そうとしているからだ。
「マジック:ザ・ギャザリング2(ツー)」のテーマは、ランダム性をコントロールすることにある。
【バトルワーム】と同様、ランダムなトップの力で勝利をもぎ取ることで、至高の快感が得られるのだ。
想像してみて欲しい。《死の宿敵、ソリン》で《約束された終末、エムラクール》をめくる瞬間を。ライフ13以下の対戦相手はその場で憤死間違いなしである。
理不尽には理不尽を。《呪文捕らえ》などというカードで人のやりたいことを妨害してくる対戦相手には、ランダムというこの世の理(ことわり)を超えた暴力……ダンクシュートで対抗するしかないのだ。
それではお見せしよう。
これが『異界月』によって環境に誕生した常識外のクソデッキ、「バトルクール」だ!
4 《山》 2 《平地》 1 《沼》 4 《燻る湿地》 4 《進化する未開地》 4 《乱脈な気孔》 4 《戦場の鍛冶場》 3 《コイロスの洞窟》 1 《凶兆の廃墟》 -土地 (27)- 2 《隠れたる龍殺し》 3 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー (5)- |
3 《神聖なる月光》 1 《神聖な協力》 3 《治癒の手》 3 《コジレックの帰還》 1 《衰滅》 1 《荒廃の一掴み》 4 《突沸の器》 4 《錬金術師の薬瓶》 3 《先駆ける者、ナヒリ》 4 《死の宿敵、ソリン》 1 《炎呼び、チャンドラ》 -呪文 (28)- |
4 《強迫》 2 《塵への崩壊》 1 《悟った苦行者》 1 《破滅の昇華者》 1 《老いたる深海鬼》 1 《自傷疵》 1 《コジレックの帰還》 1 《破滅の道》 1 《衰滅》 1 《荒廃の一掴み》 1 《炎呼び、チャンドラ》 -サイドボード (15)- |
まるで成長していない……
改めてリストにして見てみると、自分で作ったデッキなのに「自分が作った」とは言いたくないほどのリストの汚さである。
しかも個々の枚数はさておき、誰もスタンダードで使ってないようなわけのわからないカードがあまりにも多すぎやしないか?と片っ端からツッコまれるのが目に見えているので、「何でこれ入ってるの?」というカードについて片っ端から解説しておこう。
・《隠れたる龍殺し》
「最強のクリーチャー」に相当する。このスロットに求められるのは「《反射魔道士》が効かないこと」と「ゲーム後半でも腐らないこと」という非常に厳しい条件だったが、《隠れたる龍殺し》は「変異」であり《反射魔道士》に一応の耐性があること、そしてあらかじめ「変異」で出しておけば表返したときの能力で相手の《約束された終末、エムラクール》を倒せることを評価し、採用となった。とにかくターンを伸ばしたいこのデッキにとっては絆魂も貴重だ。
・《錬金術師の薬瓶》
【Temur New Generation】でお馴染みの彼だが、今回は「墓地に落ちるアーティファクト」かつ「プレインズウォーカーを守れる」というその唯一無二の性能を買っての採用となった。
平たく言えば《Time Walk》である。
・《治癒の手》
《Time Walk》である(ゴリ押し)。
あと唱えるときに「左手は添えるだけ」と口ずさむとなんだかすごく重大なアクションをしているように見えるが気のせいである。
・《突沸の器》
このカードこそこの「バトルクール」の隠れた主役である。
2~3ターン目に設置することができれば、4ターン目に《死の宿敵、ソリン》を降臨させられる。さすがに4ターン目に6マナのプレインズウォーカーが出てきたら大抵はものすごく有利になるだろう。
もちろん溜めておいて《約束された終末、エムラクール》の召喚を早めるのに使ってもいい。
ちなみにバスケットボール的にはドーピング剤に相当すると思われるので用法・用量を守って正しくお使いください。
・《荒廃の一掴み》
基本的に「現出」や「昂揚」デッキの方が《約束された終末、エムラクール》をプレイするターンが早いので、「土地を割りたい」と思ってカードを探した結果、このカードに白羽の矢が立った。ほか、《老いたる深海鬼》に対するささやかな抵抗の意味もある。
バスケで言えば相手のゴールを物理的に破壊するイメージである。普通にやると勝てないので仕方がない。
・《先駆ける者、ナヒリ》
《約束された終末、エムラクール》を相手のゴールにシュゥゥゥーッ!!
スラムダンクに加え、ボール(手札)回し、ゴール下の守りなど、一人でなんでもできる万能選手。
デッキの中にゴミみたいなカードが多すぎるので捨てるカードには困らないはずだ。
■ 3. 実戦編
クソデッキ、マジックオンラインの競技リーグに出場する。
競技リーグは全5回戦、5戦全勝するとオンラインにデッキレシピが掲載されるチャンスがある。
ここは5-0してクソデッキの何たるかを世に知らしめるしかない!
◆第1回戦 VS ティムール現出
・1戦目 普通に負け。
・2戦目 うっかり着地した《死の宿敵、ソリン》でライフを削り、相手が《約束された終末、エムラクール》をプレイしたエンド前に《老いたる深海鬼》出して勝ち。
・3戦目 後手4ターン目《死の宿敵、ソリン》で《不屈の追跡者》を除去してから「+1」能力を連打。相手の《ヤヴィマヤの沿岸》を《塵への崩壊》して《森》だけになって全く「現出」できないところを無茶苦茶して勝ち。
×○○
◆第2回戦 VS 黒緑昂揚
・1戦目 《突沸の器》2枚から7ターン目に《約束された終末、エムラクール》出したら相手がこちらの理不尽にキレたのかそのままマッチ投了。
○-
◆第3回戦 VS 白赤人間
・1戦目 相手が先手土地1枚でストップ。《コジレックの帰還》してから適当にプレインズウォーカー並べて勝ち。
・2戦目 ギリギリしのげるかというところで《炎呼び、チャンドラ》の「-X」能力を起動したら《忌の一掃》で防がれて負け。知らなかったから超ビビった。
・3戦目 《先駆ける者、ナヒリ》を引けずに《鋭い突端》《永遠の見守り》《縫い師の移植》《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》と並べられ、場が捌ききれずに《死の宿敵、ソリン》の13点縛りになる。今こそスラムダンク!……さすがに1枚に減らした《約束された終末、エムラクール》はめくれず負け。
○××
◆第4回戦 VS ティムール現出
・1戦目 こっち2回、相手3回《約束された終末、エムラクール》をプレイするクソ勝負。《過去との取り組み》《ウルヴェンワルド横断》がある分向こうの方がアクションの精度が高く、こちら何もなしで向こうが《約束された終末、エムラクール》《老いたる深海鬼》とコントロールする場になるが、1回だけこちらの《約束された終末、エムラクール》の攻撃が通っており相手のライフは残り6点。ラストターンにトップした《死の宿敵、ソリン》が《死の宿敵、ソリン》めくってぴったり勝ち!強い!4枚買おう!!(ダイレクトマーケティング)
・2戦目 似たような展開になるも今度は相手のライフが《死の宿敵、ソリン》の射程圏に入ることなく負け。
・3戦目 相手が《約束された終末、エムラクール》引いてなくて、《炎呼び、チャンドラ》にカウンター打たせて相手が《絡み草の闇潜み》の対象をミスった返しでこっちが先に《約束された終末、エムラクール》出して勝ち。
○×○
◆第5回戦 VS 黒緑昂揚
・1戦目 適当に《約束された終末、エムラクール》出して勝ち。
・2戦目 2ターンランド詰まって負け。
・3戦目 2ターン目《強迫》(《無限の抹消》抜き)、3ターン目《突沸の器》から4ターン目《荒廃の一掴み》www 相手は《風切る泥沼》《森の代言者》《不屈の追跡者》という動きで《風切る泥沼》吹き飛ばしたら緑マナが事故り、そのまま《炎呼び、チャンドラ》、《死の宿敵、ソリン》で無茶苦茶やって勝ち。
○×○
結果:
■ 4. 後悔編
「まつがんさん、何してるんですか?」 |
「2万本のフリースロー練習だよ。リーグの対戦では結局スラムダンクを決めることができなかったからね。《死の宿敵、ソリン》の『+1』能力を2万回起動することで、百発百中で《約束された終末、エムラクール》がめくれるようになるんだ」 |
「??? はぁ……(仕事してくれないかな……)」 |
2年が過ぎた頃
異変に気付く
2万回めくり終えても
日が暮れていない
齢30を越えて
完全に羽化する
感謝の「+1」能力起動2万回
1時間を切る!!
この記事内で掲載されたカード
Twitterでつぶやく
Facebookでシェアする