(※注: 既に『霊気紛争』の全カードリストは公開されていますが、この記事には『霊気紛争』の「れ」の字も出てきません)
(※注2: しかもなんか先日【ものすごい発表】があったばかりだけど当然この記事はそんな事情を踏まえているわけもないので色々と察してください)
『カラデシュ』の時代、到来。
大型セットが発売するというのは、いつ経験してもわくわくするものだ。特にそれがローテーションを伴っているとなればなおさらだ。
新しいギミック、新しいデッキ。これまでの環境とは全然異なるゲームが、私たちを待ち受けている。
プレイヤーは環境終盤の煮詰まった悩みから解放され、真っ白なキャンバスを前にして有り余る探究心を自由に発揮していることだろう。
ところで。
自由とは、すなわち制約の不在にほかならない。
そしてデッキビルダーとは、制約を乗り越える存在なのである。
ならば、こと新環境の始まりにおいては、必然的にその自由さ故に、デッキビルダーの出番はない、ということになるのだろうか?
答えはもちろん否だ。
私たちはどんな命題も疑問の形へと変えることができる。したがってあらゆるすべてが制約となりうるのだ。
デッキを作るとは、道筋を作ることでもある。
砂浜に足跡を残すように。日に焼かれた砂の感触を確かめながら一歩ずつ踏みしめるように、きちんと理由を持ってカードを選んでいく……その過程さえ存在していれば、たとえその理由が正しいものでなくても、私たちは創作の喜びを得ることができる。
だから自由を恐れる必要はない。誰に憚る必要もない。
勝つためでも表現するためでも、何のためでも構わない。ただ自分自身のやりたいように、とりとめもなく気ままに。
デッキ構築を、楽しんでいこう。
■ 1. 妄想編
クソデッキ、豊作すぎて迷う。今までにない展開である。
ここ最近のセットではWotCがコンボデッキの隆盛を警戒していたのか、「ストーム」や「続唱」のような悪用されそうなキーワード能力やいかにも怪しげなスペルはそもそも収録されず、ただひたすら強いクリーチャーとプレインズウォーカーがセットの魅力の大部分を占めることが多かった。
だが『カラデシュ』は違う。
何せ私が【『カラデシュ』のカードリスト】を見て最初に思ったのは、「なんだこの楽しそうなエキスパンションは!?」というものだったからだ。
私がクソデッキを作る際に真っ先に着目する【10以上の数字】についても、それを満たすカードは大量に存在するほどの豊作ぶり。
そう、『カラデシュ』はクソデッキビルダーにとって理想的なエキスパンションだったのだ。
だが、ここで一つ問題が生じる。
あまりに何でも作れてしまうため、逆にデッキコンセプトがなかなか決まらないのである。
ビートでも、コンボでも、コントロールでも。自分が作りたいデッキを作りたいように作れるのが、『カラデシュ』入りのスタンダード環境だ。
しかしそれゆえに迷う。
私は一体、どんなデッキを作りたいのか?
ここにきて私は、自分を突き動かす衝動の正体と向き合わなければならなくなってしまった。
自分を知るというのは案外難しい。
やはりここはさらに加わった10マナ以上のカードを全力で使い、【スラムダンク】を目指すべきだろうか。
-土地 (?)- 4 《焼却の機械巨人》 4 《金属製の巨像》 4 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 4 《大いなる歪み、コジレック》 4 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー (20)- |
4 《突沸の器》 4 《死の宿敵、ソリン》 -呪文 (8)- |
いやダメだ。やはり人体錬成は禁忌だ。
だが。
それなら一体どのようなデッキなら私の渇きを癒してくれるというのか。
ここにきてクソデッキ製作は、『カラデシュ』が持つ可能性のあまりの大きさによって、またしても暗礁へと乗り上げてしまったのだった。
自分のやりたいこととは何か。
そんな、まるで原点に立ち返るかのような疑問を前に立ちすくむ私を救ってくれたのは、またしてもあの男、Travis Wooだった。
そう。ホノルルの地での【Travis Wooとの邂逅】、そこから得られたデッキ構築についての知見。
そして何より、トップ8には残らなかったものの、見事12位に入賞した彼の戦いぶりを見て、私は「もう迷わない」と決めたのだ。
だからそう。答えは既に決まっている。
私が作りたいのは、頭のおかしいビートダウンだ。
【マルドゥ剣心】や【Super Crazy Zoo】を見てもらえばわかるように、私が作りたいのは、常識外に軽いマナカーブで4ターン目に手札を使い切りつつ無抵抗の対戦相手を葬り去ることができる、そんな生き急いだデッキなのだ。
しかし、今回作ろうとしているのは昨今では4マナや5マナのカードを主力に戦うスタンダードのデッキである。
そこにおいて4ターン目に手札を使いきってなおかつ普通に《蓄霊稲妻》とか《石の宣告》とか撃ってくる対戦相手に勝とうというのは、このゲームがマジック:ザ・ギャザリングである限り不可能ではないだろうか?
そう思われるかもしれない。けれども、諦めるにはまだ早い。『カラデシュ』には無限の可能性がある。
だから、あるはずだ。WotCは必ず、私みたいな前のめりに倒れたがりなプレイヤーにも、解答を用意している。
カードリストを見直す。
はたして『カラデシュ』にはそんなマジックの限界を超えたカードが存在しているのか?
いた。
自身が生み出す3個のエネルギー・カウンターを使い切ってしまえば、もはや2度とレッドゾーンに足を踏み入れることはかなわないであろう、3マナ1/1という骨と薄皮だけのボディ。
そしてそれとは対照的に、3の倍数のエネルギー・カウンターを費消するごとに一瞬だけ何者をも凌ぐ力が得られるという瞬発力は、まるで強大な敵に立ち向かうために重すぎる対価を支払いながらも禁忌のパワーアップを遂げる王道少年マンガの主人公のようだ。
何せ実質的に二段攻撃、いや四段攻撃や八段攻撃にも到達しうるほどのそのポテンシャルは、【スラムダンク】を遥かに超えた40点ものダメージを叩き出すことすらあるのだ。
一撃40点。
対戦相手を大会会場の客席(?)へと吹き飛ばしかねないその威力は、まさしく波動球と言って差し支えない。
そう、何も難しいことはなかった。
マジックである限り不可能。
ならばマジックではなく、テニスをすればいいのだ。
バスケットボールの時代は終わった。これからはテニスの時代だ。マジックテニス。ぜひ次回のニコニコ超会議では採用を検討していただきたい。
だがここで問題が浮上する。
4ターン目に殴って勝つために《静電気式打撃体》を3ターン目にプレイすると、あまりに意図が見え見えかつ1/1のボディが貧弱すぎて一瞬で除去されてしまうのである。
無論同時に『カラデシュ』で収録された《顕在的防御》を構えた上で4ターン目にプレイすれば安全を確保できるのだが、《顕在的防御》も常に引いているとは限らない。
必要なのは、波動球をタメるまでの1ターン、《静電気式打撃体》を守れるカード。それも、できればマナをかけずに守りたい。
【Temur New Generation調整録】でも書いたが、こういうとき、「求められる条件からカードの能力を逆算する」能力が役に立つ。
そう、1マナ1/1くらいのクリーチャーがいい。
それは単体では何も仕事をしないが、脇のクリーチャーに除去が飛んでくると、こうシュッと我が身を挺して守ってくれるのだ。
これはつまり、アレだ。
《ルーンの母》だ。
レガシーのデス&タックスなどで使われているこのカードは、《石鍛冶の神秘家》や《スレイベンの守護者、サリア》など対戦相手にとって致命的なクリーチャーを、除去スペルなどからその母性によって優しく保護してくれる。
《剣を鍬に》や《稲妻》に対応してシュッとプロテクションが付けられるので、実質的に対戦相手は除去呪文が打てなくなるのだ。これがスタンダードでもできれば、《静電気式打撃体》を早いターンでも安全に着地させることができるだろう。
ここに至って、《静電気式打撃体》を使うための条件ははっきりした。
要は、スタンダードの《ルーンの母》を見つければいい。
それさえあれば、マジックはテニスになる。あとは波動球が対戦相手のライフをマイナス20くらいまで一撃で落とし込んでくれることだろう。
そうと決まれば話は早い。「スタンダード、1マナのクリーチャー」で検索。
そして。
ついに私は、運命の出会いを果たした。
■ 2. 爆誕編
クソデッキ、胎動。《静電気式打撃体》、「波動球」、そして《ルーンの母》。パズルのピースが揃ってからは簡単だった。
よく考えてみると、マジック:ザ・ギャザリングはテニスに似ている。
一手一手相手の呼吸を確かめるようにアクションを行い、互いに相手にとって厳しい手が何かを考えながらプレイを進める様は、まるでラリーの応酬のようだ。
そしてそんなテニスのルールを破壊するのが波動球である。
「手札を持つ相手の手首を問答無用で粉砕すれば相手は手札を持てなくなって勝てる」……そんな暴論にも似たパラダイムシフトを、このデッキは起こしてくれた。
そう。つまり。
40点当てれば人は死ぬのだ。
それではお見せしよう。『カラデシュ』が生み出した新たなるゴリラ、「百八式波動球」だ!
4 《森》 1 《島》 1 《山》 4 《植物の聖域》 2 《尖塔断の運河》 3 《獲物道》 4 《霊気拠点》 -土地 (18)- 4 《霊廟の放浪者》 4 《光り物集めの鶴》 4 《導路の召使い》 4 《静電気式打撃体》 4 《新緑の機械巨人》 -クリーチャー (20)- |
4 《霊気との調和》 4 《顕在的防御》 4 《撃砕確約》 1 《空間の擦り抜け》 4 《放たれた怒り》 4 《密輸人の回転翼機》 -呪文 (22)- |
4 《流電砲撃》 4 《儀礼的拒否》 3 《月の力》 2 《難題の予見者》 1 《蓄霊稲妻》 1 《荒地》 -サイドボード (15)- |
百八式波動球
だらだらクソデッキ
スタンダード
《密輸人の回転翼機》が入ってれば何でも許されるってわけじゃねーぞ!
そんな読者のツッコミの声が聞こえてくるのがわかるほどに統一感のないカオスだ。
一応真面目に解説しておくと、このデッキの主役はもちろん《静電気式打撃体》なのだが、影のキーパーツは《光り物集めの鶴》である。
《光り物集めの鶴》は《密輸人の回転翼機》を探しつつ自身で「搭乗」もできる万能選手で、さらにデッキに4枚しかない《静電気式打撃体》を探しにもいける。
しかも極め付けは《新緑の機械巨人》との相性の良さだ。アーティファクトであるため能力のヒット対象になるだけでなく、+1/+1カウンターの乗せ先としても最適なのである。
とはいえ、このリストを見た読者諸君は疑問に思うかもしれない。
すなわち、《ルーンの母》はどこに行ったのか?と。
だがよく見てみよう、いるじゃないかここに。
《ルーンの母》(大嘘)
しかしこいつを出しておけば
まあ確かに《霊廟の放浪者》だけだとただ相手が除去を1マナ浮かせて打てばいいだけなので、実際には《静電気式打撃体》の盾としては不十分と言えなくもない。
だが侮ることなかれ。
なんとこのデッキでは2枚目の盾として、《呪文滑り》を採用しているのだ!
どこにもそんなカードは見当たらないと思うかもしれないが、デッキリストを隅々まで見て欲しい。すると……あっ!あのサイドボードのところに……!
そう、《呪文滑り》だ(?)
頭の上に「?」が浮かんでいることだろうから一応説明すると、ひとたび《月の力》を設置してしまえば、対戦相手はこちらのクリーチャーに撃とうとした除去を《月の力》に吸われてしまうのである。
つまりは《呪文滑り》を出したときと大体(10%くらい)似たようなことが起こるという意味で、このカードはスタンダードの《呪文滑り》である(?)と言うことができる。
もちろん《呪文滑り》と違って《月の力》は吸い込む (カウンターする) スペルを選べないので、対戦相手が他のスペルを持っていれば被害なく割れてしまうが、そもそもこのカードをサイドインするのは2スロット以上の除去スペルを積んでいる相手に限られるし、その場合でもその「他のスペル」というのはソーサリータイミングであることが多いであろうから、結果として隙を作ることができる。
クリーチャーが片っ端から捌かれる展開になりがちなサイド後のゲームを無理矢理こちら側のペースに引き込むことができるという意味で、見た目のネタ度ほど悪くはない働きをするカードだ。
だがこれくらいのギミックだけでは、このデッキは「クソデッキ」を語るには役者不足なのではないか?と思う向きもあるかもしれない。
確かにやっていることは「赤緑エネルギー」を200回くらい殴打した挙句ミキサーにかけてジュースにしたかのような、一見下位互換のようにも見えるコンセプトではある。
しかし私にはこのデッキを作らねばならない布石があった。
私が私であるために。「やりたいこと」を追求した結果このデッキができてしまったのは、言わば必然だったのだ。
この符合。
そう、《新緑の機械巨人》は《辺境地の巨人》、《放たれた怒り》は《ティムールの激闘》。つまりこのデッキは【ジャイアンツ】の生まれ変わりだったのであり、「マジックとテニスの融合」でありながら「テニスと野球の融合」でもあった(?)のである。
【Temur New Generation】の経験が【Tide Walk】に生かされたように。デッキ構築とは、製作者の魂の軌跡を表すものでもある。
《死の影》に《強大化》と《ティムールの激闘》をぶち込む【Super Crazy Zoo】を見ればわかるように、私の中にはわけわかんないくらいデカいクリーチャーに強化スペルを打って対戦相手のライフを場外に飛ばしたいという究極に頭の悪い衝動がある。
それゆえに、この「百八式波動球」を生み出されてしまったのはある種当然だったのだ。
■ 3. 実戦編
クソデッキ、マジックオンラインのフレンドリーリーグに出場する。◆第1回戦 VS 青赤《電招の塔》
・1戦目 先手で《霊廟の放浪者》→《光り物集めの鶴》(機械巨人ゲット)→《密輸人の回転翼機》→《霊廟の放浪者》+コンバット合わせの《蓄霊稲妻》に《顕在的防御》+《導路の召使い》→《新緑の機械巨人》で5キル。
・2戦目 3ターン目相手の土地が詰まって苦し紛れの《苦しめる声》を《霊廟の放浪者》でカウンター。その後《呪文滑り》こと《月の力》で相手の行動を大幅に制約しつつ《静電気式打撃体》と《光り物集めの鶴》でちまちま殴り、相手がフルタップで《霜のニブリス》出してきた返しでバーニング!して勝ち。
○○
◆第2回戦 VS 青単《機械医学的召喚》(MTG Goldfishの中の人)
1戦目 《霊廟の放浪者》で相手を牽制し、5ターン目コンバット中《静電気式打撃体》への《撃砕確約》にスタックでプレイされた《岸の飲み込み》にさらにスタックで《撃砕確約》+《顕在的防御》で15点叩き込んで勝ち。
2戦目 《難題の予見者》でスペル抜いたら《氷の中の存在》が引っくり返らず勝ち。
1ゲーム目は“Really!? Really opponent!?”との誉め言葉(?)も頂戴した)
○○
◆第3回戦 VS 赤緑エネルギー・アグロ
1戦目 後手土地4マナクリ《光り物集めの鶴》《顕在的防御》でキープしたら《光り物集めの鶴》の能力を外した上に4ドロー全部土地で負け。
2戦目 ダブマリ死。
××
◆第4回戦 VS 青白フラッシュ
・1戦目 最後相手がスペル1枚構えなら勝てるところで《呪文捕らえ》と《否認》持たれてて負け。
・2戦目 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》に3回くらいどつかれつつ《折れた刃、ギセラ》の上から32点叩き込んで勝ち。バーニング!
・3戦目 3ターン目に手札に3枚いたマナクリを《反射魔道士》されてハマって、《密輸人の回転翼機》に延々とどつかれて負け。
×○×
◆第5回戦 VS 赤緑エネルギー・アグロ
・1戦目 相手の土地が詰まって《新緑の機械巨人》間に合って勝ち。
・2戦目 相手ワンマリで《導路の召使い》しか引いてなくて《新緑の機械巨人》出して勝ち。
○○
結果:3-2。
■ 4. 後悔編
クソデッキ、冷静に解体。《静電気式打撃体》は確かに決まれば相手が宇宙の彼方まですっ飛んでいくのだが、いかんせん下準備が大変すぎた。「スタンダードに《ルーンの母》が必要」とか言ってる時点で無理だと悟ってしかるべきだったのだ。
やはりマジックはテニスではなかった。マジックはルールで20点当てれば勝ちと決まってるんだから20点だけ削ればいいのである。40点も50点も削ろうとするのはゴリラだけだ。人間に戻ろう。
最後に、このデッキを調整した結果としての最終形を載せて記事を締めるとしよう。
4 《森》 1 《島》 1 《山》 4 《霊気拠点》 4 《植物の聖域》 2 《尖塔断の運河》 3 《獲物道》 -土地 (19)- 4 《光り物集めの鶴》 4 《導路の召使い》 4 《静電気式打撃体》 3 《巡礼者の目》 4 《新緑の機械巨人》 1 《老いたる深海鬼》 -クリーチャー (20)- |
4 《霊気との調和》 4 《撃砕確約》 4 《顕在的防御》 1 《蓄霊稲妻》 4 《放たれた怒り》 4 《密輸人の回転翼機》 -呪文 (21)- |
4 《流電砲撃》 4 《儀礼的拒否》 3 《月の力》 2 《難題の予見者》 1 《蓄霊稲妻》 1 《荒地》 -サイドボード (15)- |
《ルーンの母》抜けてんじゃねーか!
また次回!
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