ついにリリースされた新エキスパンション『イニストラードを覆う影』。
今回はMagic Onlineでの実装に先駆け、この特殊な両面カード環境の基礎理解を助けるべく、ファーストインプレッションという形で各色の解説とコモントップ3のピックアップを行いたい。
では、いつも通りまずは環境の分析から。
■ 環境の特徴
環境の特徴は何よりもまず両面カードだ。
今回は旧『イニストラード』環境よりも軽く優秀な「狼男」が揃っており、その圧倒的なサイズはアーキタイプ云々の前に単体性能で通常のカードを圧倒している。恐ろしいことに「出して殴るだけ」の愚直なビート戦略で中途半端なシナジーデッキを蹴散らすことが容易なほどに「狼男」の力強さは環境を支配している。
また「狼男」に限らず両面カードにはハイスペックなカードが多く、無理なく初手でピックできるので、その行為が周囲へのこれ以上ない露骨な色主張にもなり、単純なカードパワーだけではなくドラフトのポジション取りの上でも重要になってくる。この点は周りのカードが見えるリアルドラフトと、そうでないMagic Onlineのドラフトで立ち回りの差が要求されるので注意してもらいたい。
その他のキーワード能力「調査」「昂揚」「マッドネス」もそれぞれをフィーチャーしたアーキタイプを組むことが可能だが、あくまでそのアーキタイプ内で完結するシナジーであり、環境の基本スピードなどを定義づけているといっていい「変身」ほどの支配的なインパクトはないといえる。
色の組み合わせと多色化の可否
次に、色の組み合わせと多色化の可否について目を向けると、基本的に2色環境だといっていい。理由としては、やはりここでも「狼男」の存在が大きく、要は多色化、低速化して序盤にアクションできないターンができてしまうと相手の「狼男」が簡単に「変身」して一瞬で押し切られてしまうため、環境的に最低限キープするべきテンポのハードルが従来よりも高いのだ。同様の理由で土地も18枚にすることが難しく、17枚で手数を最大限確保して空白のターンができないようにケアするべきだ。
上記のような理由で多色化、低速化に関しては厳しい縛りが存在するが、カラーコンビネーションについては比較的自由度が高く、2色の組み合わせ10種すべてが基本的にアーキタイプとして成り立っているといえる。
色の強弱
では次に色の強弱だが、緑が最強色として環境に君臨しているのは誰の目にも明らかだろう。圧倒的なサイズに加えてマナカーブデザインも比較的容易であり、担当するキーワード能力が「変身」「調査」の二種類で「昂揚」「マッドネス」に比べて専用デッキでなくても最低限保障されるスペックが高いので必然的に選手層が厚いのも魅力である。
次点はサイズこそ小さいもののテンポでは環境随一の白を挙げたい。白をやる上で最も重要なのが、コモンに2種用意された装備品でサイズ面をサポートすることだ。特に《信条の香炉》は白で運用するとコモンとは思えない働きぶりをするので意識して確保しよう。
白の背後に微差で迫るのは赤だ。環境トップクラスのハイスペック除去である《癇しゃく》を抱えるも、専用パーツの多さからくる層の薄さはやはり気になりトップの2色には食い込めなかった。
4番手は黒。近年の傾向として黒のお家芸である除去の弱体化が目立つが、現環境もその例外ではなく、残念ながらコモンから黒に入ることはまずありえなくなっている。反面、アンコモンのラインナップは最強色の緑と同等かそれ以上の豪華な顔ぶれなので、位置取りが成功したときのリターンが最も高い色だといえる。
そして残った1色、つまりは環境最弱色は青になる。アンコモンにスター選手が揃っている黒と違って、アンコモンまで見ても《癇しゃく》より優先するカードが存在しないため、一部のボム以外で初手から青に走ることはないといっていいだろう。
現環境の青は素直なビートパーツが極端に少なく、ほとんどのパーツが奇手奇策仕様の、いわゆる「マニア向け」の色になっているといっていい。マニア向けの色というと弱さを揶揄しているようにとられるかもしれないが(まぁ弱いのは事実なのだが)、言い換えればベーシックなリミテッドセオリーとは別のデッキデザイニングが要求される色なので、最も研究するリターンが大きい色であるともいえる。現環境は青の組み方を知らない状態で青をやる席に座るとかなりの確率で0-3街道まっしぐらなのだが、扱い方さえ心得ていればその圧倒的なカードの安さから2-1は十分に狙える、やり込み甲斐のある色なのだ。
それでは、環境の特徴を踏まえた上で各色のコモントップ3について言及しよう。
■ 白
1位 《信条の香炉》
「いきなり白いカードじゃないじゃないか」と思われるかもしれないが、白をやるなら全てのコモンに優先してこのカードを確保すべきだ。
白には《スレイベンの検査官》《戦闘的な審問官》《腕っぷし》など装備の有無で勝利貢献度が全く変わるカードが多い。また、最強アーキタイプである白緑ではほとんどの生物を人間でまかなうことが可能である上に、狼人間は装備にターンを使うことがナチュラルに「変身」コストの支払いも兼ねられており、《信条の香炉》と白緑狼人間の組み合わせは「速い」「デカい」「上手くなくても自動的に勝てる」と揃ってはいけない三拍子が勢ぞろいした近年まれに見るブッチギリの最強アーキタイプである。
2位 《不屈の聖戦士》
「3マナ3/2で死んでも1/1飛行がついてくる」という文章を日本語に翻訳すると「強い」になる。
同率3位 《スレイベンの検査官》《天使の粛清》
《天使の粛清》は追加コストとして土地をサクることで「昂揚」の達成に貢献できる点も嬉しいが、だぶついたときのリスクを考えると2枚目は大きく優先度を落とす。しかしレアに対処できる万能除去があると安心度が違うので、白をやるのであれば1枚目は《スレイベンの検査官》よりも優先する。逆に言うと、既に1枚は《天使の粛清》が確保できているなら《スレイベンの検査官》を確保して「調査」で装備を探しに行こう。
■ 青
1位 《薄暮のニブリス》
青なのに優秀なビートパーツでむしろ違和感すら感じる。白青、青赤で特に活躍。
2位 《ただの風》
「マッドネス」でプレイしなかったとしても狼人間に対して単純に強い。普段プレイするときにいちいちカード名とか言わないのに、このカードプレイするときだけカード名を言うタイプの人は、通信簿に「人の気持ちを考えましょう」と書かれた過去がある傾向があります(独自調べ)。
3位 《縫合の刻み獣》
守るデッキでは活きないので性能の割にぐるぐる回る傾向にあるが、青緑では素晴らしい働きをする。便宜上3位に挙げているが、マニア向けパーツを優先してこのカードを流すことも珍しくない。
■ 黒
1位 《闇告げカラス》
「昂揚」達成のエンジンとして素晴らしい働きをしつつ、本体性能も無視できないスペック。当初は5番手で評価していたがドラフトの回数を重ねるごとに評価がどんどん上がっていった1枚。
2位 《死の重み》
貴重な軽量除去でもあり、「昂揚」達成に大きく貢献するエンチャントでもある。
3位 《腐臭ネズミ》
最強色の緑に対してにらみを利かせるナイスカード。黒赤ヴァンパイアなどのビートデッキにおいては《グール呼びの共犯者》を優先する。
■ 赤
1位 《癇しゃく》
環境最強コモンの座を《狂気の一咬み》と争う。単体スペックでは決して負けていないが、色の評価まで含めるとやはり2番手か。赤の最強コモンであると同時に、青をやっているときに一番欲しいカードでもある。
2位 《ガツタフの放火魔》
単純にデカい。除去が弱い環境のため肉弾ゴリ押しが有効という事情もあって、見た目以上に勝利貢献度が高い。
3位 《吠え群れの狼》
比較的埋まりやすいマナ域であることもあって、このカードよりも除去や2マナ圏を優先するタイミングは多い。
■ 緑
1位 《狂気の一咬み》
環境最強コモン。「狼男」のサイズと合わさることでほとんどのレアも除去可能。
2位 《孤独な狩人》
規格外のサイズ。デカ過ぎる。普通もうちょっと遠慮するだろう。
3位 《内陸の木こり》
ミス・イージーウィン。2ターン目に何もできないでそのままこのカードに轢き殺された人は数知れず。
以上、今回はファーストインプレッションとして環境の概要と各色コモントップ3の解説を行った。
次回からは具体的なアーキタイプの詳細解説と、アーキタイプ毎の網羅的なコモン優先度の解説を行いたい。
それでは、よいMagic Onlineのプレリリースを。
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