こんにちは。らっしゅです。
いよいよ『カラデシュ』の発売まで2週間となりました。毎日のようにカードリストが更新され、発売を待ち遠しく感じている人も少なくないはずです。かくいう僕もその一人。暇を見つけてはカードリストとにらめっこしています。
あれやこれやと幾つものアイデアが浮かび、正直な話、今さら「バントカンパニー」の話をしているどころではないので、今週と来週の2回は『カラデシュ』を迎えた新環境について話していきたいと思います。
新しいエキスパンションの加入は、すなわちローテーションの季節を迎えたということでもあります。とりあえず今週は『マジック・オリジン』と『タルキール龍紀伝』が去る影響について考えていきましょう。
- 2016/9/15
- 『カラデシュ』が参入したスタンダードを考えよう
- Oliver Polak-Rottmann
Hareruya ProsのOliverが早速新環境についての記事を載せてくれました。
プラチナレベル・プロらしく的確に要点を押さえた内容なので、ぜひともこちらの記事もご一読ください。
【話題1】『カラデシュ』の加入と”ローテーション”
刺激的で楽しいゲーム環境を保つために、マジック:ザ・ギャザリングのスタンダードには“ローテーション”という循環システムがあります。新しいカードセットが入るたびに、古いセットが押し出されて使えなくなる。そんな”ところてん式”の交代が行われるのです。
慣れ親しんだカードたちを使えなくなることは残念に思えますが、ローテーションによって環境が一新されることで得られる楽しさは、間違いなくそれを上回ります。
それでは『カラデシュ』の加入がどのようなローテーションを引き起こすのか。まずはそこから整理してみましょう。
今月末に『カラデシュ』が入ることでスタンダード環境から去るのは、『タルキール龍紀伝』と『マジック・オリジン』の2つです。
細かく見ていくと他にも重要なカードはありますが、とりわけ大事なカードをリストにしてみました。最も大きな影響を与えるカードは『タルキール龍紀伝』の《集合した中隊》かもしれませんが、個人的には『マジック・オリジン』に収録されていた有力なカードの枚数に驚かされました。
どれも現状のスタンダード環境で活躍するデッキタイプの核となるカードばかりで、コモンから神話レアまで優秀なカードセットだったことを改めて窺い知れます。
これらが抜けた穴を『カラデシュ』は埋めることができるのでしょうか。現在のスタンダード環境の核が抜け落ちて、これからは全く新しい環境が繰り広げられます。まずは未だ見ぬ環境の輪郭を捉えるためにも、『カラデシュ』の有望株を一枚一枚評価するより先に、カードプール全体の変化に注目してみましょう。
【話題2】これまでとこれからの環境の違い
環境を定義する要素はいくつかありますが、なかでも重要な三つについて考えていきます。「除去呪文」「マナベース」「アドバンテージ源」。この三つそれぞれの変化に注目しました。
・除去呪文の変化
基本的には対戦相手と一手一手の応酬を繰り返すゲームなので、こちらの一手の価値は、すなわち相手の一手に返されるかどうかで決まります。例えば大昔まで遡ると、一時は環境を支配した《大気の精霊》と《厄介なスピリット》が、《火炎舌のカヴー》が登場した途端に環境から姿を消したことすらあるのです。
この例からも分かるように、基本的には対応する側がもつ選択肢によって、繰り出すカードや戦略の価値は変わります。
さて、『カラデシュ』を迎えることで応手にどのような変化が起こるのか。わかりやすい一例としてクリーチャー除去呪文を確認してみましょう。
《焦熱の衝動》《究極の価格》《ドロモカの命令》など、いくつかの選択肢を失ったものの、単体除去については目立った変化は見られません。なぜなら《闇の掌握》《石の宣告》は健在ですし、《焼夷流》《破滅の道》《次元の歪曲》《集団的抵抗》といった優秀な選択肢も残されているからです。
『カラデシュ』からは《無許可の分解》《蓄霊稲妻》程度の収穫しかなかったため、ほぼ変化はなさそうです。去るものは少なく、得るものも少ない。このことから単体除去の変化が環境に与える影響は小さいと思われます。
しかし、視点を全体除去に移すと、そこには大きな変化が見られました。
『マジック・オリジン』に収録されていた《衰滅》《悲劇的な傲慢》が失われるのです。まだ《光輝の炎》《コジレックの帰還》《次元の激高》は残されていますが、これらはそれぞれ効果範囲、誘発条件、コストが重いといった難癖をもつカードとして知られています。
去りゆく《衰滅》にもサイズの制限はありましたが、現実的にこれを生き延びるサイズのクリーチャーは少なく、ほぼ《神の怒り》として機能することが強みでした。一見すると《次元の激高》はマシな選択肢に見えるかもしれませんが、《大天使アヴァシン》《無私の霊魂》にカウンターされやすく、5マナというマナコストは実現性と速度のどちらにおいても頼りないと言わざるを得ません。
『カラデシュ』からは目立った収穫はなく(《激変の機械巨人》くらい)、これからの環境において「全体除去の弱体化」は一つ注目されるべき要点になりそうです。具体的には、旧環境の「黒白コントロール」のように《衰滅》に依存していたコテコテのボードコントロールが成立しにくくなり、同時に「白系人間」のように《衰滅》を弱点にしていた戦略の価値が高まるでしょう。
・マナベースの変化
幸いにも『マジック・オリジン』と『タルキール龍紀伝』に収録されていた土地の種類は少なく、替えがきかないようなものは《ヤヴィマヤの沿岸》などのダメージランドくらいです。無色マナを要する《難題の予見者》や《現実を砕くもの》が若干使いにくくなりそうですが、それほど大きな問題にはならないでしょう。
その代わりに『カラデシュ』から手に入れたのは、《植物の聖域》といった対抗色のファストランドと、生まれ変わった《氷の橋、天戸》こと《霊気拠点》です。
ファストランドはかつて『ミラディンの傷跡』に収録された種類の土地で、「コントロールしている土地が3枚以内ならデュアルランド」という強力な効果を持っています。これによって序盤のマナ供給がスムースになり、これまで以上に幅広い戦略が登場するでしょう。
ダメージランドは痛いという当然のデメリットから大量に採用することは難しいカードでしたが、ファストランドはタップインのデメリットこそあれ構築上の制限は緩いカードです。そのため、これまでには成立しなかったいくつかの無茶なアイデアが成立する兆しが見えました。
例えば青緑黒の対抗3色のミッドレンジなどは、ダメージランドの枚数は増やしたくないけれど、かといって有効色の《詰まった河口》や《窪み渓谷》の採用も不安定で憚られるという問題を抱えていました。このような問題を抱えていたデッキの多くは、ファストランドによって序盤のマナ供給が安定することで一線級のデッキになる可能性を秘めているのです。
エクステンデッドやモダンの「ジャンド」では、4~6枚のファストランドと4~6枚のミシュラランドといった構築が一般的でしたし、これからのスタンダードでも似たような土地構成のデッキタイプを見かける機会は増えそうです。
また別のアイデアとしては、がっつりとファストランドを8枚採用するようなアグロデッキも考えられます。これまでの環境ではダメージランドを8枚採用することは難しく、かといって色マナ調整のための《進化する未開地》もタップイン故に入れがたいことで成立しなかったデッキタイプです。
ファストランドとともに《霊気拠点》という頼もしい土地も加わったことで、確実にゲームは高速化するでしょう。これまではマナベースの安定性から2色や友好色が優位な環境が続きましたが、これからは少しだけ無茶を通した対抗3色にも遜色ないゲーム展開を期待できそうです。
・アドバンテージ源の変化
これまでの環境においてアドバンテージ源はいくつかありましたが、『カラデシュ』以降はその大半を失います。《集合した中隊》《ヴリンの神童、ジェイス》《巨森の予見者、ニッサ》という強力な3枚がローテーション落ちするのです。
しばらく環境を支配していた《集合した中隊》が消える影響はもちろん大きいのですが、残りの2枚が与える影響もそれに匹敵するものになりそうです。
スタンダードの青いカードは《反射魔道士》と《ヴリンの神童、ジェイス》だけ。こんな揶揄も飛び出すほどに弱体化していた青を支えていた半身が《ヴリンの神童、ジェイス》でした。この半年間で活躍した青いコントロールは、ほぼすべてが《ヴリンの神童、ジェイス》を中心に構築されたものだったのです。
つまり、青系のコントロールを構築する動機は《ヴリンの神童、ジェイス》が生み出すアドバンテージにありました。これを失った青に何が残るのかは興味深い話題になりそうです。《老いたる深海鬼》や《奔流の機械巨人》といった魅力的なフィニッシャーには選択肢があるものの、それらの活躍を支えるための燃料源はまだ見えません。
ミッドレンジといえば緑色。ここ最近の常識でしたが、この根本には《棲み家の防御者》《不屈の追跡者》《巨森の予見者、ニッサ》の存在がありました。各色のドロー呪文が年々弱まっていくなかで登場したこの3枚は、疲弊した対戦相手を確実に突き放すだけのリソースを眠らせていたのです。
なかでも時間帯を問わず活躍するのは《巨森の予見者、ニッサ》でした。《棲み家の防御者》と《不屈の追跡者》はマナや墓地など他のリソースを前提にしていましたが、《巨森の予見者、ニッサ》は3ターン目に登場した時点で仕事を果たすからです。
その時点で供給するのはたかだか1枚の《森》ですが、《森の代言者》《不屈の追跡者》など「土地を絶えず供給することを前提にしたカード」が多く採用された緑のミッドレンジにとって、確実に4枚目以上の土地が手に入ることには額面以上の価値がありました。「現出」のタネにもなることから、あらゆる緑系ミッドレンジの根本を支えて引き上げるカードだったのです。
替えがあるようでない。そんな重大な1枚が失われました。
これらの優秀な3枚の代わりに『カラデシュ』から得たものはというと、単純なアドバンテージ源だとプレインズウォーカーを除いては各種の《機械巨人》と《金線の使い魔》くらいしかなく、エネルギーやアーティファクトを利用する癖の強いカードが残りの大半を占めています。
このことから「1枚のカードをより多い枚数のカードに直接変換する」方法は減り、「シナジーを駆使して足し算以上の成果を生み出す」方法のなかにアドバンテージ源を探すことになりそうです。つまり既存の戦略では「現出」や「昂揚」がそれに相当し、これからのミッドレンジやコントロールはその2つを中心に開拓されていくことになります。
『カラデシュ』から得たエネルギー関係の評価は難しいものですが、アドバンテージ源という観点においては頼りにできません。基本的にエネルギーを「カード枚数のアドバンテージに変換する」ものは珍しく、《霊気池の驚異》のように爆発的なリターンをもたらすものが僅かに在るだけだからです。
【まとめ】ざっと見てきましたが
こうして「除去呪文」「マナベース」「アドバンテージ源」と、重要な3つの要素を見てきました。これらの内容から起こるであろう環境の変化を簡単にまとめると、
・「黒系コントロール」の減少
→単純に《衰滅》を失ったから。《ゲトの裏切り者、カリタス》や《ヴォルダーレンの下層民》は残されているため、それらを軸にしたコントロールには機会が残りそう。
・2色あるいは3色の攻撃的なクリーチャーデッキの登場
→赤多色、白系人間、白赤、赤黒
→全体除去やアドバンテージ源が失われたことに伴うコントロールの弱体化と、序盤の色マナに少しだけ無理がきくようになったことから。
・「現出」と「昂揚」の活躍
→緑黒系、青緑系、赤緑系
→アドバンテージ源が限られているため、キーワード能力を駆使したエンジンが必要になるから。
→単純に《衰滅》を失ったから。《ゲトの裏切り者、カリタス》や《ヴォルダーレンの下層民》は残されているため、それらを軸にしたコントロールには機会が残りそう。
・2色あるいは3色の攻撃的なクリーチャーデッキの登場
→赤多色、白系人間、白赤、赤黒
→全体除去やアドバンテージ源が失われたことに伴うコントロールの弱体化と、序盤の色マナに少しだけ無理がきくようになったことから。
・「現出」と「昂揚」の活躍
→緑黒系、青緑系、赤緑系
→アドバンテージ源が限られているため、キーワード能力を駆使したエンジンが必要になるから。
こんな感じでしょうか。まだカードリストが出揃っていないため、とりあえず環境から去るカードたちが与える影響をもとに逆算してみました。
来週はおそらくほとんどの情報が出揃うはずなので、実際に環境初期に登場しそうなデッキリストをいくつか紹介していきたいと思います。しばらくぶりに純粋なアグロデッキが活躍しそうな環境なので楽しみです。
それではまた来週お会いしましょう。
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