USA Modern Express vol.100 -プロツアー・指輪物語で見えた景色-

Kenta Hiroki

はじめに

みなさん、こんにちは。

4年ぶりにモダンで開催された『プロツアー・指輪物語』も終了し、月曜日には禁止制限の告知がありました。

定業

禁止解除となった《定業》は、レガシーでも活躍している1マナのキャントリップであり、環境にどのような影響を与えるのか要注目です。

さて、今回の連載では『プロツアー・指輪物語』の入賞デッキを見ていきたいと思います。

プロツアー・指輪物語
頂点に立ったのはRakdos

2023年7月28-30日

  • 1位 Rakdos Evoke
  • 2位 Tron
  • 3位 Amulet Titan
  • 4位 Tron
  • 5位 Tron
  • 6位 Temur Rhinos
  • 7位 Temur Rhinos
  • 8位 Temur Rhinos

トップ8のデッキリストはこちら

当初は『指輪物語:中つ国の伝承』は『モダンホライゾン2』ほど環境に大きな影響を与えないと噂でしたが、《一つの指輪》《オークの弓使い》《喜ぶハーフリング》《ロリアンの発見》など強力なカードが登場し、環境を激変させました。

一つの指輪

《一つの指輪》は今やモダンを定義するカードになり、このカードを強く使うことができるデッキかそれらのデッキに対して上手く対応できるデッキ以外は瞬く間に淘汰されてしまいました。『プロツアー・指輪物語』は《一つの指輪》が支配するイベントとなり、使用総枚数はなんと450枚でプレイオフの半数が《一つの指輪》を採用していたデッキでした。

上位に残ったデッキの多くはRakdos Evoke、Temur Rhinos、Tronといったデッキが中心で、4C ControlやIzzet Murktideなどの青いミッドレンジは上位では見られず、受けのデッキよりも押し付けるスタイルのデッキが成功しています。そして優勝は前評判通り、現環境のトップメタに位置するRakdos Evokeとなりました。

デッキ紹介

Rakdos Evoke

このデッキは『指輪物語:中つ国の伝承』がリリースされて以来、とても人気の高いデッキで今大会でも多数のプレイヤーが持ち込むことが予想されていました。1ターン目から《悲嘆》《不死なる悪意》のコンボによって相手のプランを半壊させる動きはデッキを問わず強力で、こういったブン回りのあるデッキは長丁場のイベントでは勝ちやすくなります。

オークの弓使い

《一つの指輪》の次に環境に大きな影響を与えたのが《オークの弓使い》です。このカードの影響で低タフネスのクリーチャーや《敏捷なこそ泥、ラガバン》などが相対的に弱体化したため、Hammer TimeやIzzet Murktideといったデッキは減少傾向になりました。

人気が高い分マークも厳しかったRakdos Evokeでしたが、それでも高い勝率を維持し優勝したことから、現環境のベストデッキとしてモダンシーズンを牽引していくことになりそうです。

☆注目ポイント

鏡割りの寓話

今大会で優勝を果たしたJake Beardsley選手のリストは、最近不採用になることが多かった《鏡割りの寓話》がフル搭載されているなど細部での調整の跡が見られます。

同じ3マナ域で採用されることの多い《歴戦の紅蓮術士》は、《悲嘆》《激情》などピッチスペルによって手札の消費が激しいこのデッキに合っていますが、追加のドローを咎める《オークの弓使い》が散見される現環境では《鏡割りの寓話》が優先されるようです。

Dauthi Voidwalker

《ダウスィーの虚空歩き》はハンデスとシナジーがあり、優秀なクロックであると同時に墓地対策にもなるため、Living EndやGolgari Yawgmothなど墓地を使うデッキとのマッチアップを有利に進めてくれます。

致命的な一押し

メインの除去選択ですが、《稲妻》よりも《致命的な一押し》が優先されています。《致命的な一押し》のほうが《創造の座、オムナス》やHammer Timeの脅威、サイ・トークン、《黙示録、シェオルドレッド》《スランの医師、ヨーグモス》など環境の多くの脅威に対応できるのが主な理由です。

Tron

プレイオフに3名のプレイヤーを送り込む強さを見せたTronは、間違いなく今大会のベストデッキといえます。Tronはモダンの環境を激変させた《一つの指輪》を強く使えるデッキのひとつです。4マナと軽いためトロンランドがそろっていない状態でもプレイしやすく、時間を稼ぎつつ必要な土地やフィニッシャーを引き当てる助けになります。

入賞したJavier Dominguez選手とSimon Nielsen選手のリストは、彼らが所属するTeam Handshakeが作成したもので、準優勝していたChristian Calcano選手のリストとカード選択が異なります。

☆注目ポイント

Team Handshakeが持ち込んだTronは《ウルザの物語》が搭載されており、「相棒」の《湧き出る源、ジェガンサ》をあきらめる代わりに《四肢切断》が採用されています。

四肢切断反発のタリスマン

《四肢切断》《ダウスィーの虚空歩き》《悲嘆》《激情》といったRakdos Evokeの主力となるクリーチャーを1マナで除去することができます。また、《ダウスィーの虚空歩き》が場にあると機能しない《彩色の星》が少なめになっているのが特徴です。《反発のタリスマン》はトロンランドがそろっていない状態でも《一つの指輪》を3ターン目にプレイすることを可能にし、《血染めの月》を置かれても緑マナを捻出することができます。

ウルザの物語

メインから2枚採用されている《ウルザの物語》は、Team Handshakeのイノベーションのひとつです。マナフラッド防止になり《森の占術》《探検の地図》でサーチしてくることもできます。コントロールなどとのマッチアップでも活躍し、Ⅲ章の能力によって《探検の地図》をサーチすることでトロンランドをそろえやすくなります。

Phyrexian MetamorphKarn, the Great Creator

サイドの《ファイレクシアの変形者》《大いなる創造者、カーン》でサーチできるカードで、《一つの指輪》をコピーすれば重荷カウンターをリセットすることが可能です。

Amulet Titan

Amulet TitanのエキスパートであるDomenic Harvey選手がプレイオフに入賞していました。Domenic選手は自身のXでデッキについての詳しい解説記事も投稿されています。

精力の護符原始のタイタン

今大会ではTronが勝ち組だったため、速度で勝負できるAmulet Titanはいい立ち位置にありました。このデッキは《精力の護符》とバウンスランドによるマナ加速から、最速で2ターン目に《原始のタイタン》をプレイすることができます。《ウルザの物語》が登場して以来、構築物・トークンによるビートダウンプランによってゲームに勝つこともできるようになりました。

《マイコシンスの庭》など最近のセットから得たものもありましたが、《一つの指輪》を得たことで大幅に強化されModern Challengeなどでも再び上位で見られるようになっています。

☆注目ポイント

一つの指輪

Amulet Titanは爆発力があるデッキですが、デッキの多くが土地や土地を追加でプレイするためのカードで占められているため、《原始のタイタン》を対処されてしまったあとに後続の脅威を用意しにくいという弱点がありました。このデッキは《一つの指輪》を2ターン目にプレイすることができ、時間を稼ぎながら後続の脅威を引き当てる助けになります。

血染めの月耐え抜くもの、母聖樹

《血染めの月》は依然として厄介な置物ですが、《一つの指輪》によるアドバンテージのおかげでこれ1枚で負けることが少なくなりました。無色なので《血染めの月》がある状態でもプレイでき、《耐え抜くもの、母聖樹》などの解答にたどり着きやすくなります。

Generous Ent

サイドの《気前のよいエント》《血染めの月》対策で、「土地サイクリング」により《森》を持ってくることができます。こちらも地味ながら嬉しい収穫のひとつです。

Temur Rhinos

Temur Rhinosは今大会で3番目に人気があったデッキで、プレイオフに3名のプレイヤーを送り込むなど高い勝率を見せます。「続唱」コンボと形容されることが多いTemur Rhinosですが、実際はカウンターや除去でバックアップしつつ「続唱」スペルから2体の4/4トランプル・トークンを展開するミッドレンジになります。

ドロースペルや小型クリーチャーを使用しないので《オークの弓使い》の影響も薄く、現環境のトップメタのRakdos Evokeにも微有利なところも選択する理由になります。また、相性が悪いマッチアップであるLiving Endが上位に少なかったのも勝因のひとつでした。

☆注目ポイント

理想的な動きは3ターン目に《断片無き工作員》《暴力的な突発》から《衝撃の足音》をプレイすることなので、安定して土地を置けるように多めに土地を入れる必要がありました。

ロリアンの発見

「土地サイクリング」を持つ《ロリアンの発見》は必要な土地を確保し、マナが余る中盤以降は普通にドロースペルとしてもプレイすることができる優秀なカードです。また《緻密》《否定の力》のピッチコストにもなるため、このデッキの必須カードとして定着しています。

Questing Beast

メインから採用されている《探索する獣》は、ダメージ軽減を無視する能力があるため《一つの指輪》対策として有用です。《一つの指輪》は今後も活躍することが予想されるので、引き続き採用することが推奨されます。

厚かましい借り手耐え抜くもの、母聖樹

《虚空の杯》などをバウンスできる《厚かましい借り手》は、《オークの弓使い》に弱いため採用が見送られています。その代わり《耐え抜くもの、母聖樹》以外ではメインから《虚空の杯》を処理できないので、カウンターで対処することになります。

アノールの焔

サイド後は《アノールの焔》《活性の力》といった置物対策手段が追加されます。《アノールの焔》は「続唱」の邪魔をすることなく、ドロー・アーティファクト破壊・除去をこなす便利なカードです。《虚空の杯》《黙示録、シェオルドレッド》などに対してのアンサーになり、各種ピッチスペルのコストとしても優秀です。

総括

『プロツアー・指輪物語』の結果から何かしらの調整が入ることが予想されましたが、《定業》の禁止解除がされただけで変化はありませんでした。小さな変化に見えますが、Izzet Murktideなどの強化が期待できます。

今週末には『第24期モダン神挑戦者決定戦』が開催され、チャンピオンズカップファイナル予選のモダンシーズンもスタートするので環境がどのように動くのか要注目です。

USA Modern Express vol.100は以上になります。それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいモダンライフを!

この記事内で掲載されたカード

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Kenta Hiroki アメリカ在住のプレイヤー。 フォーマットを問わず精力的に活動しており、SCGやグランプリの結果などからグローバルな最新情報を隔週で発信する「USA Modern Express」「USA Legacy Express」を連載中。 Kenta Hirokiの記事はこちら