USA Modern Express vol.99 -指輪の誘惑、オークの包囲網-

Kenta Hiroki

はじめに

みなさん、こんにちは。

今月末にはモダンのプロツアーがバルセロナで開催されるということもあり、今もっとも熱いフォーマットであるモダン。『指輪物語:中つ国の伝承』から登場した強力なカードによって環境が激変し、混沌としたなかで世界のトッププレイヤーたちがどのようなデッキを持ち込むのか要注目です。

さて、今回の連載では『Modern Showcase Qualifier』と『SCG CON Cincinnati』の入賞デッキを見ていきたいと思います。

Modern Showcase Qualifier
オークが支配する時代

2023年7月8日

  • 1位 Rakdos Evoke
  • 2位 Rakdos Evoke
  • 3位 Rakdos Evoke
  • 4位 Hardened Scales
  • 5位 Jeskai Breach
  • 6位 Samwise Food
  • 7位 Grixis Shadow
  • 8位 Living End

トップ8のデッキリストはこちら

《一つの指輪》がモダンの環境に与えた影響は大きく、ここ数週間は旧環境で活躍していた多くのデッキが姿を消して、多色コントロールや土地コンボなど《一つの指輪》を活用できるデッキが中心でした。

『Modern Showcase Qualifier』は『Modern Showcase Challenge』でプレイオフに入賞したプレイヤーと、直前に開催された予選イベントを勝ち抜いたプレイヤーのみが参戦できるイベントで、優勝者にはMOCS本戦への参加権が与えられるため必然的に高いレベルのイベントになります。

デッキ紹介

Rakdos Evoke

今大会で圧倒的な強さを見せたRakdos Evoke。もともと旧環境でもトップメタに位置していたデッキで、新たな戦力を得たことでさらに強化されているため新環境でも有力な選択肢とされていました。

悲嘆不死なる悪意

1ターン目から《悲嘆》《不死なる悪意》のコンボによって相手のプランを半壊させる動きが非常に強く、回ればどんな相手にも勝つことができます。

《一つの指輪》のドローを咎める《オークの弓使い》と、アンチ特殊地形カードである《血染めの月》の両方にアクセスできることも強みであり、今大会のパフォーマンスにつながりました。

☆注目ポイント

Orcish Bowmasters

《オークの弓使い》はミッドレンジであるRakdos Evokeにフィットするカードで、《敏捷なこそ泥、ラガバン》を含めたさまざまなクリーチャーに対する解答になります。環境を支配している《一つの指輪》に対しても有効で、Izzet Murktideや4C Controlとの相性の改善にも一役買っています。

鏡割りの寓話

最近の特徴は、長い間アドバンテージ源として採用されていた《鏡割りの寓話》が不採用になっていることです。《血染めの月》《歴戦の紅蓮術士》などメインの3マナ域が渋滞しており、《オークの弓使い》《ダウスィーの虚空歩き》といった強力なカードを4枚ずつ採用する枠を確保したいのが主な理由になります。

血染めの月

4C ControlやTron、Amulet Titanなど《一つの指輪》を活用したデッキは、特殊地形に頼ったデッキが多いので《血染めの月》が刺さります。手札のカードをプレイすることができなければ、せっかく《一つの指輪》で得たアドバンテージも活かすことが難しくなります。

Samwise Food

1ターンの間無敵時間ができる《一つの指輪》ですが、プロテクションという性質上対象を取らない効果を防ぎきることはできません。

サムワイズ・ギャムジー大釜の使い魔臓物の予見者

Samwise Foodはクリーチャーベースのコンボデッキで、《サムワイズ・ギャムジー》《大釜の使い魔》《臓物の予見者》によって無限ドレインのコンボが成立します。対象を取らないため《一つの指輪》の弱点を巧く突いた戦略といえます。

☆注目ポイント

召喚の調べ集合した中隊飢餓の潮流、グリストOrcish Bowmasters

《召喚の調べ》《集合した中隊》《イーオスのレインジャー長》などコンボパーツをサーチする手段が豊富なので動きも安定しており、《飢餓の潮流、グリスト》《オークの弓使い》など除去兼アドバンテージ源として機能するカードもあるため、ミッドレンジアグロとしても振る舞うことができます。

Gilded GooseElesh Norn, Mother of Machines

《金のガチョウ》はマナクリーチャーとしても食物・トークンを増やす手段としても使えるカードです。最速2ターン目に《サムワイズ・ギャムジー》を展開する動きが強く、サクリファイスする食物・トークンを安定して供給してくれます。場に出たときの能力を持つクリーチャーが多いので、《機械の母、エリシュ・ノーン》《集合した中隊》から出せないことを考慮しても採用する価値はあります。

SCG CON Cincinnati – $25K RCQ Team Constructed
ラクドス祭り

2023年7月15日

  • 1位 Rakdos Evoke
  • 2位 Jeskai Breach
  • 3位 Izzet Murktide
  • 4位 5C Creativity
  • 5位 Rakdos Evoke
  • 6位 Rakdos Evoke

トップ6のデッキリストはこちら

チーム戦ということで有名プレイヤーも参戦し、プレイオフに勝ち残ったチームは強豪ぞろいとなりました。

モダン部門は多くのチームがRakdos Evokeを選択。また、Creativity ComboやIzzet Murktideといった旧環境のトップメタも活躍していました。

デッキ紹介

Jeskai Breach

強豪プレイヤーで配信者でもあるCorey Baumeister氏が今大会で使用していたデッキは、彼が得意とするJeskai Breachでした。Corey氏は普段からMOでもModern Challengeなどに参加しており、《一つの指輪》入りのBreach Comboはツイッター上でもたびたび公開されていました。

Grinding StationUnderworld BreachMox Amber

このデッキは伝説のクリーチャーと《研磨基地》《死の国からの脱出》《モックス・アンバー》がそろえばコンボをスタートできます。《研磨基地》《モックス・アンバー》を墓地に落として《死の国からの脱出》によって《モックス・アンバー》を「脱出」させることでマナを捻出しつつ、ライブラリーのカードをすべて墓地に落とすことができます。最終的に《タッサの神託者》を「脱出」させて勝利することができます。

《ウルザの物語》などコンボ以外の勝ち手段も用意されており、《一つの指輪》によるアドバンテージのおかげでロングゲームにも対応しやすくなりました。コンボ対策しつつ《ウルザの物語》《一つの指輪》に対応していくのは困難なため、非常に対戦難易度が高いデッキといえます。

☆注目ポイント

敏捷なこそ泥、ラガバンウルザの物語

《死の国からの脱出》コンボは3ターン目にはコンボを決めることができるため、Living EndやTronといったデッキに対しても速度で勝負をすることができます。墓地対策には弱いので、バックアップの勝ち手段として《敏捷なこそ泥、ラガバン》《ウルザの物語》の構築物・トークンによるビートダウンプランが用意されています。

The One Ring

カードを引くたびに失うライフが増していく《一つの指輪》ですが、重荷カウンターが蓄積されても《研磨基地》で墓地に落とすことができます。時間を稼ぎつつアドバンテージも稼げる《一つの指輪》は、サイド後にカウンターや除去を投入してコントロール寄りにシフトしていく戦略とも相性が良く、多角的な攻めを展開することができます。

Modern Challenge 7/16
ディミーアコントロールが優勝

2023年7月16日

  • 1位 Dimir Control
  • 2位 Izzet Murktire
  • 3位 Glimpse Combo
  • 4位 Rakdos Evoke
  • 5位 Burn
  • 6位 Dimir Control
  • 7位 Rakdos Evoke
  • 8位 Calibrated Blast

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日曜日に開催された『Modern Challenge』では、《一つの指輪》《オークの弓使い》を採用した新しい形のDimir Controlが優勝しました。

デッキ紹介

Dimir Control

今大会で優勝も含めて2名のプレイヤーをプレイオフに送り込んだことで注目を集めているDimir Control《虹色の終焉》など優秀な除去にアクセスできる白のほうが人気があるため、青黒カラーのコントロールはモダンでは珍しい部類に入ります。

《致命的な一押し》《呪文貫き》《対抗呪文》など効率的なスペルと、《黙示録、シェオルドレッド》《濁浪の執政》といったフィニッシャーにも恵まれているため、現環境のさまざまなデッキと互角以上に渡り合えます。

《絶え間ない飢餓、ウラモグ》のようにプレイしたときに強力な誘発を持つカードの多いTronなどは苦手なマッチアップになりますが、《緻密》《否定の力》といった妨害スペルも多数採用されているため、従来の青いフェアデッキと比べると相性はいくらか改善されている印象です。

☆注目ポイント

緻密否定の力The One Ring

このデッキには《緻密》《否定の力》という2種類のピッチスペルがあるため、《一つの指輪》から得たカードアドバンテージを効率よく使用できます。4ターン目に《一つの指輪》をプレイしつつ、タップアウトの隙をこれらピッチスペルでカバーし、ピッチした際に失ったアドバンテージを《一つの指輪》で取り戻すのです。

Orcish Bowmasters対抗呪文致命的な一押し

さまざまなデッキに採用されている《オークの弓使い》ですが、《対抗呪文》などインスタント呪文の多いこのデッキでは瞬速の強みをより活かすことができます。序盤を凌ぐ手段としても機能するため、得意とするロングゲームにも持ち込みやすくなります。

Lórien RevealedSauron's Ransom

『指輪物語:中つ国の伝承』の使える新カードは《一つの指輪》《オークの弓使い》だけではありません。《ロリアンの発見》は地味に見えますが、序盤の安定性を支えつつマナフラッドも緩和する優秀な「サイクリング」カードになります。

《サウロンの交換条件》はレガシーではGrixis DelverやDeath’s Shadowなど青いフェアデッキで活躍しており、最近はモダンでも使われ始めているアドバンテージ源です。《嘘か真か》と似た効果を持ち、ドローではないので《オークの弓使い》に引っかからないのも利点になります。

Izzet Murktide

《一つの指輪》《オークの弓使い》を活用できないデッキは減少傾向にあり、旧環境のTier1に位置していたIzzet Murktideも例外ではありませんでした。

しかし、新環境向けに調整されたリストが準優勝と好成績を残していたことから、まだまだ活躍できることが証明されました。

☆注目ポイント

Lórien Revealed

基本土地タイプの島をサーチできる《ロリアンの発見》を得たことによって安定性が向上しています。1マナで確実に土地を手に入れることができるため、17枚まで土地が切り詰められています。また、ソーサリーでもあるため《ドラゴンの怒りの媒介者》を「昂揚」させやすくなり、《濁浪の執政》のプレイも早められるなどかなりデッキと噛み合っています。

呪文貫きCast into the Fire

《一つの指輪》に対抗するために《呪文貫き》が採用されています。またサイドには《削剥》に代わるアーティファクト対策として、《一つの指輪》に触れる《火の中へ投げ捨てる》を忍ばせてあります。

緻密

《緻密》は以前より評価が上がったカードです。その理由は《喜ぶハーフリング》の登場にあり、《緻密》であればたとえ打ち消せなくともバウンスなので問題なく対処できます。

総括

The One RingOrcish Bowmasters

『指輪物語:中つ国の伝承』リリース後のモダンの環境は、一部を除いて《一つの指輪》《オークの弓使い》を活用できるデッキが支配している環境になっています。

《オークの弓使い》を使ったデッキのなかでも、ハイレベルなイベントで結果を残すRakdos Evokeはプロツアーでも人気が出そうです。また、Jeskai BreachやDimir Controlもデッキパワーが高く選択肢が多いなど、強いプレイヤーが好むデッキなため要注目です。

USA Modern Express vol.99は以上になります。それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいモダンライフを!

この記事内で掲載されたカード

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Kenta Hiroki アメリカ在住のプレイヤー。 フォーマットを問わず精力的に活動しており、SCGやグランプリの結果などからグローバルな最新情報を隔週で発信する「USA Modern Express」「USA Legacy Express」を連載中。 Kenta Hirokiの記事はこちら